- ロボット物総合SSスレ 42号機
283 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:14:38 ID:Yu42dgXM - 思うんだけどさ、タイミングって、いやに重なるもんだよね
ってわけで、Gドラ3話後編、投下してもいいかな?
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285 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:20:50 ID:Yu42dgXM - 『システムオールグリーン。ドラストアッシャー半自動操縦(セミオート)確認』
ドラストクラウンコックピット内。パイロットスーツに包んだ身をシートへ預ける壮馬。司令室では、ミツキが状況を読み上げる。 二体のドラストマシンはその場を動くことはなく、内燃機関を駆動させ力を蓄える。座は機械の輿によって運ばれ、所定位置まで移動する。 研究所の外では、地面がせり上がり、地下と外界とを繋ぐ門が開かれた。 『射出口開放完了。タイミングをパイロットに委譲します』 「了解――ドラストクラウン、ドラストアッシャー、発進する!」 地下格納庫直通、超動技研特設カタパルトより、二機の戦闘機が躍り出た。 大空に、彼らは翼をはためかせる。 指定された高層ビルの屋上の外縁に立ちながら、隆斗は研究所の方向を眺めていた。 そして、 「来た来た。来ました――」 視認距離に達すなり、揚々と迎える。 今は最初の時とは違う。自信を持って、絶技を披露できる。 「来ました……よっと」 至近を過ぎ去るアッシャーに、狭い足場で助走をつけて、直接コックピットに飛び込んだ。 すぐに備え付けのパイロットスーツに着替えて、シートに座りレバーを握る。 「準備完了。壮馬サン、いつでも行けます」 『そんなに焦る必要はないぞ』 「らしいスね。……ったく、何考えてやがんだか」 クラウンからの返答に、隆斗は伝えられていた事柄を思い出した。 目的の空域に到着。そこは大きめの湾が広がっていた。 近くには、人工島に設立されている防衛隊基地がある。 そこでプレネガスは空中に静止し、頑として動こうとはしていなかった。 「いたいた。借りてきた猫みたいにおとなしくして……どう読みます?」 隆斗は壮馬に問いかける。 今回のプレネガスは、上半身が肥大化し、いわば装甲に埋め尽くされているタイプ。 装甲の隙間から覗く通常サイズの下半身が、酷く細く感じられる。シルエットとしては、Gドラスターが初陣時に撃破したものに近い。 プレネガスに動きはない。基地から発進した機体も、警戒して周囲をゆっくり旋回しているだけだ。 報告では、プレネガスが洋上に出現したのはほんの20分前。 そこから湾内に侵入し応戦するも、一切の反撃は確認されず、そのまま移動を続け現在の位置で静止したとのことだった。 それを踏まえて、壮馬は己の見解を述べる。 『奴らなりの丁重なお誘い、かな?』 邪魔者抜きでやり合おうという腹だろう。 「なるほど、乗せられたわけか」 『乗ったんだよ。まあどの道、それ以外はないわけだけどな』 「ははぁ。何を企んでようとブチのめすまでと」 『そういうこと』 いくら今は大人しいとはいえ、いつ痺れを切らすかわかったものではない。迅速な排除をするに越したことはないのだ。 今やいつゴングが鳴らされてもおかしくない。隆斗の背に、ピリピリとした心地良い緊張が走る。 『Gドラスター! 三津木壮馬殿でありますか?』 ドラストクラウンのコックピットに、隊長機から通信が入る。 プレネガスへの警戒と壮馬との通話から、彼の声が些か強ばっていた。 「監視ご苦労。後は俺たちに任せて、お前たちは帰投しろ」 『了解しました。どうかお気をつけて』 簡潔に指示を伝えると、偵察部隊は一瞬だけ迷いを見せた。しかし速やかにこの空域から離脱する。 仮にも防衛隊などという大仰な名を与えられているのだ。そして敵は目の前にいる。戦って力になりたいに違いない。 だが、彼ら自身はあまりに無力。こういった局面では、直接戦闘はSTRに任せ、後方支援に徹する他ない。 守りたいという志は共有している。気持ちだけはありがたく受け取り、壮馬と隆斗はプレネガスに相対した。
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286 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:24:03 ID:Yu42dgXM -
「さて、どう出る」 シチュエーションが整った以上、あとはやり合うだけだが、まるで反応を見せないのはどうにも攻めあぐねる。 程なくして、いざ、正々堂々試合開始、などという展開ならば話は早いが、そう甘くはいかないだろう。 二機が反応を探っていると、プレネガスがドラストマシンに反応を見せた。即座に光弾の乱射を開始する。 『ッ! いきなりっ!?』 豹変した態度に、隆斗が若干動揺する。 一方壮馬には予想の範疇。最初の一手が、こちらの不意をつくものなのは常套手段と言える。 他人様の庭で亀のようにジッとしてたかと思えば、自分の客が見えた途端にこの手洗な歓迎だ。無礼者相手は、早めに決めてしまいたい。 「合体だ!」 『了解ッス!』 二人が同時にサブレバーを押し込んだ。 「クロス・アーップ!」 合体プロセスの最中も、プレネガスの攻撃は止まらない。 壮馬はさすがの貫禄で危なげなく躱しているが、隆斗はまだその域に及んでいない。 一発一発は大した威力ではないが、無防備なところをまともに食らってはたまらないだろう。 「ど……りゃあァ!」 気合で全弾避けきり、クラウンの後部にアッシャーが結合された。 「ひゅぅ。びっくりした」 一安心し、大きく肺から空気を搾り出す。 だが安堵してばかりもいられない。本番はここからだ。 「仕掛けるぞ」 「イエッサー」 壮馬の号令に、隆斗が応える。 合体した今、会話はよりクリアに、よりダイレクトに伝達される。精神感応エネルギーであるGEMの効果で、連携がよりスムーズに行われる。 懐に飛び込み、Gドラスターは右拳でプレネガスを殴りつける。だがその程度で敵は意に介さなかった。 もう一度右。意識を引きつけたところで、次いで、左拳に繋ぐ。人間でいうところのレバーブローを決めたところで、さらに拳そのものを弾丸へと変えての接射に繋げる。 戦闘空域に轟音が響き、プレネガスが弾き飛ばされる。 しかしそこまでやっても、なおダメージはゼロ。ただ強引に移動させただけに終わった。 「か、硬ェ、コイツ!」 隆斗が露骨に驚愕を浮かべる。今までも防御力の高い敵はいたが、ここまでのモノは初めてだ。 「ドラスティックブレードならどうだ!」 壮馬は慌てず、次の手で攻める。 右腰部装甲がパージし、光剣を生み出す。単純な衝撃が効かないとしても、熱量ならばどうだ。 瞬間、これも防がれる。 プレネガスの全身を覆う、球状の光の幕。あれが光の刃を防いだのだ。 「バリア!?」 「どこまでも防御力特化型か……ならよォ!」 もう一方の腰部装甲と組み合わせ、一発あたりの威力と出力を増した大剣モードへとチェンジさせる。 「でぇぃやぁ!」 気合一閃。真一文字に薙ぎ払う。 バリアごと斬り裂き、本体の装甲にも大きな亀裂を生じさせた。 次にバリアを発生させるまでの間隙を縫い、強引に右手をその傷跡へと押し込んだ。 「殻が硬けりゃ、中身は脆いもんだよなァ」 Gドラスターの全身を、炎のようなエネルギーが包む。 「GEMスピリット・クラスター!!」 炎が消えると、プレネガスが爆砕し、下半身のみが海面へと吸い込まれていった。 これで戦いは終わった。次に襲ってくるのは例の症状だ。 とはいえシステム面での改良は為されている。必殺技を使ったことで、即座に行動不能に陥るということはない。だが、極端なパワーの低下だけは、どうしても避けられなかった。 今はもう、研究所に自力で帰還するのが精一杯だろう。
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287 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:26:40 ID:Yu42dgXM - 「なんてな」
「揺らいだ!」 計器が観測した結果を凝視し、隆斗が叫ぶ。 『左後方53°、2.7秒後!』 さらに司令室からの正確な指示が飛ぶ。 「本命は手前ェだ!」 狙い通り。振り向きざまに、GEMスピリット・クラスターを放った。 ろくな戦闘行動を取ることもなく、第二のプレネガスの残骸もまた海中に没していった。 「ふぅ……対策立てといて良かったスね」 今度こそ、本当の安堵の声を隆斗が漏らす。 最初のプレネガスを破壊したのは、敵の体内で発射したシャイニング・アローだった。そうしているうちに、増援に備えてエネルギーのチャージをしていたにすぎない。 おかしいと思っていたのだ。合体の邪魔する気配こそ見せたものの、実際にはほぼ防戦一方で、まるでこちらが消耗するのを狙うかのような戦法。 そしてもう一つの条件は、この場。転移してきやすい、遮蔽物の無い海上。 これらの条件から、二段構えの策だと読んだが、見事に的中したらしい。 生産能力の限界なのか、基本的にプレネガスが同時に出現するのは2体までだ。本日はここで打ち止めだろう。 だが、 「――甘い!」 自動操縦を解除し、ラインが動き出した。 突如、2本の水柱が上がった。 「な、何ッ!?」 予想外の展開に、緊張を解いていた隆斗が狼狽える。 その正体は、一対の非人型機動兵器。海中に没したプレネガスの残骸そのものだった。 「本命はこちらだ、Gドラスター!」 回線の開かれていないコックピットでラインが叫ぶ。 徹底した重装甲で固め、あえて破壊させる。本体は残骸にカモフラージュし、一旦戦域より離脱。事前に海底に潜んでいた――ラインの乗り込んだ――コックピットを収納する。 そしてGドラスターの戦力がダウンした隙を突くという作戦だ。 「三段構え!」 「チッ、してやられた……ハリボテの破壊に大技を使っちまった」 一杯食わされた迂闊さに、壮馬が舌打ちした。 そうしている間に、二つの機影は一つと重なり、均整の取れたプロポーションのプレネガスへと変化した。 背に大剣、左肩に大口径砲。 Gドラスターが鎧を纏った巨神ならば、差し詰め禍々しき鎧を纏った邪神というところだろうか。 「お前たちの合体機構、参考にさせてもらったぞ!」 体格は、Gドラスターよりさらに一回り大きい60メートル級。今の状態でまともに戦える相手ではない。 「回復まで時間を稼ぐ!」 即座に分離し、クラウンとアッシャーは二手に別れ、戦術的撤退する。 「上手く逃げ切れりゃいいが……」
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288 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:28:14 ID:Yu42dgXM - 壮馬の抱く懸念は、僅か数秒で実現する。
「くっ!」 プレネガスは、迷わずドラストクラウンのみを狙って追跡する。 「俺は眼中に無しかよ、舐めやがって」 気付くなりアッシャーを回頭させて、クラウンの援護に向かう。 悔しいが、奴の判断は正しい。GEMリアクターを搭載しているドラストクラウンは、ドラストアッシャーよりも不調が顕著だ。分離して負担を軽減したところで、すぐに調子を取り戻すものでもない。 ラインの判断が遅ければ、多少なりとも効果はあったかもしれないが……。 「遅いなァ」 プレネガスが間近まで迫る。 クラウンの速度は、常態に遠く及ばない。このままでは、ほどなく追い付かれ、軽く捻られてしまうだろう。 プレネガス――ラインの魔の手が、ドラストクラウン――壮馬に迫る。 「マズい!」 捕まる。 「壮馬サン!」 すんでのところでアッシャーが間に合った。そのまま激突する勢いでぶつかり、下手をすればそのままトドメを刺していた神業的合体を成功させた。 プレネガスと両手を組んで、力比べの格好になる。 「サンキュー、助かったぜ」 とは言うものの、さして状況に変化はない。 腕力が拮抗したのも僅か一瞬。すぐに海面に押さえつけられるような形になった。 「ぐっ!? だが……ここまでパワーが落ちるかよ!」 「出力が通常時の14%!? てんで回復してねぇスよ!」 「コイツは……ちとヤバいか……?」 壮馬は上手くプレネガスの力を逃し、完全に組み伏せられるのを防いではいる。例えるならば、柔道で寝技に持ち込まれるのを躱すようなものだ。 それでも、次から次へ攻めの手を緩めないプレネガスを、徐々に御しきれなくなりつつあった。 「フフフ……散々苦渋を味わわされたが、どうやらここまでのようだな!」 勝ちを確信し、ラインの顔が愉悦で歪む。 「Gドラスター、復旧速度は依然低迷。このままでは――!」 「やられるのも時間の問題か」 ミツキが言い淀んだ不吉な結末を、十字が結ぶ。 「G-DASHさえ使えれば……」 絶望的な状況。 静寂に支配された司令室の中で、誰かの呟きが響いた。 そうして、男は覚悟を決める。やれるときにやらず、黙って友を見捨てるのは道に反することだ。 「仕方ねぇ。オレが行く」 「所長代理!? 無茶ですよ!」 突然の進言に、ミツキの制止が入る。 「他に乗れる奴いるか? オレの蒔いた種でもあるんだ。少しはカッコつけさせろよ」 「だからって!」 「なんたってオレは開発者様だぞ。動かし方くらいわかるってもんさ」 「動かし方しかわかってないですよね」 「鍛え上げたこの身体、魅せる時が来たようだ」 「鍛え上げてても、操縦訓練してないじゃないですか! っていうか、脱ぐなー!」 「こんなに頼り甲斐のある肉体美を誇る漢だぜ。何とかなるなる」 「ああもう、この人は! この場はいいから、とっとと眠りなさい!」 打開策は依然見当たらないが、この男に任せるよりはマシだと心から思う。 こんな状況にも関わらず緊張感の欠けたドタバタを繰り返していた時、どこからか通信が入った。 『そうそう。生兵法は怪我のもと。おバカとはいえ、あんたの頭の代えは利かないんだから。餅は餅屋に任せなさいって』 「お前は――」 知った顔に、十字は言葉を失う。 このチャンネルを知っているのは、限られた人物しかいない。 モニターに映った顔は――。
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289 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:30:54 ID:Yu42dgXM -
『壮馬、隆斗!』 「十字?」 逃げの一手でなんとか耐えている壮馬の元へ、司令室から十字の激が飛ぶ。 『今から増援を出す。もうちっとだけ持ちこたえろ!』 「増援って……」 丁度その時、レーダーが研究所の方向から直行してくる機影を感知する。十字が言うからには味方に違いないのだろうが、識別コードが登録されていない。所謂アンノウンだ。 「新手か!?」 ラインもまた、ほぼ同時に新たな敵影を感知した。 アンノウンが視認距離に到達すると、壮馬が目を丸くする。 「G-DASHだァ!? まさか十字、お前か?」 それは、動かすはずの人物が存在しないはずの、竜の如きフォルムを持った機体。 それは、動かしたところで、無用の長物となるしかないはずの機体。 それは、だが確かに戦場へと駆り出されている機体。 ならば竜は、誰かを魂としてその内に宿しているに相違ない。 現在の超動技研で、魂たる存在足り得る強靭な肉体を持つ者は、機動兵器の操縦に関しては素人である十字ただ一人のはず。 彼が危険を承知でその身を戦いの中に晒すということなのだろうか。 いや、違う。 『ざーんねん。私よ、私』 モニターに顔を出したのは、マッチョサイエンティストではなく、赤みがかった髪の女性だった。 「な、沙彩? どういうことだよ!?」 よく見知った顔に、今度こそ本気で仰天した。 最近忙しいから、協力できないのではなかったか。 『ちょっと意地悪してみようとしたら、御覧の通りグッドタイミングってね』 急いで仕事を片付けてきたのよ、と芝居がかった物言いをする。 軽く舌を出して、イタズラ心をアピールしてきた。そんな仕草がいやに似合う。年齢を感じさせない可愛らしさが、また憎らしい。 忘れていた。しばらく会わないうちに、うっかりと。そう、確かにそうだった。彼女はこういう女だった。 まだ追い詰められている厳しい状況に変化はないのに、喉の奥から笑いが込み上げてくる。 そして仰天する男はもう一人。 「ん? あ、あれ? お姉さんって……」 『はぁい、坊や』 「は、ははは……ヨロシクどうも……」 ほんの数時間前、痛い目に合わされた相手だ。ぎこちなく手を振り返す。 程なくして、戦闘空域にG-DASHが到着する。逆襲の手筈は、これで整った。 「へ、こうなりゃこっちのモンだ。回復した分、全部突っ込むぞ!」 勝ちを確信するのは、今度はこちらの番。 「3秒限定、後先考えずのフルスロットルで合体だ、合わせろ!」 「ちょ、ハードル高いっス!」 今の技量では、まだ全開の壮馬についていける自信はない。 隆斗が弱音を吐くが、 「心配するな。合わせるんだよ」 『私たちが』 「お前にな。目一杯やんな」 彼と彼女は、何の心配もしていない。 以心伝心。やると口にしたからには必ずやれる絶対の自信が二人にはある。 それはすなわち、それだけの技量の格差が存在するということになるのだが。 「かーっ……どうなったって知りゃしませんからね!」 隆斗も男だ、腹は括った。 お望みどおり、心配せずに全力でやってやろうじゃないか。むしろこっちから合わせるくらいの気合で。 「3・2・1……GO!」 「いっけええええぇぇぇぇ!!」 壮馬の合図がかかった。沙彩は機銃で牽制し、僅かながらもプレネガスの気を逸らさせる。 Gドラスターは、その隙に一旦分離し上空へと身を躍らせ、G-DASHも後を追う。 ドラストクラウン、ドラストアッシャー、そしてG-DASH――GEM-Draster Adjust System Heavy armored type――の3機は、その真の姿を現すために空を翔ける。 「クロス・アァァァップ!」
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290 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:33:19 ID:Yu42dgXM -
竜騎士と竜が一つとなる時、竜は竜騎士の背をその居場所とする。竜の尾は畳まれ、爪は竜騎士の胴を掴み、尾翼にも似た一際大きな鱗は騎士の肩を覆い、竜の頭は騎士の胸部でシンボルとなり心の臓を守る。 きっかり3秒後。2体のドラストマシンにG-DASHを加え、二対の大いなる翼をたたえたGドラスターの完成型が、今雄々しく羽ばたいた。 「何だとォ!?」 見知らぬ機体が出現したと思った途端、ラインの予想外の展開が起こった。 数秒間の見違えるような動きもそうなら、3体合体したこともそうだ。 だがこれで俄然面白くなってきた。ライバルを追い詰めるのもいいが、やはりどうせならまともな勝負がうれしい。ラインとはそういう男だ。 「こけおどしではなかろうな!」 ラインは剣を抜いて斬りかかるが、 「ぬっ!?」 既にその場にGドラスターはいない。G-DASHとの合体前ならば確実に破壊できていたはずの一撃が躱された。 二度三度繰り返しても同じことだった。 この短時間での回復ぶり、そして増幅されたパワーに壮馬は舌を巻く。 「へぇ。コイツはいいや」 これなら思い切り戦える。 「凄ぇ……漲ってる」 隆斗の内側からは、興奮湧き上がる。 この時点で、通常時の倍のGEM生成量をマークしている。ただ合体しただけで、絶不調から一転この調子だ。 (もしもフルパワーを出したら……) 試してみたいような空恐ろしいような、言い様のない感覚だった。 「これが……ね。なるほど、操者を選ぶわけだわ」 GEM初体験の沙彩は、壮馬が自分をしつこく誘っていたことに得心がいった。 これはまともな人間には扱いきれない。悪ければ死、良くて機体に振り回されるだけだ。 だから呼ばれた。確実にマシンを扱え、かつ気心が知れた相手として。パートナーとしては確かに最適な選択だろう。 まったくふざけた話だ。 (もう少し色気のある理由で呼びなさいよね) もっとも、そういう相手と承知しての付き合いなのだから、言えたことではないのだが。 そんな壮馬と自分、そして戦いの中で確かめ合える絆。 元より色気の少ない関係と、今ある戦いを目の前に、彼女は微笑を浮かべた。 プレネガスのコックピットでは、ラインが今までにない手応えを感じていた。 宿敵に勝つために弱点を突く。否定する気はないし、それはそれで楽しい。だがやはり――。 「どうやら完全に弱点を克服したようだな。面白い。ならば!」 剣を両手で握り直す。 全霊を込めて疾る。 腹の底から吼える。 だがやはり――、 「真っ向勝負!」 心の底から楽しいのは、勝つか負けるかも判らぬ、身体の芯に響くようなぶつかり合い!
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291 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:35:35 ID:Yu42dgXM - 「舐めるな!」
壮馬は、プレネガスの剣を、左腕のブレードで受け止めた。 GEMの込められた装甲は、GEMの量に比例してその強度を上げる。 鍔迫り合いも何もなく、力任せに受け止めそのまま押し返した。 「馬鹿な! 押し負け――ぐあっ!?」 ブレードの直撃こそ避けられたものの、プレネガスにはカウンターパンチが見舞われた。 「くっ……おのれ!」 この一合で接近戦は不利と悟ったか、ラインは得手である突撃戦法を止めた。 これは遠近両対応の機体だ。メインウェポンは剣だけではない。接近戦と比べれば幾分か苦手だろうと、考えなしに同じ轍を踏むほど馬鹿ではない。 単純なパワーで劣る以上、Gドラスターの得意とする距離でやり合うよりは、こちらの方が勝ち目はあると判断する。 「距離を取ったわね」 「だがな、甘いっての」 プレネガスが、砲口をGドラスターに向けた。 「調整が上手くいっているのか。パワーが全然落ちねぇ。壮馬サン、いけます!」 「おうっ!」 竜の爪、そして顎が展開した。 スパークする3本の光の線が交錯し、Gドラスターの眼前に力場を生み出す。 「デルタ・パニッシャー!」 膨大な力の奔流が、光の帯となって発射された。 同時に、プレネガスの砲から必殺の一撃が放たれる。 遠距離戦においても、ラインの望み通り、力と力のぶつかり合い。真っ向勝負の構図となった。 「これは!?」 ラインは、咄嗟に背中にマウントされていたシールドを、プレネガスの右手に装備し前面に構える。その上からさらにエネルギーシールドの重ねがけをし、防備を万全とした。 で、あるにも関わらず、 「ぬおわ!」 砲撃を真正面から押し返してなお衰えぬ一撃が、プレネガスに甚大な損害を与えた。 「シールドが耐え切れんとは!」 元はと言えば、防御力特化型の能力も備えた機体である。それが全力で防御した。にもかかわらず、シールドのみか、あわや右腕そのものを持って行かれるところだった。 「フ……フフフ……フハ、フハハハ!」 Gドラスター、なんと恐ろしい敵か。恐ろしすぎて、笑いが止まらない。 この戦い、最早ラインは敗北を受け入れた。 来るがいい。 「ならばせめて……」 Gドラスターが、ドラスティックブレードを大剣モードにして振りかぶる。 「第二の大技、いくぜ!」 そうだ、さらなる一撃を以て、 「この中級プレネガスを葬ってみせろ!」 力の奔流が奔流を呼び、形を成し、剣と呼ぶにはあまりにも長大な刃を生み出した。 そして、敵を討つ。 「ブレード・オーバーバースト!!」 刃渡り数kmにも及ぶ収束されたGEMの塊が、プレネガスに振り下ろされた。 爆煙を抜け、彼方へと飛び去る小型の物体があった。 「おのれまたしても! だが、これでお互い全力で戦える! 面白くなってきた、面白くなってきたぞ。フハハハハハハハ!!」 間一髪脱出に成功したラインは、敗戦を大声で笑い飛ばしながら、基地へと転移するのだった。
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292 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:39:02 ID:Yu42dgXM -
超動技研司令室。 各々が身を整え集まる中、ピッと敬礼して自己紹介をするのは、見事にスーツを着こなした女性。 「星海沙彩、本日を以て超動技研特殊機動兵器戦闘班に合流致します」 彼女は壮馬の良く知る女性。 一通り形式ばった紹介を終えると、態度を崩し、壮馬へ手を向けた。 「ヨロシクね、隊長さん」 「おぅ。ヨロシクされたよ、新人さん」 気軽な調子で、片手でハイタッチ。 「で、そこの所長代理は、なーにを悶えているのかしら?」 沙彩は先程から気になっていた男の様子について訊ねる。 上半身裸のまま、頭を抱えて「あー」だの「うー」だの延々もがき続けている。 いい加減鬱陶しいので、何事かと問い質してみれば、酷い現実が待っていた。 「くそぅ、くそぅ! お前が来るってわかってたら、女性型のSTRでも製作しとくんだったぜ」 壮馬は沙彩の肩に両手を置いて、心の底から感謝を伝える。 「ナイスだ。おかげで助かった。コイツ、他をほったらかしてマジでやりかねん」 「サプライズ狙いが功を奏したか。まーたおバカなことしでかしたみたいね」 「しかも今は寝不足だ」 「あァ、道理で」 話が通じにくいわけだ。 「もちろん、おっぱいミサイルは標準装備な。これだけは譲れねェ!」 「十字……お前、ホントに寝ろ。な?」 「浪漫だよ、ロマンの追求なんだよ。夢の実現だよ。科学者の目指す美の究極の一なんだよ」 憐憫の情を見せながら休息を勧めると、十字は涙ながらに力説してきた。 あまりの事に、高山ミツキが、何度も何度もひたすら頭を下げ続ける。 「スミマセン、スミマセン。おバカな人で、本っ当にスミマセン……」 「いや、ミッちゃんが謝ることじゃないから」 「おっきい子のお守りは大変ね」 壮馬と沙彩は、彼女が謝るべきことではないと念を押した。 この娘の苦労は察して余りある。人として労ってあげなければならない。
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293 : ◆uW6wAi1FeE [sage]:2010/10/20(水) 22:41:39 ID:Yu42dgXM - 「ところで壮馬。このコ、さっき私をナンパしてきたわよ」
「うっ!」 沙彩の指は、真っ直ぐ隆斗を指している。 突然話題を振られ、先程から会話に参加していなかった隆斗が、身を縮こまらせた。 「ほぅ。そりゃ本当か、隆斗?」 「そ、それは……そのー、ですね……」 にじり寄る壮馬と、同じだけ後退る隆斗。 「フリーなら好きにしろっつったよな?」 「ぁいや、でも! でもですよ、偶然だったし、俺、初対面だったわけでして、ですね」 壁際まで追いやられ、しどろもどろになって弁明する。 壮馬と沙彩の様子から、薄々手を出してはいけない相手だと思っていたが、嫌な予感は的中したらしい。 なんて間の悪いことだと、己の不幸を呪った。 何か良い言い訳はないものか、何か穏便に終わる謝罪方法はないか、ぐるぐる思考を巡らせる。 そうして隆斗の緊張が限界に達した途端、壮馬の顔は笑みに変わった。 「どうせ、いいようにあしらわれたんだろ」 大変だったろうと、にこやかに肩まで叩いてくる。 「あれぇー?」 お咎めなしに終わって拍子抜け。緊張の糸は切れ、隆斗は思わず首を傾げる。 ため息一つ、沙彩は言う。 「嫉妬してくれないんだ」 「嫉妬するとも思ってねぇくせに」 お互い、分かり切ったことだと微笑み合う。 「あのー……ところで、お二人の関係は、やっぱり……?」 隆斗は興味本位で訊ねる。この様子なら、快く答えてくれるかもしれない。 「ふむ――」 壮馬が、顎に手を当てて軽く思案。一言で関係を表すならば……。 「ま、長い付き合いの腐れ縁ってトコか」 「お互い知らぬことは無しって、ねぇ壮馬?」 沙彩が壮馬の肩に手を置き、隆斗が知りたいだろうことを補足する。 「んなこたどーでもいいっス! やっぱりかぁ! やっぱりそーゆー関係アリか、アンタら!」 声を張り上げ、拳を握って滲み出る悔しさを噛み締める隆斗。 壮馬を指差し、宣言する。 「壮馬サン、俺は今、アンタを乗り越えるべき壁と認定しました!」 「今までは何だったんだよ」 突然何かと思えば、呆れて力が抜けた。よくわからないところで、よくわからない反応をする奴だ。 「んと……色々凄いケド、無茶苦茶なことばっか言う時々ガキっぽい人? 無闇にテンション高い親戚だか近所の兄ちゃんだか、そんな感じで」 「あははは! 的を射てるんじゃないの、壮馬?」 「なーんか釈然としねぇな」 腕組みをする壮馬と、目尻に涙を浮かべる沙彩。 面白がって、次を促す。 「じゃあね、隆斗くん。あっちはどう?」 「おバカな天才から、天才なおバカへと認識を改める必要があるかなーって」 指された先は、当然マッチョサイエンティスト。 G-DASHの件から科学者のロマンとやらまで含め、隆斗はそう評する。 「あ、それはスッと納得」 「これ以上ないほど的確ね」 「異議はありません」 壮馬、沙彩、ついでにミツキは、未だブツクサ言い続けている十字を見ながら頷きあった。 「どうせサポートタイプになるなら、修理装置かバリアあたりを備えときたいな。そんでもって、スタイルにも拘っちゃったりなんかしちゃってな。ミサイル以外の武装だって――」 ロマンの行方は、留まるところを知らない。
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