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創る名無しに見る名無し
見つめ合うと砂になるからお喋りできない ◆EHFtm42Ck2
【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】

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【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
227 :創る名無しに見る名無し[]:2010/09/27(月) 22:33:41 ID:4YTfE6cs
最近投下多いですね。嬉しいことです
では自分も投下。>>174-177の続きとなります。

【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
228 :見つめ合うと砂になるからお喋りできない ◆EHFtm42Ck2 [sage]:2010/09/27(月) 22:37:37 ID:4YTfE6cs
 太陽さんが顔を出し切って、明け方からけたたましく鳴き続ける種類不明の鳥にもそろそろ疲れの色が
見え始める朝。大多数の日本人が、辛くて長いこの一日をどうにかこうにか乗り越えるための準備のまっ
ただ中にいるんだろうそんな時間。

「……一睡もできんかった」
 俺はそんな有様だった。この一晩、しくしくと泣いて過ごした。もちろんベッドの隅っこで体育座りだ。
鏡を見てないから断定できないが、一晩泣き腫らした俺の顔は今や悪鬼羅刹級、罷り間違ってテレビに映っ
たりしたら間違いなくモザイク処理を施されるレベルだろう。……うっ、また涙がっ。

 わかってもらえるだろうか。何の前触れもなく突然目覚めた能力。その能力で他人を傷つけたこと、そ
してこれから誰かを傷つけてしまうかもしれないこと。それは正直、今までに感じたこともない種類のも
ので。経験したこともなかった感情に、俺はただガキのようにピーピー泣くことしかできなかったんだ。

「……結局、どうすりゃいいんだろ、俺」
 今の状態で他人と触れ合いたくない。なんたって能力が発動する条件がわからないんだから。いつの
間にか周りの人間みーんな砂になってましたー! なんてありきたりなホラーみたいな展開は勘弁だ。

 ……くだらねえこと言ったけど、そんな光景リアルに想像したらまた泣けてきた。馬鹿な俺。涙のルー
プに入りかけたところ、部屋の外から声がした。
「こんこん。豪ちゃん、そろそろ起きる時間だけど……。やっぱり具合悪いの?」

 コンコンとドアをノックしながら「こんこん」とか口で言っちゃう人。すっかり人相悪く育った可愛げ
ない高校生男子を「豪ちゃん」とかメルヘンな呼び方する人。
 残念ながらこれ、隣の家に住んでてなぜか毎朝起こしに来てくれるツンデレ幼馴染とか、隣の部屋に住
んでてなぜか毎朝起こしに来てくれる血の繋がってない妹とかじゃ決してない。

「こんこん。豪ちゃん? もうお母さん勝手に入るからね?」
 少し間があって、俺の部屋のドアがゆっくりと開いた。
 ツンデレでもないし、正真正銘血の繋がりがある俺の母さんだ。
 たまに漫画やらゲームやらで「お姉さんに間違われるお母さん」なんつーあり得ねーオバさんが出てく
るが、うちの母さんはそのあり得ねーが現実にあり得てしまったらどうなるのかというあり得ねーオバさ
んだったりする。
【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
229 :見つめ合うと砂になるからお喋りできない ◆EHFtm42Ck2 [sage]:2010/09/27(月) 22:39:52 ID:4YTfE6cs
「豪ちゃんやっぱり具合……って豪ちゃん! どうしたのその顔! まるで阿修羅様みたいになって!」
 部屋に入って俺の顔を見るなり、母さんは悲鳴に近い調子でそう言う。つーか顔を泣き腫らした息子を
見て開口一番阿修羅様って。ほんとに心配してんのかよあんたは。

「豪ちゃん、何かあったの? 昨日から様子おかしかったけど……」
「母さん! 来るな! 俺に近づくな!」
 思わずそう叫んだ。昨日手足が砂になっていた赤髪の姿が頭をよぎった。発動条件がわからない以上、
俺は他人に近づいちゃいけない。近づかれちゃ、いけないんだ。

「ひっ! そ、そんな……。豪ちゃん……うっ。しくしく。めそめそ」
 悲しいことに俺の母さんは、擬音を何でも口に出して言っちゃうちょっと残念寄りに分類される人だ。
その辺はもう我慢してくださいと不肖息子から断っておく。いい年なんでやめて欲しいのが本心だけど。
 っとそれより! まずい! ダメだ! 俺ったら何をのんきな! 母さん泣いてるじゃん! な、な
だめないと……! 面倒な人が来て面倒なことになる前に……!

「か、母さん! そういうことじゃな――」
「おんどらあああぁぁあぁああぁぁああぁぁ! こんの馬鹿息子めがあぁあぁぁぁあぁぁぁ!!」

 うわぁ……来ちゃいました、やかましい人が。階段をドッスンドッスンと駆け上がる騒音とともに、
たぶんご近所じゅうに鳴り響いただろう町内放送級の大音声を張り上げて。

「くぅぉらぁあ馬鹿息子ぉ! 腑抜けて起きてこないばかりか、心配して見に来てくれた自分の母親を泣
かすとは、父さんはお前をそんな男にした覚えはない! つまりお前はもう伊達さん家の子じゃあない!」
 あらま、あっさり絶縁されましたよ。ちなみにこの絶縁宣言今回で六十回目ね。

「香澄(かすみ)、大丈夫か? 安心しろ、君を泣かせた男とはたった今親子の縁を切ったからな」
「ぐすっ、ひっく。か、魁斗(かいと)さん。豪ちゃんが、豪ちゃんがぁ……」
「あーよしよし。大丈夫大丈夫。この不動明王みたいな悪人ヅラは簀巻きにしてカリブ海にでも捨ててくるから」

 泣き虫幼な妻(見た目だけ)、伊達香澄。頼れる旦那様(主に間違った方向で)、伊達魁斗。子は
親を選べない。騒々しいし見てるとイラッとするバカップルみたいなこの二人が、残念ながら正真正銘
この俺、伊達豪輝の両親ってわけだ。つか父さん、不動明王様に謝れ。
【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
230 :見つめ合うと砂になるからお喋りできない ◆EHFtm42Ck2 [sage]:2010/09/27(月) 22:41:13 ID:4YTfE6cs
 完徹明けの頭には優しくなさすぎる不毛な騒動をなんとか収めて、父さん母さんと一緒にいつもより遅めの朝飯を囲む。
 結局俺は、昨日の出来事を包み隠さず吐いた。
 二人がどんな顔で俺の話を聞いていたかはわからない。でもどんなに残念なバカップル夫婦だっつっても、
やっぱり俺の両親なんだから。きっと馬鹿正直に真面目で神妙な顔で聞いてくれてるんだろうと思った。

「香澄、味噌汁おかわり欲しい」
「あ、はーい、ってあら? 魁斗さん、口元にご飯粒がついてますよ」
「ん、本当か? どこだ? こっち?」
「ぶっぶー外れ。こっち、ですよ。じっとしててくださいね……。はい! 取れました!」
「お、おお。ありがとう香澄」
「ぅんもう、世話の焼ける旦那様。んー……ぱくっ」
「か、香澄! それ俺のほっぺについてたご飯粒……!」

 うんうんやっぱり真面目で神妙な顔して
「聞いてねえぇぇぇ! あんたら息子の苦悩話全っ然聞いてねえぇぇぇ! いや絶縁されたから元息子? 
何でもいいけど俺ガン無視して初々しい新婚さんみたいなB級演劇やめろおぉぉぉ!」

 結婚二十年近い夫婦が名前で呼び合ってるのも珍しいんだろうが、しかしこのバカップルぶり。息子で
あることが恥ずかしい。鳥肌が止まらない。
「まったく朝っぱらからシーハーやかましい奴だなお前は。ちゃんとシーハー聞いてたさ俺は」
「魁斗さん、つまようじで歯をシーハーしながら喋っちゃだめですよ。『シーハー』が何らかの修飾語み
たいになってます」

 聞いてない。絶対こいつら俺の話聞いてない。
 へ、へへ。なんだろ。なんかもう早くも馬鹿らしくなってきた。
「どうだ豪輝。そろそろ馬鹿らしくなってきたところか?」
「あ、うん。どこぞのバカ夫婦のおかげで」

「よかったぁ、豪ちゃん元気になって。さ、朝ごはん食べて学校行きなさい。遅刻して行きますって連絡
しておくから」
 そう言って母さんはパタパタと廊下の方へ消えていく。電話をかけに行ったんだろう。聞こえるかはわ
からないけど、一応言っとく。
「あ、うん。ありがと母さん」
【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
231 :見つめ合うと砂になるからお喋りできない ◆EHFtm42Ck2 [sage]:2010/09/27(月) 22:42:09 ID:4YTfE6cs
「豪輝高校入って初めての遅刻か? まったく中途半端な奴だな。遅刻するなら一年の入学式から遅刻し
とけってんだ」
「変なこと言うなよ。俺の顔でんなことしたら即不良認定されちゃうだろ。今日の遅刻も何言われるか……
あれ? 父さん?」
「ん? ああ! 俺の手! 足! ない!」
 し、しまった! バカ夫婦のおかげで馬鹿らしくなっちゃって気抜いたら能力がもう大変なことに!
 父さんの椅子の下には白く光る砂。やっぱり間違いはない。これが俺の能力なんだ。今までなんともな
かったのに、いきなり発動した?

「おう、手足生えてきた。ふぅー、今のは久しぶりに焦ったぞ豪輝」
「ご、ごめん父さん」
 素直に謝るしかなかった。ちょっと油断したらこんなことになる。俺、なんて迷惑な存在なんだろう。
あーあ、また泣きそうだ。

「はぁー、学校に電話するのって緊張するわねー。豪ちゃん今度から自分で、って、何この砂は!?」
 空気読まずにのほのほ戻ってくる母さん、父さんの椅子の周りに突如散布された砂に驚愕するの図。た
ぶんこれが模範的にして一番面白くないリアクションだろう。

「香澄。ちょっとこの息子の目を見てやってくれないか? いや、あまりに目つきが悪くて気が引けるの
はわかってるが、なーに、いざって時は俺もいるし」
 帰ってきた母さんになんか言ってる父さん。いや、「いざって時」の意味がわからん。俺、あんたの息子。

「かわいい豪ちゃんの顔なら二十秒くらいは見てられますよ。ほら豪ちゃん、顔上げて」
 二十秒かよ。それじゅうぶんみじけーよ親と子という間柄にしては。
「あ、念のため膝立ちで」
 父さんの横やりが聞こえて、母さんはまた素直に膝立ちになる。
 父さんの意図はもう、なんとなくわかってきていた。だから俺は意を決して顔を上げた。

 にこにこと微笑んでる母さん。その顔はあらゆる意味で、俺がもっとガキだった頃から少しも変わって
ない。こんな目つきの悪い男子に育っても、こんな迷惑な能力を持っても、この人は……
「きゃあっ! 手が! 足が! なくなっちゃったぁっ!」

 で案の定能力発動だ。派手に取り乱す母さんを、父さんはしっかと抱き締めている。「大丈夫だ! 俺
はここにいるぞ!」とかほざいてるし。どこの三文役者ですかお二人さん。
【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
232 :見つめ合うと砂になるからお喋りできない ◆EHFtm42Ck2 [sage]:2010/09/27(月) 22:44:04 ID:4YTfE6cs
「香澄の犠牲ではっきりしたな。豪輝、お前の能力の発動条件だ。もうお前もわかってるだろうが」
 犠牲ってなんですか人聞きの悪い。母さん生きてるだろ。
「うん、なんとなくは。どうも一定時間目を合わせるとダメっぽいな」
「正確には三秒だな、たぶん」

 この人はさっき自分の手足を砂にされたあの一度だけで俺の能力が発動する条件に当たりをつけて、そ
して今母さんの手足が砂になった一回でそれを完全に絞り込んでしまったらしい。なんだかんだで父さん
はこの辺の洞察力っつーのか観察力っつーのかが常人より優れてるんだろう。伊達に弁護士なんつー大層
な仕事についてるわけじゃないってことだ。俺はこの人には絶対弁護を頼む気にはならんけど。

「そう……。目を合わせ続けることが条件なのね。くすくす、それなら豪ちゃん、安心ね」
 くすくすと笑ってるわけじゃない。口で発音してるんだこの人は。残念なオバさんなんだこの人は。
ぜひ笑ってやってくれ、くすくすと。
「安心ってどういうこと? 母さん」

 かなり軽い気持ちで聞いた。まさかこの後
「だって豪ちゃん、眼力強すぎて目を合わせてくれる人少ないんでしょ? だったらその能力で迷惑を被
る人、いないじゃない」

 慈愛に満ちた笑顔の母さんから、こんな心を引き裂き、抉り、貫き通すようなお言葉が飛び出すとは思
わなかったんだもの。
「はっはっはっ! 確かにその通り! さすがだな香澄は」
 快く同意してる奴約一名。
 ……はは、ははは、実にまっとうなご意見だコラッ! まったく、この人たちはほんとに親か? そろ
そろ本気で馬鹿らしくなってきたぞ。

「ま、でもな」
 椅子に戻ってまた歯糞をほじり始めた父さんが、ぽつりと呟いた。
「俺と香澄はもう、お前と目合わせて話せないんだな」
「これから先、ずっと。そう思うと、寂しいね」
 母さんがそれに同調する。

 ん? ちょい待て。いきなり随分深刻そうだけど、この人たち忘れてないか?
「いや、これ昼の能力だから……。夜はどうかわかんないだろ」
「ったく馬鹿息子だなお前は。朝のおはよう。朝飯の団らん。毎朝お前の顔をちゃんと見られることは、
ささやかだが立派な幸せのひとつだ。伊達さん家の息子としてそれぐらいのこと、わかってろ」

 父さんがどんな顔でそう言ったか、俺にはもう見えない。
 言うべき言葉が何なのか、全然わからなくて。
「……ごめん」
 ひねり出した言葉はあまりにありきたりで、ひどく場違いな気がした。
【シェアード】チェンジリング・デイ 4【昼夜別能力】
233 :創る名無しに見る名無し[sage]:2010/09/27(月) 22:45:28 ID:4YTfE6cs
投下終わりです


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