トップページ > 創作発表 > 2010年10月02日 > 97jAWKet

書き込み順位&時間帯一覧

10 位/98 ID中時間01234567891011121314151617181920212223Total
書き込み数0000000000000000062000008



使用した名前一覧書き込んだスレッド一覧
甘味処繁盛記 主人公逃走編
◆X2eF6cXcIA
【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】

書き込みレス一覧

【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
318 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 17:52:35 ID:97jAWKet


その日は今井夫妻が留守であった。
留守を任されたのは、坂上匠。
いつもならば子供たちの声絶えぬ道場で過ごしながら匠はなんとも寂しい心地であった。
例えるのならば休みの日の学校。
誰もいない早朝を過ぎて、墓標の手入れをしていれば昼に差しかかろうとする時刻。

「匠さん、そろそろお昼にしましょう」

弁当片手にクズハがやってくる。
かくして、開放された道場の端。
並んで座ってご飯と相成った。

「二人だけだと、道場ってこんなに広いんですね」
「いつもは師範たちも一緒だからな。これでも子供たちがいるとせまいくらいになるんだぞ」
「みんな元気ですもんね」
「お前はおとなしい方だよな」

こぽこぽと、お茶を注いでもらいながら匠が言った。

「もっと活発になってもいいんだぞ? 例えばどこに行きたいとか、何かしたいとか、友達100人作ったり」
「私は……」

二十代から十代へと送る言葉はしみじみとしたものだった。
学校を経験した事は、匠にとって恵みだった。
道場に通っている子供たちも、学友がいる事は幸いである。
ただクズハの現在に至るまでは特殊だ。

もっとも、特殊ゆえに、特殊な友を、あるいは親とも呼べる存在を得てはいるのだが。

「したい事……というか、なりたい自分はありますから」

ずっと。
裡に秘めるのはただ一念。
自らを役立てる。

「そっか」

微笑むクズハに匠もそれ以上何か言うことなく稲荷寿司を口にする。

「うまいな」
「昨日、芳恵さんが作り置きしてくださった煮物もありますよ」
「へぇ、じゃあこの弁当は合作なんだな」

穏やかな時の流れ。
何人も侵入あたわぬ、二人だけの時間。
絆をつないだ者たちの領域。
きっと誰もが微笑み、遠巻きに眺めるだけで留まろうと思わせる空気。
踏み込むことを自粛させる優しい空間。

そこへ。
空気読まずに踏み入るのが、

「リア充爆発しろ」

桃太郎という男である。


【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
319 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 17:53:47 ID:97jAWKet
「師範は留守だが……」

唐突に。
その男は現れた。
いくらか乱れた着流しで。
疲労でもしているような顔色。
しかし闊達、精悍さを漲らせ。
その男は匠たちの前に現れた。

「ああ、いい、いい。誰に用事ってわけでもねぇよ」

土足を脱ぎ捨て、ずかずかと勝手に道場まで上がりこむ。
あまりに傍若無人でありなながら、所作のいちいちが日常の最中がごとく。
そして、道場の外から己が見えぬ位置を確認すれば、寝そべった。
一息ついた様子だ。

「俺の事は気にするな。構わず昼飯食っててくれ」
「気にするなって、言われてもな……」

どう対応すればいいのか、正解が分からぬという風におろおろするクズハのとなり。
匠が眉をひそめた。

「あんた、店はいいのか?」
「従業員が優秀だからな」
「……異形だとは、聞いたが」
「だから俺が昼寝する時間もできるってわけよ」
「自分の家で寝ればいいだろう」
「それもできん事情があってな」

ふと、匠は桃太郎の双眸に揺らぎを見た。
恐れ。
戦場を知るからこそ、分かった。
桃太郎が何かを恐れている。

「かくまってくれ」
「……誰から?」
「謎の仮面料理人」
「はぁ?」
「なぁ姉ちゃん、俺にもお茶くれんか?」
「は、はい」

急に振られて狐の尻尾と耳もピンと立て、クズハが湯飲みを取りに道場から離れて行く。
見送ってから。
慎重に匠が切り出す。

「異形、なんだよな?」
「半分な」
「半分?」
「さっきのクズハって娘は半分なんだ?」
「……狐って言いたいのか?」
「俺は、植物って事だ」
「!」
「それは、どうでもいいんだよ」
「どうでもいいって、あんた……?」
「俺はな、坂上匠。隠れるつもりでここに来たが、お前がいるなら丁度いい。お前に聞きたい事がある」
「……俺を知ってるのか」
「門谷隊長からいろいろ聞いた。クズハって娘についてもな」
【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
320 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 17:55:18 ID:97jAWKet
起きた。あぐらをかき、桃太郎が匠を見据える。
匠も桃太郎を見据えて。
相対すれば。

「……どうすれば、女の子に言い寄られる系になれるんだ」

切実に桃太郎がそう言った。



桃太郎の前に茶が差し出された。
一服。

「自分が物語りの主人公であると考えた事はないか?」

匠へ、戻ってきて不法侵入者・桃太郎へ律儀に茶を汲んでやったクズハへ。
桃太郎が言った。
曖昧に匠が頷く。

「まぁ、そんな感じの事は誰でも思うだろう」
「そうだな、中二病の一環だ。そんな自分を特別だと意識する事も年取ればなくなる。しかし坂上よ、お前はどうだ」
「……どうだ、とは?」
「二次掃討作戦を潜り抜けて、女の子助けて、専用武器があって……お前、主人公すぎるだろう」
「……」
「……」

何を言っとるんだこの男は。
匠はどう返答すればいいか分からぬ顔で怪訝。
桃太郎はと言えば、羨望の眼差しだった。

「普通、新キャラが出てきて俺を追いかけるとすれば、美少女だろう?」
「……」
「……」
「俺を先生と呼んで、しかし俺はそいつを苦手とするから逃げる、そいつは俺を追いかける。
そんなシチュエーションでありながら、何ゆえ美少女ではない?
いや、そもそも真達羅たちの時からそうだ。
俺についてくる奴全部が全部男って、有り得ないだろ……」
「あんた、何の話してるんだ?」
「つまりだ」

桃太郎が真面目くさってクズハを見やった。
真剣な顔つきの桃太郎にちょっとクズハが怯えた様子。

「どうすれば美少女に慕われる系になれますか?」
「……」
「……」

桃太郎の敬語であった。
しかし匠はちょっと腹立ってきた。
クズハをキッコから預けられてから現在に至るまで。
思いがすれ違った事や腹刺された事を思い返して、桃太郎の言う事はあまりに表面だけだ。

そんな感情の最中において。
一つ。
匠はごくごく自然にこう言った。

「そうなりたがってる時点で駄目なんだと思う」
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
321 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 17:56:07 ID:97jAWKet
頭を抱えて桃太郎がまた寝た。
どう見ても不貞寝だ。

「……」
「……」
「え……本当に聞きたかった事ってそんな事なのか?」
「……例えばだ、坂上匠」
「……例えば?」
「お前に棒を教わりたいと熱心な誰かがやって来たとする」
「俺はまだ人に教えられるほd 「そういうのいいから」
「……それで」
「しかしそいつは……そうだな、お前を火属性とするとそいつは水属性なんだ」
「意味が分からん」
「マジ一緒にいたくないぐらい苦手って事だ。しかし、棒を熱烈に教えて欲しくてお前を追い掛け回す。
さて、そんな仮定をしたとして……棒を教えてくれと言うそいつが、覆面した緑色であるよりも、美少女であるった方が心に救いがあると思わんか?」
「こっちの煮物は味が違うな」
「あ、そっちは私が作った方です」
「へぇ、前よりもうまくなってる気がするぞ」
「おい、無視するなよ。寂しいだろ」
「気にせず昼飯食ってていいっていったのあんただろうが」

お昼ごはんを再開しはじめた匠たちへ憐憫を誘おうと頑張るけどもう子供が構って欲しがってるようにしか見えなかった。

そんな、時。

その笑い声は近づいてきた。

まずクズハが耳を立てて怪訝な面持ち。
次に匠が周囲を見渡す。
そして桃太郎は、

「し、しまった……大声だしちまったから聞きつけやがった!?」

立ち上がり、身構え、走り出す。
靴を引っつかんで道場から飛び出して……、

「ハァ――――ッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

緑色に、遮られた。
まるで天から降ってきたような。

新緑のスーツ。
深緑のマント。
真緑のケースを片手に、仮面で素顔を隠した――

「マスクド・ベ 「うおおおおおおおおお 「だいま参 「おおおおおおおおおお 「先生、ようや 「おおおお
「さぁ、私に 「おおおおおお 「非とも吉備団 「あああああああああああああああ 「ふ、どこに隠れよう
「あああああああああああああああああ 「どうか! どうか! どう 「あああああああああああああ!」

桃太郎が逃げようとするのを、その緑の男は熟練のディフェンスで遮りまくる。
しかし緑の男の主張と桃太郎の悲鳴が混ざって訳が分からない。
そんな様子を、匠もクズハもただ見守るしかない。

「あ、この漬物もうまいな」

ちなみに匠の方は見守りながら弁当つつく余裕があった。
伊達に戦場を経験してはいない。
【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
322 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 17:57:38 ID:97jAWKet
「うおおおおおおおおおおおおおおあああああああああああああ!!」

結局、緑色の男を桃太郎がマジ殴りして突破。
突風のような見事な遁走を果たす。

「……大丈夫か、あんた?」

倒れ付す緑に、心配げな匠の声。
桃太郎が加減していたように、見えなかったのだ。

しかし意外と頑丈なのか、

「ハァ――――ッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!
厳しい! 厳しいな、吉備団子作りの修行よ!
ここまで峻厳な料理の修業を通過していなかった私は今までの私を悔やまざるを得ない!
先生! 桃太郎先生、有難う御座います! 私にこのような修行をつけていただき!
先生の心に応えるためにも! 先生のご鞭撻を無意味なものにしないためにも!
あの味に届くまで! あの味にたどり着くまで!
この身が滅びようともついていく所存!
さしあたって先程の先生の動線を分析してディフェンスのパターンを増やし、
対面会話が可能になるようなレヴェルにせねば……! 頑張れ私!」

華麗に復活。
スーツに付いた砂を払いながら。
緑の男は不適に笑う。

それを見て匠とクズハの見解は同一であった。
言葉を交わさずとも。
言葉で確認せずとも。
関わらない方がいい、と。
二人とも思った。

「君たち、君たちは桃太郎先生の友人かね?」

でも関わらねばならぬのだった。

「いや、そういうわけじゃないんだが……」
「ふむ、そうかね。……おや、昼食中であったか」

ふと、緑の男の視線が弁当へと注がれる。
仮面から覗く双眸は、優しいさが溢れる。
愛しいもので見るように。
弁当を見つめ。

「これは失礼したね、実に美味しそうな惣菜ばかりだ。……ときに君たち」

そして、同じ眼で匠とクズハを見つめた。

「君たちは嫌いな野菜はあるかな?」
「……ない。食べ物を好き嫌いで考えないよ、俺は」
「私も、特には……」
「ふむ!」

二人の返事とともに。
緑の男に喜色が宿る。
仮面でうかがえぬその表情は、きっと輝かしいものだと直感させるほどの空気。
【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
323 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 17:58:26 ID:97jAWKet
「素晴らしい! 私の目には今、君たちが生きている姿が太陽のようにまぶしい!
なんて君たちは美しいんだ! まるでそのお弁当のニンジンの煮物のように美しい!
野菜たちも君たちを祝福しているよ! 君たちの人生はなんて満ち足りているんだ!」
「あー……それで、あんた桃太郎を追いかけなくてもいいのか?」

もはやついていけずに匠が痺れを切らす。
これでこの緑の男が追跡を再開すれば、と思ったが。

「今は君たちだよ。出会ったのだから、君たちだ。
私は謎の仮面料理人、マスクド・ベジタブル!
さぁ、私が何者か明瞭明確な回答を得たね。
次は君たちだ。君たちの名前を教えてもらおうか!」
「……坂上匠」
「ク、クズハと申します」
「では匠くん、次に桃太郎先生が私に試練を課すとすればどこに構えを取るだろうか?」

どこに逃げたというのを持ってまわってよく言ったものである。
苦手とされている自覚が、ないのだろうか。

「いや……分からないけど。店じゃないかな」
「ふむ! 成程、スタート地点に戻るというのもありえるね!
でも安心しなさい! 私も店はきちんとあまさずチェックする所存だよ。
一日48回は確認に戻るさ!」
「あんた苦手にされてるから避けられてるんじゃないのか?」
「ハァ――――ッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

――そんな馬鹿な。
と、マスクド・ベジタブルが続けると匠は思った。
短すぎる時間でも、この男の思考回路は前に前に向いているのはよくわかる。
しかし。
出たのは意外な言葉。

「仕方がないのさ! それはまったく仕方がないのだよ、匠くん!
私は野菜を愛する者! 私は野菜を殺す者! 私は野菜を活かす者!
私は野菜に忌避される者! 私は野菜に嫌われる者! 私は野菜に呪われる者!
私は野菜と共に生きる者! 私は野菜から最も遠い者!
私は野菜にひれ伏す者! 私は野菜に君臨する者!
そう、私の名はマスクド・ベジタブル! 謎の仮面料理人! マスクド・ベジタブル!
分かるね?」

分かるか。

ふと、仮面の奥のマスクド・ベジタブルの双眸にさみしさが宿るのを匠とクズハは見た。

「上手に料理ができる事は、思い通りに破壊する事だと思わないかい?」

匠の脳裏に言葉がよぎる。
桃太郎の言葉が浮かぶ。

「……私は野菜を料理する天才だ。野菜を料理する異能だ。野菜を、とっても上手にとっても巧に殺す技術を持っている」

――「俺は、植物って事だ」

「嗚呼……」

武術において。
才能が与える恩恵を匠は知っている。
しかしそれは。
あるいは呪いにさえ似る時があり。
【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
324 :甘味処繁盛記 主人公逃走編[sage]:2010/10/02(土) 18:01:35 ID:97jAWKet
「私は野菜を愛しているけれども、私は野菜を殺す天才なんだよ」

まるでそれは、平和を愛する戦上手のような。

「そりゃあ、嫌われるさ」

マスクド・ベジタブルが苦笑して。
桃太郎を追う道を踏む。



「な、あれが美少女だったらと思うだろ?」

ひょっこり道場に戻ってきた桃太郎はそう言うのだった。

「……あの」

そんな桃太郎に、おそるおそる。
クズハが手を挙げる。

「あの方と桃太郎さんはきちんとお話した事ありますか?」
「……したくねぇ」
「それは……」

クズハがうつむく。
そして匠が、呟いた。

「……それは、寂しいな」
「俺とあの緑、どっちがだ?」
「どっちもだよ」



<甘味処 『鬼が島』>
店長:桃太郎
従業員:真達羅

不在:摩虎羅、招杜羅

入店志望:マスクド・ベジタブル

<お品書き>
 ・吉備団子
 ・きなこ吉備団子

 ・カルピス


<お品書き・裏>
 ・吉備団子セットA
 ・吉備団子セットB
 ・吉備団子セットC


【シェア】みんなで世界を創るスレ6【クロス】
325 : ◆X2eF6cXcIA [sage]:2010/10/02(土) 18:04:19 ID:97jAWKet
避難所で……
絵が嬉しすぎて……
ありがとうございました……
野菜仮面はスパニッシュ料理人にします……
そして、たっくんとクズりんお借りしまして……
申し訳ありません……


※このページは、『2ちゃんねる』の書き込みを基に自動生成したものです。オリジナルはリンク先の2ちゃんねるの書き込みです。
※このサイトでオリジナルの書き込みについては対応できません。
※何か問題のある場合はメールをしてください。対応します。