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名無しで叶える物語(えびふりゃー)
千歌「モンスターハンター!」

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千歌「モンスターハンター!」
153 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:03:12.65 ID:5o6RUzvN
【島 裏側】


千歌「はぁっ!!!!せやっ!!」

花丸「あ、千歌ちゃん」

千歌「花丸ちゃん? どうして島のこっち側へ?」

花丸「ちょっと調べたい事があってね……千歌ちゃんは剣の練習?」

千歌「うん、新しい剣も貰って、早く体に馴染ませないといけないからね!」

花丸「でも、どうして島の裏側に?今の時間なら鞠莉ちゃんもダイヤさんも見てくれると思うけど……」

千歌「鞠莉ちゃんも、ダイヤさんも……リオレウス討伐の計画に忙しそうだし、それに……」

花丸「それに?」

千歌「頑張ってるの、見られるのって……恥ずかしくない?」

花丸「……ふふっ」

千歌「あー!今笑った!!!」
千歌「モンスターハンター!」
154 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:04:47.46 ID:5o6RUzvN
花丸「でも、しっかり頑張る千歌ちゃんは偉いと思うずら」

千歌「ありがとう、でもね……これはきっと、普通の事なんだよ」

花丸「普通……ずら?」

千歌「私達がまだ戦えない頃、果南ちゃんが獲物も狩ってくれてくれて、私達が食べさせてくれた」

千歌「果南ちゃんだけじゃない。鞠莉ちゃんが外の村や商人さんとの交渉、ダイヤさんが村全体の指揮をしてくれてた、全然生きていけないような私達を、歳があんまり違わないのに必死に生かしてくれた」

千歌「鞠莉ちゃんにそのことを言ったらさ、『普通』なんだって言われちゃった。それぞれが出来る事をしてみんなで生きていくのが、村なんだって」

千歌「だからさ、私もまだまだ果南ちゃんや善子ちゃんには遠く及ばないけど……出来る事をして必死に足掻くのが、生きるって事なのかなって思ったんだ」

花丸「千歌ちゃん……」
千歌「モンスターハンター!」
155 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:05:37.79 ID:5o6RUzvN
千歌「もちろん、花丸ちゃんのモンスターの知識にもすごい助けられてる!それが無かったら、私達そもそもどこに住んでるか分からないから、モンスター見つけられないし!」

花丸「ふふっ……オラの知識は曜ちゃんと同じで趣味の延長線上だよ。でもみんなの助けになってるなら、嬉しいずら」

花丸「オラは外で狩りをしたりしないから、ハンターやってくれるみんなに悪いなって……きっと心の奥底で思ってたんだと思う……おらの知らない間、みんなが怪我したりしたら、どんなに怖いだろうと、思ったりもした」

千歌「……」

花丸「でも、千歌ちゃんの話を聞いてちょっとだけ元気出たずら。おらも、おらに出来る精一杯の方法でみんなをサポートするずら!」

千歌「そっか、なら良かった!」






千歌「そういえば、花丸ちゃんの調べものって何なの?」

花丸「あ、そうずら、大きいカラ骨なんか流れ着いてなかったずら?」

千歌「カラ骨かあ……見た限りだと海には木の葉くらいしか浮いてなかったけど……」

花丸「そっかあ……じゃあ、また商人さんが来てくれてたら聞いてみるずら」
千歌「モンスターハンター!」
156 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:06:16.99 ID:5o6RUzvN
花丸「ロアルドスクロウ、だっけ?剣、ピカピカずらね」

千歌「もちろん、曜ちゃんが仕立ててくれた新品だもん」

花丸「曜ちゃんだけじゃないずら、おらもサイズに合う様に皮や水袋をカットしたずら、体の内側の大水袋を取り出すの大変だったんだよ?」

千歌「あー……そっか、ごめんね、花丸ちゃん」

花丸「ふふっ……いいよ、マルは出来る事をやっただけずら」

花丸「だから……マル達の分も、とは言わないけど、ピカピカに仕上げたその剣で立派に仕事を果して欲しいずら」

千歌「花丸ちゃん……うん、チカ頑張ってくるね!」
千歌「モンスターハンター!」
157 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:07:03.30 ID:5o6RUzvN
【島の対岸】

鞠莉「通常弾とトラップツール、後素材玉をあるだけ下さいな」

善子「あ、あと……確か砥石も在庫が怪しかった気がするわ、千歌の武器は急ごしらえだから切れ味が落ちやすいって曜も言ってたし」

行商人「そんなに派手な買い物をするってことは、ついに狩りに出るのかい?」

鞠莉「ええ、ここ一帯の安全はもう無いに等しい、そう考えたので討伐に踏み切ることにしました」

行商人「そうかい……なんだか、勇ましく思う気持ち半分、心配なのが半分だよ……」
千歌「モンスターハンター!」
158 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:07:46.42 ID:5o6RUzvN
鞠莉「今もここまで来るのは危険な事は重々承知のはず……それなのに来てくださって、ほんとうに感謝してます」

行商人「なに、あんたたちの事は勝手に孫の様に思っておったからのお……」

鞠莉「ふふっ、そうですか……嬉しいです」

行商人「今まで話した事は無かったけど……わたしの息子もハンターでね、ギルドお抱えで親としても鼻高々でねえ……」

善子「ギルドのハンターって……それ、超エリートじゃ!?」

行商人「若いうちから家を出て都で働いていたんだけどねえ……今日に実家に帰って来て『命があるかわからない任務に行く』って残して……それっきりじゃ」

行商人「砂を泳ぐ巨竜だったか、なんだったか……とにかく、それっきり息子は帰らぬ人になった」
千歌「モンスターハンター!」
159 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:08:53.67 ID:5o6RUzvN
行商人「おっと、これから狩りに行くって人に年寄りの辛気臭い話をしてすまないねえ」

鞠莉「いえ…そんなことないです」

善子「……お婆さん!」

善子「私達は死なないから!絶対火竜を倒して、また安心して来てもらえるようにするから!」

鞠莉「善子の言う通りです、そもそも、また来てもらって火竜の素材を買い取って貰えないと買ったとしてもウチの村の財政は火の車デース!」

行商人「あらあら……ふふっ、これはまた来ないとねえ……」
千歌「モンスターハンター!」
160 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:10:03.51 ID:5o6RUzvN
行商人「そうだ、年寄りのつまらない話につきあわせたお詫びにこれをあげようかねえ」

善子「これは……実?」

行商人「龍殺しの実。使いどころが限られるし、物騒な名前だから安値の物なんだけど……今のお前さん達には縁起物になるじゃろ」

鞠莉「ふふっ……そうですね、ありがとうございます」

行商人「さて……この実は九つあげるからお守り代わりにするといい、なんでもある街では茶にするなんても聞いたことあるねえ」

善子「えっ……これをお茶に?」

行商人「ええ、作り方は忘れてしまったがなあ……まあ、またそれも調べて来るからそれまで持っといてくれ」

鞠莉「ええ、皆にわたしておきます」

行商人「それじゃあ、そろそろ行くかのお……」

鞠莉「わかりまして、道中、くれぐれもお気をつけて」

行商人「茶の作り方、仕入れておかないとねえ…また来たら教えるわい」

鞠莉「ふふっ……ええ!それまでしっかり持っておきます」
千歌「モンスターハンター!」
161 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:19:46.15 ID:5o6RUzvN
【森 深部】

果南「……梨子、何か聞こえる?」

梨子「ううん……今のところ、火竜の声とか、羽ばたきらしきものは何も……」

果南「そっか、荒れてるモンスターの出具合からしてこの辺りに火竜が縄張り張ってるのは間違いないとは思うけど……」

梨子「ええ、もうちょっと探してみましょう」

果南「そうだね、もうちょっと北の方も探してみようか」
千歌「モンスターハンター!」
162 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:20:11.51 ID:5o6RUzvN
梨子「…………」

果南「梨子って、耳良いんだよね、声だけじゃなくて羽ばたきまで聞き分けられるくらいだから」

梨子「ええ、以前楽器やってたので……それで少し」

果南「楽器…? それってピアノとか?」

梨子「そうですね、後ビオラなんかも少々。小さいころから家に先生が来て習ってて」

果南「ふーん……でもさ、ハンターになったんだよね? それも都のギルドなんて超一流の」

梨子「やめて下さいよ、私はギルドから逃げ出してきた身なんです。一流だなんて全然です」

果南「そういえばさ、梨子ギルドから来たってのは知ってるけど……その辺の話、詳しくは聞いてないかも」

梨子「……面白い話じゃ、無いですよ」
千歌「モンスターハンター!」
163 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:21:15.91 ID:5o6RUzvN
梨子「私の家は割と裕福で、楽器然り習い事は何でもさせてくれたんです、私が『やりたい!』って言ったら、なんでも」

梨子「私の父はハンターで、それに憧れて私もやってみたい、って言ったんです。それで、ハンターの養成所の試験を受けに行ったんです、ある程度特訓はしたとは言え、殆どお試し感覚でした」

梨子「そこで、思いの外いい成績が出ちゃったんです、楽器を弾くときの感覚が、弓に役立ったみたいで」

果南「楽器と……弓?それってなんの関係が?」

梨子「ピアニストって、ピアノを弾くとき、いちいち鍵盤は見ないんです、指の感覚だけで力加減と諸々の微調整をする能力が、私には備わってたみたいなんです」

梨子「目測で撃って的が当たる感覚がどうにも気持ちよくて、私は弓にのめり込みました。最初の方は力不足で弦が引けなくて速度が足りなかったけど、それも訓練して直しました」

梨子「そして養成所に通い、めでたくギルドお抱えのハンターになった訳なんですが、そこで、ちょっと外でのクエストを受けただけで命を張るのが怖くなって……それで逃げてきたって訳です。情けない話でしょう?」





果南「そんなもんだよ、みんな。怖くないハンターなんて、一人も居ないよ」

果南「私だって、何回も死にかけた。ダイヤと鞠莉には内緒にしてたけど、最初の頃なんて数えきれないくらい命の危機があった……」

果南「でもそんな恐怖を、私も梨子も乗り越えて頑張ってる。だって実際梨子は今私の隣に居て、ハンターとして外に出てるから……でしょ?」

梨子「果南さん……」
千歌「モンスターハンター!」
164 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:21:39.49 ID:5o6RUzvN
梨子「ごめんなさい、私の昔話なんて聞かせて、更に慰めて貰っちゃって」

果南「ううん、梨子の昔を知れたから、面白かったよ」

梨子「もう、次は果南さんの昔話の番です!私だけ話す羽目になるなんてずるいです!」

果南「うーん……そうは言っても殆ど昔の事なんて話しちゃってるからなあ、千歌たちとずっと暮らしてきた訳だし」

果南「あ、そうだ、これはとびっきりの話なんだけど……」

梨子「……ストップです、果南さん」

果南「え、そんな昔話聞きたくなかった!?正直この話そこそこ自信あったんだけど……」




梨子「違います果南さん、向こうに“ヤツ”がいます」

果南「……!」
千歌「モンスターハンター!」
165 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:23:47.70 ID:5o6RUzvN
「クルル……………………」


グチャ、グチャ。

鋭く生えそろった牙が、肉と骨を食いちぎる音が遠巻きに聞こえて来る

大型の草食モンスター、アプトノスの頭を足で押さえ、腹の中身を捌き、喉の中へと流し込んでいく。

食物連鎖。食う者と食われる者の姿がこの場面でありありと浮き彫りになっている。

絶対的捕食者、リオレウスがそこには佇んでいた。









果南「あれは、食事中?」

梨子「やっぱり、この辺を縄張りにしてるみたいですね」

果南「そうだね……あっ!飛んでいく」

梨子「……獲物を置いて行きましたね、一応調査しに行きましょうか」
千歌「モンスターハンター!」
166 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:24:30.54 ID:5o6RUzvN
梨子「うっ……」

果南「やっぱ、モンスターが食べると潰れ方がグロいね……大丈夫?」

梨子「いえ……大丈夫です、続けましょう」





果南「たぶんだけど、リオレウスはまたこの獲物を食べる気だと思う」

梨子「え? なんでそんなことわかるんですか?」

果南「まだこの肉が結構残っているってのもあるんだけど……ほらここ、アプトノスの肝臓が残ってるんだよ」
千歌「モンスターハンター!」
167 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:25:27.71 ID:5o6RUzvN
果南「肝臓……まあ、モンスターのキモは肉食のリオレウスにとって貴重な栄養源なんだけど……。だけどこれはそれをまだ食べてない。それが単に取ってあるのか、子供が居てその為に残してるのかは分からないけど、捨てるって事は無いと思う」

梨子「ホントだ……よくそんな事知ってますね、内臓の事なんて」

果南「私の獲物は花丸がよく解体してくれるからね。花丸、待ってる間私が暇してるのを気遣っていろんな話してくれるんだ」

梨子「とりあえず、この場から離れて島へ戻りましょうか、このまま居たらリオレウスが返って来ないとも限らないですし」

果南「そうだね……急いで帰って、ダイヤ達に伝えないと」









果南「……狩りの時間だ、って」
千歌「モンスターハンター!」
168 :名無しで叶える物語(えびふりゃー)[]:2020/03/24(火) 17:26:01.38 ID:5o6RUzvN
今日はここまで


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