- 【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
378 :リリィ編 ◆zKOIEX229E [sage]:2010/11/29(月) 01:16:53 ID:xzHzg14t - 「それじゃ、行ってくる」
装備を最終確認した後、俺はアジトの出口の前でリンドウに言った。 「うん。気をつけて」 相変わらず心配そうに俺に視線を向けるリンドウに、俺は告げる。 「大丈夫だって。すぐに戻ってくるよ」 鈍重そうな扉が開いていく。話を聞けば、何百人もの生きた能力者の残骸を利用して創られたこの扉は、あらゆる攻撃を無力化するらしい。 開ききった扉の先には闇。底なしの闇が俺を飲み込もうと待ちかまえていた。 「……一つだけ言わせて」 「なんだ?」 振り返り、リンドウをみる。底なしの闇が、リンドウの瞳にも映っていた。 「“エデン”は絶対に殺さなきゃダメ。いままでのように殺さずに帰ってきては絶対にダメ」 「……絶対にか?」 「ヨシユキ。彼はどうあっても必ず死ななくてはならないの」 強く主張するリンドウに俺は戸惑った。 今までの任務で俺が人を殺したことはない。 ギリギリ生きていられるほどの重傷を与えたくらいだ。 「殺害が目的なら、ルローかフールに頼めば良かったんじゃないのか?」 そういう俺に対し、リンドウは首を横に振る。 「今回はあなたが適任なのよ、ヨシユキ。ホーローとしてのあなたが」 扉が警告音を出し始めた。長く開きすぎていたらしく、勝手にゆっくりと閉まり始めた。 リンドウの答えに漠然とした疑問を持ちながらも、俺はアジトの外へと出る。 閉まりかけた扉の向こうに、リンドウの顔が見えた。 「いい?ヨシユキ。絶対に殺して。これはあなたの問題でもあるのだから」 俺が問いを返そうと口を開くも、その問いは口に出す暇もなく、結局扉は閉じた。 「……考えても仕方ない。行くか」 俺は壁に備え付けられた懐中電灯を点け、地上を目指して歩き始めた。 「……覗き見とは最低な趣味よ、フール」 「いやぁ、気づかれていましたか」 どこからか現れた糸目の男が、半月の笑いを浮かべてリンドウに近づく。 「まったく……あなたのせいで言いたいことも言えなかったじゃない」 「それはそれは、すみませんねぇ」 おどけたようにジェントルマンが貴婦人にお辞儀をするようにフールは頭を下げる。 「この、道化師」 「それはまったく。最高の褒め言葉ですよ」 にやにや笑うフールの表情からは何も読み取れない。 「それにしても……どうして貴方はホーローを一人で行かせたんです?彼一人では勝ち目は薄い」 「それが最善手だからよ。ナタネの出した運命レポートではね」 「ふぅん。そうですかぁ……。運命レポートを信じすぎるのもどうかと思いますけどね」 そういいつつフールは頑丈な扉のロックを開ける。 「何処へ?」 「あなたに言う必要あります?」 問いに問いで返すフール。 しかしリンドウの冷たい視線に気づいたのか、言葉を継ぎ足す。 「やだなぁ。何にもしませんよ。ただの散歩ですよ。さ ん ぽ」 「本当に?」 「ええ。例の小国を潰す任務が終わって暇なんですから。ちょっと夜風に当たりに、ね」 そういってフールは扉の向こうへと消えた。 「……勘ぐってもしょうがないわね。私はさっさと新薬を完成させるのを急ぎましょう」 決意のような独り言を残して、リンドウはアジトの実験室へと戻っていった。
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