- 魔女っ子&変身ヒロイン創作スレ6
139 :創る名無しに見る名無し[]:2010/11/01(月) 21:15:20 ID:WFamnoBC - スレ違いスレスレっぽいけど、試しに投下してみます。
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141 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/01(月) 21:19:23 ID:WFamnoBC - タイトル「天使ノ要塞」
定義 AMS:アーマード・マテリアル・スーツの略。ようするに機械式の強化服で医療や土木作業などを目的に製造・販売されている。 容姿は様々だが人間が着込んで操作するため人型で、汎用性を重要視してコンパクトに作られている。 各パーツには規格があって、別の機体のパーツを付け替えたりというのもできる。 発動機(ジェネレータ)にはバッテリー式と発電機を直接据え付けているタイプがあり、一般に発電機式の方が馬力が出ると言われている。(逆に言えばバッテリー式はパワーは無いが静音性に優れている) 重量はだいたい200キロ(大型では1トン近い物もある)。でも2トンくらいの物を持ち上げる馬力がある。 AMSの所持・運用に免許は必要無いが、その整備や改造等には専門的な知識が必要となる。 第1話(1)「流れ星、大地に立つ」 それは穏やかな昼下がり。 国内でも屈指の資産家である如月家の午後はいたって慎ましく、テーブルの皿に盛られた焼き魚やお味噌汁、ついでにのりたまを掛けたホカホカご飯が周囲の風景――たとえば食卓の置かれている部屋は三十畳もある洋風造りで、 白い壁にはいかにも値の張りそうな絵画やらブロンズ像やらが置かれている――とどうにもミスマッチな様相を呈しており、傍らに立つ黒服執事も年季の入ったというよりは疲れ切って老けて見える顔を席に腰掛ける少女へと向けるばかり。 如月家のご令嬢、如月雫(しずく)は限りなく庶民的な感性を持つお嬢様だった。少なくとも本人はそう思い込んでいた。 だから昼食なんて、極端な話数百円の牛丼でも構いやしないのだ。 だけど、それじゃあ執事さんはもとより厨房を預かる専属シェフだって立場がない、というわけで焼き魚定食よろしくの献立に決まったワケですがそれでも焼かれた魚は極上の鮎だったし味噌汁に使用されている味噌とか米も一級品だったりする……。 そんな雫ちゃんは近所にあるお嬢様学校に通う二年生。今日は祝日といった理由から家でのんびりしているが、本当ならばかでかいリムジンの後部座席に揺られて登校し、非常識なお嬢様方と机を並べて学業に励んでいるハズなのです。 雫は学校があまり好きではなかった。なぜなら話の合う友達が居ないから。 ブランド物の洋服やバッグには興味が無いし、どこそこの社交会で素敵な男性と話をしただとか聞かされたって「それはよろしゅうございましたわね」 としか返しようがない。まったく本当にウンザリする。 とはいえ。アニメや漫画にプラモデル、ラジコンカー(ヘリ含む)といった趣味に最近ではインターネットもだけど、そういったモノにどっぷり浸かっている雫と歩調を合わせられるお嬢様など当然ながら皆無。 かといってネットで友達を募集するというのも怖いし恥ずかしいから、結果としてお宅のお子さんは友達とも遊ばないで部屋に引きこもってとかなんとか言われてしまいそうな今日この頃なのです。 粛々と焼き魚をついばむ雫。やるせない溜息はご愛敬、いつものことだ。 そんな少女の所へ凄い勢いでやって来た一人のご老人。名は如月源八。雫の祖父にして如月家の当主たる御仁である。 オイルと鉄の匂いの染みついた白衣を着込んだまんま、源八は少女の前に立った。 「雫よ! 喜べ! ついに完成じゃ!」 「落ち着きなよ爺ちゃん。青筋立てた顔で孫に迫ってこないで。ってか臭すぎてご飯が不味くなるからあっち行ってよね」 「うむ、さすがは我が孫! 素晴らしい毒舌っぷりじゃ! よしほっぺをスリスリしてやろう」 「消えて無くなれ変態っ!!」 執事の黒田さんが素早く冷水の入ったコップを差し出し、源八爺さんは引ったくるとゴクゴク喉の奥へと流し込む。 「ぷは〜」といった息の後、爺様は目を輝かせてこう言った。 「ついに完成じゃ! これでヤツをぎゃふんと言わせるのじゃ!!」 「……全然落ち着いてないわね。まあ、らしいっちゃらしいのだけれど」 雫は溜息を吐いて催促する。 「それで、何が完成して、誰をぎゃふんと言わせるのよ?」 「おお、そうじゃった。雫よ、ついてくるのじゃ!!」 爺様が登場した瞬間には雫の向かい側に昼食を並べ終えていた執事さん。 けれどズズッと胃袋に流し込む様子を見てどこか消沈気味だった。 味わう暇もなく食事を終わらせた源八爺さんは次に孫を無理矢理立たせると引きずって部屋を出てしまう。 執事は途方に暮れてコップに水を注ぐと一気に飲み下していた。
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142 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/01(月) 21:26:26 ID:WFamnoBC - 第1話(2)
爺様に連れられてやって来たのは如月邸の地下に設置された研究所。 そこでは白衣を着込んだ人々が慌ただしく行き来しており、爺様とすれ違う際には必ず会釈する。如月源八はこの研究所にあって一番偉い人なのだ。 「普通のAMSを作ろうと思うなら苦労などせん。メーカーに図面と金を渡して作らせれば済むだけの話じゃ。 じゃが普通でないAMSを作ろうとすれば、そりゃあもう苦難と挫折の連続じゃったわい。 エンジンは軽量小型で大出力。俊敏性を引き出す丈夫で強力なモーター。装甲とて耐電耐熱耐水対放射線は当たり前。ユンボのシャベルでどついても歪まない強度と軽さが要求される。 そして最も重要なのはシステムとそいつを機能させるためのドライバ。 ヤツはこれらをたった一人で作りよった。ワシには逆立ちしてもできん事じゃ。じゃが、並の天才でも数を集めて年月をかければ追い抜ける。ヤツに一泡吹かせられるはずじゃて」 コンクリート敷きの床を歩きながらご老体は朗々と語ってくださるけれど、雫ちゃんにはワケわかめ。 もちろん雫は家に地下室があって多くの人達が務めていることを知っているし、遠巻きながらにでも見ていればAMSの開発に携わっていることも分かる。 「それで、さっきから言ってる【ヤツ】って誰よ?」 「ワシより30は若い男じゃ。元は国立の科学研究所におったが追放されての。ってかワシが難癖つけて追い出してやった。じゃがヤツめ、今になって組織の最高幹部として返り咲きよったわ」 「で、なんで爺ちゃんはそんな人と張り合ってるのさ」 「ふん、決まっておろう! 嫉妬じゃ! ついでに言えばワシがツバつけとった女をかっさらいよったからじゃ!」 「……完全な私怨じゃない」 「何を言う! ワシは正しい! ワシの欲求は全て叶えられねばならんのじゃ!!」 「相変わらず良い性格してるわよ爺ちゃん」 身内がこんなのだと家族が苦労する良い例だった。 でもこんなのでもいくつも賞を貰っているし百以上の特許を取得していて年収は数十億円ときたもんだ。 如月家の豪邸も一人で建てたし、それでも有り余る財力を使って百貨店とかいくつも買収しているし。もちろん地下で働くこの人達も爺様の個人資産で雇用しているわけだし。 元々面倒見の良い性格だから雇われてる人達は新興宗教ばりに源八さんを崇拝しているけれど、そのお孫さんとしては複雑な心境だったりするのです。 源八爺さんは長い廊下を突っ切って、エレベーターでさらに地下へ。案内表示を見る限り地下5階まで来たらしい。止まった箱から飛び出すと、そこは薄暗い一室だった。 「え、何コレ……?」 壁は全て金属らしき材質で、床も同じ色合いだった。照明器具が見当たらないのに部屋はそれなりの明るさを保っている。 部屋の奥には機体を据え付けるデッキが三つ。その真ん中に赤い塗装の人型機械が固定されていた。 「AMS−HD3000。機体名【シューティングスター】。 動力源は電池と小型発動機による混合型。見た目は華奢で貧弱そうじゃがこれでも1200馬力は出る。 従来のパワーモーターや油圧式ではなく人工筋肉を採用したから敏捷性ではどこにも負けん。 素晴らしい機体に仕上がったわい」 う〜ん。そんな細かいこと言われたって理解さえ出来ないのだけれど。 とりあえずそういった物をこしらえたエンジニアの人とかSEの人は素直に凄いと思える。 爺さんは赤い塊の袂まで近づくと、流線型の目立つそのボディを愛おしそうに撫でた。 「ワシら技術屋の意地と知恵の結晶じゃ。そしてコイツは今日から雫、お前のモンじゃ」 「………は?」 「お前はコイツと共に愛と平和と正義のために戦うのじゃ!」 「……いや、ちょ、それは」 唐突に話を振られて挙動不審になっちゃう雫ちゃん。 そうなのです。爺様は別段、孫娘に自分の仕事っぷりを見せたくて連れてきたわけじゃあなくて。 作った試作機のテストパイロットにするために、というか機体の微調整(雫の体に合わせたりとか)するために連れてきたのです。 もっと分かりやすく言うと、雫ちゃんは機体が完成する前からパイロットとして登録されていたという悲劇。 普通の娘さんであることを誇りとする雫は脳みそがフリーズして言葉も出ない状態になった。 「なんじゃ、嬉しさのあまり言葉も出んか。大変よろしい!!」 かっかっか。どこぞのご隠居様よろしくの笑い声は、少女にしてみれば平穏な日常が脆くも崩れ去る音に聞こえた。
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143 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/01(月) 21:27:24 ID:WFamnoBC - 第1話(3)
如月邸の地下にはAMSを作ったり修理したり格納したりするドックの他に管制室が置かれている。 ようするに作戦司令室。 前面には巨大なスクリーンがあって、国内のあらゆる情報――天候から交通状況、果てには株価まで――が映し出されている。 話を聞く限り衛星に専用チャンネルを設けて二十四時間繋いでいるらしい。 またそこにはオペレーター達が詰めていて、警察や消防といった機関といつでもコンタクトできるようになっている。 というか、一体何と戦うんだってなくらいの物々しさだ。 「じゃあ雫ちゃん、今のをもうワンセットやりましょうか」 『え〜、まだやるんですか〜?!』 スクリーンの中ではAMSを装着した雫がいて、こちらに向かって腕でバッテンして見せている。 ワリと冷たい音色の女性が苦笑しながら一番高いところでふんぞり返っている源八爺さんを一瞥した。 「だめよ。耐久テストなんだから長い時間動かないとデータが取れないもの。 でも、そうね。テストが終わったら何か甘い物でも食べに行きましょう。如月指令の奢りでね」 『え、ホント? あたしルリエのモンブランが食べたい!』 「だ、そうですよ司令」 話を振られた源八爺さんが渋い顔で「うむ、しゃあないのう」と答えた。 この女性は名を御神楽節子という。 すらりとしたモデル体型に女性用の紺色スーツを身に付け、縁の四角い眼鏡を掛けた立ち姿は如何にも仕事に生きるオンナってな 感じを醸し出している。 彼女は優秀な科学者であり、作戦司令室にあっては副司令の肩書きを持っている。 次々と送られてくるデータを熱心に見つめているはずの源八爺さん(ここでは如月総司令と呼ばれている)がいつの間にか節子の 後ろに回り込んでいてそのお尻を撫で回した物だから、いつもの調子で振り向きざまの肘鉄を爺様の脳天にお見舞いした節子さん。 それでも彼女の平静そのものといった表情が変化することはなかった。……慣れているのだろう。 所内で囁かれる源八の愛人説を、彼女はキッパリと否定していた。 とはいえことある毎にセクハラ攻撃を受けても辞表を出す素振りを見せないから、それほど嫌っているワケでもなさそうだ。 「ぐはっ!」 『え、なに? どうかした?』 「いいえ、なんでも無いわ。ちょっとお爺さまの持病が出ただけだから」 『え、お爺ちゃん持病なんてあったの?』 「ええ、極楽浄土が見えちゃう病気。でも気にしなくても良いわ。すぐに治るから」 『そ、そうなんだ……』 サラッと返した節子は、次に地べた這いつくばって頭を抱えている源八総司令に涼しい顔で仰った。 「真面目にお仕事してくださいね司令。でないと次は身体半分くらい三途の川を渡ることになりますから」 「う、うむ。心得た……」 息も絶え絶えの総司令が呻いて返す。 実のところ節子さんは何とか言う武術の達人であり、AMSを着込んだ人間とも素手で渡り合えるほどなのだ。 二人に背を向けて座っているオペレータ達の肩が震えるのを見つけたが、節子は小さな溜息だけで済ませた。
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144 :創る名無しに見る名無し[]:2010/11/01(月) 21:44:04 ID:WFamnoBC - 第1話(4)
そんなこんなで一通りの動作試験を終えたある日のこと。如月家の地下研究室にけたたましいサイレンがこだまし、レッドランプが点灯する。 急に慌ただしくなった館内。如月邸の庭の一角が開いて輸送用のヘリがヘリポートごと迫り上がってくる。 ヘリにはすでにパイロットと私服姿の雫ちゃんが乗り込んでいた。 「お嬢様、目的地へは10分ほどで到着します」 「いや、それは良いんだけど、なんで黒田さんが運転席に……?」 毎朝の送り迎えで雫を乗せているリムジンは黒田さんが運転している。 そんな初老の執事が今はヘルメットと革手袋を装着してポートの周囲にいるスタッフに指示など出しているというのだからヘンな感じがするのは当たり前。 聞けば如月家の執事はパーフェクト執事を目指した結果、ありとあらゆる乗り物を操縦できるようになったらしい。 +++ というわけで現場上空に到着したヘリ。 地表から500メートルだから超高層ビルの中ほどの高さになる。 ここからは雫ちゃんが単身ダイブすることになるのだけれど、パラシュートも無い普通の人間が飛び降りたら普通に考えてスプラッタ的な状態になっちゃうワケで。 なのにそんな少女が持たされたのはゴテゴテしたベルト一本。 なんでもこのベルトのスイッチを押すことで瞬時にAMSを転送・装着することができるらしい。 そして如月財閥の総力を結集して作ったAMSであれば500メートルからの落下衝撃など問題にもならないとのこと。 『ほれ、さっさと飛び降りんか!』 耳に付けたインカムから源八爺さんの声がする。 とはいえ500メートルから飛び降りろと言われれば誰だって足が竦むし、パラシュートではなく怪しげな機械ベルト一つ持たされただけじゃあ、そりゃあキツいでしょうよ。 でもだからといって如月邸に務める科学者達の期待を一身に背負わされている身では嫌とは言えなくて。 側面ハッチを開いて催促するスタッフにガックリ肩を落として応じる雫ちゃんです。 『よいか、合言葉は【変身!】じゃ! さあゆけ! お前の勇姿をお披露目するのじゃ!!』 「うっさい! ちょっと黙れクソジジイ!」 インカム越しにご老体の興奮した声が響いて涙目で怒鳴り返す。 「分かったわよ! やりゃあ良いんでしょ!」 それから深呼吸してヘリの羽音に掻き消されるくらいの声で自分に言い聞かせる。 「大丈夫、あたしならできる。あたしならできる。あたしは強い。あたしは死なない……!」 そしてついに意を決してハッチから身を躍らせた雫。 真下には玩具みたいに煌めく街頭の粒と、断続的に散る赤い光、濛々と立ち上る黒い煙。 夜空の向こう側には消防だか報道だかのヘリが現場の周りと旋回している。 雫は飛んだ。ビュオと風が鳴くのが聞こえる。何も考えられなかった。地面が凄い勢いで迫ってくる。そんな中でベルトのスイッチを押す。 「変身……!」 本当は大声で気合いを込めて叫べと言われていたけれど、そんな囁きほどの言葉しか口に出来なかった。 でも後ろに何か大きな気配が現れて、それが自分の身体を包み込む感触が起こると雫は妙な安心感を覚えた。 【網膜照合クリア。声紋認識クリア。脳波パターン正常。各回路、正常。――システム・オールグリーン。AMS−HD3000、シューティングスター、起動します。】 耳元で合成音が囁いて、次の瞬間にはアスファルトの上に着地していた。 道路は陥没して一部めくれ上がっていたけど足腰に痛みは無くて、まるで数十センチの段差を飛び越えるような気安さしか感じられない。 『どうじゃ凄かろう! 500メートル程度の高低差など問題にもならんのじゃ!』 インカム越しに老人の得意げな笑い声がする。 雫は確かに凄いとは思ったけれど、賞賛や少しばかりうざったい爺様に毒舌を吐いてみたりを行うより先にとてもとても重要な事に気付いた。
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145 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/01(月) 21:46:06 ID:WFamnoBC - 第1話(5)
「ねえ、一応確認しておきたいんだけどさ。この任務って、要するに酔っぱらいが乗ってる土木作業用AMSを動けないようにしろって事よね?」 『うむ、それがどうした?』 「じゃあさ、そのAMSが三機いても内容は変わらないわけよね?」 出撃前に聞いた話では工事現場の作業員が酔っぱらってAMSを運転、民家を壊して暴れているとかいう内容で、重装備の機動隊が到着するまでの時間稼ぎとして如月家にお鉢が回ってきた次第なのだとか。 けれどこの時の説明では酔っぱらいは一人だったし武器らしい物は何も持っていないからということで、こちら側も素手でどうにかなるだろうくらいにしか考えていなかった。 けれど。 実際に酔っぱらいAMSは三体居て、空から降ってきた乱入者を取り囲んでいる。 しかも彼らは手にそれぞれバールとか大型ハンマーとか自動釘打ち機を装備していて、とても丸腰だなんて言えた格好じゃあない。 『ひゃっは〜!』 『世の中が全部悪いんじゃ〜!!』 『ジェッ○ストリームアタックだってばよ!』 口々にワケの分からない怒声をほざきつつの三人組。 彼らが装着している機体は建築作業用なので動きは遅いが馬力が出る。爺様の説明では三千だか四千は出るらしい。 ということはつまり、捕まったらかなり危険な状況になっちゃうってことです。 初陣早々、絶体絶命の大ピンチの雫ちゃん。 しかし少女は意外と落ち着いていた。 「――え〜と。選択武器は電磁警棒と煙幕弾ね。まあ、相手はトロくさそうだし、何とかなりそうな感じだけど、どうでしょ?」 『このタイプの機体はだいたい発動機で電力をまかなっているわ。 だからバックパックと機体とを繋いでいるコードを切断すれば動きは止められる。 プランとしては煙幕で目を眩ませて、警棒で攻撃するのが最も効率的だと思うけど、どうする?』 御神楽副司令が状況を見ながら指示を出す。 シューティングスターのカメラは作戦司令室ともリンクしていて映像とかデータを送ったり送られたりできるのだ。 「じゃ、そのプランで行きます」 与えられた指示に応答した雫。 少女は手首から伸びた折りたたみ警棒の柄をジャキリと引き抜いて、空いた手で腰に据え付けている握り拳大の筒を取り外す。 数字の上では敏捷性で圧倒できるはずだけど油断は出来ない。なぜなら相手は三体なのだから。
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146 :創る名無しに見る名無し[]:2010/11/01(月) 21:49:23 ID:WFamnoBC - 第1話(6)
赤い輪郭を取り囲むのは崩れ落ちたビルディングと逆巻く炎、途切れることなく立ち上る黒煙。 そして三機の人型機械。 他に人影は見当たらない。パトカーの気配は間近にあったけれど、警官が犯人を取り押さえにやって来ることはない。 なぜなら人間の力では、警官が持つ貧弱な銃ではAMS1機の足を止めることさえ出来ないのだから。 だから雫はやって来た。 少女の皮膚を守るのは鉄より固い装甲。少女の目はサーモグラフィも赤外線暗視装置もそつなく取り付けられた真っ赤な瞳。 その鋼鉄の手が掴むのは電磁警棒と煙幕弾。背中のブースターに火を灯せば十数秒の加速跳躍が可能だった。 「いちおう注意だけはしておくわね。 え〜と、あんた達。無駄な抵抗は止めて大人しく投降しなさい!」 雫はどちらかといえば確認の意味で声を掛ける。 呼び掛けに応じてくれない方が心置きなくボコボコに出来るから。 そして期待通り酔っぱらい達の駆る機体からは嘲笑じみた返事しか帰ってこなかった。 『なんだ女かよ。裸にひん剥いてやんぜ!』 『この政府の犬め! 売国奴は地獄に落ちやがれ!』 『オッパイ! オッパイ!』 「予想していたとはいえ、ちょっとムカつくわね……」 ちょっぴりやかましい酔いどれ作業員共を相手に舌打ちする雫は、先制攻撃とばかりに手にした煙幕弾を地面に投げつける。 ピキーン、と音がして筒から白い煙が飛散する。 この弾の本来の使い方としては口径の大きな銃に装填して打ち出すものだが、銃刀法違反で捕まるわけにもいかないので改良して今はそのように使っている。 機体の中の人は最初から酸素ボンベで呼吸する仕様なので煙幕を吸い込む事も無い。 そして何より、温度感知方式の目があれば、煙幕だろうと何だろうと見通すことが出来る。 つまり、相手との距離さえ分かっていれば楽勝で叩きのめせるといった算段だった。 『マッシュ! オルテガ! アレをやるぞ!!』 ところがだ。 彼らの名前が実際にそうであるかどうかは分からないが、一人が叫んだかと思えば視界が閉ざされているにも関わらずそれぞれ規則的な動きを見せる。 きっと彼らは同じ現場の同僚として十年以上の付き合いがあって、阿吽の呼吸が成立するほどのチームワークを持っているのだろう。 彼らは雫に向けて縦一列に並ぶとそのまま突っ込んできた。 「うそ、なんてヤツら!!」 サーモグラフィレンズを通して見れば、機体1台ぶんの輪郭しか見えない。 加えて彼らの向こう側には燃えさかる炎があって、その高温がよりいっそう視界を邪魔する。 ここで盲目になったのは誰あろう雫の方だった。 「くっ、この!!」 視界が真っ白に染まる瞬間。咄嗟に背中のブースターに火を灯した。一番手前のAMSがバールを構える。 その攻撃をかいくぐったとしても、二番手、三番手がどう攻撃してくるのか読めない。だったらいっそのこと考えるのを止めてしまおう。っていうか考えられるほどの余裕は無い。 地面を蹴った。すぐ傍にプレッシャーを感じた。思わず足を出して蹴っ飛ばす。ベコリと感触があった。蹴っ飛ばした足で機体のてっぺんを踏みしめて、そこからさらにジャンプする。 『俺を踏み台にしたぁ?!』 声がしたように思ったけれど無視する。 足元を見ると釘打ち機を構える二番手の姿。 ここでブースターの火を落とす。慣性の法則に従って自由落下する機体。 落ちてゆく中で思い切り足を振り上げて、そこにある踵ごと振り下ろす。 ゴスッと甲高く鉄が鳴く。ソイツは突っ込んできた勢いと上からの衝撃で崩れ落ちながらも滑って視界から消えてゆく。 三人目はすでに大型ハンマーを振り上げていた。 こちら側の襲撃で幾分慌てていたのかも知れないけれど、それでも今まさに鉄塊を振り下ろそうとしている。 手に持つ警棒を逆手に持って、勢い任せに振り抜くとソイツの腕が鉄塊ごともげ落ちた。 警棒もひしゃげていたが、でもあと少しくらいは保って欲しい。 そんな祈りと渾身の力を込めて、着地した瞬間に腕を前へと突き出した。
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147 :創る名無しに見る名無し[]:2010/11/01(月) 21:53:12 ID:WFamnoBC - 第1話(7)
――ドスン。 見事に突き刺さった警棒。 ほとんど同時に画面がブツンと途切れる。 真っ暗になった機体の中で、ドクンドクンとがなりたてる鼓動の音を聞く雫。 恐怖は感じない。怒りも悲しみも無い。 頭の中が真っ白になっていた。喉がカラカラだった。 自分がどういった状態になっているのか皆目見当も付かない。 けれど願わくば自分にとって良い結果になっていますように。 必死の中で待っていると、やがてモニターが回復した。 煙幕が風に掻き消された事件現場には、スクラップと化した三体のAMSと、折れた警棒を握り締めたまま呆然と突っ立っている赤い輪郭が残されていた。 +++ 酔っぱらい達は駆け付けた警官隊に取り押さえられ、救急車に押し込まれる格好で去っていった。 AMSでの戦闘が行われたと言うのに彼らは打撲や捻挫といった軽傷で済んでいたが、それは作業用AMSの装甲が思っていたより分厚かったおかげなのだろう。 スクラップになった三台は建設会社の所有物なのだけれど、当然ながら保険は掛けられていたから会社側の損害も最小限に抑えられそうだ。 でもって、帰りは輸送用のトラックで機体共々家路に就いた雫ちゃん。 少女は最初の頃こそ放心状態だったけれど、如月邸に到着する時には大興奮だった。 彼女の中で世界が変わったらしい。 元々オタク的な趣味と男の子らしい感性を併せ持っていた彼女は、生きるか死ぬかの一瞬に快楽を見出してしまったらしいのだ。 「お爺ちゃん、次はいつ出動したらいいの?!」 なんて目をキラキラ輝かせてせがむものだから祖父としては苦笑半分、嬉しさ半分といったところ。 「まあ、なんにしても装備も開発せにゃならんし、調整も必要じゃ」 採取した実戦データとワリとダメージを負っていた機体内部とを見比べつつ源八爺さんが答える。 御神楽女史も内心では「こいつニュータイプなんじゃねえか?」とか思いつつも買ってきたケーキで時間稼ぎするばかり。 如月邸に退屈だけど平穏な日々が帰ってきた。 しかし気を抜いてはいけない。 悪の芽は今もどこかで根を伸ばしているのだから。 戦えシューティングスター。 負けるなシューティングスター。 僕らの平和は君の頑張りに掛かっているのだ!! おわり
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148 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/11/01(月) 21:56:25 ID:WFamnoBC - というわけで投稿終了。
もののついでと言うことで裏設定(?)も出しておきます。……第二話書くことがあったらコレがベースになると思いますんで。 時代背景:別に読まなくても問題無いけど……的な説明 世界は二度の危機をくぐりぬけていた。 最初の危機は「獣魔」と呼ばれる巨大な甲殻昆虫の大群が異世界から押し寄せてきたとき。 二度目のは別の異世界からやってきた侵略者達が世界全土に宣戦布告したとき。 それらの危機を戦う変身ヒロインと、政府と、世界征服を企てる悪の秘密結社が異例の共同戦線を張ることでどうにか乗り越えてきた。 とはいえ日本国の指導者はそのほとんどが命を落とし、国家の指導権は今や世界に名を轟かせる大組織『サクセス』の手中にあり。 今や国家元首の座はサクセスの首領をも兼任する少女が握っている。 全議員の顔を整形によりコピーしたサクセス隊員達が票を投じれば、少女は労せずして総理大臣に就任できた。 もちろん「こんな子供が総理だなんて」という世論もあったが、見事なまでの手腕で特亜三国を封じ込め、西欧諸国とも対等に渡り合い 『亜細亜の大首領』と呼ばれるようになれば批判の声など無きに等しく。 一方、AMS(アーマード・マテリアル・スーツ)と呼ばれる機械式の強化服を開発し、サクセス帝國の主力兵団「As(エース)」 を造り上げた稀代の科学者は幾分かグレードを落としたAMSの開発コードを米国陸軍に提供。ライセンス契約を結んでいた。 そういった経緯から、後にドン亀と呼称され親しまれる事となるAMS−k6、機体名『ブロッサム』が近々米軍の製造ラインに乗る予定。 日本国(首脳陣及び関係者各位はすでに『サクセス帝國』として認識していたが、表面上はまだ日の丸を掲げていた)の国内では 徐々にではあるが医療用もしくは土木建築用の名目でAMS技術が普及してきており、パーツ毎に規格化されたことも手伝って 各メーカーが開発競争に参加しはじめるなんて事態になっている。 なお、これは余談ではあるが、その科学者が自ら開発したAMSは特殊な規格であり、「Xシリーズ」と呼ばれるそれらには オリハルコン合金の装甲と、これを機能させるため膨大なエネルギーを生み出す霊子力発動機なるものが使用されているが、 その技術は超極秘事項であり、ゆえに一般に出回っている発動機は自動車部品の改良型だったりする。 なので当然ながらこれに付随する機能(AMフィールドを展開してみたり必殺技を使ってみたり)は付加されない。 (AMフィールド:厚み数ミリの異次元空間を形成することで不可視の盾とする技術:同質のフィールドで相殺するしか無力化する方法は無い) Asで運用されている機体はAMS−J602。機体名『ミヅチ』。10機ほどあるらしい。 群青色の装甲とスマートな外観が特徴的な機体で、搭載火器より機動性を重視して作られている。 (火力で制圧するだけなら戦車なり高射砲なりを引っ張ってきた方が早いし、何より国内の治安維持を目的にしているから武装も限られる) 肝心なのは、情報規制によりサクセス帝國の存在を知る一般人がほとんど居ないこと。 AMS関連の技術も「ロボット先進国の日本であればいつか誰かが開発するだろう」とかいう説明で誰もが納得した。 ネットなどで囁かれはするものの、その実情は闇の中。 人々は未だ当たり前と思っている平和な日常の中にあった。
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