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仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理
創る名無しに見る名無し
多ジャンルバトルロワイアル Part.7

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多ジャンルバトルロワイアル Part.7
613 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:08:28 ID:plBXV4F9
白いマントをはためかせ、跳躍する咲世子。
腰に下がっているのは、サーベルに似た形状を持つ羽召剣ブランバイザー。
それを抜き、田村玲子へと肉薄する。
玲子はその姿を一瞥すると、頭部を変形させて一本の刃を伸ばした。

「甘いです!」

だが刃が届くことはない。
常人には視認すらできない速度の刃を、咲世子は空中で弾いたのだ。
防御に成功した彼女は、サーベルの間合いへと足を踏み入れる。
そして玲子に斬りかかろうとした瞬間、玲子の身体が宙へと浮かび上がった。

「甘いのはお前の方だ」

空中を浮遊しながら、ほくそ笑む玲子。
彼女は樹木へと突き刺した刃を支柱に、空中へと浮かび上がっていたのだ。

「私がただ無闇に攻撃したとでも思っているのか?」

空中を十メートルほど移動し、ゆっくりと着地する玲子。
彼女は咲世子の実力を計るため、牽制の攻撃を放った。
さらに万が一の事態に備え、いつでも退避できるようにしていたのだ。

「やはり……一筋縄では行きませんか」
「そのようね」

あくまで余裕があるように、玲子は振舞う。
だがその内心は、あまり穏やかでは無かった。

(あの速度の刃を防ぐか)

寄生生物の刃は、ただの人間では視認できないほど素早い。
それほどの速度の刃を、咲世子は空中で防いでみせたのだ。
たかが人間と油断していたら、首が飛ぶのはこちらの方だろう。
少なくとも草野達よりも手応えはあると、彼女は判断した。

「行きます!」

地面を蹴り、再び玲子の元へと駆ける咲世子。
姿勢を低くし、サーベルを深く構えている。
その構えは日本の剣術に古くから存在する、居合いの構えによく似ていた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
614 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:09:28 ID:plBXV4F9

「チィッ!」

刃を伸ばし、咲世子の動きを封じる玲子。
同時に素早く後退することで、自分に有利な間合いを確保しようとする。
咲世子の身体能力は非常に脅威だが、得物がサーベル以外に見当たらない。
彼女は接近戦を仕掛ける以外に、勝利する術がないのだ。
一方で玲子は触手の長さを調整することで、あらゆる距離に対応することができる。
つまり彼女の間合いから離れれば、一方的に攻撃を仕掛けることが可能なのだ。

「とぉ!」

とは言ったものの、それが出来ないのが彼女の現状であった。
咲世子の猛攻は凄まじく、距離を離してもすぐに詰められてしまう。
攻撃に転じたとしても、全てが弾き返されていた。

(やはり咲世子の方が実力的には上……だが)

咲世子の剣戟をいなしながら、一瞬だけ視線を逸らす。
そしてまた、すぐに咲世子へと向けた。

「視線を逸らすとは、随分余裕のようですね!」

咲世子は右肘を後ろに下げ、すぐさま前方に突き出してくる。
放たれた刺突は、玲子の防御を容易く掻い潜った。

「そうでもないさ、むしろギリギリだ」

身体を翻し、寸前のところで玲子は刺突を躱す。
しかし完全に避けきることはできず、刀身は脇腹を抉る。

「減らず口を!」

咲世子は玲子の首筋に視線を注ぎ、剣を大きく振り上げる。
その瞬間、玲子の目が鋭く光った。

(今だ!)

足元に刃を伸ばし、横一文字に斬りつける玲子。
注意力が散漫になる足元であれば、咲世子にも効果があると踏んでの行動。
しかし咲世子は大きく跳躍し、安々と刃を回避してしまった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
615 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:10:09 ID:plBXV4F9

「この程度の奇襲が私に通じると思いましたか?」

空中でマントを広げながら、咲世子は玲子を見下ろす。
その高度はおよそ15メートル。
ライダーの力により強化された脚力は、人間の限界を遥かに越えていた。

「少しは通じると思っていたのだがな」

清涼とした声が、淡々とした口調で言葉を告げていく。
そこには後悔や驚愕といった感情はなく、ただ事実だけを告げているものだ。
寄生生物は元から感情表現に乏しいが、今の状況には関係ない。
何故なら彼女の真の狙いは、足元への奇襲ではないのだから。

「それよりもまだ気づかないかしら?」
「一体なにを…………なッ!?」

咲世子の耳に届くのは、バキバキという木が軋む音。
――――咲世子の傍にそびえ立つ大木が、咲世子の元へ倒れこむ音だった。

「まずい!」

咲世子が気づいた時にはもう遅い。
大木は彼女の身体を巻き込みながら、地面へと倒れこんでいく。
それから数秒、大木は轟音と共に地面へと叩きつけられた。

「…………」

その光景を片目に捉えながら、玲子は距離を取り始める。
先程の真の狙いは、咲世子の傍にあった大木を切り倒すこと。
足元への斬撃を避けた後に、大木の落下を狙う時間差攻撃であった。
寄生生物の作り出す刃は、ボディーアーマーすら紙のように寸断してしまう。
故に大木を一瞬で切り裂きつつ、足元を狙う程度であれば容易く行うことができた。
しかし、今の攻撃が致命傷になったとも思えない。
この程度で死なれてもらっては、期待外れにも程がある。

「……私を失望させるなよ」


――――SWORD VENT――――


そんな彼女の声が天に届いたからか。
無機質な認証音と共に、巨大な薙刀を手にした白い甲冑の騎士が大木の下から姿を表した。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
616 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:10:49 ID:plBXV4F9

「やはりそうこなくてはな」

立ち上がった咲世子の姿を見て、嗜虐的に笑む玲子。
だがその表情が見えたのも一瞬。
すぐに美しい女の顔は崩れ落ち、幾つもの触手へと姿を変える。

「私は……ゼロとなり、ルルーシュ様の遺志を継がなければなりません」

息を切らしながら、それでも咲世子は力強く言葉を紡いでいく。

「だからこんなところで果てるわけにはいきません、覚悟ッ!」

そう叫ぶと同時に、勢いよく加速する咲世子。
そして薙刀を振り回しながら、飛び交う刃の中に突っ込んでいった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「てぇい!」

首筋を狙う刃を、僅かに頭を反らして紙一重で回避する。
側面からの刃は、薙刀の刀身で受け止めた。
そこで発生するわずかな隙。
咲世子を取り囲む刃の包囲網に、ほんの少しだけ綻びが生まれていたのだ。
そして百戦錬磨の彼女は、その綻びを見逃すことはない。
腰に下げておいたサーベルを抜き、玲子へと肉薄する。
そして自らの間合いに入った瞬間、脇腹に溜めておいたサーベルを勢いよく突き出した。

(やった……?)

サーベルの先端は、玲子の腹部に深々と突き刺さっていた。
咲世子がサーベルを引き抜くと、傷口から鮮血が吹き出す。
しかし玲子は、全く痛がる様子を見せない。
切れ長の目で咲世子を捉えた後、すぐに攻撃へと転じた。

(やはり攻撃が通じていない?)

迫り来る刃を捌きながら、思案する咲世子。
玲子の身体には、二つの傷跡が残っている。
今もそこから血液が流れ落ち、地面に滴っている。
にも関わらず、玲子は一度たりとも痛がる様子を見せないのだ。
人間の姿をしているのに、あまりにも人間から逸脱している。
化け物の名を冠するに、相応しい存在だ。
しかしどんな生物にも、弱点と呼べるものは必ずある。
無敵の生物など、存在するはずがないのだ。
そして彼女は、玲子の弱点が頭部であることに薄々感づいていた。
冷静に思い出してみると、玲子の攻撃は全てが頭部から繰り出されている。
手足を変形させる素振りも見せないし、使えるのならとっくに使っているだろう。
つまり頭部こそが、田村玲子という生物の核なのだ。
頭部の破壊に成功すれば、おそらく田村玲子の生命活動は停止するはずである。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
617 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:11:33 ID:plBXV4F9

「考え事か? 余裕だな」

言葉と同時に、飛び交う刃。

「いえ、ギリギリですよ」

薙刀を振り回し、それを払い除ける咲世子。
そのまま返す刀で、玲子の首元へ勢いよく振り下ろした。

「ッ!?」

やった――――そう思えたのは一瞬。
薙刀越しに伝わってきたのは、肉と骨の裂ける感触ではなかった。

「私が作れるのが、刃だけだと思ったか?」

驚愕する咲世子、ほくそ笑む玲子。
彼女の長い髪が白色の肉の帯に変化し、薙刀に巻き付いて受け止めていたのだ。
咲世子は薙刀を引き抜こうとするが、肉の帯の拘束が解けることはない。
そしてそこで発生した隙は、玲子にとっての好機となった。
変化していなかった部分の髪が、鈍い輝きを放つ刃へと変わる。
その光景を見て、急いで離れようとする咲世子。
だがその判断はあまりにも遅かった。

「ああぁぁっ!!」

首筋を冷たい刃が通り抜ける。
それから数秒もせずに、鋭い痛みと熱が走った。

「ぐっ……うっ!」

首筋を抑えながら、彼女は背面跳びで後退する。

「頚動脈を正確に切り裂いたつもりだったのだがな」

薙刀を興味深そうに眺めた後、そっと地面へ置く玲子。
激痛に苛まれ、表情を歪める咲世子。
玲子の狙いは完璧であり、正確に頚動脈を切り裂いていた。
それでも咲世子が命を繋いでいるのは、偏にライダーデッキのおかげである。
咲世子の纏う強化スーツは、致命傷ですら防ぐほどの性能であったのだ。
しかしそのスーツも裂けてしまい、今は素肌が露出している。
次に同じ箇所を切り裂かれれば、命はないということだ。

「まぁいい、これで終わりだ」

玲子の顔が変形し、三本の刃へと姿を変える。
今までに何度も見た光景。
一つ違うのが、咲世子が窮地に陥っているということだ。

「お前は危険過ぎる、ここで死ね」

容赦のない掛け声と共に、三本の刃が飛ばされる。
咲世子は痛みを堪えながら、デッキからカードを一枚引き抜いた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
618 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:13:12 ID:plBXV4F9


――――GUARD VENT――――


二度目の認証音。
咲世子の左腕に白鳥の翼を模した盾が装着される。
そしてその瞬間、三本の刃が彼女の身体を貫く。

「なに……?」

はずだった。
咲世子は刃が接触する直前、煙のように掻き消えてしまったのだ。
同時に突風が巻き起こり、大量の羽が玲子の視界を埋め尽くす。

「どこに行った!?」

普段は寡黙な玲子が、珍しく声を荒げる。
弱った獲物が目の前から消えたことに、本能が苛立たせたのだ。
目まぐるしく動く羽は、玲子の視界を完全に塞いでいる。
忙しなく視界の端で動くそれは、鬱陶しいことこの上ない。
そしてその障害に紛れ、上空から殺意が飛来する。
白い騎士がサーベルを構え、玲子の頭部を穿とうとしていた。

「くっ!」

間一髪で気付いた玲子は、急いで身体を翻す。
それが功をなし、頭部への直撃は避けることができた。
だが完全にその奇襲を避けるには、反応が遅すぎた。

「チィッ!」

右肩に深々と突き刺さるサーベルの刀身。
咲世子は確かな手応えがあるのを確認すると、サーベルを勢いよく切り上げる。
すると刃を通じて、骨と肉を裂く感触が伝わってきた。
血管や神経の繊維が途切れ、ぷちっとビニールが破れたような音を上げる。
そして、サーベルが玲子の身体から抜けた瞬間。
大量の鮮血と共に、玲子の右腕は地面へと落下した。

「まだです!」

更なる追撃を仕掛けようと、咲世子はサーベルを振るう。
その動きは迅速で、そして鋭い。
自らに傾いてきた流れを逃さぬよう、過敏に責めているのだ。
が、突然その動きが停止した。
玲子は薙刀を奪い取った時のように、長い髪の毛を肉の帯に変形させていたのだ。

(そう来ましたか……)

咲世子が使用しているサーベル――――ブランバイザーは、召喚機の役割も兼ねている。
これを失うことは、全ての攻め手を失うことに等しい。
そうなれば圧倒的不利なのは、言うまでもないだろう。
だから彼女は、攻撃を停止せざるを得なかったのだ。

追撃の手が止んだのを確認し、数歩後退する玲子。
そして咲世子の間合いから離れた地点で、髪の毛を元に戻す。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
619 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:14:06 ID:plBXV4F9

「………………」

無表情のままに咲世子を見つめる玲子。
彼女から放たれる殺気は、咲世子の肌をぴりぴりと焼き付ける。

一瞬たりとも隙を見せれば、容赦なく切り刻む。
言外にそう告げていた。

「まさか人間がここまでやるとは……驚いたよ」

睨み合いに飽きたのか、突然玲子が口を開く。
どことなく嬉しそうな様子で、視線を右腕に注ぎながらだ。
咲世子はこの時になって、彼女が初めて"喜"という感情表現をしたことに気が付いた。

「化け物め……」

反射的に声が漏れる。
殆どの生物は四肢を切り落とされれば、喪失感を覚えるものだ。
しかし目の前の生物は、まるで痛がる様子を見せない。
落ちた右腕に対して、未練などは欠片も感じていない。
右腕を切り落とした相手に、恐怖や憎悪を抱いたりもしていない。
逆にその行為を賞賛しているのだ。
これを化け物と呼ばずして、なんと呼べばいいのだろう。
とっくに理解していたことであったが、言葉に出さずにはいられなかった。

「私からすればお前の方がよっぽど化け物に見えるがな
 我々と対等に戦うどころか、腕を切り落とした人間などお前くらいだ」

皮肉のつもりなのか、玲子は冷たく笑う。
そこから伺えるのは余裕。
この程度では戦況は変わらないという明確な意思表示。
玲子の言葉を、咲世子はそう解釈していた。

(そろそろまずくなってきましたね……)

再び混じり合う両者の視線。
その中で咲世子は、自分に残された時間が少ないことに気付いた。
ライダーに変身していられるのはおよそ十分間。
彼女が変身をしてから、既に七分が経過している。
つまりライダーに変身していられる時間は、残り三分程度しかないのだ。
変身が解除されれば、間違いなく勝利は絶望的になる。
しかしここで自棄になり、考えなしの攻撃を仕掛けるのは愚策だ。
中途半端な攻撃が意味を成さないのは、先のやり取りで痛いほど理解している。

(生半可な攻撃は通用しない、なら――――)

ファイナルベントを決める。
それが咲世子に残された唯一の勝ち筋だった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
620 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:14:54 ID:plBXV4F9

「…………」

玲子の動向を見逃すまいと、視線を配る咲世子。
そのままブランバイザーの両翼を展開し、腰に装着されたデッキに手を伸ばす。
その瞬間、大気を切り裂く音が耳に届いた。

「クッ!!」

咄嗟に手を退かし、サーベルを振り下ろす。
刃と衝突する金属音が、咲世子の鼓膜を刺激した。

「さっきお前はそこからカードを出して、盾を呼び出していたな」

顔の半分を触手に変貌させた玲子が、唯一人間のパーツである口から言葉を発する。

「ならばもうカードは使わせない、そうすれば新たな武器を呼び出せないのだろう」

触手を生やした顎が、勝ち誇ったように口角を歪める。
そして何本もの触手を、一斉に射出した。

(……まずい!)

触手を捌きながら、臍を噛む咲世子。
彼女の前後左右を取り囲むように、蠢き始める触手。
そう、玲子は咲世子を逃さぬように触手の包囲網を展開したのだ。
触手が迫り来ること自体は、そこまで問題ではない。
刃の切れ味は脅威的だが、その速度にはもう馴れてしまっている。
しかし刃と戯れているだけでは、玲子にダメージを与えることはできないのだ。
触手の包囲網から玲子本体は、咲世子の間合いから僅かに外れている。
故に強引に畳み掛けることは不可能。
おそらく玲子は、そこまで計算して包囲網を敷いたのだろう。
やがて時間制限が訪れれば、事実上の敗北。
玲子がカードデッキの時間制限に気付いたのかは分からないが、現時点では最上の策であった。

「くうっ!」

正面からの刃を、盾で受け止める。
その隙を突き、両側面から現れる二本の刃。
一本はサーベルで弾き返し、もう一本は身体を捻って回避する。

「今なら包囲網を――――」

突破できる。
そう言いかけ、咲世子は閉口した。
攻撃に割いた分だけ包囲網が薄くなっていると判断していたが、それは間違いであった。
玲子は包囲網が突破されない限界を見定め、巧みに攻撃を仕掛けていたのだ。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
621 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 02:15:50 ID:plBXV4F9

(なにかここを抜ける手段を!)

刻々と過ぎていく時間の中、咲世子は必死に可能性を模索し始める。
このまま何もしないでいれば、敗北は必至。
彼女にはまだルルーシュの後を継ぎ、ゼロを継がなければならない。
だから負けられない、死ねない。
だが包囲網を脱出する手段も思い浮かばない。

(……万策尽きましたか)

策がない以上、もう強引に突破する以外に手段はない。
ルルーシュであれば、最後まで脱出の策を組み立てたのだろう。
しかし咲世子には、ルルーシュのような頭脳は無かった。
それでも諦めるわけにはいかないのだ。
ルルーシュはどれだけ窮地に立たされようと決して諦めたりはしない。
ならばルルーシュの後を継ぐ彼女が、刀を納めるわけにはいかないのだ。

(ルルーシュ様、ナナリー様……)

心中で自らの主君の顔を思い浮かべる。
ルルーシュの悲願を達成するため、ナナリーの傍にこれからも居続けるため。
絶対にここで果てるわけにはいかないと、咲世子は決意を新たにする。
そんな時だった。

「……?」

彼女の周辺を蠢く触手が、少しずつ狭まってきているのだ。
その様子は、まるで咲世子に全方位攻撃を仕掛ける準備のよう。
このまま包囲していれば、勝利できるのにも関わらずだ。

(よく分かりませんが……)

聡明な玲子が判断ミスを犯すとも思えない。
彼女の顔を伺うが、張り付いた無表情からは何も思い計ることはできない。
単純に時間制限に気付いていなかったのか、それとも罠を仕掛けているのか。
どちらかは分からないが、好機であることに違いはなかった。

サーベルの柄を固く握り締め、盾を深めに構える。
そうして数秒。
刃のような殺気が、咲世子を呑み込む

(来る!)

刹那、包囲していた刃が一斉に跳びかかった。

「行きます!」

刃の動きを見て、迅速に行動を開始する咲世子。
包囲網を強引に攻撃に流用したため、至る所に綻びが生まれているのだ。
今ならどこからでも突破することができる。
だが玲子は簡単に包囲網を突破させてくれるほど、柔な相手ではない。
幾本もの触手を巧みに操り、咲世子の命を刈り取ろうとする。
あらゆる方向から、高速の刃が咲世子に迫ってきていた。
胴体を狙う刃を、盾で弾き返す。
首筋をへの刃は、サーベルで切り落とす。
受け損ねた刃もあったが、致命に達する傷を負うこともなかった。
そうした駆け引きを何度も繰り返し、ついにあと一歩で包囲網を脱出できるところまで辿り着く。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
622 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:01:30 ID:plBXV4F9

「死ね」

風を切る音と共に、刃が走る。
狙いはスーツが裂け、素肌が露出した首筋部分。
咲世子はサーベルを縦に構え、刃に一閃を加えようとする。

「なっ!?」

だが直前になり、刃は自ら二股に裂けてしまう。
それにより空振りに終わる咲世子の一撃。
そして二つに避けた刃は肉の帯に変化し、サーベルの刀身に絡みついた。

「これさえ奪い取れば、もうお前はカードを使えない」

二つの肉の帯は刀身にしっかりと結びついたまま、恐ろしい膂力でそれを奪い取ろうとしてくる。

(……これが狙いでしたか)

あの包囲攻撃は囮であり、本当の狙いはブランバイザーを奪い取ること。
確かにこれを奪取されれば、咲世子にとっては完全に詰みだ。

「これでおしまいだ、咲世子」

今の状況は絶体絶命。
少なくとも玲子はそう思っているのだろう。
だが咲世子はそう思っていなかった。

「二度も同じ手が通用するとお思いでしたか?」

手早く盾を肉の帯の根元の触手部分に構え、そのまま上に振り上げる。
すると触手は切断され、サーベルを拘束する力が一気に弱まった。

「甘く見ましたね!」

仮面ライダーファムの持つ盾の名は、ウイングシールドと言う。
その名の通り、契約モンスターであるブランウイングの翼を模した盾だ。
そしてブランウイングの翼は、厚さ四十センチの鉄板でさえ切り裂く性能を持つ。
故にその翼を模した盾にも切れ味があるのは、当然の話であった。

「チィッ!」

玲子は急いで刃をけしかけるが、もう遅い。
咲世子はライダーによって強化された脚力で、森林の中へと飛び込んでいた。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
623 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:03:03 ID:plBXV4F9

「ハァ……ハァ……なんとか逃げ切りましたか」

木々の間を駆けながら、咲世子は言葉を漏らす。
全身に切り傷が散見し、呼吸も完全に乱れている。
まさにボロボロの状態であったが、それでも絶体絶命の状況からは脱出したのだ。

(あとはトドメを刺すだけですが……)

ライダーに変身していられるのは、残り一分程度。
咲世子が不利なことには、依然変わりない。
しかし玲子の間合いから離れたため、アドベントカードを使用できるようになったのだ。
が、今はファイナルベントを使うことはできない。
ファムのファイナルベントは、ブランウイングが突風で吹き飛ばした相手をライダーが切り裂くという技である。
その性質故にブランウイングとライダー、そして相手が一直線に並んでいなければならないのだ。
ブランウイングを召喚するのも、この状況下では上策と言えない。
肝心の発動時にブランウイングが妙な場所にいた場合、タイムラグが生じてしまう。
何をしてくるか分からない玲子には、一瞬たりとも隙を与えたくはなかった。

(最後に……最後にあと一欠片が足りない!)

腰のデッキからファイナルベントのカードを抜き取る。
これが最後の命綱である以上、失敗は絶対に許されない。
だから発動するのは、必殺の状況。
確実に玲子の命を刈り取れる場面だ。
だがその状況を作り出すには、何かが足りなかった。

(なにかあれば……ッ! そういえば!)

握り締めたカードを眺め、ふと何かに気付く咲世子。
足りなかった最後の一欠片が、かちりと当て嵌まる。
そんな感覚を彼女は覚えていた。

(行ける、これなら行ける!)

次々と彼女の脳内で策が構築され、そして完成する。
玲子のファイナルベントを命中させる、必殺の策が出来上がったのだ。
咲世子はボロボロになったデイパックの口を開け、中から"ある物"を取り出す。
それは咲世子に残された、最後の支給品。
逆転の秘策は、最初から彼女の手の内にあったのだ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
624 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:03:46 ID:plBXV4F9


(焦り過ぎたか……)

一方で、玲子は物思いに耽る。
その顔は、完全に化け物のそれだ。
もはや人間に擬態することを無意味と判断したのか、それとも顔を構築するほどの肉が足りないのか。
切断された触手が、次々と玲子の元に戻ってくる。
切断された右肩からは、未だに血液が滴り落ちていた。

「今から咲世子を追うのは厳しいものがあるな……ん?」

森の中に逃げた咲世子を追うのは困難。
そう判断した時、木の葉が擦れる音が玲子の耳に届く。
ゆっくりとその方向を振り向くと、そこにあるのは一際大きな大木。
否、枝の上で悠然と佇む白い騎士。。
森の中に逃げたはずの咲世子の姿であった。

(何故戻ってきた?)

寄生生物でも随一といわれる頭脳を駆使して、玲子はそれを推察する。
あの咲世子のことだ、何か必ず目的があるのだろう。
だがその目的を推理するには、時間が足りなかった。
咲世子は左手にカードを構え、今にもサーベルの翼を展開しようとしているのだから。

(しょうがない……)

咲世子の目的は不鮮明だが、カードを使用されことだけは絶対に避けなければならない。
その判断のもと、玲子は頭部から二本の刃を飛ばす。
一本はカードを持つ左腕に、もう一本はサーベルを持つ右腕に。
どちらか一方でも妨害することができれば、カードの認証は制止することができる。
そう思っていた。

「なにっ!?」

だが咲世子の行動は、玲子の思惑を大きく外れていた。
あろうことか、彼女はカードをそのまま投げつけてきたのだ。
玲子はあのカードが単体では役に立たないと踏んでいた。
認証用のサーベルがあって、初めて効力を発揮するものだと思っていたのだ。
しかし今の咲世子の行動は、その推測を根本から覆してきている。
あのカードには、未だに謎が多い。
何をしてくるか分からない以上、何かをする前に叩き切らなければならない。
そう玲子は判断し、攻撃目標をカードへと変更した。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
625 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:04:35 ID:plBXV4F9

(何も起こらない……?)

カードを切り裂くこと自体は、非常に容易かった。
切り裂かれたカードは、何の手応えもなく二つに分かれる。
そしてそのまま強風に煽られ、どこかへと飛んでいってしまった。
――――ハッタリだったのか?
そんな疑念が、玲子の中に渦巻き始める。
その瞬間だった。

「?」

鋭い音と共に、玲子の左肩に何かが突き刺さる。
その正体を確認するために左肩を見た時、彼女は驚愕を隠すことができなかった。

「何が起きている……?」

理解が追いつかず、混乱する玲子。
突き刺さったいたのは、先ほど切り裂いたはずのカードだったのだ。
それだけではない。
周りを見渡すと、いつの間にか景色を埋め尽くすほどに大量のカードが宙を舞っていた。

(このカード……トランプではないか)

間近でカードを眺めることで、ようやく彼女は気付くことができた。
咲世子が投げたのが、アドベントカードではなくただのトランプであったことに。
いや、ただのトランプというのは間違いだ。
これは咲世子のデイパックに入っていた最後の支給品。
"狩人"フリアグネが愛用する宝具の一つ、レギュラーシャープだ。
これは最初は一枚のカードであるが、使用すると瞬く間に増殖して宙を舞う宝具である。
玲子が切り裂いたカードも、増殖したカードの一枚に過ぎない。
咲世子はこれをアドベントカードと誤解させ、攻撃を誘ったのだ。

「まずい!」

混乱から一転、焦燥に包まれる玲子。
百を悠に越す量のカードが、彼女に牙を向けているのだ。
急いで伸びた触手を戻そうとするが間に合わない。
遠くにいる咲世子を狙ったため、触手が限界まで伸び切っていたのである。
つまり今の彼女には、身を守る手段は存在しなかった。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
626 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:05:56 ID:plBXV4F9
「喰らいなさい!」

咲世子の掛け声と共に、大量のカードが一斉に雪崩れ込む。
その威力の前に白衣は引き裂け、皮膚には幾本もの赤い線が引かれる。
そして伸びきった二本の触手にも、容赦なく襲いかかるカード達。
次々と触手の上を通過して、ダメージを蓄積させていく。
上下左右をカードに囲まれているが故、触手は身動きがとれない。
そしてついにはダメージが限界を越え、二本の触手は地面へと落ちた。


「……落ちましたか」

そう呟き、枝の上から地面へと降りる咲世子。
抵抗手段をもがれた玲子を静かに見据え、ブランバイザーの両翼を展開させる。
そして腰のデッキからファイナルベントのカードを取り出し――――装填した。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


大きな水溜りの中から、一羽の白鳥が姿を表す。
これこそが仮面ライダーファムの契約モンスター、ブランウイングだ。
ミラーモンスターにしては小柄であるが、その力は他のモンスター達と比べても遜色ない。
白い翼が一度羽ばたけば突風が吹き荒れ、その鳴き声は天地を鳴動させる。

(これさえ決まれば勝てる……!)

そんな存在を従えた咲世子は、最後の一撃に備え薙刀を構えている。
ファイナルベントは必殺の一撃であるが、使いどころが肝心であった。
阻まれれば隙を見せる形になるし、二発目を撃つことは不可能。
これが唯一の勝ち筋である以上、確実に成功させる必要があった。
だがそれには、変幻自在である玲子の能力は脅威になり得る。
だから無力化しておく必要があったのだが、それには大きな障害があった。
それこそが触手に備わった再生能力だ。
先程の攻防で気付いたのだが、これは厄介な能力である。
いくら切り落としてもすぐに再生するとなると、無力化するのは非常に難しい。
しかし、それでも無効化しておきたい。
そう考えた咲世子は一つの策を編みだした。
それが、限界まで伸ばさせた触手を根元から切り落とすことだ。。
レギュラーシャープをアドベントカードと誤認させれば、玲子は必ず阻止しようとしてくる。
それを利用するために咲世子は距離を取り、限界まで触手を伸ばさせたのだ。
限界まで伸び切っていれば、回収するのにも多少は時間がかかるだろう
その証拠に、落ちた触手は本体に戻っていない。
今の玲子は無防備だ。

「行きます」

腰を低く落とし、薙刀を深く構える。
咲世子が迎撃の姿勢を整えた瞬間、烈風がこの空間を支配した。

「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!」

怒号を上げ、咲世子は飛来する玲子を見据える。
もう打つ手が無いのか、抵抗せずに吹き飛ばされてくる玲子。
華奢なその身体は、もうすぐ薙刀の間合いまで入ってくる。
入ってきたら、その薙刀を振り回せばいい。
そうすれば玲子の生命活動は停止する。
それで勝てるのだ。
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627 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:08:04 ID:plBXV4F9

「咲世子」

その時、不意に懐かしい声が聞こえた気がした。

「え?」

もう絶対に聞けるはずがない声。
時には厳しく冷酷であり、目的のためならば手段を選ばない。
しかし心を許した相手には、秘めたる優しさを見せる。
そんな男の声。

「咲世子」

その男は既に死んだ、死んでいるはずなのだ。
だからもうその声が聞けるはずがない。
そう、咲世子は自らに言い聞かせる。
が、次に視界に飛び込んできたものを見た時、そんな思考は頭の中から消え去っていた。

「ルルーシュ……様?」

真っ黒な髪の毛に紫色の瞳、そして不敵な笑み。
それは咲世子が長年仕えた主人、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの顔。
二度と会えるはずのない相手の顔が、すぐそこにあった。

「咲世子――――」

ルルーシュの顔が、邪悪な形に歪む。

「――――お前の負けだ」

それに気付いた時、咲世子は冷たいものが首筋を通り過ぎる感触を感じていた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ヒュー……ヒュー……」

空気の漏れる音が、弱々しく大気を震わす。
一定の間隔を保ちながら、ヒュー、ヒューと
その音は、まるで口笛の吹けない子供の下手糞な演奏に似ていた。

「…………」

目の前に転がるのは、篠崎咲世子の肉体。
変身は解除され、生身の肉体がそこに投げ出されている。
裂けた首筋からは夥しい量の血液が流れ落ち、彼女はその中で沈んでいた。
瞳からは光が失われ、呼吸は小鳥が囀るよう。
申し訳程度に、指先がピクピクと動いていた。
彼女の命は、もう長くはない。
人体に詳しい玲子でなくとも、そう判断することができるだろう。
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628 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:09:14 ID:plBXV4F9

咲世子が敗北した理由は、大きく分けて二つある。
まず一つ目は、彼女が寄生生物という存在を知らなかったこと。
寄生生物が刃だけでなく、盾などを創り出せることは彼女も知っていた。
それでも全く他人の顔にまで成り済ませるとは、考えが及ばなかったのだ。
それに加えて、彼女は本体から切り離された組織が自律行動をできることも知らなかった。
つまり本体から触手を切り離しても、まだ抵抗力が残っていることに彼女は気付いてなかったのだ。
ルルーシュの顔に成り済ますことで動揺を誘い、切り離された触手で頚動脈を切断。
スーツの裂け目を狙ったため、それは致命傷になり得た。
そして二つ目は、咲世子の忠義心があまりにも高すぎたことだ。
ルルーシュは死んだ、ここにいるはずがない。
頭でそう理解していても、彼女は手を出せなかったのである。

「…………」

有利な状況下にいた彼女が、わざわざ包囲網を解いた理由。
それはブランバイザーを奪い取るためではない。
咲世子がそうだったように、玲子自身にも残された時間が多くなかったからである。
咲世子は最後まで誤解していたが、寄生生物もれっきとした生物だ。
痛覚が他の生物に比べて鈍いだけで、体内の血液が大量に失われれば死に至ることもある。
故に右腕の切断は、相当の痛手であった。
あの包囲網を敷いていれば、負けることはないが勝つこともない。
だから玲子はあそこで勝負せざるを得なかったのである。
そもそも腕を切断される原因となった奇襲も、回避できたのは偶然に近い。
寄生生物の殺意に敏感という特性をもってしても、寸前まで咲世子の存在に気付くことができなかったのだ。
一歩間違えれば、あの時点で決着が着いていただろう。

(本当に危なかった)

純粋な人間で寄生生物をあそこまで追い詰めたのは、咲世子が初めてである。
だからこそ許せなかった。
あれだけの能力を持った咲世子との決着が、あまりにも呆気ないものだったことが。
最後に彼女が用いた戦術、あれは見事だったと言ってもいい。
あのまま最後の一撃が決まっていれば、確実に玲子は死亡していただろう。
だが最後の一撃は決まらなかった。
あんな悪あがきにも近い行動が、事実上の決定打となったのだ。
玲子は、あれで動揺して手元が狂えばいい程度に考えていた。
だが咲世子は手元を狂わすどころか、薙刀を振るうことさえしなかったのである。
あれだけの実力者であった咲世子が、あの程度の行動で無防備な姿を晒したのだ。

「咲世子」

抑揚のない声で、玲子は目の前に転がる女の名前を呼ぶ。

「何故、あそこで攻撃をしなかったのかしら?」

最後に残った疑問を解消するため、咲世子に問いかける。
だが返事は返ってこなかった。
当たり前だ。
呼吸も満足にできないのに、言葉を発することなどできるわけがない。

(所詮、咲世子も痛がり屋の一人だったか)

寄生生物を圧倒するほどの戦士も、結局は一人の人間に過ぎない。
落胆に近い形で、玲子はこの事実を痛感した。
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629 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:09:57 ID:plBXV4F9

「ぐっ……ッ!」

唐突に全身の力が抜け、意識が朦朧とし始める。
これは人間で言うところの、貧血の症状に近い。

(これ以上血を失うとさすがにまずいな)

右肩の傷口を見ながら、玲子は思案する。
出血は思ったよりも激しい、即急な手当てが必要。
そう考えるのが普通なのだろう。
しかし彼女は、別のことを考えていた。
彼女が考えているのは、今の自分の状態だ。
右腕を失い、更に血で真っ赤に染まった白衣。
そんな人間に相対したら、誰であろうと怪訝な目を向けてくる
観察をスタンスとする以上、不用意に疑われるのは避けたい。
今後の活動に支障を来さないよう、処置をする必要がある。
幸いにも寄生生物には、それを可能とする方法が一つだけあった。

「咲世子、お前は痛がり屋にしては素晴らしい力を持っていた」

彼女自身がそれをしたことはないが、成功例はいくつか耳にしている。
時間が経過すれば、出来なくなってしまう。
やるなら、今すぐだ。

「だが負けは負けだ」

ぐにゃりと玲子の頭が歪む。

「動物の世界では、勝者は敗者を自由にできるらしいな」

隻腕の肉体から、頭が分離する。

「だから私は、お前の肉体を貰う」

そして分離した頭は、咲世子の肉体へと飛びかかった。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「ふぅ……」

首の切断、新たな結合、そして蘇生。
それらを瞬時に行うことで、新たな肉体に乗り移ることができる。
若干の不安はあったが、どうやら成功したようだ。
対峙したのが、同性の咲世子であったのは幸運だった。
異性では拒絶反応を起こして、身体の操縦がまともにできないと聞く。

「田宮良子の肉体よりも、身体能力は優れているな」

咲世子の肉体は、人間にしては破格の身体能力を持っている。
田宮良子の肉体とは、比較にならないほどだ。
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630 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:10:46 ID:plBXV4F9

(この女、くノ一だったのか)

肉体を奪ったことで、咲世子の情報が次々と頭の中に入り込んできている。
荒唐無稽な存在だと思っていたが、くノ一というのはどうやら実在するらしい。
くノ一ならば、超人的な身体能力も頷けるだろう。
だが先の連戦での疲労や傷が、大きな妨げとなっている。
少なくとも頸動脈から流れ出た血は、すぐさま補給する必要があった。

(田宮良子の肉体から補給すればいい、腹も減った)

もう田宮良子の肉体は用済みだ。
咲世子の頭部と含めて、まとめて食料にしてしまえば問題ない。
だが食事よりも先に、解決してしまいたい疑問があった。

(何故、咲世子は最後に攻撃しなかった?)

確かにあの時の顔や声はルルーシュの物だった。
だが服装はまるで違っていたし、そもそもルルーシュの死は放送で確認している。
あの放送を偽りだと考えるほど、咲世子は愚かではない。
ルルーシュの後を継ぐと宣言していた以上、咲世子は彼の死を認識していたはずだ。

(やはり人間のことは分からない)

玲子は人間の研究をしているが、未だに人間には謎が多い。
こうした不合理な行動も、何となくでしか理解できないのだ。

(これが人間たちが言う絆なのか?)

人間たちの間には家族や恋人など、多くの絆がある。
咲世子の抱いていた忠義心も、一種の絆なのだろう。
先ほど彼女のことを痛がり屋と評価したが、果たしてどこが痛かったのか。
彼女は寄生生物にも恐れず、勇敢に立ち向かってきた。
少なくとも肉体的な痛みではないだろう。
ならば、どこが。

「心か」

おそらく咲世子はルルーシュが死んで、心が痛かったのだろう。
その事を、概念的には理解することができる。
だが本心では理解することができなかった。
寄生生物は群れを作るが、仲間の死を悲しむことはない。
誰かが欠けても、「ああそうか」くらいにしか思わないのだ。

(いずれ分かる時が来るだろうか)

疑問の答えを知っている咲世子は、もうこの世にはいない。
それでも疑問があるのなら、答えを探すだけだ。
ここには多くの悲しみが溢れているに違いない。
人間の観察を続けていれば、いつかはその答えにも辿り着くだろう。

「そのためにも今は食事か」

そろそろ限界だと、身体が訴えている。
一刻も早く血液を補給し、空腹を満たす必要があった。

「この肉体、大切に使わせてもらおう」

田村玲子は新たな疑問を胸に抱えながら、食事を開始した。
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
631 :仮面ライダー vs 寄生生物 ◇ew5bR2RQj.代理[sage]:2010/12/06(月) 03:14:00 ID:plBXV4F9

【一日目朝/B−3 北西】
【田村玲子@寄生獣】
[装備]篠崎咲世子の肉体
[支給品]支給品一式×2、しんせい(煙草)@ルパン三世、手錠@相棒、不明支給品(0〜2)
[状態]ダメージ(大)、疲労(大)、貧血、空腹
[思考・行動]
0:人間を、バトルロワイアルを観察する。
1:食事をする。
2:新たな疑問の答えを探す。
3:茶髪の男(真司)を実際に観察してみたい。
4:泉新一を危険視。
5:腹が減れば食事をする。
※咲世子の肉体を奪ったことで、彼女が握っていた知識と情報を得ました。
※赤髪の少女(シャナ)、茶髪の男(真司)を危険人物だと思っています。
※咲世子のデイパック@支給品一式、双眼鏡@現実、と、ファムのデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)が近辺に放置されています。
※レギュラーシャープは、風に煽られてどこかへ飛んでいきました。


【篠崎咲世子@コードギアス 反逆のルルーシュ 死亡】

【レギュラーシャープ@灼眼のシャナ】
“狩人”フリアグネの持っていたカード型宝具。
最初は一枚のトランプ(スペードのA)だが、無数に増えて自由自在に宙を飛び、
カードの雪崩で敵を切り裂く戦闘型宝具。
と、見せかけて、実はただ単に占いに使うための『自動的に切られるカード』らしい。


448 : ◆ew5bR2RQj.:2010/12/06(月) 02:06:53 ID:l2B4lygg0
以上です。
誤字脱字等がありましたら、ご指摘お願いします。

あとwikiの管理人なのですが、
@wikiは管理人を複数雇えたはずなので、そうしてみてはどうでしょうか?



さるさんが怖いので一レスにまとめてしまいましたが、以上で代理投下を終了します。

改めて投下乙でした!
…感想とWikiに関しては目が覚めてる時間に改めて書きます…!
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
632 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/06(月) 19:47:19 ID:plBXV4F9
投下乙!
支給品を駆使する咲世子とトリッキーな動きをする玲子の一進一退の攻防がすごかった
あと一歩届かなかったが咲世子も善戦したな
「随分余裕〜」「いやギリギリ〜」あたりの会話の応酬を見てると、この二人って意外と相性良かったんじゃね?と思わなくもない
それまで寄生してた肉体をあっさり食えるってところもパラサイトらしさが出てていいなぁ
しかしか弱いはずのパラサイトが咲世子の身体手にいれたら、それもうか弱くないだろww
咲世子が残念だったが、玲子の方はこれからも活躍が期待できるな

Wikiに関して
ざっと調べてみたんですが、管理人を複数雇うという点に関しては分からず…
どなたか詳しい人がいたらkwsk…!
多ジャンルバトルロワイアル Part.7
633 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/12/06(月) 22:21:38 ID:plBXV4F9
あと気になった点なのですが、この場合咲世子の首にあった首輪はどうなるんでしょうか


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