- 【蔑称ではない】鬼子SSスレ【萌なのだ】
482 :GoGo! ひのもとさん[sage]:2010/11/09(火) 01:06:39 ID:k5OSnzfW - だいたい夜七時ごろ、窓の外に見えるガンダムがライトアップされてさらに迫力を増す時刻、湯のたまった浴槽からは絶え間なく湯気が昇って、お風呂場はまさに熱い盛りだった。
鬼子さんは汗の入った目を腕でぬぐいながら、小日本の人形のような背中をごしごし洗っていた。 天使のミルクに浸されていたような純正たまご肌だったが、決して楽な旅をしてきたのではなさそうに見える。 腰まで伸びた黒髪には埃がたまり、あちこち皮膚がかたくなっていたりする。 「ずいぶん長い旅をしてらしたのですね?」 鬼子が言うと、小日本は何やらむーんと唸っていた。 「五ヶ月くらいです」 「何がですか?」 「私が旅をしていた期間です」 「まあ、そんなに?」 「今回はまだ始まったばかりです」 「いつぐらいに終わるのですか?」 「わかりません。鬼を百匹退治するまで、お家には帰れないんです」 「どうしてですの?」 「……そういうお家なんです」 室町時代から妖怪退治などを家業としているお家柄らしい。 小日本の狭い肩にスポンジを乗せて、鬼子さんはむーんと考えこんだ。 人の心に巣くう鬼を退治するのが得意な鬼子さんも、百匹はさすがに大変なノルマだ。 きっと途中でお腹がすいて、ふらふらとわんこそばを食べに行ってしまうに違いない。 わんこそばだったら百杯などあっという間なのだが、それでもだいぶ胃にもたれてくる数である。 しかし酷い話である。どんなお家があれば、こんな見かけは十歳にも満たない子にわんこそば百杯食べるまで帰ってはならないなどという理不尽な修行をさせるだろうか。 そもそもわんこそばは全く関係ないのだが、わんこそばが食べたくなってきた鬼子さんの思考回路はわんこそばが実効支配していてもはやどうにもならなかった。 ぽよぽよしながら涎を垂らしていると、小日本はうつむいて、ぽつりと言った。 「ごめんなさい、空々しいの、わかってます……」 「うにゅー、お腹いっぱぁい、でももう一杯お願いしまぁす」 「わかってるんです、何も知らないいい子のふりしてるの、見えすいちゃってますよね? ……けど、どうでもいい事にしたくないんです」 「今度はつゆだくだくでお願……はっ。えっ? な、何が? 何ですの?」 「本当は私、あの家にいちゃいけなかったんです……」 「まぁ、急にそんな、どうして?」 うろたえる鬼子さん。 小日本は濡れた黒髪の間を触った。そこには骨のように白い角が尖っていた。 「だって、私、角が生えてるから……」 「わたくしも角が生えてますわよ? ほら」 「……聞いてます?」 まるで話についていけてなかった鬼子さんは、さらにぺしんと膝をたたいた。 「それよりもさっき良いことを閃きましたの小日本、今日からわたくしの子分になりなさいっ」 「親身になって聞いてあげるという発想ができないのこの人!?」 「もうっ、なるの? ならないの? はっきりしなさいっ」 「展開はやっ!?」 そして話はいつの間にか二人でわんこそばを食べにいく具体的な計画にうつっていた。この間、小日本はぽけーんとするしかない。 「そうですわねぇ、老舗といえばやっぱりやぶ屋か嘉司屋か、東屋も外せませんわねぇ。けど花巻あたりをうろつけば結構ちらほらと……」 鬼子さんの鬼マイペースぶりに困惑する小日本だったが、あんまり楽しげにわんこそば食べ歩き計画を話すのに当てられて、次第に惚けるような表情になっていった。 「ねっ。わたくしと二人なら、そんな宿題なんてあっという間に片付いてしまいますから。ね」 じつは鬼子の憧れの人、酒呑童子も、かつて人間から見放された茨木童子を拾って一の子分にしたとされている。 鬼子は酒呑童子に自らを重ね合わせているのか、それとも単なる偶然の一致なのか。 鬼子さんは小日本に向かって身を乗り出した。 「キレイな一本角……硬くて、まっすぐ。そういえば茨木童子もたしか一本角でしたわ」 二本角の鬼子さんは、にこにこ笑って、小日本の角のてっぺんをつついていた。 小日本は、次第にかぁっと顔を赤らめていった。何だか釈然としない顔で鬼子に背中を向けた。 湯あたりしたように震えていた。 「……みんなは」 「みんな?」 「みんなと一緒じゃなきゃやだ……」 鬼子さんは、小日本の背中をぎゅっと抱きしめた。 なんだか可愛い妹が出来たみたいな夜だった。
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483 :GoGo! ひのもとさん[sage]:2010/11/09(火) 01:18:31 ID:k5OSnzfW - >>469>>472
うおう、コメントがついた。Σ(´ω`)超励みになる。ガッシュこんど読んでみよう。 >>478 禿同だ! 面白かった! 素材の扱いがすばらしかった!
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- 【蔑称ではない】鬼子SSスレ【萌なのだ】
492 :GoGo! ひのもとさん1/2[sage]:2010/11/09(火) 23:58:07 ID:k5OSnzfW - (前回の続き)
鬼子と小日本がきゃっきゃうふふと戯れる駅前のアパートを、なにやら遠巻きに見つめる不審な人影があった。 不思議と爽やかな長髪に誰もがうらやむ超絶美形。タオルを肩にかけてこれから銭湯に向かおうかという出で立ち。穏やかに風呂場の窓明かりを見つめる様は、さながら着流し姿のダビデ像であった。 暗殺者のようでありながら、尚且つまるで殺気を感じさせない、プロ顔負けの気配をまとった彼の元に、もう一人の派手な服装のストーカー男が現れた。 「先に来ていたのか、ヤイカガシ」 これまた少女コミックに出てきそうな超絶美形。白と赤のコントラストが鮮やかな髪の間からは、装いの軽薄さとは裏腹に鋭い眼差しが覗いていた。 どこか虚しい表情を向けたヤイカガシ(美形)の低い声がせまい裏路地に響く。 「遅かったな、ヒワイドリ」 「前にも言ったはずだ、『酉(オレ)の刻は午後七時……』」 ヒワイドリ(美形)は壁に両手をついて、足をネコ科の動物のように組んで髪を振り上げた。 「『イッツ・ゴールデンタイム』……だとな」 口角を吊り上げるでもなく、表情を和らげてみせるヒワイドリ。 石のような表情のヤイカガシ(美形)は、口元だけをかるく動かして「痴れ者が」となじった。 「あの話、考えてくれたのか?」 「お前との話なぞ、いちいち覚えていない」 「俺たち、そろそろ『向こう』に行っちまおうかって話だ」 「またその話か」 「ああ――」 駅前のざわめきが高鳴り、どこか遠くでクラクションが鳴り響く。 「『エロパロ』へ」 ヤイカガシとヒワイドリはふと空を振り仰いだ。 彼らの見つめる先、アパートの風呂場からは、鬼子さんと小日本の騒ぎ声が聞こえてくる。 ――やっ、こにぽんさん、そんな所つまんじゃダメですぅ。 ――いいな〜お姉ちゃんの角ってすべすべ〜。 ――いた、いたた、ひっ、引っ張らないでくださいぃ、さきっぽは危ないです〜。 ヒワイドリはまったく無自覚のうちにそちらに手を差し伸べようとしていた。 だが、何らかの防犯装置に触れたかのように青白い稲妻が広がり、パシッと指先を弾かれた。 人智を超えた強力な結界である。ヒワイドリは左右の電柱に貼られた《全年齢板界》という呪札を恨めしげに見ていた。 「……という事だ」 ヒワイドリが向けてくるまっすぐな瞳を、ヤイカガシは無言で拒絶していた。
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