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創る名無しに見る名無し
◆2XEqsKa.CM
淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM
ジャスティスバトルロワイアル Part2

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ジャスティスバトルロワイアル Part2
186 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/10/31(日) 21:24:19 ID:myhT+MPX
てす
ジャスティスバトルロワイアル Part2
187 : ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:26:05 ID:myhT+MPX
慎二、なのは、V、イカ娘、夜神月、高遠遙一投下します
遅れて申し訳ありませんでした
ジャスティスバトルロワイアル Part2
188 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:27:14 ID:myhT+MPX



海の潮味が、鼻先に薫る。
僕……夜神月は、海の家の軒下で揺り椅子に腰掛けていた。
心地よい満腹感。美味とは言えない夜食だったが、団欒はあった。
殺人を認可する、このゲームの中で摂る食事としては、まあまあ上等な物だったと思う。
団欒を囲む僕以外の二人は、僕の声が届く場所にはいない。
イカ娘は砂浜を走り回っている。高遠遙一は、散歩がてら周りの地形を確認してくると言っていた。
そう遠くないうちに出発したいが……イカ娘に視線を移す。

「ごみが落ちてないでゲソー! 浜辺がすっごくキレイじゃなイカ!」

手に何やらカードを持ちながら、有頂天で走り回っている彼女を見ていると、不思議な気分になる。
海から来て地上を侵略しにきた知性体……それが事実であるとすれば、彼女は人類の敵だ。
先ほど見せてもらったイカ娘という個体の戦闘能力は、なるほど人間を凌駕して余りあるものだった。
本来なら恐れ、遠ざけるべき存在。だというのに、今僕の前で走り回るイカ娘からは危険性が全く感じられない。
傍目にはただのバカな子供―――しかし、僕と高遠が『窓口』として使えると認めた、奇妙な魅力が確かにある。
彼女の持つ、人間を惹きつける才能は天然の物だろう。そして、僕のそれは計算を根底に置く計略だ。
そんな僕でさえ、イカ娘を完全に利用できる自信はない。加えてあの高遠遙一もいる。

「厄介だな……」

「何がでゲソ?」

「全て、だよ。こんなゲームに巻き込まれて厄介じゃない事なんてないさ」

いつの間にか近くに寄って来ていたイカ娘が、頭の帽子についた鰭をパタパタさせてこちらを覗いている。
僕が座っている揺り椅子に興味を示したらしく、目を輝かせながら。
適当に答えてから、イカ娘が手に持つカードに目を留める。どうやら、彼女だけに支給された道具らしい。
問い質してもいいのだが、どうみてもただの紙切れだ。取り上げて泣かれても困るので放っておくか……。
今後の事を思って浮かない顔をしている僕にイカ娘はぐい、と胸を張り、何故か上から目線で言う。

「ライト……生きていくというのは厄介ごとの連続でゲソ! それでも前向きに生きていけば、
 いつかいいことあるんじゃなイカ? 私はガンガン進んでいくから、不安なら私についてくればいいのでゲソよ!」

……このイカは、一体どのような生き方をしてきたのだろうか?
少なくとも彼女の言葉と姿からは、「海を汚す人類を侵略する」等という攻性的な意志は感じられない。
僕が『キラ』として起こしている行動も、一種の侵略と言えるだろう。
僕とその思想は疑うことなく正義だが、キラを悪と断じる者たちがいるのも事実。そういった連中を駆逐し、
やがて世界を自分の望む姿に作り変える……それは、言うまでもなく闘争だ。
机上で『正義』『悪』を語ることしか出来ない、腐った世界の愚民たちには出来ない正義の実行。
一度走り出した以上、僕は止まれないのだ。負けて生き永らえる事も死んで勝つ事もない。
Lを筆頭とした『悪』に勝った上で、僕の認めた心の優しい人間だけの世界を作りあげ、統治し君臨する。
そんな僕の覚悟と同等の決意を持って、自分が棲んでいた海底から地上に姿を現したであろうイカ娘。


ジャスティスバトルロワイアル Part2
189 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:29:24 ID:myhT+MPX

「……君は、純粋だな。イカ娘」

「な、なんでゲソ急に……照れるじゃなイカ! ……うむ、イカにもその通りでゲソ!
 お前達人間のような薄汚い空気ばかり吸って生きている生物とは呼吸器とハートが違うのでゲソ!」

彼女は、あまりに澄んでいた。僕と同じ夢を……汚れながら進まねばならない道の果てにある大望を抱えていながら。
イカ娘は、僕の理想とする世界に住む権利のある、優しい人格(パーソナル)の持ち主だ。
正義の裁きとは言え、多くの人間を殺し続けた僕の精神が、彼女を正面から見る事に反発を覚える。
優しい目で見つめている事に気付いたのか、イカ娘が??と頭を傾げて、ぴょんっと揺り椅子に飛び乗ってくる。
膝の上にイカ娘の重みがかかり、胸板に揺り椅子を揺らせるイカ娘の背中が当たる。

「ライトよ、色々悩んでいるようでゲソが……私が地上を支配すればお前の悩みも無くなるに決まっているでゲソ!
 お前の妹、さゆや栄子、たけるも仲間に加えて、みんなで地上を海に優しい場所にしようじゃなイカ!」

この椅子はおもしろいでゲソー!と足をじたばたさせながら、イカ娘はこちらに顔を見せずに言った。
……そうかもしれない。彼女のような純粋な存在が支配する世界は、素晴らしいものになるだろう。
だが、彼女に地上……人間社会を侵略する事は不可能だ。彼女はあまりにも、"悪意"を知らない。
海底の世界はどうだったのか知らないが、今の地上はイカ娘が生きていくには不純すぎるのだ。
どれだけ優れた身体能力を持っていても、大国の軍事力の前では一瞬で のしイカになるのがオチだろう。
僕が地上を新世界として統治してからならば、彼女……海の使者とも、よりよい外交が出来るだろうが。

「そういえば、何故ここに? あんなに楽しそうに走り回っていたのに……」

「――――大変な事に気付いてしまったのでゲソ……」
ジャスティスバトルロワイアル Part2
190 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:30:48 ID:myhT+MPX

イカ娘が僕の膝から飛び降り、向き直って真剣な表情を見せる。一体どうしたのだろうか。

「ひょっとして私……ずっと海の中にいれば、かなり安全なんじゃなイカ?」

「……」

「……」


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   /   |   ./ : : : : ト、: : : : : ∧: :、 : : : :!⌒      /ヽ     
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       { |: |: |: : :|  ,x==、    〃    V|         _/   
      '. j : ム:|∨:| 〃    ____ /// }|       //     
       ∨: :{ r|: : :l/// r ´    \}    ハ、       , /      
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           〃:!:l::::l!:ト、::::liヽ、:::リ:!::i:::ヽ:ヽ::::i          /二フ”
           i:!::!i::i::::i::!:i:ヾ!:i::::!:、:::!:::l:i:!:ヽヽ:l:!            /
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           li::l::N{:ヾVヘ「 ̄` lハ ソr‐テハ!:l/          /ヽ
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ジャスティスバトルロワイアル Part2
191 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:32:53 ID:myhT+MPX

「それは難しいでしょうね、イカ娘君」

割り込むように、高遠が海の家の軒下に現れる。
彼はどこから調達したのか、ウェットスーツを着ていた。水も滴る何とやらか、なかなか様になっている。
どうやら周辺の地形だけでは飽き足らず、海の水質なども軽く調査していたらしい。
手に銛を持って、見た事もない魚を先端に刺している。イカ娘の前でこれはどうかと思ったが、
イカ娘は特に気にしている様子はない。高遠もそれを確認してから、微笑と共に言葉を継いだ。

「私が調べたところでは、この海の水温は通常のそれよりいささか高い……このようなゲテモノしか、
 生存できない環境のようです。イカ娘君も、おそらく長時間の潜水……いや、潜伏は無理でしょう」

「な、なんでゲソと!? ちょ、ちょっと行ってみていイカ?」

「どうぞ、まだ出発には少し時間がありますし。月君も少し水を浴びてきてはどうです?」

「……いえ、僕は結構です」

砂埃を立てながら海に突撃し、ぬるいでゲソー!と叫び声を上げるイカ娘を高遠と共に呆れ顔で見守りながら。
想像を遥かに超える重量だったイカ娘の圧し掛かりでふとももに深刻なダメージを抱えながら。
僕はこの時はまだ、この実験を暇な時に感傷に浸れる程度の物だと、甘く見ていたのだ。





見えない速度で振るわれた多刃が風を斬る。防御するのは生身の腕―――軍服を纏う腕。
6方向からしなる様に迫る刃が、防御を貫かんと思い思いに形状を変える。
いかなる外殻でも、6種の形状/力理/入角度を異にする刃を受けて耐える事は不可能。
だが。外骨格や特殊な甲殻を一切備えていない、人間の腕は、その一撃に耐えた。
刃が止まる。その正体は触手。絡め取り、捕縛する為にあるはずのその器官は、
斬・撲・絞の加害を容易に使い分ける、攻撃者の最大の武器であった。
攻撃者は異形。地面に伸ばした二本の触手で身体を支えて高速移動する、制海の怪物。
それを防ぎきった防御者の肉体も既に超人の域―――その根源は額の徽章。
髑髏を模ったそのアーティフィクトは、凡夫に過ぎない防御者に『超人』という生物の肉体特性を与えていた。

「アハハ! なんだよ、ただのガキかと思ったら化け物か! いいさ、この慎二様が退治してやるよ!」

「シンジじゃなくてワカメ海人でゲソ! お前は一体どうしてしまったのでゲソか……?」

同レベルの……言ってしまえば子供の争いを打々発止しながら、二人は触手と肉体の激突を演じる。
それを脇で眺める夜神月と高遠遙一にとっては、その戦いのレベルは完全に理解の外。
二人が事前に見ていたイカ娘の力を大幅に上回る、弱肉強食の摂理におけるイカ娘の真価。
鮫や鯱から身を守る為にイカ娘が海中で蓄えていた力は、襲撃者=間桐慎二と拮抗するに十分なものだった。
唖然とする外野二人を他所に、6本の触手を攻撃に、4本の触手を移動と防御に回すイカ娘。
二つの心臓……普通心臓と超人心臓からくる爆発的な運動エネルギーを振り回す残虐超人・マキリシンジ。


ジャスティスバトルロワイアル Part2
192 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:35:02 ID:myhT+MPX

「ふん、僕は間桐慎二さ! 人間を超え……魔術師を超え……サーヴァントすら凌駕する、天才の名前なんだよ!」

「何を言ってするめイカ、気でも触れたのでゲソか……海の仲間が無意味に争うなんてダメでゲソ!
 それともお前は私たちを食べたいのでゲソ? おなかがすいているなら、海の家のごはんがあるでゲソよ!」

「別の意味でなら食べてやってもいいけどさぁ! 腹なんて減ってない!
 僕はお前達を無茶苦茶に痛めつけたいんだよ! 僕の本当の力を使って、ね―――!」

下卑た笑みを浮かべながら慎二が迫り、地面に伸ばした触手を操作して後退するイカ娘が、目を見開いた。
投擲。慎二はマインゴーシュ―――西洋の短剣をイカ娘に向けて投げつけていた。
慎二からすれば、敵は自分とほぼ同じ速度で動き回る相手……更にリーチはマインゴーシュの数倍。
ダメージを与えるには、不意を打つ必要があった。それについては、成功したといえる。
だが――――。

「えいでゲソ! 危ないじゃなイカ……これは没収でゲソ!」

「なっ! それ、髪じゃなかったのかよ!」

イカ娘が攻撃の為に延ばし、制空圏を確保させる触手は6本、移動の為に身体を1mほど浮かせているのが2本。
ただの髪の毛のように垂らしている(冷静に見れば、他の触手と全く同一と気付いたはずだが)2本の触手が、
マインゴーシュを絡め取って慎二の手が届かない場所へと放り投げたのだ。
力に酔い、ただ有り余る身体能力で暴れているだけの慎二らしい失態である。
それを静かに観察していた月と高遠も、相手が全く太刀打ちできない怪物ではないと判断した。
各々逃げる算段を止めて顔を突き合わせ、自分達に出来るイカ娘のサポートを話し合う。

(どうやらあのワカメ海人という敵はあまり頭が良くないようですね、高遠さん。海の生き物の特徴でしょうか?)

(生態はあまり考えても意味が無いでしょうね……彼の漏らす言葉を聞く限り、メンタルも我々人類に近いようだ。
 私でもこの森林でイカ娘君と戦うなら、木々を上手く利用して触手を封じるくらいの講じはするでしょうが……)

(とにかく僕達に出来る事は一つしかなさそうですね……彼の気を引いてみましょう)

愚直にイカ娘に突進しては軽くいなされ、しかしノーダメージで同じ事を繰り返すワカメ海人を見ながら、
月と高遠が其々その場から離れ、慎二が激昂してこちらを狙ってきても容易にイカ娘がカバーできる位置を探す。
先にベストポジションについた月が小声で、だが確実に相手に届くトーンで口を開く。


「ハァ、ハァ……畜生ッ! なんで僕がこの帽子で手に入れた力が届かないんだ……一体どういうことだよ!
 間違ってる! 大人しくやられろよ、化け物! 逃げ回るな! 命乞いでもすれば許してやろうと思ってたけど、
 もう手加減しないからな……覚悟しろ! ここからもう本気だぞ、この真・間桐慎二様の―――」

「拾った力で我を忘れる。この世で最も軽蔑すべき存在だな……」

「……なに? オマエ! 今言ったのお前か!? ガキの背中に隠れてる奴が偉そうな事を……」

「その子供にいいようにあしらわられている貴方――― 失礼ながら、大爆笑ですね」

「お……お前らァァァァッ!!!」

月と同じくベストポジションについた高遠もまた、嘲笑の言葉を慎二に浴びせる。
イカ娘から完全に意識を逸らし、一瞬呆けた表情になった慎二は、
やがて自分がただの人間に馬鹿にされている……その事実に気付いて、簡単に激昂した。
強すぎる力は精神の平定を乱す。それが持ち主に見合わぬ物なら余計に、だ。
接敵を無視して月と高遠を攻撃しようと駆け出した慎二は次の瞬間、イカ娘の触手に拘束されていた。
足を完全にロックされ、自由な腕も倒れかけた身体を支えるのに使っている。

ジャスティスバトルロワイアル Part2
193 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:37:36 ID:myhT+MPX

「月くん、君の銃を借りてもいいですか?」

「……どうぞ」

高遠は月からニューナンブM60を借りると特に抵抗があるような素振りも無く、慣れた手つきで弾層を回転させる。
そして早足で慎二に近づきながら、倒れ伏す彼の両肩に二発づつ銃弾を撃ち込んだ。
ギャア、と悲鳴を上げた標的の腕が上がらなくなったことを確認して、高遠が慎二のワカメを掴む。
顔を上げさせて自分の顔を近づけて慎二の目を覗き込む高遠の眼に、慎二は撃たれた怒りで応える。
だが、それも長続きしなかった。睨み続けようとした慎二は、高遠の目を見て、すぐさまその気力を失う。

「こら! 遙一よ、一体何をする気でゲソ!」

「いえ、少しお話を伺おうかと思いまして……拘束を続けていてください、イカ娘君」

イカ娘に顔を向けずに言う高遠の目を見ているのは、慎二ただ一人。
月は高遠と違い、無力化しきれたかどうか不明な危険人物に近づくほど酔狂ではない。
故に高遠は、慎二にしか聞こえない小声で、彼を詰問できた。

「貴方には復讐したい人物はいますか? 納得できない事はありますか? 夢を奪われた事は?」

「な……なにを言ってるんだよ、オマエ……」

高遠の目は、標本を見るそれの輝きを放っていた。
この地獄の傀儡師の興味に対する純粋さは、純度だけで言えばイカ娘にも比肩する。
そして彼の興味は、悪意を持つ者に"芸術"にすら昇華させた自身の犯罪プランを実行させる事にしかない。
目の前のワカメ海人とやらには、自分の高度な犯罪プランを授けるだけの価値―――言ってみれば、
高遠の芸術を遂行する"マリオネット"として完全な挙動を取れるだけの悪意の貯蔵があるのかどうか。
一体どれだけの数の人間に、この検分を行ってきたのか……圧倒的な"悪意"の鏡を前に、被検者は萎縮していた。
高遠の空ろな目に、自分の 醜い欲望/甚だしい歪み/劣等の痛み が投影されていく。
慎二は何も答えなかったが、高遠は自ずから答えを出したらしく、興味を失ったように彼のワカメを離す。

「なるほど……人間を超えた者と言ってもそれほど埒外な"動機"があるわけではないのですね」

「あ……あ……?」

                         ................
「一つ忠告しておきますが――貴方には、力を行使する才能がない。慎ましく暮らしていくのがお似合いですよ」

高遠の言葉が、慎二の脳にこびり付く。力を行使する才能がない―――だから、お前はこうして這い蹲っている。
生まれ持った魔術回路の数など関係ない。仮に遠坂凛に匹敵する才能を持って生まれたとしても、
現に人間を超える超人の力を得ても。間桐慎二は落伍する運命にあったのだと、そう変換されてこびり付く。
それは、慎二の心象―――持つべき物を持っていれば、自分は誰にも劣らないという根拠の無い自信を、
根底から否定する言葉だった。自分以外の何かに自分の劣等を押し付ける彼の言い訳を塞ぐ、絶望の帳だった。
事実、慎二は本来のこの徽章の持ち主……ブロッケンJrの1%程も、超人強度を戦闘に活かせていない。
慎二が走馬灯のように思い返すは、衛宮士郎。魔術師の養子というだけで、家柄も知識も何も無い一般人。
その筈の彼は、その実聖杯に選ばれた……自分を選ばなかった聖杯が選ぶ程の才を持った魔術師だった。
慎二が走馬灯のように思い返すは間桐桜。どういう訳か自分たちと同等の良家から追い出された哀れな義妹。
その筈の彼女は、その実間桐の正統後継者……才能のない自分の代わりとして宿敵から恵まれた魔術師だった。

ジャスティスバトルロワイアル Part2
194 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:39:48 ID:myhT+MPX

「ふ……ざ、けるなよぉ……!」

怒りが。行き場の無い憎悪が。超人と化した肉体を励起させていく。
肩に撃ち込まれた銃弾が筋肉圧で弾け飛び、腕の自由を利かせた。
魔術回路がなくとも、全身の血管を通って超人パワーが全身を輪転する。
なけなしの魔力が超人パワーに乗って左手に集中し、やがて炎を纏った。
高遠の驚く顔に全力で手刀をねじ込まんと、カエルが跳ねるような動きで左手を突き出す。

「仕込みも無しに手から炎、ですか。手品師顔負けですね……」

「アハハ! 喰らって驚け、これが僕の魔術だ!」

「! イカ娘、これを!」

黒い炎を伴って放たれた手刀……"ベルリンの赤い雨"の亜種。
慎二が土壇場で習得したその技は、しかし高遠に放つべきではなかった。
自分の足を拘束している触手を切り払い、自由を取り戻してから攻撃に転じるべきだったのだ。
足を掴む触手が動き、慎二の体勢を崩す。更に、狙いを外して高遠の肩口に刺さりかけた手刀を、
イカ娘の触手2本が包み込んで、黒い炎を鎮火していく。
触手の先端は、月が放ったペットボトルの水を被って濡れていた。
ほんの少し焦げた触手をこそばゆそうに蠢かせながら、ついにイカ娘は慎二の制御から離れた腕を捉えた。
防御も移動も必要なくなったイカ娘が、10本の触手をフル稼働して慎二の全身に這わせる。

「同胞を辱めるのは辛いでゲソ……でも、これもワカメ海人を落ち着かせる為じゃなイカ! 我慢してでゲソ!」

「があっ……ごぉ、ぼ、じょぺ。ぺべ、ぎぎ……」

触手は慎二の全身を締め付け、満遍なく力を虚脱させる為の愛撫を繰り返す。
全身を操り人形のように触手で操られ、空中に吊り上げられて重力を無視した回転をさせられて感覚を狂わせる。
動物は、喉の奥に侵入していく物を噛む事が出来ない。そんな野生の知恵を用い、触手を口内に捻じ込んで、
喉の奥まで到達させ、高速で先端の伸縮圧迫を繰り返し、鍛えようの無い気管を責める。
こみ上げる吐瀉物を膨れ上がった触手で塞き止められ、押し戻され……十分ほど経っただろうか。
慎二は、完全に戦意を失っていた。触手で吊り上げられ、空ろな目つきになり、服のあちこちがはだけている。

「―――誰が得をするんでしょうね、この光景は……」

「はい……」

「うう、責めないでくれなイカ……彼奴を止めるにはこうするしかなかったのでゲソよ!」

同類を痛めつけた罪悪感に身を捩じらせるイカ娘を尻目に、高遠は宝剣を取り出した。
情報を欲する高遠と月にとっては、戦闘後の後処理がチームにおける本来の役割である。


ジャスティスバトルロワイアル Part2
195 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 21:43:13 ID:myhT+MPX


「何度も言わせるなよ! もう僕はお前たちを襲わないから、いますぐ解放しろ!」

「イカ娘君、焦げた触手は大丈夫ですか? 再生には一日かかるという話でしたが」

「それはちょん切れた時の話でゲソ。このくらいなら、すぐに治るんじゃなイカ?」

「女の子の髪……髪?は大事だからね。後で整えてあげるよ、イカ娘」

触手で木に括り付けられて完全に自由を奪われた慎二の咆哮をBGMに、勝者達は四方山話をしていた。
本人の言葉通りに見る見るうちに再生していく触手を興味深げに眺める高遠と月に、慎二は焦りを隠せない。
襲撃しておいて敗れ、あろう事か身柄を拘束されてしまったのだ、当然だろう。
いかに見通しが甘く、力を手に入れて得た楽観を持つ慎二でも、迫る"死"の予感は如実に受信していた。

「なあ、僕を生かしておいて仲間にすればいい事があるぞ! 参加者の中に知り合いがいるのさ!
 そいつらとのパイプ役になってやってもいい、だからこれ以上僕を怒らせない方がいいと思うんだけどねぇ……」

「ひょっとして、そやつらもお前と同じワカメ海人なのでゲソか!?」

「だから―――僕は―――ワカメ海人なんかじゃない!」

「では一つ、確かめてみましょう」

「……え?」

高遠がすっ、と立ち上がって、本当に何気なく―――照明をつけるような気軽さで、カリバーンを突き出した。
とある剣士の英霊が持つ、黄金の宝刀はまるで刃に触れる穢れを弾くように、抵抗無く慎二の胸に刺さる。
心臓を貫いた剣を抜く。胸元から僅かな血が垂れると同時に、破裂した心臓から逆流した血液が、血管を逆流。
膨れ上がり、浮き上がった全身の血管が、慎二の肌色を紫色へと変貌させていく。疑いようも無く即死だった。

「な、いきなり何をするのでゲソ、遙一! 錯乱しているとはいえ、そいつは私の同胞で……」

「本当にそうでしょうか? 彼の妄言の数々を聞いている限りでは、貴女のような心優しい海の民の生まれとは
 到底思えません。それに―――ワカメ海人とは、心臓を破壊されても生きていられる生物なのですか?」

「そんなことはないでゲソ。……おお。そうか、私の勘違いだったのでゲソね……」

人間ならば、の話だが。超人と化した慎二の肉体には超人心臓という名の第二の心臓があり、
普通心臓では耐えられない戦闘や環境の中で、人知を超えたサバイバビリティを発揮する。
およそ人間が生存できるはずのない身体状況になりながらも、慎二は一命を取り留めている。

「バ……ガビャッ! 血、血が……体から、あふれ……」

「驚くべき生命力です……これは、もう少し調べる必要がありそうですね」

「ま、待つでゲソよ、遙一。いくら同胞ではなイカらとは言っても、動けない奴にそんな……」

やろうと思えば慎二に力を与えたという帽子を取ることもできたが、それを高遠がしなかった理由は単純だ。
高遠がここで出会った参加者のうちの半分は、何らかの意味で人間を超えた力を持っていた。
ならば、そういった者たちの生態―――身体的な弱所を探しておく事は、生き残る為にも、
自分の目的の為にも役に立つかもしれないと考えたのだ。犯罪プランを立てても、標的が死なないのでは無意味。
高遠はイカ娘を丸め込む為、再び海の出来事に例えた説得を試みる。

「いいですか、イカ娘君。あなたの支配する海がそうであるように、このゲームではあらゆる物を利用しなければ
 生存条件を満たして生き残る事は難しいのです。海の猛獣たちも、海底の岩で鋭利な牙を研くでしょう?
 彼は海底の岩……しかも悪いイカでもあります。躊躇する事はありません、これは正当な行為なのですから。
 我々は自分と、仲間の安全を守る義務があるのですからね。負い目に感じる事は何も無いんですよ」

「なるほど……生きる為、仲間を守る為なら、悪い奴に悪い事をしてもいいのでゲソね!?」
ジャスティスバトルロワイアル Part2
197 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:00:27 ID:myhT+MPX
「……」

あっさりと高遠の理屈を理解したイカ娘に、とうの昔に同じ理屈を理解している月が眉を顰める。
月はここに来てようやく、イカ娘が純粋過ぎる理由に見当がついたのだ。
海から来たイカ娘は、人間の色に一切染まっていない。そして人間の色……本質とは、不純以外の何者でもない。
月が今までイカ娘に持っていた感情は、白い画用紙を見て「綺麗な絵だ」と言っているのと同じことだった。
知識はともかく、人間の思考体系を何も知らないイカ娘は、教えられた物事の考え方を素直に吸収していくのだ。
きっと善良な人間の下で普通の暮らしをして来たから、赤子のような精神を得たのだろう。
そんなイカ娘を見て月は、これでいいのか、と自問していた。

(水が低きに流れるように、人間は放っておけば必ず不正――悪の側に傾いていく。
 ヒトが正しい絶対的統治者がいなければならない生き物だからこそ、僕は新世界の神になる事を選んだんだ。
 だが―――イカ娘は、人間じゃない。どう傾くか分からないじゃないか。彼女を僕達の都合によって、
 人間の"悪"の面に触れさせていいのか……? 彼女の存在が明らかになれば、人類史はひっくり返るだろう。
 僕の作る新世界の重要な要素になる道も複数想定できる。それを潰してでも、生存率を上げる道を選ぶのか?
 ……馬鹿馬鹿しい。答えは明白だ。僕が死ねば、その新世界が全て水泡に帰すんだぞ……)

イカ娘は、月にとって自身が理想とする世界の住民の雛形になりうる、貴重な存在だ。
それを汚さないまま手元に置いておきたいなど、無意味な感傷だと月は吐き捨てる。
夢物語はあくまで夢……そう理解していても縋りつきたくなるほど、
イカ娘の純粋さは月が世界に求めていた物だったのだろう。
だが月は夢追い人ではなく、自分の生きる現実を夢へ作り変えようとする革命者だった。
故に彼は生きる為、イカ娘の純潔を見捨て―――己の理想から、目を逸らすのだ。
残虐な解剖実験を前に、そのイカ娘は顔面を蒼白にして、それでも逃げずに立ち向かっていた。
仲間を守る為に―――純粋な善良さで、今まで学習した良識に逆らって。

「ではまず、指を切り落としてみましょう。イカ娘君の触手と同じように再生するのかどうか試すという実験ですね」

「わ、わかったでゲソ! でも気絶してるじゃなイカ。痛いかどうか聞いて、止めることが出来ないんじゃなイカ?」

「いえいえ、ショック死する心配がありませんから。今の彼の状態は、臨床実験に持ってこいなんですよ」

「……イカ娘、君がその"実験"を見る必要があるのか? 高遠さんに任せて、僕と向こうに行こう」

「何を言っているのでゲソ、ライトは! 私がライトや遙一を守るんだから、
 私が一番敵の弱点を知ってなきゃいけないんじゃなイカ! こ、怖くなんてないでゲソ!
 血がいっぱい出ても、全然怖くなんてなイカら、ライトが心配する必要なんてないのでゲソよ!」

「……そうか」

「その通りですよ、イカ娘君。貴女のような勇気のある人をリーダーに迎えられて、私と月君は幸運でした」

何か重要な分岐点に立っている気がして消極的に助け舟を出す月を、イカ娘は退けた。
正義の為に悪を為す。人がしばしば抱く矛盾を人外が享受せんとしていた。イカ娘としての純粋さが失われていく。

だが……ここで、≪世界≫―――宇宙の法則を支配する大天秤―――≪運命≫がそれを押し留めた。
秤に乗せられたのは、言うまでもなく―――≪世界≫に囚われ、≪運命≫に逆らう咎人。
首を吊られ、内臓を引きずり出され、四片に分割された狂人の仮面を被る魔人。
主義思想の悪所を粉砕する、カオスの権化たる、過去持たぬ夜の影の影。
誰にも気付かれずにその場に現れた、"それ"は高らかに詠い上げる。

『この世は全てが一つの舞台―――』
『役者は途切れ途切れに台詞を切り―――』
『出番が終われば消えゆくつかの間の燈火―――』
『なればこそ、今しっかとこの茶番劇の盆上で産声をわめき立てよう―――!』

When we are born, we cry that we are come To this great stage of fools。

世の儚さを歎きながら現れた仮面の男にその場の全員が凍りつく。
明け始めた夜を再び暗く染め上げる男の名は―――Vendetta(復讐)のV。
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198 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:03:21 ID:myhT+MPX



「つまりあなたたちも、このワカメ海……この男に襲われた、ということですか」

『いかにもその通りだ。私が襲われる側だと信じる者などいないだろうがね』

V……名前のない怪人は、まるで演劇を踊るように、月たちの質問に答えていた。
月と高遠は比較的すぐに落ち着きを取り戻して怪人との会話に入れたが、イカ娘は違った。
突然現れた仮面の男の威容に完全にビビりまくり、怪人の連れ―――年下の少女、なのはの背に隠れている。

「なんなのでゲソ、あんな怖いものを見たのは初めてでゲソ。鮫より怖いじゃなイカ……」

「で、でも悪い人じゃないんだよ……」

『おお、少女よ。私を人に善く言うな。大抵の場合、それは過ちとなる。
 少しだけ大きい少女よ。私を恐れるな。大抵の場合、それは私を大きく見せる』

ツカツカと近寄り、Vはイカ娘と真正面から目を合わせようとなのはの周りを回る。
全力でなのはの周りを逃げ回るイカ娘を『バターになるぞ!』と静止しながら追うV。
そんなシュールな光景を目にしながらも、月と高遠は心を乱さず、新たな状況に対応しようとしていた。

(やはり生かしてはおけないな……)

月は、慎二がなのはを強姦しようとしていた事実を知り、完全に彼を見下げ果てていた。
性犯罪は特に再犯率の高い犯罪の一つだ。一度でもその罪を犯した者は、改心する余地はないと言ってもいい。
犯罪者……衝動でなく計画で罪を犯す、月の新世界を汚す塵(ゴミ)。慎二は、完全にそのカテゴリに入った。
年端も行かない少女を襲おうとしただけでも嫌悪の対象だが、ここには月の妹もいるはずだ。
月にとって、慎二を生かす選択肢は完全に消えていた。

(最高だ……最高の素材を見つけてしまったよ、金田一君……)

高遠の頭の中からは、慎二の存在など微塵もなく消え去っていた。
高遠が"芸術犯罪"を与え、それを達成させるに相応しい人間はそう多くない……大抵の場合、
慎二のように能力、あるいは悪意のどちらか/両方がないと高遠自身が判断してしまうからだ。
Vは、高遠にとって満点……いや、人間を超えたような雰囲気を汲み取れば満点以上の逸材だった。
彼の悪意はどれほどの物なのか。自分にすら計りきれない―――そんな予感すらあった。
高遠にとっても、慎二を生かす選択肢は完全に消えていた。

だが。
乱入した二人は、ことごとく月と高遠の思惑の裏を掻いた。

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200 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:04:43 ID:myhT+MPX

「……拷問なんて、止めて欲しいの」

「なのはよ、何を言っているのでゲソ。よく分からんが、乱暴されそうになったんでゲソ?
 わ、私に任せておけば、バッチリ仕返ししてやろうじゃなイカ!」

「仕返し、なんて簡単に言わないで。私は……その人を、許す」

自分を強姦しようとした人間を許す―――理解不能な言葉だった。
だが、なのはは痛めつけられて死の坂道を転がり落ちている慎二に、憐憫の情を抱いていた。
持ち前の優しさ―――というより、甘さに近い感情だったが。
高遠は即座になのはの人となりを把握して、Vを仲間に引き入れる為に自身の実験を断念した。

「わかりました。ではこのワカ……いえ、この彼が起きたら説得して、この場に居る全員で行動を……」

『――――なんと美しい! 殴られた者が殴った者を殴らずに許す。感動的としか言いようがない。
 だが、少女よ。”その美しさはまやかしだ”。君は必ずや、殴った者を殺すだろう』

「え……?」

『だが君は正しい。俺とは相容れない正しい人間だ。しかし足りない。何もかも足りない。
 故に俺は夜に消える。君の為に、君と別れるのだ。君の為に、この男を連れて消えるのだ』

Vが、目にも止まらぬ速さで、慎二を担ぎ上げてマンゴーシュを拾い上げた。
唖然とする他の者たちを前に、尚も彼は己のスタイルを崩さず、マイペースに喋り続ける。

『おお、なんたる軽さか。この男は空っぽだが―――復讐者の素質はある。鞭を振るって調教しよう。
 そちらにもおさらばを、気の合いそうだった他人達よ。置き去りにしていく我が愛しの要塞(ルークリース)を頼む。
 彼女の素質は、君達には理解できないだろうが。上手くやってくれると、期待しているぞ』

「待ちなさい、一体何を……」

とっさに借りっぱなしの銃を抜いて、威嚇しようとする高遠。
だが、銃の照準をつけようとした時には、Vの姿は見えなくなっている。
周囲の木々が揺れて、Vの声だけを置き去り人たちに届かせる。

『少女よ、また会おう。試練を乗り越えた君にこそ私は出会いたい。
 君との約束は守ろう。何、私も私で義理くらいは知っているのだ』

絶対に、あってはならない事態だった。
月は、何故慎二を目の届かないところへ持ち去られたのか理解できなかった。
高遠は、何故せっかくの最高の出会いとこれからのVとの交流への期待をふいにされたのか理解できなかった。
なのはも、何故最初のパートナーが消えたのか理解できなかった。
イカ娘だけちょっとホッとしていた。

"理解できない"―――それが、Vという男だった。


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201 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:06:20 ID:myhT+MPX



「風のような人でしたね……」

「ええ……なのは君、彼は一体何者なんです?」

「……ごめんなさい……」

「はっはっは! みんな辛気臭いでゲソ! やつは私の侵略者オーラに怯えて逃げたに違いないでゲソ!
 今度現れたら、私がビシッと真意を問い質してやろうじゃなイカ!
 ワカメ海人も、本来は海底でユラユラ揺れているだけの無害な奴らでゲソ!
 それにあれだけ似てるんだから、あいつを逃がしたのも問題ないんじゃなイカ!?」

なんともいえない空気が流れている。
居たたまれない様子で立ちすくんでいるなのはの背中を、イカ娘がバシバシ叩いて元気付けていた。
高遠と月も出来るだけ気にしない事にしようと思ったのか、新しく一行に加わったなのはへ歓迎の素振りを見せる。

「彼が貴女には素質があると言っていましたが……それは一体?」

「あ、えっと……私、魔法少女なんです」

なのはには、Vに魔法の事を教えた記憶がない。
どうやって見破られていたのかはともかく、事ここに至って隠す意味もないだろう、と判断したのか。
なのははあっさりと、自分の持つ特別な才能を口走った。
周囲に疑惑半分、諦め半分の空気が漂う。

「魔法……使いですか。それはマジシャンという意味ではなく?」

「はい、変身して魔法を使う魔法少女です」

「ま、まさか……お腹がパンクする程のエビを出せるのでゲソか!?」

「それは無理なの……それに、レイジングハートっていうデバイスがないと……あっ!?」

なのはがイカ娘が玩んでいたカードを指差す。
それは、なのはの魔法使いとしての最初の友達、クロノのストレージデバイス・S2Uだった。

「な、なんでゲソ? これは砂浜で砂を拾うのに便利だからあげられなイカら!」

「お願い! それがあれば、私も魔法が使えるかもしれないなの! 私のも、どれでもあげるから!」

「む……わ、わかったでゲソ。どれを貰うかはじっくり考えて決めるとして、とりあえず貸してやるでゲソ。
 お姉さんに感謝するといいでゲソよ、ほら!」


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203 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:08:04 ID:myhT+MPX

イカ娘が物に釣られてカードを差し出す。
なのはが簡単な起動メッセージを告げると、カードは一瞬で杖に変わった。

「ん……やっぱり少し勝手が違うの……でも、これで一応……」

「魔法を使えるのかい? ……なのはちゃん、ちょっと見せてもらえるかな?」

「はい! ディバイン……バスタァァァァァァーーー!!!!」

「……!」

放たれた光柱は、なのはにとってはまるで物足りない威力だった。
詠唱から発射までの処理速度は速いが、なのはの好みには合わない動作だ。
それでも高遠たちに衝撃を与えるだけの効果はあった。
天に昇っていった光は明け始めた空を一時照らし、やがて消え去っていく。

「……魔法、だな」

「魔法としか言いようがありませんね、これは」

「あの、この力を貸しますから……一緒に、友達を探してくれませんか?」

「よかろうでゲソ……その魔法で、私と一緒にライトと遙一を守ろうじゃなイカ!」

イカ娘をリーダーとするチームに、新たな仲間が加わった瞬間であった。
派手に魔法を使ってしまったので、危険人物が寄ってくる前に移動し始める、その集団の姿は。
外から見れば、前衛が少女二人である違和感を除けばよいチームである。

だが、内側から見た時……あるいは未来を見た時。このチームは、至極―――――。


【I−3/森林地帯 早朝】


【イカ娘@侵略!イカ娘】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]:健康、触手2本の先端に若干の焦げ、疲労(小)
 [装備]:なし
 [道具]:基本支給品一式、海の家グルメセット@侵略!イカ娘
 [思考・状況]
  1:とりあえず月と高遠に付いていく
  2:栄子、タケルがなにをしているのか気になる
  3:なのはから何かもらう

【夜神月@DEATH NOTE】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1
 [思考・状況]
  1:イカ娘を利用した、スタンス判別方の模索と情報収集のための集団の結成
  2:「悪意」を持った者が取る行動とは……?
  3:自身の関係者との接触
  4:高遠の本心に警戒
  5:イカ娘の純粋さを気に入っています
 [備考]
 ※参戦時期は第一部。Lと共にキラ対策本部で活動している間。


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205 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:10:52 ID:myhT+MPX


【高町なのは@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
 [属性]:正義(Hor)
 [状態]: 足に軽傷
 [装備]:聖祥大附属小学校制服 S2U@魔法少女リリカルなのはシリーズ
 [道具]:基本支給品、不明支給品1〜3(武器になりそうな物は無い)
 [思考・状況]
 基本行動方針:アリサ、すずかとの合流と、この場所からの脱出
1:イカ娘たちと共に行動。みんなを守るためにもレイジングハートを入手したい。
【備考】
※「魔法少女リリカルなのはA's」、あるいはその前後の時期からの参戦

【高遠遙一@金田一少年の事件簿】
 [属性]:悪(set)
 [状態]:健康、満腹
 [装備]:カリバーン@Fate/stay night
 [道具]:基本支給品一式、不明支給品0〜1 ニューナンブM60(残弾1/5、予備弾数30)
 [思考・状況] 今まで通りの「高遠遥一」として、芸術犯罪を行う。
  1:とりあえずこの場を離れる。
  2:「人形」を作るのであれば人選、状況は慎重に選ぶ。
  3:Vに多大な興味


ジャスティスバトルロワイアル Part2
207 :淫妖烏 賊 ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:12:34 ID:myhT+MPX





天に昇る光を、Vは丁度森を抜けた所で満足げに見つめていた。
なのはの強さの根源を、これほど早く見られるとは予想外だったのだろう。

『だがナノハよ、心せよ。君は今、試練の只中に居る事を。
 君の隣にいる者たちが、君の正義を試す事を。心したのなら……君は、真の正義となれるだろう』

Vが垣間見た、自分と似た闇を抱える者たち。
何か"切り札"を持っていると直感した、大人と子供の合間の男。
Vの闇を覗こうと目を見開いていた、熟練の犯罪者然とした男。
あの間に突っ込まれて、果たしてなのは は正義を貫けるのか。

『貫けたとしても―――君は俺の、敵となるのだろうな』

諦念と期待が入り混じった声を上げて、Vは消えていく光を見つめ続けている。

『11月5日にこそ、見たかったと思うよ、この花火は―――』

脇に抱える矮小な男が、血の混ざった咳をする。
Vは、この痛めつけられた男の中にくすぶる炎を見た。
先ほど退けた時は見えなかったが……どうやら、虫にも五分の魂。

『死ぬなよ、小僧(ルークィン)……お前の地獄は、これから始まるのだから』

蔑まれ、踏みつけられ、心を折られた地を這う蟲は新たなるVとなれるか、否か。
ともかく、Vは次なる舞台へと駆け出した。


【H−3 陸地/一日目 早朝】


【V@Vフォー・ヴェンデッタ】
 [属性]:悪(set)
 [状態]: 健康
 [装備]:バッタラン@バットマン(残弾多数)、レイピア@現実 マインゴーシュ@現実
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
 基本行動方針:?????
?:慎二を調教し、自分と同じ"復讐者"にする。
?:なのはの友人(アリサ、すずか)を捜す。

【間桐慎二@Fate/stay night】
 [属性]:その他(Isi)
 [状態]: 刺傷多数(軽)、ダメージ(大)、残虐超人状態、普通心臓破壊、気絶
 [装備]:ナチス武装親衛隊の将校服@現実、ドクロの徽章付き軍帽@キン肉マン、
 [道具]:基本支給品
 [思考・状況]
 基本行動方針:……。
0:僕が何をしたっていうんだ……。
1:ワカメじゃ……ない……。
2:仮面の男(V)にいずれ復讐する。
 [備考]
 ※普通心臓が破壊された為、徽章を取ると死にます。


ジャスティスバトルロワイアル Part2
208 : ◆2XEqsKa.CM [sage]:2010/10/31(日) 22:14:04 ID:myhT+MPX
以上で投下終了です。
支援ありがとうございました。


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