- 【気軽に】お題創作総合スレ【気楽に】
138 :イッヒムスシュターベン ◆/6V.PHILIA [sage]:2010/12/06(月) 00:05:11 ID:FCI9PfQS - 「とうとうこの時が来たか……」
救世獣(くせもの)シュヴァルツペルツ(Schwaltzpelz:黒き毛並み)が呟いた。 「そうね……」 傍らにひざまずく白の魔道士ヴァイスシュティーレ(Weisstille:白き静謐)が嘆息する。 「ここへ辿り着く迄にどれ程の獣(もの)が犠牲になったか……」 そう零すのは朱の戦士ガルシュティヒアウト(Garstighaut:血で汚れた肌)だ。 「すべてはこの先に住まう者共を滅さんが為……」 賢者ヒュープリートリヒト(Hybridlicht:混淆せし光)が苦々しく吐く。 彼らの目下には街が広がっている。 「しかし敵は多いな……」 ガルシュティヒが不安げに云う。 血が染みたような彼の赤い毛が風になびく。 「固(もと)よりわかっていたこと。怖じたなら退きなさい」 リヒトが目を光らせて冷笑する。 彼女は下賤の証である斑の毛を持ちながら、 夜ならずとも輝く異様な瞳のせいで虐げられてきた。 そのせいで皮肉屋だが、 ガルシュティヒも附き合いが長く彼女を理解していたので、 肩をすくめる程度に留めた。 ガルシュティヒは敵の血を浴びたため真っ赤になったと揶揄されるほど、 戦士として、また戦場の死神として名を馳せた獣だった。 巷では恐れられる彼を、リヒトは笑みを浮かべたまま肉球で小突いた。 「……」 シュヴァルツは黙している。ただ街を睥睨しているようでいて、 その向こうにあるものを見通そうとしているふうにも見える。 シュティーレは彼の肩に頭を乗せた。 「無茶なことは考えないで。生きて帰りましょう」 シュヴァルツは彼女の瞳を見返したが、なにも云わなかった。 シュヴァルツの生まれ故郷もシュティーレの親兄弟も、この街に住まう仇敵の手にかかった。 その怨恨を忘れたことは、この旅中ひとたびとしてなかった。 「そうだ! 誰一人欠けることは許されない!」 ガルシュティヒが犬歯を剥き出しに叫ぶ。 「傷ついたって大丈夫。いつものように癒してあげる……」 リヒトがサディスティックな嬌笑を浮かべる。 いつもなら彼女のミュンヒハウゼン症候群のような歪んだ趣味に 附き合ってられないと笑い飛ばす彼らも、緊張に言葉をなくしている。 リヒトも笑顔が強ばっている。 「最終目標は敵の殲滅!」 シュティーレが声を張り上げる。 シュヴァルツは目を閉じた。 3匹の視線がシュヴァルツに集まる。 静かにゆっくりと息を吸い、 シュヴァルツが始まりの合図を吠えた。 「行くぞ!!」 彼らは気づいていた。無謀な戦だと。 だが彼らの住処を奪ったのは奴らだ。 彼女らの愛する獣を奪ったのも奴らだ。 戦いに疲弊しようとも皮膚が裂けようとも、彼ら猫たちは進む。 人を滅ぼすまで――
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