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◆RLphhZZi3Y
明日の朝日がないじゃなし
新漫画バトルロワイアル第11巻

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新漫画バトルロワイアル第11巻
212 : ◆RLphhZZi3Y [sage]:2010/12/16(木) 23:31:21 ID:c7F0VqKF
間に合った
投下開始します
新漫画バトルロワイアル第11巻
213 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:34:06 ID:c7F0VqKF
運命に手を差し延べるのは、運命の苛酷さを和らげる最も確実な手段である。

                          「省察と箴言」より


#####


二度目の放送と同じ声がエリアを読み上げた。
響く空は濁ったままだ。
雪はとうにみぞれへと変わっている。
暖房をうんと効かせた車内に、みぞれの弾ける音が通り抜ける。
左右に振れるワイパーが視界を掻き分ける。
外を見れば白い地面が水分を吸い、早くもとけ出してきていた。
泥々の轍を作りながら、乗用車は進む。
客寄せの役目を果たしていたのかは窺えないが、円柱型の博物館は確かにそびえていた。
みぞれが涙のようだ。

防寒していても体温をじわじわ奪うみぞれが、なぜか生ぬるく感じた。
暖房のせいではなかった。
発泡スチロールのシェルターで覆われている気分だ。
現実と非現実を隔てる、脆くて不透明な何かがかぶさってくる。
繰り返す別れと喪失を一心に受け止め、切り拓かなければいけない。
退けた運命の先がまた別れであっても、受け止めてしまわないとそれまで積み上げてきた人生が壊れてしまう。
振り乱して泣いてもお釣りが来る、辛い現実だった。

沙英とひよのは、汗と不安ごと名簿を握る。
ひよのは表に感情を出さなかったが、指を組み目を閉じた沙英は、教会で見た像に祈る信者のようにも見えた。
まだ見ぬゆのの無事を思いながら、銀時は博物館の入口へ車を持っていく。
子供の声の放送が終わるまで、しばらくは車に残るつもりだ。


ひとつひとつ、名前が染まっていく。

新漫画バトルロワイアル第11巻
214 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:35:08 ID:c7F0VqKF
安藤潤也。
ひよのの胸に黒いものがよぎる。
安藤の起爆剤になっていなければいい。

ヴァッシュ・ザ・スタンピード。
沙英は口を覆う。
指名手配書の真偽よりも、人格を信じたい人をひとり失った。

グリフィス。
銀時が舌打ちをした。
教会で寄せたメモは、もう二度と届かない。

スズメバチ。
ゴスロリ娘はやはりやられてしまったようだ。

ニコ・ロビン。
別れたあと、何が彼女を狂気に駆り立てたのだろう。
一緒にいれば救えたのだろうか。

思っていたよりも、島に来てから色々な人と会っていたのだと、改めて気がついた。
呼ばれた以上全てが遅すぎた。

放送に呼ばれた中に友達も想い人もいなかった。
ひよのだけは内心カノンの名が呼ばれなかったことに悪態をついていたが、
ロボットから落ちた少年の名前がないことに、三人とも少しだけほっとする。
あの高さから落ちて生きていたのは意外だった。
もう虫の息かもしれないが……

「きっとあの実を食べたんですね……」
「実?」
「彼を破滅へ導いた、悪魔ですよ」

そこで一息つき、その一息の軽さと重さに嫌悪する。
わかりきっていた罪悪感だ。

憎い憎い放送の余韻に、轟音が重なる。
瓦礫が崩れ、バックライトが光を失った。
トランクがアコーディオンのように潰れる。
タイヤがひしゃげ、ボルトが飛ぶ。
後部のガラスがことごとく四散する。
三人は揃って頭をシートにぶつけた。血こそ出ていないが、こぶぐらいはできただろう。
駐車場に静寂が戻る。


新漫画バトルロワイアル第11巻
215 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:36:16 ID:c7F0VqKF


#####


「せっかく沙英さんの額の傷が治ったのに……」
「運転できないならできないって言ってください!」
「運転はできてましたー! ちょっとばかし突貫しちゃっただけですからーっ!」
「それを世間では事故っていうんです!」

博物館に到着したと同時に、事故った。
新聞の片隅によく載る、コンビニに自爆テロをけしかけるご老人とまったく同じこと(伊万里談)を、銀時はしでかした。

ブレーキとアクセルを踏み間違えた凡ミスで、バックで扉をぶち抜いたのだ。
銀時は博物館の入口に空いた大穴から笑ってサバサバと目を逸らす。
大破はしていないが、車の後部はベコベコのグシャグシャになっている。
鉄板があらぬ方向を向き、エントランスガラスと瓦礫で塗装も剥がれていた。

「エンジンは無事っぽいからまだ乗れる!」
「何が起こったかと思いましたよ。もうどこが入口かわからなくなったじゃないですか!」
「あ――――っ何も聞こえませーん!」
「罰として館内を銀時さんに回ってもらいますよ?」
「い、伊万里それは危険じゃない?」

にこやかに怒りのマークを額につけたひよのが提案する。
反論する沙英をよそに腕を取り、カウンターを抜けた。
そのまま吹き荒ぶ嵐の前兆に身体を振るわせる。
沙英を抱き寄せ、頬が付きそうな勢いで腕を回した。
防寒着ごしに柔らかい同士が密着した。
風呂でのセクハラまがいがそのままそこで展開される。背中をすすすと撫でる。

「この中は暖房効いてないんですー。沙英さんあったかいですねー」
「ちょっ、いまりぃぃぃ! ひゃあぁぁっ」

エントランスからまず通じる大ホールの吹き抜け展示を左へ回る。
銀時もパヤパヤと花咲き乱れそうな二人に続く。
大ホールの中心、ミニチュア封神台横でひよのはくるっとステップを踏んだ。
つられて沙英も回る。
その背中にはいつの間にかぺらぺらと、羽根とは程遠い白いものが生えていた。
沙英のセーターに、一枚のメモ用紙が貼りつけてある。
ゴリ押しな作戦だが、貼られた本人は気づいていない。

「しゃあねー、探険してやろうじゃねーか。危険人物とかいたら即行帰ってくる。
 さー家捜し家捜し〜。
 っとここで沙英が暇しないように関口伊万里のすべらない話をどうぞ!」
「ちょっ、それどんな無茶ぶりですか! 意味がわからないんですケド!」


新漫画バトルロワイアル第11巻
216 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:37:31 ID:c7F0VqKF
振り向いた沙英越しに、ひよのはにっこり銀時へ微笑んだ。
ひよのから銀時へ、沙英には知らせたくないメッセージが渡された。
大袈裟に身振り手振りをつけ、沙英の注意をひよのは引き付ける。
早く読んで処分しろと、目で銀時に訴えていた。


《シャッターの前をお片付けして下さい。
沙英さんをシャッターの方へやらせないようにしますのでm(__)m》


沙英に気づかれないよう、銀時は急いでメモを剥がす。

「ではですねー、沙英さんの緊張を和らげるためにお話をひとつ」
「伊万里まで乗らないで!
 また怖い話ですかっ?」
「失礼な、爆笑必至の小粋なジャパニーズジョークですよ!」

得意気に語り出した。
ひよのへ振り向いた沙英は胡散臭げに小咄を聞く。
ひよのは銀時にウィンクを飛ばした。

「タカシ君がおめかししているお母さんに言いました。
『お母さん、どうして女の人ってストッキングを履くの?』」

銀時の見渡す限りにゴミ箱はなかった。

――懐に入れたら後で何かの拍子で見つかっちゃいましたフラグが立つ。
  全国一億二千万のジャンプ読者に鍛えられたボケとしては、無駄なフラグは立てたくない――

などといったくだらない余計な心配と焦りが銀時を急かす。
メモをぐしゃぐしゃに丸めたと同時に銀時は、


食った。
食ってしまった。
もぐもぐもぐもぐと必死にメモ用紙を噛み砕く。
ひよのの顔が珍しくひきつったが、小咄を続ける。

「お母さんはちょっと考えて、
『ストッキングを履くと脚がきれいに見えるからよ』
 それを聞いたタカシ君はお母さんの顔を見て……


『じゃあお母さんは顔に被ればいいじゃん』」
「タカシィィィィっ!!!!
 うおぉぉ、あがぁぁぁ!!!!」

思わずツッこんだ弾みで飲み込んでしまったらしい。


新漫画バトルロワイアル第11巻
217 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:39:10 ID:c7F0VqKF
「銀さんまたツチノコでも出たんですか!?」
「んなんじゃねーよ、ほら今度はアレだ、
 パンデモニウムさんが蠢いてたんだよ、そこらへんでぐにゃぐにゃ〜っと」
「ハイハイ、大人しく待ってますから早くしてくださいね」
「アレっ、沙英ちゃんがつれない」

しおしおと元気が抜けていった銀時の肩を二人の娘は押す。

「いってらっしゃいませー」



ミニチュア封神台を挟んで、沙英とひよのがいる場所の向かい側。
シャッターで寸断され、ぶった切れた腕がごろりと転がっていた。
無理矢理死角へ引っ張って来られなければ、真っ先に血だまりを見ていたはずだ。
デパートなどでの銀時やここでのひよののフォローを、沙英は知らない。
知らないから、まだ進める。


#####


『随分前に切られたなこりゃ』

銀時は、細いが体脂肪がほとんどついていない腕を拾う。二の腕を握れば、筋肉でみっしり構成されていたのがわかる。
ただ寒さで加速した死後硬直具合で、指は一切動かない。
血が抜けきって青ざめ、デッサン用の石膏モチーフのようだった。
袖さえついていなければ、沙英も一瞬ぐらいは見間違えそうだ。

シャッターと床の僅かな隙間から流れていた血を、余っていた女物の服でぬぐう。
元々ホール側に血はあまり広がっておらず、凝固していたがすぐに削り取れた。
問題はこのシャッターの向こう側だ。
見取り案内図を見るに、別の展示室を通ればシャッター裏には簡単に行ける。

博物館は二重丸構造で、内側の円い大ホールから放射線状に設置されている展示さえ通れれば、
外縁のギャラリーは何の問題なく進めるのだ。

血の河が道しるべのように床を汚していた。
えげつない量の弾が薄暗いなか浮かぶ肉塊に刺さり、人体にはあり得ない光沢を放つ。
ヒトと呼ばれていたふたつのものは、どうみても年下だった。
舌打ちする。

新漫画バトルロワイアル第11巻
218 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:40:33 ID:c7F0VqKF
伊万里はここに来たと言っていた。死体があるのも知っている。
犯人が伊万里。考えられなくはないが、その可能性は限りなく低い。
犯人なら、銀時にだけ注意を呼び掛けて、沙英にこの光景を見せない理由は無い。
沙英の知り合いは全員女の子だ。死体は中性的な顔立ちだが、男だった。
知り合いの死を隠すでもない。
まさか男の娘だった訳でもあるまい。

この銃痕から察するに、凶器はろくでもない大きさだ。
そんなものを女の子がぶっ放したら全身の骨が砕ける。

「悪ぃな、こっちで眠っててくれ」

ギャラリーの方に倒れていた男の子を、シャッターの閉まる展示室へ運んだ。
目を閉じさせ、白髪の男の子には切れた腕を胸に置いてやった。

展示室のギャラリーへつながるもうひとつの入口も、シャッターを下ろす。
徐々に姿を隠していく死体が、泣いているように思えた。
伊万里と沙英を守らなければ。
閉じきったシャッターに弔いの言葉を残す。



#####


「電車の中で床に荷物を置く人っているよね。
 その人が荷物を持ち上げた弾みで隣に立ってた私のタイツにひっかかって
 伝線したときは腹立ちますよねー」
「ですね。パンストとかタイツとかってさりげなく高いですから」
「パンストかぶった銀行強盗はどこからそのパンストを手に入れるんだろう」
「そりゃお母様の香りがついたママパンじゃないですか?」
「うわっ、きもっ」
「しかしパンストって履く以外にはかぶるかしか使う用途無いですよね?」
「かぶるって時点で用途としては間違ってる!」
「変態はどうしてかぶりものをかぶりたがるんでしょう」
「変態だから」
「正論ですね」
「マイナスにマイナスをかければプラスになるけど、
 変態に変態かけても物凄い変態にしかならないって」


新漫画バトルロワイアル第11巻
219 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:42:45 ID:c7F0VqKF
ひよのは吹き出した。
その理論でいくと、着ぐるみばかり着るあの男に付き合う自分が"物凄い変態"になる。
二人は何だかんだで明らかに銀時に毒された、しょうもないパンスト談義を続けていた。
が、話題の種が途切れた微妙な瞬間に、取り繕うよう沙英は展示品を指さした。
ミニチュア封神台からしばらく離れたところに展示してある帆船がその先にある。

『帆船模型ゴーイング・メリー号』

「あれでしょ? 使えそうな船って。
 ちょっと疑問なんだけど、帆船"模型"だよね? 浸水しない?」

最もすぎる心配だった。

「まあそれも考えていたんですけど、これだけがっちり造られてるなら平気じゃいですか?」

確かに職人技が光る船だった。
模型というよりは、本物をそのまま縮めたような頑丈かつ屈強な造りになっている。
流石に武器弾薬はお飾り程度のレプリカだが、なぜかミカンは本物だった。

「あ、沙英さんちょっとどいていただけますか?」

ひよののお願いに、沙英は左へ一歩カニ歩きする。沙英のすぐ上へ、旅館で動画を見せてくれた携帯を掲げる。
人工的に合成されたシャッター音とフラッシュが展示品を包む。

「え、何?」
「情報は大事ですよ! それにしてもいい船ですね」

新漫画バトルロワイアル第11巻
220 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:44:58 ID:c7F0VqKF
「舳先が羊とか、珍しい」
「舳先に立って『I'm a king of the world!!』とか『Nearer, my God, to Thee』とかラブストーリーとしていいですよね」
「……少なくとも縁起としては最悪だと思う」
「そーだな、ディカプリオも海の藻屑になった訳だしよ」
「そうそう……って銀さん!? いつの間に!」

相変わらずの飄々とさた素振りで、豪速球探ってきた銀時が立っていた。

「ちゃーっと行ってだーっと戻ってきただけよ。
 ほれ沙英にプレゼント。縁起は担がなきゃなんねーだろ」

ごそごそとデイバッグからライオンを象ったものを引っ張り出す。

「マ、マーライオンホース? どうしてこんなとこに」
「のレプリカな」

船によじ登った銀時は、羊の頭にマーライオンホースをくくりつける。
縁起がいいかどうかは置いといて、見てくれはいまいちだ。

「私にはないんですか?」
「ぬかりはない!」

バッグから角が覗く。
その下にくっついた首の水晶のような眼球が睨んできた。

「ちょ、何ですかコレ!」
「『ナダレ剥製』、命名スガシカオちゃん」
「駄目です、こんなの持っていけません! 元々あったところに戻してらっしゃい!」
「えー! 俺が世話するから飼おうって。
 ちゃんと餌やるし散歩もするからよ!」
「捨てられた犬じゃないんですから!」
「じゃあこれはどうだ! 今回の目玉商品!
 これにスガシカオちゃんもつけて驚きの価格19800円でご提供いたします!」
「またくだらな……」

新漫画バトルロワイアル第11巻
221 :明日の朝日がないじゃなし[sage]:2010/12/16(木) 23:47:58 ID:c7F0VqKF
そこまで言いかけて、沙英は息を飲む。
ピンクの胴体にぜんまいネジの耳が刺さっている。
たらこ唇のような飾りの口にライトの目がのっぺりとへばりつき、腹には8と書かれていた。
紛れもなく、しがみついて逃げた時の、あのロボットだった。
収穫ありと不敵ににやける銀時を尻目に、ひよのがロボットのあちこちを撫でた。

「ふむ……やはりレプリカですか。ですが使えるパーツはありそうですね。
 とりあえずはありがとうございます坂田さん」
「ではスガシカオちゃんもプレゼント」
「ノーセンキューです」
「というかもうトリオ漫才はお腹いっぱいですから先進みましょうって。
 さっきから一切進んでない気がするんですよ」



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 早送り
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「今度こそ壊れましたね」

娘二人は心底呆れた長いため息を吐く。
B-8の波止場に着いた途端、ボッスンとでかい音を立てて車が止まった。走るぽんこつの寿命がとうとう尽きた。
目的の海まで来れただけでもよしとする。

冷気と潮風が肌に痛い。
太陽などとっくに沈んでいる。船にライトなど乗っていなかった。そこまで気が利いているなんて期待はしていない。
幸いにも灯台の光は無傷だ。
目印さえあれば、それほど遠くもない闘技場にすぐ着けるだろう。
波風も西へ流れている。このまま乗っていけばいい。
沈まなければ更にいいのだが……

「進水式には物足りねーけど、行くっきゃねぇな!」
「ええ……頑張りましょう」




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