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名無しで叶える物語(らっかせい)
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」

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善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
302 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 06:10:55.33 ID:5R/0Z6sC
花丸(三年生の教室に向かう階段の途中でダイヤさんと合流し)

花丸(本当はダメなのですが。というダイヤさんに連れられて、生徒会室に入る)

花丸(昼休みという時間もあって、人払いには最適らしい)

ダイヤ「せっかくの昼休みに連れ出して申し訳ないですわ」

花丸「大丈夫ずら」

花丸「善子ちゃんとルビィちゃんの三人で食べるだけだったし」

花丸「たまには、ほかの人とっていうのも、悪くないずら」

花丸「それに、マルのことを心配してくれてるから。だよね?」

ダイヤ「……ええ」

ダイヤ「今しばらく問題ないと言うのは善子さんから伺っています」

ダイヤ「しかし、何が起こるか分からない以上、油断すべきではないと思いまして」

花丸(ダイヤさんは考える素振りを見せて、マルを見る)

花丸(何かなかったか。それを見抜こうとしている瞳は、いつもと違って見えた)
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
303 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 06:40:53.93 ID:5R/0Z6sC
花丸「特に問題は起きてないずら」

花丸「ただ、善子ちゃんに聞いた話」

花丸「今日受けた小テストの最後の問題だけが、繰り返しの中で常に変化してるみたい」

ダイヤ「なるほど……」

花丸「マルの死因も変動してるし、似たようなものとは思うけど――」

ダイヤ「いえ、そうとは限りませんわ」

花丸「そう、ずら?」

ダイヤ「勝手な推測ではあるけれど、花丸さんの死は繰り返しにおいて重要な事象です」

ダイヤ「それゆえに、救いたいという願いと救わせまいという運命が干渉しあい」

ダイヤ「花丸さんの死因が常に変動していると言う可能性は十分あり得ることでしょう」

ダイヤ「しかし、テストの内容はそこまで重要な要素だとは思えません」

花丸「そうは、そうなんだけど」

花丸(そう、問題はそこ)

花丸(どうして、そんな部分が運命の収束に囚われることなく可変的に決まるのか)

花丸(しばらく考えこんでいたダイヤさんはおもむろに顔を上げた)

ダイヤ「……花丸さん、とんでもないことを言っても?」

花丸「そんな言い方をするって言うことは、尋常なことじゃないずらね」

花丸「聞きたいずら」

ダイヤ「………」

ダイヤ「この世界、もしかすると、神様……つまり運命が存在していない世界なのではないでしょうか?」

花丸「………」

花丸「……えっ!?」
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
304 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 07:45:39.24 ID:5R/0Z6sC
花丸「まっ……つ、待て、待って、待ってダイヤさん」

花丸(尋常ではないと予想はした)

花丸(けれどそれはあまりに、異常だ)

花丸「神様がいないと言うことは、運命に囚われることもない」

花丸「それなら、善子ちゃんが何度も失敗している説明がつかないずらっ」

ダイヤ「ええ、そうです」

ダイヤ「ですが、もしもその死が運命などではなく、この繰り返しの舞台装置であるとしたらどうでしょう?」

ダイヤ「黒魔術による現世との隔離、その輪の中での可変であり不変な事象」

ダイヤ「死という結果を絶対的な結末かつ始点とすることで永久的な命を獲得する」

花丸「そこに何の意味があるずら?」

ダイヤ「永久的な別れ。しかし、永久的な存続でもあります」

ダイヤ「運命による生命の剥奪から逃れるために生み出された、救いのない停滞。それが、この黒魔術の効果なのではないかと」

花丸「でも、それでもマルはどちらにしろ死ぬと言うことになるずら」

ダイヤ「黒魔術による拘束。それゆえの確実な死であるならば、黒魔術の発動を中断し、運命に打ち勝てばいい」

花丸「……出来ると?」

ダイヤ「それは分かりませんが、手は尽くすつもりです」

ダイヤ「そもそも……始まりが運命なのか、黒魔術の発動か。そこが分かりませんから、確証は持てません」

ダイヤ「力説……と言っていいのでしょうか。力強く述べはしましたが」

ダイヤ「あくまで推測の域を出ない、極論と言われてしまえばそれまでの発言です」
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
305 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 08:38:32.04 ID:5R/0Z6sC
ダイヤ「……とりあえず、座ってお昼にしましょう」

花丸「あっ」

花丸(言われてようやく、自分が椅子を蹴飛ばしていることに気付く)

花丸(驚いたという言葉では軽いくらいに、動転していたのだと、戸惑う手を見て感じる)

ダイヤ「私としては、黒魔術が先であることを願うばかりです」

花丸「うん。気持ちは分かるずら」

花丸(少しずつ食べながら、軽く話を進めていく)

花丸(下手な推測は口にせず、ちょっとした希望を言ってみる)

花丸「黒魔術なら、それを止めれば終わるから」

ダイヤ「そうですね」

花丸「………」

ダイヤ「………」

花丸(会話の途切れた沈黙)

花丸(もくもくと食べる音が静寂だけは阻止する)

花丸(一つ一つ、丁寧な所作で食べ進めていくダイヤさんは)

花丸(悩みごとのせいか、愁いを帯びた雰囲気を感じさせ)

花丸(艶のある黒い髪はさらりと流れて、お弁当へと下る青緑色の瞳が柔らかく揺れる)

花丸(噂はともかく、評判に納得は行く)

花丸(こんな人と二人きり。しかも呼び出しとなれば、噂もしたくなる)

花丸「……そういえば、ダイヤさんが呼び出しに来たから、ちょっとだけ噂になったずら」

ダイヤ「噂?」

花丸「黒澤生徒会長と、国木田さんが付き合ってるんじゃないかって」

ダイヤ「また、根も葉もない噂を作るものですわね」

ダイヤ「呼び出すことなんて、少なからずあることでしょうに」
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
306 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 08:48:35.39 ID:5R/0Z6sC
花丸(ダイヤさんはこれと言って動揺するようなことはなく)

花丸(話すときだけ手を止める。何ら変わりのない様子で、マルを見た)

花丸(噂が本当にあるのかどうか疑っているのかとも思ったけど)

花丸(それで、マルが何か迷惑を被ったのではないかと伺っているのだとすぐに察した)

花丸「別に、マルはどうともしてないずら」

花丸「ダイヤさんの真意が分からないならともかく、話す内容も何も分かっていたし」

花丸「そんなことがないことくらい、分かってたから」

花丸「みんなだって、噂をすることはあってもそれでどうこうするようなことはなかった」

花丸(物語であれ、現実であれ)

花丸(学校の人気者をしがない一般生徒が占有しようものなら、陰湿な悪意の掃き溜めにでもされるだろうけれど)

花丸(ここにおいて、そんなことをする人がいるわけもなく)

花丸「結構、狭いから……みんなそういう話に飢えてるんだなって、思ったずら」

花丸(実際、噂を楽しみ好奇の目を向けてきたけど、それで糾弾されるなんてことはなかった)

花丸(もし、クラスに戻ってノートや教科書が汚れていたら)

花丸(ダイヤさんに泣きついて、果南ちゃんと鞠莉ちゃんの力を借りて復讐の限りを尽くしてあげよう)

花丸(……なんて。する必要もない)
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
307 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 09:04:27.15 ID:5R/0Z6sC
ダイヤ「そうですわね」

ダイヤ「確かに、高校生にもなるとそういった浮いた話がないかと話題に上がることも増えてきます」

ダイヤ「どこのお店でバイトしている人がどうとか、だれだれのお兄さん、弟さんだとか」

ダイヤ「すでにお付き合いのある人には出会いを聞き、自分もと興味津々に伺う人も多いですわ」

ダイヤ「人によっては、婚約などもあるのでは? と、羨まれることもあるそうで」

ダイヤ「ふふっ」

ダイヤ「当の本人は、そんなこと望んでいないのに。と、疲れたように零して机に伏せっていたり」

ダイヤ「ですが、そうですか」

ダイヤ「わたくしと花丸さんとは。なりふり構っていませんわね」

花丸「ダイヤさんも、婚約があったりするずら?」

ダイヤ「……さて」

ダイヤ「あるかもしれませんし、ないかもしれません」

ダイヤ「このまま男性とのお付き合いとしての縁がないのであれば、どこかの殿方を紹介されることもあるでしょうね」

ダイヤ「花丸さんだって、そういった話にまったく縁がないこともないのでしょう?」

花丸「……どうして、そうおもうずら?」

ダイヤ「人付き合いが絶えない家の者であれば、まったく無縁とは言えない話ですから」
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
308 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 09:29:06.61 ID:5R/0Z6sC
花丸「……そっか」

花丸「うん、確かに。マルもそういう話を聞いていないと言えば、嘘になる」

花丸「別に、お寺を継ぐことを強制されてるとか、そういったことはない」

花丸「だけど、継がないのなら継がないで、お寺は人の手に渡ってしまうこともあるかもしれない」

花丸「そうなったとき……というか、そうなる場合。かな」

花丸「相手の人が、その家の女であるマルを求めないとは限らないって」

花丸「もちろん、断っちゃいけないわけじゃない」

花丸「だけど」

花丸「じっちゃんもばっちゃもどんどん衰えていくずら」

花丸「別にいいよ。って、言ってくれてる」

花丸「気にしなくていいからね、って、笑ってる」

花丸「でも……今までわがままを許してくれて、あんまり恩を返せていないのに」

花丸「遺されていくお寺すら放り出して自分の好きに生きていくのは……どんなに、不孝なんだろうって」

ダイヤ「……花丸さんは、優しいのね」

花丸「違うっ」

花丸「優しいなら、優しいなら迷わずに受け入れてるずらっ」

ダイヤ「いいえ、優しいからこそ悩むものですわ」

花丸「っ」

ダイヤ「一度きりの人生を他者の願いに寄り添わせることができるのは、相手を想う優しさがあるからこそです」

ダイヤ「しかし、我を捨てその道を行くのならばそれはただの自棄でしかありません」

ダイヤ「育てて頂いた自分を大事に思い、受けた愛情を大切に感じて、返すべきであると思っているからこそ」

ダイヤ「自分の幸か、親の幸かを悩むのです」

ダイヤ「どちらが最も、親の幸福であるかを考えてしまうから」
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
309 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 10:10:16.61 ID:5R/0Z6sC
ダイヤ「花丸さんはまだ、一年生」

ダイヤ「存分に悩んでください。気が済むまで、問い続けてください」

花丸「っ」

ダイヤ「………」

花丸(優しい。そうとしか言えない抱擁に包まれる)

花丸(姉がいたら、兄がいたら)

花丸(こういう風に抱いてもらえたのだろうかと、熱くなる)

花丸「こんなところ見られたら、噂だけではすまないずら」

ダイヤ「構いませんわ。疚しいことなどないのだから、堂々としていればいいのです」

花丸「………」

ダイヤ「………」

花丸(ダイヤさんは抱いてくれる)

花丸(限りなく優しい力で抱きしめて、そっと頭に手を置いてくれた)

花丸(大丈夫。そう言われているようで)

花丸(ちっぽけな自分が縋ってもいい、大きな人がいると感じさせられるようで)

花丸(何の気なしに手を回すと、ダイヤさんは何も言わずに受け止めてくれる)

花丸(これも、消えちゃうのかな)

花丸(この暖かさも、優しさも、思い出も)

ダイヤ「……ごめんなさい」

花丸「マルの方こそ、ごめんなさい」

花丸(ダイヤさんがなぜ謝るのか。訳も分からずに、ただ、そう返した)
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
311 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 15:35:28.20 ID:5R/0Z6sC
花丸(放課後にはもう、ダイヤさんと二人きりによる噂は霧散していた)

花丸(結局、女の子の女の子による女の子のための愉快なお噺でしかなかったのだろう)

花丸(それは別にいいのだけど)

花丸(マルとしては少し、寂しい気持ちにもなる)

花丸(ダイヤさんとの関係が男女の恋中のようなものに発展したいとは)

花丸(あんなことがあった今も別に思うわけではないけれど)

花丸(あの温もりを、あのほほえみを)

花丸(国木田花丸が失ってしまうのは惜しい。そう、思った)

善子「なにぼーっとしてるのよ」

花丸「そんな、呆けた顔してた?」

善子「間抜けずらではなかったわよ。ずらだけに」

花丸「大丈夫?」

善子「心配そうな顔すんな!」

善子「心ない顔してるから、冗談言ってあげただけよ」

花丸「言いたいことは分かるけど、ここにあらず。って、ちゃんと言ってよ」

善子「そうね……言い返せるなら良いわ」
善子「ねぇ、運命ってあると思う?」
312 :名無しで叶える物語(らっかせい)[]:2019/09/09(月) 16:01:43.72 ID:5R/0Z6sC
善子「昼休み、戻ってきてからちょっと……わけありな顔してたから」

花丸「え゛」

善子「言ったでしょ、心ここにあらずって」

善子「結構深刻そうに見えたから」

善子「さすがに、みんなも茶化したりしなかったのよ」

善子「別れ話とか、振った振られたとかそういうあれって感じでもなかったから」

善子「例の話が関係してるって思って……」

花丸「あぁ」

花丸(気づけば、誰もいない)

花丸(さすがに、噂のこともあってか)

花丸(今日はダイヤさんがいないみたいだった)

花丸「心配させた?」

善子「ダイヤの胸倉掴んで壁に叩きつけてやろうかと思った」

花丸「できもしないこと言っちゃって」

善子「やろうと思えばできるわよ。そう思わないだけで」

花丸(手のひらを見せた善子ちゃんは)

花丸(本当にできてしまいそうな余裕の笑顔を見せる)


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