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グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc
◆tH6WzPVkAc
ロボット物SS総合スレ 41号機

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ロボット物SS総合スレ 41号機
436 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:50:38 ID:/oznupZk
 平蛇がドックを這い出ていく。
 無限軌道のやかましい音とに耳を塞ぎたくなりつつも、その巨体をモニター越
しにシンヤは見送っていた。
 またその姿を見れることを心から願いつつ。
 シンヤはモニターから目を逸らした。
 シンヤはラウンジに居た。
 ラウンジには数組のすっきりとしたデザインの椅子とテーブルがある。壁には
お金の要らない自動販売機が並んでいて、その横には緑鮮やかな観葉植物があっ
た。
 シンヤは手近な椅子を引き、腰かける。
 ラウンジの壁に掲げられたモニターの映像は、ドック内の様子からいつもの国
営放送に戻った。
 ニュースの内容はシコクの動物園で二本足で立ち上がるライオンが見つかった
こと。
 シンヤは大きく舌打ちして、テーブルに頬杖をついた。
 手持ち無沙汰だった。
 シンヤは平蛇から下ろされ、今後しばらくこのブロックの警護にあたれと言わ
れたのだ。
 理由は分かっている。
 だからこそこの中途半端な処罰を真剣に受け止められない。
 何となく、腕時計を見た。
 ガラスのひび割れたそれは午前8時を指している。
 今日は午後までする事が無い。残りの人生の貴重な半日を無駄にしたくないの
だが。
 ふと、シンヤは手のひらを眺める。
 薄い皮膚の向こうには青白い血管が見えた。
 不思議だ。
 この細い管の中を流れるもので自分は生きている。
 逆に言えば血液が俺を生かしているんだ。
 勿論血液だけじゃない。心臓、肺、肝臓……。何もかものおかげで俺は生きて
いる。
 じゃあ、「俺」って何だ?
 頭蓋骨の中身が産み出したイメージか?だとしたら「俺」なんてのはただの電
気信号のパターンの一つに過ぎないのか?
 そもそも「俺」はいつできた?ある日突然今日から俺は「俺」だなんて決めた
のか?
 誰が?
 まさか神様?
 くっだらねー。何考えてんだ俺。
 俺は「俺」で、俺はその「俺」が大好きで堪らない。だからその「俺」を失わ
ないために生きようとするんだし、失われることを受け入れられるんだ。
 こんな議論は既に頭の中で散々やった。結論は出た。全力で死ぬんだ。そのた
めに生きるんだ。もう考えるな。“時間の無駄”だ。
 シンヤは溜め息を吐いた。
 ……そういえば、リョウゴはどうしているだろう。まだ模擬戦中なのか。
ロボット物SS総合スレ 41号機
437 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:51:19 ID:/oznupZk
 様子を見にいこうか。暇だし。
 シンヤは席を立った。



 扉を開ける。
 モニター室にはタクヤが居た。
 彼はモニター機材に向かって座っていたが、部屋に入ってきたシンヤに気付く
と、手を上げた。
 こちらも手を上げて返す。
 タクヤの側に立ってモニターを見た。
「これ、リョウゴ?」
 画面に映る重装型AACVを指差すと、タクヤは頷いた。
「そろそろオカモトに勝ってもいいころだと思うんだけどな」
 そうしてタクヤはマイクを引き寄せる。
「リョウゴくーん、だいじょび?」
「るっせぇ!」
 怒声がスピーカーから返ってきて、シンヤはビクリとした。
 タクヤは苦笑いしながら肩をすくめる。
「さっきからこんな感じよ。冷静さを欠いちまってるから軌道も単純だし、よく
狙わない。負けん気つえぇのは良いんだけどさ。関節に入ったペイント弾掃除す
んのめんどくせー」
 シンヤはそれを聞いて、機材の上に身を乗り出してマイクを口にやった。
「リョウゴ、聞こえるか?」
「シンヤ……!?」
 声に動揺の色が見てとれる。
 シンヤはなるべく軽い調子で言ってやる。
「お前必死過ぎなんだよ。もっとダラダラやってみれば?」
「……ダラダラ?」
「とりあえず、落ち着けって。そんなだから勝てねーんだよ。」
 リョウゴの返事は無かった。
 シンヤはマイクから離れ、モニターに視線をやる。
 重装型AACVは静かに佇んでいた。
 タクヤがマイクをとる。
「ハイじゃー次イクぜ?これ終わったら休憩入れるから。オカモトさんは大丈夫
?」
「はい。」
 しっかりとした声が聞こえた。
 彼女の青い高機動型AACVがリョウゴの遥か前方に立っているのをシンヤは
見つけた。
「じゃあもー一回、レディ、ゴゥ!」
 タクヤの合図で2機は滑り出す。
 オカモトは機体を左右に振りながら重装型の厚い装甲を貫いて致命傷を与えう
る距離まで詰め寄ろうとする。
 対するリョウゴは重装型専用の、高機動型のそれより大型で威力のあるライフ
ルをどっしりと腰を据えて構え、多少の被弾は覚悟した戦法をとっていた。
 一発当たればリョウゴの勝ちだが、相手は高機動型だ。近距離では重装型が高
機動型を捉えるのは難しい。
ロボット物SS総合スレ 41号機
438 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:52:37 ID:/oznupZk
 というかそもそも重装型はAACV同士の近接戦用ではなく、高機動型や中量
型がAACVを引き付けている間に敵艦に近づいて、確実にその息の根を止める
一撃を放つため、もしくは遠距離から動く砲台として大火力火器を撃ち込むため
の機体だ。だからスピードを犠牲にして装甲を強化し、一撃必殺の巨大な超振動
剣をデフォルトで装備しているのだ。
 そんな重装型とAACV同士の戦いを想定された高機動型は最も相性が悪い。
 だけど、リョウゴなら――
 シンヤはそう思ってモニターを見ていた。
 あっという間にリョウゴを仕留められる距離まで肉薄するオカモト。
 しかしロックオンを成功させていたリョウゴはオカモトよりも先にトリガーを
引く。
 だが危険を察知したのか、素早く方向転換をしたオカモトには当たらなかった

 オカモトはその一瞬の間にもリョウゴを撃つ。
 大半の弾は外れたが、いくつかがリョウゴの胸部装甲に命中し、そこをピンク
色に染めた。
 しかしあれならまだ致命傷じゃない。それは目の見えないオカモト以外は皆分
かっていた。
 それが明暗を分けた。
 オカモトは手応えを感じて気が抜けたのか、それとも疲労のためか分からない
が、一瞬機体の動きを止めたのだ。
 それをリョウゴは逃さない。ライフルを向けた。
 オカモトの反応がさらに一瞬遅れたのは、リョウゴがライフルのセンサーを切
ったからだろう。ノーロックのままリョウゴは撃ったのだ。
 しかしそれでもオカモトは直感のためか、スラスターを吹かしてそれを紙一重
でかわす。
 ――リョウゴの勝ちだ。シンヤは確信した。
 この、相手がギリギリかわせる程度の射撃で牽制をかけてその逃げる先に待ち
構え、そして飛び込んできた敵を超振動剣で攻撃するのは――果たしてリョウゴ
は予想通りの戦法をとっていた――俺をゲーム内で幾度も撃墜した、リョウゴ得
意の戦法だ!
 リョウゴは右腕の超振動剣を展開。ライフルは既に捨て、腋を引き締めて思い
っきり、突く!
 ゴム製の大剣が青いAACVを空中で弾きとばした。
 オカモトの機体はバランスを立て直せず、背中から床に思い切り叩きつけられ
る。
 リョウゴは少し離れたところへ着地した。
ロボット物SS総合スレ 41号機
439 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:54:03 ID:/oznupZk
 沈黙が辺りに漂う。
 マイク越しに模擬戦終了をタクヤが告げるまでには長い間があった。


 勝てた。
 俺はついに勝った。
 これで地上へ出れる。活躍できる。
 だけど……
 俺が勝てたのはシンヤのアドバイスのおかげだ。素直にそれに従ったから勝て
たのだ。
 つまり、実力じゃない。
 ……許せない。
 手を貸された自分が。手を貸したシンヤが。
 わかってる。そんなの、下らないプライドのために感じているだけだ。
 別にプライドに傷がつくのは構わないんだ。ただ……
 コクピットでのリョウゴの呟きは、誰にも聞かれることはなかった。


 テストルーム内に雨が降る。
 天井に無数に備えられたシャワーを起動させて、汚れを落としやすくしている。
 部屋の中には2機のAACVがペイント弾の塗料を落とすために置き去りにさ
れていた。
 モニターごしにその様子を眺めつつ、タクヤはコーヒーを啜った。
 シンヤたち4人は自然とモニター室に集まっていた。
 リョウゴはシャワーを浴びてから、何となく留まっていたシンヤに会いにきて
、オカモトはタクヤに自分の動きを評価してもらいに来たのだった。
 皆適当に椅子を引き寄せて腰かけたり、機材に寄りかかったり、床に座り込ん
だりしている。
 コーヒーはこの部屋にあるメーカーでタクヤが全員分煎れたもので、なかなか
に美味しい。3人分につき、さらに1人分余計に粉を使うのがポイントだそうだ

 4人はしばらく沈黙して心地よい静寂を楽しんでいたが、その内にリョウゴが
言った。
「怪我とか、しなかった?……オカモトさん。」
 椅子に座って両手でマグカップを持っていたオカモトは顔を上げ「はい。大丈
夫でした。」と言う。
「そっか、よかった。」
 彼女の顔を見ずに笑顔を浮かべるリョウゴ。
「パイロットスーツ着ていりゃあ、そうそう怪我はしねーよ。」
 突っ込みを入れたのはタクヤだった。
「割りと丈夫……っていうか、ちょっと荒っぽいことやっても全然痛くないです
よね。」
「パイロットが動けなくなったら、負けも同然だからな。そこらへんがまだAA
CVは未完成なのよ。AACVの一番重要で、脆くて、調達が困難な部品がパイ
ロットなのさ。」
「AIは積めないんですか?」
 シンヤが訊くとタクヤは頷く。

ロボット物SS総合スレ 41号機
440 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:55:00 ID:/oznupZk
「搭載しようっていう研究自体は今でもあるぜ。だけどロボットの限界かどうし
ても動きがパターンになって、ちょっと上手いパイロットなら簡単に撃ち落とせ
る。人間が居ない分速度と反応はダンチだけどな。」
「へぇ」
 言ったのはオカモト。
「タカハシさんって物知りですね。」
「知的な男ってカッコいいだろ?」
「自分で言わないでください。今のでさっきの知的アピールが見事に相殺されま
したよ。むしろマイナスですよ。」
 リョウゴの毒のある突っ込みに皆、クスクスと笑う。
「じゃあこの際なんで質問いいっすか?」
 手をあげるシンヤ。
「おぅ、ドンとこい。」
「AACVって、一番最初に造ったのはどこなんですか?」
「あー……それか……」
 タクヤは頭に手をやり、なにか考える仕草を見せる。
「一言で言うのはちっとムズいな。一応基礎を作ったのはロシア、あ、まだ“新
生”じゃなかった頃のな。なんだけど、二足歩行部分は日本、これもまだジャパ
ンじゃない頃――もういいか。とにかく、基本はロシアだよ。」
「そうなんですか?」
 オカモトが意外そうな反応をする。
「こういう変態兵器作るのは大抵イギリスかロシアって相場が決まってんの。」
 タクヤは笑ってそう言った。
「イギリスって何です?」
 シンヤの新たな質問は「自分で調べろバーロー」と一蹴された。
「んで、ロシアの基礎に日本の二足歩行ロボット技術が加わったものをアメリカ
――さすがにアメリカは分かるだろ?が兵器にしようとしたんだが、当時の事情
じゃ如何せん使い道が無かったんでお蔵入り。ミサイル全盛だったし、戦闘機の
方が安くて使えたからな。その上まだP物質が無かったから、内部電源だけで動か
した場合、活動可能時間は2分しか無かった。初期のAACVなんか某汎用人型
決戦兵器よろしく背中から電源ケーブル垂らしてたんだぜ。」
「だけど、事情が変わった。」
「オカモトさんその通り。」タクヤは膝を叩く。
「小惑星衝突で地上の環境が戦闘機に適さなくなったから、AACVが陽の目を
見たのさ。今は地上に太陽ねーけど。」
「あ、それちょっと上手いっすね」
 リョウゴが言う。
 タクヤは顎に手をやり、わざとらしいポーズを決めた。
「ふっ……俺の溢るる知性が発露してしまったか……」
「今のはお世辞っすけど。」
 リョウゴのセリフと共にタクヤは「あら?」と言いながら大げさにポーズを崩
す。
 まるでコントのようで、シンヤとユイは笑った。
 隣室の雨はまだ止まない。


ロボット物SS総合スレ 41号機
441 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:56:37 ID:/oznupZk
 突然目の前が明るくなる。
 思わずつぶった目を開くと、モニターに映るドック内の風景があった。
 この瞬間だけは何度経験しても慣れない。シンヤはヘルメットと固定具の隙間
から指を入れ、蒸れる首筋を掻いた。
「システムチェック完了、異常無し。ハンガー外してください。」
 一々言うのを煩わしく感じつつ、そうマイクにお願いする。
「声に力が無いぞ、大丈夫か?」
 そう整備員に返された。
 苦笑しつつ「大丈夫です」と言って、ハンガーから外されたAACVの右足を
持ち上げて、一歩を踏み出す。
 ドック内を歩いて地上ゲートへ向かう。
 ゲートは既に開いていた。
 そしてその中で、見覚えのある機体がシンヤを待っている。
 分厚い装甲と右手の大剣、平たい頭の無骨なデザイン。リョウゴの乗る重装型
AACVだ。
 シンヤはリョウゴの地上デビューである短時間の哨戒任務の指導役を任じられ
ていたのだった。そのため、いつかのようにAACVの背中にレドームを背負っ
ている。
 リフト内にシンヤが入り、リョウゴに並ぶと、ゲートが閉まって、リフトが上
昇を始める。
 間もなく、地上へ出た。
 暗く、冷たく、静かで、灰の降り続く、深海のような世界。
 もうすっかり見慣れてしまって、別段何の感想も湧かない。
 リョウゴはどうだろうか。
 通信機で訊いてみる。
「極楽浄土には見えないな」というリョウゴの返答に「は?」
「空の上にあるのは天国だろ?」
 ああ、そうか。
「どうやら神様は留守らしい。休暇とってベガスかな?」
 二人は笑う。
「何のセリフだっけそれ。」とリョウゴ。
「敬虔なシスターが助けを求めてきたやつに言った言葉!」
 シンヤは機体を跳ばして、地上を歩き始める。
 リョウゴも後を追っていった。
 シンヤたちは灰の荒野を進んでいく。
 今日は風が強く、至るところで灰嵐に巻き込まれた。
 AACVは地上用に作られているから多分大丈夫だろうが、関節やスラスター
がやられないか、灰嵐に遭う度に心配になる。
 この灰が止むことはあるのだろうか。
 地下都市の雨みたいに2週間に1日だけ「灰の降る日」を作るとかすればいい
のに。いつ雨や灰が降ってくるかわからないなんて、昔の人は不便に感じなかっ
たのかな。
 と――

ロボット物SS総合スレ 41号機
442 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:57:43 ID:/oznupZk
 片足が灰にとられて体勢が崩れる。スラスターを吹かして跳び、元に戻った。
 チラリと後方のリョウゴを見る。彼は完全に機体に慣れたようで、機体が灰に
沈んでも素早く復帰していた。
 少し、切なくなる。
 本来なら俺がこの光景を見ることは無かったはずなのだ。
 人違いで、巻き込まれて……
 脳裏に模擬戦の時のリョウゴが浮かぶ。
 オカモトの言っていた通り、確かにあれは……
 考えを払うように、頭を振った。
「なぁ、シンヤ。」
 急に通信機からの声。
「ん?」
 精一杯明るい調子で返事をする。
「俺たちってさ、何で仲良くなったんだっけ。」
 リョウゴはそんな質問をしてきた。
 少し考えて「たしか入学式の時、俺から話しかけて、それからじゃなかった?

「そうだっけ」
「いきなり何よ?」
「いや、ちょっと……」
 リョウゴは少し口ごもった。
「……なんか、もっと他に無かったっけ」
「他に?」
「ああ。なんつーかさ、その、確かに知り合ったのは入学式の時だけどさ、それ
から何かキッカケがあって、一気に親しくなった覚えがあるんだよ。それ、いつ
だったかなー、と。」
「そーだっけ?」
 シンヤは首を傾げる。キッカケと言われても、特に思い当たらない。が、リョ
ウゴは「あ」と声をあげた。
「思い出した、最初の中間テストだ。」
「え?あー……言われてみればそんな気も……」
 シンヤは頭を掻こうとして、ヘルメットと固定具に阻まれた。
 英語のテストであまり点が取れなかったシンヤが、たまたま近くに居た、満点
近いリョウゴと点数を見せ合ってしまい、それから勉強を教えてもらうことにな
ったのが、今思い返すとそれがキッカケだったのかもしれない。
 ……我ながら情けねー。
「赤点ギリギリだったなお前。」
「るせっ!忘れろっ!」
 二人は笑う。
「……あの頃はこんなことになるなんて、思ってなかったよな」
 ぽつり、リョウゴがこぼす。
「ゴメンな、シンヤ。巻きこんじまって。」
 それを聞いたシンヤは、目を伏せる。
「……謝っても、許さねーよ。」
 シンヤはそう返した。
 リョウゴは沈黙する。
「どんなに謝っても、リョウゴ、俺がお前を許すわけない。俺の人生はお前のせ
いでメチャクチャにされたんだ。こんなの、許せるわけねーよ。」
「……そう、だよな。」
「だから」
 シンヤは微笑む。
ロボット物SS総合スレ 41号機
443 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 08:59:00 ID:/oznupZk
「お前は生きて、生きて、全力で生きて、俺が、お前が罪の償いを終えたと感じ
るまで、生きてくれ。俺に対して申し訳ないと思うなら、死ぬまで生きるのが、
最高の償いだよ。」
「……シンヤ」
 リョウゴは落ち着いた調子で続ける。
「言ってて恥ずかしくねーの?」
「正直なとこ言えば、今のセリフは完全に自分の中で黒歴史認定だわ。」
「ははっ」
 リョウゴは笑い、スラスターを吹かして機体を浮かせた。シンヤの上を飛び越
え、その前に着地する。
 シンヤは足を止めた。
 リョウゴはこちらを振り向く。
 数分の間があった。
 それは真に心の通じ合った者同士にのみ分かる、濃密な数分だった。
 二人は無言だったが、雄弁な無言だった。
 そして二人は同時にAACVの片腕をあげ、握りこぶしにして、突き合わせる

 ぶつかった時の振動で、シンヤは確信した。
 コイツは、友達だ。




 コンドウさんは正しかった。
 タケル・ヤマモトは平蛇の艦長室内にて、そう思った。
 目の前の机には銀色のボイスレコーダーが転がっている。
 その側面には新生ロシアの少年に対して「歯医者さんごっこ」をしていた時に
飛んでしまった血が、痕になって残っていた。
 ヤマモトはロシア語が解らない。だから近くの幽霊屋敷からロシア語の通訳を
呼び、その人間に逐語翻訳をしてもらって、その内容を録音したのだ。
 それは概ね、アヤカ・コンドウの予想通りの内容だった。
 新生ロシアは土壌の成分から、その地点から見たP物質の存在する方向を知る
方法を編み出していたのだ。
 これは大きな脅威だ。
 この方法を使えば簡単に、グラウンド・ゼロを見つけられてしまう。
 もしそうして新生ロシアが小惑星の核を手に入れてしまったら……
 生存競争に敗北する。
 それだけは、なんとしても避けなければならない。
 下唇を噛んだ。
 予感がする。
 嵐の来る予感だ。
 自分たちが手に入れた情報は他のコロニーたちも手に入れたと考えていいだろ
う。いや、そんな甘い考えでは駄目だ。自分たちは出遅れたと考えるんだ。追い
付き、追い越さねばならないのだ。
 捕まえた少年は技術的なことまでは知らなかったようだった。当然だろう。ト
ップシークレットに指定されているに決まっている。
 となればだ。
 ベストは「釣り」か。
ロボット物SS総合スレ 41号機
444 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 09:00:14 ID:/oznupZk
 しばらくは新生ロシアの好きにさせて、見つけたような動きを見せたら、追い
かけて、叩く。
 シンプルな作戦だが、それだけに難しい。
 何故なら世界中が動くだろうから。
 総力戦になる。
 全ては、新生ロシアのこれからの出方次第、だな。
「そのためには、まず――」
 考えを纏めようとした矢先、扉がノックされる。
 入室を許可すると、入ってきたのはいつもの補佐官だった。
「艦長、重要な報告が。」
「言え。」
「まずはこの写真を、1分前、シベリアに潜伏中のスパイがそこの新生ロシアの
施設から盗んだ、4分前の写真です。」
 補佐官はつかつかとデスクに歩みより、何枚かの写真をヤマモトに差し出す。
 写真を見たヤマモトは一瞬顔をしかめ、それから見下すように笑った。
「まったく、気が早いな」
「分析の結果、北米生存同盟のものと判明しました。新生ロシアへ向かっている
ものと思われます。」
「さすが元ステイツ、戦争の臭いには敏感だ。」
 ヤマモトは写真を机に置いた。
 写真は地上のものだった。
 それはどうやら哨戒機に撮影されたものらしく、視点は空中にある。
 灰の降り積もった、何もない大地の遥か向こう、地平線に近いところにそれは
居た。いや、“在った”。 それは巨大だった。山のようだった。10本足の山
が歩いていた。
 それは蟻からみる象のように大きく、蛙から見る大蛇のように恐ろしかった。
 北米生存同盟の唯一にして最大の戦力、加えて北米生存同盟の幽霊屋敷的な位
置付けの組織の本部でもある『歩行要塞』が写真には写っていた。
 ヤマモトは存在は知っていたが、実物を目にするのは――それが写真でも――
初めてだった。
 歩行要塞の動きを把握しようとして無駄な足掻きをしたことはある。だが、派
遣した偵察機はことごとく墜とされた。
 パイロットが未熟だったとか、護衛の敵機にやられたとか、そういうのではな
い。
 望遠カメラ、目視、そのどちらもが届かない距離から正確に、口径30インチ
の“ゲテモノ”砲を撃ち込まれたのだ。
 その距離、約55キロメートル。
 ヤマモトはその報告を初めて聞いたとき、大きく笑った。
 諦めたのだ、倒すことを。アレは倒せないと。
 それは卵を投げてコンクリートブロックは破壊できないと予測することと同じ
くらい当たり前のことのように思えた。
 だから今回のこの写真は奇跡と言っていい。

ロボット物SS総合スレ 41号機
446 :グラウンド・ゼロ ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 09:01:35 ID:/oznupZk
「そのスパイの名前は?これは称賛しなければ」
 ヤマモトは訊いた。
「必要ありません、彼はデータ送信直後に撃たれました。」
「そうか」
 ヤマモトは頬杖を突く。
「お前はこれらのことを報告書に纏めてくれ。俺はブリッジに行って、平蛇を帰
らせよう。」
「わかりました。では、失礼します。」
 そうして補佐官は出ていく。
 一人部屋に残されたヤマモトはしばらくの間、静かに車椅子に腰かけたままだ
った。
 “しばらくの間”。
 ヤマモトは哄笑していた。
 腹を抱え、感覚の無い両足を拳で殴り付けながら、天井を仰いで、頬の筋肉を
固まるほどにひきつらせ、大声で、笑っていた。
 嬉しい。ヤマモトはそう感じていた。
 俺の下半身を奪った奴への復讐ができるかもしれないのだ。
 ヤマモトの半身麻痺はP物質の影響ではない。脊髄が傷ついたせいでなってし
まったものだ。
 ヤマモトは幽霊屋敷の中で産まれ育った人間だった。
 初めからこの世に存在せず、戦いの中で生きてきた人間だった。
 そんな彼は、もう何年も、どちらの方向にも転がらない現状に飽き飽きしてい
たのだ。
 ただ地上を這いずりまわって、敵を撃ち、撃たれそうになる日々……。
 しかし今、それが大きく変わろうとしている。新生ロシア中心に。
 ヤマモトはロシア語がわからない。だから日本語で言う。
「ありがとうよ。」
 きっと、もうすぐこの不毛な戦いも終わる。
 ヤマモトは直感していた。
ロボット物SS総合スレ 41号機
447 : ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 09:05:21 ID:/oznupZk
投下終了です。
さりげなく重要な情報&描写オンパレードの回。歩行要塞の外観は某カーチャンを想像してもらえれば(ry

では、他の投下作品を読ませていただいてきます……
ロボット物SS総合スレ 41号機
449 : ◆tH6WzPVkAc [sage]:2010/10/11(月) 09:27:47 ID:/oznupZk
>>389
尻尾は要るだろ常識的に考えて……
きっと「〜だコン」機能を停止したら連動して全システムもダウンするに違いない
投下乙でした!

>>419
なんだろうか、ロリじゃないのがなんか新鮮に見える。これがエルシャダイ効果か……
そして胸の輪郭から察するにきっとノーブうわなにするやめ
投下乙!

>>431
愚痴を言い合うAIとか斬新すぎるwwwwやはりイザナギとイザナミなら日本神話をからめたエピソードがあるのかなーとか思ってしまったり
リクの過去……というか内面ドロドロしてるなぁ……こういうダークヒーローは惹かれます
毎回超速の投下乙!

>>433
なんだデジモンか。え、違う?(すいません
太もものデザインと二の腕のギザギザが個人的に好みすぎてヤバイ。
投下乙でした!



>>447
大丈夫だ、問題ない。
自分が書き込むのが遅いだけですから気にしないでくださいw


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