- 産経抄ファンクラブ第256集
790 :文責・名無しさん[sage]:2019/08/25(日) 06:05:13.92 ID:cD/ELmdP0 - 産経抄 8月25日
落語の名人、三遊亭円朝が東京・早稲田の大隈重信邸に呼ばれた。一席披露した後、盃(さかずき)を勧めてくる人がいた。主賓の伊藤博文である。「恐れ多い」とためらう円朝に隣の客がささやいた。「受け給(たま)え。実は、この席では君が一番エライんだぞ」。 ▼君が死んだら、衣鉢を継ぐ者はいるのか。ございません。「この席にいる元老なり大臣なり、皆くたばっても、その後継者はいくらでもある」。だから君が一番偉い、とその客は笑った。後に桂太郎内閣で外相を務める、小村寿太郎である(徳川夢声著『話術』)。 ▼後継者はいくらでも…。過去への恨み節は口にするまい。内外に不安要素の多いこの時代、実感は乏しくても経済を戦後最長の好況に導いた。国際舞台ではキープレーヤーとしての日本の立場を光らせている。「1強多弱」の政権は一つの「歴史」というほかない。 ▼安倍晋三首相の通算在職日数がきのう、佐藤栄作を抜いて歴代2位となった。トランプ米大統領と信頼で結ばれ、強面(こわもて)の習近平中国国家主席や腹の読めないプーチン露大統領と渡り合う。多事多難の外交を思うと、安倍氏以外の顔を描きづらいのが現状ではないか。 ▼令和3年の9月末には、自民党総裁の任期が切れる。来月中旬に行われる内閣改造で、国の左右を託せる「ポスト安倍」の顔ぶれが見えないようでは話にならない。安倍氏が「一番エライ」かどうかはともかく、野党を含めて長期安定政権に慣れてもらっては困る。 ▼小村は日本の全権を担って明治38(1905)年にロシアとポーツマス条約を締結し、日露戦争に幕を引いた。安倍首相はこの11月、小村を用いた桂を抜いて歴代1位になる。小村が「一番エライ」とたたえた円朝の名跡は、今も継ぐ者がいない。
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