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85 : ◆BY8IRunOLE []:2010/12/14(火) 22:04:04 ID:4+2i040B - 一点、どうでもいい訂正です
>>75 ×初盆 ○初彼岸 季節間違えてた……orz ↓投下しますです
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86 :『閂(かんぬき)』 ◆BY8IRunOLE [sage]:2010/12/14(火) 22:06:49 ID:4+2i040B - 【第四幕】
廊下を雑巾掛けし、井戸水を汲んで茶を沸かす。 泊まり客が帰ったあとに、布団を上げ浴衣を洗濯する。 夕方には窯にくべる薪割りをする。 『藤屋』は旅籠、つまり大衆旅館である。 彩華は、そこで仲居と番頭の仕事をいっぺんに引き受けていた。 もともと働くことは嫌いではない。 どんな仕事にも、剣の道に通じる極意がある――というのは師匠の教えだ。 小柄で華奢な身体ながら、てきぱきと勤めた。 薪割りは上手に出来たし、井戸の水を汲んで運ぶのも、大の男に引けを取らないくらい働いた。 彩華にとって、日常の“仕事”はすなわち修行に等しいものだったのである。 「彩華、ちょいと頼まれとくれ」 妙に呼ばれ、彩華は厨に入った。 「あたしとしたことが、しくじっちまったよ……豆腐を切らしてた。 一っ走り、買いに行ってくれるかい。番所の近くだ、場所は分かる?」 銅貨と鍋を受け取り、彩華は頷いた。 「まだ日も高いけど、気をつけるんだよ!」 背中で声を聞き、昼下がりの町に出る。 空気が生暖かく、梅の香りが匂っている。 気持ちがおかしくなりそうな、狂気を孕んだ気配だった。 彩華は奉行所近くの豆腐屋で木綿豆腐を買い求め、藤屋に戻る道を歩いていた。 奉行所の前に差しかかった時、人影を目にした。
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87 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:09:48 ID:4+2i040B -
「では里部さま、よろしゅう頼みます」 「うむ」 二人の男が、奉行所から出てきたところだった。 ひとりは、この奉行所の役人である。 もう一人は、身形の整った若い侍であった。 「して、今夜のお宿は」 役人が尋ねると、 「先に旅籠を見つけてきた。心配は無用だ」 侍はニコリともせず答える。 「さいですか、では……」 役人はお辞儀をし、侍は奉行所をあとにした。 そのやりとりを、彩華は少し離れたところから見ていた。 豆腐屋へ遣い物に行った帰りである。 早く帰って豆腐を妙に渡さないといけないのだが、なぜだか彩華はその侍を尾けることに決めた。 % % % 相手からは判別できないくらい、離れて歩く。 侍は、通りをいくつも曲がりながら歩いていた。 しかし、迷っているふうではなかった。しっかりと確信を持った足取りで、 辻に来るたびに周囲を見渡し、一つの路地を決めて歩いていく、というふうだった。 ――追手を巻く歩き方じゃない。向かう方向は、決まっているような…… そして一軒の店の前で立ち止まった。 ――やっぱり。 彩華の直感は当たっていた。 侍は、『藤屋』の客だったのである。 「遅かったね! とりあえず、これを出しといて」 妙は厨と座敷を忙しく行き来しながら、彩華に燗のついた銚子を渡した。 座敷では数組の旅人が酒を呑みながら歓談していた。 彩華は宿に戻った侍が気になったが、ここはまず妙の手伝いをするのが先決だ。 酒や料理を運び、合間に風呂の準備をし、めまぐるしく働いた。 % % %
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88 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:15:40 ID:4+2i040B -
里部丹次郎が藤屋に逗留して、数日が経った頃である。 妙は買い物に出た先で、その若侍に出会した。 「買い物ですか」 丹次郎は、妙の手から食材などの入った籠を分け持った。 「大丈夫ですよ! お武家さまに荷物なんて持たせたら、女が廃ります」 そう言って断るが、丹次郎は聞かずに 「宿へ戻られるのでしょう、拙者も戻るので序ですから」 籠を持ったまま歩き出した。 押し問答になりそうだったので、そのままあとに従いて歩いた。 丹次郎は、黙って前を歩く。 つい早足になるのだろう、妙と距離が開くと足を遅め、気まずそうにする。 ――無口な人。きっと照れ屋な性分なんだ。 妙は、彼のそんな姿を微笑ましいと思った。
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89 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:18:22 ID:4+2i040B -
「あら、寒菊が出てる」 妙は、通りに面した店の軒先で、鉢植えの寒菊を観た。 初彼岸はもうすぐである。 ふと亡くなった父、甚作を思い浮かべた。 父は物静かな人だった。 酒も煙草も呑まず、毎日を地道に務めていた。 そんな父にも、二つの趣味があった。 同心の嘉兵衛とよく打っていた碁、それに菊の栽培である。 とくに菊の栽培はかなりの評判で、泊まり客から売って欲しいと言われるくらいであった。 妙は、目の前の寒菊に亡き父の姿を重ねていた。 藤屋はそこそこに繁盛していた。 妙が、今まで惨めな思いをすることも無く育ったのは、父のお陰である。 父が亡くなった後は、とにかく必死で藤屋を切り盛りすることに励んでいた。 悲しみにくれている暇など無かったのだ。 それが、寒菊を見ているうちに妙の中で、何かがふっと緩んだ。 気がつくと涙を流して、鉢植えの前にただ立っていた。
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90 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:22:42 ID:4+2i040B -
「妙さん」 丹次郎が、怪訝そうに声をかける。 妙はそれに気づかない。 再度呼ばれてようやく気づき、歩き出そうとしたとき。 気もそぞろだったのだろう、ふらついた。 丹次郎はすかさず肩を抱き、妙を支えた。 妙はその時、気恥ずかしさと一緒に、僅かな安心を感じたようだった。 凭れかかっていたい―― 頭の片隅で、そんなことを思ったかも知れない。 今までは、縁談など断ってばかりだった。 けれど、一人で気を張って生きて行くのに疲れを感じ始めていた。 誰かと支えあって生きて行くということに、妙は言いようのない感情を抱き始めていたのである。 % % %
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91 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:31:42 ID:4+2i040B -
八つ半頃。 泊まり客もおらず、夕餉の支度にはまだ早い。 藤屋が比較的、暇になる時分である。 彩華は、散歩してくる、と伝えて町に出た。 向かう先は奉行所である。 奉行所の門を警護する武士の目を盗み、そっと中に入り込む。 目当ての人物はすぐに見つかった。 先日、若い侍と話していた役人である。 濡れ縁に面した座敷で、書き物をしている。 そこへ、羽根を投げ込む。 「……?」 役人はそれを拾い、どこから飛び込んできたのかと、縁に出て辺りを見回した。 彩華が近づく。 「なんじゃ、こんなところで遊んでいてはいかんぞ」 「羽根が……」 「これか。返してやるから、羽根つきならもっと別のところで遊びなさい」
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92 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:40:14 ID:4+2i040B -
その時である。 彩華は、役人の目をじっと見つめた。 目が合う。 役人は、しばしその深い紅の色に見惚れていた。 そして、うわの空で羽根を返す。 「ありがとう。……あの若い侍は、どこから来たのかな」 彩華は羽根を受け取る手を止めて、呟くように言った。 「あぁ……、なんでも、都の方で鳴らしていた腕利きの剣士だって話だ。 けどなぁ、良くねぇ噂もあるんだよな」 「どんな?」 「曰く、『臆病者の丹次郎』。 里部丹次郎は道場では強いが、真剣勝負の野良仕合になると逃げ出す腰抜けだ、ってんだ」 「ふうん……。なんで、そんな人が来たのかな」 「そこはなぁ、面子ってもんがあるんだろうよ」 「?」 「丹次郎は、道場では腕が立つ男で名が通ってる。 いずれ藩主お付きの剣術指南役か、はたまた若き道場主かと、言ってみれば将来有望な若者よ。 けれど実戦じゃてんで役に立たねぇ、とはいえそいつを無碍に扱っとくわけにゃいかねぇ……」 「……」 「で、だ。この白川町には殺しをはたらく質の悪い盗人がいる、 そいつを成敗するために腕の立つ里部丹次郎が選ばれた、ってわけだ」 「うん」
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93 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:45:16 ID:4+2i040B -
「しかしな、おそらくその裏はこうだ。 ――里部が首尾よく盗人を成敗することができれば、面目躍如。 慥かな腕を持つ侍として、適当な時期に呼び戻し、それなりの役職につけることはできる。 ――そうでなければ……つまり、噂通りの臆病者だったなら。 逆に盗人に殺されることだろう、既に何人も殺られているからな。 都の連中が自ら始末をつけることもない……奴らの考えそうなことだ」 「……」 そこまで聞いて、彩華はふっと視線を外し、羽根を受け取って 「ありがとう」 といって背を向けた。 「おう、あんまりこの近くで遊ぶんでねぇよ」 背中にかかる声に手を振り、彩華はもと来た道を駆けていく。 その後姿をぼーっと見ながら、役人ははっと気がついた。 「……? わしは、なにを話していたんだったか?」 % % %
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94 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 22:58:53 ID:4+2i040B -
「里部。すまぬが、白川の奉行所に行ってもらいたいのだ」 目付からそう言いつけられたとき、丹次郎は一瞬、誰のことを言っているのか分からなかった。 昨秋のことである。 城下で酒に酔った浪人が暴れまわっている場に、丹次郎が居合わせた。 「お侍さん! あいつを、何とかしとくれよ!」 逃れてきた飲み屋の女房が、丹次郎に縋りついた。 元来、正義感の強い男である。 「し、静まれ! それ以上の狼藉は許さんぞ!」 震える脚を叱りつけるように威勢よく叫び、丹次郎は浪人と相対した。 道場では、誰も太刀打ち出来ないくらいの実力を持つ丹次郎である。 当然、周りにいた誰もが鮮やかに浪人を斬り伏せるであろうと思っていた。 ところが、いざ立合いの場に臨んで、彼は足が竦んで動けなかった。 刀を持つ手は震え、剣技は全く冴えを見せず、防戦一方である。 あわや返り討ちかと思われたとき、奉行所の手のものが数人駆けつけ、浪人を一斉に取り押さえた。 いくら道場で強くても、それが実践に生きなければ全く意味が無い。 丹次郎は、自分に人を斬る覚悟が無いことを、まざまざと見せつけられることとなったのだ。 そこへ、この移動命令である。 ――おれを厄介払いする心算か。 丹次郎自身、直接言われはしなかったものの、そのことには薄々気づいてはいた。 % % %
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95 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 23:03:17 ID:4+2i040B -
回想し苦い思いを抱きながら、丹次郎は仕合支度をしていた。 まだ薄暗い、夜も明けきらない時分である。 「こんな早くに、お出かけになるんですか」 朝餉の支度を始めようとしていた妙が、声をかけた。 「……拙者の役目は、件の物取りを討つことです」 目を合わせず、丹次郎は支度を続けながら、ぼそぼそと言った。 「早く始末をして、安心して暮らせる町にしなくてはなりません。大丈夫、気遣いは無用です」 そう言って、丹次郎は出て行った。 妙は旅籠の間口まで出て丹次郎を見送った。 そしてその後ろ姿へ向けて、火打石を打った。 % % %
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96 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 23:09:01 ID:4+2i040B -
朝霧が立ち籠める、早朝である。 春先とはいえ、まだまだ肌寒い。 着物がたちまち濡れて、いっそう寒さを感じさせる。 熨斗は殺して奪ったカネを手に、塒(ねぐら)にしている破れ寺へ戻るところだった。 辻のところで、一人の侍と出会した。 襷を掛け、額には鉢金。あきらかに仕合支度をした武士。 「んだぁ? てめぇ」 熨斗は、酔いの回った頭で絡んだ。 丹次郎が早朝から仕合支度をして出ていったのは、彼なりに熨斗を討つ心算だったからだ。 犯行は深夜に行われている。戻ってくる頃を狙うのだ。 早朝ならば視界もあり、有利に闘える。 しかし、それがこうも早くに当たるとは、丹次郎自身が面食らっていた。 「き、き、貴様!」 思わぬ遭遇に、心の準備は十分ではない。 丹次郎は、うっかりすると震え上がりそうになるのを必死に抑え、気持ちを落ち着けようとする。 「貴様が、こ、殺しをやっている物盗り、だな。せ、成敗、してくれるっ!」 言うが早いか、侍が刀を抜いた。 「しゃらくせぇ!」 熨斗も、太刀を抜いて振り回す。 が、酔いのせいで狙いがまったく定まらない。 丹次郎は次第に落ち着きを取り戻し、相手を見据える。 ――落ち着け、道場の立合いと同じだ。むしろ型が成っていないから隙だらけだ! 丹次郎は八相に構え、機を伺う。 熨斗が斬り込んでくる。 しかし所詮、俄剣法である。 斬り込んでくるそこへ、丹次郎は小手を打つ。 熨斗は手首を斬られ、太刀を落とした。
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97 :『閂(かんぬき)』[sage]:2010/12/14(火) 23:15:08 ID:4+2i040B -
圧倒的な実力の差に、熨斗は死を悟った。 手首から夥しい血を流し、恐怖に震えながら、命乞いをした。 「ま、待っれくれ、こ、殺さねいでくで!」 酔っているため、呂律が回っていない。 丹次郎は油断なく鋒を向けたまま、熨斗の落とした太刀を見、それをもう一方の手で拾い上げた。 奇妙なことに、峰にも刃が付けられている。 手にずっしりと重いが、それはあまりに分厚い重ねのせいであろう。 おそらく、刀に対する一般的な美的感覚から言うと、それは「醜い」と形容するに等しい代物である。 しかし、なぜだかそれは丹次郎を惹きつける刀身であった。 ――どうしたことだ、これは……。無骨な造りであるのに、刃に浮かぶ沸(にえ)が非常に繊細で美しい…… 丹次郎は自らの刀を納めると、拾った太刀を握り直し、 「貴様は、良い物を持っていたようだな」 と言って口端を歪め、卑しい笑みを浮かべた。 .
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98 : ◆BY8IRunOLE [sage]:2010/12/14(火) 23:18:14 ID:4+2i040B - ↑ここまでで御座いやす
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- 魔王「お嫁にしてくださいっ!」
16 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/14(火) 23:26:24 ID:4+2i040B - 乙ですよー!
この作品の復活を待ってましたっ!(少なくとも自分はww) 魔王ちゃんかわいい☆ 続きに期待ですー
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- 【押忍】時間を自発的に区切ってうp【激熱】part.2
83 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/14(火) 23:31:44 ID:4+2i040B - >>76
FEとかFFとか聖剣とか…… 貴方。 なぜ、SFC末期作品ばかり描いてくるんだ! GJ過ぎるだろ! 大好きだぞ、ちくしょうー!(AA略)
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- 狙って誤爆するスレ8
554 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/14(火) 23:35:44 ID:4+2i040B - >82
マ○ムネ氏のキャラデザも自分は好きですよ でも、それを忠実に再現してない画面グラに不満が溢れてる 違いすぎだろ! あれは詐欺レベル 一番好きなのはトラキアのイラスト書いた人(名前分からんww)の絵柄 適度にかわいくて、しかも憂いを含んだような感じがいい
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