- 星新一っぽいショートショートを作るスレ3
135 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/10/20(水) 21:58:47 ID:bYcpIdfS - 『兄貴』
年末、久しぶりに家族全員が揃った。昨年、一昨年は兄貴に急な手術が 入ったために帰省できず全員揃わなかった。 兄貴は小さい頃から物を直すのが得意だった。 お気に入りの時計、お気に入りのラジカセ、壊れると直るまで何日かかっても 結局直してしまった。一度直すと決めたら最後まで直そうとする、そんな兄貴に 医者という職業は天職なのかもしれない。 兄貴とは3年ぶりに会うが相変わらず元気そうで良かった。 お互いの近況を話しているうちに昔話に花が咲いてしまい、しまいには二人で押入れを あさり出してしまった。 昔の卒業アルバムや当時読んだ漫画など色々出てきたが最も懐かしさを覚えたのは ファミコンカセットだった。当時飽きるほどやりこんだソフトが山のように出てきた。 二人で異様に盛り上がってしまい久しぶりにやってみようということになり、 少し埃かぶったファミコンにカセットを差し込んで電源を入れたみた。 しかし、赤や青や紫やらが画面いっぱいに広がり中央になにやら茶色のキャラクターの ような四角いものが映るだけでそのカセットで遊ぶことはできなかった。 ふと、そのカセットはゲームが上手くいかず思い切り癇癪を起こして兄貴が床に叩きつけて 壊したもので、兄貴が最も気に入っていたソフトだったことを思い出した。 兄貴はフーッとカセットに息を吹きかけてもう一度起動してみたがやはり動かなかった。 「懐かしいなぁ。よく動かない時にやったな、そのフーッってやつ。」 「このフーッをすることによってカセット内部にたまった埃やゴミが取り除かれて 接触が良くなるんだよ。」 「でも、そのフーッって今となっては実は何の意味もなかったって証明されたらしいよ(笑) なんかでみたもん」 「……」 そういえば兄貴は学校もさぼって、泣きながら実は意味の無かったフーフーをやり続けていたっけ。 息を吹き込みすぎて過呼吸で救急車を呼びそうになったんだった。 でも直すと決めたら絶対に直そうとするあの執念が兄貴を立派な医者にしたんだよな…しみじみとそう思った。 「結局直らなかったんだよな…このカセット。めちゃくちゃ気に入ってたのに」 兄貴は悔しそうに1階へ降りていった。 ちなみに兄貴は独身だ。 以前はのろけ話を散々聞かされた自慢の恋人がいたが、 捜索願いが出されてからもう10年が経つ。
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