- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
1 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:44:07.51 ID:xhEhFjfD - ようりこSS
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
2 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:44:37.53 ID:xhEhFjfD - ———
梨子(20)(拝啓 千歌ちゃんへ) 梨子(私の声、届いてますか?) 梨子(あの日、千歌ちゃんと私、最期に約束したよね?) 梨子(その約束を、ようやく果たせる時が来そうです) ……… …
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3 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:45:36.66 ID:xhEhFjfD - 大学3年生 5月
曜(21)(扉を開けると、そこに立っていたのは、懐かしさを漂わせた女性だった) 梨子(20)「やっと、見つけた……」 梨子「久しぶり、曜ちゃん」 曜「え、あ……梨子、ちゃん、なの?」 曜「嘘……どうして、ここが……」 梨子「立ち話もアレだし、上がらせてもらうわね?」 曜「待ってよ!まだいいなんて、言って……」 梨子「じゃあダメなの?」 曜「……」 梨子「拒まないってことは許可を頂けたってことね。おじゃましまーす」ガチャッ 曜「あ、ちょっと!勝手に!」
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4 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:46:28.27 ID:xhEhFjfD - 梨子「…ひどく殺風景な部屋ね」
梨子(趣味はもちろん、大切にしてる物も何もなさそうで、生きるための最低限の住まいって感じ……) 梨子(ま、それも仕方ないか……あんなことがあった後だもんね……) 梨子「はい、これ。お酒とおつまみ。曜ちゃんの好みに合わせて、適当に買ってきたから」 曜「いや、私、お酒は飲まないんだけど……」 梨子「あら、そうなの?少し意外ね」 梨子「じゃあこのお酒は冷蔵庫に入れとくわね。また次来た時に頂くから、冷やしといてね」 曜(か、勝手に、他人の家の冷蔵庫を……) 曜「だいたい!何しに来たの!梨子ちゃんにとって私はもう!何も関係ないはずじゃん!」 曜「そもそもどうやってこの家を特定したのさ!私、沼津を出た時、誰にも何も言わないできたから、わかりっこないのに!」 曜(そう、私は……逃げたんだ、あの時) 曜(崩れそうな心を繋ぎとめるために、現実から目を背けるために) 梨子「うーん、どこから話そっかな……」
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5 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:48:04.18 ID:xhEhFjfD - 梨子「まず二つ目の質問の答えだけど……別に、誰かに曜ちゃんの居場所を聞いてここまで来たってわけじゃないから、安心していいよ?」
梨子「私が人伝てに曜ちゃんっぽい人の情報を集めて、独自の調査でたどり着いたって感じかな?」 曜「それって、立派な犯罪なんじゃ……」 梨子「そうかもね。でも曜ちゃん別に私を訴えたりなんてしないでしょ?曜ちゃんが私に甘いことくらい、私だって知ってるんだから」 曜「……」 梨子「次に一つ目の質問の答えだけど、一番の目的は、生存確認ってところかな?」 梨子「だから今日は曜ちゃんが生きてることをこの目で確かめられただけで大満足よ。」 梨子「だから目的も果たしたし、今日はもう帰ろうかしら?」 曜「うん、そうしてくれると助かる」 曜(……) 曜(いったい何が起こってるの?私はただ、平穏な日々を過ごそうとしてただけなのに。梨子ちゃんのせいで……)
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6 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:49:44.89 ID:xhEhFjfD - 梨子「あ、そうだ曜ちゃん。連絡先だけ交換しましょ?」
曜「……なんでそんなことしないといけないのさ。梨子ちゃんに連絡しなきゃいけないことなんて、もう何もないのに」 梨子「曜ちゃんがなくても、私にはあるの。それにどんな手段を使っても、絶対にまた会いに来るから、抵抗は無駄よ?」 曜「……」 ピロリン 梨子「…うん、これでよしっと」 曜(……結局流されるままに交換してしまった) 曜「……悪用したら許さないからね」 梨子「安心して。果南ちゃんたちに流すだなんてそんな悪趣味な真似はしないから。それにそんなことしたら、曜ちゃんを独り占めできなくなっちゃうし♪」 曜(……だろうね。もし果南ちゃんに居場所がばれたら、次に殺されるのは私の方だもん) 曜「……住所特定とかいうもっと悪趣味なことの実行犯に言われても、信用できないんだけど」 梨子「でも曜ちゃんは私ってだけで信頼してくれる。だって曜ちゃんは、そういう人だもん」 曜「……」 曜「……別に私は梨子ちゃんのこと、特別な関係だなんて思ってないから。今も、昔も」 梨子「……」 梨子「ふーん。まあいいわ」 梨子「じゃあね曜ちゃん、またね」 曜「うん、さよなら、梨子ちゃん」 曜(……こうして、私と元カノとの再会は、半ば必然的イベントとして発生しました)
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7 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:53:15.06 ID:xhEhFjfD - ———
曜(17)『あのっ!私!ずっと千歌ちゃんのことが好きで!』 曜『だから……その……』 曜『私と、付き合って下さい!』 千歌(17)『……?』 千歌『ずっと、好き、って……その、恋人としてってこと?』 曜『う、うん……そう、だけど……』 千歌『ええっ!?曜ちゃんが!?』 千歌『……』
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8 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:54:11.80 ID:xhEhFjfD - 千歌『そ、その、私、曜ちゃんのことそういう風に見れないっていうか、ほら、私たちって幼馴染だし……』
千歌『だから、付き合うとか、その、そういうことは、出来ないっていうか……』 千歌『だから、ごめんなさい』 曜『ち、千歌ちゃん……』 曜『そ、そうだよねー……普通、女の子どうしで付き合うとか、考えられないよねー……』 曜『だから、千歌ちゃん、この話はなかったってことで!』 千歌「あっ、曜ちゃん待って!」 曜『じゃあ千歌ちゃん、私用事あるから!』ダッ 曜(……) 曜(高校2年生の春、私は千歌ちゃんに振られた) 曜(しばらくすると私たちは高校3年生を迎え) 曜(ほどなくして、私は学校に行けなくなった) 曜(そんな折に言い寄ってきたのが、あの、桜内梨子という女だ……) ……… …
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9 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:55:33.01 ID:xhEhFjfD - 高校3年生 6月
曜の部屋 コンコン 梨子「曜ちゃん、私よ。梨子です」 梨子「……開けて、欲しいな?」 曜「……」 梨子「……」 梨子「入る、わね?」 ガチャッ 梨子「曜ちゃん……よかった、生きてる、のね……」 曜「梨子ちゃん……そりゃ、まぁ、生きてる、よね……」
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10 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:56:55.09 ID:xhEhFjfD - 梨子「曜、ちゃん……」
梨子「曜ちゃん!」ガバッ 曜「えっ!?梨子ちゃん!?……いきなり抱き着かれると、苦しいよ〜」タハハ 梨子「曜ちゃん!もうっ、私、心配で心配で……今まで顔も見せてくれなかったから……」 梨子「だからお願い、もう少しだけ、このままでいさせて……」ギュッ 曜「……」 曜(梨子ちゃんのハグ、とってもあったかい……) 曜(こんなに私のこと、考えてくれてたんだ……) 曜(……) 曜(ってか私のこと想ってくれてる人がいるなんて……) 曜(大切な幼馴染だって思ってた人だって……私のこと……) 曜「……」ズキリ 曜「……ねえ梨子ちゃん、そのままでいいから聞いて?」 梨子「なあに、曜ちゃん?」 曜(だめ、だめなのに……これ以上踏み込んだら、もう……) 曜「……梨子ちゃんはさ、私のこと必要だって、思ってくれてる?」
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11 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:57:53.95 ID:xhEhFjfD - 梨子「も、もちろんよ!曜ちゃんは私の憧れで!それは昔も今も変わらないんだから!」
梨子「だ、だから!軽々しく、自分は必要ないんじゃないかとか、考えないでよ!曜ちゃんがいてくれてるから、私……」 曜「梨子、ちゃん……ありがと……」 梨子「だ、だから、曜ちゃんのこといつも見てる人がいるんだってこと!それだけは……」 梨子「覚えておいて欲しい……」 曜「……」 曜(どうして梨子ちゃんは、私に手を差し伸べてくれるんだろう……) 曜(ああ、梨子ちゃんは本当に優しくて、ずるいよ……) 曜(そんなこと言われたら、私— 曜(ほんとはだめだって、わかってるのに……だって私は千歌ちゃんのこと— 梨子「曜ちゃん……」 梨子「私、いつまでも、待ってるから、曜ちゃんのこと」
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12 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:58:40.46 ID:xhEhFjfD - 後日、学校にて
梨子「あ、曜ちゃん……学校、来てくれたんだ……」 曜「うん!梨子ちゃんのおかげで、少しは元気になれた、から……」 梨子「もうっ、私は何もしてないよ。元気になれたのは元々曜ちゃんが強かったからと、曜ちゃん自身の努力のおかげだよ?」 曜「ふふっ、梨子ちゃんは優しいね。じゃあそういうことにしとくよ!」 曜(そう、梨子ちゃんは優しい。本当に。それこそ私が依存してしまうくらいに……) 梨子「うん、ありがと、曜ちゃん」 キーンコーンカーンコーン 梨子「行こっ?授業始まっちゃうよ?」 ……… …
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13 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 16:59:27.47 ID:xhEhFjfD - 別の日
梨子「よ、曜ちゃん……//きょ、今日は早起きして曜ちゃんのためにお弁当つくってきたから……//」 梨子「た、食べて、欲しいな……//」 曜「え、食べる食べる!ありがと梨子ちゃん!」ハグッ 梨子「よ、曜ちゃん!?//」プシュー 曜「じゃあ早速!いっただっきまーす!」 曜「うわぁ!!おっきなハンバーグ!おいしそー!!」 梨子「う、うん、曜ちゃんの好みに合わせて、作ったつもり、だから……///」 梨子「ど、どう?美味しい?」 曜「うん!すっごく美味しい!ありがと梨子ちゃん!」 梨子「よ、よかったあ……」ホッ
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14 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:00:57.77 ID:xhEhFjfD - 曜(……)
曜(ずっと気になってたんだけど……梨子ちゃんはどうしてこう私に優しくしてくれるんだろう?) 曜(梨子ちゃんは可愛いし、こういう女子力だって完璧なんだから、私なんかとは釣り合わないだろうし、それにもっといい人だってたくさんいるだろうし……) 曜(……) 曜(……それこそ千歌ちゃん、とか) 曜(……)ズキリ 曜(でもそんな梨子ちゃんの優しさが本当にありがたくて、つい、甘えてしまいたくなる) 曜(きっと梨子ちゃんなら、私のこと……受け入れて……) 曜(……) 曜(はぁ……、ダメになりそう) 梨子「……曜ちゃんどうしたの?暗い顔して。もしかして嫌いな物入ってたとか!?」 曜「ううん、そんなんじゃないよ。ただちょっと考え事をしていただけで……」 梨子「考え事?」 曜「うん……」
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15 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:02:18.95 ID:xhEhFjfD - 曜「……」
曜「梨子ちゃんは、さ。どうして私に優しくしてくれるわけ?」 梨子「えっ!?どうしたの曜ちゃん、急に」 曜「あっ、ううん!なんでもないよ!」 梨子「……」 梨子「……そうね」 梨子「曜ちゃんのことが好きだから、かな?」
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16 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:02:47.22 ID:xhEhFjfD - 曜(ふえっ!!?)
梨子「うん、私、曜ちゃんのこと、大好きだもん」 梨子「……って、もうっ!言わせないでよ!こんなこと!恥ずかしいんだからっ!!///」カオマッカ 曜「ええっ!?わ、私のせいなの!?」 梨子「……」カアアアッ 曜「……」 曜「…じゃあ梨子ちゃん」 曜「付き合っちゃおっか。私たち」
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17 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:03:39.85 ID:xhEhFjfD - 曜「私の中にも梨子ちゃんとお付き合いしてみたいって気持ちはあるから、梨子ちゃんがいいなら、私はそうしたい、かな」
曜「それでいい、梨子ちゃん?」 梨子「はい……よろしくお願いします……///」 ……… …
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18 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:04:46.38 ID:xhEhFjfD - ———
曜(21)(梨子ちゃんに告白された時のことは、今はもうあんまり覚えていない) 曜(梅雨の寒空の下だった気もしなくもないし、カラッとした夏晴れの日だったようにも思える) 曜(ただ一つ思い出せることは) 曜(……) 曜(……私が梨子ちゃんを利用してしまった、ということ) 曜(傷ついた心を癒すために、代わりを求めていたという罪悪感だけ) 曜(最悪だ。自分の弱さに吐き気がする) 曜(梨子ちゃんと会うたび、この事実が脳裏をよぎり) 曜(まるで弁済を、追及されているかのようだ) 曜「……」 曜(……私には、わかる。あの女は、どんな手段を使ってでも、再び私の前に現れる。自らの目的を、果たすために) 曜(桜内梨子とは、そういう女だ) 曜(はあ……どんな顔して会えばいいんだろ……) ……… …
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22 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:26:41.78 ID:xhEhFjfD - 曜(21)(再会の日は、意外とあっけなく訪れた)
ピロリン ——— 梨子:曜ちゃん!明日空いてる? 梨子:空いてるわよね。だって曜ちゃんが飛び込みやめちゃったことくらい、把握してるんだから 曜:別に、私に用事がないことと、梨子ちゃんと会うことの間には、何の関連性もないと思うけど 梨子:その返事は空いてるってことね。了解 梨子:じゃあお昼前には行くから!女の子を迎え入れるのにふさわしい部屋にしていくように! ——— 曜「……」 曜(はあ……こいつはなんて図々しいんだろう……) 曜(これじゃあまるで、あの時みたいだ……) 曜(私が弱さを隠しきれず、弱みにつけ入られた、あの時のように—— 曜「……」 曜(準備、とは言っても私の部屋には見られて困るようなものなんて何もないし……) 曜(それに、そういうものの類は、あの時思い出と一緒に全部ゴミ箱に捨ててしまった) 曜「……」 曜「……少し掃除くらいは、しとくかな」
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23 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:27:27.59 ID:xhEhFjfD - 翌日
ピンポーン ガチャッ 梨子「あら、素直に開けてくれるのね。ちょっと見直したわ」 曜「……どうせ居留守を使っても、しつこく訪ねてくるくせに」 梨子「ふふっ、よくわかってるじゃない。さすが曜ちゃん」 曜「……で、用件は何?」 梨子「ずいぶん短気なのね。もう少し余裕を持った態度でいないと、モテないわよ?」 曜「モテ……うるさい!梨子ちゃんには関係ないでしょ!」 梨子「それもそうね。とにかくあがらせてもらうから。おじゃましまーす」 曜「……」 梨子「曜ちゃん、お昼ご飯まだでしょ?作ってあげようと思って材料買ってきたから、キッチン借りるわよ」 曜「いい。昼食くらい、自分でなんとかできるから」 梨子「でも曜ちゃんほとんど自炊してないんでしょ?この前キッチン確認したとき、ほとんど形跡が見られなかったし」
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24 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:28:03.42 ID:xhEhFjfD - 曜「それは、そうだけど……」
梨子「たまには人の手料理も食べなきゃ、体に悪いわよ?それに……」 梨子「私が手料理上手ってこと、曜ちゃんが一番わかってるんじゃないの?」 曜「……」ズキッ 曜「……うるさい。昔のことなんて、関係ないでしょ?それにもう私、昔のことは全部忘れるようにしたから」 梨子「ふーん……。まあいいわ、ちょっと待っててね。すぐに作っちゃうから」 ……… …
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25 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:28:46.37 ID:xhEhFjfD - 梨子「はい!おまたせいたしました!」
曜「……」 曜(やっぱり料理上手いな、梨子ちゃん……) 梨子「どう?すごいでしょ!」フッフーン 梨子「自信作なんだからね!さあ食べて食べて!」 曜「…いただきます」パクッ 曜(!!!) 曜「おい、しい……」 梨子「そう、ならよかったわ」 曜(なんだろ……言葉にはしづらいけど……) 梨子「私も食べよっかな〜、いっただきま〜す!」 曜(心が満たされていく、って言えば、いいのかな……?) 曜(すごく、あったかい) 梨子「ん〜おいしいっ♪うん、美味しくできてるっ♪」 曜(こういうの、すごく久しぶり、だな) ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
26 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:31:08.08 ID:xhEhFjfD - 曜「……ごちそうさまでした」
梨子「はい。お粗末様でした」 梨子「片付け私がやっとくから、曜ちゃんは休んでていいわよ?」 曜「えっ、いいよ。なんか悪いし。それくらい私もできるし」 梨子「いいからいいからっ♪私のワガママなんだから、これくらい許してよ、ねっ?」 曜「……」 曜「じゃあ……お言葉に甘えて……」 梨子「うん♪甘えて甘えて♪」 曜(……) 曜(はぁ………) 曜(また、梨子ちゃんに甘えちゃったな) 曜(……) 曜(もうこういうことにはならないって決めたのに、誰にも心は許さないってあの時誓ったのに) 曜(また私は、同じ過ちを繰り返そうとしている) 曜(自己嫌悪で、反吐が出そうになる) 曜(成長しないんだな……私は……) 曜(きっと私は、いつまでたっても……) 梨子「……」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
27 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:32:13.29 ID:xhEhFjfD - 梨子「ねえ、曜ちゃん?」
梨子「また難しいこと、考えてるんでしょ?」 曜「……別に。梨子ちゃんには関係ないでしょ。これは私自身の問題だから」 梨子「曜ちゃんがそう言うのなら、そうかもね。でも……」 梨子「……」 梨子「本当は、誰の問題だとか、誰の目標だとか、誰の失敗とか……そういうのってないのかもねって、私は思うんだ」 梨子「誰かと何かを成し遂げるってことは、そんな簡単な問題じゃないと思うの」 梨子「だから困ったときは分け合って、押し付けて、逃げ出しちゃっても、いいんじゃないかな?」 梨子「それが、誰かと生きるってことだと思うから」 曜「……」 曜「誰かと、生きる、こと……」 梨子「はい!だからこの話はここでお終い!大切なのはこれからのことだから、これからのことを考えましょう」
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28 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:33:15.90 ID:xhEhFjfD - 梨子「あっそうだ曜ちゃん!」
梨子「午後も空いてるわよね?……はいこれ」ガサゴソ 曜「……なにこれ、映画のチケット?」 梨子「そう。本当は大学の友達と行こうって思ってたんだけど、どうにも予定が合わなくて……」 梨子「だから代わりに、付き合ってくれるかしら?」 ……… … 曜(結局、言われるがままについてきてしまった……) 梨子「映画、意外と面白かったわね。劇伴のメロディが綺麗で、感動しちゃった」 曜「うん……」 曜(……わからない。自分は楽しめていたのかどうか) 曜(なんせ娯楽という娯楽はこの二年間ほとんど触れていなかったし、ただ食べることと寝ることを繰り返していた日々だ。楽しいなんて感情は、とうの昔に捨ててしまった) 梨子「あのクライマックスシーンは反則よね〜、思わずキャッって言葉が出ちゃうとこだったわ」 曜「そうだね……」 曜(それでも……) 曜(なんでだろ……悪い気分では、なかったな)
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29 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:34:11.83 ID:xhEhFjfD - 梨子「……もしかして曜ちゃん、こういうストーリーは苦手だった、とか?」
曜「ううん、そんなことない、はず、ただ……」 曜「こんな気持ちになることが、久しぶりすぎて、どう反応したらいいのか、わからなくて……」 梨子「……ふーん。曜ちゃん、そういうときにはね」 梨子「素直に『ありがとう』でいいのよ?」 曜「……」 曜「……うん、梨子ちゃん、ありがとう」 梨子「ふふっ、どういたしまして、曜ちゃん!」 梨子「じゃあ私、こっちだから!」 梨子「曜ちゃん!また遊ぼうね!」
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30 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:36:07.90 ID:xhEhFjfD - ———
曜(………) 曜(また、梨子ちゃんの優しさにすがってしまった) 曜(梨子ちゃんの優しさがどこから来るものなのかはわからない、だからこそ……) 曜(私は彼女の甘い罠から、逃げることができない) 曜(本当に、狡猾な人だと思う) 曜(……でも、いや、だからこそ) 曜(それに身を委ねることは、本当に心地が良くて) 曜(どこまでも、堕ちてゆきそうだ……) ……… …
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31 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:37:10.46 ID:xhEhFjfD - ———
高校3年生 10月 梨子「はぁっ……はぁっ……ごめんなさい曜ちゃん、少し遅くなっちゃって……」 曜「ううん、大丈夫!私も今来たところであります!」 曜「行こっ!梨子ちゃん!深海魚の世界が、私たちを待ってるよ!」 沼津港深海水族館 梨子「それで、曜ちゃん、今日はどうして、私をここに誘ってくれたの?」 曜「いつも私たちのデートって基本的に梨子ちゃんから誘ってくれてるでしょ?だからたまには、私の方から誘った方がいいかなって……いつものお礼も兼ねて……」 梨子「曜ちゃん……」 曜「あっ、もしかして梨子ちゃん!深海魚苦手だった?ごめん、気が付けなくて……」 梨子「ううん、そんなことないよ。むしろ嬉しい。曜ちゃんが好きな場所に連れて行ってくれること、今までなかったから……」 梨子「だから今日は、思いっきり楽しみましょ?」 ……… …
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32 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:38:00.62 ID:xhEhFjfD - 梨子「驚いたわ……海の底には、あんなにもたくさんの魚が暮らしてるのね……」
曜「うん!それにね!あそこは全国的にもとても珍しい、深海魚に特化した水族館なんだよ!」 梨子「確かに、東京でも、深海魚の展示はあまり見なかったような……」 曜「沼津は恵まれた地形なんだ!日本一の深さを誇る駿河湾に面していて、漁でもよく深海魚が引っかかるんだって!」 梨子「へ〜……さすが曜ちゃん、海のことは詳しいわね……」 曜「へへーん!実は今日のためにいっぱい勉強してきたんだ!」 曜「あっ、そうだ梨子ちゃん!あそこの喫茶店で少しお茶して行こうよ!」
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33 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:38:30.02 ID:xhEhFjfD - 曜「梨子ちゃんは何がいい?私は……コーヒーでも、挑戦してみようかな?」
梨子「じゃあ私は……アイスティーを頂こうかしら」 曜「了解であります!すみませーん!」 梨子(良かった……曜ちゃんすっかり、元通りみたい……) 梨子(これなら、きっと、千歌ちゃんのことも……) 曜「ん?梨子ちゃん、どうかしたの?」 梨子「……ねえ曜ちゃん、大事な話があるの」
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34 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:39:07.95 ID:xhEhFjfD - 曜「えっ!?何、大事な話って?」
梨子「……千歌ちゃんのことなんだけど」 曜「うっ……」ズキッ 曜(千歌ちゃんのこと、か……) 梨子「……」 梨子「お願い曜ちゃん。千歌ちゃんのこと、これ以上避けないであげて……」 梨子「千歌ちゃんも最近ずっと、曜ちゃんと前みたいに楽しくお話できる関係に戻りたいって思ってるみたいで……」 梨子「わ、私もまた!三人の楽しい関係に戻りたいって思ってるから……」 梨子「だ、だから、その……」
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35 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:39:42.03 ID:xhEhFjfD - 曜「……」
曜「あ、あはは……そうだよね……」 曜「ごめんね梨子ちゃん、私も、頑張ってみる、から……」 梨子「……」 梨子「うん……ありがと、曜ちゃん……」 曜「……」ゴクッ 曜「……にがっ」ボソッ 曜(憧れで手を出したコーヒーの苦みは、しばらく胸の中から離れなかった) ……… …
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36 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:40:37.21 ID:xhEhFjfD - 帰り道
曜「……」 梨子「……」 曜「……じゃあ私、こっちだから……またね、梨子ちゃん」 梨子「ま、待って!」ギュッ 梨子「……曜ちゃんお願い……私たちの三人の関係を修復できるのは、きっと曜ちゃんだけだと思うから」 梨子「無責任とは思うけど……こ、これは、千歌ちゃんだけじゃなくて、私の願いでもあるから……」ギュッ 梨子「だから、お願い……」 曜「……」 曜(……千歌ちゃんのことは、梨子ちゃんの口からは聞きたくなかった) 曜(梨子ちゃんといる間は千歌ちゃんのことは忘れられて……梨子ちゃんは、私を梨子ちゃんの色で満たしてくれるから……好きだったのに) 曜(こんな梨子ちゃんなんて……) 曜「………」 曜「ねえ、梨子ちゃん」 曜「キス、して欲しい」
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37 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:41:35.57 ID:xhEhFjfD - 梨子「えっ!!?///キス!!?///」
曜「うん……ほら、私たちってもう付き合ってまあまあ経つじゃん?だから……」トントン 梨子「えっ!?//それは、そうだけど……///」 曜「だから、ほら、お願い」ズイッ 梨子「よ、曜ちゃん……」 梨子(よ、曜ちゃんの唇が、近づいてきて……///わ、私のと重なりそうで……///) 曜「……」スーッ 曜(お願い梨子ちゃん。私を梨子ちゃんで、いっぱいにして?千歌ちゃんのことなんて忘れさせてくれるくらいに……) 曜(私に甘い夢だけを、みせてよ?) ……… …
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38 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 17:42:54.13 ID:xhEhFjfD - 梨子「だ、だめぇっ!!!///」
ドンッ 曜「梨子、ちゃん……?私のこと、嫌いなの?」 梨子「ち、違うの!そうじゃないけど、でもっ!」 梨子(今キスしちゃったら、曜ちゃんとの関係性までも!だめになっちゃう気がして!) 梨子「そ、それに、こういうことはまだ早いっていうか……曜ちゃんとはもっとちゃんとお付き合いして、末永く一緒にいたいって思ってるっていうか……」 梨子「と、とにかくごめん!曜ちゃん!私、帰るわね!」ダッ 曜「……」 曜「梨子ちゃん……」 ……… … この日以降、私は梨子ちゃんに、心を許していない
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46 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 18:52:43.48 ID:xhEhFjfD - ———
曜(21)(映画を見たあの日以来、私と梨子ちゃんは頻繁に会う関係になっていった) 曜(梨子ちゃんと遊ぶのは、思いのほか楽しくて、私の心も解れていって、警戒感も、和らいでいった……ような気がする) 曜(ほんとはダメだって頭ではわかってるけど……心が快楽を欲しがってるんだ) 曜(そして、季節が夏に変わろうとした頃……) 曜(私は梨子ちゃんの出演するピアノコンサートに誘われた) ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
47 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 18:53:16.02 ID:xhEhFjfD - 曜「うん、ありがとね梨子ちゃん。突然の電話だってのに……」
曜「じゃあね、おやすみなさい」 ピッ ピロリン ——— 曜:ごめんね梨子ちゃん、夜遅いのに電話しちゃって 曜:ちょっと声、聴きたくなっちゃったからさ 梨子:ううん、いいの。私も曜ちゃんとお話したいって思ってたから 曜:ありがと梨子ちゃん!じゃあおやすみ! 梨子:待って!曜ちゃん! 梨子:実は明日ピアノのコンクールがあって、私も出るんだけど 梨子:曜ちゃんに、聞いて欲しいなって思ってるんだけど 梨子:ダメかな? ——— 曜(梨子ちゃんのピアノか……) 曜(梨子ちゃんは私と違って、ピアノ、続けてるんだよね……) 曜(……) 曜(……すごいな) 曜(私とは、何もかも、大違いだ……) ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
48 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 18:54:17.80 ID:xhEhFjfD - 曜「ここが、コンサートホール……」キョロキョロ
曜(わあっ!でっか!) 曜(梨子ちゃん……こんな広いところで、たった一人で演奏するのか……プレッシャー半端ないだろうな……) 曜(……って私が心配してどーする。私はただの観客だから、おとなしく演奏を聴くのが仕事だもん) ブーッ 曜(あっ、始まった……って嘘!?もしかしてこれ、梨子ちゃんのワンマンライブなの!?) 曜(……ますます梨子ちゃんが遠くに行っちゃった気がするよ) ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
49 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 18:55:09.15 ID:xhEhFjfD - 講演後
曜「……」 曜(…やっぱり梨子ちゃんのピアノはすごいや。素人の私でも、お客さんの感動が伝わってくるよ) 曜(まあ、私には関係ないんだけどね) 曜(約束も果たしたし、帰るか……) ブブッ 曜(あっ、電話だ) 曜「……もしもし、梨子ちゃん?」 梨子「曜ちゃん!今どこ?」 曜「どこって、ホールの出入り口付近だけど……」 梨子「嘘……来てくれてたのね……」 曜「そりゃ、まあ、来いって言われたし……」 梨子「って会場付近にいるなら顔くらい出しなさいよっ!バカ!」 曜「えっ、いや、だって梨子ちゃん、出演者だし、私が行くのは迷惑かなって」 梨子「それくらい私の関係者ですって言えばなんとかなるわよ!もうっ!ちょっと待ってて!すぐ着替えてそっち行くから!」 ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
50 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 18:56:49.39 ID:xhEhFjfD - 梨子「曜ちゃん!」
曜「あっ梨子ちゃん。ピアノ、良かったよ」 梨子「もうっ!バカ!曜ちゃんのバカ!」ギュッ 曜「り、梨子ちゃん……いきなり抱き着かれると、苦しいよ……」 梨子「いいの!元はといえば曜ちゃんが悪いんだから!」ポロポロ 梨子「来てるなら来てるって、連絡くらいいれてよ!ちょっとでいいから会いに来てよ!」 梨子「私がどれだけ苦しかったか、どれだけ不安だったか……」 梨子「少しは私の気持ちも、考えてよ……」 曜「……」 曜「うん、ごめん、梨子ちゃん……」 梨子「そんなんじゃダメなの!曜ちゃんにはもっと多くのものを返してもらわないと気が済まないんだから!」 梨子「だから曜ちゃんは次も!絶対に次も!私のピアノ、聴きにくること!じゃないと許さないんだからね!」 曜「……」 曜「うん、考えとくよ、梨子ちゃん」 梨子「そう言ってまた逃げたら、こんどこそ許さないからね!」 曜(……) 曜(……やっぱり、梨子ちゃんはずるいや) 曜(そんな顔されると、つい、尽くしてあげたいって、思っちゃう自分がいる) 曜(……本当は返せるものなんて、何もないのに) 曜(たくさん貰っているのは、こっちだっていうのに) ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
51 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 18:57:46.70 ID:xhEhFjfD - 曜「落ち着いた?梨子ちゃん」
梨子「うん、もう、大丈夫だから」 梨子「ありがと、曜ちゃん。今日は来てくれて」 曜「いや、暇だったし、ただ座って聴いてただけだし……」 梨子「それでもいいの!私が感謝したいって思ってるんだから、ありがたく受け取ってよね!」 曜「……」 曜「うん、じゃあ、梨子ちゃん、ありがと……」 梨子「だからお礼として、この後少し付き合うこと!」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
52 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:00:18.05 ID:xhEhFjfD - 曜「ここが、梨子ちゃんの家……」
梨子「さあっ、上がって上がって。ちょっと待っててね。今お茶準備するから」 曜「いや、いいよ別に、ただついてきただけだし……」 梨子「もうっ、そんなこと言わないの。お客様はお客様らしくしないとだよ?」 曜「あ、うん……じゃあ、遠慮なく……」 曜(……) 曜(……それにしても、梨子ちゃんのお家ってすごいな……広さが大学生の一人暮らしには思えない大きさってのもそうだけど、なにより、清潔感が漂ってる感じがして……) 曜(心なしか、少しいい匂いがするような……大人っぽい魅力と青々しい爽やかさを併せ持つような、不思議な香り……) 曜(……) 曜(……って何興奮してるんだ私。別に梨子ちゃんはただの高校の同級生で、今はただの赤の他人で、もう何も関係はないんだから) 曜(平静さを保たないと……じゃないと……) 梨子「ふふっ、驚いた?私、お母さんに少しワガママ言って、家でもピアノ弾けるような物件に住ませてもらってるから……もちろんその分、少し家賃が割高になっちゃうんだけどね」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
53 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:01:12.57 ID:xhEhFjfD - 梨子「それより曜ちゃん!どうせなら夜ご飯食べていかない?お腹空いてるでしょ?」
曜「えっ、いいよ、そこまでしてくれなくても」 梨子「……もう、私にくらい、遠慮しなくてもいいのに」ボソッ 曜「……」 曜「わかった、でも私も一緒に準備するよ。梨子ちゃんに迷惑かけるわけにいかないし、今日の発表会で梨子ちゃんの方が疲れてるだろうし……」 梨子「曜ちゃんの、料理……」 梨子「うん!じゃあお手伝い、お願いします!」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
54 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:02:08.28 ID:xhEhFjfD - 梨子「じゃあまずは……曜ちゃんには、玉ねぎをみじん切りにしてもらおうかしら?」
曜「うん。わかった。包丁借りるね」 曜「……」トントン 曜「梨子ちゃん、これは何を作ろうとしてるの?」 梨子「内緒〜♪」 曜「……」 曜(……梨子ちゃんはいつもこうだ。梨子ちゃんと一緒だといつも自分のペースを崩される) 梨子「パン粉パン粉……どこに閉まったっけ……」 曜(でも、それが、私は……) 梨子「はいっ!曜ちゃん!できたものはこのボウルの中に入れてね!」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
55 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:02:43.97 ID:xhEhFjfD - 曜(ひき肉、卵、パン粉……)
曜「梨子ちゃん、もしかして……」 梨子「そうっ!曜ちゃんの大好きな、ハンバーグよ!」 曜「……」 曜「別に、昔好きだったからって、今も好きとは限らないでしょ」 梨子「じゃあ嫌いなの?」 梨子「ハンバーグのこと、もう嫌いになっちゃったの?」 曜「……そういうわけじゃ、ないけど」 梨子「じゃあいいじゃない。さあっ、こねてこねて!」 曜「う、うん」 曜(……本当に梨子ちゃんが一緒だと、ペースを崩される) ……… …
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
56 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:04:38.37 ID:xhEhFjfD - パカッ
ジュワ~ プスッ 梨子「うん!中まで火が通ってて、いい感じね♪」 梨子「曜ちゃん、そこの棚にお皿入ってるから取ってくれない?盛り付けて、いただききましょ?」 曜「いただきます」 梨子「曜ちゃんどう?美味しい?」 曜「……うん。塩加減がいい感じで、美味しい」 梨子「良かったぁ〜私もまだ昔の味付け、ちゃんと覚えてたみたいね♪」 曜(……) 曜(……ということは私の味覚は、あれから全く進化してないってことか) 曜(ほんとに成長しないな、私は) 梨子「はむっ、ん〜!ちゃんとあの頃の味つけね!とっても美味しい!」 梨子「ありがとね曜ちゃん!手伝ってもらっちゃって!」 曜「いや、お礼を言うのはこっちの方で……今日もこうしてごちそうになってるわけだし……」 梨子「私だって久しぶりに曜ちゃんとお料理できてすっごく楽しかったの!こんなこと、もう二度と訪れないと思ってたから……」 梨子「だから……」 梨子「もう私を、置いていかないでね?」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
57 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:10:23.47 ID:xhEhFjfD - 曜(それから梨子ちゃんとは、他愛もない話をたくさんした)
曜(最近のことや大学でのこと、梨子ちゃんがいなかった2年間のこと) 曜(あと、今日のピアノの発表会の感想も聞かれたっけ……) 曜「今日の演奏の感想?」 梨子「そう!どうだった?久々の私のピアノは?」 曜「……」 曜「いや、私の感想なんて聞くまでもなく、あれだけお客さんを感動させられてる時点で、十分すごいと思うよ?」 曜(それも、飛び込みの目的を失い、逃げ出した自分なんかと比べると、よっぽど……) 梨子「でもっ!私は曜ちゃんの感想が聞きたいの!そうやって自分の気持ちから逃げようとするの、曜ちゃんの悪い癖よ!もっと自分の気持ちに素直になってよ!」ドンッ 曜(梨子ちゃん、そうとう酔ってるな、これは……) 曜「うん、わかった、じゃあ、言うから……」 梨子「うん!早く早く!」ワクワク 曜「……」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
58 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:11:38.19 ID:xhEhFjfD - 曜「……良かった、と思う。私は梨子ちゃんの音キレイだなって思ったし、少しウルっと来たのも事実だし……」
曜「……うん、まあ、そんな感じ、かな」 梨子「……」 梨子「曜ちゃん……」 梨子「ありがと曜ちゃん!大好きよっ!」ハグッ 曜「……」 曜「梨子ちゃん飲みすぎだよ……落ち着いて……」 梨子「そんなことないわよ!まだちょっとしか飲んでないし、私がこのくらいで酔うわけないんだからね!」 梨子「ね、だからもっと今日の演奏褒めてくれてもいいのよ?」 曜(これはしばらく、解放してくれそうにないな……)
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
59 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:12:46.65 ID:xhEhFjfD - 梨子「ふふふ〜ん♪」
曜(話込んでたらすっかり遅くなっちゃったけど……) 梨子「曜ちゃん、これ食べる?はい、あーん」 曜「いいよ、自分で食べれるから……」 梨子「だーめ♡口開けてよ〜。はい、あーん」 曜「……」 曜「あ、あーん……」 梨子「ふふっ、曜ちゃん、可愛い♡」プニプニ 曜「……」 曜(酔った梨子ちゃんってこんな感じなのか……ちょっとめんどくさい……) 曜(それに、普段の百合のような佇まいからは想像がつかないくらいの変わりようだし……) 梨子「曜ちゃーん、ねぇ〜、曜ちゃ〜ん」フニフニ 曜「わかった、わかったから……」 梨子「ふふっ♪」
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- 曜「千歌ちゃんだけがいないセカイで」
60 :名無しで叶える物語(もんじゃ)[]:2020/03/31(火) 19:14:20.40 ID:xhEhFjfD - 曜「……」
曜(……でも梨子ちゃんって、大きなホールでソロコンサートもできちゃうような人なんだよね) 曜(そんな人が、なんでこんなに私に執着するんだろ……) 曜(それに、私は、私たちは、もう、あの頃とは……) 梨子「……」 梨子「……私、こうしてまた曜ちゃんとお話できるなんて、夢にも思ってなかった」ボソッ 梨子「こうして他愛もない会話をしていると、まるであの頃みたいだなって」 曜「……」 曜「あの、ころ……」 梨子「ほら、曜ちゃん、覚えてる?私と曜ちゃんと千歌ちゃんの三人で……!」 曜(!!!!!!?) 曜「そ、その話はやめてよ!」ドンッ 曜「その話は、梨子ちゃんの口からは、絶対に聞きたくない!」
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