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名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])
名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-T3hu [180.131.205.7])
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」

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【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
47 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:42:38.17 ID:Vh0vyqXP0
──


μ’s、Aqours、Liella!。

どのグループの部屋でも、聞こえてくるのはすすり泣く声だけだった。

その上に、機械的な音声が被さって流れる。


『大変お待たせ致しました。ゲームの説明が全て終了致しましたので、これよりゲームに移りたいと思います』

『といっても、最後に一つだけ。グループ対抗のゲームとはいえ、スタート地点に皆さん全員が揃っていたのでは面白くありません』

『仲間と合流するまでの過程、その間の敵に襲われるかもしれない臨場感を感じていただきたいため、これから皆さんにはスタート地点に移動していただきます』
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
48 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:43:36.24 ID:Vh0vyqXP0
『移動するとはいえ、皆さんにご足労いただく必要はございません。これから一人一人に目隠しをして頂き、我々が皆さんをスタート地点へお連れ致します。なお、くれぐれも抵抗などなさらぬようお願い致します』

『各々のスタート地点は島のどこか、ランダムに決められた場所となります。全員の配置が済み次第、島内にゲーム開始の放送を流しますので、それまでは目隠しを外す、移動を始めるなどしないよう、こちらもお気をつけ下さい』

『もし守って頂けなかった場合はその時点でゲームオーバーです。ちょうど皆さんの目の前に転がっている物のようになってしまいます、必ず守って頂くようお願い致します』

『説明が大変長くなってしまい恐縮です、皆さんも早くゲームを始めたいことと思いますので、さっそくスタート地点へお連れ致します』





各部屋の扉が開き、銃を抱えた覆面達がなだれ込んでくる。

すすり泣きは悲鳴に変わり、逃げ惑うメンバーが一人一人捕えられていった。
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49 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:44:20.89 ID:Vh0vyqXP0
──



日本本土から遠く離れた無人島。

一見すれば何の変哲もなく、波の音と、鳥の声しか聞こえない。

それらに混じって、スピーカーを通して拡声された異様な内容の音声が島に響いた。




『大変長らくお待たせ致しました』


『全参加者が配置に着いたことを確認致しましたので、これよりゲームを開始致します』


『どうぞ存分に殺し合って下さいませ』
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
50 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:44:49.58 ID:Vh0vyqXP0
ゲーム開始時点(16:00)

キャラクター配置図

https://imgur.com/a/ng7rZMA
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
51 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:47:43.89 ID:Vh0vyqXP0
※補足

・配置(及び武器)は乱数で決定。

・黄色は砂浜。赤色は禁止エリア。灰色は灯台。紫色は拠点エリア。

・小さな山が島の中心にあり、中央に向かって標高が高くなっている。緑色が濃い場所ほど標高が高く、木々も多い。

・1コマ分はおよそ100m四方。各キャラクターはその中心部分からゲームを開始する。
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52 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:48:15.82 ID:Vh0vyqXP0
─1日目─
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
53 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:48:51.52 ID:Vh0vyqXP0
16:01 高坂穂乃果




穂乃果「ことりちゃん! ことりちゃーーーん! どこーーー!!」


ゲーム開始の放送が流れてすぐ、目隠しを外した穂乃果はことりの名前を大声で呼び出した。

怖くない訳ではなかった。幼少期の頃から知り合いだった小鳥の母が突然死んでしまったことも、映画の中でしか見たことのない銃の感触を背中に感じながらここまで連れて来られたことも、言い表しようのない恐怖だった。

しかしそれ以上に穂乃果の中では、ことりの側にいてあげなければならないという気持ちが強かった。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
54 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:55:43.30 ID:Vh0vyqXP0
自分が側にいて何をしてあげられるのかは分からない。それでも穂乃果は声を上げずにはいられなかった。


穂乃果「すぅぅぅ……ことりちゃーーーん!!」


周囲は木々に囲まれて見通しは悪く、地面が緩やかに傾斜している。どうやら山中の中腹辺りにいるようだった。

もっと大声を出さないと気づいてもらえないかもしれない。

穂乃果が更に大声を出そうと再び息を吸い込み、声を出そうとした時─


穂乃果「こと─もがっ!?」


突然誰かに口を塞がれた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
55 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:56:47.18 ID:Vh0vyqXP0
一瞬パニックになりかけた穂乃果だったが、振り向くとそこには見知った顔があった。


希「しーっ」

穂乃果「プハッ……希ちゃん!?…モガッ」

希「静かに、もっと声を抑えて。いい?」


いつものようにおどけた様子は感じられず、真剣な表情で問いかける希に、穂乃果は無言で頷きを返した。


希「よし、とりあえず……少し上ろう。ウチがいた場所に座るのに丁度よさそうな岩があったから」
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56 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:58:11.91 ID:Vh0vyqXP0
希に促されるままに歩くこと数分、膝の高さほどに突き出した岩に二人は腰を下ろした。

希がじっと穂乃果の目を覗き込む。


希「穂乃果ちゃん、さっき何してたの?」

穂乃果「え? ことりちゃんを探そうと思って」

希「大声を出してた?」

穂乃果「うん」


穂乃果はさも当然とばかりに、こくりと頷く。

希はそんな穂乃果の様子を見て、強張っていた顔の筋肉が緩んだように感じた。
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57 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 01:59:10.22 ID:Vh0vyqXP0
希はスタート地点に着いてからゲーム開始までの間、震え出しそうになる体を必死で抑えつけ、頭の中で考えを巡らせ続けていた。


皆が助かるために、何をすべきか?

まずはμ’sメンバーの安否の確認が最優先だろうか。

特にことりちゃんの事が気がかりだ、すぐにでも合流しなくては。

その後は自分達と同じようにここへ連れて来られているという、AqoursとLiella!のメンバーと接触をはかるべきか。

お互いの持っている情報を交換して話し合えば、今の状況を打破する解決策が見出せるかもしれない──


そして目隠しを外し、行動を開始しようとした直後に穂乃果の声が聞こえてきたのだった。
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58 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:00:05.42 ID:Vh0vyqXP0
希「穂乃果ちゃん、怖くないの?」

穂乃果「え? そりゃあ怖かったけど…でも私、ことりちゃんが心配だったから」

希「怖かったって……今は怖くないの?」

穂乃果「今? 今は別に怖くないよ。希ちゃんと会えたし、不安なことなんて何もなしって感じ!」


いつも通りの、太陽のような笑顔で穂乃果が笑った。

希はそれを見て思う。


ああ、この子は──全く疑っていないんだ。別のグループの誰かに殺されるかもしれないなんて。
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59 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:01:04.63 ID:Vh0vyqXP0
ただただことりの側にいてあげたいという一心で、大声をあげ続けたのだ。

こんな状況でもいつもと全く変わらない穂乃果らしさが、希にとっては嬉しくもあり─非常に危険を感じさせた。


穂乃果「希ちゃんももちろん、ことりちゃんのこと探すの手伝ってくれるよね?」

希「うん。でもさっきみたいに大声だすのは禁止ね」

穂乃果「え、なんで? ていうかさっきも何で止めたの希ちゃん?」

希「……他のグループのメンバーに、場所が分かっちゃうからだよ」

穂乃果「……? それ、何でダメなの? 他のグループの子に会えれば、ことりちゃん探すの手伝って貰うようにお願い出来ない?」

希「ほんっとーにまぁ、穂乃果ちゃんらしいというか何というか……」
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60 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:02:09.76 ID:Vh0vyqXP0
希「とにかく、大声出すのは禁止。穂乃果ちゃん、それ開けて」


希は地面に置かれた大きめのバックパックを指差した。

ゲーム開始時、説明通り傍らに無造作に置いてあったものだ。


穂乃果「え、そんな、早くことりちゃん探しに─」

希「地図の確認が先。まずは島の形と、今どの辺りにいるのか知らないと」

穂乃果「あ、そっか」


説明通りであれば島の地図が表示されているディスプレイが入っているはずだった。

穂乃果は言われた通りにバックパックのファスナーを開け、ごそごそと中を漁り始めて─動きを止めた。
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61 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:03:51.26 ID:Vh0vyqXP0
穂乃果「なに、これ……」


ゲームの説明通りだった。

バックパックの中には、500mlのペットボトルに入った水が3本、携行食用のパンが4袋、小ぶりの黒い懐中電灯、スマートホンほどの大きさのディスプレイ、表紙に『ルールブック』と記された手のひらサイズの手帳、そして──穂乃果が今手にしている、『武器』が入っていた。

それは一見すると、緑色をした大きめの卵のようだった。

卵と異なるのは、表面がごつごつとした長方形に覆われていて、てっぺんに当たる部分から弓なりに突起のようなものが突き出ていることだった。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
62 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:04:44.59 ID:Vh0vyqXP0
穂乃果のバックパックの中から、ラミネート加工されたA4サイズの紙が滑り落ちた。

希はそれを拾い上げ、上から下へざっと視線を移動させた後に無言で穂乃果に手渡した。

紙の上部に無機質な文字でこう印字されている。


『手榴弾』


そこから下は武器の説明書きのようだった。

どの程度の威力があり、どの程度の範囲まで有効で、どれほどの殺傷能力があるのか。

ピンを外してから投擲までの一連の流れ、使用時の注意点に至るまで、誰が見ても理解できるように配慮された懇切丁寧な説明書きがびっしりと記載されていた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
63 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:07:24.85 ID:Vh0vyqXP0
穂乃果「そんな……」


右手から伝わる確かな重量は、それがおもちゃなどではないことを告げていた。


穂乃果「こんなの使ったら……本当に……」


そこから先は言葉にならなかった。

穂乃果は希の見立て通り、自分が殺されるかもしれないなどとは微塵も疑っていなかった。本当に殺し合いが始まるはずがないと、どこか他人事のように、あるいは楽観的に考えていたのかもしれない。

しかし、もしもこれほどの武器が全員に支給されていた場合は──穂乃果は背筋に寒気を覚えた。
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64 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:08:28.70 ID:Vh0vyqXP0
希は暗い目で穂乃果の様子を見守りつつ、自らのバックパックをあらためた。

中身は穂乃果の物とそう変わりはなかった。ただ唯一、手榴弾を除いては。

希のバックパックから出てきたのは─ビンだった。

表面にラベルでも貼ってあれば市販の漢方薬と何ら変わりはなかっただろう。もちろんビンの表面にラベルはなく、中はザラザラとした白い粉状の物で満たされている。

希はバックパックの中から、武器の説明が書かれた紙を取り出した。目を紙の上部へと走らせる。


『シアン化カリウム』
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66 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:09:34.63 ID:Vh0vyqXP0
聞き慣れない言葉だった。そのまま上から下へ文章を追って理解する。

要するにそれは強力な毒物のようだった。経口摂取することで相手を死に至らしめる──文章中には致死量や摂取してから効果が表れるまでの時間などが、手榴弾と同様懇切丁寧に解説されていた──毒物。


穂乃果「希ちゃん、それって…?」


穂乃果が不安そうに希を見た。

希は首を左右に振ってビンをバックパックへしまい込み、代わりにディスプレイを取り上げた。

画面上には上向きにNで方位が示され、縦横に走った線で区切られた島の形が表示され、そのほぼ中心部分に黒い点が点滅していた。どうやらそれが現在地を示しているらしい。地図の南東の端のみ赤く塗り潰されている。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
67 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:10:45.79 ID:Vh0vyqXP0
希「穂乃果ちゃん、もう少し登ってみよう」

穂乃果「え?」

希「高い所からぐるっと見渡してみれば、人探しもしやすくなると思わない?」

穂乃果「そっか……うん、そうだね。やっぱり、希ちゃんと会えて良かったよ」


それは自分のセリフだと希は思った。

穂乃果がいなければ、自分は果たしてどこまで冷静に行動出来ていただろう。

二人はバックパックを背負い込み、傾斜した道を山頂へ向かって歩きだした。

途中、穂乃果が呟くように言った。


穂乃果「本当に……起きたりしないよね? 殺し合い、なんて…」


希は穂乃果を一瞥しただけで、何も言葉を発しはしなかった。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
68 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:11:39.06 ID:Vh0vyqXP0
16:15 小原鞠莉





鞠莉「……はっ……はっ……」


鞠莉は周囲の音に全神経を集中させて、足音を立てないようゆっくりと歩みを進めていた。

移動を始めてからそれほど時間は経っていないが、心拍数が上がっているのが自覚できた。冷たい汗が背中を伝っていくのも分かる。

ゲーム開始の放送直後、聞いたことのない人間の声が聞こえてきた。

誰かを呼んでいるようだったが、鞠莉にとってはその内容がどんなものかなど、全くどうでもよかった。
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69 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:12:23.15 ID:Vh0vyqXP0
『知らない人間の声が聞こえた』


鞠莉にとってはその事実だけで充分な恐怖に値し、慌てて側に置いてあったバックパックを持ち上げて、傾斜を下へ向かって移動し始めたのだった。

声はさほど遠くない所から聞こえてきたような気がしたため、最初は走って移動していたが、すぐに思い直した。

誰かと鉢合わせるかもしれない──

『誰か』とは当然Aqoursのメンバーではなく、他のグループの誰かだ。

本来の鞠莉であれば、気さくに話しかけることが出来るはずであるが、今となっては恐怖の対象でしかなかった。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
70 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:13:15.74 ID:Vh0vyqXP0
グループ同士で殺し合いをする。

これも本来の鞠莉が聞けば、そんなことはありえない、馬鹿馬鹿しい、ジョークにしても趣味が悪い、と怒っていたことだろう。

しかし、何度も聞かされたイタズラ電話の内容が現実になり、聖良を目の前で失った鞠莉には、本来の思考回路は働かなかった。

ただただ、他のグループの人間と会うのが怖かった。そしてそれ以上に、早くAqoursのメンバーと会いたかった。


鞠莉「はぁ……はぁ……ここなら、少しは休憩できそうね…」


傾斜が緩やかになり、緑色が少し減ったように思えたところで、適当な木を背にして鞠莉はバックパックを地面に下ろした。

とにかく─喉が渇いていた。
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71 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:14:06.04 ID:Vh0vyqXP0
果南の練習メニューをこなした時より酷いわね、と頭の隅で考えつつ、バックパックを漁る。

水が入ったペットボトルを見つけ、急いでキャップをひねる。

得体の知れない何者かが用意した物であり、何か盛られているのではないかと逡巡するも、喉の渇きは耐えがたかった。

そのまま口を付けて、1/4ほどを飲み干す。

水分を補給すると、わずかながら心臓の鼓動は落ち着いてきたようだった。

鞠莉がペットボトルを戻そうとしたところで、それの存在に気がついた。
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72 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:14:49.00 ID:Vh0vyqXP0
それを見た時、鞠莉は小学生時代の図工の時間を思い出した。

果南とダイヤと何を作ろうかと頭を悩ませた思い出と一緒に。

先生が扱いには注意しましょう、危ないので人に向けてはいけませんと怖い顔をしていたことも。

ただ、どうやらそれは図工の時間に使うキリとは違うようだった。その証拠に刃の部分がずいぶんと長い。

それと一緒に見つけた、A4サイズの紙に目を通す。



『アイスピック』



そこから下の文章は、人体のどこを刺せば致命傷になりやすいか等、アイスピックで殺人を行うための方法が延々と続いていた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
73 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:15:48.08 ID:Vh0vyqXP0
鞠莉「うっ……」



鞠莉は口元を抑えて込み上げてくる吐き気を必死で押し留めた。

人間的な感情が一切感じられない、読んでいるだけで気分が悪くなる文章だった。

『これを使って人を殺せ』

ただただ淡々と、そのメッセージのみが伝わってきた。

これを作った人間の強い悪意にさらされ、思わず鞠莉が膝に手を突いた時──


がさっ、と茂みが揺れる音を聞いた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
74 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:16:27.97 ID:Vh0vyqXP0
鞠莉は弾かれたように顔をあげ、本能的にアイスピックを音のした方向へ構えた。

距離は20mほどだろうか。

鞠莉が構えたアイスピックを見て顔を強張らせながらも、相手はしっかりとこちらを見すえていた。


海未「待って下さい! 私はあなたに危害を加えるつもりはありません!」

鞠莉「あなたは……」


そこには両手を上げて敵意がないことをアピールしている、髪の長い少女がいた。

あの顔……

鞠莉は─今ではすっかり遠い記憶のようになってしまったが─合同ライブが決まった時にダイヤとルビィが興奮した顔で解説してくれた記憶を頭の中から引っ張り出した。

μ’sのメンバーだ。名前は確か──園田海未。
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75 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:16:59.78 ID:Vh0vyqXP0
海未「あなたはAqoursの小原鞠莉さんですね? お願いします、話をさせて下さい」

鞠莉「……! 来ないで!」

海未「……っ!」


海未が一歩を踏み出すと同時、鞠莉はアイスピックを顔の高さに構えた。

相手が敵意がないことをアピールしていても、今の鞠莉には警戒を解くことは出来なかった。


怖い、怖い、怖い……!


そんな鞠莉の様子を見て、ぐっと言葉に詰まったように顔を歪めつつも、海未は続ける。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
76 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:17:35.31 ID:Vh0vyqXP0
海未「私は──私は友達を探しているんです!」


海未「ここへ連れて来られる前、その友達の母親が目の前で殺されました! 側にいてあげたいんです! 私は─いいえ、私達μ‘sの誰も殺し合いなんてするつもりはありません!」


海未「私の武器は探知機です! これがあればあなたもAqoursのメンバーと合流できます! 協力して仲間を探しましょう! 信じて下さい─敵意はありません!」


海未は必死の形相で声を上げた。

どれほど無謀で、どれほど危険な行為かは海未自身自覚している。それでも殺し合いを避けるためには、各グループの協力、信頼関係が必要不可欠だと感じていた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
77 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:18:08.77 ID:Vh0vyqXP0
鞠莉「……仲間を……?」


海未の必死の説得が鞠莉の警戒心を僅かに緩め、アイスピックを掲げた右手が数cm下がった時──

鞠莉の後方から何かが空を舞い、木の葉を数枚散らした後、海未の立っている場所から数m前方へ落下した。

二人の目がそれを筒のような形をした何かだと認識した瞬間、筒から大量の煙が噴射された。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
78 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:18:56.60 ID:Vh0vyqXP0
煙は瞬く間に鞠莉の視界を埋め尽くし、海未の姿が見えなくなる。

何事が起こったのかと鞠莉が振り向くよりも早く、何者かに左手を強く引かれた。


曜「鞠莉ちゃん、こっち! 早く!」

鞠莉「曜!?」


驚きと安堵が同時に鞠莉の中に湧き上がる。しかし曜の表情は緩むことなく、鞠莉を掴んだ手には痛いほどに力が込められている。


曜「話は後! 煙吸い込まないように気をつけて、早くこっちに!」


海未が立っていた辺りから激しく咳き込む声が聞こえてくる。

曜はぐいぐいと鞠莉の手を引くが、鞠莉はその場から動けずにいた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
79 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:19:35.04 ID:Vh0vyqXP0
曜「何してるの鞠莉ちゃん! 早く……早く逃げなきゃ!」

鞠莉「っ……でも……」


鞠莉は海未の真剣な表情が頭から離れなかった。

あの子──園田海未の言葉が本当なら、協力し合うことが出来るなら、殺し合いは避けられるかもしれない……


曜「早く逃げないと……私たち……私たち、殺されちゃうよ!」

鞠莉「……あの子、言ってたわ。μ’sのメンバーの誰も、殺し合いなんてするつもりはないって」

曜「そんなの嘘に決まってるでしょ!? 早く……早く逃げようよ!」


曜の体はがくがくと震え、目が異様なまでに見開いている。

鞠莉と同じかそれ以上に深刻に、曜はAqours以外の人間に対して恐怖を感じているようだった。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
80 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:20:15.65 ID:Vh0vyqXP0
曜の考えにも一理あった。

もしも─手段を選ばずに生き残ることだけを考えるなら、先ほどの言葉が偽りである可能性も充分にありうる。

しかし─あの表情が偽りだとは鞠莉にはどうしても思えなかった。


私は、私は──


鞠莉の思考に生じた迷いは、本人の意志とは関係なしに断ち切られた。突然ぱんっ、と渇いた音が周囲に鳴り響いたので。


鞠莉「……え?」


音と同時に、鞠莉から数十cm横、細い枝が音を立てて弾けた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
81 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:20:50.80 ID:Vh0vyqXP0
曜「走って!! 早く!!」


曜が気が狂ったように声を上げて、半ば引きずられるような形で走り出しても、鞠莉が何が起こったのかを理解するまでには数分間の時間を要した。


自分に向けて銃が放たれたのだと分かった瞬間──全身の血が凍りついたような心地がした。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
82 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:23:14.50 ID:Vh0vyqXP0
16:25 葉月恋




恋はゲームは好きだったが、銃を撃つゲームは苦手だった。というより、誰かを倒したり、傷つけたりするようなゲームが嫌いだった。

架空の出来事とはいえ、見ていて気分が良いものではない。

それはきっと母を亡くしたことに起因しているのだろうと、本人もよく分かっていた。

あの時の、心にぽっかりと大きな穴が空いてしまったような感覚。

今でも埋まることの無い大きな空洞を意識してしまうから、そういったゲームは避けていた。
【ss】穂乃果「バトル・ロワイヤル」
83 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:23:52.34 ID:Vh0vyqXP0
テレビゲームでさえそうなのだから、死亡事故や殺人事件のニュースが流れるたびに胸は痛んだ。

自分と同じように心に傷を負った人が大勢いると思い、知らず知らずのうちに涙を流していたこともある。

そんな恋にとって、殺し合いなど想像することも出来なかった。

自分が誰かに殺されることも、ましてや自分が誰かを殺すことなどありえない。

そう確信していたからこそ、恋はゲーム開始時に声が聞こえた方向へと迷わず向かっていくことが出来た。
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84 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:31:22.14 ID:Vh0vyqXP0
途中でバックパックの存在を思い出し、中から拳銃が転がり落ちてきた時も恋は落ち着いていた(説明書きを見ればブローニング・ハイパワーという名称の銃であることが理解出来ただろうが、もちろん恋にそんな余裕はなかった)。


大丈夫、こんなものを使おうと思う人なんているわけがない。だって、当たった相手は死んでしまうから。人が死んでしまうのは、とてもとても悲しいことだから。


自分に言い聞かせるように「大丈夫大丈夫」と呟きながら、恋は足を進めて行った。

そして、見覚えがある顔が二つ向かい合っているのを見た。

可可さんとメイさんが教えてくれました、あれはμ’sの園田海未さんと、Aqoursの小原鞠莉さんです。

何だか二人とも怖い顔をしていますが、いけません、仲良くしなければ。
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85 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:32:24.96 ID:Vh0vyqXP0
恋が二人に声を掛けようと一歩を踏み出そうとした直後、海未と鞠莉の間に筒状の物が落下し、恋の視界は閉ざされ、間髪入れずに銃声が鳴り響いた。


乾いた銃声の音は正気を失いかけていた恋の意識を揺り起こし、我に返った恋は──恐怖に顔を引き攣らせながらも、来た道を戻るように必死で走り出した。
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86 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:35:51.46 ID:Vh0vyqXP0
16:30 矢澤にこ






海未「げほっ! げほっげほっ!」

にこ「痛みがあるのはどこ!?」

海未「目が……目が痛いです……げほっ!」

にこ「急いで洗い流しなさい! 両手だして!」


海未は言われるがままに両手で器を作り、にこがそこへペットボトルの水を注いだ。

海未が目を洗い終えるのを待ってから、にこが話しだした。
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87 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:37:02.81 ID:Vh0vyqXP0
にこ「なんであんな無防備な真似したのよ!? 向こうが持ってた物によってはあんた今頃…」

海未「げほっ……危険な行為だったのは重々承知です。しかし、どちらかが歩み寄らなければ…ゲホッ」


海未の目からは涙が流れ続け、まだ痛みがあるのか開く事も難しいようだった。

それでも海未にはどうしても確認しなければならない事があった。


海未「先ほどの銃声は……にこが?」

にこ「……そうよ」


にこが右手を差し出す。海未は痛む目を何とか開き、ぼやけた視界に小ぶりの黒い拳銃が映るのを見た。

にこのバックパックの中の説明書きを読めば、『ベレッタ ナノ』という種類の拳銃であることが分かるが、海未にとっては当然ただの拳銃でしかなかった。
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88 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:37:48.10 ID:Vh0vyqXP0
海未「……」



どうして、という言葉を何とか海未は呑み込んだ。

にこが自分を助けようとして、威嚇のつもりで撃ったのは明らかだった。煙から逃してくれるために、開かない目の代わりに自分を誘導してくれたのもにこなのだ。

発砲したことに対して疑問を口にするのは、あまりにも恩知らずに過ぎる。


しかし──これでAqoursのメンバーと協力することはほぼ不可能になったといえた。小原鞠莉と、もう一人いたらしい誰かとは、話をすることすら出来ないだろう。

次に顔を合わせた時に何が起こるかは──想像したくもなかった。
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89 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:38:34.90 ID:Vh0vyqXP0
にこ「……」



にこは右手の拳銃に目を落とした。

バックパックの中からこれを見つけた時、実際に引き金を引くことになるなど到底考えられなかった。


ゲーム開始時点──にこは動揺しつつも冷静さを失ってはいなかった。

まずは自分がどこにいるのかを確認し、視線の先で木々の覆いが終わり、そこから先が砂浜になっているらしいことを悟った。

砂浜へ出るのは危険に思われた、見通しが良すぎるのだ。本当に殺し合いが起こるなどと確信していた訳ではないが──砂浜は避け、島の外周を回ってみることに決めた。

島の大きさがどれくらいで、脱出が本当に不可能なのかを確認したかった。
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90 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:39:33.12 ID:Vh0vyqXP0
海沿いに、にこは慎重に歩みを進めて行った。

右手に持った拳銃が忌々しくも、心強く感じた。撃つつもりなど毛頭なく、脚を前に出すための支えが欲しかった。


数十分後、海未の姿を見た。

その姿が煙のような物─にこは初めそれを毒ガスだと認識した─で覆われた時、にこの心に、これまでの人生で経験したことのない感情が渦巻いた。

吸わないように注意し、海未を煙の中から引っ張り出した後──


煙の先、海未に危害を加えた人間がいる場所へ向けて、引き金を引いていた。

迷いも躊躇も、一切なかった。
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91 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:41:45.32 ID:Vh0vyqXP0
海未「……ケホッ」


煙が噴射された場所から僅かに距離があったためか、あるいは水で洗い流したのが効果的だったからか、数分後には海未は目を開ける事が出来るようになっていた。


にこ「さてと……あんたの武器、探知機って言ってたわね。あれ、方便じゃないのね?」

海未「はい、支給された端末に取り付けると周囲にどのグループのメンバーがいるか分かるようになります。グループごとに表示される点の色が変わるんです」


海未は自分の端末をにこに見せた。

上部に小さな長方形の部品が取り付けてある。

画面上には島の地図、ちょうど真ん中の西の端にピンク色の点が二つあった。これがにこと海未を示しているようだ。


海未「探れるのは半径100m程のようですが…」


海未が鞠莉に対して語った言葉は全て真実だった。


ゲーム開始時、海未は穂乃果の声を聞いたような気がした。

異常な状況に陥った事により幻聴を聴いたのかとも思ったが、ともかくまずはそちらへ向かおうと思い立ち─Aqoursのメンバーを示す青い点を画面上に見つけたのだった。
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92 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:42:33.47 ID:Vh0vyqXP0
にこ「充分でしょ。それがあれば他のグループと鉢合わせる事もなさそうだし、皆とも合流出来る」


にこは海未の端末にもう一度目をやり、画面上に他の点がない事を確認した。


にこ「一度ぐるっと島を一周してみようと思ってたのよ、海未もそれでいいわね?」

海未「もちろんそれで構いません。ですが─」

にこ「?」

海未「もし、AqoursやLiella!のメンバーを見つけた場合は…」

にこ「……まだ説得しようとか思ってるんじゃないでしょうね?」

海未「っ……」

にこ「いい? もし仮にあんたが話しかけた人間に、私が今持ってるような物が支給されてて、そいつが『その気』になってたとしたら?」

海未「それは……!」

海未は黙って唇を噛み締め、返す言葉を探しているようだった。
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93 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:43:31.02 ID:Vh0vyqXP0
結果的に無事だったとはいえ、つい先ほど─海未は殺されていてもおかしくなかった。それでも、まだ他のグループとの協力を諦めていない。

お人好しが過ぎる、とにこは思った。


にこ「とにかく、今は皆と合流すること。それが最優先。さ、行くわよ」


黙ったままでいる海未に言い聞かせるように宣言して、にこは歩き出した。少し遅れて海未も歩き出す。
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94 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:44:40.66 ID:Vh0vyqXP0
歩きながら、にこは自分が言った言葉に自分で疑問を投げかけた。




皆と合流して……その後は?

島からの脱出が不可能だと分かった時は……?


皆が無事だったことが分かって良かったわ。さぁ、さっさとこんな島から出て音ノ木坂へ帰るわよ!

でも、音ノ木坂に帰るためには……?

『期限は2日間、最後に生き残っていた人数が最も多いグループが勝者となります』──

帰るためには、他のグループのメンバーを……




にこの右手に、先ほど引き金を引いた時に感じた衝撃が蘇り、無意識のうちに銃を握る手に力がこもっていた。
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95 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:45:35.53 ID:Vh0vyqXP0
16:45 津島善子






善子「おっ、なんか奥に入ってるわね」


善子は膝を折り曲げ、両開きの戸棚を覗き込んだ。そして物が乱雑に詰め込まれた戸棚の中、奥の方へ向けて手を伸ばした。


善子「くっ……むむむ……っ……よし、ゲット!」


善子が苦労の末、右手に掴んだ缶詰を掲げようと立ち上がりかけたところで─がしゃん、と派手な音がした。


善子「っっっ……!!」


戸棚の上部に頭を打ちつけた善子は、両手で頭を抱えてうずくまった。
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96 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:46:30.35 ID:Vh0vyqXP0
すみれ「何やってんのよあんた……ちょっと、大丈夫?」

その様子を見ていたすみれが呆れ半分、心配半分の表情で声をかけた。

善子「よ、余裕よ! 見なさい、私が身を挺して手に入れた戦利品よ!」

善子は涙目になりながら、戸棚の奥から見つけた缶詰をすみれに見せつけた。

お湯で温めてから食べるタイプの、クラムチャウダーの缶詰だった。

すみれ「はいはい、ご苦労様。火が必要みたいね、カセットコンロとかあればいいんだけど…」

すみれは呟き、善子は頭を抑えながら、再び屋内を物色し始めた。
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97 :名無しで叶える物語(しまむら) (ワッチョイ 25cf-SdSZ [180.131.205.7])[sage]:2023/09/19(火) 02:47:30.94 ID:Vh0vyqXP0
二人は今、島の最北端に位置する小さな灯台の中─より正確に言えば、その中のキッチンのようなスペースにいた。

キッチンとはいっても、冷蔵庫も電子レンジもない、収納用の戸棚がいくつかと、粗末なテーブルが申し訳程度に置いてあるだけの、ほとんど物置のような場所だったけれども。

それでも、戸棚の中にはいくらかの食料品が用意されているようだった。善子が見つけた缶詰に続いて、すみれも非常色用のパウチ食品を発見したので。


善子「! すみれ、カセットコンロあったわよ!」

善子が戸棚の中で声を上げた。

すみれ「ホント!?」

驚いたすみれも素っ頓狂な声を上げる。正直、そんなものまで見つかるとは予想していなかった。
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