- 【長編SS】日本鬼子SSスレ3【巨大AA】
2 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/18(土) 21:24:10 ID:fzH7KJvv - ――あれでは宝の持ち腐れだ。
軍部創設以来史上初の快挙を、若干二十九歳の若さで成し遂げたその女性司令官は、憐れみにも似た思いを抱いた。 江滬型フリゲート二十隻を主力とした大艦隊を従えた海軍大将、陳?は、旗艦モニターに映し出された深紅の鉄人から視線を剥がせない。 その気になれば我が国の軍事力を数時間で無力化できるだろうと予想されている、怪物。 それはただ、辺境の離島とその沿海を警護し続けている。 快晴の東シナ海南西洋上。そこに浮遊しているのは彼の国が造り出したと思われる、 人体を模した一機の兵器だった。右腕には、対艦用と思われる巨大な薙刀が握られている。 恐らく着想の発端は世界的に有名なロボットアニメーションだろう。 背部には恐ろしいまでの姿勢制御機能と機動力を兼ね備えたバーニアが搭載されており、 レーザー兵器を主体とした武装の数々を見ただけでも、それは容易に想像がつく。 驚嘆すべきはあの国の人間のインスピレーションと、それを現実の物とする科学力と情熱。そして何より搭乗者だった。 これまでの度重なる小競り合いで得られた戦闘情報とこちらの被害から考えて、 例の深紅の機体のスペックは軽く数世代は先の物であるという結論で落ち着いている。 とはいえ、あの加減速と搭載兵器使用時の衝撃を殺し切れているのかどうかは、甚だ疑問だった。 当初あれが有人兵器であるという予想が出なかった最大の理由もそれだ。 しかし無人兵器とは思えないイレギュラー動作の多さが、あの機体の解析を更に遅らせた。 兵器の先進化が進み、パイロットの無意味化が叫ばれて久しいこの時代に、 精密機械を超える反応速度、判断力、応用力を併せ持った者が現れるとは誰も想像していなかった。 そして軍部には、滑稽且つ不気味な噂がまことしやかに流れ始めた。 尖閣諸島の覇者、深紅の鬼――通称リーベングイズの搭乗者は、人間ではなく鬼なのでは? そんな内容だ。 たかだか全長十数メートルの兵器とその搭乗者が、世界の覇権に手を掛けようとしている我が国を深刻な恐怖に陥れているのだ。 「……面白い」 才色兼備と国民からの支持も厚いその女性艦長は、鮮やかなルージュに彩られた唇の端を歪めた。 機体の性能差は明らかだ。 しかし人民十数億の頂点と日本の鬼、どちらがより優れているかはまた別の話だ。 まるでオリンピック競技の決勝戦を見る時のような高揚感に包まれながら、陳?は無線を取った。 「総員に告げる。これより我が国の領土及び領海を侵犯し続ける赤い悪魔、リーベングイズの排除行動を開始する。 当作戦は、近年かつてない程の大規模で展開されている。それ故緊密な連携が不可欠だ。一人の小さな過ちが誇り高き我が軍の 敗北に直結するものと心得よ。以上。各員の奮起に期待する」
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3 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/18(土) 21:27:17 ID:fzH7KJvv - そして海軍大将は、軍部秘蔵のパイロットへの個人用回線に切り替える。
「中華支那子上等兵。聞こえているか」 「聞こえてるわよ。うっさいわね」 少女の声は不機嫌極まりなかった。 「聞いていたとは思うが、これより作戦行動を開始する。出撃前に、所定の薬品を摂取しておくように」 「判ってる。あの薬、不味いし後がキツイから、できたらパスしたいんだけど」 「それで鬼を倒せると思うなら、好きにしろ。しかし忠告を無視して死んだとしても、化けてくれるなよ」 強制などせずとも、どうせ彼女は例の薬物群を使うだろう。軍人としてのまともな訓練などまるで受けさせていないが、 負けず嫌いな気性そのものが戦士としての適性に満ちている。 結局この戦闘の勝敗は、支那子の行動如何で決まるのだ。わらわらといる御荷物を配置したところでどうせ無意味だろうが―― 後方待機させたらさせたで、頭の固い総帥から不満が出るのも判り切っていた。 本国からの援護射撃の開始時間を考慮しつつ、陳?は手駒のフリゲート群を展開していった。 ――勝負はあの、反則的な武装を本体から引き離してからだ。 光一つない、閉ざされたコックピット内にいたその鬼は、自らの機体を扇状に取り囲む海上の戦艦群には目もくれなかった。 およそ実効性のある配置には見えないし、そもそも脅威になりえない。 大方敵軍の指揮官も、見栄えを良くするためだけに動かしているのだろう。 どうせ今回の戦闘も、第三国の衛星越しに覗かれているのだろうから。 ストレートの黒髪に、深紅の瞳。 そして無数の電極が取り付けられた頭から角を生やしたそのパイロット、日本鬼子は人間ではなかった。 彼女の着用しているパイロットスーツの至る所にも、配線コードや操縦者情報を取り込むための装置が付与されている。 コックピットの中にその身を置いた彼女の姿は、まるでこの兵装の一つのパーツと化しているかのようだった。 『中距離弾道ミサイル、複数接近中』 イヤホンから、ナビシステム『小日本』の機械音声が入ってきた。同時にゴーグルモニター下部のレーダー状に、無数の点滅が生まれる。 『着弾予想地点、本国』 随分と買いかぶられたものだ。こちらが迎撃に失敗したら、あちらが国際社会の非難の的になるのは確実だというのに。 それとも一応直前で弾頭を逸らすのだろうか。
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4 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/18(土) 21:29:44 ID:fzH7KJvv - 「システム『ヒワイドリ』起動」
『承認します』 鬼子の音声入力によってのみ発動するその兵器は、総数百八に及ぶ、自立機動型のビーム兵器である。 左肩の般若を模した収納庫から、無数の小型ポッドが上空へと射出されていく。 そしてヒワイドリがミサイル迎撃に出たのと同時に、洋上の敵軍船はこちらへの砲撃を開始した。 ――こんな物、見てからでも避けられる。 勘でも精密機械の予測でもない、純粋な操縦者のスペックのみで大小無数の弾幕を回避していく。 システムヒワイドリを総動員したことで、リーベングイズはエネルギーを著しく消耗している。 適当にあしらったところで後退した方が無難だ、と思った矢先、船隊の後方に控えていた一隻の空母から、奇妙な機体が飛び立った。 リーベングイズを超える加速力でこちらに接近してきた、その黄金に塗装された機体は、奇しくも人型兵器だった。この機体の模造品らしい。 「初めまして! リーベングイズのパイロットさん!」 流暢な日本語が耳に飛び込んでくる。同時にモニター右上部分に、小さく相手のコックピット内映像が出た。 あどけない顔立ちの、黒髪で二つの団子を作った少女だった。どう高く見積もっても十五歳より上には見えない。 「ちょっと、聞こえてる!? 一方通行じゃ寂しいし、返事くらいしてよ! 『金盾』の正パイロット様がわざわざ通信してやってんのよ!」 金盾。あの機体の名か。 「今のメッセージの発信者と通信するわ。小日本、回線をつないで」 『了解』 「聞こえてるわよ」 「あら、あんた女だったの? できたら顔も見たかったけど、一応名乗っておこうかしら。 私の名前は中華支那子。一応国では最強のパイロットよ。少なくともデータ上ではね」 全力で後退しつつリーベングイズは高度を上げ、左腕で高出力ビーム砲『日本狗』を膝の収納部から取り出した。 そして狙いを付け、数度発射する。 放たれた赤い閃光を、海面すれすれを飛翔していた金盾は器用に避けている。 一切の武装を持っていない点からして、機動性重視の近距離戦闘型か。 蒸発した海水で出来た水蒸気の煙から、敵は悠々と姿を現した。よく喋るパイロットの方もそれなりにできるらしい。 「あんたに恨みはないし、正直御国への忠誠心なんかも持っちゃいないんだけど、一応仕事なんでね。あんたを撃墜させてもらうわ!」
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5 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/18(土) 21:32:08 ID:fzH7KJvv - 「日本語が上手ね」
「そっちのアニメ好きだし、こういうシチュエーションにも若干憧れてたの!」 鬼子は違和感を覚えた。通信相手は薬物等の影響で、精神状態が不安定になっているのかもしれない。そんな雰囲気を感じる。 一切の武装を持たない金盾は、密着する程の距離にまで接近してくると、手足を使った格闘戦を挑んできた。 ろくに回避行動に移る間もなく前蹴りをまともに受け、後方に飛ばされる。 と同時に、鬼子はもう一度日本狗を放っていた。しかしそれも難なくやりすごされる。 『損傷軽微。作戦行動への影響は皆無』 小日本のナビゲーションを聞きながら、鬼子は言った。 「大した理由もなさそうなのに、よくこんな戦場の最前線に出てきたわね」 「受験なんてしたくないし、寒村の貧乏農家の娘が必死に勉強したところで格差なんて埋まらないしね。 そんな人生送るくらいなら、特技を生かして金稼ぎに精を出した方がずっとマシ」 どこの国も、抱えている事情は似たようなものか。 射撃を縫って再接近してきた金盾のパイロットは、何気ない様子で返してくる。 「そう言うあんたこそ、どういうつもりでこんな場所にいんのよ」 それは、と反射的に口を突いて出そうになる。 最後に故郷の山で別れた、あの男の言葉を思い出した。 ――お前が前線に出て侵略を食い止めても、そう遠くない未来にこの国は破綻する。良好な経済もモラルも未来も帰って来ない。 だからお前がわざわざ危険に身を晒す意味なんてない。と言われた。 そしてその後に自分がした返答を、鬼子は今でもたまに後悔する。 ――それでも私は、あなたのいるこの国を守りたいの。 実際は何だ。不毛な戦いに明け暮れ、操縦者すら死に追いやる忌々しい破壊兵器に身体を蝕まれている。 兵装の名前にもなっているその男の顔が脳裏に浮かんだが、鬼子は構わずリーベングイズ右腕の薙刀、 『ヤイカガシ』を金盾に向けて振るっていた。 「……遅い。思ったより退屈ね、あなた」 頭上を取った金盾に、踵落としを喰らう。そのままリーベングイズは海中に没した。 『損傷軽微。作戦行動への影響は皆無』 向こうは機動力の為に火力まで削ったらしい。致命打を受けることはなさそうだった。 しかし海中ではビーム兵器の日本狗が役に立たない。顔を出したところで、また金盾に頭を蹴られるだけだろう。 『上空の弾道ミサイル迎撃、完了。ヒワイドリ全機、これより帰還を開始します』 「ヒワイドリ全機に、現在交戦中の人型兵器の撃墜を命令する」 『了解。ターゲットのデータ入力完了』
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6 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/18(土) 21:34:36 ID:fzH7KJvv - 直後、遥か上空から海面へと無数のビームが降り注いだ。
「危ないわね!」 回避行動にかかりきりになっている金盾が離れた隙に、リーベングイズは海中から脱出する。 「ちょっと、どこまでついてくんのよこいつら!」 凄まじいロールで全方位からの射撃を回避しながら、金盾が戦線を離脱していく。 相手が通信を切り忘れている為に、敵軍の会話も全てこちらに入ってきた。 「陳?! これじゃそっちに着艦出来ないわよ!?」 「そのまま本国まで飛べ。お前に群がっているその兵装も、本体から一定以上の距離へは追尾しないはずだ」 優雅な舞踏のような滑らかさで空中を舞う金盾は、既に部隊から遠く離れている。 「さらっと言ってくれるわね! あんたらはどうすんのよ!?」 「こちらもすぐにお前を追う。作戦は失敗だ」 「了解! リーベングイズのパイロットさん! 今日はここまでのようね! 最後に名前を教えてもらっていいかしら!」 本名を明かしてはならないと、軍部に固く命じられていたのだが、逡巡した後、鬼子は告げていた。 「日本、鬼子」 「覚えたわ! 次に会う時はもうちょっとマシな機体に乗ってくるから、覚悟しておきなさいよ!」 通信が切れ、間もなく金盾の姿は水平線の向こうへと消えていく。その後、洋上に散っていたフリゲートものんびりと方向を変えていく。 『ターゲットが限界射程から離脱』 「もういいわ。ヒワイドリを帰還させて」 『了解』 肩についた般若の口の中へとヒワイドリが帰ってくるのを待ちながら、鬼子は無意識に、故郷の方向へと視線を向ける。 ――あの人は今、どんな思いで日々を過ごしているのだろう。 故郷の島国は見えず、青い水平線がどこまでも広がっていた。 完
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7 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/18(土) 21:41:52 ID:fzH7KJvv - >>2-6
タイトルは「だって書きたかったんだもん」で
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