トップページ > 創作発表 > 2010年10月03日 > JIaosbPU

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創る名無しに見る名無し
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59 :創る名無しに見る名無し[]:2010/10/03(日) 17:44:23 ID:JIaosbPU
(1/5)
 【 最後の戦場 】

「…少尉、あんたも変態だったけど、良い人だな!」
伍長は言った。息も絶え絶えに。

敵軍の放つ重砲の音が山間をこだまする。
時折、私達の傍らで砲弾が炸裂し、飛び散った榴散弾の破片が兵士や辺りに生える灌木を引き裂く。

「伍長、死ぬな、死ぬなよっ!」
私は伍長の体を抱えながら、大声で励ました。

伍長は死ぬ。間もなく死ぬのは、もはや明らかだ。それほど伍長の負ったの傷は深かった。
だが、こんなところで伍長を死なすなんて、私は耐えがたかった。

…突然、丘の向こうから小銃弾の放たれる音がした。
それと共に、けたたましい軍馬の嘶きが山間に響き渡った。

敵軍の騎兵大隊だ。それが大きく旋回し、我らを包囲すべく戦線を突破してきたのだ。
同時に谷の向こうから、山麓の我らの砦に向けて機関砲が猛攻撃を開始された。
重量のかさむあの機関砲……ついに敵はこの決戦火器を運び上げてきたのだ。

遠方から重砲の轟音が響いてくる。前線の砦が落とされ、重砲射撃の視認ができるようになったのだろう。
私の眼下に広がる斜面のあちらこちらで、重砲の炸裂による爆発が起きている。
そのたびに、今日まで共に戦ってきた友軍兵士達が粉々に吹き飛び、斃れてゆく。

もはや敵軍の優位は決定的なものとなった。
騎兵大隊の旋回行動と、正面の機関砲。重砲による絨毯爆撃。
敵軍は我々に対し止めを刺しに来たのだ。

爆破され土煙が上がる砦からは、戦友たちの悲鳴と怒号が響いてくる。
塹壕が吹き飛び、共に戦い抜いた戦友たちの肉体が引き千切られてゆく。

今日まで必死に支えてきた戦線が、今ここで遂に崩壊してゆく。
それはまるで幻を見るようだった。あれほどまで、あれほどまで耐えてきたのだから。
受け入れがたい現実を前に、私は伍長の体を抱きかかえながら、ただ唖然としてそれを見つめることしかできなかった。


…友軍部隊が退却を始めた。
いや、もはやそれは敗走と言ってよい。

正面戦線が完全に崩壊すると共に、敵軍の主力部隊が文字通り殺到した。それはまさに怒涛のごときであった。
榴散弾が炸裂するたびに、逃げ惑う友軍兵士たちが吹き飛ぶのが見える。

もはや戦いではなく、一方的な虐殺であった。
今までこの戦線を共に維持してきた戦友たちが、敵兵の銃火の前で次々と斃れてゆく…。
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60 :創る名無しに見る名無し[]:2010/10/03(日) 17:45:21 ID:JIaosbPU
(2/5)
「…しょ、少尉。逃げてください。お、俺になんかに構わないで。」
伍長は咳き込みながら私に言った。

「しゃ、喋るな伍長! 俺たちは絶対に生きて帰るんだっ! 俺も、お前も、そしてみんなもっ!」
私そう叫びながらは伍長の手を握り返した。
大量に失血したせいなのだろうか、伍長の手はまるで死人のそれのように冷たい。

伍長は少し微笑むと、私の手を握り返した。
伍長の握り返す手の力の弱さに、私は思わず唸った。


ふと見ると、この砦の中隊長である先任大尉が、騎馬に跨り戦線から逃げ去る姿があった。
総崩れになったこの戦線に踏みとどまり、まだ必死に戦っている兵士たちがいるにも関わらずにだ。

退却命令も出さず、撤収のための指揮もとろうとしない。
あの先任大尉は戦友たちを見捨てて逃亡したのだ。

こんなクズのために、我々はここで血を流してきたのか…この伍長も!

伍長がこのような無茶な作戦に身を挺することになったのも、そもそもあの大尉の下らない思いつきなのだ。
伍長の性格や嗜好を知り、ならばとその作戦を私に命じたのも、あのクズのような先任大尉なのだ。

許せない!

「…も、もういいですよ少尉。なかなか…悪くない人生だった。」
伍長はそういうと、静かに目を閉じた。

それが伍長の最後の言葉となった…。
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61 :創る名無しに見る名無し[]:2010/10/03(日) 17:46:24 ID:JIaosbPU
(3/5)
―― 数時間後、自軍の砦は完全に崩壊し、敵軍が乗り込んできた。

私は伍長の死体を抱きかかえながらその場にしゃがみこんでいた。
奇跡的にも、私は生き残っていたのだ。
吹き飛んだ土砂に汚れ、戦友たちの生き血を浴びながらも、私は生き残ってしまったのだ。

私の周りには、戦友たちがいた。 共に笑い、共に戦い、共に励ましあった若者達だ。
それが今、無残に引き裂かれた骸となって、私の周りに転がっている。

私の膝の上にも、伍長が眠っていた。
生きていたときと変わらぬ笑顔を浮かべながら、安らかに眠っている。
胸に穿たれた銃創さえなければ、伍長は死人には見えなかっただろう…。


…しばらくすると敵兵たちが砦に乗り込んできた。

既に我々中隊が全滅した、と思い込んでいるのだろうか。
警戒心が薄れた敵兵たちは、足取りが軽い。
まるで散歩でもしているかのように我々の陣地を合歩している。

私はそうした彼らを呆けたような目で見つめていた。
全てが崩壊し、戦友たちや伍長の無益な死を目の当たりにし、私には現実感が失われてしまっていた。
ただ、無限無窮の諦観が、私の心の中に満ちていた…。


…敵兵の一人が私に気づいたようだ。
新任少尉である私は、おそらく占領されたこの陣地で生き残っている唯一の士官であろう。

敵兵たちが群がり、私に立つように言う。
異国の言葉であるが、彼らが何を言っているのかくらいは判る。
既に武器を手にしていない私に対し、明らかに警戒心は薄い。

彼らが士官である私に寄せる関心は、私の持っているであろうわが軍の機密情報であろう。
もっとも、任官僅か二年程度の少尉に、一体どれほどの情報価値があるかは疑問だが。

銃を向けられても、私は動かなかった。ただそこにしゃがみこんだまま虚空を見上げていた。
敵兵たちが何かを叫ぶ。だが私は動かなかった。
伍長の死体を抱いたままの私に、敵兵たちは異様な空気を察したのだろうか?
兵たちは私を囲み、銃を向けつつも、何もしないでいる。

引き金を引けば、私は戦友や伍長たちと同じくヴァルハラの地へ赴くことが出来るというのに。
もはや抜け殻となってしまったこの私に、まだ何かせねばならぬ使命でもあるというのだろうか?

そう、私には何か為さねばならない使命が・・・?
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62 :創る名無しに見る名無し[]:2010/10/03(日) 17:47:29 ID:JIaosbPU
(4/5)
…しばらくすると、敵の将官たちがやって来た。

敵軍東部方面軍司令官及び方面軍の高級将校たちであった。

この砦の戦略的価値を彼らも知っていたのであろう、数個師団を投入して、この地域の制圧に望んでいた。
たった一連隊の戦力で、我々は三ヶ月も戦い抜いていたのだ。

敵軍の最高指揮官である中将は豊かな白髭をたたえた、長身痩躯の哲学者のような容貌をしていた。
その周囲に連なる参謀連中が並んでいた。軍司令部付き作戦参謀らしく、みな切れ者という感じだ。

数週間に渡って膠着したこの戦線に、火砲集中と騎兵による一気に撃滅する作戦を立案したのは、彼らであろう。
少なくとも敵は本気であったのだ、本気で我らに戦いを挑んできていたのだ。

何故だろう、それが私にとって少し嬉しかった。
戦友たちの死も、僅かだが報われたのではないか、と思った。

奇妙な考えであることはわかっている。
だが本気で挑んできた相手と精一杯戦って死んだのだから、それは戦士として幸せなのではないか?

私は少し微笑んだ。
そのまま声を出して笑い出した。

なぜか笑いが止まらなかった。
伍長の冷たい骸を抱えたまま、私は狂ったように笑い出した…。

…敵の高級参謀たちが、奇妙な目で私を見つめているのがわかる。

おそらく私を戦闘で気がふれてしまった経験未熟な若手士官とでも思ったのだろうか?
確かにその見方も間違いではないであろう、既に私は狂気に踏み込んでいると、どこかで自覚している。

敵将校らが浮かべた表情には、どこか私に対する憐れみすら浮かんでいる。
ところが私は、そんな彼らの姿すらおかしかった。喩えようもなくおかしかった。

私は笑い続けた。ただ笑い続けた。

すると、敵方面軍司令官の中将は、私に無防備に歩み寄ってきた。
まるで敵同士であることを忘れ、普通に会話を交わしにきたような、そんな何気ない様子で。

数多くの戦友を目の前で失い、精神の平衡を失ってしまった哀れな若者への憐憫なのだろうか?
敗軍の兵である私に対して、銃火を交えた相手に対する敬意でも表するつもりなのだろうか?

…私はこの敵軍の将官を憎んでいるわけではない。

ここが戦場なのは百も承知なのだ。互いに殺しあう敵同士であることも。
この私もまた敵の兵士たちの生命と人生を奪ってきたのだから。
このような場で、このような私に、かくのごとく接するこの敵軍の指揮官は、実に立派な軍人だと思う。

だが、まだ我々は白旗を揚げては居ないのだ!
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63 :創る名無しに見る名無し[]:2010/10/03(日) 17:48:48 ID:JIaosbPU
(5/5)
そう、この砦だけはまだ、敵軍に降伏を表明したわけではないのだ。
私は、いや、正確には「我々」は、まだ負けていない。

先任大尉が卑怯にも逃亡してしまった今、ここの砦の最高指揮官は、唯一生き残った士官であるこの私だ。
この私が降伏を正式に表明しない限り、ここの戦闘は終わっていない。


「…あんたも変態だったけど、良い人だな!」
伍長の声が聞こえた。あの言葉。
伍長とこの私が、命がけで取り組んだ、特攻挺身作戦…。

そうだ、私と伍長の戦いは、まだ終わっちゃいないんだっ!

敵軍中将が私の目の前でしゃがんだ。
少し憂いを帯びた優しげな微笑みで、私に何かを語りかけようとする。

その瞬間、私は伍長の死体のズボンをずり下ろした。

その異様な行動に、周囲の兵士たちが虚を突かれた。
我に返った参謀の一人が何かを察し、中将の肩に手を掛け、引き戻そうとする。
敵兵たちが、何かを叫びながら慌てて小銃を私に向ける。

その全ての動きがスローモーション映像の如く、私には見えた。

絶叫しながら、小銃の銃口を私に向ける敵兵たち。
参謀たちに強引に引っ張られ、そのまま地べたに崩れる中将。
何かの命令を叫びながら、慌て取り乱す参謀たちの表情。

下半身丸出しになった伍長の死体を、うつ伏せにひっくり返す私。

その瞬間、数発の銃声が響いた。
同時に、私は笑った。

体の方々に熱い衝撃が突き刺さった。
不思議と苦痛はなかった。

「…あんたも変態だったけど、良い人だな!」
伍長の無邪気な笑顔。
それがおそらく私の見た最後の記憶だ。

同時に、私は伍長の肛門にねじ込んでおいた爆弾の起爆ピンを引き抜いた。
伍長の肛門の中に突っ込んであった、実に5キロもの強化爆薬が砦の中で炸裂した…。

私と伍長の最後の戦いは、こうして終わった…。(終わり)


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