- オリジナルキャラ・バトルロワイアル2nd
115 : ◆xEL5sNpos2 [sage]:2010/09/21(火) 20:06:19 ID:eznuKtJx - 少し遅くなりましたが、キャラ:山本 大和、タイトル:『そして僕は途方に暮れる』を投下致します。
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116 : ◆xEL5sNpos2 [sage]:2010/09/21(火) 20:08:06 ID:eznuKtJx - ここに一人の青年がいる。
彼の生い立ちは一言で言ってしまえば"不幸"そのものであった。 望まぬ妊娠の果てに生まれた彼は、両親の愛をその身に受けることは無かった。 厄介者として扱われるうちはまだよかったが、何時しかその身は両親のストレスの捌け口として使われるようになった。 日々繰り返される虐待に対して幼き彼が抵抗する術は無く、ただ成すがままにされ続けた。 痛いとも、苦しいとも、止めてとも言えず、只管に耐え忍ぶ日々。 こうした経験が、皮肉にも彼の異常なまでの我慢強さを育む事になるのだが、それはまた別の話。 まるでサンドバッグのように両親からの責め苦を受け続けるうちに彼はその身体機能に障害を引き起こしつつあった。 まずは左腕が用を成さなくなった。続いて右目から光が喪われた。 ここに至ってなお、親戚筋や行政から彼に救いの手が差し伸べられることはなかった。 まさに孤立無援の状態だった彼が助けを求めたのは、自分の内面であった。 己の内にいくつもの人格を生み出すことによって、入れ代わり立ち代わりにその性格を変貌させていった。 こうした事案は決して珍しいことではなく、彼のように幼児虐待を受けた者の中には時折見受けられる症例であった。 転機が訪れたのは、善良な隣人の通報によって彼が保護された時であった。 だが、保護をしたのは親戚筋でもなければ、行政でもなかった。 隣人は宗教団体『神の目』の熱心な信者であった。 行政が動かないことに業を煮やした隣人は、自らが所属する教団を通じて彼に救いの手を差し伸べたのだった。 表向きはこうした子供達を救済する団体でもあっただけに、こうしたケースでの動きは素早かった。 彼が教団に保護された時点でその内に宿る人格を数えようとすると、両手でも余るほどであった。 無口な人格、陽気な人格、冷静な人格、能天気な人格、泣き虫な人格、大人びた人格、自虐的な人格…… 面談の度にコロコロと変わる人格は、教団施設の担当者の手を大いに焼かせた。 それでも、粘り強い治療の末にどうにか彼の多重人格は"ほぼ"完治に向かったのだが…… 唯一、彼の本来の人格とは異なる別の人格が彼の中に残存してしまったのだ。 幼き頃に愛を受けなかったその反動から、愛を好み、暴力を憎み、笑顔を絶やさぬ普段の人格とは正反対の人格。 その人格は自らを"日本(ひもと)"と名乗り、本来の人格が最も嫌う暴力にその手を汚していた。 まるで"日本"は自分の両親が乗り移ったかのように、自分がされたことをそのままなぞって他人にも行っていたのだ。 さらに不幸だったのは、本来の人格とその忌まわしき人格の記憶を共有していたということ。 自分の凶暴なる一面に気づいてながらもそれに対抗する術を持たず、彼は深い深い悩みの中にいた。 せめてもの償いに、と彼は自分を救った教団の活動に没頭することで悩みを紛らわす、そんな日々を送っていたのだった。 そんな彼に更なる不幸が舞い降りる。 彼は選ばれてしまったのだ、世界の選択者を選別するという殺戮の舞台に上がるキャストに。
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117 : ◆xEL5sNpos2 [sage]:2010/09/21(火) 20:09:52 ID:eznuKtJx - * * *
目が覚めた時、青年の周りは漆黒の闇に包まれていた。 月明かりさえ差し込まない、なにやら閉鎖された空間。 彼が手探りで辺りの様子を確かめると、なにやらひんやりとした石の感触が伝わってきた。 さっきまでは自宅で大学のレポートをまとめていたはずなのに、と彼は怪訝に思う。 何がなにやら分からないまま青年がさらに手探りしてみると、なにやらバッグのようなものを見つけることが出来た。 試しに中を探ってみると、円柱状の物体が手に当たった。 彼がその物体を手に取ってあれこれ弄っていると、不意にパッと光が灯った。 ここで彼は自分が手にしているものが懐中電灯であることと、自分が置かれている状況を把握することが出来た。 見渡す限り石の壁、壁、壁。 青年はまるで自分が古代エジプトにタイムスリップしたかのような感覚に陥った。 何故自分がここにいるのかという疑問が解けぬまま、彼はもう一度バッグの中を漁ってみる。 片手しか用を成さない彼にとっては少々難儀な作業の末、見つかったのは一枚の手紙だった。 手紙を一通り読んだ青年は愕然とした。 暴力を憎み、愛に生きることを目指す彼からすれば、最も忌むべき舞台に落とされたということを手紙は意味していた。 それをにわかに信じることは出来なかったが、かと言ってありえない事だと一蹴することも彼は出来なかった。 青年は多重人格者である。 長年にわたる治療の甲斐あって、かつて発現していた人格の大半は封じ込めることが出来た。 残る一番厄介な人格も、封じ込めることこそ出来なかったが記憶の共有を出来るところまでたどり着いたのだ。 だが、封じ込めたはずの人格がその縛めを免れて再度発症していたとしたら? その人格が、本来の人格の与り知らぬところで何か事を起こしていたとしたら? 青年は自分の主人格と"日本"の人格で記憶を共有している。 だが、今ここに自分がどうやって来たのかということは彼は思い出すことが出来なかった。 手紙には「自分の記憶を消して」とある。 もしかしてこの手紙を差し出したは、自分の中に眠っていた新たな人格なのでは無いか、彼はそう思ってしまったのだ。 もちろん、青年自身は自分の名前も覚えているし、忌まわしき過去も含めて記憶は鮮明に残っている。 しかし、自らの記憶が「誰かの意思によって上書きされた架空の記憶かも知れない」と手紙にあるのを見て、ますます彼は自信を失った。 自分の本来の人格だと思っていたものは、別の人格によって作り出された仮初めのものなのではないか? その人格が、この手紙にあるような殺し合いを望んでいるのではないか? なまじ多重人格に悩まされてきただけに、この状況で彼は自分を信じることが出来なくなってしまった。 自分が暴力などという言葉では最早生温い、そんな凄惨な願望を抱いていたという可能性に気づいてしまった青年は震えていた。 もちろん、彼の中にそんな人格は存在せず、そんな願望も抱いてはいないのだが、疑心暗鬼に陥った彼は気づかない。 自分自身が分からない、信じることが出来ない、どうしていいか分からない、そんな負のスパイラル。 縋るものなど何も無く、彼はただ膝を抱えて石の床に座り込むことしか出来なかった。
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118 : ◆xEL5sNpos2 [sage]:2010/09/21(火) 20:12:13 ID:eznuKtJx - どれほどの時間をそうして過ごしていただろうか。
青年はおもむろにバッグの中に手を伸ばして適当に弄ると、手紙とは別の紙の感触が伝わってきた。 取り出した紙には、自分も含め四十もの名前が刻まれていた。 大半の名前は彼の知らない名前だったが、それが彼の不安を加速させる。 自分の知らない別人格が、ここに名が刻まれた人々とコンタクトを取っているのかもしれないと考えてしまう。 彼自身は知らないはずの人々を巻き込んでしまったことに、慙愧の念をよりいっそう募らせていく。 申し訳ない気持ちで一人一人の名前を見ていくと、一つだけ彼がよく知る人物の名が刻まれていた。 「教祖様……」 絶望のどん底にいた青年に、いわば救いの手を差し伸べたと言ってもいい存在の名前。 男の教団に救われた彼は、そのことからその男に傾倒して己の人生を懸けてもいいとまで思っていた。 直接お会いしたことはないとはいえ。そんな命の恩人がどこかに来ている。 ――会いたい かつて自分に道を示してくれたように、また今度も自分に道を示して欲しい。 何故ここにいるのか、そもそも自分が何者なのか、数多ある疑問に答えを示して欲しい。 青年はデイパックを手にし、ゆっくりと立ち上がった。 そして、そのまま幽鬼のような足取りでフラフラと石室を後にした。 ピラミッドの出口から差し込む一条の月明かり。 果たしてそれが彼を救う導きの光となるかどうか、今はまだ誰も知らない。 【一日目・深夜/D-4 ピラミッド出口】 【山本 大和】 【状態】肉体的には健康、精神的に動揺 【装備】なし 【所持品】基本支給品、不明支給品1〜3 【思考】 1.教祖様にお会いして、自分を導いてもらいたい 2.自分の知らない別人格が、この催しを開いたのでは……? 【備考】 ※大和本人は自分の知らない別人格が起こしたものでは?……と考えていますが、そうした人格は彼の思い込みであり、実際は存在しません。 ※大和と日本との人格が切り替わるきっかけ、タイミングといったものは不定です。 投下は以上です。 洞窟が被った後、モタモタしているうちにオアシスでも被ってしまったのはここだけの話 orz
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