- 産経抄ファンクラブ第144集
277 :文責・名無しさん[sage]:2010/12/17(金) 06:47:34 ID:EP1OEUrsP - 産経抄 12月17日
「しがねえ恋の情(なさけ)が仇(あだ)」の名セリフで知られる「与話情浮名横櫛(よわ なさけうきなのよこぐし)」は、歌舞伎の名狂言として、繰り返し上演されてきた。ただし 一時期、上演がひかえられたことがある。春日八郎が歌う『お富さん』が、大ヒットした 昭和29年ごろだ。 ▼「いやさ、お富、久しぶりだなぁ〜」。与三郎が啖呵(たんか)をきるくだりで、客席か ら爆笑が起こり、芝居にならなくなることを関係者は懸念したという。「死んだはずだよ、 お富さん」。確かに歌詞の意味もわからない小学生までが、声を張り上げたものだ。 ▼「お富さん」ならぬ「死んだはず」の魚、クニマスが、山梨県の西湖で生息していた ことがわかった。もともと秋田県の田沢湖にのみ生息していた日本固有の淡水魚は、 昭和15年ごろ入り込んだ強酸性の水のために死滅したとされてきた。 ▼京都大学の中坊徹次教授からクニマスの絵を描くよう頼まれたイラストレーターの 「さかなクン」が、参考にするためによく似たヒメマスを西湖から取り寄せたところ、黒っ ぽい色のものが交じっていたという。 ▼もしや、と思ったさかなクンが、中坊教授のもとに持ち込み確認された。小学生時 代から、魚に「恋の情」をかけ続け、研究を続けてきた、さかなクンならではのお手柄 といえる。菅直人首相も、国営諫早湾干拓事業をめぐって、潮受け堤防排水門の開 門を決意したのは、諫早湾の魚介類への「恋の情」ゆえだ、と言いたげだ。 ▼もっとも、事前の連絡さえなかった地元住民は猛反発している。開門によって、農 業、漁業がともに、被害を受ける恐れもあるらしい。何よりせっかくの“英断”も、首相 の地位への「恋の情」が本音とあっては、かえって「仇」となるだろう。
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