- ゲームキャラ・バトルロワイアル Part2
88 : ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:27:02 ID:q3rw6i9u - 問題なさそうなので、こちらに投下します
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89 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:27:55 ID:q3rw6i9u - 「くっ……!」
足の痛みがひどい。 歩く度にじくじくと疼いて来る。その痛みを感じる度に、心の奥底で漠然と感じている孤独という不安が重くのしかかる。しかし、霊夢はその想いを無理やり押さえつけ、怪我のことだけを考える。 流れ出る血を見て、霊夢は舌打ちする。 思ったよりもやばいかもしれない。 歩く度に汗が噴き出る。 しかし、霊夢は歩かざるを得なかった。何かしていなければ、どうしようもない負の感情で押しつぶされてしまう。そんな気がして、霊夢はただただ痛む足を動かしていた。 「シャンハーイ…?」 心配そうに、上海人形が顔色を窺う。 「大丈夫よ。……ええ、大丈夫。きっと」 自分でも弱気になっていると感じる。しかし、それでも生きる為に何かしなければ……。 生きる為? 何故、自分はそんなことを考えるのだろうか。今までどんなことがあっても、難なく乗り越えてきた自分が、こんなところで死にかけているというのか。 「お嬢さん。ちょっといいかね?」 思わず身構えて振り返る。そこには中年の男がいた。 「む。これは大変だ。怪我をしている。ほら、そこに座って。応急処置だけでもしておかないと」 敵ではない……か? どっちにせよ、治療してくれるというのならそれに越したことはない。見たところただの人間のようだし、いざとなったら力技で倒せるだろう。 表面上は自分の力に自信があるように見える。だが、実際は押しつぶされそうな孤独感を拭いたいだけだった。 「…じゃあ、悪いけどお願いするわ」 男は紳士のような笑みでこう言った。 「任せなさい」 上海人形は、にこやかに笑う男をずっと睨んだままだった。
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90 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:28:40 ID:q3rw6i9u -
「それにしても、お互い災難だったね」 サカキが即席の包帯を霊夢に巻きながら、まるで独り言のように言った。 「突然こんな殺し合いに巻き込まれるなんて、普通では考えられない不幸だよ。特に君なんて、まだ若くて遊びたい盛りだろうに」 「……別に。普通の人よりはこういったことにも慣れてるしね。大して気にしてない」 強がりだ。足は痛むし、早く見知った人に会いたいという気持ちがずっと離れない。 霊夢は、既にこの場所に恐怖感を抱いており、すぐにでも幻想郷に帰りたいと願っていた。 「そうか。君は強いんだな。……私は、駄目だ。怖くて、とてもじゃないが一人でいられなかった」 霊夢はサカキの言葉に無関心のように振る舞いながらも、心の底から同意していた。足の痛みは止むことなく、未だ霊夢を蝕んでいる。 「実は……、この殺し合いに息子も参加しているんだ。シルバーと言ってね。あまり父親らしいことをしてやれなかった身だが、今はとても心配でいてもたってもいられない。こうしてる間にも息子に危険が迫っているのかと思うと……気が狂いそうだ」 「じゃ、どうして見ず知らずの私の治療なんかしてるのかしら?」 「……そうだな。矛盾してるとは思うよ。しかし、君が怪我をしてるのを知って、放っておくことが出来なかった。やはり、馬鹿な行為だと思うかね?」 「ええ、そうね」 躊躇なく答える霊夢にサカキは苦笑で答えた。 「なんにせよ、我々一般人は逃げ隠れするのが一番だ。……魔法使いなんて本当にいるとは到底思えないが」 「魔法使い!?」 突然、霊夢は身を乗り出すようにして叫んだ。 「あ、ああ。すまないね。いきなり荒唐無稽なことを言って。混乱させるつもりはなかったんだ。忘れてくれ」 「いえ。混乱なんてしてないわ。さっき魔法使いって言ったわよね? もしかして魔法使いに会ったの?」 しばらくじっと霊夢を見つめる。 「……ああ。会った」 「そいつ、金髪で白黒の服を着てなかった。いかにも魔女って感じの」 「まさしくその通りだ」 やっぱり、と呟いてため息をつく。 それは、心の底からの安堵を押し殺したものだった。 「で、どっちに行ったの?」 「待ってくれ。君達は一体どんな関係なんだ? それを教えてくれたっていいだろ。もしかして、君も魔法使い?」 「いいえ。私は巫女よ。まあ、あなたから見たら魔法使いと同じようなものよ。魔理沙と私は仕事を奪い合う敵同士って感じかな」 「敵?」 「ええ。敵。で、どっち行ったの?」 「……いや、止めておいた方がいい。君の怪我は戦闘を行うには少しひどい」 「いいのよ別に。で、どっち?」 「いいかい? 君は怪我人なんだ。いくらなんでも、追いかけて倒そうなんて無茶だ」 霊夢は思わず笑ってしまった。 一体何を勘違いしているのか。少し面白いからこのままからかってやろうか。 「だいじょうぶ。あんな奴に負けるほど落ちぶれちゃいないから。幻想郷最強と言われる齢2000歳の魔女で、一晩にして村の人間を茸と一緒に平らげちゃうような奴でも私にかかれば全然平気よ」 こう言ったら普通の人間なら怯え震えるだろう。しかしサカキは逆だった。眼光を鋭く光らせ、真剣な表情で首を横に振った。 「駄目だ。ここは私の命令に従ってもらおう。実は……彼女は殺し合いに乗っているんだ。今彼女を追うのは危険だ」 ぴたり、と霊夢の動きが制止した。
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91 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:29:22 ID:q3rw6i9u - 「いま、なんて?」
「……彼女は、殺し合いに乗っている」 「へぇ。そう」 「ああ。そうだ。だから危険──」 「趣味で異変解決して、妖怪たちに喧嘩売って、それでも飄々と呑気に笑ってるような奴が、殺し合いに参加?」 震える足で立ち上がり、後ずさりする。その手に持つ八卦炉は、サカキの方を向いていた。 「有り得ないわ。ええ、有り得ない。たとえ他の誰が殺し合いに乗ろうと、魔理沙がそう簡単に乗るなんて思えない。……ったく、この怪我のせいで勘も鈍っちゃったわね。つまらない冗談のおかげで功を奏したけど」 サカキは蹲ったまま動く気配がなかった。 霊夢の言う通りだった。サカキが、霊夢の言ったこと全てを真実だと考えたわけではないが、霧雨魔理沙が悪人で、霊夢にとって敵であることはまず間違いないと判断してしまったのだ。 霊夢が幻想郷のノリで、ひいては魔理沙の真似事として意味なしジョークを言ってみようなどと思わなければ、“霧雨魔理沙が殺し合いに乗っている”などと、サカキが自分に都合の良いように事実を改ざんすることもなかった。 博麗霊夢ともあろう者が、珍しく孤独を感じていたことが、このような冗談を誘発し、おかげでサカキが魔理沙と敵対するものであることが分かったのだ。 「少し質問。あなたは殺し合いに乗ってるの?」 霊夢は怪我をしていた。そして、サカキは霊夢を最初、普通の女の子だと思っていた。殺し合いに乗っていたのならば即刻殺しにかかっていたはずだ。 「……違う。だが、霧雨魔理沙とは仲違いした。見解の相違というやつだ。君が彼女と憎からぬ関係のようだったので、少し懲らしめてやろうという気持ちになった。出来心だったんだ。…すまなかった。こんなこと、考えることではなかった。今は反省している」 「どうだか。さっきのあなた、出来心で言っているようには思えなかったけど? 私には、とても冷静に見えた」 「大人というものは世間体がある。表面上はそう見せていても、実際は不安なことで胸をしめつけられている」 「そんな大人なら、ここでそういうことは言わないんじゃない?」 こいつはどこぞの氷妖精よりも馬鹿だ。まだそんな言い訳が通じると思ってる。 上海人形に合図して、武器を隠していないか探させる。サカキは先程から、自分が無害であることを主張するかのように両手を頭の上に乗せていた。 サカキが何を言ったところで、もはや霊夢の信頼を取り戻すのは不可能だ。それは誰が見ても明らかで、そしてそのことを誰よりも理解していたのはサカキ自身だった。 「……君は、私が馬鹿なのだと思ったかね?」 「え?」 「君はこう思ってる。“お前が何を言おうと、もう絶対に信用なんかするもんか”とね。確かにその通りだ。この状況なら誰もが君と同じ態度を取る。無論、君と同じ立場になれば私だってそうする。ただ一点を除いてはね」 霊夢は内心動揺を隠せなかった。何なんだこの男は。こちらが圧倒的有利であるにも関わらず、冷や汗一つかいていない。 そこには幻想郷の住人にはない凄みがあった。たった一人で世界を震撼させるほどの組織を作り上げたその手腕、自信、そこから培われたカリスマが霊夢に恐怖を抱かせていた。 「そう。私も君と同じことを考えてる。こいつは馬鹿だ、とね。何故なら、この状況で私が長々と喋ることに、何の疑問も感じていないのだから」 背後に気配を感じ、はっとなって振り向く。 が、少し遅かった。サカキに気を取られ過ぎていた霊夢は、その一本の大木のようなモンスターに地面へと叩きつけられるかのように踏みつけられた。 「がはっ!」 肺が潰れるかと思うほどの圧力が霊夢を襲う。 「シャ、シャンハーイ!」 慌てて霊夢のところへと戻ろうとする上海人形。しかし、そんな隙だらけの人形をサカキが放置するわけもない。 デイバックから素早く剣を取り出して、一刀の元に斬り捨てる。 上海人形は、その一撃で地面に転がり、動かなくなった。 「ごほっ! が、あ…くっ…」 息が苦しい。だが、それは致命傷には程遠い。霊夢にはもはや確認する余裕などないが、サカキが手加減するように命令していたのだ。 「ナッシ〜〜」 その大木のモンスターはそんな雄叫びをあげて、ぎりぎりと霊夢を踏みつける力を増していく。
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92 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:34:09 ID:q3rw6i9u - 「このポケモンという“物”は、とても便利だとは思わんかね?」
もはや声をあげることすらできない霊夢にサカキは言った。 「モンスターボールを開発した人間を尊敬する。世界の支配者たる人間が持つべき素晴らしい道具だ。しかし時々私は考える。このボールに、他の動物を入れることは出来ないのかとね。 そう、たとえば人間だ。人間ほど信用ならん生き物はいまい。が、それ故に“使える”。時にはポケモン以上にだ。君をこのボールに入れれば、生涯私に尽くすようにはならないか。ん? 気になるかね。そんなに首を振って。入ってみたいのかね?」 赤と白のボールを掲げ、霊夢へと近づける。髪を乱暴に掴み上げ、そのボールを霊夢の額に押しつける。 が、すぐにボールをポケットにしまった。 「冗談だよ。心配せずとも、モンスターボールの効果があるのはあくまでポケモンだけだ。私は科学者ではないので、メカニズムなど知ったことではないがな」 そう言って、サカキはクックと笑う。 霊夢は胸を圧迫する痛みと共に、ぞっとした。この男は狂ってる。どこかネジが一本取れた狂人だ。何をする気かまったくわからない。 「私は狂人などではない」 まるで心を読んだかのように、サカキは言った。 「これは……そうだな。言うなればパフォーマンスだよ。これから君に色々と喋ってもらう。それは私にとって想像を絶する話になるはずだ。君にとって荒唐無稽と思えるような嘘をついても、私にはおそらく分からない。 だからこそ、君が嘘をつかないという保証が欲しい。そして、人間を一番信用出来る状態というのが、恐怖心から相手に屈服した時だ」 サカキが指を鳴らす。 大木のモンスターは、力を入れていた足をふいに上げた。霊夢に久しく苦痛のない時間が訪れる。 「ごほっ。はあ…はあ」 が、それはすぐに終わった。 「はぐっ!!」 今度は先程よりも強く、モンスターの『ふみつけ』攻撃が霊夢の背中を圧迫した。
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93 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:35:02 ID:q3rw6i9u - 「さてと」
サカキは何事もなかったかのようにぱんと両手を合わせてみせた。 「そろそろ尋問タイムといこうか。いや、拷問タイムか? まあどっちでもいい。まず最初に聞いておきたいのは……そうだな。霧雨魔理沙のことだ」 サカキは近くに転がっていた大きな石に腰かけ、足を組んだ。 ここで葉巻の一つでもあれば最高の余興となっただろうに、とサカキは思う。 「彼女の素性。能力。魔法使いとはどういうものか。君の知っていることを洗いざらい、全て教えてくれ」 霊夢は何も答えない。 サカキの合図で、ナッシーは容赦なく霊夢の背中を踏みつける。 が、今度は両手で口をおさえ、苦悶の声をあげることさえしなかった。 これは意地だ。博麗霊夢に残った最後の意地。このまま友を売るような真似だけはしないという決死の覚悟だ。 サカキは表情を変えることなく立ち上がり、霊夢へと近づいた。 デイバックから再び鋼の剣を取り出す。霊夢は血の気が引いていくのがわかった。 「私は戦士ではない。私は生涯、組織のトップであり、ボスであり続けた。だからこそ、私は誰かに迎合したことなど一度もない。戦士とは、尽くすべき主人がいなければただの木偶の坊だ。しかし、私は違う。だからこそ、こんな剣など使ったこともない」 サカキは霊夢の手を掴み、自分の元へと引っ張った。 「私は剣の使い道をよく知らない。たとえば、こんな風な使い方くらいしか思いつかないのだよ」 ザクリ 小指が霊夢の手から離れ、あまりにもあっけなく、ぽとりと地面に落ちた。 霊夢の目があらん限りまでに見開かれ、その口が大きく開いて悲鳴を……。 「むぐうぅっ!!」 「悲鳴はあげるな。周りに人がいるとも限らんからな」 支給された紙を丸めて口に敷き詰められ、叫ぶに叫べない。ただただ、手から伝わる痛みに耐えるほかない。 「さて。喋る気になったら首を縦に振ってくれたまえ」 ザクリ 今度は薬指が落ちた。 もはや悲鳴をあげる元気すらなかった。この男は悪魔だ。鬼だ。いや、それすらも越えたどす黒いなにかだ。幻想郷では見ることのなかった悪の権化だ。 「やはりこれは使いにくいな。ハサミでもあれば楽なのだが」 そう言って再び指を切ろうとする。 霊夢は大慌てでこくこくと何度も何度も頷いた。 「ふむ。なかなか素直だな。今時珍しい素直な娘だ」 そう言って、サカキはにこやかにほほ笑んだ。
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94 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:40:03 ID:q3rw6i9u -
「……以上が…魔理沙の……全て…です」 嗚咽を交えながらの吐露にサカキは顎に手をやって考え込んでいた。 全てが順調、というわけにはいかなかったが、ほとんどサカキの想像通りに事が運んだ。彼女を遠目から見かけた時、治療もろくにせずに歩く姿から殺し合いに乗っていないと当たりをつけ、支給されたポケモン、ナッシーを遠くに配置させた。 もしもの場合は“両の手を頭に乗せる”という合図で背後から敵に攻撃を仕掛けるようにと命令しておく。サカキの読みは大当たりだったし、ナッシーの奇襲も予想以上にうまくいった。そうして今、彼女はサカキにとって有益な情報をペラペラと喋ってくれている。 霧雨魔理沙がどのような人間で、魔法使いがどういうもので、霧雨魔理沙がどんなことを出来るのか、その全てを知った今、彼女に対する処遇をどうするか。 結論は既に出ている。即刻、殺すべきだ。 この場所から脱出するための術も知識も持たない彼女など、サカキにとって、いる必要のない人間だ。なにより自分の悪評を広められることがとても痛い。 殺す人間は殺すが、それを悟られたのでは情報が集めにくくなる。それはサカキのよしとするところではない。 だが問題はそんなことではない。 問題は、博麗霊夢や霧雨魔理沙の住む世界だ。魔理沙について話を聞き、その要所要所で質問を挟んであらかた理解した幻想郷という世界。神が存在し、妖怪が存在し、まるで空想そのものが現実となったかのような世界。 サカキの世界に存在する伝説のポケモンと同等レベルの化け物がうじゃうじゃといる世界。 殺し合いの主催者が幻想郷出身であるかどうかは分かるはずもないことだが、少なくとも、幻想郷で生きる者には、この場所から脱出する術を持つ者がいてもおかしくはない。 本来ならば、先に他の参加者達の情報を集めるところだが、好奇心に駆られてサカキは聞いた。 「ここから脱出できる術、またはその知識を持つ知り合いはいるかね?」 「……はい。います」 サカキは心臓が高鳴るのを抑えることができなかった。 いる、だと? しかも、彼女は即答した。 それだけ博麗霊夢がその人間(人間である可能性は限りなく低いと思われるが)の能力を信頼している証であり、こんな場所に連れてこられてもその力を疑う余地などないということだ。 これはかなり有力な情報だぞ。 「その者について、知ってる情報を吐け」 「…八雲、紫。スキマを操る……妖怪…です」 スキマ? いまいちよくわからない。 サカキは、霊夢がとろとろと喋る情報を辛抱強く聞いた。 幻想郷が俗世と交わり、妖怪の力が衰えてしまう前に八雲紫は結界による幻想郷と世界との分離を提案し、博麗大結界が考案された。 スキマを操る八雲紫と博麗の巫女によって管理、運営される博麗大結界のおかげで、幻想郷の住人は人間に知られず、妖怪たちは幻想郷の外では作り物の中だけの存在となっている。 そのことを、霊夢はゆっくりだが、理路整然とサカキに話した。
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95 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:41:27 ID:q3rw6i9u - 「……今、何と言った?」
「……え?」 「博麗大結界を管理しているだと? つまり、貴様が死ねば結界はその効力を失うということか?」 霊夢はサカキの真意を測りかねるように力なく頷いた。 サカキは舌打ちしたい気持ちを必死で押さえて、霊夢に背を向けた。 八雲紫がここからの脱出を可能にする妖怪だと? 馬鹿を言え! 八雲紫などよりも、博麗霊夢の方がよほど重要な存在ではないか! 博麗大結界を成し得るには境界を形作る紫の力が必要不可欠だということも確かにそうだ。が、しかし、それは全て博麗の巫女がいればこその話。 けっきょくのところ、そのような大規模な結界を張る力は博麗の巫女にしかないということだ。結界を張る力があるということは、無論壊す力もあるということ。そして、幻想郷とこの場所の性質はどこか似通ったところを感じる。 つまり、この殺し合いの場が博麗大結界に似た“何か”で形作られている可能性が極めて高いということだ。 ちらりと霊夢を一瞥する。 もはや抵抗する気もないらしく、死人のような目であらぬ方向を見つめている。 この大馬鹿者め! 自分がどれほど貴重な存在かも理解していないとはッ! 思わず口を手で覆いながら必死でこれからどうすべきかを考える。 こうなっては霊夢を殺すという選択は論外だ。もしかしたら唯一無二、この場所からの脱出を可能にする人間なのかもしれないというのに、何のメリットもなくここで殺すなど馬鹿のすることだ。 博麗霊夢一人に固執するつもりは毛頭ないが、博麗大結界と似た結界を敷かれている可能性が高い現状、自分の命の次に大事にしなければならない存在だ。 そして、外部勢力による救出を当てにするとしても博麗霊夢は生きていなければ都合が悪い。八雲紫はまず間違いなく霊夢を探している。 もしかすればこの場所を特定するかもしれない。しかし、そうなったとしても紫の目的はあくまで博麗霊夢一人だけだ。霊夢の死亡を確認すれば、彼女に他の参加者を助ける理由などない。 どちらにしても、博麗霊夢が生きていなければ成し得ない脱出方法であり、今はそれしか考えつかない。 殺すのは論外。しかし、彼女は心底自分を恐れ、そのためにもはや腑抜け同然の存在にまでなってしまっている。 このまま生かしておくとしても、そうなれば彼女の身を守るのが大変になる。ただでさえ戦力不足で、自分の命を守ることで精一杯だというのに、生きることさえ諦めてしまった腑抜けをどうして守り切れるというのだろうか。 それならばいっそここで彼女を殺してしまった方がいい。デメリットばかりの決断だが、命あっての賜物。ここからの脱出も、全ては生き残るためだということを忘れてはならない。 せめて、彼女が自分の有益さを武器に交渉してくるような知性と度胸があればどれほど都合が良かったのだが。 自分でその性根を叩きつぶしてしまったことが今になって悔やまれる。 サカキは霊夢を睨みつけ、地面へ置かれていた剣に手をかける。 仕方がない。殺す。殺すしかない。 それこそ死ぬほど惜しい存在だが、それ以外に方法はない!
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96 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:43:04 ID:q3rw6i9u -
もう、痛いのは嫌だ。 早く死んでしまいたい。この苦しみから解放されたい。 今までどうして生きてきたのか。それが不思議に思えるほど、今の霊夢は死を切望していた。両の瞳は開かれていながら何も見ていない。視覚も、聴覚も、その五感全てが麻痺したように何も感じない。ただ痛みだけが、鋭い痛みだけが霊夢の身体を支配していた。 「……博麗霊夢。貴様は巫女だと言ったな?」 突然、今までずっと黙っていたサカキが話し始めた。 霊夢の耳にはほとんどその内容が入ってこない。ただただ、その話が終われば再び自分に拷問するのではないかという恐怖があるだけだ。 「当然、神を信仰しているのだろうし、確か実際に存在するのだったな? 現実に存在している神を信仰するなど、当然といえば当然のような気もするが」 そう言ってサカキは苦笑する。 何か逡巡しているように、サカキは話を続ける。 「貴様にとって幻想郷とは何だ? 貴様が何を考えて幻想郷に住み、異変解決などという仕事をしてきたかは知らんが、私に言わせればこれほど温い場所もない。 スペルカードルールなどという平和の象徴のようなものを掲げて戦争を回避していた貴様らは、揃いも揃って平和ボケしてしまっている。だからこそ貴様は今地べたを這い蹲り、無様にも死を願っている」 霊夢は、サカキの言葉を話半分に聞いていた。思考していたわけではない。ただ耳を通っていただけともいえる。だがそれでも、その言葉を理解する程度には話を聞いていた。 「貴様にとって未知の経験だっただろう。拷問し、敵から情報を奪うのは、戦争と名のつく闘争なら至極当然のものだ。そして、この場所は戦争などよりもずっと陰惨な場所なのだ。 ……さて、貴様は神を信仰しているのだろうが、信仰とは一体なんだ? 貴様は神が何を考えているのか理解している。自分達と同じように暮らし、同じように酒を呑み、宴会して笑い合う姿を何度も見ている。私から言わせれば、そんなもの、神などとは呼ばん」 吐き捨てるようにサカキは言う。 「神とはッ! いいか、神とはッ! 人間の、自らの思考の、その想像を遥かに超えたところに存在するッ!! 自分では決して届かない崇高さ。溢れんばかりのパワー。この身を捧げても良いとさえ思えるほどの信望を持たせる者だけが神と呼ばれる存在なのだッ! 力じゃない。種族じゃない。その人間が考えた、そうであると感じた存在こそが神なのだ。神の精神を越えることが出来るなどと、そんなことを考える人間はいない。しかし、逆を言えば、そのような存在こそが、神なのだ」 霊夢を押さえていたモンスターの力が抜ける。 今なら抜け出せる。そう思うが、何故か逃げる気にはならなかった。ただ呆然と、サカキを見つめていた。 「貴様は巫女だ。巫女は神に仕える存在だ。では、貴様にとっての神とはなんだ? 貴様にとっての神は、一体どこのどいつだ?」 「あ……わ、私……は…」 言葉がでてこない。それもそのはず、霊夢は確かに博麗の巫女だが、博麗神社に住まう神を、これまで心の底から信仰したことなど一度もないのだ。 自分自身それでいいと思っていたし、そもそも博麗の巫女という肩書自体に大した執着もなかった。何事にも縛られず、何事にも動じない。それが博麗霊夢であるはずだった。 だが、今はどうだ? 今の自分は、本当に博麗霊夢なのか。いつも心に余裕をもって事を運んで来た霊夢は、今生まれて初めて“本気”を経験している。本気の恐怖。本気の願い。そして、目の前にある本気の凄み。 わからない。自分がどうすべきなのか。どうあるべきなのか。その全てがわからない。もうどうでもいい。そんな気さえしてくる。このまま殺されてしまえば、こんなことを考えることもなくなる。 「……わから…ない」 霊夢はそれだけ答えた。地面を見つめ、まるで首を差し出すかのようにして、霊夢はただただ執行の時を待った。 「……そうか」 冷え切った言葉。それと共に振り上げられる剣。それは雄々しく風を切り、肉を切り、骨を切った。 辺りに、血が舞い散った。
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97 :道具 ◆dGUiIvN2Nw [sage]:2010/10/11(月) 13:44:17 ID:q3rw6i9u -
痛みはない。もはや痛覚など機能していないのだろう。頬にかかる生温かい血も、まるで自分のものではないように感じる。 そこでようやく、違和感を感じた。未だ欠損した指跡はじくじくと痛むし、モンスターに踏みつけられていた背中の圧迫感も拭えていない。散々傷つけられた痛みはある。なのに、今回の一撃に至り、痛みがないなんて、そんな不合理な話があるはずがない。 「……え?」 目の前を見て、その光景を霊夢はただ呆然と眺める他なかった。 ポタポタと滴り落ちる血液。 血に濡れそぼったサカキの手。 その手には、小指が一本なくなっていた。 それを理解した時、霊夢は慌ててサカキの顔を見つめた。これがどれほどの痛みを伴うか、先程嫌というほど経験したばかりだ。泣き叫び、心から死を望むほど苦しいものだ。 なのに、何故なのだろう。何故この男は、叫びもせず、涙さえ見せず、不敵にも笑っていられるのだろう。 「これが“力”だ。貴様がむせび泣いたこの痛みをものともしない。この意思と覚悟がパワーだ」 そう言って、欠損した小指をサカキは見せつける。 あまりにも痛々しいその姿に、霊夢は目を逸らした。 なんという男だ。この男は、自分が屈服してしまった恐怖を乗り越えた場所にいる。自ら指を切り、それを覚悟だと豪語するサカキ。霊夢にとってその存在はあまりにも強く見え、そして自分などでは決して到達できない境地に立っている気がした。 「神に仕える巫女ならば、自らの神を定めてみせろ! 貴様の神はいったい誰だ!?」 胸倉を掴み、サカキは叫んだ。 神。自分にとって神とは誰か。 自分に出来ないことを平然とやってみせたサカキ。自分に出来ないことをやってみせる者は幻想郷には山ほどいた。だがそれはほとんどが能力的なものだ。 それにひけを取られると考えたことは一度もないし、事実そうだった。いつも気楽で、いつも余裕があって、本気で勝てない相手などいないと思っていた。 だがサカキはどうだ。サカキは自分の知っているどんな者とも違う。恐怖や痛みを克服する精神力と、決して衰えることのないギラついた野心がある。妖怪にはない確かなパワーがある。決して届かないと思わせる精神の力がある。 そのパワー。圧倒的なパワー。霊夢は、そのパワーに惹かれている自分がいることを自覚した。 神は人間の信仰心を糧にする。信仰が力になる。その意味が今わかった。 ある言葉を胸の内で唱える。それだけで、先程までの恐怖がすぅっと消えていくのがわかった。恐怖も、孤独も、何もなかったかのように消えていった。 霊夢は、今度は実際に声を出して言ってみた。 「……サカキ…様」 「もう一度言え」 「……サカキ、様」 「もう一度」 「…サカキ様」 「もう一度!」 「サカキ様!!」 サカキは手を離した。霊夢はそのまま尻もちをつく。 「貴様がそう思うのなら、ついて来い。そして、私にその全てを捧げてみろ。それこそが神に仕える巫女のあるべき姿だ」 霊夢の瞳には、はっきりとサカキの姿が見えた。先程のサカキの姿。あれを思い出すと心の奥底からウズウズと何かが這い上がって来るような奇妙な興奮を感じる。 そうだ。神とはこういう人のことを言うのだ。自分には決して手の届かない所にいるこの人こそが神なのだ。 サカキを信仰している間は、自分が自分でいられる。自分というものを見失わずにすむ。自分を保っていられるだけの力を、サカキは与えてくれる。 霊夢は今、心の底から幸福を感じた。芯から安心を感じることができた。サカキという神を構築した霊夢は、それを支えに壊れかけた心を繋ぎ止めた。 それが意識的にせよ無意識的にせよ、霊夢は恐怖に取り込まれることなく、その瞳に光が灯った。先程までとは少し違う、奇妙な、しかしとても人間的な光が。
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