- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
1 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 00:45:29.79 ID:Y/qz03qJ - 聖良「……」カリカリ
聖良「……」カリカリ カリカリ 聖良「……」 カラン 聖良「……ふう。今日はこれくらいにしておきましょうか」 聖良「終わりがないのが勉強とはいえ……これだけ量をこなすのは流石に疲れますね」 聖良「まあ、今までスクールアイドルに専念していたツケと思えば」 聖良「たったこれだけで済んでいるのは有難いことでしょうか」
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
2 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 00:47:16.87 ID:Y/qz03qJ - 聖良(……最後の大会。私たちは決勝へ進むことすら出来なかった)
聖良(それが悔しくないと言えば嘘にはなりますけど……でも) 聖良(Aquorsの皆さんに――そして、理亞に後押しされて吹っ切れたというか) 聖良(それで一種の区切りが着いたのは確かです、ね) 聖良(特に理亞が、皆さんの助けがあったとはいえあそこまで自立、成長していたのは) 聖良(……喜ばしいことではありますけれど。同時に寂しくもあり、でしょうか) 聖良(ふふ、我ながららしくないことを考えるものですね)
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
3 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 00:50:22.72 ID:Y/qz03qJ - パタパタ... ガチャ
理亞「姉様」 聖良「? 理亞、まだ起きていたの」 聖良「スクールアイドルは身体が資本なんですから、夜更かしはよくないですよ」 理亞「ごめん、姉様。でも、何だか今日は寝付けなくて」 聖良「……ふぅ、仕方ないですね。では、理亞さえ良ければ少し話でもしませんか」 理亞「本当!? ……あ、でも姉様の、受験勉強の邪魔に」 聖良「今、区切りが着いた所ですから。気にしなくても大丈夫」 理亞「そう……良かった」パァァ 聖良(……この笑顔を見ていると、さっきの自問が馬鹿らしくなってきますね)
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
4 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 00:53:10.78 ID:Y/qz03qJ - 理亞「ねえ、姉様」
聖良「どうしました、理亞」 理亞「私、また姉様の怪談話が聞きたい」 聖良「怪談話……ですか」 理亞「うん。昔寝る前に色々と話してくれた、ああいう話が良い」 聖良「……でもあの時は、理亞が震えあがってしまって眠るどころじゃなかった気が」 理亞「……それは忘れて」
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
5 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 00:56:22.17 ID:Y/qz03qJ - 聖良「ふむ……しかし怪談話、ですか」
理亞「ダメ? 姉さま」 聖良「そういうわけではありませんが……あまり手持ちの話もありませんよ?」 聖良「あの頃から語れる話がそれほど増えているわけでもないですし」 聖良「まあ、気分転換程度にはなるでしょうけど……それでも良い、理亞?」 理亞「勿論! だって姉様の怪談話、好きだもの」 聖良「……そう言われてしまっては敵いませんね」 聖良「では、始めましょうか。久しぶりの怪談話を」
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
6 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 00:59:09.78 ID:Y/qz03qJ - 第一夜 『小さいおじさん』
……さて、最初は軽い話から行きましょうか。私の方も、昔の感じを取り戻したいですし。 理亞は『小さいおじさん』って知っている? そう。よくテレビで芸能人の人たちが見た、っていっているのを聞きますよね。 大きさはまちまちですが、大体手のひらに乗るくらいで。 ある時はこちらに声をかけてきたり、またある時は犬や猫に追いかけられていたり。 目撃談も全国各地で、そうそう、海外でも見たという噂があるみたいですよ。 一説によると、ホビットや妖精に由来するものじゃあないか……なんて噂があるみたいですが。 まあ、真相は依然、闇の中でしょうね。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
7 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:00:31.27 ID:Y/qz03qJ - どうして今この話をしたか……ですか?
それはですね、ここ函館でも『小さなおじさん』の目撃情報があるんです。 とは言っても、世間一般の『小さなおじさん』とは大分存在がかけ離れているようでして。 小学生くらいの大きさで、現れてもこちらに何をするでもない。 ただ通りを一人で歩いているだけ……そんな「幽霊」なんだそうです。 ……不思議ですよね? それくらいの身長の人なら普通に生きていてもおかしくはない。 私もそこが気になって。「出る」と噂の場所を探して、試しに行ってみたんです。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
9 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:03:52.65 ID:Y/qz03qJ - 言うでしょう? 百聞は一見に如かず、って。
何事も、自分の目で確認できることは確認しておきたいですからね。 目撃談を集めるのは、そう難しいことではありませんでした。 同級生や、近隣の学校のスクールアイドルの皆さんに何人か見た人がいたもので。 そういった情報から……どうやら出るのは、函館駅の近くらしい、と。 ええ。意外と人の往来の多い所に出るものだと思いました。 それもあって、半信半疑でその場所へと向かってみたんです。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
10 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:07:12.22 ID:Y/qz03qJ - ……遭えたかどうか、ですか?
はい。それはもう呆気なく。 あまりに簡単に遭遇できたものですから、少し気落ちしたくらいです。 やはり噂は噂でしかなくて、普通の人がその話の種として弄ばれただけなんだと。 そう思い、早々に踵を返そうとしたのですが……ふと、あることが気になったんです。 『ズルリ。 コキ。』 遠くからこちらに近付いてくる彼に合わせて、音が鳴っていることに。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
11 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:10:10.52 ID:Y/qz03qJ - それが彼の足音だと気付くのには、そう時間はかかりませんでした。
『ズルリ、ゴキキ。』 彼の動きに合わせるかのように、音は聞こえてきましたからね。 いえ、しかし。何かを引き摺っているような、あるいは杖でもついているような。 そんな音が、果たして普通に歩いていて起こるでしょうか。 『ズルリ、コキ。 ズルリ、ゴキキ。』 そんな疑問もまた、彼とすれ違う時には氷解したのです。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
12 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:12:23.49 ID:Y/qz03qJ - ……彼の足元。
そこにあるべき足がなかった。 いえ、これだと少々語弊がありますね。 正確に言うなら、彼の膝から下が無かったのです。 背が小さく見えていたのも、きっとそのせいでしょう。 ……どうして、そんな状態になっているのか、ですか? それは私にも分かりません。 事故にしろ事件にしろ、「足を喪った男性が死亡」……なんて話はとんと聞きませんし。 手掛かりがない以上、私には断定しようがありませんから。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
13 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:14:07.57 ID:Y/qz03qJ - ……あるいは。
もしかしたら、彼は……てけてけが変じた姿なのかもしれませんね。 ほら、だって話の大枠は似ているじゃないですか? 『人の多いところに出る』『足を欠損した』『北海道特有の怪異』 これだけ類似点があるのですから、話が習合してしまったとしてもおかしくはありません。 ……元は彼は、ただの塵芥に過ぎない、そんな霊の一体だった。 そこに、てけてけの話と要素が足された結果。 今も彼は、砕けた膝を引き摺り続けているのでしょう。 ……なまじ強い『てけてけ』の知名度に引っ張られて、消えることすら許されずに。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
14 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:15:43.28 ID:Y/qz03qJ - ……これでこの話は終わり、です。
どうですか? 昔の調子は取り戻せていたでしょうか? 第一夜 『小さいおじさん』 終
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
15 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:21:00.46 ID:Y/qz03qJ - 第二話 『足跡』
さて、今日の話は……そうですね、怪談、怪談と。 それでは、こんな話にしましょう。 函館に住んでいる以上、雪というのはどうしても生活に関わってきます。 雪かきや雪下ろしを怠れば、住宅や屋根は潰される。 吹雪くことは勿論ありますし、副次的な路面の凍結だって洒落にならない。 しかし、雪が危険で、厄介なだけの存在かと言われれば、必ずしもそうではありません。 雪像やかまくら、それに幻想的な雪の結晶。色々な形で、見る人を楽しませてくれます。 ……もちろん、理亞は言うまでもなく、分かっていますよね。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
16 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:22:49.38 ID:Y/qz03qJ - かくいう私も、一面に雪の積もった光景を見ると少し心が弾みます。
誰も足を踏み入れていない、ひたすらに真っ白な大地。 そこを踏みしめ、自分の足跡だけが残っていく……その瞬間が好きなんです。 ……おっと、話が逸れましたか。 今から話すのは、そんな風に新雪の積もった、ある冬の朝の話です。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
17 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:25:06.99 ID:Y/qz03qJ - もう三、四年前になりますか。理亞が風邪をひいた日に、雪が積もったことがあったでしょう。
その次の日、熱も引かないのにランニングに理亞がついて来ようとして。 そうそう、あの時は不思議とぐずって最後は半泣きにまで……ふふ、ごめんなさい。 ともかく、そうして一人でランニングをすることになった日がありました。 冷たく澄んだ空気に、朝日に反射してきらきらと輝く氷の粒。 そして何より、早朝まで降っていたのか轍すらない雪の道。 普段通り……いえ、普段以上に張り切っていたのを覚えています。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
18 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:27:24.17 ID:Y/qz03qJ - コンクリートに比べれば些か走り辛いけれど、雪の上は慣れたものですし。
先程も言いましたが、新雪に足を踏み入れるのは気持ちが良い。 そうしてしばらく走っていましたが……丁度折り返して家に戻ろうと思った頃でしょうか。 道路の上に一人分の足跡があることに目が行きました。 どうも気が付きませんでしたが、私より先に雪の上を歩いていた子供がいたようで。 ……ええ、足跡がとても小さなものでしたから。 それで、小さい子が朝早くから散歩でもしていたのだと思ったんですよ。
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19 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:31:04.48 ID:Y/qz03qJ - 小さな足跡は点々と、私が来たのとは反対に伸びていて。
つい何とはなしに、その足跡を追いかけてみることにしたんです。 物珍しさと言うのも、もしかしたらあったかもしれません。 そうして道なりに……200mほど歩いたくらいでしょうか。 真正面に塀がくる形で、丁字路に差し掛かったんですが…… その丁字路の分かれ道の、両方。左右どちらの道にも足跡は続いていました。 まるで鏡に写したかと見紛うほどに、綺麗に二手に分かれていたんです。
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20 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:35:54.46 ID:Y/qz03qJ - 左右一方なら、当たり前。正面の塀に伸びているなら、まだ分からなくもない。
多少身軽であったなら、塀を乗り越えられる可能性も否定できませんし。 ですが、左右両方の道に進む足跡があるのはどう見てもおかしい。 ……そういうイタズラ? それは私も考えました。 いつか読んだ本の受け売りですが……バックトラック、と言うんでしたっけ。 進んで来た足跡をそのまま同じように踏んで戻る、という技能があるらしいです。 だからこれも……子供がするとは考えにくいですが。そうやって作ったのではないか、と。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
21 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:39:28.41 ID:Y/qz03qJ - 試しに、左側の足跡を追ってみると……その先もまた丁字路だったのですが。
そこでも足跡は二つに分かれていました。さっきと同じ様相で。 その先も、またその先も。道の数だけ、足跡が分かれて増えていく。 最初の丁字路に戻って、右の足跡に切り替えても……こちらも結果は同じ。 次の三叉路も、その先に広がる十字路にも。逆にある分かれ道にも。 ……もはや子供の仕業では説明できない。範疇を超えている。 早朝、雪が積もってから時間はそう経っていないというのに。 たったそれだけの時間で、これだけの足跡をズレなく用意するなど出来るはずがないのです。
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
22 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:43:41.28 ID:Y/qz03qJ - 奇妙、いえ、恐怖。とにかくその場にもういたくなかった。
恥ずかしいですが、脇目も振らずに家へと帰りましたよ。 ……ええ。あの時息がいつもより上がっていたのは、そういうわけ。 あれは……結局、なんだったんでしょうね。 バックトラックと同じように、何かから逃げるための陽動として用いていたのなら。 いえ、それにしたって用意周到すぎます。 それならば……むしろ、逆だったのではないでしょうか。 何かから逃げるのではなく、何かを捕らえる。 好奇の目で近付いた獲物を、誘うための罠だとしたら――
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
23 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:45:56.34 ID:Y/qz03qJ - ……いえ、この話はここで終わりにしておきましょう。
あれ以来――また理亞と二人で朝練をする様になってからは、一度も遭遇していませんし。 変に邪推するより……謎は謎のままであった方が。 やっぱり綺麗だと思いませんか? 第二話 『足跡』 終
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- 理亞「冬の夜更けに?」聖良「はい。怪談話、です」
24 :名無しで叶える物語(ささかまぼこ)[sage]:2018/01/04(木) 01:47:44.74 ID:Y/qz03qJ - 生きていたら続きます
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