トップページ > 創作発表 > 2010年10月18日 > P3toMJII

書き込み順位&時間帯一覧

1 位/104 ID中時間01234567891011121314151617181920212223Total
書き込み数00000057000000000000000012



使用した名前一覧書き込んだスレッド一覧
◆cNVX6DYRQU
顔合わせ ◆cNVX6DYRQU
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜

書き込みレス一覧

剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
100 : ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 06:42:58 ID:P3toMJII
>>95
すいません、ミスです。赤石のテンプレの「気絶」は削除という事で。

それと、上泉信綱、武田赤音、宮本武蔵、柳生連也斎で投下します。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
101 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 06:47:36 ID:P3toMJII
「ん……」
休憩を終えた武田赤音は思い切り伸びをする。
辰の刻を告げる鐘が鳴ったのは少し前の事。休み始めたのは日の出をかなり過ぎてからだから、休めたのは一、二時間程か。
「そっちも終わったか」
赤音が目を向けた先に居るのは、剣聖上泉伊勢守信綱と、その同行者であった林崎甚助……正確には、甚助であった骸。
岡田以蔵を斬った後、信綱と赤音は、残して来た林崎甚助と神谷薫の元に戻ろうとしていた。
そんな時、夜明けと共に響いて来たあの声。
信綱はその声の主に心当たりがありそうな素振りを見せていたが、直後に表情を一変させる。
足を早めて戻ってみると、そこには、薫の姿は無く、あの声が告げた通り息絶えた甚助の死体が。
そこから殺害者のものと思しき血の跡を追って行くと、城下から出る橋が崩落した辺りで途切れていた。
橋の破壊と血の主に関係があるのか、その者がここから何処へ向かったのか、どちらも現時点では全く不明。
信綱は仕方なく甚助の元に戻って血に塗れた姿を整えてやり、その間、赤音は一休みしていたという訳だ。

「なら、俺は行かせてもらうぜ。あの女も、『林崎甚助』を殺る程の使い手なら、助けなんて無用だろうしな」
そう言って立ち上がる赤音。だが、信綱はその件に関して疑念を捨てきれずにいる。
「本当に、その神谷なる女人が、彼と勝負して打ち勝ったのだと思うかね?」
確かに、持っている刀を折られ、その切っ先で喉を突かれるという甚助の死因は、相手が無手であった事を強く示唆する。
いくら好戦的でも武器を持たない者がわざわざ甚助を襲うとも思えず、甚助もまた好んで素手の相手に挑むような者ではない。
……その相手が、尊敬する上泉伊勢守に刃を向ける不届き者の仲間でさえなければ。
そういう訳で、状況証拠から見れば林崎甚助の死に神谷薫が関わっている疑いは非常に濃い。
だが、信綱には、その神谷薫に林崎甚助を討てるような力量があるとは、信じかねている。
先程、気配を感じた時に危険さを感じなかったというのは、まあ、薫が己の剣呑さを隠すのに長けていたとすれば説明は付く。
問題は、甚助の刀を折ったそのやり口。
先程から、信綱は甚助の死体と折れた剣を仔細に観察し、甚助を破った神谷薫と思われる者の技を再現しようと務めていた。
結果、甚助の剣を折った技もその使い手も、無刀取りを長らく研究して来た信綱からすれば、非常に未熟なものに思える。
この程度の腕であの卍抜けに対抗できる筈もなく、この一件には何か裏があるように思えるのだが……

「あん?まあ、連れがあんな小娘にやられたのを認めたくないのもわかるがな」
赤音とて、あの無力そうな娘に、居合いの祖とも言われる大剣豪を討てたとは信じ難い。
だが、いくら考えても真相はわかる筈ないし、赤音としては、そんな無駄な事に時間を浪費するつもりはないのだ。
のんびりしている内に戦い甲斐のある剣士は互いに殺しあって数を減らして行っているだろうし、
主催者がああして干渉して来たという事は、誰かがそれを手掛かりに、赤音に先んじて彼等を討ってしまう恐れすらある。
薫が甚助を討ったのであれば、いずれ仕合の相手として再会できるかもしれず、そうなれば甚助を討てた真相も判明しよう。
という訳で、赤音は信綱を渋々でも納得させ、さっさと別れる方向に話を持って行こうとしていた。
「相手が武器も持ってない女だから油断したんだろう。まあ……」
「ならば、その者は所詮、剣の道を歩むには相応しくなかったという事だな」
いきなり、信綱でも赤音でもない者の声が、赤音の言葉に応じる。
だが、信綱も赤音もその声が語る言葉をまともに聞いていない。
「な」の音が響いた瞬間、二人は全力で跳躍し、その場を離れたからだ。
もっとも、彼等が即座に動かなければ、言葉と同時に放たれた剣によって両断され物聞けぬ骸になっていたのだから、
この言葉は所詮、はじめから誰にも聞かれず空しく響く運命だったとも言えるのだが。
何時の間にか忍び寄っていた男の言葉に囚われず奇襲をかわした二人は、その不動明王に似た男に相対した。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
102 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 06:51:32 ID:P3toMJII
「随分と気の利いた挨拶じゃねえか」
気配を消して近距離まで近付いた技量、剣の一撃の凄まじさ、そして、まず声を掛ける事で殺気から気を逸らす遣り口。
面白い勝負ができそうな相手の登場に笑う武田赤音。
「貴殿は?」
上泉信綱も、相手が只者でない事を悟ったのか、心持ち丁寧な口調で問い掛ける。
「宮本武蔵玄信と申す」
いきなり発せられた大剣豪の名に、赤音は驚愕に目を瞠り、続いてにやりと笑った。
確かに、林崎甚助や 師岡一羽・斎藤伝鬼坊がいるのなら、宮本武蔵が参加していても何の不思議も無い。
この分だと、雲燿の剣を見せてくれたあの老人はやはり東郷重位だったのだろう。
戦意を燃やし始めた赤音を制して、信綱も自己紹介を返す。
「私は、上泉信綱と申す者……」
言った途端、武蔵の強烈な殺気が叩き付けられ、信綱は穏便にこの場を収めるのが困難だと悟る。
赤音としても、目の前の老人があの剣聖伊勢守だった事に何も感じない訳ではないが、今は宮本武蔵の方が重要だ。
史上最強とすら言われる達人であり、現在まで残る精緻な兵法理論を創出した大剣客。
加えて、多くの対戦相手を打ち殺し、子供や素人にすら容赦しなかったという武蔵なら、赤音にも手加減などするまい。
武蔵本人は赤音よりも信綱の方に興味がありそうだが、こんな極上の獲物を誰が譲ってなどやるものか。
素早く信綱の前に出ると、いきなり飢虎を繰り出して先制攻撃を仕掛ける。
「!?」
あっさりと攻撃を弾かれ、驚愕が赤音を襲う。
無論、宮本武蔵に奇襲が簡単に通じるとは、赤音もはじめから思っていない。
しかし、今の武蔵の動きは明らかに反応が早過ぎる。まるで、赤音が動き始めた瞬間に飢虎を読んだかのように。
(こいつ、まさか刈流を……)
「ほう。お前はあの男の同門か」
武蔵が、赤音の疑念を裏付ける一言を放った。

「あの男?」
「この島には、お主と同じ剣を使う男が参加しておろう。濃紺の着流しの男だ」
(伊烏!)
死者を含めれば刈流を修めた剣士は相当の数になるだろうし、服などはいくらでも着替えられる。
だから、赤音と同じ流派、濃紺の着流しというだけでは、武蔵が言う剣士が伊烏義阿とは限らない。
それでも、もしも伊烏がこの島に来ているとすれば……
「あいつに、会ったのか……?」
「会いたいならば、ここから半里、北東に向かうが良い。今ならまだそこに居よう」
半里……そんな近くに伊烏が居るというのか。伊烏は、死した後でも変わらず自分を追い求めてくれているのだろうか……
チン!
鍔鳴りの音で赤音が我に帰ると、上泉は剣に手を掛けて武蔵と相対し、武蔵の方も既に刀を抜き、上段に構えていた
「行かれよ。但し、短慮は控えるが良かろう」
(二人して俺を体よく追い払おうとしてやがるな)
赤音は心中で毒づくが、まあ、彼等の立場からしたらそれも無理ないかもしれない。
武蔵が求めるのは己の剣の進歩と勝利。ならば、大事なのは対手の腕前と剣者としての器量のみ。
無論、赤音とて相当の達人であろうとわかってはいるが、剣術界における上泉伊勢守の名はあまりに巨き過ぎる。
一方の信綱からしても、放置した場合の危険は武蔵の方がより大きいと判定したのは妥当なところだろう。
伊烏が求めるのは強者との仕合だが、武蔵は勝利の為なら強者も弱者もかまわず殺そうとするであろうから。
それに、赤音にとっても、伊烏に会えるなら、武蔵や信綱などはっきり言ってどうでも良い存在でしかないのだ。
赤音は、見る人によっては「頂上決戦」と称されてもおかしくない世紀の対決に背を向けると、北東を指して走り出した。

【へノ肆 城下町/一日目/午前】

【武田赤音@刃鳴散らす】
【状態】:健康
【装備】:逆刃刀・真打@るろうに剣心、野太刀、殺戮幼稚園@刃鳴散らす
【所持品】:支給品一式
【思考】基本:伊烏を探す。
     一:北東に向かい、伊烏を探す。
     二:強そうな剣者がいれば仕合ってみたい。とりあえずは老人(東郷重位)の打倒が目標。
     三:女が相手なら戦って勝利すれば、“戦場での戦利品”として扱う。
     四:この“御前試合”の主催者と観客達は皆殺しにする。
     五:己に見合った剣(できれば「かぜ」)が欲しい。
     六:一輪のこれ(殺戮幼稚園)、どうすっかな?
【備考】※人別帖をまだ読んでません。神谷薫、上泉信綱、宮本武蔵の顔と名前は把握。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
103 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 06:54:48 ID:P3toMJII
「一の太刀を使われるか」
さすがに、信綱は瞬時に見抜いていた。
武蔵の構えは、最強を謳われ、信綱にとっても最も尊敬する先達である、塚原卜伝の奥義のそれであると。
「そうか。やはり、これが一の太刀なのは間違いないか」
既に足利義輝に確認していた事だが、あれが詐術であった可能性もこれで消えたと、ほぼ確信して頷く武蔵。
その武蔵の反応も、信綱には予測の内。彼の一の太刀の構えを見れば、それが正式に伝授されたのでない事は歴然としている。
信綱の見るところ、武蔵の一の太刀は卜伝のそれに比べて不完全だ。
もっとも、一の太刀を完全な物として修得している者は卜伝の弟子の中にもいないだろうが、問題は不完全さの方向性。
武蔵は、一の太刀の深奥の部分に関しては、信綱が驚く程に良く会得しており、欠けているのは基礎の方。
卜伝が新当流を基礎から修めていない者に一の太刀の伝授を許す筈がなく、武蔵は卜伝の弟子では有り得なかった。
だが、それにしても……
「実にお見事」
信綱は素直に感嘆する。
元々新当流の剣士でない為に武蔵の一の太刀は基礎が不完全だが、奥義の核心と言える部分は、信綱の見る限り完璧だ。
一の太刀をここまで盗み取ったのも大したものだが、より感嘆に値するのは、盗んだ相手が塚原卜伝当人であろう事。
上で述べたように、卜伝の弟子には一の太刀を伝授された者が幾人か居るが、誰も奥義を完全に物にしたとは言えない。
もっとも、一の太刀は卜伝が己の全てを掛けて編み出した秘技なのだから、卜伝ならざる剣士が完全に会得できないのは当然。
例えば、信綱の弟子でもある足利義輝は、一の太刀の威力では卜伝に及ばない代わりに、その剣には卜伝に無い高貴さがある。
だから、弟子達の一の太刀が不完全であるからと言って、それは彼等が剣客として師に及ばない事を意味する訳ではないが、
とにかく、卜伝以外の者は完全な一の太刀を使えないのだから、武蔵がこういう形で一の太刀を盗める相手は卜伝のみ。
つまり、武蔵は卜伝の一の太刀を見、その核心を盗める程に卜伝の剣を理解しながら、同じ道を進もうとしている。
誰にでも出来る事ではない……少なくとも、信綱には出来なかった。
塚原卜伝は、信綱の見る所、非の打ち所のない完全な剣士だ。
仮に、信綱が卜伝と同じ道を進んだとして、望み得る最高の場合でも、卜伝に並ぶのが精一杯だっただろう。
その場合、この世に塚原卜伝が二人居たとしても意味はなく、信綱は剣術の発展の為に如何なる寄与も出来ない。
だから、信綱は、生涯に何百人を殺したと誇らしげに語る卜伝とは逆に、活人の先にある剣を目指した。
奥義として選んだのも、転・無刀取りなど、一の太刀とは対照的に、相手を先に動かし、その力を逆用して制する技。
見方によっては、塚原卜伝との真っ向勝負を避けて別の道に逃げたとも言えるし、
卜伝なら己が進む道にある剣理は全て探し尽すだろうから、自身は他の道を探せば良いという、信頼の表れとも言える。
しかし、この男は……一の太刀をここまで修得できている事から考えて、元々卜伝とごく近い道を歩んで来たのだろう。
そして、卜伝のあの一の太刀を目の当たりにしながら、自分も同じ技を身に付け、卜伝を含む全参加者に勝つつもりのようだ。
塚原卜伝と同じ道を進んでいても、己ならば追い越せるという強い自負。
これ程の相手の威を、果たして自分に受け止め切れるか……
信綱は、意識せず、剣から手を放していた。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
104 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 06:57:55 ID:P3toMJII
武蔵は、信綱が剣から手を放し、無手で構えたのを見て歯噛みする。
元々、一の太刀は剣で剣に対する際の技であり、剣を持たない相手を斬るにはあまり向かない。
卜伝が剣神天真正と立ち合い見出した故か、剣神を祀る神官家の者として剣の他の「外の物」相手に奥義など不要との自負か。
どちらにせよ、素手の相手にわざわざ一の太刀を使う事は基本的に想定していないのだ。
特に、信綱が狙っているであろう無刀取りにとっては、上段からの振り下ろしは基本の型の中で最も取り易い形。
出来れば正眼に構え直したいところだが、上段に構えた剣をそのまま下ろせば、一瞬、自分の腕で己の視界を遮ってしまう。
片手を放してから構え直せば視界は確保できるが、片手を遊ばせる隙が出来る事には違いがない。
もちろん、冷静に考えればそれでも、剣を構えた武蔵が素手の信綱よりは幾らか有利の筈。
しかし、一の太刀の利点を潰される恰好になった事と、新陰流開祖の名声が武蔵の心に焦りを生む。
一流の剣客同士の勝負では、僅かな心の隙が武器の有無以上に大きく勝敗を分ける事がある。
こうなれば手は一つ……武蔵は意を決すると、剣を上段から振り下ろした。

武蔵は間合いの外で剣を振り下ろすと同時に手を放し、信綱に飛ばす。
信綱は素早く手で刀身の平を打って叩き落すが、そのすぐ後から突っ込んできた武蔵の拳をかわし切れず、一撃を受ける。
咄嗟に武蔵の腕を掴んで固めようとするが、武蔵は腕を強く捻って振りほどく。
続いて武蔵は蹴りつけようとするが、信綱に軸足を払われてたたらを踏む。
術技の限りを尽して殴り合い、蹴り合う二人の大剣豪。
無論、剣客……とくに戦国の世に生きる剣士は、剣のみならず無手を含む多数の武術を併修するもの。
新陰流や二天一流もその例外ではなく、柔術の技法をも豊富に含んでいる。
新陰流の無刀取りは柔術に通じる技だし、気楽流なる柔術流派は新陰流の技を取り込み信綱を開祖と称したという。
また、武蔵も格闘術に長け、天下一を称する新当流の有馬喜兵衛を、組み打ちに持ち込むことで倒したのは有名な話だ。
だから、二人の無手の技が劣っているという事は決してないのだが、それでも、剣術こそが彼等の表芸なのは間違いない。
無論、二人の達人が相手の技を深く読み合い、互いの無手の敵への対処に瑕疵を見つけたが故の格闘戦ではあるのだが、
超一級の剣客二人が素手で撲り合うさまは、滑稽と言って良いだろう。
命懸けでありながら滑稽な争いを続ける二人……その不毛な争いを止める男は、既に間近に迫っていた。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
105 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:01:46 ID:P3toMJII
(老人の方は、新陰流だな)
争う二人に忍び寄る柳生厳包は、信綱の動きからそれを悟る。但し、厳包と同じ尾張柳生ではあるまい。
尾張にあれ程の達人が居れば厳包の耳に入らない筈がないというのもあるが、老人の技法そのものが尾張柳生とは少し違う。
老人の構えは腰を落とした介者剣法の型であり、尾張柳生では初代利厳が素肌剣法に適応した直立の構えを採用している。
もっとも、必ずしも足元が整備されていない野試合では、安定を重視する介者剣法が直立の構えに劣るとは限らないが。
だが、直立の構えは、急激に変化する世に生きた柳生利厳の大きな成果であり、尾張柳生の誇るべき構えだ。
よって、あの老人は利厳の技を継ぐ尾張柳生の剣士では有り得ない。
また、聞く所によれば、江戸柳生も宗矩の指導の下で素肌剣法への適応を進めたとか。
それが本当だとすれば、あの老人は、柳生以外にも無数に存在する新陰流の一派の遣い手という事になる。
厳包にとっては、新陰流正統を争う敵手とも考えられるが、彼はそんな卑小な理由で二人を襲おうとしているのではない。
そもそも、彼には白井亨を見つけ出すという急務がある訳で、単に新陰流の剣士を見付けただけなら寄り道などしなかった。
先を急ぐ厳包の足を止め、針路を変えさせたのは、この二人の剣客の信じ難い程の腕前。
剣を使っていなくても、動きを見れば、老人も、その相手も、己に劣らぬ一流の剣士である事は一目瞭然。
一方で、刀や木刀を腰に差したまま素手で戦う二人の有り様は、厳包から見れば明らかな隙。
隙を見出したならば、そこを衝き、指摘してやるのが剣客同士の礼儀というもの。
それでどちらかが死亡したとしても、生き残った方が闘いから何かを得られれば、結果的には剣術の発展に繋がる。
剣の為という、満天下を覆い過去未来を貫く、剣士にとって絶対の大義が、主の為という、己一個の義を圧倒したのだ。
使命感に身を任せ、厳包は二人へ近付いて行った。

厳包はぐんぐんと二人に近付いて行くが、一向に気付かれる様子は無い。
信綱と武蔵が目の前の相手との戦いに気を取られているせいもあるが、最大の秘密は厳包の歩法。
それは柳生新陰流秘奥の術。
新陰流の奥義と言っても信綱が創出したものではなく、厳包の曽祖父である石舟斎が考案した……いや、改良したもの。
石舟斎晩年の愛弟子に、金春七郎なる猿楽師が居た。
七郎は石舟斎から幾度も極意を伝授されているが、それは単に彼の剣士としての才が優れていたからというだけではない。
石舟斎は七郎に新陰流の奥義を伝える代わりに、七郎から猿楽金春流の秘伝を習ったという。
柳生の血には猿楽狂いの性が秘められてはいるが、この場合、石舟斎の目当ては猿楽の技を剣術に活かす事。
古書に曰く、芸の至上は、人の意識の外にありながら、人の心に和を作り出す事なりと。
派手な芸で見る人を驚かすのも一つの道だろうが、存在を意識させず、無意識に働きかけて人の心を和ませるという道もある。
今回、厳包がやっているのも同様で、気配を消すのではなく、相手の心と調和させる事で、意識に上るのを防いでいるのだ。
そのまま、相手に刀を抜く暇を与えない為に超接近戦を続ける二人に近付くと、一気に薙ぎ払った。

厳包の一撃を受けて転がる信綱と武蔵。但し、直前に殺気を感じ取って刃筋をずらした為、共に斬られては居ない。
無論、鉄の塊で打たれて痛くない筈はないが、戦闘力が大きく減る程の痛手ではなく、素早く立ち上がって得物を抜く。
もしも、二人を一度に薙ぎ払うという無茶をしていなければ、彼等の片方は負傷させられていたかもしれない。
だが、厳包の思惑としてはそれで良いのだ。
負傷させずとも、二人は今までの戦いでそれなりに体力と気力を消耗している筈。加えて、地の利。
信綱と武蔵が、相手に地の利を与えない為に牽制し合っていた為、空いていた絶好の位置。
そこを漁夫の利を得る形で厳包が占め、今の一撃で二人を追い払ってこの位置を確保した。
この二つの優位さえあれば、どんな達人が相手でも必ず勝てるという自信を、厳包は持っている。
「柳生殿!?」「柳生兵庫助!」
どうやらこの二人は共に柳生に縁を持つようだが、今まで戦っていた手前、結束して厳包と戦う訳にもいくまい。
先程の一撃で平等に両者を攻撃し、彼等の間の均衡を崩さなかったのは、そういう狙いもあったのだ。
十分な勝算を持って、厳包は偉大なる大先達二人に刃を向けた。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
106 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:06:31 ID:P3toMJII
鼎立の状態で睨み合う三人の剣豪。
暫く、隙を突かれるのを恐れて誰も動けない状況が続くが、やがて吹いて来た突風が均衡を破る。
風下に立ち不利な状況に追いやられた武蔵は、隙を伺う構えから防御重視に構え直した。
その瞬間を逃さず、信綱は厳包との間合いを詰めて行く。
武蔵の横槍を心配しなくてせずに済む内に、厳包の剣を確かめておこうという肝か。
厳包としてもそれは望む所。
信綱か突いて来た剣を叩き落すと、剣を回して斬り付ける厳包。
回避し身を一転させての打ち込みを、厳包は手を峰に添えて受け、そのまま剣を滑らせての一撃を信綱が身を沈めて避ける。
数回の応酬の後、風がやむ直前に、厳包の追撃を紙一重でやり過ごして身を引く信綱。
信綱の着物が裂けているところを見ると、現段階ではやはり、疲れと地形が厳包を優位に立たせているらしい。
しかし、実際に戦ってみて信綱の真価を実感した厳包の心には、焦りが生まれていた。
最初に感じた通り、信綱の新陰流は厳包のものより古く、その点では厳包に約八十年の利がある。
無論、技が新しければそれだけで勝てるというものでもないが、問題はその技の有利も信綱相手には風前の灯だという事。
今の数合の前の段階で二人の技の時代差が八十年だったとすれば、今は七十九年程になっているだろう。
このごく短い闘いの間に、信綱は凄まじい勢いで、厳包から技法を学び取っているのだ。
この調子で一刻も戦い続ければ、石舟斎と利厳が心血を注いで新陰流に加えた新技を、残らず盗まれてしまうかもしれない。
そうして利点を一つ失った時、厳包は果たして、老年に似合わぬ天稟と、歳以上の老練さを持つ信綱に対抗できるのか……

信綱に強い脅威を感じ、密かに短期決戦を目論む厳包。
しかし、今、厳包が対峙している相手は、信綱一人ではない。
そしてもう一人の相手、宮本武蔵は、厳包の心に生じた微かな弱気と、己から注意が逸れた事を見逃す甘い剣客ではなかった。
信綱が退いて出来た隙間を埋めるように前へ出ると、畳み掛けるように攻めて行く。
変幻自在の木刀の攻めに一歩引くかに見えた厳包だが、思い直して前に出る。
木刀は遠間での防衛を苦手とする武器であり、間合いを保ちつつ武蔵の攻めが切れるのを待てば、厳包は優位に立てるだろう。
だが、それをやれば結局の所、戦いの流れが緩やかなものとなり、長期戦となる可能性が高い。
闘いが長引けばそれだけ多くの技を信綱に奪われる訳で、それが厳包には我慢できなかった。
木刀の突きをいなした厳包のの大上段からの切り下ろしを、見切って間合いを外したかに見えた武蔵が、いきなりのけぞる。
厳包が切り下ろしの最中に手の中で剣を滑らせ、間合いを見かけよりも伸ばしたのに直前で気付いたのだ。
岩本虎眼が先の戦いで使って見せ、厳包を殺しかけた技。厳包はこの場面で、敢えて他流の技を使う事を選択した。
信綱に新陰流の手を見せてそれを盗まれるのを恐れた、という一面ももちろんある。
だが、それ以上に、これは厳包が上泉伊勢守という巨大な存在に刺激され、更なる進歩を求め始めた証左。
信綱のようにこちらの技法を瞬間で学び取る剣士に対抗する為には、ただ新陰流正統の技を墨守するのみでは不足、
この島で出会った剣士達の技をも取り込んで、己の新陰流を更に進化させ続ける事で、信綱に対しようとしているのだ。
見切りに優れた武蔵は、予測より早く身をかわすが、厳包はぎりぎりまで刀を滑らせ、遂にその刃先は武蔵の額に届く。
無論、両手どころか、片手の指二本で支える所まで滑らせた剣では、武蔵の頭蓋骨を割る程の威力は発揮し得ない。
そして次の瞬間、武蔵の刀の鞘による抜き打ちが己に斬り付けた刀を強く叩き、厳包の手から弾き飛ばす。
だが、それも全て厳包の計算の内。二人がそのまま馳せ違った瞬間、厳包の手には既に別の刀が握られている。
それは、最初に武蔵が信綱に投げ付け、叩き落された刀。
その存在が頭にあり、間合いを伸ばし過ぎて剣を落としたとしても、すぐ補充できる見込みがあってのあの行動だったのだ。
対して、振り向いた武蔵の顔……目の上には厳包の剣による傷。
ごく浅い傷ではあるが、このまま止血せずに戦い続ければ、流血によって視界を塞がれ、戦闘能力を大きく減らす事になる筈。
飛び違って位置を変えた事で、武蔵に対する地の利は失ったが、相手の視界を塞ぐ事による利はそれに勝るだろう。
総合すると厳包に得な一閃だった。この時点では、厳包にはそう思えたのだが……
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
107 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:12:36 ID:P3toMJII
傷を受けた武蔵は、すぐさま鞘を投げ付けて信綱を牽制すると、再び厳包に襲い掛かる。
だが、その動きもまた、厳包の予想を外れるものではない。
そもそも、この闘いを短期決戦に持ち込むのは厳包の狙いだった。
とはいえ、膠着し易い三つ巴の戦いで流れをそちらに持って行くには、三人の内、少なくとも二人がそれを望む事が必要。
そこで、目の上の掠り傷という、時間を置く事で不利になる傷を狙ったのだ。
望み通り、武蔵は短期決戦を挑んで来てくれ、厳包は十分な自身を持ってそれを迎え撃つ。
無論、武蔵とて信綱に劣らぬ凄まじい達人である事に、厳包も気付いていない訳ではない。
五分の条件なら勝負がどう転ぶかは不明だし、流血が未だ武蔵の視界を遮らない内の決戦なら、多くの面で条件はほぼ五分。
しかしただ一点、厳包が真剣を持っているのに対して武蔵の得物は木刀。ただでさえ、木刀は威力という点では真剣劣る武器。
まして、厳包は剣の鋭さに関しては絶対の自信を持っている。
前述したように、尾張柳生の技法は、厳包の父利厳の代に介者剣法から素肌剣法に移行した。
利厳自身は加藤清正に従って功を建てた事などからわかるように、介者剣法をも極めていたが、子に教えたのは素肌剣法のみ。
だが、それは決して、新陰流正統として合戦での働きや鎧武者との勝負を捨てたという事を意味しない。
現に、厳包の兄である清厳は、病身でありながら天草の乱に参戦し、数限りない敵を討ち取ったという。
狙い所からして介者剣法とは異なる素肌剣法の技で、甲冑で固めた敵と戦える秘密……それこそが、剣の鋭さだ。
鎧を容易く切り裂ける鋭ささえあれば、鎧武者も素肌の武士より動きが重いだけの敵でしかない。
もちろん、武蔵ほどの達人が持つ木刀を切断するのは、凡庸な武者の兜を両断するより遥かに困難だろう。
それでも自分の渾身の一撃なら必ず行けるとの確信を持って、厳包は武蔵を迎撃する。

ぶつかり合う厳包の刀と武蔵の木刀。
「!?」
厳包の剣は木刀に切り込むが、両断するには到らず、武蔵に力任せにはね上げられた。
厳包の技が武蔵に劣っていたというよりも、問題があったのは刀の方。
と言っても、刀の質が悪かった厭う事ではなく、柄の仕掛けが僅かに厳包の刃筋を狂わせたのだ。
厳包は知らず、直前までこれを使っていた武蔵は熟知している事だが、この刀の柄には、刃が仕掛けられている。
そのせいで、刀の重心がほんの僅かに通常の剣と僅かにずれ、それが厳包の剣を一糸だけ狂わせた。
本来ならば、仕込み柄による重心の差が、勝負を大きく分ける事などまずないないだろう。
特にこの剣は、ただの暗器ではなく、普通の刀として使う事も十分に想定している武器。
もう僅かでも時間があれば、厳包はこの刀の特異性に気付いて打ち込みを修正していた筈。
そうなれば、重心の狂いによる不利などほぼ皆無。少なくとも、目を塞がれる事の不利とは比較になるまい。
だがただ一瞬、厳包自身がそれに気付く前ならば、この小さな弱点は致命的なものになり得る。
だからこそ、武蔵は厳包との勝負を急いだのだ。
不利が顕れるのを懼れたからではなく、有利が消える前にそれを活かす為に。
その事を悟った時には、武蔵の木刀が振り下ろされ、厳包は意識を失っていた。

倒れる厳包。しかし、衝撃の割に傷自体は大したものではない。
信綱が、武蔵が飛ばした鞘を刀で叩き落しつつ、己の鞘を木刀の軌道に差し込んで、厳包を救ったのだ。
武蔵は厳包の身体を挟んで信綱と対峙し、素早く袖を破って鉢巻とし、流血を防ぐ。
予想通り、信綱はその絶好の隙を衝こうともせず、ゆっくりと横に動いて行く。
その動きがが自分を気絶した厳包から引き離す事を意図してのものだと見切って、武蔵は笑う。
よく見ると兵庫助利厳とは別人だが、面差しと技から見て、倒した男が柳生の一族である事は明らか。
あの老人が本物の上泉伊勢守ならば、いや、ただ伊勢守に私淑しているだけだとしても、柳生を守ろうとするのは当然。
武蔵としても、既に倒した相手にとどめを刺す事は興味の外であり、今大事なのは信綱を討つ事。
すぐに戦いの場を移してやってもいいくらいだが、精々気力を使わせてやろうと、焦らしつつ移動して行く。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
108 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:16:54 ID:P3toMJII
武蔵と信綱は徐々に移動し、城下南東の橋付近までやって来た。
橋の一部が崩落しているのを見て、武蔵は信綱の狙いを悟る……悟ったと考える。
今までの行動を見る限り、信綱に武蔵を殺す気はないようだ。
と言って、あの衝撃なら厳包が目覚めるには暫く時が掛かる筈だし、それまで戦い続ける体力は既に残っていまい。
だが、武蔵を橋の向こうに追いやる、または誘い込み、橋を完全に破壊すれば……
橋がなくても川を渡るのはそう難しくないが、濡れれば体力を消耗するし、渡河中には隙が出来る。
そうまでして敵にとどめを刺す欲求は武蔵にはないから、この手で厳包を救う事は出来よう。
別に武蔵もそれは構わないのだが、信綱が武蔵を引き離す事にこだわってくれれば、そこに隙が生まれる筈。
その好機を伺いつつ、武蔵は信綱と睨み合い、時に打ち合いつつ橋に近付いて行った。
戦いの場は、信綱の誘導に武蔵が乗る形で橋の上に移り、信綱が袴の内で膝を撓めるのを見切った武蔵は一気に勝負に出る。
武蔵は上段からの大きな振り下ろしで信綱を襲い、目論見通りに身をかわした信綱が跳躍すると、切り返しを放つ。
だが、剣を振り上げつつ武蔵は予想外の事態に驚愕する。
予想外の一つは、信綱が橋の向こう側ではなく、真上に跳躍した事。
もっともそれ自体は大した問題ではない。
木刀の軽さを十分に活かした武蔵の切り返しは、疾さだけなら佐々木小次郎の燕返しにも匹敵するだろう。
故に、この一撃を空中にいながら凌ぎきる事は如何に剣聖でも不可能……それが万全の状態で放たれていたならば。
それが予想外のもう一つ。予期せぬ異変により、武蔵の切り上げの軌道は、思っていたのとは僅かにずれている。
剣を振り上げ始めた途端に異常を悟った武蔵は、眼前を過ぎる木刀の刀身に、金属片が食い込んでいるのを見た。
武蔵には知る由もない事ではあるが、それは林崎甚助の形見であり、彼の命を奪った凶器でもある長柄刀の切っ先。
見せ太刀としての切り下ろしをかわした際、信綱はそれを厳包との対決で木刀に刻まれた切れ込みに嵌め込んだのだ。
予期せぬ重心の狂いによって乱れた切り上げを空中でかわした信綱は、身を翻して木刀の上に乗る。
信綱の重さによって下がる木刀。
この状況を許しておけば、信綱が相手を殺さないように手加減したとしても武蔵の必敗。
腕に全力を込めて、信綱を木刀の上から跳ね飛ばす。
飛ばされて武蔵の背後に着地した信綱は、それ以上は戦おうとせず、厳包が倒れている方向に向かって歩いて行く。
「また後ほど」という一言だけを残して。
武蔵はそれを追わない……いや、追えなかった。
それどころか、今、信綱が踵を返して仕掛けて来でもすれば、川に飛び込んで逃れるしか手がなかっただろう。
木刀の先に乗る重量を支えるには、梃子の原理により、その重量自体の何倍もの力が必要となる。
人一人分の重量を一気に跳ね飛ばした負担で、武蔵の腕は痺れ、存分に剣を振るえなくなっているのだ。
無念の想いで睨みつける武蔵を背に、信綱は愛弟子の曾孫の元に向かうのだった。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
109 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:19:33 ID:P3toMJII
立ち去る信綱を見送りながら、痺れた腕を見詰める武蔵。
今は十分に力が入らない状況だが、少し休めば問題なく動くようになるだろう。
しかし、この程度の被害で済んだのは、武蔵の鍛錬の結果でも、僥倖によるものですらなく、信綱の意図によるもの。
跳ね飛ばされる瞬間、信綱はうまく重量を分散して、武蔵の腕に過度の負担が掛かるのを防いだのだ。
僅かな重心の狂いで生じる隙を利用した手法は、柳生厳包との戦いで武蔵が用いた策と似ているように見えるが、
武蔵のは厳包が仕掛けのある刀を手にした偶然を利用したものなのに対し、信綱は自分でその状況を作って見せた。
あれがとうに死んだ筈の剣聖だというのを本気で信じたくなる、見事な兵法である。
武蔵にも引けを取らぬ技、知略、そして武蔵にはない活人剣の利。
敵に殺意も悪意も持たない信綱の剣は殺気を発さないのだ。
これは、武蔵のような相手の動きを予測してそれに対応する型の剣士に対しては、非常に有効な武器。
気配を察知できず、五感のみで相手の動きを探るのでは、どうしても読みに遅れと不確実性が出来てしまう。
そして信綱は、読みの微妙なずれから生じる微かな隙を、瞬時に最大限に活かす判断力をも持っている。
相手を殺さずに制するという、ただ倒すより遥かに困難な戦いを続ける事で養われた能力だろうか。
今回は自分が勝ち得なかった事を、さすがの武蔵も認めざるを得ない。
だが、負けた訳でもない。武蔵はこうして生きているのだから。
余人ならばいざ知らず、宮本武蔵を殺さずに制するなど、何者にも不可能。無論、殺す事も不可能だが。
今回の勝負で、信綱のやり方はかなりの程度まで把握できた。
相手の剣を知った後での対応力ならば、武蔵の右に出る者は無い筈。

信綱を打ち倒す策を様々に構築しながら城下に戻り始めた武蔵は、一本の木が切り倒されているのを発見。
丁度良いと、武蔵は木刀で手頃な枝を叩き折ると、木刀を捨てて、長柄刀の切っ先を使って削り始めた。
木刀を得意とする武蔵だが、やはり出来合いの物ではどうしても限界があるようだ。
膂力に優れる武蔵ならば、通常よりずっと長く重い木刀でも自在に振るえる。
自作の木刀ならば製作の過程で細部まで把握できるから、僅かな異常も素早く察知する事が出来る筈。
そして、形状を工夫する事で、今回のように余計な物を付け足されたり、逆に削られた時の影響も最小限にする事が可能。
本来、強敵との勝負では、得物の選択からじっくりと戦略を立てるのが武蔵の本来のやり方。
その場合、武器は必ずしも自作の物とは限らないが、今回のように支給される武器を選べない戦いでは自作こそが最も堅実。
最初にあの一の太刀使いの老人に会って、その技を盗むのに夢中になってしまったが、そろそろ基盤を固め直す時期か。
武蔵は腰を据えて武器の形を整え続ける。
再び立ち上がる時、彼はこれまでよりも更に一段進んだ剣客となっているだろう。

【とノ肆 川の近く/一日目/午前】

【宮本武蔵@史実】
【状態】疲労
【装備】製作中
【所持品】長柄刀の切っ先
【思考】
最強を示す
一:一の太刀を己の物とする
二:一の太刀を完成させた後に老人(塚原卜伝)を倒す
【備考】
※人別帖を見ていません。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
110 :顔合わせ ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:21:51 ID:P3toMJII
「流石は……」
先程の戦いの場に戻った信綱は、その場に厳包の姿がなくなっているのを見て呟く。
あの強烈な打撃を受けてもう意識を取り戻したとは思いにくいが、無意識の内にこの場から脱したという事か。
誰かに運ばれたとも考えられるが、あれだけの剣士なら、敵意を持つ者に抵抗の跡もなく連れ去られる事はまずあるまい。
どちらにせよ、この分なら信綱の出る幕はないだろう。
一応の保険を掛けたとはいえ、知人に会いに行った武田赤音を放っておく訳にもいかないし。
本心を言えば、あの男の素性や剣術の由来を聞いておきたかったのだが。
柳生宗厳の一族である事は間違いないだろうが、あの異様なまでに進化した新陰流は一体……
確かに宗厳は信綱の弟子の中でも特に優れた素質を持ってはいたが、あれだけの進歩は数年ではとても不可能。
考えながら、信綱は意識せずに刀を抜き、厳包がしたような直立の構えを取っていた。
厳包が信綱に見せてくれたのは彼の新陰流の中のほんの一端。
しかし、その中からでも、この進歩を引き起こした者の思想や経験をある程度は推測する事ができる。
数少ない手掛かりから、信綱は、未来の新陰流を学び取ろうとしていた。

【へノ肆 城下町/一日目/午前】

【上泉信綱@史実】
【状態】疲労、足に軽傷(治療済み)、腹部に打撲、爪一つ破損、指一本負傷、顔にかすり傷
【装備】オボロの刀@うたわれるもの
【所持品】なし
【思考】基本:他の参加者を殺すことなく優勝する。
     一:武田赤音と合流する。
     二:宮本武蔵とはあらためて勝負する。
     三:機会があれば柳生連也斎の新陰流をもっと見たい。
【備考】※服部武雄から坂本竜馬、伊東甲子太郎、近藤勇、土方歳三の人物像を聞きました。
    ※己の活人剣で以蔵を救えず、赤音の殺人剣でこそ以蔵が救われた事実に、苦悩を抱いています。
    ※己の活人剣の今回の敗北を率直に認め、さらなる高みを模索しようとしています。

【へノ肆 民家の中/一日目/午前】

【柳生連也斎@史実】
【状態】胸部に重傷、意識朦朧
【装備】中村主水の刀@必殺シリーズ
【所持品】支給品一式、「仁」の霊珠(ただし、文字は「如」に戻っています)
【思考】
基本:主催者を確かめ、その非道を糾弾する。
一:白井亨を見つけ出し、口を封じる。
二:城に行ってみる。
三:戦意のない者は襲わないが、戦意のある者は倒す。
四:江戸柳生は積極的に倒しに行く。
【備考】※この御前試合を乱心した将軍(徳川家光)の仕業だと考えています。
剣客バトルロワイアル〜第六幕〜
111 : ◆cNVX6DYRQU [sage]:2010/10/18(月) 07:22:56 ID:P3toMJII
投下終了です。


※このページは、『2ちゃんねる』の書き込みを基に自動生成したものです。オリジナルはリンク先の2ちゃんねるの書き込みです。
※このサイトでオリジナルの書き込みについては対応できません。
※何か問題のある場合はメールをしてください。対応します。