- 産経抄ファンクラブ第141集
617 :文責・名無しさん[sage]:2010/10/19(火) 06:27:48 ID:5CuengDL0 - 産経抄 10月19日
森鴎外の『半日』という短編は、険悪な関係にある妻と母親の間に立って、困り果て ている男の話だ。妻は時に、黙って耐えている男にも食ってかかり、髪を切るだの、 のどを突くだのと大騒ぎだ。夫に鬱憤(うっぷん)を晴らして、精神の均衡を保っている。 ▼中国の内陸部の都市で次々に飛び火している、「半日」ならぬ「反日」デモは、ど んな鬱憤を晴らそうというのか。沖縄・尖閣諸島周辺で起きた中国漁船衝突事件を めぐって、「日本側の一連の誤った言行」に対する「義憤」である。 ▼中国外務省はデモに、こんな理解を示しているが、内実はもっとドロドロしている。 デモの起こった内陸部は、沿海部に比べて経済発展が遅れている。より深刻な就 職難に直面している若者たちのいらだちが、背景にあるという。 ▼社会にもの申すなら、言論の自由を求めるなり、ノーベル平和賞受賞が決まった 劉暁波さんの釈放を求めるなり、エネルギーを注ぐ方向が違うように思う。もっとも彼 らは聞く耳を持つまい。デモのスローガンに「反日」を掲げている限り、当局も大目に 見てくれるからだ。 ▼それどころか、政治改革に消極的なグループが、政権に圧力をかけるために、デ モを仕掛けた、との見方まである。反日デモが権力闘争の道具になっているわけだ。 いずれにしても、襲撃を受けた日系の店舗や日本車の所有者にしてみれば、たまっ たものではない。 ▼『半日』の夫婦の場合は、諍(いさか)いの最中に「体と体とが相触れて、妙な媾 和(こうわ)になることもある」。謹厳なイメージの鴎外にしては、「媾和」の2文字が なまめかしい。もちろん、何かというと「反日」のカードを切る癖を直さないかぎり、 中国との講和はあり得ない。
|