- 産経抄ファンクラブ第275集
11 :文責・名無しさん[sage]:2020/12/21(月) 06:27:22.38 ID:LCEDRTNk0 - 産経抄 12月21日
男女問わず格闘技ファンは意外に多い。勝つか負けるか、自分の日常と違う一瞬に畏敬を抱き歓声を送る。そうした苛酷(かこく)な世界の舞台裏を取材してきた先輩、同僚の本が相次いで刊行されたので一気に読んだ。 ▼一冊はボクシング界を舞台にした『熾火(おきび)』(別府育郎著、ベースボール・マガジン社)だ。1960(昭和35)年のローマ五輪でフライ級の銅メダルを獲得した田辺清さんと、名トレーナーのエディ・タウンゼントさんの絆など、ボクシングの素人も引き込まれる。 ▼青森出身の田辺さんは大学2年のときローマ五輪に出場。プロに転向し、ノンタイトル戦で当時の世界王者を破った。しかし、同王者とのタイトル戦を前に網膜剥離(はくり)を発症し、引退を余儀なくされた。 ▼田辺さんの「自叙伝」をもとにし、「熾火」は赤く熱した炭火のことで、灰で覆われた隙間から顔を覗(のぞ)かせる。そうした心の底の思いを感じる書名にも魅(ひ)かれる。著者が度々、杯を重ねたエディさんのエピソードも豊富だ。「ハートのラブで教える」など名伯楽の言葉は胸にしみる。 ▼もう一冊は『日本柔道最重量級の復活する日』(森田景史・田中充著、育鵬社)。格闘技というより日本のお家芸は、なかでも最重量級王者が「最強の選手」として勝利が「宿命」づけられてきた。それを担う選手、コーチらの苦悩や人間模様も丁寧に描かれ興味が尽きない。 ▼同書では指導者から「正しい組み手や投げの技術を身に着けないまま、体任せ、力任せの柔道を覚えて大人になるケースが増えた」と、少年選手育成の課題を踏まえた懸念も紹介され示唆に富む。コロナ禍の厳しい環境で選手たちは勝負の一瞬に備えている。試合場外の努力に思いを馳(は)せ、声援を新たにしたい。
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