- 【蔑称ではない】鬼子SSスレ【萌なのだ】
340 :「鬼子と華と」の人[]:2010/11/03(水) 18:22:38 ID:wWFiynJU - >>339
了解しました。 もうすぐ続きが書きあがるので、また夜にでも投下したいと思ってます。 お互い鬼子ちゃんを盛り上げていくため、このスレを守る(?)ため 頑張りましょうね^^
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341 :「鬼子と華と」の人[]:2010/11/03(水) 19:28:51 ID:wWFiynJU - 続きが書きあがりましたので投下します。
今回は結構長いのですが、最後までお付き合いいただけると 嬉しいです。 では次から始めさせてもらいます。
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342 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:30:57 ID:wWFiynJU - 鬼子と華と2 〜鬼子と華と『いじめっ子』〜
いつまで経ってもあのいけすかない中村華は“幽霊神社”から出てこなかった。 だんだんと日も傾いてきたし、もう秋も深まった季節柄。長袖の服を着ていても、この時間帯になれば鳥肌も立つというものだ。 いじめっ子リーダー、雨宮里香は思わず自分の体を抱きしめながら、後ろの少女たちに振り返った。 「…里香ちゃん、もう帰ろうよー」 そう云い出したのは城崎亜子。このいじめっ子の中で一番薄着のようで、ショートカットの髪型がより寒そうだ。 里香は他の少女たちに視線をやるが、皆、もうここで待つのがつまらないらしく早く帰りたそうに里香を目で窺ってくる。 「う…そう、だね。べ、別にあんな奴が戻ってくるまで律儀に待たなくたっていいんだし」 このメンバーの中で一番背が大きく、それを気にしている里香は癖で猫背にしていた背をもっと丸めて抱いた腕を擦った。 里香の決定に安堵した少女たちは我先に山の緩やかな斜面を下りていく。里香もそれにならおうと一歩踏み出したとき、神社の方で何か声が聞こえた気がした。 首だけ振り返ってみると、神社の暗い入口の奥から何やら小さいものが飛び出して行った。 それをよく見ようと身を乗り出しかける里香。だがそれはすぐそばにいた亜子によって阻まれてしまう。 「里香ちゃん?もーあたし限界!早く下りよ?」 服を掴まれて、里香は、それもそうか、と考え直しそのまま斜面を下りていく。 少し先を行く亜子に早く追いつこう、そう頭の中で考えていて里香は気がつかなった。 里香の影の中に神社から飛び出してきた悪鬼の欠片がその身を溶け込ませたことに。 「ただいまー」 華の声は家の中に響くが、それに応えてくれた声は一つもなかった。 山を下り、すぐ脇の国道に沿って歩くと山間に守られるようにしてある大きな街にでる。ここは日出町。 他の街までのアクセスが少しし難いが、その分街の中に大きな商店街、学校、病院があるおかげで住民はさして不便はない。 ただ大きな山が街の両サイドにあるおかげで新たな土地開発は大変難しいらしい。 鬼子が封印されていた“幽霊神社”はこの双子山の片方、赤山にある。 「…ふむ、華。家人はおらぬのか?」 「うん、お母さんは看護師してるんだけど今日は夜勤だからお家にいないの」 鬼子が見た限り、他の隣接している一軒家より華の家は少しばかり大きかった。小さいながらも庭もあり、玄関先には鉢植えがたくさん置かれていた。 華は履いていたスニーカーを脱ぐと家に上がった。鬼子もそれにならい、履物を脱ぐ。 「リビングはこっちだよ」 華に促されて、部屋に入ると鬼子は思わずきょろきょろと無遠慮に辺りを見回す。 見たこともない大きな、それでいて四角く薄っぺらい板が壁際にあるし、部屋の中央あたりに鎮座するのは囲炉裏ではなく平たい大きな板。 奥の方にはこれまた見たことのない器具が置かれた謎の空間。 タミのときもそうであったが、鬼子は目覚めた時代の文明の進歩に口をあんぐり開けるしかなった。 「えへへ、鬼子さん見たことない物ばっかで混乱してる?」 「う…うむぅ…。タミの時代の方がまだ見たことあるものがあったな。…そうじゃ華」 「ん?」
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343 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:34:02 ID:wWFiynJU - 鬼子には謎の空間、今ではキッチンと人が呼ぶ中へ華が入っていこうとするのを言葉で止めた。振り向いた華の肩に手を置いて、そっと摩る。
「いやな、私のことは呼び捨てで良いのじゃぞ?なんだか、こそばゆくてのう」 「うーん、でも鬼子さんは“さん”って感じだし…」 「もう少し近しい呼び名の方が良いな。これから、どれぐらいの時をお主と過ごすかはわからぬが…なんとなしに他人行儀な気がするんじゃ」 華は、そう言われてみるとそうかもしれない、と思い顎に手を当てて、うーん、と唸った。 頭の中に様々な呼び方を描くが、そのどれも微妙だ。 「……そうだなぁ。あ、じゃあ“鬼子ちゃん”って呼ぶことにする!」 「“ちゃん”!?…ま、まぁ華が良ければそれで良いが」 さん付けよりもっと違和感あるものに変わられてしまった気がする鬼子であったが、満足げな華の前では撤回することなど出来なかった。機嫌よく華はキッチンの奥へ消えていく。 「鬼子ちゃん、ソファーに座っててね」 奥からそう言われて鬼子はまたきょろきょろした。 華のいうソファーとはいったいどれのことだ、と必死に考えて、大きな板のような台のようなものの前にどっしりと置かれた革張りの塊に恐る恐る座った。 「鬼子ちゃん、正解!」 奥から盆を持って華が出てきた。盆の上にはコップが二つ乗せられている。 「やっぱり鬼子ちゃんにはお茶がいいかなって思ったんだけど…」 お茶っ葉切らしてて、と続けた華が鬼子の前に出したのはなんだかしゅわしゅわした液体が注がれたコップだった。 鬼子は華の顔を見、それからゆっくりコップを掴むとその液体をちょびっとだけ飲んだ。 舌の上で踊る、ピリッとした感覚とさわやかに甘い味。 次はもう少し多めに含み、飲み下す。初めて味わうソーダの、あまりに甘美な美味しさに鬼子は人知れず感動していた。 「…お、鬼子ちゃん?えと、美味しくなかった…?」 心配そうに見つめてくる華を思わずコップをもったまま抱きしめて、鬼子は残りのソーダも飲みきってしまった。 「華!なんじゃ!この!美味な!水は!」 「お、おおおお、落ちついて!」 華をホールドしたまま踊りだしそうな勢いの鬼子をどうにかこうにか宥めてから、そんなに美味しいならと冷蔵庫からペットボトルごとソーダを持ってきてまたコップに注いでやった。 「今の時代はこんなに美味なものがあるのじゃなー!このしゅわしゅわした感じがまた良いの」 上機嫌に杯を開ける鬼子はさながら、大酒呑みの鬼といったところか。まぁ飲んでいるのソーダなのだけど。 「それでね、鬼子ちゃん。聞きたいことがあるんだけど…」
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344 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:35:37 ID:wWFiynJU - 「なんじゃ?」
「これからどうやって、その“サイヤク”を見つけて止めるの?」 「ふーむ、それなんじゃが」 2Lペットボトルを脇に抱えて、鬼子は腕組した。 「災厄がどの程度で、どうこの土地に降りかかるかはわからんのじゃ。タミのときもそうじゃったが、普通に生活している中でその手掛かりを悪鬼共から探していくしかないかのう」 「悪鬼を探すの?」 「その点の手間は大丈夫じゃろう。悪鬼共は楔に引き寄せられる性質があるのでな、いちいち探さんでもそのうち我らの前に現れるんじゃ。さっきみたいにな」 「え、ちょっと待って!じゃあ、あたしが学校に言っている間も鬼子ちゃんがついてくるの?」 それは困る!とばかりに華は身を乗り出した。 ただでさえ、今、華はいじめっ子グループのリーダーである雨宮里香に目を付けられて大変だというのに、 言ってはなんだがこんな時代錯誤な服装でしかも角が生えている人間なんか登下校中ずっと一緒だとさらに悪目立ちしてしまうだろう。 先ほども、この家に帰ってくる途中、道行く人に奇異な目で見られていた鬼子だ。 さすがにそれは避けたい華だった。 「そうじゃよ?何か不味いことでもあるのかの?」 「う…鬼子ちゃん目立つし…、その、あたし、あんまり学校では目立ちたくないんだよ」 「じゃが、それでは華が無防備すぎる。…生憎私は人から見えなくなる術は持っておらんのでな…。角くらいなら消せるが、ふーむ」 「その服脱ぐことは?」 「すまないの、この着物は私の力で出来ておる。脱ぐことは出来ないんじゃ。着物の形ならいいんじゃが、他の服の形はどうにも慣れんでの。 短時間ならいいのじゃが、一日ずっと違う服の形に変えておると疲れてしまうんじゃ。…おぉ、そうかあの手があるぞ、華」 抱えていたペットボトルをテーブルに一旦戻して、鬼子は着物の合わせから一枚の和紙を取りだした。 そして自らの髪の毛を一本抜くとその和紙に包み、ふっ、と息を吹きかけた。 すると、その和紙は鬼子の手を離れ床に落ちてしまう。 「あっ」 「よいよい、まぁみておれ」 拾おうとした華を鬼子が制した。和紙は床に着くか着かないかの狭間、その身をくるりと翻して和紙全体がくるくると巻きこまれていってしまう。 小さな塊になったと思ったら、次の瞬間には勢い良く広がり一気にその体積を増やしていった。 「あわわっ」 華が驚いて身を引くと、ぽん、と軽い音を立てて和紙はいつの間にか華より小さい一人の少女に変わっていた。 だが、その少女には人にはないものがついておりその服装もまるでコスプレしているようだった。
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345 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:37:23 ID:wWFiynJU -
「久しいの、小日本(こひのもと)」 「鬼子様、御呼びですか」 さっとその場に膝まづいたその少女の頭を覆う小金色の長い髪から大きなもふもふした耳が二つ、突き出していた。先の方が黒いそれはまるで狐の耳。 巫女装束に身を包んでいるが、お尻のあたりからこれまたもっともふもふした狐の尻尾が外に出ていた。 「こ、これってぇ?」 「華、私の使い魔じゃ。これ、小日本、この方は新たな楔で名を中村華という。お主もちゃんと挨拶せい」 「華様、お初にお目にかかります。私(わたくし)は鬼子様に長年使える縁狐の小日本と申します」 「こ、こいの…もと?」 「違う、こひのもと、じゃ」 鬼子に指摘されるが、どうにも呼びにくい。小さくてもふもふな見た目の小日本は鬼子とはまた違うベクトルの可愛さがあふれていた。 床に膝まづいたままの小日本の元に、華はしゃがみこむと、間髪入れずそのふわふわな頭を撫で撫でした。 「か、可愛い…!あのね、小日本って呼びにくいから、こにぽんって呼んじゃ駄目かな…?」 「こに…?華様が望むのなら」 従順な性格なのだろう、小日本は華にわしわし撫でられても顔色一つ変えない。だが、その頬はうっすらと桃色に染まっていた。 「は、華様の方が私よりも大変可愛らしゅうございます」 「…へ?」 「ほほほ、小日本は華のことを気に入ったようじゃな。そうやって名をもらったことがない奴じゃ、顔には出ないが嬉しいのじゃろう」 小さな手でしがみついてくる小日本を抱っこして、そのまま華はソファーに移動した。 「して、華。その学校とやらに持っていける物で常に身につけていられる物はあるかの?」 「うーん、髪留め、とかかな」 「そうか、ほれ、小日本」 「はい、鬼子様」 華から離れて、少し広いスペースに移動すると小日本はその場で勢いよく飛び上がると空中でその身をくるんと丸めた。一瞬で小さくなる体。やがて軽い音を立てて落ちたのは、狐の飾りがついた可愛らしい髪留めだった。 「すごーい!こにぽん、髪留めになっちゃった!」 「よしよし、つけてやろう」 鬼子は髪留めになった小日本を拾い上げて、華の前髪を横に揃え、髪留めを指してやった。 「学校とやらや、他の私が直接ついていけない場所にいくときは小日本を連れていくがよい。危険が及べばすぐに私が駆け付けるが、その間は、小日本」 「はい」 「お主がちゃんと華を守るのだぞ」 「必ず、華様をお守り致します」 髪留めから小日本の声が聞こえてくる。華はそっと狐の飾りを撫でて、「お願いね」、とはにかみながら言った。
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346 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:38:32 ID:wWFiynJU -
温かな湯が全身の疲れをほぐしてくれる。 里香はほぅ、と息を吐いて体の力を抜いた。 今日はなんだかとても疲れた気がした。あのいけすかない中村華は無事に石を手に入れただろうか。 そこまで考えて、里香は自分は何をしているんだと湯船の中に口まで沈みこんだ。 あんな女の無事なんてどうでもいいじゃないか、むしろ幽霊にでも食べられてしまった方が自分にとって都合がいいじゃないか。 「はぁ…」 里香は、こんなことをしていても意味がないことはわかっていた。 去年の暮れにこの土地に越してきた、中村華。 彼女の境遇は里香に似ていた。 中村華の両親は離婚の調停中らしく、華は華自身の希望で母親についてきたらしい。 そして、里香もかつてそうだった。 里香の場合は父親であったが。 でも里香は悔しかった。華は母親に愛されているようなのに、自分は? 男にだらしない母親に嫌気がさして父親を選んだ里香であったが、結局、父親も家族を養うために仕事に忙しく里香のことをなかなか構ってくれない。 さして広いアパートではないが、いつも一人だととても広く感じ、そして寂しかった。 そんなとき出会ったのが華だった。 だが、華には里香が欲しくてもどうしても手に入れられないものをもっていたのである。 「…兄弟、ほしいな」 ちゃぽん、と水音が静かな風呂場に味気なく響く。 湯の中で伸ばしていた長い足を縮めて、里香は膨らみかけの胸を抱いて浴槽の中で体育座りになった。 華には歳の離れた兄がいたのだ。 似たような境遇なのに、なぜ?なぜあの子には私が欲しくてたまらないものをもっているんだろう。 一回だけ見たことがある華の兄は大学生らしく、華と同じ家に住んでいるわけではないみたいであったが。 里香はどうにも、あの頭を優しく撫でられて嬉しそうに、そしてちょっと恥ずかしそうに抗議していた華とその兄の光景が頭から離れなかった。 あの場所には、里香の知らない温かいものが溢れていたのだ。 またそれを思い出して、里香は憂鬱になる。 この寂しさと羨望が、華をいじめるきっかけになった。最初は里香だけが華に冷たい態度をとっていたのだが、それを面白がった周りの同級生たちがそれに乗ってきてしまったのだ。 もう、こうなったら後戻りなんか出来ない。毎日毎日、里香は湯船の中でどうやって華と仲直りするか考え、同時に明日はどんな風にいじめてやろうかと考えるのだった。 「…でよ」 いい加減、ゆだってしまう。そう思って立ち上がると、少しだけ立ちくらみを起こしてしまった。ふらつく体を湯船の縁に捕まって支えていると、どこからか、不思議な声が聞こえてきた。 それはとても甘美で、優しくて。でも、どこかおどろおどろしい。 だんだん混濁していく意識の中、その声はしだいに大きくなっていた。 駄目だ、そう思う気持ちは湧いた傍からあの声に塗りつぶされて行った。 本格的に支えられなくなった体はずるずると、また湯の中に沈められてしまう。 ぼんやりする視界の中、湯の中で揺らめく自分の影の中に無数の目を見た気がした。
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347 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:39:32 ID:wWFiynJU -
夜勤の母はまだ帰らない。 そんな朝はいつも一人きりの朝食なのだけれど、今日からはとても賑やかなのが嬉しい華だった。 人間とは違う次元の存在らしい鬼子と小日本だが、人と同じものを食べても問題ないようだ。 初めて食べたパンもいたく気にった様子の鬼子と、バターピーナッツが美味しくて仕方ない小日本はさっきから尻尾が知れず左右に揺れている。 文明の進歩を目の当たりにして毎回テンションの高い二人といると、いつも憂鬱な学校の時間が迫ってもさして苦痛ではなかった。 それに今日からは小日本が一緒にいてくれる。 どんなイジメがまっていようと頑張れる気がした。 「それじゃあ、行ってくるね」 「鬼子様、行ってまいります」 「うむ、勉学に励むのじゃぞ」 留守番を鬼子に頼み、二人は中村家から学校へ向かった。 日出町の学校は睨みあう双子山から直線を引き、ちょうど街の真ん中にある。小学校と中学校が隣り合わせにしてあるので、グランドがとりわけ広い。 赤山側の住宅地にある中村家から徒歩で学校を目指すと、だいたい20分くらい。 行きは下り坂が多いので比較的楽ではある。 この日出町に越してくる前はかなり都会に住んでいた華は最初、この道のりとそして6年生でもランドセルを使っている同級生に驚いたものだ。 華の通っていた小学校はこの年頃になるとほとんどランドセルを使う子供はいなかったのだが、ここら辺では勝手が違うのだろう。 年季の入ったランドセルを背負う同じ年頃の子どもの中、去年の誕生日に父にプレゼントされた大きい桜模様がプリントされた肩掛け鞄の華はちょっと浮いている。 「あ」 前方に固まっていた見覚えのある集団の一人が声を上げた。 雨宮里香が率いる女子いじめっ子グループである。 いつも酒屋さんの角を登校の待ち合わせ場所にしているこのグループは、イジメの対象である華を見つけると一目散に寄ってきて、ネチネチと言葉責めを始めるのだが…。 今日はなんだか様子がおかしいようだ。 華の存在は認めているものの、なぜか近づいてこない。 さっと視線をめぐらせてみると、どうやらリーダーである里香がいないようだった。 気まずそうにこちらに視線を寄越してくる少女たちであったが、結局いつものようなアクションを起こすわけでもなく、通り過ぎていく華を横眼で見つつまごまごしているだけだった。 『あれが昨日お話になっていたいじめっ子らですか?』 華が聞こえるギリギリの声量で話しかけてくる小日本。予想していた事態にならなかったので、拍子抜けしているのだろう。 華は小さく頷くと、ちょっとだけ振り返っていじめっ子グループを見た。 やはり追いかけてくる様子もなく、何事か話しこんでいるようだ。 まぁなんにしてもこちらに危害を加えてこなかったので、良しとしよう。 華はそう思い、足取り軽く学校をめざした。
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348 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:40:36 ID:wWFiynJU -
その日の授業、休み時間ともにびっくりするほど平穏だった。 いつもだったら女子らの無言の視線の暴力や休み時間となれば、華の悪口を堂々と垂れ流し、何もない放課後はすぐに捕まり無理難題を吹っ掛けられる。 しかし、今日はそれが全てなかったのである。 原因はやはり、休みだった雨宮里香なのだろうか。 そんなことを考えながら、華は園芸クラブで育てている花たちに水をやっていた。 クラブがある日はいじめっ子に捕まらないのが唯一の救いだ、と思っていたものだが、本当に今日はどうしたんだろう。 園芸クラブは同じクラスの女子が一人もいなく、そして華に嫌味をいう同級生は一人もいなかった。 それは園芸クラブのメンバーが三人しかいないせいもあるが。 その中の一人は完全な幽霊部員と化していて、実質は二人のみである。 傍らで花に水をやる少年が、ぼんやり考え事をしている華をみて、慌ててその手を止めさせた。 「ああ!中村さん!水、鉢植えから溢れてるよ!」 「ぇ…ぇあ!?ど、どーしようっ」 「と、とりあえず、余分な水を捨てないと…」 慌てて二人は重い鉢植えを一緒に傾けて、なみなみと注がれた水を地面に流した。少し土も流れてしまったようで、球根が顔を覗かせている。 「…あとで土増やしとかないとね」 「うぅ…、ごめんね。考え事してた」 「やっぱり…雨宮さんたちの事?」 控えめに聞いてきた園芸クラブの少年、小石徹はしゃがんだままため息をついている華の傍らに座り込み、困った顔をした。 「う…ん、今日は雨宮さん休みだったんだけど…なんかいつもみたいに城崎さんたちがいじめてこなかったから、なんでだろうと思って」 「え?雨宮さんなら、さっき学校で見たけどなぁ」 「へ…?」 「廊下を歩いてるのを見たよ。取り巻きの子たちも一緒だったみたいだけど…」 華はおかしいなぁ、とぼんやり考えていた。 今日は一日中、里香は休みだった。亜子たちは時折、誰もいない里香の席をきにしていたようだったがそれだけだった。 朝の出来事といい、なんだか今日はおかしいことだらけだ。 無意識に狐の髪留めに触れ、また思考の海に沈んでいく。 「まぁ今日はいじめられなかったんだし、良かったね!中村さん」 勤めて明るくそう言う徹は、今だ何事か考え込んでいる華をちらっと盗み見て、小さくため息をつくのだった。 仕方なく、徹は新しい土を取りに行こうと立ち上がったとき、遠くの方からこちらへ歩いてくる数人の人影を見た。 とても目が悪い徹は、眼鏡をしていてもその人物たちが何者かわからない。立ったままそうしていると、やがて華も気がついたらしく、徹の方へ顔を向けた。 「どうしたの?小石くん」 「や、誰かがこっちに来るみたいなんだけど…」 「…?」 華は徹の視線の先を辿ると、そこには見覚えのある集団がこちらを目指してやってくるのが見えた。 先頭を行くのは、雨宮里香。その後ろを必死に追いかけてくるのは城崎亜子ら、例の少女たちである。 亜子たちはひどく顔色の悪い里香を懸命に呼びとめようとしているらしいが、当の里香は視線すらぶれずに一直線に華を目指していた。
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349 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:42:17 ID:wWFiynJU -
「雨宮さん…?」 「え、中村さん逃げた方がいいんじゃ…」 「でも、なんか様子がおかしいみたい」 華はジョウロを傍らに置くと、立ち上がった。数歩前にでて、向かってくる里香と対峙する。 「雨宮さん、今日休んでたんじゃ?」 「……」 声を掛けても、青白い顔をした里香は射抜くような視線を華に向けたまま何も答えない。目の下には大きな隈さえも出来ていて、その体から醸し出される気配に不穏なものを感じる。 「り、里香ちゃん!風邪引いたって言ってたのに、なんで学校きたの?寝てなきゃだめだよぉ」 「…ぃ」 「里香ちゃん!」 亜子が里香の腕にしがみついて、その体を労わるように背中を摩る。他の少女たちも里香に触れようと手を伸ばしたとき、里香が初めてアクションを起こした。 「…ぅるさい!」 パァン、と寒空に乾いた音が響く。それは、鬼気迫る里香が亜子の頬を自由な方の手で叩いた音だった。 衝撃で体を離し、後方に尻もちをつく亜子。華はその光景がまるでスローモションのように感じられた。 「り…り、かちゃん…?」 「あんたらみんな、あたしの気持ち知らないクセに…。あたしは…あたしは…っ!」 充血した目からこぼれ落ちる大粒の滴。それが地面に落ちたとき、周りの空気がざわりと震えた。 息を吸うのも苦しくなるほどの禍々しい気配に、華はとっさに髪留めに触れた。 『華様、あの少女の影をご覧ください』 小日本の声に、華は顔を手で覆いながら苦しみ始めた里香の影を見た。そこには気持ち悪く蠢く、無数の目。それがやがて立体的な波を起こしながら、里香の影から出て行こうとしていた。 「ひぃ!な、なにあれ!」 取り巻きの少女の一人がそれに気が付き、悲鳴を上げる。 それを皮切りに、里香の後ろにいた少女たちは恐怖で動けない亜子をそのままにして皆、散り散りに逃げてしまった。亜子も逃げようと尻で後ずさるが、腰が抜けて立ち上がれないようであった。 「こ、こ、こ、こにぽん!あ、雨宮さんが!」 『あの少女の心の闇につけこんだ悪鬼が、彼女の心の起伏に反応して活性化しているのでしょう。ここでは他の方たちが危険です。ひとまず、走りましょう』 亜子同様、腰を抜かしていた徹を見て、華は髪留めに引っ張られる方向に走り出した。 ちらりと、里香を見るともはや里香の姿は黒いどろどろした無数の目玉の海に飲み込まれてしまっていた。 それは華が踵を返して走り出した半拍遅れて、華の後ろを追ってくる。 ぬちゃぬちゃと、気持ちの悪い音を出しながらも意外と俊敏な動きで華を完全にマークしていた。 「こにぽん!追ってくるよ!」 『建物の裏手なら人もいないでしょう。さぁ、早く』
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350 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 19:43:37 ID:wWFiynJU - 小日本の声に、普段あまり運動をしない華は息を荒げながら頷くしかなった。
後方の悪鬼は、華を捕まえようと躍起になっているようで時折、華めがけてドロドロした黒い液体を投げてくる。だが、何かに阻害されているような不自然な動きの後発射しているので、華にかかることはなかった。 酸素の足りない頭でなんとか校舎裏への最短ルートを辿った華は、到着したとたん、足を挫いて転んでしまった。 「ぁいたっ!」 「大丈夫ですか、華様」 いつ間にか髪留めから姿を元の幼女の姿に戻していた小日本は、華を守るようにして悪鬼と華の間に立つ。その手には大きな櫛と、その櫛に括られた紐の先にある大きな鈴が握られていた。 「人の弱い心に入り込む悪鬼め、この小日本、縁狐の名の下に断じて許すまじ」 しゃん、と高らかに鈴を鳴らす。すると、その音は人の感知出来ない音域を発して遠くにいる鬼子の耳に届くのだ。 もう片方の手に持った櫛を構えて、小日本は蠢く悪鬼に躍りかかる。 「デュフ、デュフフフフフフフフ!」 奇怪な笑い声を上げながら、無数の目玉から黒い液体をどぴゅどぴゅ発射する悪鬼。それは魚が腐ったような、吐き気を催す臭いがした。 小日本はそれをなんなく交わすと、悪鬼から伸ばされた先に目玉のついた触手を櫛で切り裂いていく。 「こにぽん!」 「華様、あの液体にかからないよう注意してください。あれは人の心を腐らせるものです、かかればあなた様も悪鬼の奴隷になってしまう」 小日本の俊敏な動きにも、悪鬼ななかなかどうして対応してくる。悪鬼の力の元になっている人間の心に闇が多ければ多いほど、悪鬼の力は強くなるのだ。悪鬼に心を捉われている時間が多くなるのも危険だ。 鬼子の力があれば、人間に取りついた悪鬼だけを浄化することは出来るが、心そのものが悪鬼になってしまうほど潜伏期間があるとその人間も浄化しなければならない。 雨宮里香の場合は、悪鬼に捉われてまだ間もない様子なのでその点の心配は皆無のようだ。 小日本はそれよりも、里香自身の体を心配していた。 悪鬼に囚われてここまで早く表面上に悪鬼が出てくるのは、依代になった人物の体調がかなり芳しくない場合がほとんどだ。 先ほどの里香の顔色は最悪だった。きっと病によって弱った心を悪鬼に支配されているのだろう。 伸びてくる腐敗臭漂う触手を叩っ切って、小日本は早く依り代になった少女を救出しなければ、と考えていた。 「こにぽん、危ない!」 「っな!」 思考に意識を取られていたとき、隙をついた触手が小日本の櫛を持つ方の腕に絡みついた。その触手は小日本の力で出来ている服を禍々しい力で溶かしていく。 焦った小日本が暴れようともがくが、攻撃手段を抑えられてしまったのでろくな抵抗も出来ずに次々と襲ってくる触手から逃れようがなかった。
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353 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:00:48 ID:wWFiynJU - 「う…っ」
小日本の神聖な力で出来ている服はみるみるうちにビリビリに破け、その触手は小日本の素肌にも触れた。 「あぅっ」 じゅ、と闇の力が小日本の玉の肌を焼いた。締め付けられるたびに肌が黒く焼かれ、全身から力が抜けて行ってしまう。 「デュフッ、デュフッフッフッフ!」 完全に優位に立ったと思ったのか、悪鬼は勝利の雄叫びのようないやらしい笑い声を上げ、ぶよぶよした体を震わせていた。何も出来ない悔しさで、華の視界は涙で曇る。 だが、正義は悪を許さないし、ヒーローと呼ばれる者は必ずといっていいほど遅れてやってくるものだ。 「小日本、眠っている間、腕が鈍ったのう」 その声が校舎裏に聞こえたとき、小日本を拘束していた触手が鋭利なもので全て断ち切られた。 触手の支えがなくなり、地面に叩きつけられそうになった小日本を誰かが優しくキャッチする。その人物は艶やかな黒髪が妖力で浮き上がり、普段は小さい二つの角が力の発現によって勇ましく空を突いていた。 「鬼子ちゃん!」 「鬼子様!」 着物の合わせから覗く美しい足、手に持った薙刀が陽の光を受けてギラリと輝く。鬼刈りの血が騒ぐ鬼子は黒い目から血のように紅い目になり、鬼子自身の力で形成されている着物の紅葉が、荒ぶる鬼子に呼応して周囲に美しく散り舞っていた。 「鬼子様…すみませぬ…」 しょんぼりと狐耳と尻尾を垂れさせる小日本、鬼子は「気にするでない」、とその頭を撫でてやった。 「華、すまんが小日本を頼んだぞ」 そう言って、弱った小日本を華に託すと、鬼子は斬られた触手を再生させた悪鬼へ走った。 しなる触手を掻い潜り、噴きかけられる悪鬼の汁を薙刀ではじき返す。 「鬼子様、依り代の少女は病で体が弱っております。早々に浄化を!」 「ふむ、あいわかった!」 気合の入った掛け声を上げて、鬼子は薙刀を前方でくるくると旋回させる。向かってきた触手を全て巻き込んで切り裂いてしまうと、悪鬼の懐に一瞬で入り込み、一閃。 薙刀の残像が悪鬼の上部を切り裂いた! 「デュハッ!!」 「この日本鬼子、鬼の血を継ぐ者として貴様の魂、刈り尽くす!」 悪あがきに伸びてきた触手をついでとばかりに薙ぎ払って、鬼子はそのまま薙刀を悪鬼の腹深くへ突き刺した。 とたん、舞いあがる鬼子の紅葉。一陣の風が鬼子と悪鬼を包み込んだ。 「萌え、散らせっ!」
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- 【蔑称ではない】鬼子SSスレ【萌なのだ】
354 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:01:52 ID:wWFiynJU - 鬼子の一声でパッ、と散開し消えていく紅葉。その後には一片の悪鬼もなく、残されたのは鬼子と、その胸の中で苦しそうに息を荒げる里香のにだった。
「雨宮さん!?お、鬼子ちゃん、雨宮さんは大丈夫なの?」 小日本を抱きかかえたまま、華は二人のもとに駆け寄った。どうやら里香には意識はなく、眠っているようだ。 「悪鬼の浄化はすんだんじゃが、この娘、ひどい熱じゃ。早く布団に寝かしてやらねばの」 「じゃあうちに連れて行こう!鬼子ちゃん、雨宮さんをおんぶ出来る?」 「なぁに!こんなの朝飯前じゃ」 里香は夢を見ていた。 巨大な黒い塊。それには無数の目がついていて。 そのどれもが、里香を非難するような視線を投げかけてくる。 “お前のせいだ” “お前が一番最初にいじめてたじゃないか” “あいつがうらやましいばっかりに” “なんの罪もない、中村華を” “なんて奴だ” 最初は優しい言葉だけを、里香を擁護する言葉をくれたそれらは、今は里香を詰り追い込む言葉しかくれなかった。 反論しようとする里香だが、喉の奥がひどく痛み、声がうまく出ない。 それを良い事に、目たちは声なき声で里香をいじめてくる。 里香は聞きたくなくて、耳を塞ぎながらその場にしゃがみこんだ。 だが、あいつらの声は聞こえてくる。 もう、いやだ。助けて。あたしは、こんなの望んでなかった。 本当は、本当は。 「華と友達になりたかったんじゃろう?」 視界が一気に明るくなった。 あの黒い塊はいなくなっていた。そこにいたのは、紅葉の模様が美しい着物を着た女性。 黒髪がそよぐ風にたなびいて、飛んでくる紅葉と一緒に揺れる様はまるで映画か何かのよう。 その女性は、蹲る里香に手を差し伸べた。 白い、綺麗な手だ。 まごついていると、女性はいつの間にか里香のすぐ目の前まできて、遠慮している里香の手をそっと握ってくれる。 温かいけど、ひんやりした、不思議な手。 「いこう、雨宮里香。大丈夫じゃ、華はきっと許してくれる」 立ち上がり、一緒に歩き出す。 視界はどんどん眩しくなって、目も開けられないほどになっていった。 掴まれた手の感触を強く感じたとき、ふ、と心の奥の方で、何かが消えた気がした。
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356 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:03:15 ID:wWFiynJU -
里香が目を覚ますと、そこは見慣れない場所だった。 額には濡れた布の感触。 それを手にとって起き上ると、里香はきょろきょろ周りを見渡す。 どう考えても、里香の部屋ではない。 どうやら客間のようで、里香が寝かせられていた布団以外は水差しとコップ、そして薬が置かれた盆以外は何もない、畳の部屋だ。 しばらくすると、離れたところから誰かの足音が近づいてくる。 とっさに里香は再び布団をかぶると、寝たふりをした。 襖が開けられる音のあとに、人間が二人、入ってくる気配。 「雨宮さん、まだ起きないみたいねぇ」 一人は大人の女性の声だ。だが、その後に聞こえた声を聞いて、里香は全身が心臓になった気分になる。 「薬効いてるもんね。あ、起きたらきっとお腹すいてるよね。おじやでも作っておこうか」 中村華。あれは確実に、華の声だ。 ということは、もう一人の声は華の母親の声ということか。 里香はバレないように布団の隙間から薄目をあけて二人を窺う。 「そうねぇ、鬼子ちゃんたちも食べるかしらね?じゃあ、お母さんちょっとお台所に行くから、雨宮さんのこと見ていてね」 「うん」 再び襖が開けられ、そして閉められる音がした。 その後に迎えるのは無音。 そのまま里香が固まっていると、華が近づいてくる気配がした。 「寝てる、よね…?」 華は一人ごちると、そっと里香の寝ている布団の上から手を置いて、話始めた。 「雨宮さん、あたし、怒ってないからね」 ドキン、と里香の心臓が跳ねる。 「いじめられたのは、確かにつらかったけど…でも、雨宮さんのこと知ろうとしなかったあたしも、悪いよね」 「さっき、うちに城崎さん…ううん、亜子ちゃんたちが来て、謝ってくれたんだ。そんで、そのとき聞いたんだ。その、今日の朝のこと」 朝、昨日の寒さと長風呂の影響でか、見事に風邪を引いた里香は心の中に巣食うもやもやと闘っていた。 熱の幻覚か、里香の心の闇をさらけ出すような声が聞こえ始めていたのもそのときだった。 いつも朝は一緒に待ち合わせ場所に行く亜子の訪問を受けた。 「おはよう!…って里香ちゃんどうしたの?風邪?」 「う、うん…そうみたい」 「そっかぁ。あ、でも安心して、中村の奴は私たちがしっかりいじめておくからさ」
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357 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:04:11 ID:wWFiynJU - 「……」
「里香ちゃん?」 里香の内心をまったく知らないために出た軽口なのだが、そのときの里香はすでに悪鬼よって支配されつつあった。普段は装える心が、今は心の奥にしまいこんでいた本音も表面に出てきてしまっていたのだ。 「あんたはいいよね…」 「え?」 「あんたは、どっちの親も兄弟もいる。愛されてる!でもあたしは…?あたしのお父さんは、あたしが風邪でも仕事の方が大事。どんなに熱があっても!どんなに苦しくても!あたしを置いてでていっちゃう…。 中村も仲間だと思ったのに、同じ境遇だと思っていたのに…あいつには私が欲しくても手に入れられないものをもってた!ズルイズルイズルイ!!」 「ちょ、ちょっと…里香ちゃん…?」 「亜子にはわかんないでしょうよ!だってあんたは愛されてるからね!他の子もそうよ!でも…あんたたちにはそんなこと言っても理解できないんでしょ?そうなんでしょう?だから、中村がきたときは嬉しかった。やっと、分かり合える仲間が出来た。そう、思ってたの、に……」 里香は勝手に、華に裏切られたという感情を持っていたのだ。同じ学年で、似たような境遇で、同じ寂しさを抱えていると思っていた。だが、それは違ったのだ。 一人で空回りして、一人で感情に振り回されて、思った以上に里香の精神は疲弊してしまっていた。 里香の吐露に驚いた亜子は唖然として里香を見つけている。 「亜子も、あの子たちも。いじめる相手は誰だってよかったんでしょ?ただ、ちょうどいいときにあたしが中村に突っかかってたから!どうなのよ!なんとかいってみなさいよ!」 「あ…ぅ…、そ、それは…」 「あたしが率先していじめてたのを面白がってただけのくせに、一人じゃ、中村のこといじめらんないくせに…」 「里香ちゃん…」 「もう、慣れ慣れしく呼ばないでっ!」 ばんっ、と勢い良く家のドアを閉めると、里香はそのまま自分のベッドにダイブした。 そして、眠りにつくまで泣いた。 里香はこんなに自分の本心を曝け出したことはなかった。心の闇の、一番醜い部分をだ。 後悔はあった。だが、やけにスッキリした気分になったことは覚えている。 何重にも着た嘘の自分が、そのとき、全て一つにまとまって本当の自分に溶けていく、そんな不思議な感覚だった。 「亜子ちゃんたち、雨宮さんにも謝りたいって言ってて…。う、うーん、もうちょっとうまく説明出来ないと…」 里香が朝の出来事を思い出していると、傍らでそんなつぶやきが聞こえた。 里香は人知れず、くす、と笑う。 なんとか里香を傷つけず、そして仲直り出来るように考えているらしい。本当は里香が一番悪いのに、この中村華という少女は優しい子なんだな、と少し心が温かくなった。 今までいじめていたのだ、本当なら華は近寄ってもほしくないんじゃないかと思う。 けど、それではやっぱり違う。 だって、だって本当は華と仲良くなりたかったんだもの。 これから、友達を、始められる…かな? 「なかむ…、華、ちゃん」 「っ!?お、おおおおお、お、起きてたのぉ!?」 ふいに起き上ると、華は顔を真っ赤っかにしてうろたえていた。あの一人言が相当恥ずかしいらしい。「どっから!?どっから起きてたの!」、としきりに聞いてくるさまが面白くて、里香は思わず声を立てて笑ってしまう。 「あははっ、たぶん、全部」 「えっ!ちょっ!えぇー!起きてたなら起きてよぉ」
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358 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:05:06 ID:wWFiynJU - 動揺しすぎて変な日本語になる華。赤いままの頬を両手で挟んでしきりにうめき声を上げていた。
「あのね、華ちゃん」 「え、あ、はい!」 「今までたくさん嫌なことして、本当にごめんなさい!」 掛け布団を押しのけて、里香は正座になると、深く頭を下げて謝った。こんなことで許してもらえると思っていなかったが、やはり謝るということが一番大事だと、里香は考える。 「あ…、……」 「こんなことで、許してもらえると思ってないけど…でも、って」 顔をあげると、半泣きの華がそこにいた。里香は慌てて起き上り、華の両手を掴む。 「ごめん、ごめんなさい!そんな、泣くほど辛かったなんて、あたし…っ!」 「違うの、大丈夫」 こぼれそうだった涙を瞬きで飛ばし、華はにっこり微笑んだ。 「あのね、里香ちゃん」 「はい!」 「許してほしかったら、あたしと…友達になってほしいな」 穏やかにそう言う華は恥ずかしそうに顔を伏した。小声で「あたし、まだちゃんとした女の子の友達、いなくて」、と呟く。 それを聞いた里香は嬉しくて、嬉しくて。 でもそれを全面に出すのはなんだか悔しい里香。 苦し紛れに、やはり里香も顔を赤くしながら、 「…い、いいわよ。そんくらい…」 「ほんとに?…えへへ、ありがとう」 素直にそう言う華に、負けている気がしないでもない、里香なのであった。
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359 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:06:46 ID:wWFiynJU -
「青春じゃな!」 襖の間から二人の様子をうかがっていた鬼子は、うんうん、と頷いてほっと胸をなでおろした。 さすがに悪鬼絡みとはいえ、首を突っ込みにくい話題なので、どうしたものかとハラハラしながら眺めていたのだが、万事うまくいって本当によかったと思う鬼子。 その横でハンカチを手に涙を拭う小日本もほっとしていた。 鬼子も小日本も、今は人外的な要素は全て隠しているらしく、はた目から見たら和装の美少女である。 「鬼子様、悪鬼も退治でき、しかも華様のイジメ問題も解決したのは本当によかったですね」 「そうじゃな、まぁ華はタミに似て芯が強く優しい子じゃから解決するのは道理であろうな」 豊かなバストの前で腕を組み、鬼子は得意げに言った。 小日本も同意らしく、そうですね、と嬉しそうにちょこっと出した尻尾を振っていた。 「鬼子ちゃんこにちゃん、どう?あの子たちうまくいったかしら」 背後から小さい声がした。 客間の二人を気遣って声を落としたのは、華の母親、中村清羽(なかむらきよは)。 短くした髪はやはり、華と同じように癖っ毛のようで毛先の方がぴょこんと跳ねている。付けたエプロンで濡れた手を拭いながら、そっと襖の隙間から中を覗きこんでいる。 「母上様、二人はもう大丈夫のようです」 「うむ、もう心配いらぬぞ。清羽」 「そう…本当によかったわぁ。まさかあの子がいじめにあっているなんて思わなかったけれど…」 「華は優しい子じゃからな、お主に心配をかけたくなかったんじゃろうて」 「そう、ねぇ…。でも親としては、もっと心配かけてほしいものなのよ」 「そういうもんかの?」 「ふふ…そういうものよ。あ、御夕飯出来たんだけど」
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360 :鬼子と華と2[]:2010/11/03(水) 20:08:16 ID:wWFiynJU - 清羽がそう言うと、鬼子はふんふんと鼻を引くつかせた。食欲をそそる、良い匂いが漂っている。
「よし、小日本!夕餉じゃ!」 「はい、鬼子様」 「うふふ、元気ねぇ。…二人とも襖開けてもいいかしら?」 清羽が声をかけると、客間の中からこれまた元気な声が聞こえた。 これからきっと、悪鬼たちは姑息な手段で鬼子を、華を追い込んでいくかもしれない。 けれどこの幸せな一時が、そしてこの芽生え始めの友情が二人を助ける日がくるだろう。 辛い戦いも、この幸せのために。 その日、中村家には楽しそうな笑い声が絶えなかったという。 ひとまずおわれぇ! 長々と拙い文章ですみませんでした。 誤字脱字など意味不明な表現があるかと思いますが、そこは温かい心でスルーしていただけると 幸いです。 蛇足ですが、地味に鬼子と小日本以外の登場人物は国名をもじった名前をつけています。 中村家はみんな、あの某国です。 他、里香などは雨宮里香→アメリカ 城崎亜子→ロシア などです。 まぁこうしている意味はないんですがw それではスペースありがとうございました。 また続きを投下するときはよろしくお願いします! あと、途中支援くださった方ありがとうございました。
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368 :創る名無しに見る名無し[]:2010/11/03(水) 21:04:24 ID:wWFiynJU - >>367
乙です! なんかわかんないけどヤイカガシに萌えた。なぜだ…。 キャラクターがみんなチビキャラで再生されたよ。
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