- 【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
410 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I []:2010/12/18(土) 09:24:52 ID:E2mdIT0p - 投下します。>>398の続きです
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- 【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
411 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:27:28 ID:E2mdIT0p -
「出して!」 俺たちはあの男のいた建物から飛び出すと、時雨が乗ってきた黒色の車に乗り込む。 車種はよくわからないがスポーツカーであることまでは分かった。 その車は俺達が乗り込むと同時に、一気にエンジンの回転数を上げ加速を始めた。 運転手の席には誰もいないまま。これも誰かの能力なのだろうか? 「まずは楓の止血が優先。陽太君も手伝って」 「ああ」 そのことは少し気になるが、それよりも楓の治療が先決だ。 時雨の応急処置は早く、適切だった。 ものの3分で出血箇所の止血処置がされていた。 それでも包帯からはジワリと血の赤が滲み始めている。 あれだけ深い傷だったのだから、当然とは言える。が、それでも焦げ付くような焦りを感じる。 『どうですか? 楓ちゃんの具合は』 機械の合成音がスピーカーから響く。しかし、その声は明確に人間の声を形作っていた。 時雨はその問いに対し、険しい表情のまま首を横にふる。 「とりあえず止血はできた。それぞれの傷口の径が小さかったのが幸いしてるわね。 ……でも危険な状態には変わりないわ。血が足りない。早く輸血しないとショック状態になってしまう」 血か……確かにあの量は酷過ぎる。俺がついた時にはすでに大量の出血を余儀なくされていた。 このままでは楓が……死ぬ? その可能性が非常に高い。 血、血、血。 血が足りない。だが俺達の血を抜いて安易に輸血することもできない。 最悪それが原因で死んでしまう。 「……血……か……」 例えば、人間の血を吸う吸血鬼のような人間がいたとする。 カニバリズムという言葉もある。それは人間を食べるという発想から来る言葉。 つまり、人間の血も立派に食材と言えるのでは? 唐突に浮かんだ一つの考え。それは、もしかしたら俺の能力で楓を救えるかもしれない可能性。 その考えを時雨に伝えようと口を開く。 しかし、俺の言葉は時雨本人によって遮られた。 「駄目よ、陽太君。その考えは、あなたが人であるためには持ってはいけない考えよ」
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412 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:29:09 ID:E2mdIT0p -
俺の考えはまた言葉に出していない。にも関わらず時雨は否定する。 はっとして時雨の表情をうかがった。時雨の表情は疲れてはいるが、非常に険しいもの。 そして、鬼気迫るものを感じ、俺は一瞬言葉を止める。それでも今は確認する必要がある。 再び俺は口を開き、時雨へと問いを発した。 「……なんでわかった? 俺が楓の血液を作ろうとしていることに」 「君、今ひどく危険な表情をしてたわよ。例えて言うならね、人間を人間として見ることを止めようとする時の表情。 ……ひどく歪んだ、この世界を歪めてみる人間の表情よ」 時雨の言葉に息を飲んだ。 世界を歪める……世界を直視するのを止めようとしていたと言うことか。 ……それでは俺は。 「俺はこの力に飲まれようとしていたのか……?」 「……その表現はあながち間違いでもないわね。 私たちがもつ特別な力、これに頼り過ぎると心が人間を辞めるのよ」 そこまで言って、時雨は楓に触れる。そこから何を感じ取ったのか、顔を顰めた。 時雨もその心の内でぎりぎりの葛藤を続けていると、俺から見ても感じることができた。 彼女はそれでも言葉を続ける。 「本当を言うとね。陽太君に楓の血液を創造できるならやってもらいたいと思っている私もいるの。 でもそれはしてはならない。今まで心が壊れた人間を散々見てきたから……ね。その結末も」 「それは……?」 「そうね。一つだけ実例をあげるわ。その子は非常に強い力を持っていた。 それこそ自らの能力を使い、何百人、何千人ともいえる人間を救ってきたの。 そんな妹が、私にもいたわ。……その子、今どうしていると思う?」 「……どうしているんだ?」 嫌な想像が思考に浮かんでいる。使用し過ぎに体が壊れたか、最悪その妹はこの世にいないのだろう。 それでも、その俺の想像を彼女の答えは超えていた。 「今は大量殺人鬼として各種機関、組織に狙われているわ。ある種、意思ある自然災害扱いね」 時雨の言葉に俺は絶句する。力に囚われた人間の末路。 俺の想像をはるかに超えた結果に思考が一瞬停止しかける。 だが、それでも何とか言葉を絞り出す。 「だから、止める、と」 「ええ。そうよ。陽太君にはそうなって欲しくない。だから、まるで人間を創るような使い方を君にしてもらいたくはない。 ……私たちが今できることは、一秒でも早く病院について、医者に頼むしかない」 「……ああ、それしかないのか……」 その言葉を最後に、俺達は無言になる。 俺は歯が欠けるかと思うほど力が体に入る。それでも今は耐えるしかない。 楓が助かる事を信じて―― * * *
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413 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:31:10 ID:E2mdIT0p -
時は過ぎる、早くもあれから一週間が過ぎようとしていた。 あの後、病院につくとすぐに治療は開始された。 俺は始め待っていようと思っていたが、時雨から、俺は普通の生活を行うように告げらた。 俺が嫌がるそぶりを見せ、一週間、気持ちを落ちつけてから来なさい、と言い直させた。 そこが妥協点だった。 だから、俺は学校に行き、帰りに晶達と普通に帰る生活を行っている。 勘が鋭い晶からは、心配そうな表情で見られているが、流石にあの時起きたことを話すことはできないでいた。 それでも時は無情に過ぎ、あっさりと金曜日になる。約束の日がやってきた。 夜になったが面会時間終了まではまだ時間がある。 俺は学校から帰るその足で病院に向かった。 病院に入り、ショートカットの看護婦に名前を告げると、病室を教えて貰えた。 なんでも時雨から、俺が来たら部屋を教えていいと言われていたらしい。 一人、足音が廊下に響き、俺の心に圧迫感を与える。 この気持ちは希望によるものか、不安によるものか。 それでもあっさり教えて貰った病室にたどり着いた。 そこは一般病棟の個室だった。 扉の前で大きく深呼吸して、ノックする。 「はい」 その声は時雨だった。 俺はゆっくり扉を開けると、室内に入る。 始めに目に入ったのは椅子に座った時雨だった。どうやらリンゴでも切っているようだ。 ベッドの上に目を向けると、そこには楓がいた。 はっきり目を開けて、体を起こしてリンゴを見ていたようだ。 その楓はこちらに気がつくと微笑む。少し辛そうではあるが、少なくとも命に別状はないようだった。 「お、起きて大丈夫なのか?」 「少しならね。ただ、まだ声を出すのは厳しいの。どうしても陽太君に会いたいからって特別にね」 「そうなのか?」 俺の言葉に反応したのは時雨だった。 間髪いれず答えた時雨の言葉に同意するように、楓はこくりと小さく頷く。 その仕草はとても自然で彼女が生きている証左のようだった。 「今、体の状態はどうだ?」 「輸血も間に合ったし、後3日もあれば退院できるわね。 昼の能力で体が鍛えられてるのが大きかったのかもね」 時雨の説明も納得できる物。おかしい所は特にないはず。 ――だが、それなのに、俺は確信してしまった。 「それで、本物の楓はどこにいる?」
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414 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:35:12 ID:E2mdIT0p -
俺の口から発せられた言葉は、自分でも驚くほど硬い声音をしていた。 本当なら、時雨達の優しい嘘に騙されれば良かったのだろう。 それでも気付いてしまったからには止まれなかった。 これは、俺の我儘なのかもしれない。それでも知る必要がある。 わずかに息を飲む気配を感じ、その気配から俺が言ったことが正しいことが証明された。 ……されてしまった。 沈黙がこの場を支配する。時計の針が刻む音が響く。 「どうしてわかったの?」 時雨は表情を緊で結んでいる。いや、これは失敗したと思うときの物だろうか? その問いに対し、俺は一瞬だけ、間を置き、答える。 「時雨の説明がノータイムだったからな。何度も考えた説明だったんだろ? 今、この場で考えて説明する場合、どうしても考える時間が必要だ。 その間が、時雨の説明にはなかった。 なぜ考える必要があったのかを考えれば、何かを隠している事実がわかる。 それで喋らない楓とくれば考えられる隠し事は一つしかない」 言葉の先に、“だが、できれば間違いであって欲しかった”とは言えなかった。 俺はここまでで言い終わり、時雨と楓の姿をした誰かを見る。 その視線の先では、時雨は視線を軽く床へと落とし、沈黙を保ち、そして、 「姉さん。どうやらこちらの負けのようだ」 楓の姿から成人した男の声が聞こえ、楓の姿がかすれて消えた。 残るは20代後半から30代の男の姿。その男はベッドから立ち上がると俺を見下ろした。 「これでも結構演技には自信があったんだがなあ」 「いや、あれで楓の特徴はよくとらえていたな。あれだけならば騙されていたかもしれん」 「いうねぇ、坊主」 男は口元を苦笑に歪め、しかし目元は笑っていない。 真剣その物の口調で次の言葉を言う。 「しかし坊主。本当の事を知れば、お前も楓の事を抱え込むことになる。 その覚悟はあるか? 坊主にとって楓は、会ってまだ間のないほとんど他人同士だろう?」 男の言葉は事実を表していた。そう、俺はまだ楓と出会ってまだ2日しかない。 知人と言うにも短い時間しか、まだ接していない。 だが―― 「時間の長さは関係ない。俺は楓を助けると言った。その行動を取った。だからその結末を知る義務がある。 その結末を背負う義務もな。だから教えろ。彼女が今、どうなっているか」 ――そんなのは関係ない。 これも波長が合うと言うのだろうか。 白夜と俺が出逢った時のように、運命が俺達を出逢わせたということだろう。 だからこそ、見届ける必要が俺にはあった。
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415 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:36:34 ID:E2mdIT0p -
俺の言葉に男は少し、考えるためか視線を俺の後へと移した。 また、少しの時間が流れ、 「いいだろう。ついてこい」 「陸!?」 時雨の明らかに狼狽した声が響く。 拒否の意思を示される可能性はあったが、俺はそれでも黙って待つ。 「姉さん。この坊主はどう見ても中二だが、いや、中二病の気はあるが、同時に目に強い光がある。 姉さんが考えるよりかは強いようだ。なら、むしろ教えるべきだろう」 「……分かったわ。でも私が連れてくわ。それが私の義務よね」 陸と呼ばれた男の言葉に雨は覚悟を決めたのか、ようやく真っすぐ俺の目を見る。 そなまま無言で静かに歩きだす。俺も無言でその後を歩く。 廊下に響く二人分の足音、それが、あの日、俺と時雨が一緒に歩いたその日を思い出す。 その日、楓が誘拐された。今回は楓に会いにいく。それだけの違い。 そして俺は見ることになる。 その個室にはチューブに繋がれ、ベッドの中で眠る楓の姿があった。 人工呼吸器を取りけられ、腕には点滴、おそらくは栄養剤の類の液体が流れていた。 幾重にも包帯が巻かれ、見るだけで痛々しい姿、その姿をはっきり認識する。 「植物状態。医師からはそう診断されたわ」 それっきり時雨は何もしゃべらない。俺も声を出すことはできない。 その可能性は考えていた。最悪助からないと思っていた。 だが、それでも現実を見せつけられると、その衝撃が頭を揺らす。 ――あの時、楓だけにしなければ ――あの時、もっと早く戻っていれば ――俺が、あの男を倒せるくらい強ければ ――あの時、俺が楓の血液を創造していれば 様々な、たら、れば、が頭から離れない。 それでも、今あることは現実で、後悔があってもそこには結果が残り続ける。 俺は、視線を離せず、楓の姿を見続けることしかできなかった――
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416 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:38:04 ID:E2mdIT0p -
気がつけば、面会時間は過ぎていた。 時雨の見送りを辞退し、俺は一人帰路につく。 俺は、まだ強くならなければならない。この俺の中に眠る強大な力に振り回されることなく、戦う力を。 俺にはまだ覚悟が足りなかった。どこか、こういった犠牲は起きないと考えていた。そう感じる。 だから、二度と、楓の時のような事が起こらないように。 ――俺は力も、心も強くならなくてはならない。 その覚悟を思い、病院を出る。 同時に不意に一人の女性が横切った。 看護士の服を着ているのだから、ここで働いている女性だろう。 そう思い再び歩こうとするが、何故か足が動かない。 しかも突然噴き出してきた冷や汗が止まらない。 俺は慌てて振り向くが、その女性はすでに視界からは見えなかった。 「なんだ……一体」 理解できない現象を不審に思うが、それでどうにかできるわけでもない。 俺は冷や汗を拭うと、何回か深呼吸し、そしてなんとか足を動かして帰路につく。 一回だけ病院を振りかえる。その白い建物が、なぜか不気味に思えてしまった。
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417 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:38:59 ID:E2mdIT0p -
――さらに一週間が過ぎた。 あんなことがあったのにも関わらず、俺の日常は戻ってきた。 何も変わりのしない日々。 学校の皆も相変わらずだし、晶とも相変わらずだ。 そう、そこは何も変わらない―― その日、教室の自分の机でカロリーメイトと食べていると、珍しく始業5分前に担任の女教師が入ってきた。 いつもは直前までこないと言うのに。 どよめく生徒達を笑顔の威圧で完全制圧すると、壇上に立つ。 そして、満面の笑みで言い放った。 「こんな時期ですが、今日転入生がこのクラスにやってきます。 親御さんの仕事の都合とのことです。なので、みんな仲良くしてくださいね。 ……はい、もう入ってきていいわよ」 ――いや、そんな事はなかったのだ。変わらない日々なんてどこにもない。 常に、何かが変わっている。そういう物なのだ。 「樹下楓です。今日からこのクラスに転校してきました。よろしくね」 壇上に立った彼女はそう挨拶し、お辞儀をすると俺に向けて軽く手を振った。 そう、日常とは常に変わっていく物なのだ―― 終わり。
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418 :運命の交差路〜遭遇〜 ◆W20/vpg05I [sage]:2010/12/18(土) 09:41:15 ID:E2mdIT0p - 投下終了です。
終わりと書いてますが、これは陽太視点ではこの話が終わりなだけになります。 ぼかしてる部分をはっきりさせるため、後一話分だけ続く予定。 とはいえ内容は推測できると思いますので、蛇足感がある気もしますがw 以下蛇足的な疑問 ここまで書いておいてなんですが、陽太が考えていた食材として人間の血液を創るのは、 能力的に実際はできないと思うのですが、どうなんでしょうか? できるとなると、陽太の能力がガチで危険な能力になってしまうw
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