トップページ > 創作発表 > 2010年10月03日 > 21DOD5ED

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創る名無しに見る名無し
TロG ◆n41r8f8dTs
ロボット物SS総合スレ 40号機

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ロボット物SS総合スレ 40号機
462 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/10/03(日) 20:50:43 ID:21DOD5ED
そろそろハルハル投下できそうです
ロボット物SS総合スレ 40号機
471 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/10/03(日) 21:17:25 ID:21DOD5ED
出来ましたー
全部で18000字+空白があるんで……恐らく18か19レスくらいかな?
そこでですが、支援は5レスの間に2レスくらいあれば良いかなと
けっきょくさるったらごめんなさいorz
ロボット物SS総合スレ 40号機
473 :創る名無しに見る名無し[sage 節約の為、目欄で投下開始します]:2010/10/03(日) 21:19:36 ID:21DOD5ED
『今日入ってきたニュースです。午後未明、○○県○○市で、自動車数台が転倒し、田園へと落下する事故が起きました。奇跡的に怪我人はおらず……』


『続けて、高速自動車道○○線で起きたニュースです。運転手が居眠り運転していた大型トラックがパーキングエリアに……』


『数日前、○○県で連続して起こった、農家が飼育している、牛や豚等の家畜が殺害された事件の続報ですが、未だに犯人、及び犯行に使われた凶器の特定は進んでおらず……』





                                パラべラム!
                                  ×
                                巡るセカイ






月明かりと、パチパチと頼りなさげに点滅する街灯が照らす暗闇の中を、制服を着た一人の少女が必死な形相を浮かべて走る。
どれだけ走ったのだろうか、そしてどこに向かえば良いのかも分からない。しかし、今は只ひたすら、逃げなければならない。
全力疾走したからだろう、息が詰まりそうだ。少女は一旦立ち止まり、近くのブロック塀に手を付いて呼吸を整える。

数秒ほど休み、少女は再び走り出す。後ろから自分を追ってくる、闇に紛れたあの化け物に殺されない為にも。
脇目も振らずに、少女は駆ける。なりふり構ってなどいられない。明るい場所へ――――とにかく、人が居る場所へと、行きたい。
確かこの路地を走っていけば、歓楽街へと着く筈だ。そんな朧げな予感だけが、今の少女にとっては希望に他ならない。
やった、見えた。少女の視界には、煌びやかなネオンによって彩られた歓楽街が映っている。もうここまでくれば大丈夫だろう。

少女は恐怖心を抱えながらも、歓楽街へと逃げる前に足を止め、後ろを振り返った。
そこには自分を追ってきた怪物の姿は、無い。しかし、その怪物がまだいるであろう闇は、少女を誘う様にぽっかりと口を開けている様だ。
しかしここまで来れば怪物は自分に手を出す事は出来ないだろう。いくらあいつでも、こんな場所で私を襲う事は出来ない筈だ。

ほっと、少女は胸を撫で下ろして正面へと向き直る。まさか自分があいつに……黄金色の死神に狙われるとは思わなかった。
少女の頭の中で、友人達が都市伝説として話していた事がフラッシュバックする。

夜道を歩いているとどこからか、ガチャン、ガチャンという音が聞こえてくるらしい。
その音に気を取られて立ち止まっていると、後ろから背筋が猫の様に曲がっていて右腕が――――機械な、不気味な男に襲われる。
その男は目的は不明だけどもし狙われれば最後、その右腕に備わったカギ爪で殺されて、何処かに連れ去られてしまうとか。
男のその右腕は金色に塗装されていて、それ故にこう呼ばれる、黄金色の死神と。

突っ込み所満載だし下らない、と顔には出さないものの、少女は一笑に付していた。
だがしかし、現に部活動を終え下校している途中で、自分は聞いてしまった、その音を。
逃げた途端、それは自分を追ってきた。だから必死になって逃げた。一心不乱に逃げた為、何か落としたかもしれない。定期券とか。

ロボット物SS総合スレ 40号機
475 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:20:51 ID:21DOD5ED
まぁ……良いや。明日の朝取りに行けば。取りあえず下校する時にもうあの道は止めよう。家からは遠くなるけど、遠回しして明るい道から帰る様にしよう。
そんな事を思いながら少女は自宅へと帰ろうとした、その時。

<ドコに いく気だ>

少女の耳元に、しがわれた老人の声と、無機質な機械音が入り混じった不気味な声が聞こえてきた。
思わず少女は、その声が聞こえてきた暗闇の方へ振り返ってしまった。瞬間、暗闇からぐわっと何かが迫ってきて、少女の頭部を掴んだ。
一瞬の事に少女は自分に何が起こったのかが理解できない。だが、これだけは分かる。この何かの正体は――――。

異常な力で押さえ付けてくる何かを頭から外そうと、少女は力の限り抵抗するが、何かには全く影響が無い。
寧ろ、何かは少女を甚振る様に力を増していく。骨が折れ、血管が切れた音がし、少女の両腕がだらりと何かから落ちる。

<こレで……10ニン……目……>

暗闇から覗く、少女の命を奪った何かの目が二つ、ポツンと赤く光る。通行人達はこの異常な光景に、何ら気付いている様子はない。
赤い目のそれが少女の頭部を掴んだまま、暗闇へと戻っていく。闇に溶け込むその動きは俊敏で、音すら出さない。

道路には持ち主を無くした少女の学生証が落ちているが、誰もそれに、気付く様子はない。




「ねぇ、悠子、悠子ってば」

何度も何度も呼び掛けているが、友人は遥の呼び掛けには全く反応しない。どうやら映画の世界にどっぷり嵌っている様だ。
軽く肩を揺らしたりするが友人は微動だにしない。最初は珍しいなと思っていたが、ここまで夢中になるとは思いもしなかった。いつもはすぐ飽きるのに。
遥は軽く溜息を吐き、払った分が勿体無いし仕方なく大型モニターへと目を向けた。それにしても退屈だ、実に退屈な映画だ。

部活の同期、というか友人である悠子と共にホラー映画、「黄金色の死神」を鑑賞しているこの少女の名は神守遥という、この物語の主人公だ。
肩まで伸びたおさげに、幼さが残る可愛らしい容姿が印象的な彼女は、揺籃二高なる高等学校で弓道部の部長を務め、文武両道で知られている。
また、市議会議員の父親がおり、生まれは名家というあらゆる意味で死角が無い彼女だが、少々おっちょこちょいで臆病という短所も、無い事はない。

そんな彼女が今日、悠子と映画を見る事になったのにはこういった経緯がある。

土曜の部活を終え、各々帰宅する為に更衣室で着替えている時、彼女の同期である悠子が遥に頼み事があると言ってきた。その頼み事の中身とは。

「あのさ、遥。この後暇だったらで良いんだけど……一緒に映画見てくれない? ホラー映画でね、私一人だとちょっと……怖いのよ」

この悠子の頼み事に、遥は軽く溜息を吐いた。というのも、悠子が遥を映画に誘うのは一回や二回では無いのだ。
悠子は遥が予定が無さそうだと感じたら(そして大概その予感通りに予定が無い)その都度、映画に誘ってくる。
その理由も一人だと面白くない映画だから、とか、ちょっと怖い映画だから一緒に見て欲しい、とか何かしら理由を付けてくる。
素直に私と映画を見たいと言えば良いんじゃないかと思うが、妙な所で悠子はそういった部分を誤魔化す。まぁ、どうでも良いのだが

しかしこんな事を思いながらも、遥は悠子の誘いに悪い気はしない。不思議な事に、悠子が誘ってくれる映画は全て、遥にとっては面白いのである。

が、その逆に友人は見終わった後、思ったより面白くなかったという。自分が誘った事を忘れているかの様に。

そんな訳で遥は悠子の誘いに乗る事にした。確信は無いがきっと次に見る映画も面白いであろう。

「うん、良いよ」
「ホントに? あー良かった。ホントに遥は付き合いが良くて大好きだわ、私」
「え?」
「ううん、何でも無い」


ロボット物SS総合スレ 40号機
476 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:22:00 ID:21DOD5ED
結果は大外れ。この映画は形容できない位退屈でつまらない。どこら辺が見所なのかがさっぱり分からない。


今、遥と悠子が見ているこの映画は、「黄金色の死神」という日本のホラー映画で、正直映画雑誌等では評価が芳しくない、そんな映画だ。
次々と女性を襲う黄金色の死神なる化け物と、その黄金色の死神に妻を殺されたという刑事の戦いを描いた内容なのだが、まーつまらない。
いつものパターンであれば、遥を誘った張本人である悠子は映画に飽き始め、眠たそうに目元を擦っては大きなあくびをしているのだが……。
今回は遥が大きな欠伸をしており、眠たそうに目元を擦っている。いや、実際眠たい展開なのだが、ちゃんと見ないとお金が勿体無い。

それにしても珍しい事もあるものだ。悠子がこれほどまでに映画に夢中になるなんて初めてかもしれない。
モニターでは、刑事が血塗れになっているトイレを捜査しているというシーンが映っているが、話の内容が頭に入って来ない為どういうシーンかは分からない。

急に尿意に見舞われて、遥は悠子にトイレに行くと伝えるが、悠子の耳に遥の言葉は聞こえていない様だ。
遥は背を曲げながら立ち上がり、小声でごめんなさいと言いながら観客達の前を横切り、上映館内を出てトイレへと向かった。

トイレに入り早速用を足した遥は、洗面台で爪までしっかりと両手を洗って、設置されたエアータオルへと手をかざした。
早く乾かないかなと思いながらも、あの映画を見る気にはならないから乾かなくても良いや、と思う。どっちにしろ手は乾いてしまうが。


そう言えば……と、遥は手を乾かしながら今朝のテレビでやっていた占いで、自分の運勢を思い出していた。
運勢自体は中吉だったが、何となく今日の占いに書いてあった一文が気になった。その一文にはこう書いてあった。

【予期せぬ出会いがあるかも! なるべく備えておくと吉】

占いを信じるタイプではないが、不思議な事に遥はその予期せぬ出会いをどこか期待している。
何だろうか、今日は出会いというか、何か起きそうな気がしてならない。それが良い事なのか、それとも悪いことなのかは見当が付かないが、何かが起きそうだ。
もしかしたら何も起きないかもしれない。しかしそれも良いじゃないか、平和な一日だって事で。
何だか両手が熱い。乾かし過ぎたかも知れない。遥は両手をエアータオルから遠ざけた。


と、その時。耳元で遠く、音が聞こえてきた。出入り口に向かう足を止め、遥はその音に神経を集中させた。
トイレの中からかと思ったが、違う。この音は外からだ。……何かが、落ちてくる音?
ここから外に通じているのは出入り口と一つだけ備えられてる窓ガラスだけだ。自殺防止の為に小さく作られているけど、開け閉めは出来る筈。
遥は出入り口からくるりと回って窓ガラスの方へと向いて歩いていくと、窓ガラスの取っ手を外して開くと、外を覗いてみた。

真下に見えるは、この映画館専用の駐車場。土日だがあまり車は無くガラガラな状態だ。
駐車場から周りへと目を移すが、特に何かある訳でも無い。もしかしたら気のせいだったのかな……?
ちょっとガッカリしながらも、遥は取っ手を固く閉めると、悠子が待つ上映館内へと。


一瞬、遥の目に黒くて大きな何かが落ちてくるのが見えた。その姿ははっきりと見えなかったが、間違いなく、何かが落ちてきた。


続いて、重く耳に響いて反響する程の衝撃音、否、落下音。四秒ほど地面が揺れ、遥はその場にしゃがみ込んだ。
何……何なの? 恐らくというか、確実にさっき目の前で落ちていったアレが着地したんだとは思う。
じゃあ……じゃあ、アレは何? 地面を揺らす程に重い物って……。遥は起き上がって恐る恐る、再び窓ガラスを開けて、駐車場を覗いた。

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477 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:23:20 ID:21DOD5ED
……道路が、窪んでいる? 駐車場が波紋の様な形で窪んでおり、その窪みの中心に何かが……居る。あの落下してきた物体だ。
遥は無意識に唾をごくりと飲み込んでいた。暑くない、むしろ涼しいのに、額から汗が滲み出る。その物体から目が離せない。

遠くからだから明確な姿は計り知れないが、とにかく大きくて黒い事は分かる。周りの自動車よりもずっと、大きい。
それに……っと、その物体の肩が動いた? 違う、肩と思える部分に別の何かが乗ってるんだ。
その何かが立ち上がって……ジャンパー? いや、ジャンパーには見えない。ローブ? そのローブのフードを……。

その何かは――――人間の様だった。フードを取ったその人間の髪は、遥の髪の色とお下げ、三つ編みと酷似しており――――。


「遥?」

思わず体が硬直する。遥はロボットの様にぎこちなく後ろを振り向くと、心配そうに遥を見つめている、悠子が居た。
いけない、何か言わなきゃ。そう思う遥ではあるが、色んな意味で衝撃的な場面に出くわしている為、頭の中が纏まらない。
遥が何も言えずにいると、悠子の方から話しかけてきた。助かる。

「さっきはごめんね、遥。無視した訳じゃないの。映画にちょっと夢中になっちゃって……」
「ううん! 全然気にしてないから大丈夫! 気にしないで!」

謝る悠子に遥は大丈夫だ、問題無いといった感じにオーバーアクションで首を横に振る。
さっきまで何の映画を見ていたかを忘れてしまうほどに、あの光景は強烈だった。
それもそうだろう、突然上から巨大な物体が落ちてきては、地面に着地して、しかもそれに人間が乗ってて――――。

「あ、それでね、遥。……揺れ、分かった?」
「……揺れ?」

遥が悠子のその言葉に首を傾げると、、悠子はうん、揺れと頷いて話す。

「一〜二秒くらいかな、突然グラッって席が揺れてね」

悠子の言葉に、遥はアレが夢ではないという事に驚きというか一種の恐怖の様な物を感じる。
冷静になってみるとあまりにも非現実的過ぎる。しかしそう頭では否定しても、この目はしっかりと見てしまっている。
お化け? 幽霊? 怪物? ……何故だか分からないし何の確証も無いが、遥は思う。アレは、ロボットだと。

「それで皆驚いてちょっとだけパ二ッ……遥?」

遥の意志はまっすぐ、窓ガラスの方へと歩んでいた。そして足をピタリと止めて、窓ガラスを開き、駐車場を覗く。
……やっぱり。遥の目にはしっかりと、あの黒い物体が残していった、波紋のような窪みが映っている。あのロボットは煙の様に消えてしまった。
夢でも無きゃ幻でも無い。現実だ。だから尚更思う。アレがロボットだとしても、一体何がしたかったのかと。

「何見てんの?」

遥の行動が気になり、悠子も窓ガラスの方へと駆けつけて覗きこむ。
最初は何を見てるのかと笑みを浮かべていた悠子だったが、次第に顔が強張っていき遥の方を見ずに、遥に言う。

「……何か、落っこちたの?」
「……多分、自動車かな」
ロボット物SS総合スレ 40号機
478 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:24:20 ID:21DOD5ED
この映画館には屋上駐車場は存在しない。だがそうとでも言わないと、何かおかしくなってしまいそうだ。
あのロボットは普通じゃない。普通じゃないし、これは直感だけど――――この世のものではない。


まだ「黄金色の死神」は上映中ではあるが、何となく映画を見る気分ではなくなってしまった為、遥と悠子は映画館を後にする事にした。
家路を共に歩きながら、二人は映画館で起こった不可思議な事象について頭を悩ませる。

「ホント……何だったのかしらね、あれって」
「私にも……分からないよ」

悠子の疑問に遥はそう答える。正直にというか、そう答える他無い。理屈で説明できるのなら苦労しないのだが、それが出来ないからとても困る。
一先ず推測の範囲だと、あのロボットは移動する為に映画館かその近くの建物から落ちてきた事。
そしてそのロボットを操っているのが、肩に乗っていた……遥と同じ髪型をした人物、という事だけが分かる。

「明日、ニュースに出ると思う?」
「どうだろうね……新聞には載るんじゃないかな」

載っていてほしい、と遥は切に思う。そうすれば安心するわけではないが、何となく自分が見た物が嘘ではないという事の証明になるから。
にしてもあの時、駐車場はおろかその周辺にも誰もいなかったのが悔やまれる。もし自分以外にあのロボットを見たって人がいれば……別にどうもしないか。
しかし窪んだ駐車場というのがあの出来事は夢幻では無いという事を突き付けている様で、遥は少々身震いする。

「じゃ、私こっちだからまた明日ねー」
「うん、バイバイ」

悠子がそう言いながら遥に手をひらひらと振る。遥も軽く振り返して、家路を歩きだす。

今日を含めて三日ほど、自宅には遥しかいない。市議会議員である父はいつもの通り仕事が多忙な為、家には帰れない。
代わりに家を守っている母は、昔の同級生とやらと一緒に帰郷旅行という事で出かけており、可愛い妹は寮生活、と、いう訳で三日間は一人で過ごさなければならない。
何だかあんな出来事があったせいで、家に帰るのが怖い。しかし帰らない訳にはいかない。

気付けば自宅に到着してしまった。鞄から家のカギを取り出して、鍵穴に嵌める。
カチャリ、とドアが開く音がして妙にホッとする。今日は早めにご飯を食べてお風呂に入って寝よう。
ドアノブに手を掛けてドアを開けようとした、その瞬間。



「――――危……なぁぁぁぁぁい!」



後方から突然、甲高い少女の声が聞こえて遥はビクッと肩を震わせた。次に聞こえてきたのは、バランスを崩したのか派手にすっ転んでる音。

「いてて……」

後ろから聞こえてくる、転倒した痛みを堪えている様な少女の声に、遥は再び驚く。
その少女の声やアクセントは、遥とそっくり――――いや、遥本人と全く同じだからだ。
握りかけたドアノブから手を離し、破裂しそうな位高まっている心臓の鼓動を抑えながら、遥は振り向く。

そこに居たのは、黒いローブをすっぽりと被った、ファンタジックな造形の黒色の杖を握った、一人の少女。転倒した為だろう、尻餅を付いている。
少女はよほど痛かったのか、尻を擦りながらよっこらしょといった感じで立ち上がる。杖だけじゃない。
黒色のローブと杖にしろ、中から見える服装にしろ、どこか浮世離れしている、そんな感じがする。そう……上手く言えないが、ファンタジックな。

さっきから心臓の鼓動が早まって早まって仕方が無い。というよりこのまま家へと駆けだしたいが、このまま女の子を見過ごすのも気分が悪い。
遥は意を決して、何処から来たかは分からないものの、ウチの前で転んだローブの少女へと小走りして声を掛けた。

「だ、大丈夫?」
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479 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:25:18 ID:21DOD5ED
少女は前屈みになって、膝小僧をパンパンと叩くと、顔を上げた。少女の顔を隠しているローブのフードがはらりと下りる。

遥はそのローブの少女の顔を見――――驚きのあまりに、瞳孔が、広がる。

ローブを羽織っている少女の顔は、遥と同じ顔をしていた。それだけではない。
肩まで伸びた二つの三つ編みに、幼さがそのまま残る目鼻立ち、起伏に乏しい胸。それらはすべて遥が遥たる特徴であるが、その遥の特徴を丸々――――コピーしたかの様だ。
否、遥の目の前に遥が居る、そんな感じだ。ただ、ローブの少女は身長が十センチ程低い為、それがまた顔も相まって幼さを加速させている。

「あの、」

遥とローブの少女が同時に同じ言葉を発した。まるで最初から一人の声の様に、綺麗にシンクロする。

異常な事態な筈だが、遥の鼓動は自然に収まっていく。そして頭の片隅で理解する。これが、予期せぬ出会いかと。
しかし何と言えば良いのか、あまりにも予期しなさすぎて逆に落ちついてしまっているというか。人はあまりに異常な事態に出くわすと、逆に慣れてしまうらしい。
もしかしたらこれが噂に聞く、ドッペルゲンガ―という奴なのだろうか。世界には、同じ姿をした人間が3人いて、会うと死ぬとか言う奴。
だが、遥は思う。この目の前に居る自分に酷似した少女はその類では無いだろうと。何故そう思うかと言えば直感だ。

もし――――もしこの少女が、あの駐車場のロボットの持ち主とすれば、私は――――どうするべきか?
そんな考えが遥の頭の中に浮かぶが、なんとなく無駄な気がする。こんな状況下で何か考えようとしても。

「……貴方、名前は?」

自分が思っているより穏やかな声で、遥は少女へとそう、聞いた。もしこれで名前も同じだったら多分、笑う。

少女は遥に名前を聞かれ答えようとした瞬間、少女の腹の虫が、派手な鳴き声を上げた。

少女は気恥ずかしいのか頬を少し紅く染めると、遥から若干視線を逸らす。遥は緊張感が途切れたからか笑いそうになったが堪える。
奇妙で気まずい沈黙が数秒ほど続くと、遥は一息吐き、少女へと再び、声を掛けた。


「良かったら、家に……入る?」


少女ははいと答える代わりに、大きく一回、遥に頷いた。





                                haru 
×
                                HARU 



口の周りをケチャップで汚しながらも、そんなの関係ねえといった勢いで、少女は遥が作ったナポリタンを元気一杯に食べまくる。
遥自身はちょっと多いかな? と思った量だが心配する事も無く、見る見るうちに皿の上のナポリタンが無くなっていく。
どれだけお腹が減ってたんだろうと思うが、これだけ美味しそうに食べてくれるなら作った方は本望だ。

ロボット物SS総合スレ 40号機
481 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:27:24 ID:21DOD5ED
「美味しい?」

遥がそう聞くと、少女はコップの中の水を一気にゴクリ、と飲み干して満面の笑顔で答える。

「はい! もうお腹が空いて空いて堪らなかったんで、すっごく美味しいです!」

まるで空腹だから美味しいと言われている様な感じがしないでもないが、皿が綺麗に空になってるのを見ると本当に美味しかったのだろう。
何か作ろうかと思ったがあまり食材が無かったから、昨日の残り物を早急に作りなおした為、もしかしたらまずいと言われるのを危惧していたが良かった。
にしてもこの状況下は我ながら不可思議だと遥は思う。普通なら警察なりに直ぐに連絡とか、そういう対応をするべきだろう。

だけど、今の自分は得体の知れない、自分にそっくりな女の子を家に招いた上にご飯を食べさせている。
真面目に阿呆じゃないかと思う。どう考えても逃げた方が良いというか、この状況を受け入れちゃいけないと思う。
だが受け入れてしまった。そして認めてしまった。ならば仕方が無い。まぁ、成る様に成るんじゃないかなと、変にポジティブシンキングになる。

そんな遥の心境も露知らず、少女はナポリタンの次にボウルに盛られているサラダを豪快に食べ始めた。
小柄な体に似合わぬほど良い食べっぷりに、遥は驚きながらもそんなにお腹空いてたんだねと切ない気分になる。
……私自身はあんまご飯食べる心境じゃないから良いや。お風呂入って寝よう。

それにしても何者なのだろう、この少女は。自分と瓜二つながら、身長は10cm位も違うし、食べっぷりからして性格も違うと思う。
だが顔も体型も髪型も、何より声と、何から何まで自分とそっくりなのだ。もしや自分の姿を真似た狐や狸みたいな妖怪なのではあるまいか。
しかしどこから見ても、同じ人間に見える。妖怪とかそういう物には全然見えない。

朝の占いがここまで的中した事は、生まれてこの方初めてだ。あまりにも予期しなさすぎて、今も頭が軽く混乱している。
今日、お母さんがいなくて良かったと思う。もしお母さんが居たら今以上に事態があらぬ方向に行ってしまいそうだから。
けど、これからどうしよう……まさか家に泊めるとか……いやいや、それは幾らなんでも……。

と、遥がこれからどうするべきかを苦悩している間にも、少女は遥が作った料理、ナポリタンもサラダボウルも全て平らげた。
近くのティッシュで口元を綺麗に拭くと、少女は崩していた足を正座にして、両手を合わし礼儀正しく、ごちそうさまでした、と食後の挨拶を行う。
体を回して遥の方を向き、少女はキリッとした真面目な顔付きになると、遥に一礼して、言った。

「こんなに美味しいご飯を作ってくれて有難うございます。ホントに生き返った気分です。それで……」

少女は一旦言葉を止める。そして改めて遥の目を見据えながら、言葉を紡いだ。

「私の名前は、一条遥と言います。回りくどいのは苦手なのですごく率直に言います。私は――――別の世界から来ました」

壁時計が時間を刻む音だけが、リビングで流れる。重苦しい訳ではないがこう、反応に困る、そんな間が流れる。

ロボット物SS総合スレ 40号機
486 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:30:51 ID:21DOD5ED
少女の言葉に、遥の中であぁ、やっぱり普通じゃないんだ、というある種醒めてる視点と、どういう事……何、言ってるの? という常識人的な視点が混在する。
その割には遥自身、今は凄く冷静である。あんまりにも非常識な事に出くわし続けているから慣れてしまったのか、それとも遥の肝が意外に強いのかは分からない。両方かもしれない。
しかしこれで一つハッキリした。この少女、一条遥が赤ずきんみたいなローブを羽織ってたり、ベタなファンタジーに出てくるみたいな杖を持っているのはこの世界の住人じゃないかという事が。
だがこうなると疑問はポンポンと出てくる。一体どこから来たのか、一体なぜこの世界に居るのか、そして何より――――あのロボットの、持ち主なのかと。

「なら質問して良い? 貴方は一体、何処から来たの?」

少女――――、一条は遥の疑問にんー……と悩む仕草を見せると、答える。

「上手く説明は出来ないんですけど、ファンタスティックな」
「ファンタジック?」
「あぁそうそう、それそれ。ファンタジックな感じの世界から来たんです。こう、魔法的な感じの」

ジェスチャーしながら一条は遥に説明するが、遥はいまいちピンとはこない。
しかし一条の服装や雰囲気、杖から見て何となくどんな世界かは想像できる。少なくとも現代とは全く違う世界という事が。

「じゃあ次の質問。どうやってこの世界に? その魔法的な感じで?」

遥のその質問には、説明し難いのか、一条はむむむ、と難しそうな顔になると、ちょっとごめんなさい、と遥に言った。
そして遥はあーでもない……こーでもない……と数分程自問自答すると、パッと顔を明るくした。どうやら考えが纏まった様だ。
そして明るくはっきりとした声で、遥に説明を始める。

「凄く簡潔に言うと、事故に巻き込まれたんです」
「事故……事故?」

遥が一条のその言葉に眉をひそめる。事故でこの世界に来た……と?
 
「凄く説明しにくいんですが、ある日私が居た世界の空に突然、大きな穴みたいなのが出来たんですね。
 それでその穴ってのは、色んな世界を過去、未来、現在と関係無く繋げちゃうみたいで……」

一条はそこで説明を止める。恐らく遥が凄く、変な顔になっているからだろう。
遥はハッとして遥に言う。

「ごめん、続けてくれる?」
「で、その穴に巻き込まれた師匠……私が師と仰ぐ人と、そのパートナーを探す為に私とリヒタ―は」 

「穴に入ってその師匠って人を探す為に、他の世界を転々としてる、と?」
「大方その通りです。けど中々師匠とは出会えなくて」

遥は唖然とも呆然とも、多分どっちも混ざった感覚に襲われポカンとしている。あまりにも話が大きすぎて頭が理解の範疇を超えている。
つまりこの一条遥という少女は、自分が師と仰ぐ人を助ける為に自ら次元を超えているという訳だ。あの黒い……。
あ、そうだ。遥はどうしてもさっきから聞きたかった事を、一条に聞いてみる。うっかり忘れる所だった。

「えっと一条さん、さっきから気になってたんだけどその杖って」
「あ、ごめんなさい」

一条は遥に言われて、持っている黒い杖を胸元まで上げると、遥に言う。

「紹介が遅れました。この子は私のパートナーの」
「……知ってる」

え? っと、次は一条がポカンとした表情を浮かべる。どうやら遥が杖の事を知っていたとは思わなかったようだ。
遥は数時間前の鮮明な記憶を思い出しながら、言葉を続ける。

「その杖……ううん、多分杖に変身してるロボット、で良いのかな? そのロボットに乗って一条さん、貴方はこの町を移動してた。合ってる?」

ロボット物SS総合スレ 40号機
488 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 21:32:29 ID:21DOD5ED
図星の様だ。一条は何でバレたんだろうと不思議そうな顔をしている。今までバレていなかったかの様だ。

「私、見たんだ。……貴方がそのロボットに乗って、移動する所」


<やはり見られてましたね、マスター>


突然杖から声がして、遥は短い悲鳴を上げて後ずさりする。今更驚く事も無いとは思うが。
どこかにテープレコーダーでも仕込まれているのかと周囲をキョロキョロと探すが、無論そんな仕掛けなど無い。
一条は杖を立ててちょっと失敗した、みたいな表情を浮かべながら遥に言う。

「驚かしちゃってごめんなさい。この子は意思を持っていて、自由に喋るんです。それで……言われたとおり、ロボットに変身します」
<リヒタ―・ペネトネイターと申します。宜しくお願いします>

甘く中低音で、人であればカッコ良さそうな男性の声が、遥にそう挨拶する。こ、こちらこそと動揺しながら、遥はお辞儀する。杖にお辞儀というのも変だが。
それにしても、世界を巡る少女に、随伴する喋ってロボットになる杖。ますますもって状況が不可思議すぎる。
だが、遥自身は吹っ切れたのか、惑いも恐怖も感じていない。むしろ、この状況下にどこかワクワクしている自分が居る。

「私達は最初、この町じゃなくてもっと……自然が多い、そんな所に来たんです。この、リヒタ―に乗って」
<私はマスターを乗せ、人々に気付かれぬ様にひっそりと、この世界の事を探る為に町から町へと移動してきました>

……アレで気付かれない様にか。と、唐突に遥の脳裏に、朝のニュースが過ぎる。
確か……田舎町で自動車が複数、田んぼに転倒するという事件があった。だが不思議な事に乗っていた人は全員無傷という。
それに、居眠り運転でトラックが高速道路から、パーキングエリアに突っ込む寸前で何かに食い止められたというニュース。まさか……いや、そんなまさか。

そういえば後もう一つ、物騒な事件があった気がするが、そっちはちょっと思い出せない。

「それで今日……この町に来たって事は偶然なの? それとも目的とかあって?」
「正直偶然です。ちょっと疲れたからここで一休みしようって事になって」
<幾度かトラブルはありましたが、まさかこの町で同一存在に出会えるとは思わず、幸運でした>

「同一……存在?」

遥がそう呟くと、一条はまた難しそうな顔つきになりながらも、今度は悩まずに説明し始める。

「私の仲間……というか、協力してる、なごみさんって人が居て、その人が教えてくれた事なんですが……」

「私が住んでいる世界の他に、私と同じ存在というのが私が知らない世界には沢山いるんです。並行した世界や、時間軸に。
 それで本来の目的は師匠を探す事なんですけど、なごみさんから出来たら自分と同じ存在を探しておいた方がい言って」
「それで私が……貴方が言う、同一存在って事?」

一条が頷く。いや、頷かれても困る。もう何が何やらで遥の頭はパンクして爆発しそうだ。
自分が居る世界の他の世界には、自分と同じ顔と声と髪型――――というより、私自身がいるらしい。それがどんな事をやっているかは分からない。
分からないけど、今、目の前に何よりも自分と似ている存在がいる事が何よりの説得力だ。大分背は小さいが。

「それでその同一存在って言うのは……何人、居るの? で、同一存在に出会う理由は?」
「神守さんを入れて6人の私と出会いました。理由は一度通じ合うと感覚が共有できるようになるから……だっけ、リヒタ―?」
<その通りです、マスター>
「へぇ……で、感覚を共有ってどういう事?」
「……私もそれはちょっと分からないです。共有した事無いんで」

ロボット物SS総合スレ 40号機
498 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:07:37 ID:21DOD5ED
お待たせしました
では続きを
ロボット物SS総合スレ 40号機
499 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:08:34 ID:21DOD5ED
と言って一条ははにかむ様に笑う。笑える様な事では無い気がするが、この子は強いんだなと遥は今更ながら思う。
自分がもし同じ状況になったら、こんな明るい雰囲気じゃいられないのに。そう考えると、遥は一条が羨ましく思える。
取りあえず冷静に我に帰って思うのは、今日はお母さんがいなくて良かった。

「じゃあ聞くけど……私の名前、分かる?」
「神守遥さん、であってますか?」
「やっぱり分かってるんだ……」
「この世界に入る前に、なごみさんから聞いてたんで」

そのなごみさん、とやらも只者じゃなさそうだ。……と、ちょっと待って。
ふと、聞いては良いか迷うものの、遥は一条に遠慮がちにその事を聞いてみる。

「ちょっと変な質問だけど……一条さんの仲間というか、家族とかは? 嫌なら……無理に答えなくても良いけど」
「私の家族も仲間も、私が居た世界で元気に暮らしてます。師匠にはまだ会えませんけどね」
「そっか……」

悪い事を聞いた。と、遥は思う。
やっぱりここまで来るのには平坦な道では無かったんだろう。一条さんなりに、辛い事や苦しい事とかを経験してきたと思う。

「けど、師匠には必ず会えます! 私、まだまだあの人に教わりたい事、沢山ありますから」

そう言って、一条は明るく、そして元気にニコっと笑ってみせる。
自分では想像も出来ない境遇を送ってきたんだろうに、こんなに明るく元気なのは凄い、と遥は思う。こうして見ると可愛らしい、ちっちゃな女の子なのに。
というか、別世界の自分がこんなに逞しいんだからしっかりしなきゃ、と遥は自分に渇を入れた。


「それで……一条さん、これからどうするの?」

遥にそう聞かれると、一条は直ぐに答えた。答えは最初から決まっていた様に。

「改めて、ご飯凄く美味しかったです。お皿を洗ってちょっとだけ寝たら出発します。だからもう少しだけ居させてください」

出発……って、またどこかに行くつもりなのだろうか。あれだけお腹が空いていたのにまた出かけたら……。

「出発するってもう夜よ? それにどこか泊まる所からあるの?」
「まぁ、もうちょっとこの世界を回ったら次の世界に行くんで、何とかなりますよ」

と、一条自身はあっけらかんと言うが、やっぱり心配だ。
というかあれだけの食べっぷりを見ると、この世界に来てから何も食べてないんじゃないかって気になる。

「だから心配しないでください、これでも体は丈夫なんですよ、私。じゃ、お皿、洗ってきますね」
「ちょっと待って」

立ち上がりお皿を持っていこうとした一条のローブの裾を、遥は少しだけ強く引っ張る。
何か照れ臭い、照れ臭いけど、言わなきゃ後悔する、そんな気がする。

「今日……と明日明後日は、この家には私以外、誰もいないの。だからその……その間だけ、家で休まない?」

遥の申し出に、一条の表情は戸惑っているに見える。
他の世界でどう生きていたかは分からないが、このリアクションを見るに本当に何とかなるみたいな感じで逞しく生きてたんだな、と思う。
出発をどうしても急ぐというなら無理にとは言わない。だけど――――。


こんな予期せぬ出会いは、多分二度とは訪れない。そう考えると、どうしても一条を引きとめたい。遥は切実にそう思う。


<マスター、私も彼女の、神守さんの意見に賛成です>
ロボット物SS総合スレ 40号機
500 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:09:18 ID:21DOD5ED
意外な意外、先程まで沈黙を守っていたリヒタ―が、遥の意見を援護してきた。

<ここ数週間の間、マスターは満足な休暇を取れていないと思います。その為、取らず知らずのうちに疲労が溜まっているのではないかと。ですから>
「けどリヒタ―、もし私達の様に移転してきたオートマタが居たとしたら……」
<先程から気配を伺ってますが、その反応は見られません。……私からもお願いです、マスター。少しでも休んでおかないと……>
「……うん」

一条とリヒタ―が何か話している様だが、その内容までは分からない。それに一条の顔が笑顔からシリアスになってるのも気になる。
話し合いが終わったのか、一条は深く頷くと、遥の方を向くと歩いてきて、お皿をテーブルの上に置いた。
そして照れ臭そうに遥を見上げると、ぼそぼそと、言った。

「それじゃあ……神守さん、少しの間だけど、お世話になります」

一条の答えに、遥の顔が自然に笑顔になると、優しい声で答える。

「はい。少しの間、宜しくね」


実を言うと、三日間一人でいるのは心細いからというのは秘密だ。




「お湯加減、大丈夫?」
「はい!とっても気持ち良いです!」

モザイクガラスの先、たっぷりと注いだ湯船に浸かっている一条に、遥がそう聞いた。
よほど気持ち良いのか、小声ながらも一条の口から鼻歌が聞こえてくる。丁寧に折り畳められたローブと服を見ると、どんな所を巡っていたんだろう。
目立ちはしないが結構汚れが目に付く。遥は一条に聞いた。

「一条さん、服、洗って良い?」
「あ、ちょーっと待って下さいな」

湯船から出てくると、一条がドアをちょっぴり開け、遥に言った。

「ローブの中にペンダントが入ってるから、それを取ってから洗って下さい」
「ペンダントね。うん、分かった」
「すみません」

一条が湯船に戻る。一条の服を探ると確かに小さい、卵型のペンダント……というより、ロケットだ。写真を入れるロケットが出てきた。
どんな写真が入ってるんだろう? 遥は思うが、流石に本人の許可無しに開けるのは不躾だろうと思い、置いておこうとした、と。
するりとロケットが手をすり抜けてそれが落ちてしまった。軽い音がして蓋が開き、ロケットの中の写真が出てくる。

いけないと思い、遥は拾い上げ閉じようとするが、どうしてもロケットの中の写真に目が向いてしまう。

入っていた写真には、一条と仲睦まじそうに肩を寄せ合っている、一条とよく似た面影の少女が映っていた。
多分一条の……双子? いや、顔つきは一条よりも幼い。恐らく妹だろう。こうやって身に付けてるって事は、凄く大事な人なんだろうな。
パチン、とロケットの蓋を閉じる。遥はますます、一条にシンパシーを感じる。まさか妹が居る所まで同じとは思わなかった。

「今着替え用意してくるね」
「あ、お願いします」

ロケットを籠の中に置いて、一条の着替えを持ってくるため遥は浴室から出ていった。



ロボット物SS総合スレ 40号機
502 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:10:32 ID:21DOD5ED
「ごめんね、ちょっと大きいサイズで」
「いえいえ、大丈夫です」

と一条は言っているが袖が余りまくってるわダボダボだがで大丈夫には見えない。
妹が寮で暮らしている為、この二段ベッドでは普段下で寝ている。だが今日は久々に、上で寝る事になる。妹が帰ってきた時以来だ。

「それにしても本当、すみません、ご飯から寝る所まで……」
「ううん、良いの良いの。一人だとちょっと心細いし、それに……」
「それに?」
「……何でも無い、ごめんね」

一瞬、一条が妹の様に見えて遥は恥ずかしくなりシーツを頭に被る。
だが、一条を見てるとなぜだろうか、可愛いというか……自分で自分を可愛いと言ってる様で変な感じだが。


シーツから少しだけ顔を出して、遥は一条に質問する。

「あのさ、一条さん」
「何ですか?」
「一条さんって、妹さんとか弟さんっている?」

遥のその質問に、一条は即答する。

「いますよ。私より背がおっきくて……甘えん坊な」
「へぇ〜、私と同じだね。私も妹がいるんだ。今はちょっと、遠い所に居るけど」
「そうなんですかー。……同じですね、私達」
「そりゃ私も同じ遥だもん。……同じだね、ホントに」

そう言って、一条と遥は笑った。何が可笑しいのか分からないが、なんか、可笑しい。
自分で口に出していて訳が分からない。今だって全てを理解している訳ではないが、別の世界の私が今、私と一緒に居る。
それだけは遥は理解している。それにしても予期せぬ出会いというのがこんな形だとは、神様というのはよっぽどお茶目な様だ。


「ねぇ、一条さん」
「何ですか?」
「明日、ご飯買いに街に出かけるけど一緒についてきてくれないかな?」
「買い物ですか? 良いですけど、その……」
「あ、大丈夫。服なら私が昔着てたのがあるから、多分サイズは」
「あ、いえ、そうじゃなくて……」

一条の様子がちょっと困ってそうなのに気付き、遥は聞く。

「無理にとは言わないよ。家でゆっくり休みたかったら」
「いえ、出かけるのは良いんですけど……」
ロボット物SS総合スレ 40号機
505 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:11:57 ID:21DOD5ED
「あの、リヒタ―も連れていって良いですか?」
「リヒタ―さんも? 良いけど」
「ありがとうございます。出来るだけ、一緒に居たいんで」

一緒に居たい……? 一条のその言葉に、遥の中の乙女センサーがピクッと反応した。
気になる、かなり気になる。

「聞きそびれてたんだけど……一条さんとリヒタ―さんってどんな関係なの?」

「関係ですか? 私にとってリヒタ―は……、大事なパートナーです」
「一緒に旅してきたから?」
「それもあるんですが……リヒタ―には色々助けて貰って、一緒に苦労して……要するに、一緒に成長してきたから、みたいな理由です」

そこで遥はニヤりとすると、少し悪戯っ気が入った声でいう。

「恋人、みたいな?」

「恋……人……?」

素でキョトンとしている。茶化したつもりで、というか……。
ロボットが恋人って! みたいな突っ込みを期待していたが、口調からして一条は本当にキョトンとしているらしい。

「……率直に聞くけど一条さん、恋人とか居る?」
「うーん……興味が無いというか、考えた事も無いというか……」

こういう部分でも――――異性関係に縁が無い所でも同じとはちょっとショックな気がしないでも無い。
だけどまぁ、ある意味健全という事にしておこう。うん、そうしておこうそうしよう。
急な用事が入ったからから、明日は部活を休もう。悠子には悪いが。

「それじゃあ明日ね。おやすみなさい、一条さん」
「おやすみなさいです、神守さん」



寂びている路地をダラダラとおぼつかない足元で、だらけた服装の若者が一人、歩いている。
その顔はよほど酒を煽ったのか真っ赤で、かなり出来あがっている様だ。目線はふらついており、右へと左へとまともに歩けていない。

「どいつもこぉいつも〜……馬鹿ヤロ―!」

誰もいない事を良い事に、というより悪酔いしているせいか、男は周囲も顧みず声を荒げてそう叫んだ。
視線が下を向いて足がもつれ、男はそのまま真っ直ぐ、頭から何かにぶつかった。
間抜けにも転がり、頭を掻きながら男はそのぶつかった何かに向かって叫んだ。

「いてえなばぁか! 何処に目を付けてやがんだクソったれ!」

そう叫び男は顔を上げた、途端、赤くなっていた男の顔が見る見るうちに青ざめていく。

酔っぱらった男を見下ろしている、二つの無機質な赤い目と、月明かりに照らされて不気味な光沢を放つ、黄金色の巨体。
その巨体には何をしてきたのか、斑点状の赤い液体が渇いて付着している。何より男を最も青ざめさせているのは――――カギ爪。
左腕のアンバランスに巨大な右腕の先には、ギラついた銀色のカギ爪が、男の怯えきった表情を鈍く映している。

「ま……待て!」

瞬間、男の視界が真っ逆さまになった。

次に男の視界に映ったのは、血溜まりの中に横たわる、首から止まる事無く血を噴出している、自らの肉体だった。
それが男が見る、この世で最後の光景。

ロボット物SS総合スレ 40号機
507 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:14:17 ID:21DOD5ED
美しき弧を描く満月を、少女の静かな瞳が見つめてる。
少女の瞳は静謐で深く透き通っており、それでいてどこか――――人ならざる、神秘的な雰囲気に満ちている。
と、少女は何かを感じたのか、自らの腕を強く握り締めた。頭の中をゾクリとした、不愉快な何かが過ぎる。

「紫蘇?」

少女の傍らでポケットに手を入れて月を眺めていた青年が、少女へと声を掛ける。


「寒いのか? 腕押えてるけど……」

「……ヤスっちさん、今、何か感じませんでしたか?」

紫蘇と呼ばれた少女は青年にそう聞くが、青年はいや……と小さく首を振る。

「いや……特に。紫蘇、大丈夫か?」

「そうですか……いえ、気のせいです」


改めて、少女は夜空を見上げて満月を見つめる。




このセカイに何かが起こっている。このセカイを崩すかもしれない、何かが。





                          the Strange dream
            


  上


ロボット物SS総合スレ 40号機
509 :TロG ◆n41r8f8dTs [sage]:2010/10/03(日) 22:18:55 ID:21DOD5ED
投下終了です!熱い支援、有難うございました!
と、ちょっと目に付いた(結構あると思うけど…)ミスをちょっとorz
左腕のアンバランスに巨大な右腕の先には は
アンバランスな程に巨大な右腕の先には に脳内変換を宜しくです

で……他作品同士のクロスという事でかなり時間が掛かりました
また移転系か!と思われた方、すみません。自分の力不足から、こういった形でしかクロスできませんでした。精進します
改めて師匠、DaZ氏、お二方のキャラ&世界観を貸していただき、有難うございました!


上と付いてます。まだちょっと続くんじゃよ
ではBWを急ピッチで仕上げてきますノシ


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