- 海未「五月雨と月影」 [無断転載禁止]©2ch.net
1 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 ©2ch.net(7段) (ワッチョイ d336-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:27:02.72 ID:snaWLqzb0 -
五月雨の 空だにすめる月影に 涙の雨ははるるまもなし ――赤染衛門(新古今和歌集) VIPQ2_EXTDAT: checked:vvvvv:1000:512:----: EXT was configured
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2 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:28:16.99 ID:snaWLqzb0 - ザアアァーッ…
――体に打ち付ける冷たい雨。 刀を抜いた、五、六人のやくざ者が、 海未を取り囲み、じりじりと迫る。 その刹那、 ザスッ! 「ぐあっ!?」 一瞬で手を斬りつけられたやくざ者が、刀をその場に取り落とす。 シュバッ! ザンッ! 「ぎゃあっ!?」 「ああっ!!」 腕を、脚を、目に映る間もなく、次々に海未の刀が斬り裂き。 瞬く間に、取り囲むやくざ者を、海未は斬り伏せる。 海未「―――・・・」 ザアアァーッ… 「流石だね――海未ちゃん」 雨はまだ、止まない。
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3 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:29:16.31 ID:snaWLqzb0 - ――遡ること一日前。
とある、小さな宿場町―― ザーッ… ザッ…ザッ… 降り続く五月雨の中、 傘を差して歩く、ひとりの浪人。 海未(雨・・・・・・止みませんね) 海未(宿場町――ですか) 海未(丁度いい。そこの飯屋で、ひと休みしましょう)
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4 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:30:18.86 ID:snaWLqzb0 - ガララッ
ミカ「いらっしゃーい」 飯屋の中は人もまばらで、娘がひとり、切り盛りをしている。 ミカ「お侍様、何にします?」 海未「お茶と・・・・・・とろろ飯をひとつ」 ミカ「はーい、ただ今ー」 ヒソヒソ… 一息ついた所、隅の席の二人組の会話が、聞こえてくる。 「山向こうの町で・・・・・・賄賂を働いていた侍連中が・・・・・・殺られたらしい」 「ひとり残らず斬られたとか・・・・・・この辺りにも、やって来たのか・・・・・・?」 「噂に聞く、人斬り・・・・・・“隻腕の甚内”・・・・・・」 ヒソヒソ 海未「・・・・・・・・・」
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5 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:31:29.01 ID:snaWLqzb0 - ミカ「おまちどうさまー」
海未「ありがとうございます。おお、これは美味しそうですね」 ミカ「お侍様、旅のお方?」 海未「はい。諸国を渡り歩く、根無し草ですよ」 海未「この町には、雨宿りで立ち寄ったのです」 ミカ「ああ、この長雨、ずっと続いていますものね」 ミカ「私はてっきり、お侍様も芸妓(げいこ)さん目当てでやって来たのかと」 海未「芸妓さん?」 ミカ「寂れた小さな町ですけど、唯一、この町の芸妓さんはちょっと有名なんですよ」 ミカ「中でも、町の芸妓さんを取り仕切る“花鳥太夫”の容姿と舞は絶世の美しさで・・・・・・」 ミカ「はるばる、太夫目当てでこの町にやって来る人が、後を絶たないんですよ」ペラペラ 海未(この娘、随分とお喋りですね・・・・・・) 海未(ふむ。芸妓さん、ですか・・・・・・)
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6 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:32:39.64 ID:snaWLqzb0 - ミカ「ところで、お侍さんは、なぜ旅を?」
海未(そろそろ、とろろ飯を食べたいのですが・・・・・・) 海未「――そうですね」 海未「人を――探しています」 ミカ「人を・・・・・・?」 ガララッ! やくざ「おい、娘!!」 その時、荒々しく戸を開けて入ってきたのは、 見るからに柄の悪い、三人のやくざ者。 ミカ「い、いらっしゃい・・・・・・」 やくざ「いらっしゃいじゃねえよ。今月の分、どうなってんだ」 ミカ「今月は、もう少し待って頂けませんか・・・・・・? 何分、色々苦しくて・・・・・・」 やくざ「ああ!? 舐めてんじゃねえぞコラ!!」 グイッ! やくざ「だったらこの店で飯売るだけじゃなく、体でも売ったらどうだ、ああ!?」 ミカ「うう・・・・・・」 海未「待ちなさい」 ザッ
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7 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:33:46.18 ID:snaWLqzb0 - 不意に海未が立ち上がり、
飯屋の娘の胸ぐらをつかむ、やくざ者共の前に立つ。 やくざ「ああ? なんだお前ェは」 やくざ「浪人風情が、邪魔立てするとためにならんぞ」 海未「私は昼飯を食べに来たのです」 海未「貴方がたに目の前で暴れられると、飯が不味くなる」 やくざ「ああん!? すっこんでろこの、」 ドグッ やくざ「!!?」 海未に向かおうとしたやくざ者の鳩尾を、海未の刀の鞘が突く。 さらに間髪入れず、 ボゴッ さらにもう一人の男の腹にも鞘の先を食らわせ、 思わず男たちが、その場に膝をつく。
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8 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:34:58.57 ID:snaWLqzb0 - やくざ「てめえ、」
残ったひとりが刀を抜こうとした瞬間、 ヒュンッ! 尋常でない剣速で抜刀された海未の刀の剣先が、 腰の刀に手をかけた男の、胸元をかすめる。 そして、男の胸元の着物だけが切り裂かれ、肌が覗いた。 パチン… 海未「――私は、とろろ飯が食べたいのです」 海未「失せなさい」 やくざ「ひっ・・・・・・ひええっ・・・・・・」 やくざ「ひえええ!!」 バタバタ
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9 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:36:13.44 ID:snaWLqzb0 - ――やくざ者共が、我先にと退散した後。
飯屋に残り、悠々ととろろ飯を食す海未と、その傍らに立つ、飯屋の娘。 ミカ「お侍様、ありがとうございます・・・・・・なんとお礼を言ったら良いか」 海未「礼には及びません。私は昼飯が食べたかっただけですから」 海未「うむ、なかなか美味ですね」 ズルルッ 海未「――ふう、ご馳走様です」 海未「ときに、あの者たちは?」 ミカ「この宿場町を縄張りにする、やくざの一家の下っ端です・・・・・・」 ミカ「以前は、矢澤一家というのがこの町を取り仕切ってたんだけど、しばらく前に潰されちゃって」 ミカ「矢澤を潰して、新たに町を仕切ってるのが綺羅一家っていうんだけど、こいつらがとんでもなくてね」 ミカ「みかじめ料も馬鹿高いし、逆らえば容赦なく殺されるし、役人にも裏で金を回してやりたい放題」 ミカ「この前も、向かいの酒屋の主人が、高いみかじめ料に文句を言っただけで斬られちゃったの」 海未「・・・・・・ほう。なかなかの悪党ですね」 ミカ「最近じゃ、無法者をたくさん取り入れて、“悪来主(あらいず)”なんて名乗ってちょっとした軍団気取り・・・・・・」
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10 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:37:37.13 ID:snaWLqzb0 - ミカ「・・・・・・でも、まだ大丈夫」
ミカ「私たちには、太夫がいてくれるから・・・・・・」 海未「・・・・・・太夫が?」 海未「それは、一体――」 ガララッ 「――邪魔するよ」 ザッ…ザッ… ミカ「――!!!」ビクッ ミカ「お・・・・・・親分・・・・・・!!」ガタガタ ツバサ「“悪来主”頭目――綺羅ツバサ」 ツバサ「貴方が、うちの三下を軽くいなしたっていう、お侍さん?」 海未「ほう――」 海未「噂をすればなんとやら。貴方が、綺羅とかいう一家の親分ですか」 ツバサ「親分、という呼び名は好きじゃないわ」 ツバサ「頭目とか首領、という方が好みね」
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12 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:42:16.92 ID:snaWLqzb0 - 英玲奈「」ギロッ
あんじゅ「」ジロッ ミカ(綺羅親分が自ら・・・・・・!? おまけに、幹部の統堂英玲奈や優木あんじゅまで・・・・・・!?) ミカ(駄目だ・・・・・・この店も潰される・・・・・・おしまいだぁ・・・・・・!)ガタガタ あんじゅ「聞けば、随分と剣の腕が立つみたいじゃなぁい」 英玲奈「――まさか貴様。この辺りのやくざ者や侍を次々に襲っているという、“隻腕の甚内”ではあるまいな」 ツバサ「落ち着きなさい。見たとこ、このお侍さんはちゃんと腕は二本ついているわ」 海未「・・・・・・・・・」 ツバサ「でも、三人を相手にして軽くあしらう剣の腕は見事」 ツバサ「どう? なんなら、用心棒として、うちの組で雇い入れてもいいわよ?」
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13 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:43:06.36 ID:snaWLqzb0 - 海未「・・・・・・断ると言ったら?」
ツバサ「・・・・・・とろろ飯が、貴方の最後の食事になるかもね」 海未「・・・・・・・・・」グッ 英玲奈「!」 あんじゅ「」クスッ ザッ 海未が腰の刀に手をかけ、 英玲奈とあんじゅの二人が身構えた――その時。 「――お待ちください」 まるで、殺気立った飯屋の中に、 華やいだ風が舞い込んだようであった。 鈴を転がすかのような声につられ、海未が入口に目を向けると―― そこに立っていたのは、着物の美しい麗人と、その脇で付き従う娘。 ツバサ「太夫・・・・・・!」
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15 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:44:03.73 ID:snaWLqzb0 - ミカ「花鳥太夫・・・・・・! 貴方まで・・・・・・!」
フミコ「太夫、こちらへ」 太夫「大丈夫です。ありがとう」 太夫と呼ばれた美人は、目が不自由なのか―― その両目は閉じられたままで、脇の娘が、太夫の手をとっている。 しかし、両目が閉じられたままでも、隠しきれぬ美しさと気品が、その場の人間を黙らせる。 太夫「――綺羅親分」 太夫「ここは、私の顔に免じて、刀をお納めくださいませ」 ツバサ「・・・・・・・・・」 ツバサ「――行くわよ、お前たち」 英玲奈「・・・・・・・・・」 あんじゅ「ふん」 ザッザッ…
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16 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:45:00.35 ID:snaWLqzb0 - 綺羅一家が立ち去り――
太夫は、涼やかな微笑を浮かべ、海未の許へと歩み寄る。 太夫「貴方が――」 太夫「この飯屋の娘を助けてくださった、お侍様?」 海未は―― 動くことが出来なかった。 答えることが出来なかった。 何故なら、太夫のその顔は、年月が経っているといえど、見間違う筈もなく―― 海未(貴方は・・・・・・) 海未(ことり・・・・・・なのですか・・・・・・!?)
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17 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:47:16.55 ID:snaWLqzb0 - ――その夜。
花鳥太夫や、芸妓たちが詰める置屋―― 海未「・・・・・・・・・」 ソワソワ ヒデコ「どうぞ、御遠慮なくおくつろぎください」 昼間、太夫についていたのとは別の芸妓が、 海未の前に、茶を置く。 海未「しかし・・・・・・良いのでしょうか」 海未「一介の浪人風情が、お邪魔させて頂いて・・・・・・」 ヒデコ「勿論、並のお客じゃここに上がらせりゃしません」 ヒデコ「しかし、太夫のたっての願いですからね」 海未「はあ・・・・・・」
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18 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:48:30.42 ID:snaWLqzb0 - フミコ「――太夫をお連れしました」
――その時。 芸妓に手を引かれ、奥の間から、太夫が姿を現す。 海未「・・・・・・・・・」 海未はしばし、その美しさに見惚れた。 髪を結い、小鳥と花の模様の、鮮やかな着物を身に纏い。 静かな微笑をたたえた、太夫の姿は――成程、この太夫目当ての客が絶えることがないのも、頷けた。 太夫「――花鳥太夫と申します」 太夫「改めて――ありがとうございました」 海未の前に座った太夫は、深々と頭を下げる。 海未「あ、頭をお上げください。私は、そんな――」 太夫「かつて、身寄りのない私を受け入れてくれたこの町の人たちは、私にとっては第二の家族も同然」 太夫「その町の人を助けて頂いた、心ばかりのお礼として」 太夫「今夜は、ここで風雨をお凌ぎくださいませ」 そう言って――顔を上げ、にこりと微笑む。
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19 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:49:49.56 ID:snaWLqzb0 - 太夫「お名前を――教えて頂けますか」
海未「な、名前、ですか?」 海未(気づいていないのですか、ことり? 目が見えないから?) 海未「わ、私は、その――」 海未「――園崎、海右衛門(かいえもん)と申しますっ!」 なぜか海未は――正直に名乗ることが出来ず。 咄嗟に、名を偽った。 太夫「海右衛門――様?」 ニコリ 太夫「海右衛門様と、おふたりで話がしたいです」 太夫「ヒデコとフミコは、下がってよいですよ」 フミコ「え? ですが――」 ヒデコ「太夫が、そう言うなら。ほら、行くよ、フミコ」 スッ… パタン
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20 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:51:09.30 ID:snaWLqzb0 - ザアアァー…
海未「・・・・・・・・・」 太夫「・・・・・・・・・」 しばし、ふたりきりとなった海未と太夫は、黙り込み。 部屋の中には、外で降り続ける雨の音だけが聞こえている。 海未(やはり――この顔、声。年月が経とうとも、見誤る筈がない) 海未(間違いない――ことり。何故貴方が、この町に――?) やっと見つけた。やっと会えた。 それなのに、海未は、その喜びをどう表せば良いか、考えあぐねていた。 戸惑っていた。 ことりに、“あれ”から何があったのか――知るのが、怖かった。 海未が、“あれ”から変わってしまったのを――知られるのが、怖かった。
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21 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:52:10.28 ID:snaWLqzb0 - 太夫「――海右衛門様は」
海未「!」 太夫「なぜ、旅をされておりますの?」 海未「・・・・・・・・・」 しばし、口をつぐんだのち―― 海未は、正直に、答える。 海未「人を、探しております」 太夫「人を?」 海未「大切な――ふたりの、幼馴染です」 太夫「幼馴染――」
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22 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:53:23.69 ID:snaWLqzb0 - 海未「ひとりは――」
海未「生きております」 太夫「・・・・・・・・・」 海未「そして、もうひとりは――」 ――お父さん・・・・・・! お母さん・・・・・・! 雪穂・・・・・・! ――酷い・・・・・・こんなの・・・・・・酷すぎるよ・・・・・・!! ――あいつら・・・・・・許さない・・・・・・! ――絶対に・・・・・・仇(かたき)を、とってやる・・・・・・!! 海未「――死にました」 ザーッ…
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23 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:54:40.54 ID:snaWLqzb0 - 海未「太夫は・・・・・・なぜ、この町に?」
太夫「・・・・・・・・・」 太夫「私は、かつて・・・・・・家族と、故郷を失いました」 太夫「間もなく、病にかかり・・・・・・光まで、失ってしまった」 海未「・・・・・・・・・」 太夫「流れに流れて――気づけば、この町にたどり着きました」 太夫「先程も申し上げましたが、この町の人たちは、身寄りのない私を迎え入れてくれた」 太夫「大切な、家族――ですから私は、この町を守らねばならないのです」 海未「・・・・・・・・・」 海未(ことり・・・・・・私の知らぬ間に、貴方は、大変な苦労を・・・・・・)
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24 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:56:08.57 ID:snaWLqzb0 - 海未「貴方は――この町の人たちを守る、と申されましたが」
太夫「・・・・・・・・・」 太夫「今、この町を取り仕切る綺羅一家――その横暴ぶりは、私もよく知っております」 太夫「ですが、綺羅の親分は、私にだけは手出しが出来ないのです」 海未「それは、一体――」 太夫「――惚れているからです。この私に」 海未「ああ――」 海未(合点がいった。惚れた女に強く言われれば、やくざの親分も無茶は出来ぬという訳か――) 海未は、わからなくなった。 ずっと会いたかったはずだ。実際、とても嬉しいはずなのだ。 しかし、年月は、自分とことりを変えてしまった。 ことりは、昔よりも随分、美しく、そして強くなったように見える。 しかし、自分は―― そう思うと、心に木枯らしが吹くような、一抹の寂しさが拭えないのだ。
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25 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:57:09.12 ID:snaWLqzb0 - 太夫「――海右衛門様」
太夫「せめてもの御礼に――」 太夫「舞を、舞わせては頂けませんか」 海未「―――」 海未「――是非」 す、と、太夫が立ち上がり。 雨の音を音色代わりに、舞を舞う。 目の見えぬ、太夫の舞は―― この上なく美しく。 そして――どこか、悲しげだった。
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26 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:58:36.35 ID:snaWLqzb0 - 海未「――見事な舞でございました」
舞い終え、跪いて深々と頭を下げる太夫に、海未は手を叩く。 太夫「――ありがとうございました」 海未「さて――もう夜もふけて参りましたし」 海未「私は、客間で休ませて頂きます――」 スッ 立ち上がり――海未が、太夫に背を向けた時。 すとん――と、海未の背中に、太夫が体を預ける。 太夫「海右衛門様――」 太夫「私は――・・・」 海未「・・・・・・・・・!」 海未は――す、と、体を離し。 海未「梅雨の長雨は、体を冷やします」 海未「ゆめゆめ、風邪などひかれぬよう――」 カララッ… パタン 太夫「・・・・・・・・・」
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27 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止 (ワッチョイ bb36-2WTa)[sage]:2017/06/18(日) 23:59:48.88 ID:snaWLqzb0 - 部屋を出た海未は――
中庭越しに、空を見上げる。 黒く曇った空からは、星などひとつも見えず、 涙を流すように、雨粒がひっきりなしに落ちてくる。 海未(あの日から――) 海未(私の中では、ずっと雨が降り続いているような気がします) 海未は、自らの手を見る。 本当は、抱きしめたかった。 抱きしめ、自分こそが海未だと、園田海未であると、叫びたかった。 だが―― 海未(ことりを、抱きしめるには――) 海未(私の手は――血で濡れすぎてしまった) ザァァーッ…
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