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234 :DaZinサブPC[sage]:2010/11/11(木) 01:01:18 ID:gFIOkVEt - では、予告通り投下して行きたいと思います。
廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16。サブと本使うんで支援は大丈夫です。
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235 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 1/10[sage]:2010/11/11(木) 01:02:37 ID:gFIOkVEt - 「……ナハト、ごめん。もう一回言ってくれる?」
「……言ったとおりだ。リーゼンゲシュレヒト・ヴァイス並びにシュヴァルツは、揺藍にて任務活動中に戦死した。死因はおそらく刺殺。遺体は回収不可能だった。以上だ」 とある会議室のような一室に立つ黒髪の青年と茶髪の女性。そして、茶髪の女性の方が凄まじい勢いで黒髪の男……ナハトにつかみかかった。 「なんで、なんであの子たちに任務を与えたッ!!!」 憤怒のような表情でナハトを睨みつける。つかみかかる手には相当な力が込められているはずだが、ナハトは冷徹な表情を崩すことはなかった。 「彼女たちが自ら望んだのだ。お前に言われていたのは俺たちが任務を与えないこと。自ら望んだ場合に対しては止められていない」 「あの子たちが、自らっ……・」 そのまま地面にひざまずく女性。握られる拳はやり場のない怒りが込められて、指の間から血が垂れてきている。 手に感じる僅かな痛み。だが、この僅かでもの痛みがないと自分自身を抑えられる自信が彼女にはなかった。 「殺ったのはリーゼンゲシュレヒト・シュタムファータァ。俺がかけつけたときにはもう奴等には逃げられていた。残っていたのは、存在が消えかけていた彼女たちの姿だった」 「っ……!くっ……そっ……!」 失意の眼に灯る怒りの火。先ほどまでやり場のなかった凄まじい怒りに、その怒りをぶつけるべき対象が現れた。 「ナハト、次の揺藍担当……まだ決まってなかったわよね」 「ああ、つい昨日のことだからな。まだ後任は決まっていないが」 「……もう奴等に好き勝手はさせない。私自身が、揺藍に討って出るわ」 立ち上がり、ナハトの眼を真っ正面から射抜く。その迫力は、女性でありながら並の人間なら思わずたじろいでしまうほどだろう。だが、ナハトは表情一つ変わらず答えた。 「ヴィオツィーレン。お前ほどのリーゼンゲシュレヒトが出るほどか」 「私だからよ。私なら、イェーガーのように負けることなんて有り得ないでしょ。目の前の障害はどんな小物でも全力で消すべきだと思うわ」 「……まぁ、いいだろう。書類の方は俺が用意しておく。好きにしろ」 ナハトのその言葉を聞くと共に即座に身を翻し、ヴィオツィーレンは会議室を足取り荒く出ていった。ナハト一人、広い会議室に残される。 「いくら強力な力を持っていても、感情に一々流されるようでは……な。こっちとしては、扱いやすくて助かるが」 今まで無表情だったナハトの顔に僅かな変化が出る。目を細め、元々厳しめな表情がさらに深まる。 「……茶番だな」 そう一言呟くと、ナハトは黒い外套を翻し会議室を出ていった。
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236 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 2/10[sage]:2010/11/11(木) 01:04:03 ID:gFIOkVEt - 「ヤスっちヤスっち!ついに来週だよ!来週ですよ!」
「……そうだな」 「なんだ、テンション低いなぁ安田。高校生活最高のイベントだってんだから、もうちっとテンション上げてこうぜ!」 昼休み。いつも通りオレこと安田俊明、さっきからやかましい千尋と松尾。そして一人マイペースに流している椎名の4人で飯を食っている。 「オレだって楽しみだっての。毎日毎日昼になったらその話題ばっかじゃねぇか。いい加減飽きるわ」 2週間前から千尋と松尾はいちいちオレに「修学旅行楽しみだね」と絡んでくる。最初の方こそオレも軽やかに返していたが、こうも続くとさすがに飽きてくる。 「こんな楽しいイベントなんだ、毎日言っても飽きないだろ。なぁ芭蕉さん」 「芭蕉言うな守屋。俺は彼ほど優秀な人間じゃあないぜ」 「アホだ……」 あれから……ヴァイスたちの一件からもう2週間が経過した。あの後仲間になってくれると言ってくれた彼女たちをエーヴィヒカイトのところまで案内し、紹介した。 予想通り彼は快く歓迎してくれた。書類上の手続きはまだできないが、それでもオレたちは正真正銘の仲間を作ることができた。 そして何の出来事もなく2週間の日が過ぎた。どうやら、努力の甲斐あってか何の心労もなく修学旅行に行くことができそうだ。とても喜ばしい。 「てこでヤスっち、今週の日曜日一緒に付き合ってよ!色々買い物にでも行こうじゃないのさ」 「ああ、別に構わないぜ。椎名、松尾。お前等も来るだろ?」 オレがそう言うと予想に外れて椎名と松尾は首を横に振った。椎名はどうとして、松尾が無理だなんてまた珍しい。 「すまない、俺はその日人と会う約束があるんだ」 「およ、椎名さんはデートかなー?」 「そんなところだ」 エーヴィヒカイトと会うのか? 最近椎名は彼のところにちょくちょく足を運んでいるらしい。オレもシュタムファータァから聞いただけなのであまり詳しくは知らないのだが。詮索するつもりもない。 エーヴィヒカイトも生真面目っぽいし、似た者同士話が合うのだろう。そんな気がする。 「松尾は?」 「車のメンテと掃除だよ。親とかにも話通しちまったから今更パスするわけにはいかないしなぁ。もう少し早く誘ってくれりゃ別の日に回したんだが」 「そっかー。そんなら仕方ないねー……」 松尾の車には前回すごい世話になったので文句を言えるはずもない。どうやら諦めるしかなさそうだ。 「仕方ねぇ。じゃ、オレら二人で行くか」
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237 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 4/10[sage]:2010/11/11(木) 01:05:45 ID:gFIOkVEt -
「……ヤスっちと二人でどっか行くのって、結構久しぶりだよね」 「あー……そうかもな」 高校に入学したばっかりの頃は割と多かったかもしれなかったが、椎名や松尾と知り合ってからは千尋と二人だけってのはほとんどなかった。大体二人のどっちかが一緒だった。 椎名と松尾は結構一緒にいることが多いが、意外と二人揃って用事が入ることは稀だった、と今更になって気づいた。それほど少なかったということだろう。 「買い物くらいだったら俺らいなくても平気だろ。二人で楽しんでこいよ」 「言われるまでもなくそーするわ」 松尾の言葉に答え、その話題はこれっきりになった。特に引っ張り続ける話題でもなかったのだから当然だ。 そのまま放課後になると、オレは千尋たちを待たずに一人でそそくさと学校を出る。今日は帰りに少し用事があったからだ。 自転車で道路を進んでいく。向かう先は、この間行った神守邸の離れである。 そう時間も経たずに到着し、今回は馬鹿でかい家の豪華な正門からではなく、裏口に回る。 本宅ではなく、離れに向かうなら裏口からの方が圧倒的に早いと言われたのだ。塀に自転車を停め、裏口の方にあるインターホンを押す。 すると5分も待たずに扉が自動で開く。……なんつーシステムだ。金かかってるなぁ。 案の定オレが通り過ぎると自動的に閉まり、鍵がかかった。 「……一々突っ込んでると身が持たないな」 そうしてオレはすぐ近くに建っている離れまで歩き、玄関へと続く扉を開ける。こちらは鍵はかかっていなかった。 話は通してあるので、そのまま廊下を歩いていき、一つの部屋の前で止まり、襖を開けて中へとはいる。 「来たぜ、エーヴィヒカイト」 部屋の中には布団の上で上体だけ起こしたエーヴィヒカイトと、その近くで足を崩して座るヴァイスとシュヴァルツの姿があった。 そう。オレは今回、エーヴィヒカイトと話があってここを訪れたのだった。 「すまないな。学業で忙しいだろうに、わざわざ時間を割いてくれてありがとう」 「学生の本分は全く果たしてないから気にするな。それで、話ってのはなんだ」 「君は来週に修学旅行があるんだろう?その際のことについて話しておこうと思ってな」 予想通りの内容だった。オレ自体を呼び出す必要性のあることで、考えられるのがそれくらいしかなかったというのもあるが。 「……悪いが、オレは修学旅行には絶対行かせてもらうぜ」 オレがそう言うと、エーヴィヒカイトは真剣な顔でこちらを真っ直ぐに見据え、口を開いた。 「当たり前だ。我々の事情で君の日常を阻害するなど、あってはならないんだ。今更何を、と思うだろうし、こんなことを言える立場ではないのは理解しているが……な」 「別に、オレの命と街がかかってるんだ。アンタが気にすることじゃない」 むしろ自分から首を突っ込んだことだ。誰かのせいにするつもりもないし、誰かに謝罪されるようなことでもない。
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239 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 4/10[sage]:2010/11/11(木) 01:07:20 ID:gFIOkVEt - 「そう言ってもらえると助かる。……それで本題だ。単刀直入に言うと、修学旅行中、君に護衛をつけたいと思うんだ」
「護衛?」 「そうだ。君を殺しこそしないだろうが、誘拐くらいはしてくる可能性は考えられなくもない。そのために、旅行中に護衛という存在は必須と考えた」 言われてみれば、もう既にシュタムファータァがいない状態で2度も襲われてるのだ、オレは。修学旅行という揺藍から離れる絶好の機会に、奴等がオレを襲う可能性はたしかに考えられなくもなかった。 「……たしかにな。で、なんだ。シュタムファータァを護衛にするのか?」 "認識疎外"があるから付いていくことは容易だろう。千尋や松尾にさえバレなければいいのだから。だが、エーヴィヒカイトの返事はそれを否定するものだった。 「いや、違う。彼女がここを離れるわけにはいかないんだ。君の護衛につかせると、万が一に揺藍を襲われた場合、対処する存在がいなくなる」 なるほど。エーヴィヒカイトが戦えない以上、ここを守れるの戦力はシュタムファータァだけ。 つまり、オレの護衛役を勤めるリーゼンゲシュレヒトは……。 「だから、君の護衛にはヴァイスにやってもらおうと思う。彼女は"ラングオーア"であるし、その優れた探知能力は警戒に向いている。ましてや彼女は狙撃手だ。君の行動を妨げず、遠くから護衛するのは適任と言えるだろう」 先ほどから一度も口を開いていないヴァイスとシュヴァルツに目を向ける。ヴァイスは無表情、シュヴァルツは不満気な表情を浮かべていた。 「……つまり、ヴァイスが遠くからオレを護衛してるから、オレは普通に修学旅行を楽しんでればいいってことか?」 「そういうことだ。万が一敵に襲われた場合を考えて、君とヴァイスは契約しておいてくれ。ちなみに、椎名とはもう済ませてある。」 契約……互いにセカイのパスを繋いで、念話と搭乗ができるようにすること、だったか。 リーゼ同士だったら念話は普通にできるらしいのだが、ただの人間とできるようにするには契約が必須らしい。 「では、行きますよ」 ヴァイスがこちらへと歩いて来て、オレの胸に小さな手のひらを当てる。そして、その手が白い光に包まれる。 「果てなく広がる雪原の下で、我ら誓いを立てん。我が名を唱えよ、我が名は"純白の雪華"」 前に一度経験した、言いようのない違和感が電流のようにオレの体に伝わる。先ほどまで感じれなかった、ヴァイスのセカイを淡く感じることができるようになった。 「エーヴィヒカイト、なんでアタシは付いていっちゃダメなのさ」 シュヴァルツが不機嫌な表情で問いかける。ヴァイス一人で護衛に付かせるのが心配で、不満なのだろう。 「ヴァイスもそうだが、君も先日の傷は全然癒えていない。ヴァイスは1、2発の狙撃と逃走が可能なくらい回復しているが、君は狙撃できないだろう。接近戦が出来るだけのセカイも、まだ回復していまい」 「そりゃ、そうだけどさ」 「それにこれ以上揺藍に存在するリーゼを割きたくはない。万が一、ここに何かあった場合、戦うのはシュタムファータァだが、一般人を避難させるのは君の役目なんだぞ」 エーヴィヒカイトの言葉に言い返すことはできず、そのままふてくされたようにシュヴァルツはそっぽを向いた。
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240 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 5/10[sage]:2010/11/11(木) 01:08:52 ID:gFIOkVEt -
「エーヴィヒカイトは、後どれくらいで戦線復帰できそうなんだ?」 「あと1ヶ月と言ったところか。それまで、何も起きないでくれると助かるんだがな……」 1ヶ月……。短いようで、その期間は長い。 あと、あとそれだけ耐えればこの状況は変わるのだ。今はそれを信じて行動していくいかないだろう。そう思った。 「話はそれだけだ。何か、質問はあるか?」 一つ、聞きたいことがあったので聞いてみることにする。 「万が一、敵と遭遇したらどうすればいい」 「そのときは逃げ延びることだけを考えて行動してくれ。ヴァイスも、そのように頼む」 「ああ、わかった」 それで、今日の話は終わった。特に世間話をすることもなく、そのままオレは神守宅を後にしたのだった。 その後は特に何も目立ったことは起きず、流れるように平和な日常は過ぎていき、あっと言う間に日曜日となった。 この間の一件ではやたら一日が長く感じたのに、こういう日常の時間はやたら短く感じてしまった。 日曜日の朝。いつもの制服とは違う、私服をクローゼットから取り出し着替える。千尋相手にそんな着飾る必要もないだろう。特に考えて服を選んだりはしなかった。 朝の11時に千尋の家……守屋神社の鳥居の前で待ち合わせ。こういうときに家が隣りだと楽でいい。あんまり待ち合わせという気分が味わえないという点はあるにしろ、とても気軽に待てる。 「……今日も暑いよなぁ」 時刻は58分。千尋はまだ来ない。大人しく鳥居に腰掛け、空を見上げながら千尋が来るのを待つ。天気は雲一つないお出かけ日和といった空。初夏の日差しが肌に容赦なく降り注ぐ。 「やっほーヤスっち。待った?」 長い栗色の髪を揺らしながら、桃色のワンピースという私服に身を包んだ千尋が現れる。この気温にはぴったりの、涼しげな格好だった。 「待ったってほどじゃねぇ。ってーか、お前にしては随分女の子らしい服装だな」 てっきりTシャツにホットパンツとかその辺だと思っていた。どちらかと言うと千尋はボーイッシュな服装を好む傾向にあるから、今日の服装は少し意外だった。 「うん?似合わない?変かな」 「いや、そういう意味じゃねぇよ。意外だったってだけだ」 身内補正抜きにしても千尋の容姿は客観的に見て可愛い部類に入るし、こういった女の子の服装もとても似合っている。勿論、調子に乗るので口には出さないが。 「そ。まぁ今日は自転車に乗るわけじゃないからこれでいいかなーってね」 「暑いしな。……んじゃ、行きますか。ここで話してんのはキツい」 「ほいほーい。了解了解」
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241 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 6/10[sage]:2010/11/11(木) 01:11:50 ID:gFIOkVEt - 千尋と二人でバスに乗り込み、数十分ほどでショッピングモールのある繁華街まで到着する。バスの中は意外にもそれほど人がいなかったため、空調が行き届いた車内で快適に目的地までたどり着くことができた。
「ふぃーっ、やっぱ休日のこの辺は人が多いねぇ」 千尋がそう言うのも無理はない。歩くのに支障が出るほどではないが、人の数は普段の揺藍のイメージからかけ離れているほど多い。揺藍の中の大半の人間がここにいるのではないかと錯覚してしまうほどだ。 「日曜日だしな。揺藍の中で遊べる場所って言ったらここくらいしかねーし、人が集まるのも当然だろ」 「ここらはまんま都会だしねぇ。本島に行ったときと大して変わらないよね、ホント」 ここが都心レベルで発展してるおかげで揺藍の島民は都心の流行に遅れることはないし、オレたちも最新のゲームや物、服を問題なく手に入れることができる。本島から離れた島だからといって、不便ということは一切なかった。 「んじゃ、行くか。最初は何買いに行くよ?」 「んー……雑貨見よ、雑貨。その後服買ってー、時間見てお昼食べる感じでどうよっ」 「ああ、いいぜ」 特に問題はなかった。実際、オレにそこまで買う物はない。こういった買い物は女の子の方が圧倒的に多いだろう。ならば、千尋に合わせるさ。 シヨッピングモールの中に入り、千尋と適当な雑貨屋を渡り歩いていく。ほとんどウィンドゥショッピングに近く、実際そこまで雑貨を買うことはなく、見て回るのを素直に楽しんでいた。 ……それでも、やはりオレと比べて千尋の方が買った物 の数の方が多かったが。 「なぁ千尋。それ、マジで修学旅行で使う物なのか……?」 千尋の買い物袋を指で指して言う。どう考えても修学旅行にいらない物が入っている。 レジャーシートとかはまだわかる。でも、その豚の貯金箱はいらんだろ。つーか、私生活でも今時貯金箱なんていらねぇよ。なに考えてんだこいつ。 「うーん?修学旅行用だけじゃなくて、衝動買いしちゃった普段用の物もあるよ?」 「……豚は?」 「あれはもちろん衝動買い」 ……さいですか。まぁ、今さら千尋のセンスに突っ込んでも意味はないか……。こいつは昔から時たま意味のわからん物を買ってしまう癖がある。気にしたら負けだ。 「ヤスっちこそあまり買ってないね。普通の物ばっか」 「お前みたいにバイトしてないしな。つーか、してても普通の物以外買わんわ」 「ヤスっちもなんかバイトすればいいのに」 そう、千尋はこれでもちゃんとバイトしている。ファミレスのバイトをしてもう1年経っただろうか。よく続いてるもんだ。 それで稼いだ金を小遣い、携帯代、昼飯代等に費やしている。そこら辺は普段の千尋から想像できないくらい、しっかりしているのだ。 ちなみにオレは時々日雇いのバイトを入れるだけで、定期的なバイトはしたことがない。……千尋と比べると、色々と情けないが。
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243 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 7/10[sage]:2010/11/11(木) 01:13:19 ID:gFIOkVEt - 「ま、考えとく。どうする、結構いい時間だが、飯食うか服買いに行くか」
「うむ、腹が減っては戦はできぬ」 「了解。どこ食いに行くよ?」 ここら辺なら大抵の物は食える。多すぎて逆に迷ってしまうほどの店舗が揃っているくらいだ。 「がっつり食べるって気分でもないから、てきとーにそこのファミレスとかでいいんじゃない?ヤスっちはなんか希望ある?」 「いや、オレもそれで構わねぇ」 すぐ傍にあったファミレスに入る。日曜日の昼時ともあって人は結構いたが、家族連れが多かったため、2人席は空いていた。 荷物を床に下ろし、適当に注文を入れる。 「ヤスっち、一つ聞きたいことがあるんだよね」 「うん?なんだよ」 千尋がこういう風に前置きをするときは決まって真面目な話のときだけだ。いつもの調子なら単刀直入に聞いてくるヤツだし。 「あのさ、ヤスっち。答えたくないならいいんだけど……最近、紫蘇ちゃんと一緒にいること、多いよね」 「……そうだな」 「別に、ただ仲良くなってたり、いい雰囲気だなー、とかだったら私も何も言わないし、応援しようと思うんだけど、そうは見えなかったから」 いつか聞かれることだとは、覚悟してた。あれだけシュタムファータァと行動していて、一緒に住んでるはずの千尋が何も思わないわけがない。 これでも千尋は感が良い方だ。オレとシュタムファータァが一緒にいる理由が遊びとか、恋愛等の付き合いじゃないことに気づくのにそこまで時間はかからなかっただろう。 「あ、何をしてたのか、とかそういうのを聞くつもりじゃないから。一つだけ、聞きたいっていうか、言いたいことがあって」 普段から遠慮しない千尋がオレ相手にここまでしどろもどろに話すのだ。きっと今まで何度も考えてきたのだろう。 「ヤスっち。お願いだから、ここからいなくなることだけは……しないで」 「なんで、そんなこと思ったんだ?」 「わかんないけど、ヤスっちがいなくなりそうな感覚がしたことが最近あったから。少し、怖かった」 ……まさか、こいつ。リーゼンゲシュレヒトと同じようにオレのセカイを感じ取れるとかじゃないだろうな? とか一瞬思ったが、すぐその考えを脳裏から消し去る。千尋がそんな存在じゃないってことくらい、幼い頃から接してきたオレにはよくわかっている。 「別に死にゃしねぇし、こっから離れる気もない。だから、安心しろ……千尋」 「その言葉、信じるから」 千尋に余計な心配はかけさせたくないんだ。幼なじみにこんな顔をさせているだけでも心が痛むというのに。 こいつには、いつもバカみたいに明るくいてほしい。そのためだったら、なんだってする。 そう……アイツと約束したのだから。
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244 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 8/10[sage]:2010/11/11(木) 01:14:43 ID:gFIOkVEt -
「さて、暗い話と暗い私終了!ご飯だご飯!」 「相変わらず、切り替え早ぇなぁ」 「それが私だよヤスっちくん。ふふふ」 そしてちょうどタイミングを計ったかのように到着する料理。それを食べ終わり、予定通り服を見て回り、久しぶりの千尋との休日は平和に終わってくれた。 そして日曜が終わり、修学旅行が始まった。 正確には木曜から、だが。木、金、土、日の4日間。揺藍第2校は島を出て北海道へと向かう。 沖縄という選択肢もあったのだが、多数決で北海道となった。オレとしては海より自然に溢れた山の方が好みだったので特に不満はない。 揺藍から出る定期船に乗り本島へと渡り、飛行機で北海道まで向かう。案の定、船でも飛行機でも千尋や松尾はあだ騒いでいた。 そして数時間のフライトを終え、オレたちは新千歳空港まで到着した。荷物はホテルに直接送ってもらったので、受け取る必要はなかった。 「ふーっ、やっぱ揺藍と比べると寒いねぇ」 千尋がそう言う。たしかに、比較的暖かい気候の揺藍と比べると結構な温度差があるだろう。寒く感じるのも無理はなかった。 「涼しい、だろ。寒いってほどじゃないわな」 「芭蕉さんはバカだから温度を感じないんだよ」 「いくら松尾でもそこまでバカじゃないだろ……」 そんな他愛のない話をしながら、空港を出る。 空港の出口で送迎用のバスに乗り、目的地へと向かうことに。1日目は動物園だが、全く持って興味がない。 観光地としても有名らしいのだが、男のオレにとってそんなものどうでもいい。動物だって別に特別好きなわけでもないのだから。千尋はやけに楽しみにしてたが。 というわけで、オレと椎名、松尾は動物園から脱獄し、北海道の街を探索しているのだった。 「しかし、さすが北海道だな。揺藍も結構自然多いけど、比べるまでもないくらいだ。なんか暇つぶせるところあるのか?」 「少し先を行ったところに大きいショッピングセンターがあるから、そこで暇を潰そう」 椎名がスマートフォン片手にそう言う。こういう頭の良いヤツが強力してくれるのは心強い。脱獄までの手引きから街案内まで何でもござれだ。 さっきからオレの携帯は振動が止まらない。見なくてもわかる。おそらく千尋だろう。きっと脱獄して誘わなかったことに怒ってるに違いない。 まぁ、千尋なら教師に告げ口される心配もないだろう。オレたちはそのまま軽い気分で北海道観光に興じていた。 「うお、意外とでけぇ」 「期待大、だな」 予想より大きかった建物に若干驚きながらも中へと入る。案の定か、中は普通のショッピングモールと大して変わらなかった。むしろ揺藍の方が発展している。 「まぁ、そりゃそうだよなー」 「適当に本屋にでも行くしかなさそうだな」
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245 :廻るセカイ-Die andere Zunknft- Episode16 9/9[sage]:2010/11/11(木) 01:16:57 ID:gFIOkVEt - そして本屋で3人で各自立ち読みをする始末。日常を楽しむだのなんだの言っておきながらこれだ。我ながら情けなくなってくる。
「……ヒニチジョー、サイコー……」 こんなことしてるなら、まだリーゼと戦ってたほうが充実してたのではないだろうか。 死んだり殺されたりや、刺されたりは勘弁だが。割と本気で。 でも実際イェーガーにも言った通り、命の奪い合いじゃなければリーゼ同士の戦闘は見ていてかなり熱くなるんだよなぁ。これで揺藍がかかってなければ本当に最高なんだが。 オレは今まで読んでいた本を棚に戻し、別の本を探そうと歩きだした、その時。 「あだっ、っと、すみません」 体が目の前にいた人とぶつかってしまった。歩き始めたときだったからそこまで勢いはなかったのが幸いだった。不注意とは、情けない。 「いえ、お怪我は……って、俊明じゃねぇか。なんでこんなとこにいんだよ」 「……あ?」 その言葉を受けて、ぶつかった相手の顔を見る。その顔は、オレがよく知っている人物そのものだった。 つい1ヶ月前くらいに、命をかけて戦った相手。殺されかけもした相手。 「どうしたよ、呆けたツラして」 「っ……、お前、やっぱり本人なのか」 目の前に立つ身長190cmは越えてそうな、赤銅色の髪の大男が、さも元気そうな表情で口を開いた。 「オレが、リーゼンゲシュレヒト・イェーガー。それ以外の誰に見えるってんだ?」 前言撤回。非日常、最悪だ。 よりにもよって修学旅行先で、こんなヤツに出会ってしまったのだから……。
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