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165 :欺き、欺かれて 1@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:04:31 ID:PXclu2b7 - 『さて、この女の扱いは如何しようかな?』
目の前の全裸の女、パッフェルの首筋を少しなぞる様にゆっくりと剣を這わせながら、 僕達は少し思考する。 この女は今の所、そう“今の所”は僕たちに従順だ。 質問には答える、無駄な動きはしない、実に理想的で模倣的な捕虜の姿を体現してくれている。 僕達としては多少の抵抗や卑屈な命乞いをしてくれた方が面白かったのだが、 この女、どうもただの素人という訳でもなさそうだ。 そう何らかの訓練を受けてきたか、もしくは相当の修羅場を潜り抜けてきているのであろう。 今の状況も初めて身を置いているという訳では無さそうだ。 似たような経験はすでに何度か経験済み…か。 つまらないな、実につまらない。 この手の人間は幾ら肉体を汚されようが、傷つけられようがそれで堕ちるという事が期待できない。 情報を得る相手としては“当たり”だったが、僕たちの望む娯楽の相手としては“外れ”か… 最終的に殺すのだとしても、僕達としても過程というのは大事だ。 ただ、殺す。 無慈悲に、利己的に、憎む訳でもなくまして愛など持つ訳も無く、目の前に群るものに悪意の鉄槌を振り落とす。 これも実に楽しいのだけれど、これをするのであるのであれば、 そう、もっと大勢の生贄共でなくては楽しみようがない。 大勢の無力で矮小な生贄の奏でる阿鼻叫喚こそが殺戮の矜持。 力ある者は、より巨大な存在に魂さえ屈し、虫けらの如く地べたを這いずり回らせ、 己をこのような地獄に叩き落した神への恨み言を吐かせながら苦悶の末に殺す方が何倍も楽しい。 だからこそ、実につまらない。 この女は多少の悲壮感や自分の恋人への未練等は残すかもしれないが、それでは足らない。 久しぶりに現世へと転生したというのに実に味気無い。 どうせ今だって内心では脱出の機会でも窺っているのであろうし、殺す理由としては充分だが…
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167 :欺き、欺かれて 2@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:08:42 ID:PXclu2b7 - …?
…恋人? あぁ、実に言いことを思いついた! この鉄の処女(アイアンメイデン)に僕達が血肉を与えてあげようじゃないか。 神に代わり、悪魔(ルカヴィ)から汝に血と慟哭の祝福を! …あぁ…あぁ…これこそが現世の楽しみ。 愉悦を堪え切れない僕達の顔はどんなに歪みきっているのであろうか? 新たな楽しみを見つけた今となっては情報を聞き出すためとはいえ、 今、この瞬間さえももどかしい。 だけど急いてはいけない。 焦って壊してしまってはこの玩具は二度と元には戻らない。 …ハハハ…クスクスクス…ゲラゲラゲラ… 僕達らしい実に纏まりの無い笑い声を心の奥に潜ませる。 僕達はとても腹ペコだ。 じっくりと下拵えをして、味を調えてメインディッシュを愉しませて貰わなくては。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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169 :欺き、欺かれて 3@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:10:44 ID:PXclu2b7 - まずは一つ息をつく。
何事も出だしが肝心! 急いてはことを仕損じる! まぁ、でもそういっちゃえば、この状況の時点で駄目駄目なんですけどねぇ… 「分かりました、私の知ってる事ならお教えしますから、 取り合えずこの剣を下げてくれません? この格好にこれは冷たすぎるんですよねぇ〜。 …って、言っても駄目でしょうけど」 「正解です、ですが謙虚な姿勢は賞賛に値しますよ?」 私の首筋にひたひた剣を当てながら、後ろの少年に警戒を解く気配は無し。 というより、言葉と違って全然賞賛する気ないですよね? むしろ期待外れでつまんないって感じなんですけど? 「まぁ、良いですよ。 その程度の度量の狭さということで許して上げます♪ で、私から何が聞きたいんですか?」 ペースを向こうに完全に持っていかれないように軽口を叩きつつ、向こうの出方を窺う。 一瞬、考えた後に少年は口を開いた。 「そうですね…あなた方の世界の事について、少し教えてもらえませんか?」 いきなりそう来ましたか。 これで少なくとも私の事を知っていたのにも合点が言ったってもんですよ。 今の所、私が出会った異世界の人間はオグマさんただ一人。 そのオグマさんは異世界の知識なんて(失礼な言い方ですけど)全くもって持っていなかった。 もしかしたらオグマさんが特殊な例だったのかもしれないけれど、 私たち意外には召喚術が普及していない世界が多いという可能性が高い。 なのに、相手に異世界の事を聞いてきた上に、こちらの事をある程度知っているというのなら可能性は一つ。 この少年が“主催者側と繋がっている”という事。
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171 :欺き、欺かれて 4@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:11:57 ID:PXclu2b7 - ……うわぁ、ババ引いちゃいましたぁ。
それにしてもこの少年、優位な立場だからって慢心しすぎじゃありませんか? たった一つの言葉からだって、このくらいの推測は出来ちゃうってもんですよ? ……まぁ、元から生かす気が無いからなんでしょうねぇ。 さて、困りました。 知ってる事、全部話しちゃったらマグナさん達にどんな影響が出てしまうかも分からないし… 聞いてきた以上、詳しくは知らないんだろうから虚実織り交ぜて適当にはぐらかそうにも通じるとも思えませんし。 ありゃ、完全に袋小路ですね。 まぁ、まずはけん制程度に初歩的な事でも。 「そうですねぇ〜、私達の世界はリィンバウムと言いましてぇ…」 「いや、そこら辺は結構です。 もっと具体的にあなた方の世界で『何があった』のか、お教え願えませんか?」 聞いて来た癖に冷ややかに全否定。 本っ当に礼儀ってもんが無いですねぇ。 まぁ、でも狙いはやっぱり『ディエルゴ』って事でいいみたいですね。 それにしても変ですねぇ? 何で主催者側の人間がディエルゴの事をわざわざ私に尋ねるのか? 「と、言われましても〜、強いて言うなら悪い奴が居たんで私達で〆ちゃいました〜ってくらいですかねぇ?」 うん、我ながら実にざっくばらんでいて、事実に違えていない説明。 「ほぅ、貴女方の手でその『悪い奴』を討伐できたというのですか?」 ほんの少しだけ少年の言葉に興味が混じっている。 これは完全に手段の方に興味があるみたいですね、私達の実力で倒せたなんて本の一ミリも思っていない感じ。 と言っても、こればっかりは実力だからしょうがないんですけど。
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172 :欺き、欺かれて 5@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:12:44 ID:PXclu2b7 - 「まぁ、あんな奴は私達が力を合わせたらちょちょいのチョイでしたよ♪」
首筋に当たる剣先に僅かに震えが伝わる。 この感じ、もしかして笑っている? 「そうか、そうでしょうね。 蟻だと思っていた者に食い破られたか。 確かに個々の力は脆弱なものなのに貴女方はいつだって群れを成すことで時として想像を超えた力を発揮する。 …フフフ、煮え湯どころじゃない、随分と面白い目にあったようじゃないか」 言葉の端からは多分ディエルゴに対しての侮蔑と愉快さが混じっている。 でも、背後から感じる視線には禍々しいほどの憎悪が込められている。 まるで何か不快な事を思い出させられたかのように。 「でも、それだけじゃないんでしょう? 例えば、何か貴女方を支えるような力を持った者がいたとか?」 憎悪が消え、前までと変わらない涼やかな様で威圧的な態度で少年は尋ねてくる。 これはアメルさんやネスティさん、それにマグナさんの事を聞いてる? ……正直、死者に鞭を打つようで心が痛みますが許してください。 「…少なくとも、あなたが尋ねている人物なら既にこの島には居ませんよ…」 私の言葉を理解した瞬間、背後の少年の気配が一変した。 憎々しげに舌打ちをすると何事かをぶつぶつと呟いている。 「…クソッ!……そういう事か…確かアメルとか言ったか?……やはり、ただの器の候補と言うだけではなかったか…」 やはりこちらの細かい事情までは知らなかった様子ですが、 あの様子だと天使アルミネの事すら知らなかった? どうも、主催者側も一筋縄ではいかないような連中の集まりみたいですねぇ。 アメルさんには本当に申し訳なかったですけど、 これは大分、重要なことがわかりましたよ。 生きて帰れればの事ですけどね。 背後で少々取り乱していた少年の気配がまた元に戻る。 ……この感じだと。
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174 :欺き、欺かれて 6@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:14:15 ID:PXclu2b7 - 「まぁ、この位でいいでしょう。 どうせこれ以上は面白い話は聞けそうにありませんし」
ついに来ちゃいましたか。 結局、逃げる算段も碌に見つからなかったという事ですか。 「あっちゃ〜、それは私がもう用済みって事ですかねぇ?」 こうなったら一か八か覚悟を決めていくしかないですね。 「用済み? まさか、貴女の命は保障しますよ」 せ〜の!と、頭の中で踏ん張っていたのにいきなり出鼻をくじかれちゃいました。 どういう事でしょうね、さっきまでは殺す気満々って感じでしたのに? どっちにせよ、凄く嫌な予感はするんですけど。 「まずは目を瞑ってゆっくりとこちらを向いて貰いましょうか? おっと、不用意な真似をしたらすぐに切り捨てますよ」 それって全然保証してないですよね?という些細な疑問はこの際、封印しておく。 どんな算段があるのかは知りませんけど、 背後を取られたままなのよりは正面きって向き合える方がまだマシですし。 言葉通り目を瞑ったまま、ゆっくりと振り返ろうとして強引に抱き寄せられた。 驚く間もなく、自分の唇に暖かい感覚が重なるのを感じる。 「…ツッ!?」 目を見開き、強引に奪われた唇を引き離す。 体は完全に抱き寄せられており、相手の見た目からは想像も付かないような力で締め上げられ、 これが精一杯の抵抗である。 「やっぱり、私の体が目当てだったんですか、ムッツリスケベさん?」 ここにきて初めて見た少年の素顔は割りとハンサムだけれど、 全身から滲み出している感覚は私に不快感を味合わせる。 「体? 残念。 僕達が興味があるのはあなたの心ですよ。 外的刺激があった方が隙が出来ると言うものですからね、 ほら、 こ の よ う に 」 瞬間、少年の目が妖しく輝いたのと同時に私は自分が失態を犯してしまったのだと自覚した。 その瞳に吸い込まれるようなこの感覚、これは――― ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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176 :欺き、欺かれて 7@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:15:00 ID:PXclu2b7 - 手探りで辺りを探りながら、私は廊下を彷徨う。
別に視界が暗い訳じゃないけれど、 自分がまだ夢の中にいるとも限らないから現実感が欲しいだけ。 目が眩む。 血と共に体温まで失われた所為か、寒気と気分の悪さに襲われるから。 傍から見れば夢遊病者かのような揺れ動く自らの歩みの遅さにじれったさを覚える。 ―――早く、デニムを見つけないと――― 置いていかれる。 忘れ去られてしまう。 …また、 また、孤独(独り)になってしまう。 昔からそうだった。 私は単に独りになるのが怖かっただけだった。 育ての親の為に復讐する事なんか如何でもよかった。 だって、そうして周りに合わせないと、 置いていかれてしまうからしょうがなかった。 自分の主体性の無さも、他人への依存も理解している。 見ないようにしてるだけ。 だって、 だって、それを認めたら自分が空っぽだって認めてしまうもの。 隠されていた自分の血筋では空っぽだった自分を埋める事は出来なかった。 何が王妃だ。
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177 :欺き、欺かれて 8@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:16:45 ID:PXclu2b7 - 所詮、私は田舎娘か修道女の域を出ない教育しか受けてきていない。
王妃足りえる気品とか振る舞いなんか出来る訳がないじゃない。 都合の良い人形として丁寧に扱われるだけ。 それは今と何も変わっていないじゃない。 肩書きとかそういったもので私は埋められない。 だから唯一無二のものが、愛情が私は欲しい。 でも、私には… ―――血の繋がった家族はいなかった。 最初から、孤独(独り)だった。 周りの者が当然として持っていた絆すら端から持っていなかったのだ。 それでも、養父は私を娘として扱ってくれた。 義弟は私を慕ってくれた。 その不確かな愛情だけが私を埋めてくれた。 でも、それさえも過去のもの。 養父は奪われた。 義弟は去って行った。 みんな、私を置いていった。 ―――マタ、ワタシハカラッポニナッテシマッタ。 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! 独りは嫌!
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179 :欺き、欺かれて 9@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:18:03 ID:PXclu2b7 - 誰かに愛して欲しい、私だけを見つめて欲しい。
空っぽな私を埋めてくれる、それだけが私の欲しいもの。 だから、 だからだからだからだからだからだからだからだから!! 『それでも僕は姉さんを愛している!』 嬉しかった。 泣き出したかった。 やっぱり、本当に私の事を理解してくれているのは彼だけだと思った。 それが例え、義弟なのだとしても。 なのに。 “私が今見ているこの光景は一体何なのか?” 抱きしめられ、虚ろな表情の裸の女と、 それを抱き支える笑みを湛えた男。 女の方は知らない、如何でもいい。 でも男の方は知ってる、嫌と言うほど。 自分の義弟を、愛を囁いてくれた人を、私を埋めてくれる人を見間違える訳は無い。 物音が聞こえた部屋を覗き込んで見せられた光景。 見たくなかった、知りたくなかった。 反射的に身を隠した自分にも嫌気が差した。 それは自分を卑屈に感じさせたし、 何よりも裏切られたのだと実感させたから。 裏切った? 誰が? デニムが私を裏切る訳が無い。 きっと、 あれはそうだ、きっとデニムが“誘惑されているに”違いない。
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180 :欺き、欺かれて 10@代理 [sage]:2010/11/03(水) 23:20:11 ID:PXclu2b7 - 噛み締めた唇から血が滲む。
そうやって、また私から奪っていこうっていうんだ。 みんなみんな、どうして私だけから奪ってしまうのよ! 再び部屋の中を仰ぎ見る。 声ははっきりとは聞き取れないが、 デニムが女に対して何かを囁いている。 あれはきっと私への弁明に違いない。 誘惑に負けて、一時の感情に流されている事に対しての。 大丈夫、後でちゃんと話してくれさえすれば私はあなたを許すわ。 だって、そうよね? デニムはここに来るまでずっと我慢してたみたいだから。 多分、まだ姉と弟だった事に抵抗があるのよね? 真面目な子だから。 一度、視線を離し、呼吸を落ち着ける。 デニムには聞きたい事が沢山ある。 ちゃんと真剣に向き合って話し合わないといけない。 許すつもりだけど、あんなにあっさり誘惑に乗った事へのお説教もしなくちゃ。 「…でもね」 私は懐から短剣を取り出して握り締める。 「でもね、デニム。 その女は駄目」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
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