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名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」

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【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
85 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:02:01.71 ID:czWLLxXG0
〜森の中〜

 

ダダダッ

少女「はあっ、はあっ!」

 

<アソコダ!

<マワリコメ!

 

少女(駄目、このままじゃ逃げ切れない・・・・・・!)

少女(でも、捕まる訳には・・・・・・!)

 

少女「!」ピクッ

少女(あそこに見えるのは・・・・・・明かり?)
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
86 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:03:02.46 ID:czWLLxXG0
〜花丸の寺〜

 

千歌「あはは、それでねー!」

花丸「ふわぁぁ・・・・・・」

曜「花丸ちゃん、眠そうだよ」

花丸「あっ・・・・・・失礼したずら。オラ、普段は朝が早いから、こんなに夜更かしすることもなくて・・・・・・」

果南「そろそろ、丑三つあたりか」

千歌「あ、ごめんなさい! 私すっかり、おしゃべりに夢中になっちゃって・・・・・・」

曜「千歌ちゃん、そろそろ帰ろう?」

花丸「もう遅いし、危ないずら。良かったら、今夜はここに泊まっていくずら」

千歌「ほんと? うーん、どうしようかなぁ・・・・・・美渡ねえに怒られそうだけど・・・・・・」

 

果南「――!」

ピクッ

 

曜「・・・・・・? 果南ちゃん、どうかした?」

果南「いや――」

果南(この気配――)

果南(森の中から――か?)
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
87 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:03:55.61 ID:czWLLxXG0
果南が、何かの気配を察した――その時、

 

ドンドンッ!

 

千歌「うひゃあっ!?」

曜「な、何!? 誰かが、外から戸を叩いてる!?」

千歌「よ、妖怪!?」

花丸「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・・・・!」

果南「・・・・・・」スッ

ガラッ!

 

動揺する三人を尻目に、果南は黙って立ち上がり、

戸を開けると――そこに立っていたのは、

 

少女「・・・・・・!!」

ハァハァ

 

曜「え・・・・・・あれ?」

千歌「お、女の子・・・・・・?」

 

梨子「わ、私・・・・・・梨子、って言います・・・・・・!」

梨子「た、助けて――かくまってください!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
88 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:05:49.59 ID:czWLLxXG0
ガラガラッ ピシャッ

 

部屋に迎え上げられた、梨子と名乗る娘。

その顔面は蒼白で、服も身体も泥だらけ、呼吸も荒い。

 

梨子「・・・・・・・・・」ハァハァ

千歌「大丈夫!? 落ち着いて!」

花丸「服も格好もボロボロずら・・・・・・!」

曜「梨子ちゃん、だっけ・・・・・・? 何があったの?」

梨子「わ、私・・・・・・武蔵国から、逃げてきたの・・・・・・」

千歌「ええっ、武蔵――ってことは、関東から!?」

曜「山を越えてきたの!? なんでまた・・・・・・!」

梨子「・・・・・・・・・」

梨子「私・・・・・・故郷の村を、無くしたの」

梨子「みんなみんな、焼かれて・・・・・・」

千歌「・・・・・・!」

梨子「関東にいても駄目だ、他国に逃げよう、と思って」

梨子「ひたすら逃げ続けて、気づけばここまで来てたんだけど・・・・・・」

梨子「そうしたら・・・・・・」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
89 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:06:50.91 ID:czWLLxXG0
〜梨子の回想 淡島城の近辺〜

 

梨子『・・・・・・』ハァハァ

梨子『逃げ続けて、ここまで来たけれど・・・・・・ここ、どこだろう・・・・・・?』

 

梨子が、夜の闇に包まれた、海岸通りを見渡す。

その時、道の脇の草叢が、にわかにさざめき――

 

ザッ…

男『待たれ・・・・・・そこのお人・・・・・・』ヨロッ…

 

梨子『!? だ、誰!?』ビクッ

梨子『・・・・・・!? 酷い怪我・・・・・・!』

 

現れたのは、黒装束に身を包み、

身体から血を流した、ひとりの男。

 

男『お主に・・・・・・頼みが、ある・・・・・・』

男『これを・・・・・・!』

スッ

梨子『・・・・・・!? 巻物・・・・・・?』
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
90 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:07:47.96 ID:czWLLxXG0
男は、梨子に向かって一本の巻物を差し出し、

息も絶え絶えに、語る。

 

男『これは、淡島城より奪いし、“煉獄の書”・・・・・・!』

男『この中に、奴らの、小原の秘術の秘密が・・・・・・』

ガハッ!

梨子『!! 大丈夫ですか!?』

男『俺は・・・・・・もう、駄目だ・・・・・・』

男『しかし・・・・・・! この書は、この世にあってはならぬ・・・・・・!』

男『頼む・・・・・・! この書を、奴らの手に渡さぬよう・・・・・・!』

スッ

梨子『・・・・・・? この、巻物を・・・・・・?』

男『!!』ゲボッ!

梨子『!? しっかり!!』

男『頼む、この書を・・・・・・!!』

ガクッ

 

男が倒れ、こと切れた――その時。

 

<アッチダ!

<ニガスナ!

バタバタ

 

遠くから近づいてくる、男たちの怒号と、複数の足音。

 

梨子『・・・・・・!? もしかして、この巻物を奪いに・・・・・・!?』

梨子『に、逃げなきゃ・・・・・・!!』
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
91 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:08:56.11 ID:czWLLxXG0
梨子「――そんなことがあって。もう、訳がわからない・・・・・・!」

千歌「“レンゴクの書”・・・・・・!?」

曜「その男の人は、他の国の大名の、隠密か何かだったのかな・・・・・・?」

梨子「これが、その巻物なんだけど・・・・・・」

スッ

曜「それじゃもしかして、これを狙って、悪亜集が・・・・・・!?」

 

果南「・・・・・・・・・」

果南(気のせいか? この娘――)

 

秘かに、果南が眉をひそめた――

――その時。
 
 

ザワッ…

 

果南「!」ピクッ

花丸「か、果南さん?」

果南「・・・・・・どうやら、もう逃げ場はなさそうだよ」

花丸「ええっ!?」

梨子「・・・・・・・・・!!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
92 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:10:42.47 ID:czWLLxXG0
〜花丸の寺 境内〜

 

ザザッ…

 

――暗闇に紛れて、花丸の寺を取り囲む者たち。

悪亜集の兵たちと、黒衣の少女――

 

悪亜兵「夜羽根様。寺の周りは、完全に囲みました」

善子「ふっ。籠の中の鳥とは、このことね」

 

ドンドンッ!

悪亜集の兵たちが、閉ざされた本堂の戸を乱暴に叩く。

 

悪亜兵「この戸を開けられいっ! 我ら、淡島城城主、小原鞠莉公の配下、悪亜集である!!」

悪亜兵「ここに逃げ込んだ娘を出せ! 隠し立てするとためにならんぞ!!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
93 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:12:01.20 ID:czWLLxXG0
すると、堂の中から、か弱い少女の答える声。

 

花丸「・・・・・・お侍様方、このお寺には住職のオラ以外、誰もいないずら」

花丸「夜も遅うございますし、お引き取りしてほしいずらー」

 

悪亜兵「たわけたことをっ! ここに逃げ込んだのはわかっているぞ!!」

悪亜兵「なめくさりおって!! 構わん、戸を破れぃ!!」

ワアアッ!!

ドンドカッ!

 

果南「――やれやれ」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
94 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:13:29.71 ID:czWLLxXG0
ズパッ

バカッ!

 

悪亜兵「――!?」

悪亜兵「戸が、中から斬られ――!?」

 

そして、真っ二つに斬られた戸の向こうから、

悠然と現れたのは――

 

果南「ゆっくり、寝かせてもらいたいんだけどねぇ」

ザッ

 

悪亜兵「・・・・・・!! 松浦果南!!」

悪亜兵「なぜ貴様がここにっ!?」

 

花丸「か、果南さん・・・・・・」

果南「任せといて、マル」

花丸「・・・・・・後で、戸の直し賃を頂戴するずら」ジトッ

果南「・・・・・・う。貸しにしといてくれ」タラッ
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
95 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:16:46.53 ID:czWLLxXG0
果南「――さて」

果南「娘がどうとか、どーでもいい」

果南「私は気持ちよく寝ようとしてたんだ。その寝込みを襲おうっていうんだから――」

スラッ…

果南「――覚悟は出来てるな?」

 

悪亜兵「く・・・・・・!」

悪亜兵「そ・・・・・・そんな短い脇差一本で何が出来る! かかれっ!!」

ワアアッ!

 

果南「――上等」ニッ

 

シャキンッ!

ズパッ!

悪亜兵「ぐわっ!」

悪亜兵「ひでぶっ」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
96 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:18:16.53 ID:czWLLxXG0
一方、堂の中に隠れ、

境内で戦う果南と悪亜集の様子を窺う、千歌たち。

 

千歌「・・・・・・梨子ちゃんは、部屋の奥に隠れてて」

梨子「・・・・・・!!」

梨子「すごい、あの果南さんっていうお侍、強い・・・・・・!」

梨子「あんな短い脇差一本で、何人もの鎧武者と渡り合ってる・・・・・・!」

千歌「当たり前だよ! 果南ちゃんはすごいんだから!」

曜「でも・・・・・・昼間の時より、相手の数が多い」

曜「流石の果南ちゃんも、この数が相手だと・・・・・・」

 

悪亜兵「かかれかかれ! 所詮は多勢に無勢!」

悪亜兵「いかに“無太刀の果南”といえども、この数にかなうと思うなよ!!」

果南「・・・・・・言ってろ」

ガキン!

ズパッ!

 

――数に勝る悪亜集に、一歩も退かず渡り合う果南であったが、

四方八方から次々と襲い来る兵たちに、手こずっているのは明らかであった。

 

曜「このままじゃ・・・・・・!」

千歌「・・・・・・!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
97 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:19:42.66 ID:czWLLxXG0
千歌「・・・・・・曜ちゃん」

曜「え?」

千歌「美渡ねえや果南ちゃんは、侍になんかなるな、って言ってた・・・・・・」

千歌「確かに、侍の中には酷い人だっている。そのくらい、私にだってわかってる・・・・・・」

曜「千歌ちゃん・・・・・・」

千歌「だけど・・・・・・だけどね」

千歌「本当の、侍って・・・・・・誰かが困ってる時、力になってくれる」

千歌「そんな人のことを言うんじゃないかなって、千歌は思うの」

千歌「そう・・・・・・果南ちゃんみたいに」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
99 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:21:12.66 ID:czWLLxXG0
グッ

千歌「ね・・・・・・曜ちゃん」

千歌「もし私と一緒に、侍になろうって言ったら・・・・・・」

千歌「曜ちゃんは・・・・・・一緒に、やってくれる?」

曜「・・・・・・・・・」

曜「本気・・・・・・なんだね」

クスッ

曜「私、小さい頃からずっと思ってた。千歌ちゃんと一緒に、何かやってみたいって」

曜「だから・・・・・・」

千歌「・・・・・・!!」

千歌「曜ちゃん・・・・・・!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
100 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:22:56.90 ID:czWLLxXG0
キイン!

ガンッ!

 

悪亜兵「ふふふ、流石だな、松浦果南」

悪亜兵「しかし貴様とて、この数を一度に相手にするのは容易ではあるまい」

 

果南(くっ・・・・・・! 一人一人は雑魚だけど、いかんせんこの数は・・・・・・)

 

悪亜兵「さあ、どんどんかかれっ!!」

ウオオオッ!

カキン! ギンッ!

悪亜兵「その隙に、寺の中へ押し入るのだ!!」

ワアアアッ!

 

果南が見せた、一瞬の隙を逃さず、

兵の何人かが、堂に向かって突進する。

 

果南「くっ!! しまっ・・・・・・」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
101 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:24:18.52 ID:czWLLxXG0
千歌「どおりゃあああ!!」

ギインッ!!

悪亜兵「ぐあっ!?」

 

曜「蹴りいいいいいっ!!」

ドキャッ!!

悪亜兵「へぶっ!?」

 

――その時。

堂の中から飛び出した千歌と曜が、押し入ろうとした兵たちを、勢いに任せて蹴散らす――!

 

千歌「果南ちゃん!!」

曜「大丈夫!?」

 

果南「な!? 千歌、曜!?」

果南「何しに出てきた!! ふたりは中にいろって・・・・・・!!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
102 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:26:00.29 ID:czWLLxXG0
千歌「果南ちゃん! 私は確かに、ごく普通の百姓の子だよ! でもね・・・・・・!」

千歌「困ってる人がいるのに、それを見て見ぬふりするほど、腐ってもいない!!」

 

果南「!」

 

曜「私だって! 果南ちゃんと千歌ちゃんが頑張ってるなら・・・・・・!」

曜「ひと肌脱ぐよ! おっ父だって、きっとそうした!!」

 

果南「千歌、曜―――」

キッ!

果南「――いいか! あくまで、己の身を守るために戦えっ!!」

果南「いいね!!」

 

千歌「合点(がってん)――」

曜「――承知之助!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
103 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:28:32.34 ID:czWLLxXG0
悪亜兵「このっ・・・・・・! 舐めるな小娘ぇ!!」

ガキッ!

千歌「ぐぅぅ・・・・・・!!」

ギリギリ

 

兵のひとりが、千歌に斬りかかり、

千歌はかろうじて、刀でそれを受ける。

 

悪亜兵「ふはは、防ぐだけで精一杯じゃねえか!!」

悪亜兵「百姓の小娘風情が、悪亜集にかなうと思うなぁっ!!」

ギインッ!

千歌「あうっ!」

ズザッ

 

体格に勝る悪亜兵が、力任せに押し返し、

弾かれた千歌は倒れそうになるも、なんとか踏みとどまる。

 

悪亜兵「くくく・・・・・・一丁前に、刀なんざ構えちゃいるが・・・・・・」

悪亜兵「どうせ、人を斬ったことなんざねえんだろぉ!? てめえにゃそんな刀、勿体無ぇ!!」

千歌「うるさい・・・・・・!! この刀は、戦で戦ったお母さんの形見の刀・・・・・・!」

千歌「私は、この刀で・・・・・・! 本当の、侍になるっ!!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
104 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:30:18.00 ID:czWLLxXG0
悪亜兵「しゃらくせぇっ!! 死ねっ!!」

グオッ!

千歌「・・・・・・!!」

 

千歌に向かって、悪亜兵が刀を振り上げる――!

 

千歌(落ち着け・・・・・・! 相手の動きは大振り!)

千歌(昔、稽古をつけてもらった頃の、果南ちゃんにすら劣る・・・・・・!!)

千歌(落ち着いて、相手の体の、全体を見るっ!!)

 

チャキッ

 

千歌(相手は銅鎧を身につけてるけど・・・・・・果南ちゃんは、瞬時に鎧の隙間に、刃を当てていた)

千歌(だったら――そこを狙って!!)

 

グッ

 

千歌「そこ!!」

ドグッ!
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
105 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:31:31.74 ID:czWLLxXG0
悪亜兵「ごふぁっ!?」

千歌「や、やった・・・・・・!!」

悪亜兵「馬鹿、な・・・・・・!!」

ドサッ

 

千歌は、返した刀の峰を、悪亜兵の胴当ての隙間に叩き込み――

兵は、その場に昏倒した。

 

千歌「・・・・・・峰打ちだから、勘弁ね」

ドキドキ

千歌(やった! 私だって・・・・・・戦える!!)

 

キッ

 

千歌「来るなら来い、悪亜集!!」

千歌「みんなはっ・・・・・・私が、守るっ!!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
106 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:33:46.72 ID:czWLLxXG0
悪亜兵「ぐへへ・・・・・・」

ジリジリ

曜「・・・・・・!」

 

―― 一方の曜。

武器を持たない曜に、刀を構えた兵のひとりが、じりじりとにじり寄る。

 

悪亜兵「丸腰じゃねえか。それでどうやって戦うつもりだ、ああ?」

曜「・・・・・・私は、武器を使えないからさ」

曜「いや、違うかな。“使えない”んじゃない、“使わない”んだ」

曜「おっ父も言ってた。海の男は、武器になんか頼らず、自分の体ひとつで戦うんだって」

悪亜兵「何を寝言ほざいてやがる!! 死ねっ!!」

ジャキッ!

グオッ!

 

曜の脳天目掛け、

悪亜兵が、刀を振り上げる――!

 

曜「―――」

スゥッ
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
107 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:37:05.22 ID:czWLLxXG0
――しかし。

曜の頭は、冴えていた。

その目で、瞬時に、相手の全身を見渡す。

 

曜(――遅い。それに動きが大振りで、無駄がありすぎる)

曜(私に稽古をつけてくれてたおっ父は、もっと――)

 

曜「――速かった!!」

ダンッ!!

悪亜兵「!?」

 

悪亜兵が刀を振り上げた、その刹那。

相手が刀を振り下ろすより一瞬速く、曜は相手の懐へと踏み出す。

 

曜(おっ父は言ってた。刀を、怖れるな)

曜(刀を振るえば、動きは大きくなる。刀を恐れず、振られる前に、一気に間合いに踏み込んで――)

ガッ

ガシッ

曜(襟口と腰を掴んで、一気に重心を崩し)

曜(肘を相手の首に入れたまま――投げ落とすべし!!)

 

曜「どおおりゃあああああっ!!!」

ブワアッ

ドキャッ ゴキッ!!

悪亜兵「!!?」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
108 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:38:17.40 ID:czWLLxXG0
悪亜兵「が・・・・・・あ・・・・・・!?」

ガクッ

曜「はぁぁ・・・・・・やった・・・・・・!」

 

曜に投げ落とされ、頭を地面に強打した悪亜兵は、

そのまま白目を剥き、失神した。

 

曜(武器がなくったって・・・・・・私も、戦える!)

曜(千歌ちゃんの、力になれる・・・・・・! 侍に、なれるんだ!)

曜(この、おっ父直伝の――体術があれば!!)

 

曜「――宜候(よーそろー)!!」

曜「さあ、どんどん行くぞぉぉーー!!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
109 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:41:08.10 ID:czWLLxXG0
〜寺の中、本堂〜

 

梨子「・・・・・・!!」

ドキドキ

梨子(すごい、あの、千歌ちゃんと曜ちゃんって子・・・・・・!)

梨子(悪亜集を、倒した・・・・・・! ただの、百姓の子じゃないの?)

梨子(あの、果南さんっていう侍は、相変わらず強いし・・・・・・)

ゴクッ

梨子(ここに隠れてるように、言われたけど・・・・・・)

梨子(助かる、かも・・・・・・?)

 

――その時。

梨子の背後の闇から、現れた者――

 

ギシッ…

???「――そんな、格子の隙間から覗き見してないで」

???「もっと近くで、見物してはいかが?」

 

梨子「!?」ビクッ

梨子「――誰!?」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
110 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:42:22.12 ID:czWLLxXG0
スゥッ

善子「――くくく。愚かな人間風情は、この私をこう呼ぶわ」

善子「“堕天使の夜羽根”と」

 

梨子「だ・・・・・・だてんし・・・・・・!?」タラッ

梨子「そ、それより・・・・・・! 貴方、どこから・・・・・・!!」

善子「くくく。夜羽根の魔術に、不可能は無いのよ」

梨子「そうか! あえて表で派手に部下を暴れ回らせ、注意を表に向けて――」

梨子「自分はこっそり、裏から侵入したのね! せこい!」

善子「せこい言うな!」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
111 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:43:20.04 ID:czWLLxXG0
善子「ふふ・・・・・・まあいいわ。追い詰めたわよ」

ジリ…

善子「さあ、大人しく、我らが城から奪った書を渡しなさい」

梨子「・・・・・・!」

梨子「あの巻物は、渡すわけには・・・・・・!」

善子「愚かな・・・・・・あくまで、夜羽根に逆らうというのね」

善子「手荒な真似はしたくないけど――致し方ない」

ジリッ

善子「力ずくでも――!」

梨子「――!」

 

???「――そこまでずら!」

 

シャッ!
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
112 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:44:35.48 ID:czWLLxXG0
ブンッ!

善子「!!」

バッ!

 

不意に突き出された刃を、

善子が咄嗟にかわす。

 

善子「危なっ――誰!?」

 

梨子「和尚様――」

梨子「じゃなくて、花丸ちゃん!!」

 

チャキッ…

花丸「――オラのお寺で、乱暴狼藉する人は」

花丸「いくらオラでも、許さないずら」

 

現れたのは、

十字の刃が光る槍を構えた、花丸――!

 

善子「十文字槍――ですって?」

善子「ただの坊主じゃないわね――」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
113 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:45:33.58 ID:czWLLxXG0
花丸「おじいちゃんから受け継いだ、宝蔵院流槍術――」

花丸「――ただの坊主だと思ったら、大間違いずら」

 

善子「ふ――面白い」

バサッ

善子「所詮は脆弱な人間風情の武器術など、恐るるに足らず」

善子「この“堕天使の夜羽根”の魔術に――」

ギランッ

善子「――恐れおののくがいいわ」
【SS】千歌「我ら天駆亜九人集、参る!」
114 :名無しで叶える物語(やわらか銀行) (ワッチョイ 0936-B6a6)[sage]:2017/10/13(金) 00:47:39.40 ID:czWLLxXG0
続く

余談ですが、この時代(天正18年:西暦1590年)の2年前にはすでに秀吉により刀狩令が発布されていますが、
実際は何らかの理由をつけて農民が武器を所有したままであることも多く、
そこまで「農民から武器を取り上げる」ことが徹底されていた訳ではなかったようです
ちかっちやマルが刀や槍を持ってるのもそういう訳でひとつ大目に見てやってください
詳しくはwikipediaかなんかで


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