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390 :秋水 ◆3C9TspRFnQ [sage]:2010/10/21(木) 18:43:24 ID:7EFWj324 - やあ (´・ω・`)
ようこそ、秋水製作所へ。 うん、「また投下」なんだ。済まない。 さて、バーボンな冗談もそこそこに、今回のは5.5話です。 6話の冒頭に持ってきた『駿河沖に沈んだ大きなフネ』…第1話でほのめかした部分を書いていたら、 筆が弾丸フィーバロンしてしまい、こりゃ別にしたほうが『俺によし!wikiによし!皆によし!』と考えた次第。 以下注意書き ・今回からある兵器に関して女性名詞が使われるようになりますが、萌化とか擬人化を狙ってるわけではありません。 ヨーロッパでの常識…というより、ある種の娯楽作品で多用される、病気な人たちにとっての常識です。ええ、私を含めて。 ・今回は特に虚構と現実がないまぜになっています。 ・ロボ?なにそれおいしいの? ・消費レス:5+1の予定 では、許容できるようでしたらどうぞ。 なお、支援は必要ありません。短いから。
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391 :第五話半 私論 戦略兵器孝 1/5[sage]:2010/10/21(木) 18:45:32 ID:7EFWj324 - 地球防衛戦線ダイガスト
第五話半 私論 戦略兵器孝 海に城が浮いている。 幾つもの鋼鉄の箱を積み重ねた艦橋構造物は、そんな錯覚を抱かせた。まさに『浮かべる城ぞ頼みなる』の歌詞に相違ない景観だった。 艦橋の前には二基、後背に一基、巨大な堡塁のような台が置かれ、そこからは長大な筒が三本づつ天を指していた。 それら鋼鉄の構造物はまるで一個の城砦のごとき形を成し、特徴的な稜線を海の上に形作っている。 何らかの悪意に満ちた色眼鏡を掛けない限り、美しさすら覚えるその力強い姿は、日本人であれば大抵がその名を知っている。 大和、或いは大和級…それを知らずとも、宇宙戦艦となら答えられるだろう。 そしてその映像の彼女もまた、大和級にまつわる絶望的な戦況のご他聞に漏れず、263mにおよぶ長大な総身から黒煙を立ち上らせていた。 奇妙なことに、そういった帝国海軍の黄昏に付き物のF6FやTBFといった寸胴のアメリカのレシプロ戦闘機の姿は、その映像には無かった。 しかし何者かが空を縦横無尽に飛びまわり、大和級に炎を、黒煙を吹かせている。 目を凝らしてみれば、その時、その空を支配していたのは、ブーメランに二本の足を付けた様な異形の航空機だと認められたろう。 ちょっと考えれば空に浮くには蛇足な二本の足は、自在に動き回ってまるで空中を蹴るような信じられない機動を実現していた。 空力など微塵も考えていない、ただ突き抜けた技術だけでそこに在る事をにおわせる辺り、何やらこの星の技術にあらざるモノを感じる。 と、異形の全翼機の中の一機が、腹の下に抱えていた長い筒を切り離した。その一機だけが持っていたことから特別な物であるのは想像に難くなく、 案の定、筒は大和級の二番砲塔に触れるや、眩い白光に変じる。 次の瞬間には二番砲塔の天蓋は溶けた飴細工のように赤熱してめくり返り、全機能を停止させていた。 よく見れば、既に大和級の全身には赤熱した大小の破孔や溝が掘り込まれ、海水を被るたびに溶けた鉄が大量の水蒸気を発生させている。 誰の目にも旗色は明らかだった。 しかし彼女が海の上に現出させた砦の向こう側には、徐々に遠ざかってゆく幾多の艦影が確認できる。 仔細は判らないが、大和級がそれら多数の艦艇の変わりに、その海域に留まっている事は容易に想像できた。 そして空を舞う異形の全翼機は、彼女を運用する乗組員達の決死の行動を嘲笑うかのように、次々とレーザー光を照射して巨艦を切り苛むのだった。 やがてひときわ大きな爆発が左舷から発生し、大和級の全体が大きく傾斜した。それはかつての坊ノ岬沖での戦いを想起させる光景だった。 そこに沈んだ大和は、彼女の姉に充たる。 そして、今、駿河湾沖で同じように左舷に傾斜する彼女の名も、海上自衛隊甲型護衛艦『やまと』。 産まれた時に着けられた名は『信濃』といった。 太平洋戦争。 大和級三番艦として生を受けた戦艦『信濃』は、悪化する戦況のなか航空母艦に改装される予定であったのだが、既存の空母の修理に船渠を明け渡し、未着工のままに終戦を迎えた。 その命運は戦艦長門ほか多数の艦と同じように、水爆実験の標的となって海の藻屑と消えるはずだった。 しかしソ連極東海軍に『史上最後の戦艦』ソビエツキー・ソユーズが配備されるにいたり、GHQは対抗策として信濃を軍籍にもどし、旧帝国海軍関係者に再召集をかけた。 勿論、時代は航空主兵であり、今更水上砲戦など起こるべくもない。 ただ捨て時を失ったソ連の戦艦のためだけに、アメリカが太平洋艦隊に戦艦を常駐させる気にはなれなかったのである。 だったら、残されたモノを持ち主に返し、その維持費を払わせせて睨み合わせれば良い。その莫大なコストは戦後の混乱にあえぐ日本にはちょうど良い足枷になろう。 必要なのは防共の楯であり、帝国海軍の再起ではないのだから。 やがてソ連の対艦ミサイル飽和攻撃を惹き付ける高価値目標――第7艦隊の楯――として存在を許された彼女は、 むざとは沈まぬために様々な新鋭技術を導入、冷戦期の日本海を凍りつかせた女王として君臨する。
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392 :第五話半 私論 戦略兵器孝 2/5[sage]:2010/10/21(木) 18:49:16 ID:7EFWj324 - が、呆気ないまでのソ連崩壊と共に、敵手であったソビエツキー・ソユーズは空母を含む『海に浮かぶ鉄くず』として中華人民共和国に売却され、
日本海の緊張もまた『デタント』されてゆく――中国共産党は購入した鉄くずの再生を指示しているとの公然の秘密があったが―― 近年では航続距離と甲板の広さを買われ、スマトラ沖大地震の支援物資を運ぶ輸送船団にも参加し、心無いマスコミから『やまと宅急便』などと揶揄されていた。 しかし歴史はここで彼女に新たな役割を強要する。 異星人の来寇である。 ツルギスタンとの緒戦における北海道での敗退…陸は北部方面隊、空は第二航空団の再編を要する大損害は、 海上自衛隊にお鉢が回ってきたセラン諸惑星連合との駿河沖の会戦において、彼らを奮起させるに十分すぎた。 各地に散らばった護衛艦隊から一時的に任を解かれた新鋭イージス艦『あたご』『あしがら』――彼女達には未だ弾道弾防衛能力が付与されて無いため――に加え、 多数の護衛艦、そして何より『やまと』。 更には航空自衛隊より築城基地第6飛行隊のF-2戦闘機と協調し、たった一隻でのこのこと現れたセラン諸惑星連合の『ディアマンテ』なる艦と対峙する。 細長い直方体の中央部に艦橋構造物らしき物を載せた全長800mにも及ぶ濃緑色の巨躯は、確かに一隻という数字以上の威圧感を与えてくる。 しかし、こちらも強大な共産軍――それと決めたら戦力を磨り潰す事に躊躇しない連中――を海上で封殺するために存在しているのだ。 海自の各艦からおびただしい量のミサイルが発射され、駿河沖をしばし白煙が煙らせる。 やまとも第二砲塔と艦橋の間に設置されたVLSから矢継ぎ早にミサイルを立ち昇らせ、煙と噴射炎で甲板の一部が見えなくなるほどだった。 同時に18機のF-2戦闘機も複合素材の翼に吊るした4発もの対艦ミサイルをリリース。72本の槍が一斉に敵を目がけて空を翔る。 ヘタな国の海軍ならその一撃で潰滅する、恐るべき火力の飽和だった。 だが、彼等もまた北海道の自衛隊員達と同じく、星を渡ってわざわざ侵略に来るという行為がどれ程のものであるのか、身をもって知る事となる。 ディアマンテ側舷の装甲シャッターが次々と開いて偏光レンズがあらわになる。 魚の眼球にも見えるおびただしい数のレンズは、巨艦の姿を百目の化け物のような不気味なものに見せた。 次の瞬間、レンズが一斉にその機能を発揮し、海の上を真っ白に染め上げた。 レーザー光の乱舞はすぐに止み、代わりに空に紅蓮の華が咲き乱れる。 全てのミサイルが迎撃されたことを自衛官達が理解するよりも早く、ディアマンテの上部甲板数箇所が下からせり上がって、高速で何かを射出し始めた。 あの足の付いたブーメランだ。 異形の全翼機は編隊も組まずにめいめいが勝手な機動を取りつつ、空間を蹴るようにして高度を稼ぐや、艦隊上空を旋回していたF-2の編隊へと襲い掛かった。 こう書くとパイロット達が周辺警戒を怠っていた様になってしまうが、実際は空中で更に高飛びをするような行動だ。常識を覆す機動は完全な奇襲になった。 全翼機の翼の一部が円柱状にせり上がる。そこにも偏光レンズが見てとれた。 レンズから照射された白光が蒼穹を裂く、と同時に全翼機は足を折りたたんで下方へと降下してゆく。追いすがろうと機を捻ったF-2が、次々と思い出したように爆炎へと変わった。 初撃を免れた幸運なF-2がダイブに移って全翼機を追うが、今度は前を向いたまま偏光レンズだけを後ろに向けてレーザーで薙ぎ払ってくる。 三度、空に紅い華が咲く。 それすらも外した強運か、はたまた後世に名人とうたわれるパイロット達は僅かに数名。 F-2の両翼端に取り付けられた短距離空対空ミサイルAAM-3が、彼らの怒りを乗せて発射された。 AAM-3は定められた仕事をこなし、数機の全翼機にダイブを断念させた。
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393 :第五話半 私論 戦略兵器孝 3/5[sage]:2010/10/21(木) 18:51:19 ID:7EFWj324 - 避けようと空を蹴った物もいたが、彼らの予測を上回る誘導能力と近接信管による破片効果は、似たようなサイズの全翼機には十分なダメージとなった。
それでも爆散するような機体は出ず、片翼になってもゆるゆると海上に着水してゆく。 そして殆どの全翼機は、海上にたむろする標的へと牙を剥いて襲い掛かった。 偏光レンズのレーザー光は機動方向に影響されない。全翼機は海面すれすれまで降りると、アイスダンスのように海上を滑ってレーザーをスウィープさせた。 速度上で絶望的に劣る艦艇は据え物のように切り刻まれてゆくより無かった。すぐに単縦陣は崩壊し、各艦が思い思いに回避行動を執り始める。 壊乱の中にあって『あたご』と『あしがら』だけは冠した名の如く、女神の楯たらんと奮闘し、少しでも距離の離れた異形の全翼機にVLSから対空ミサイルを見舞っていた。 しかし増大する異常なレーダー波はすぐにセラン諸惑星連合側に察知され、頼みの綱である特徴的な形状のSPY-1レーダーをレーザーで溶断されてしまう。 迎撃手段を奪われた海上自衛隊の艦艇は至近での乱戦より逃れるために回頭を始めた。 ディアマンテの艦載機もそれを逃すまいと追撃に出るが、そこで彼らの行動に掣肘を加える事態が起こる。 母艦の目前の海が膨れ上がり、何百メーターにも達する水柱が立ち上っていた。 そして後退する艦艇の中から、逆に前に出るひときわ巨大な艦影。前部の二基の砲塔から延びる6本の巨砲は僅かに仰角をつけ、筒先からは発砲の後の黒煙がくゆっている。 海自艦艇の列から離れる『やまと』の姿は粛々とすら見えた。味方が後退してゆく中、それはどう贔屓目に見ても勝算あっての行動とは思えない。 そして絶望的な戦いが始まった。 甲板各所に設けられた卵のような形状をした自動迎撃システム、CIWSのガトリングガンが火を噴く。 対空機銃がアイスキャンディ−のような曳光弾を放ち始め、両舷に据え付けられたOTOメララ127mm単装砲、計6門が甲高い音と共に発砲を始めた。 VLSも次々と対空ミサイルを立ち昇らせる。 まるで噴火が起きたようだった。一時とはいえ、全翼機がやまとから離れるほどの弾幕が形成される。 そして、砲炎。 砲腔内を全ての爆圧が漏れなく駆け巡り、栓である1.4トンもの砲弾を押し出した証し。 彼女が殆どの同族が滅びた後もこの海に存在する証し。 戦艦という幻想じみた兵器が確かにそこにいたという証し。 その咆哮はくるおしく大気を震わせ、数千メーターを唸りをあげて山形に飛んだ徹甲弾がディアマンテの甲板にあやまたず降り注ぐ。 星から星を渡る船にとって原始の恐竜のごとき前時代の艦の放つ砲弾など、 不意の隕石を慣性制御フィールドで包み込み、第一次装甲で受け止めるという航宙常識を履行するに過ぎなかったのだが… それでも1.4トンもの砲弾は遅延信管を起爆させ、ディアマンテの慣性制御フィールドに負荷を与えた。 続く鋼鉄の雨は僅かではあるがフィ−ルドの網の目を潜り抜け、破片効果を甲板各所に及ぼした。 ほんの数えるほど、偏光レーザ−のレンズが叩き割られたくらいに。 蛮族の船に自分達の母艦が傷付けられる…艦載機が目の色を変えて襲い掛かるには、十分な理由になった。 左舷に傾いだ『やまと』は、もはや復舷する力を失っていた。 中に飲み込んだ海水は艦体をいつ横転させてもおかしくなく、挙句に再び艦尾にあの白光が輝いたとき、彼女の命運は、尽きた。 艦尾を熱で抉り取られたやまとは、そこから更に浸水し、艦尾方向から急速に海中に没してゆく。 総員退艦が発令され、甲板に上がってきた自衛隊員達が救命胴衣を頼みに次々と海中に飛び込む。既に艦首は海でなく空を仰ぎ始め、カッターを下ろす暇もない。 巨大な質量塊が沈降するときに発生する渦から逃れるため、飛び降りた隊員達は力の限り艦から離れねばならない。 それを諦めた者はやまとと共に海神(わだつみ)の元に召されるよりない。 だいぶ離れたところで一息をついた隊員達は、あの足の付いた全翼機を収容したディアマンテが、ゆっくりと海から離れてゆくところを目撃していた。 ああ、畜生、俺達は同じ土俵にすら立って無かったってことかよ。 眼下であがく原住民達に目もくれず、ディアマンテはゆっくりと空を滑り始める。日本の方へ、避退した僚艦の方へ。 そうだ、やまとが沈んだからとて、戦闘は終結していないのだ。撤退する敵軍を追撃し、戦果を拡張するのは兵家の常。彼らは基本を忠実にこなし、日本の領海を切り取ろうというのだ。
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394 :第五話半 私論 戦略兵器孝 4/5[sage]:2010/10/21(木) 18:53:36 ID:7EFWj324 - やまとから脱出した自衛隊員達に重苦しい現実が圧し掛かる。
ある者は絶望に俯き、ある者は怒りを込めて頭上の戦闘艦を睨み付けた。 またある者は戦意を失い、艦首が空を向いて半ば以上が海に引き込まれた『やまと』を呆けたように見つめていた。 ディアマンテはやまとの直上に差し掛かり、まるで彼らに見せ付けるかのように側舷の装甲シャッターを開放する。偏光レンズがクリアな洋上の太陽光を受けて無慈悲に輝く。 ――爆発音が轟いた。 俯いた者の頬を硝煙くさい風が打った。睨み上げていた者の目には赤い線が駆け上がってゆくのが見えた。呆けていた者だけが全てを目に収めていた。 やまとの第一砲塔が発砲したのだ。赤い発砲炎の華を、力強く咲かせて。 海水に浸った電路の漏電が何かを誤作動させたのか。機械的な理由がつかずとも、オカルトを信じておらずとも、その光景は彼女の意志のように感じられた。 天を駆け昇った3発の徹甲弾は、歯向かう者のいなくなった洋上でスペース・デブリ用のデフレクターの出力を下げていた ――それは一般に慢心と呼ばれる――ディアマンテの下部装甲に突入する。 高い硬度と張力を誇る異星技術の合金も、その構成物質だけで46センチ砲弾の衝力を止め切ることは不可能だった。 分厚い一時装甲を運動エネルギーで食い破り、対衝・耐熱ジェルの積層構造を押しのけ、二次装甲の奥でようやく止まると、そこで主砲弾は遅延信管を作動させる。 装甲内部で発生した爆発は更に構成材を破壊し尽くし、艦内に踊りこんだ圧力と熱は出口を求めて通廊や排気口を炎の蛇となって荒れ狂った。 それがどれ程の破壊をもたらしたのか、自衛隊員達に知る術は無い。 しかしディアマンテはついぞ追撃の砲火を放つ事は無く、満身創痍の海自艦艇と残存のF-2は指定された戦域外へと離脱した。 最期の仕事をやり遂げたやまとは、その巨大な質量からは想像出来ない位に静かに、素早く、海中へと没していった。遺体を含め200人以上がその中に残されたままに。 幾人かの自衛隊達が敬礼でもってやまとを見送っていた。 なお重防御区画であるCICで指揮を執っていた艦長は総員退艦を命じた後、自室に戻り、古来からの慣習に則って艦と命運を共にした。 こうして冷戦の象徴であった『やまと』は、新たな混迷の時代の先触れとなり消えていった。 戦艦―― 国家の命運をかけ、自らの砲力と防御力のみで同等の存在を打ち倒すために産み出された、冗長性や柔軟性という戦力の理想とは対極に存在する、一種いびつな存在。 現に彼女達は航空機という柔軟な兵科によって主戦力の座を奪われ、航空機の動く基地たる空母という新たな女王に取って代わられた。 それでも冷戦という構造に組み込まれたやまとは、僅かにその存在を約されていた。 そして最期の一瞬には、遥かな技術の差を埋め、敵手であり、おそらくは自らとそうは変わらない存在であろうディアマンテに一撃を刻み込んだのである。 この60年が無為でなかった証明として。 航空主兵に敗れた戦艦を後付けの知識で無意味と断じ、現在のイージスシステム搭載艦との用途の違いを意図的に無視したあげくに、 同じ軍艦だから無駄であると言い切る自称軍事評論家という輩もいる。 が、自らの色眼鏡で現実が見えなくなったような人間は、大和級を産み出したブロック工法が戦後の造船大国日本を支えていた事実を見据えるべきである。 ただ過去を否定し、反省を強制するだけなら、それこそが過去を省みないという行為に他ならない。 そう考える男達が二人、額を突きあわせるような距離で会話していた。 「戦艦の殴り合いが国家の命運を決めた戦いとは、実のところ日露戦争の日本海海戦が最後だと言われている。 その結果を元に戦艦の恐竜的進化が始まるわけだが、真価が問われることは無かった」 国場首相はバーコード頭をやれやれと横に振るう。 手狭な部屋には丸い窓が一つ。外は夜なのか、やけに暗い。 国場首相と向き合う大江戸博士の眉間には深いしわが寄っていた。 「しかしだ、やまとの主砲は航宙艦の基本的な構造材にも通用した。 地球文明の純粋衝撃力はやつらにも通用する事が証明されたんだ」
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395 :第五話半 私論 戦略兵器孝 5/5[sage]:2010/10/21(木) 18:55:09 ID:7EFWj324 - 博士の手は胸ポケットを行ったり来たりしていた。むつかしい顔なのは、要はポケットの中の紫煙を吸うに吸えない事への苛立ちである。そこは全室禁煙だった。
「つまりは物理攻撃を伸ばしてゆく方向で、俺達は銀河列強に対応可能なんだよ。 問題は対デブリ・デフレクターのような防御装置だ」 「それを考えるのが君たち『地球防衛戦線』だろう?」 「はいはい…」 大江戸博士は頭の痛い問題に窓の外に目をやることで、心身の両方を逸らすという高等芸を見せる。 こういう所は昔から変わらんな。国場総理は妙なところに感心し、自分も黒一色の窓を見やる。 そろそろだった。 「『やまと』は誇りだった」 大江戸博士は誰にとでもなく呟く。 「戦力を否定され、古い教えは全て悪いものだと言われ、それでも俺たちの餓鬼の頃にゃ、やまとがあったんだ」 「第7艦隊の囮と嘲笑ったやつもいたが… それが無きゃソ連が怖いとアメリカが言う、その事実にどれだけの当時の子供が救われたことか」 「怖いぜ、それが『無かった世界』なんてな。きっと餓鬼の頃から日本は間違ってたと聞かされて、 目に見える証しは何も無く、金と自分の仕事だけを信じて捻くれてくのさ。 終いにゃ何が正しいのかも判らず、奇麗事と批判だけの左巻きどもと普通の政治家の違いも判らなくなっちまうんだ」 「生々しいな」 「人はパンのみで生きるにあらず、さ」 「ならサーカスもだな」 「矜持にも信仰にも娯楽にもなるさ、こいつは」 初老の男たちの目に、黒いヴェールの向こうに霞んだ塔が映った。 塔は見る見る高く伸びてゆき…いや、違う。塔は伸びているのでは無い。彼らが塔の頂から降りているのだ。 塔の基部が乗った長大なスロープの先。まるで断崖に突き出た舳先のような場所で、初めて、全景が明らかになった。 ライトアップされた巨大な塔の前に居並ぶ6本の筒。まるで首長竜の群れだ。 男たちはしばし息をのんで巨大な人工物に魅入った。 窓の外を巨大な眼球と口を供えた魚類がゆっくりと横切ってゆく。そこは駿河湾の底、水深2500mの闇の世界。 海の底に端然と正座するが如く、彼女は、やまとは居ずまいもそのままに待っていた。 遠目には今にも動き出しそうな偉容だ。 「いいぞ、これならすぐに使える」 ようやくに口を開いた大江戸博士の口ぶりは興奮していた。 大江戸先進科学研究所所有の深海作業用潜水艇――海洋惑星からの中古品で、バーター取引の末の密輸品――が、 天蓋の吹き飛んだ第二砲塔に取り付き、アームを延ばして作業を開始する。 程なくヤマト砲として復活を果たす地球人類史上最大の艦載砲は、このようにして手ずから取って行かれたのだった。 そして46センチの号砲がツルギスタンの儀仗兵を打ち砕いたあの光景は、 北海道と『やまと』という日本にとっての冷戦の象徴を立て続けに失ったある年代の人々に再び希望を与えた。 深き水底に沈んでなお、その砲の一つが戦果を挙げるたび、少なからぬ人々に自分達の居場所を思い起こさせる。 戦艦とは、まことに戦略兵器であった。 そしてやまとの遺影を手に、拭い難き技術と国力の差を前に奮闘するダイガスト。 その姿もまた人々の期待を集め、急速に敵味方に存在感を増してゆくのだった。 後世の人々は、その巨人を指してこう呼んだ。 護国の鋼、と。 つづく
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396 :秋水 ◆3C9TspRFnQ [sage]:2010/10/21(木) 18:56:12 ID:7EFWj324 - 以上です。
お前はロボスレで何を書いてるんだと問われれば、 『(ロボット物の投下の)雨の中、傘をささずに踊る人(艦艇の回避行動の隠語は盆踊り)がいてもいい。 自由とはそういうものだ』と答えたい。 スパロボ用語だと『母艦=戦艦』ですが、これはロボットアニメの功罪でしょうかねぇ。 いや、宇宙戦艦ヤマトからか? もっとも、艦載機が航宙艦を撃沈できる術を持っていないのなら、SFにおける空母は否定され、堂々たる宇宙艦隊が復活するのでしょうが。 でもロボスレだと強力な艦載機=ロボットありきなので、スレの存在自体が戦艦を否定しているわけで。 ま、私自身、鋼鉄の咆哮もエースコンバットも大好物な時点で矛盾しているわけですががが。 え、ロボットゲーも大好きですよ? それでは近いうちに、また。
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