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◆WWhm8QVzK6
Liar Game ◆WWhm8QVzK6
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478 : ◆WWhm8QVzK6 [sage]:2010/12/16(木) 23:45:27 ID:tmpWFpqw
今から投下します
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479 :Liar Game ◆WWhm8QVzK6 [sage]:2010/12/16(木) 23:49:06 ID:tmpWFpqw


わざわざデパートに戻ったのに取り越し苦労になった一団はその場にいる言葉と出遭った。
デパートは彼女を除けば蛻の殻。いや、それは正しくないだろう。
藤崎が息絶えたまま、埃を被った床に横たわっているのだから。

ともかく事情を訊いたグラハムだったが、言葉は思いのほかおとなしかった。
あくまでも淡々と事情を説明する。そしてあの動画も観せられた。

一同は動画を見終わり、それで大体を理解した。
後の説明は言葉が語らなければならない。
というわけで、場面はそこから始まる。



「――ときちくさんは独断で、タケモトさん達はそれを追いかける形で出て行きました。
 実際に追いかけることは目的じゃないみたいですけど。でも全員が出て行ったらこの状況を
 説明する人がいない。だから私が残ったんです」

「成程な。確かにそれで辻褄が合う」

まさかこのデパートに、言葉以外全員分の死体が出来上がり隠蔽されているなどとは考えられない。
実際動画と彼女の説明で状況を把握するには事足りる。

「結局戻らないといけないんじゃないの?本当に無駄足だったわね」

「そうでもないと思うよ、リン。こうして納得できる情報を手に入れられたんだし」

「だから、それはモールに向かう人に訊けば良かっただけの話じゃない。チルノ達に後からついていけば
 普通に合流できたでしょうに」

「そんな予知能力者みたいなことが出来るわけないだろう。ともかくモールに向かおう。皆待ってくれている筈だ」

「しんどいわね…」

余裕が出てきたのか態度が通常に戻りだしたリンだった。
恐怖の材料が一つ取り除かれたのと、希望が微かだが見えてきたことにあるのだろう。
キョン子はその様子をつまらなそうに見つめ、首を別の方向に向けた。

「仕方ないよ。……そういえば奥に大きなロボットみたいなのあったよね」

「それがどうかしたの? キョン子」

「いやぁ…、それに乗っていけばいいんじゃないかなって」

「あの山道を?いけるかしら……」

彼らが思い出しているのはデパートの奥に収納してあった魔導アーマーのことだ。
確かにアレは起動可能だったし、誰でも簡単に操縦できる仕組みだった。
4人も乗り込めるかと言えばやや疑問が残るが。

「我々の通ってきた道ならそう険しくはない。行けるかもしれないな」

そう言ってグラハムは奥の廊下に一人で向かった。
続いてレン達も部屋を出て、エントランスに向かう。
外は雨が降り続いていた。
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480 :Liar Game ◆WWhm8QVzK6 [sage]:2010/12/16(木) 23:51:21 ID:tmpWFpqw

「どうしてタケモトさん達は乗っていかなかったんでしょうね」

「さあね。ところで二階に忘れ物したんだけれど、取りに行ってくるからグラハムに伝えてくれるかな」

「え? いいですけど……」

言葉の返事を聞かないまま、キョン子は二階への階段をかけ上がった。
その顔に若干の軽蔑の表情が浮かんでいたのを、言葉は見て取った。
それが何故なのかわからない彼女は少々当惑気味だったが。
もちろん、その理由はキョン子――もといユベルしか知らない。

そしてユベルは、二階に着き、辺りを見回す。

(全く……もう少し上手く立ち回ってくれると思ったんだけどね。ここまで生き残ってきたんだから少しは期待してたのになぁ)

そうしてユベルは藤崎の死体をすぐに見つけた。
動画で場所は見ていたので、風景と合致する場所を思い返せばすぐにわかったのだ。
ユベルがそうする理由は一々記するまでもないだろう。
心の闇を、集めるためだ。

そして襤褸切れのようになった藤崎を見下ろす。

(まぁ、予定が少し遅れただけと思えばいいか。お楽しみはこれからだ)

どの道どんな過程を通ろうとも心の闇が満ちる事は間違いない。
後は目立たないように動けばいいだけだ。
幸いユベルにとってこの身体で動くのは都合が良かった。
人柄の特性なのか、単に空気なだけなのか。
どんな行動をしようとも(無論突拍子なのは駄目だが)基本的に気にされることはない。
誰も、彼女に関心を置いていない。
だがらこそユベルに付け入られ易かったのだろう。
孤独であるからこそ、囁きは甘い蜜のように。

ともあれ、それに耐えられなかったキョン子の心は暗闇に放り込まれてしまった。
主導権を握っているのはユベルだ。それが今後も変わる事はないだろう。
責任の大半は、彼女にあるのだから。


さて、やることを終えてユベルは階下に戻ったら、妙に騒がしいのに気がついた。。
魔導アーマーは到着している。しかし何やらリンが喚いているようだ。

「何よ!今まで隠してきたのには間違いないんでしょう!?」

「それはそうだが…」

グラハムは若干困ったような表情だ。
それを見てユベルは、言葉に問いかけた。

「何があったの?」

「……あの首輪です」

「? 首輪…?」
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481 :Liar Game ◆WWhm8QVzK6 [sage]:2010/12/16(木) 23:53:02 ID:tmpWFpqw

見れば確かに、グラハムの首にはおかしな点がある。
首輪が二つついており、一方の首輪は白かった。

「ああ、プレミアム首輪だね」

「タケモトさん達が手に入れて、それを改造したって話…初耳でした」

「そう言えば君も知らなかったか……それがどうかしたの?」

「それがどうかした、ですって?」

リンがいきなり話に割り込んできた。
ユベルは口調に侮蔑を込めた覚えはなかったが、文体からは取りようによってはそう聞こえるかもしれない。
意図しなかったにせよ、それがリンの逆鱗に触れたことは間違いない。
怒りの矛先はさらに彼女に向かうことになった。

「この首輪がたった10個しかない、ってことを知っててもそんな事を言えるのかしら!?」

「え?」

それは、キョン子は勿論、ユベルも知らない事だった。
プレミアム首輪の役割は知っている。簡単に言えば、首輪を爆発させないようにして、禁止エリアに
自由に入れるようになる代物。タケモトが一生懸命改造していた覚えがある。
出会ったときにはチルノとグラハムが付けていたが、必要だからだろうと特に気に留めなかったものだ。
実際、キョン子も一つ持っている。

「その顔…知らなかったみたいね。やっぱり隠していたのよ。初めから私達を生き残らせる気がないんだわ」

グラハムを睨み、リンは捲し立てる。
それは当然だ。首輪が健在であるということは、常に生殺与奪の権を運営に握られているということだから。
あちら側が一斉爆破などを行えば、プレミアム首輪改を付けていない者は確実に死に至る。
タイムリミットが無ければリンも詰め寄ることは無かっただろうが、状況が違った。

「どうやって訊き出せたの?」

自分が持っているということを悟らせないように、ユベルはリンに質問した。
味方を得たとばかりにリンは調子付いて喋りだした。
言葉はさっきからずっといるが、加勢していない。

「こいつがね、勝手に言ってくれたのよ。一体どういうつもりだったのかしら?そんな事言われて、私達が
 喜ぶとでも思ったのかしら?全く図々しいにも程があるわ」

「…済まない」

グラハムとしては失態だった。
状況が絶望から、曲がりなりにも少しの希望に転じた事で、この事実を伝えても構わないと思ってしまったのだ。
それと、ドナルドという強敵が消えた事も要因に繋がるだろう。今、彼らを脅かすものはいないから。
安全な状態が、気の緩みを作ってしまった。

「とっくに首輪付けてるくせによく言うわ。ハッ……、本当に謝罪したいなら跪くくらいが礼儀じゃないの?」

グラハムをこいつ呼ばわりした上にとんでもない要求である。
見た目では明らかに態度が反転していた。
しかしそれを、グラハムは仕方ないとも思った。
その程度で済むならば構わない。これ以上不和をチルノ達に持ち込んで苦労をかけるのは嫌だったから。
それにリンも限界なのだ。ここまで持ちこたえてきたことが不思議なくらいに。
彼女の気持ちがグラハムに分からないでもなかったから。
グラハムは静かに息を吐き、
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482 :Liar Game ◆WWhm8QVzK6 [sage]:2010/12/16(木) 23:56:54 ID:tmpWFpqw


「別に、そんなことしなくていいじゃないですか」


水をさす声は、言葉のもの。
正直言って、この場の誰にもありがたくない一言だった。
また場の空気を掻き乱すだけでしかない。
リンは、さっきまで黙ってたのにしゃしゃり出てくるな、と言いたげだった。
ユベルはグラハムを挟むようにそっと、言葉の反対側に移動した。

「いきなり何を……言い出すの?」

「そんなことしなくてもいいって言ってるんです」

意味不明だった。
当人は真面目に言っているようだが、そんな風にはとても受け取れない。
厭な雰囲気が漂いはじめる。言葉の目は、光を映さず――


「責任は、とってもらいますから」


刹那、言葉とグラハムが動いたのは同時だった。
グラハムは咄嗟に退避の行動を、言葉は持っていた鉈を下段から振り抜く構えを。
実際、動いたのは言葉が先だったがグラハムの危険察知はそれに勝っていた。
元よりの職業もあり、さらにこの殺し合いを経て戦闘に関する直感は鋭敏になっていた。
彼もまた、身を引きながら緋想の剣を防御に使おうとする。
グラハムは完全に視認出来ずとも、危機を乗り切れるだけの身体能力を持ち合わせていた。

「な……」


そう。
余計な邪魔さえ入らなければ、彼は凶刃を避けられていた筈だった。


「…に――」

ごぼり、と口から血を吐きながらグラハムは現状を理解する。
斬られたのは頸部。おそらく動脈をやられている。
そして逃げられていたはずの身体は何かに遮られて、まんまと鉈の餌食になってしまった、と。
何かは誰なのかは理解できる。逃げる際にキョン子の身体にぶつかったのだ。
いや、ぶつかったと言うよりこれは――

グラハムは、それを理解しがたいまま地面に倒れた。
血はだくだくと傷口から流れ続ける。放置すればあと3分も持つまい。
どの道、残った彼女達には処置のしようが無かったが。

「嘘をつけばどうなるか……まさか解っていなかったなんて、言いませんよね?」

瞳から光を消した言葉は静かに言い放った。
今はただ、グラハムを見下しているだけだ。

呆気に取られるリン。
目の前で何が起こったのかよく分からなかった。
というより、なぜこんな事が起こったのか。
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483 :Liar Game ◆WWhm8QVzK6 [sage]:2010/12/16(木) 23:59:05 ID:tmpWFpqw

(え……なんで?何で……な、だ、ダメ、それ以上は――)

分かってしまう前に、リンはアタマを抱え込んだ。
それ以上考えてしまうと、答えが分かってしまう。
どれほど理不尽な理由だろうと、過程をすっ飛ばそうとも原因を作ったのは、

「嘘が解ってよかったですね、リンさん」

「うるさい!!!!!!」

リンは瞠目して、たじろぎながら叫んだ。
顔がどんどん引きつっていく。足は自然に、言葉から遠のいていた。

「貴方のおかげじゃないですか。どうしたんですか?」

「それ以上喋るな!!私は、私はこんな事を望んだわけじゃ……!」

「そう言えば首輪は10個でしたね。今グラハムさんが持っているので1つ。残りの9個はタケモトさんが
 配るんでしょうから、後2個しかないじゃないですか。……一人分足りませんよね」

遠ざかっていくリンを尻目に、言葉はキョン子に向き合った。
狂気をさらに向けるつもりか。人数を減らすために。
しかし、言葉の凶行は止められた。
キョン子は、言葉が向くより先に銃を突きつけていたから。

「近づくな」

このゲームに参加させられてから、一番はっきりとして、強い意志を持ったキョン子の言葉だった。
しかしそれは彼女自身が放ったものでないのは明白だ。

腕の振りよりも引き金を引く指の動きは圧倒的に速い。
しかも距離は5m程。この距離なら素人でも殆どの確率で当たる。
致命傷にはならなくても、進撃を止められるという意味で。

言葉は動けない。
だが、狂気は宿したままだ。
グラハムは嘘をついた。首輪は足りない。それを隠していた。
その嘘を彼らが、タケモト達が知らない筈が無い。一緒に行動していたのだから。
何より、グラハムの口から『タケモト達と見つけた』と聞いていた。
なら、その事実を彼らが知らないわけが無い。

そこから言葉が行き着く結論は単純だ。
全員にグルで騙された。初めから生き残らせる気など無い。
だから都合のいい嘘をついたのだ。なら、伊藤誠を生き返らせられると言うのも嘘なんだろう。
生き返らせるとしてもそんな気は無い。きっとそうなのだ。

結果、言葉は動く事にした。自分の願いを叶えるために。
まずは嘘をついた人を殺す。これ以上騙されないためには、彼女は最良の方法だと考えた。
次は確実に命を拾えるように、首輪の取り分を減らす。
ならば目の前の人は邪魔だ。知らないと言っていたが、それもどうせ嘘なのだろう。
そう思い、キョン子に斬りかかろうとしたのだが。

こうして膠着状態は、まだ続いている。
時間としてはたったの十秒。しかし言葉とリンには、それ以上に長く感じられた。
誰も動けない。この均衡状態を解くには、彼女の手に余る。


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