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18 :創る名無しに見る名無し[]:2010/09/27(月) 18:56:53 ID:RdCTh1dI - 少年は絵を描くのが好きだった。
暇さえあればスケッチブックを持って外へ飛び出し、人や動物、建物植物、何でも夢中になって描いていた。 ただ、お世辞にも上手いとは言えなかった。 下手だという自覚はあった。上手く描けるように努力はしていたが、なかなか実を結ばなかった。 それでも少年は諦めず毎日毎日絵を描いていた。 ある日のこと、少年は森にやって来ていつもの様に絵を描いていた。相変わらず下手だった。 すると突然、後ろでクスクスといたずらっぽい笑い声が聞こえてきた。 なんだろうと少年が振り返ると、奇妙な格好の小さな少女の姿をした何かが空中にふわふわと浮かんでいた。 「きみは誰?」 「わたしは妖精。昔話とかに出てくるでしょ。」 「え?居るんだ妖精って。」 実際目の前に存在しているので、少年は取りあえず信じることにした。 「それにしてもあなたは絵が下手っぴね。嫌にならないの?」 「下手だから練習しているんだよ。」 「わたしだったらきみが絵を上手に描ける様にしてあげられるよ。」 本当?と少年が尋ねると、妖精はわたしは嘘を付かないよと返した。 「まあとにかく体験してみなさいな。」 そう言って妖精は指をぱちんと鳴らした。何やら光の筋が現れて少年の頭の中に入って行った。 「さあ描いてごらんなさい。」 さっそく少年は目の前にある花を描いてみた。すると驚いた事にすらすらととても上手に描けてしまった。 「すごい!本当に上手く描ける様になっちゃった!」 大喜びする少年を片目に、妖精はふわふわとどこかへ消えて行った。 森を後にした少年は隣に住む少女のところへやって来た。 「ぼく、絵が上手く描ける様になったんだ。」 少年はスケッチブックを取り出すと、すらすらとあっと言う間に少女の顔を描いて見せた。それは写真の様にそっくり描けていた。 少女は少年の絵をしばらく黙って見ていたが、やがてこう言った。 「確かに上手いけどそれだけだと思う。」 少年はどういう意味かと少女に聞いたが、少女も「なんだかそんな感じがした。」としか答えられなかった。 少女の言った事は気になったが、絵を上手く描ける様になった少年は有頂天だった。 少年は自分が描いた絵を町の人達に見せ、自慢してまわった。 ところが、その内妙な具合になってきた。 最初は嬉しくて色んなものを描いていったが、どんなに描くのが難しいものでもいとも簡単に描けてしまうため、段々味気なくなってきた。 下手だった時の、ああしてみようこうしてみようという気持ちが、すっかり無くなってしまった。 少年は次第に絵を描くのが楽しくなくなっていき、家でぼんやりと過ごす様になった。 心配した少女が少年の様子を見に来た。 何かあったんでしょうと聞く少女に、少年は全部話す事に決めた。 「また、絵を描きたいって気持ちを取り戻したいんだ。」 少年は話の最後にそう訴えた。彼の心の底からの願いだった。 「元に、戻してもらいなよ。」 少年は少女と妖精に会いに行くことにした。 森に着くと、妖精の方から二人の前に現れた。 「お願いだよ。元に戻して欲しいんだ。」 「あらあら、お気にめさなかったのかな?」 「その・・こういうのはだめなんだって気づいたんだ。」 「ふーんそう。」 妖精が指をぱちんと鳴らすと、光の筋が少年の頭から抜け出て行った。 「またね。」 妖精はクスクスといたずらっぽく笑いながらふわふわと再びどこかへ消えていった。 少年は目の前にある花を描いてみた。 下手だった。でも、少年が頑張って描いた結果だった。 「何だか上手く言えないけど、こっちの方がわたしは好きだな。」 少年と少女は顔を見合わせてにっこり笑った。
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