- 【蔑称ではない】鬼子SSスレ【萌なのだ】
484 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/09(火) 11:40:12 ID:JNJygHcE - 早朝に肌寒さを感じることが多くなってきた今日この頃。
「う〜ん……」 私、日本鬼子は布団から体を起こし、大きく伸びをした。いい天気だ。外は明るいし、小鳥の囀りも聞こえる。 そろそろ掛け布団を増やそうかな、などと考えながら寝具を押し入れにしまっていく。 寝巻を脱ぐ前に、玄関や窓の戸締りを入念に確認した。神経質と思われる方もいるだろうか。しかし大目に見てほしい。 何しろ私には、ストーカーがついているのだ。自意識過剰、あるいは自慢と思われただろうか。だがこれは事実であり、私自身心底迷惑している。 「よしよし」 窓に閂(かんぬき)は掛かっているし、玄関の板戸にもつっかえ棒を噛ませてある。 今日は珍しく、邪悪な魚と鳥の妖怪の気配も感じない。これなら気分良く着替えられるというものだ。 お気に入りの紅葉柄の着物に袖を通し窓を開ける。山の清浄な空気が、粗末な家屋の中に流れ込んでくる。 そして日課である朝の散歩に出かけようと玄関の戸を開けた直後、私は異常な光景を目の当たりにした。 「……何なの、これは……?」 足の太い、白い小鳥の妖怪(自分ではヒワイドリと名乗っている)の群れが 家の前に無数に転がっていた。百体以上いそうなその気味の悪い生物たちは、みな満身創痍といった体だ。 元気のありそうな数体も、仲間同士で殴り合っている。 「おぉぉ、鬼子ぉ……」 一番手近にいたヒワイドリが、息も絶え絶えに私の名を呼ぶ。 「あんたら、人の家の前で何をやってるのよ」 「お前の乳を触らせてくれたらぁ、質問に答えてやろう……」 無言で家の中に戻り、壁の飾棚に掛けてある長刀を手にした私は、再び外に出る。 「お・し・え・て?」 長刀の切っ先をヒワイドリの鼻先に突きつけながら、再度懇願する。 「委細漏らさずお話します」 打って変わって真摯な口調となったヒワイドリが、これまでの経緯を語り始めた。
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485 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/09(火) 11:41:28 ID:JNJygHcE - 満月の美しい夜。
一人の男が鬼子の家を目指して歩いていた。白い長髪を好き放題に伸ばしているその美男子は、 何を隠そうヒワイドリである。群れて合体すると、そういう姿になるらしい。 ――いい月だ。 頭上の銀盆を見上げ、ヒワイドリ(集合体)は薄く笑う。穏やかな月光は、まるで今宵結ばれる一組の男女を祝福するかのようだ。 獣道を登り、愛する女の眠る園を視界に収める。 息を殺し、足音を忍ばせながら、ヒワイドリは鬼子の家の戸に手を掛けた。 「……ん?」 開かない。この家に鍵などと上等な物はついていないはずだから、つっかえ棒でもしたのだろう。 「可愛い奴だ」 ヒワイドリ(集合体)は両手で扉の淵を持ち、何度か揺すった。簡単に戸は外れ、内と外を隔てる壁が取り払われる。 素晴らしきかな欠陥住宅。 規則的な寝息が聞こえる。愛しの君はまだ眠りから覚めていないらしい。出迎えがないのは寂しいが、 ことを為す上では非常に都合が良い。 奥の間に忍び込み、寝具の上に身を横たえる麗しき鬼を見つける。日本鬼子。 彼女のすぐそばで片膝を突き、ヒワイドリ(集合体)はその姿に見入った。 美しい。黒髪の間から伸びた、鬼の角でさえ愛しく思う。 長い睫毛に縁取られた瞼は、ぴたりと閉ざされている。起こそうか、と瞬時考える。 やはりガチでニャンニャンするからには、愛を語り合ってからにすべきではないか? そう、以前国道沿いの側溝に打ち捨てられていた、不健全な男女交際のハウツー本にもそう記載されていた。 乳を揉むまでの道のりは、遠く険しいのだ。 とりあえずキスで起こしてみるというのはどうだろう。程良いサプライズ。ナイスアイディア。 善は急げと、ヒワイドリ(集合体)は鬼子に顔を近づける。 が、寝息がかかるほどの距離になって、集合意識の中に組み込まれていた誰かが発狂した。結束が乱れ、姿を保てなくなる。 (ちょwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww) 発狂した一体を含めた、ヒワイドリ全員の心の叫びだった。美男子の肉体は、無数の不細工鳥へと崩れ去り、ボタボタと鬼子の 体に落下する。 (おいwwwwwwwwwww) (起きるってwwwwww) (抜け駆けしようとした奴いんだろwマジで燃え散れよw) (オワタwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww) (笑ってる場合じゃねえwwwwwwwww) (撤収だ馬鹿ども!!!!!!!!!11) わらわらと分離したヒワイドリ数十体と、美青年の残骸が鬼子の家を後にする。 (侵入の痕跡がありありと……) そうだ玄関の戸を直さねばと、ヒワイドリたちは四苦八苦して元の状態に戻す。 めでたく証拠隠滅を終えたところで、反省会が始まった。 「おい誰だよ、足並み乱したやつは?」 一体が周りの仲間を見て恫喝したのを皮切りに、あちこちで口論が巻き起こる。 「お前じゃねえのか?」 「んだゴルァやんのか。そういうお前こそ犯人じゃねえのかよ」 「うぜえな。大体みんな下心持って集結してんだろ。んな不毛な――んご!」 ついに一組のヒワイドリが、殴り合いを始めた。たちまち百体近いヒワイドリたちは抗争状態に陥っていく。 「しゃらくせえ! 鬼子は最後に立ってた奴の物! これでいいか!?」 「シンプルでいい!」 「おkだゴルァ!」
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486 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/09(火) 11:43:17 ID:JNJygHcE - 「己の肉体のみを使った俺たちの死闘は長く続きました。夜が更け、東の空が明るみ、
ついに太陽が顔を出し、今に至ったんです。……俺は疲れた。もう、寝る……」 そのヒワイドリが語り終える頃には、争いも収束していた。アッパーカットで最後のライバルを倒した 最後のヒワイドリが両手を高々と掲げ、雄叫びを上げる。 「ッシャアアアアアアア!」 そしてこちらを振り返った最強のヒワイドリと、目が合ってしまった。 「鬼子! 俺だ! 結婚してくれええ!」 私はぴしゃりと戸を閉め、つっかえ棒をした。 「な! 開かねえ!? クソ! こんなボロ屋、俺の力なら!」 ぱたぱたと軽い音が、戸を通して伝わってくる。体当たりでもしているのだろう。 一匹一匹なら、ニワトリにも負けそうなくらい弱っちいくせに。 「哀れな連中……」 私は呟かずにはいられなかった。欲望によって得た力は、欲望によって滅ぶということか。 「なんでだよ!? 鬼子おおぉぉ!!!!」 静けさに満ちた朝の山に、ヒワイドリの悲痛な叫びが響き渡った。 完
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