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名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)
@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)
千歌「ねえねえっ!今夜みんなで、百物語しよーよ!」 [無断転載禁止]©2ch.net

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千歌「ねえねえっ!今夜みんなで、百物語しよーよ!」 [無断転載禁止]©2ch.net
99 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 20:59:02.99 ID:84x9OhzYa
そんな家の子どもだから、小さい頃からよくニューオープンするホテルの落成式とか、オープニングセレモニーには顔を出しててね。

そういうイベントって、夜に行われることも多くて。
体力のない子どものうちには、結構ハードな部分もあったのよ。

でも。
ちょうど会場はホテルなんですもの。

疲れた私をすぐに休ませるために、パパの計らいでイベントが終わると会場の客室を一つ。必ず用意しておいてくれてるのが、いつからかお決まりになっていたわ。

それも、頑張った私へのご褒美ってことで、飛びっきりのスイートルーム♡

だから、私はそういうイベントも全然嫌いじゃなくて。
次はどんなすごいお部屋に泊まれるのかしら、なんて。むしろ楽しみにしていたくらいだったわ。

私がある程度大きくなってからも、その決まり事がなくなることはなくって。
いつしか私は、ニューオープンするホテルのスイートルームに対する”ゴイケンバン”みたいになっていたわ。
千歌「ねえねえっ!今夜みんなで、百物語しよーよ!」 [無断転載禁止]©2ch.net
100 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 20:59:36.46 ID:84x9OhzYa
バッドポイントその1。
照明が明るすぎて今一つゆったりできない。
調光できるようにするか、弱めの光源と間接照明を用意すること。

その2。
部屋はモダンなデザインなのに調度品がテクノに寄り過ぎ!面白いけど、アクセントで留めておかないとちぐはぐな印象をもたれちゃうわ。

その3。
テラスが勿体ない!
せっかく景色がいいのに、机も座るものも無いんだもの。木製だったら安価でもそれなりにこの部屋に合うものが用意できるはず。これは必ず揃えておくこと!

みたいな感じでね。
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101 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:00:51.10 ID:84x9OhzYa
最初は何となくパパに小さな不満を漏らすだけだったんだけど、それが言われたとおりにしたらずいぶんと部屋が良くなったって気に入られてね。
今ではすっかりオーニングセレモニーの出席と変わらない、私のお仕事にされちゃったわ。

これは、今年の春。
日本の……どこだったかしら。ゴルフ場と一体で開発された、随分と山の中にオープンするリゾートホテルのイベントに参加した夜のことよ。

いつものようにパーティーを終えて、部屋へと案内される。

複合リゾートとしてはよくある話なのだけど。ゴルフ場との兼ね合いで、ホテルはまだ正式にオープンしたわけじゃなかったから、私以外に客は取ってなかったの。

だからスタッフだって、管理のための必要最低限しかまだ詰めていない。
小さい頃は私の世話係の者が一緒に泊まっていたけど、それだって付けなくなってからは随分と経って久しい。

そして、スイートルームは大概フロントからは遠い位置にある。

つまり、私は広い部屋で、広いフロアで。いえ、それどころか、この広いホテルで。
その夜、一人きりだったのよ。

案内された部屋に入るとき。
振り返った廊下の長さと暗さときたら。それはもう、経験のない人だと心細くってたまらなくなっちゃう光景だったかも知れないわ。
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102 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:01:27.01 ID:84x9OhzYa
とは言っても、私にとってはそういうのは慣れっこのこと。

いつものように、セレモニーの夜のもう一つのお仕事に手を付けがてら。まずはパーティーでかいた汗を流すためにバスルームへ向かったわ。

途中、”ゴイケンバン”として気付いたことをまとめるために持ち込んだボイスレコーダーを手に、これまでの内装の評価を手短に吹き込むことも忘れずにね。

とっても広い脱衣所に、2つ並んだ洗面台にはアンティークで上等な鏡が、こちらも2枚並んで設置されてる。

バスルームへ来る前に一通り目を通した幾つかの部屋も、デザインから調度品まで、なかなかのレベルで纏まってた。

デザイナーの意地と誇り。技巧を凝らした意匠とそれらの調和に、自然と賞賛の口笛が漏れる。

パーティーは疲れちゃうけど、だからこそその後のお楽しみはこうでなくっちゃ!

私は楽しい夜を過ごせそうな予感と、ドレスや装飾品の類をすべてとっぱらった開放感。
その2つが混じり合って弾ける胸の軽やかさのままに。バスルームへ続く磨り硝子の引き戸を勢い良く開け放ったわ。

シャイニー!
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103 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:03:11.58 ID:84x9OhzYa
…………。

瞬間。私は頂点まで登り詰めたテンションが、底の抜けたみたいに低下していくのを感じたわ。

こう言うの、日本の難しい言葉でなんて言うんだったかしら。
ノーズ……ホワイト……んん!鼻白む、ね。

そう。あんなに楽しい気分に弾んでいたはずの私は、一瞬で鼻白んじゃったの。

だって、バスルームは完全な状態じゃなかったんだもん。

三畳くらいはたっぷりあるバスルームは、部屋と同じく白とブラウンで統一されたシックな雰囲気で。
完成していたら、もう私は本当にハッピーな気持ちで鼻歌交じりにバスタイムを過ごせてたんだろうけど。

でも、その肝心のバスタブが。
ビニールで覆い隠されていたの。
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104 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:04:01.07 ID:84x9OhzYa
天井にテープか何かで止められたビニールが、床でもテープで止められていて。バスタブがどんな様子かはうかがえない。

コンクリートでも乾かしてるのかとも思ったんだけど、床全体に敷き詰められた大理石はツルツルピカピカだし。
そのビニールにも何か内側で作業をしたような汚れとかが飛び散っている様子もなかった。

どうやらそこまで大きなものでない、数本ネジを絞めるだけみたいな細かい作業が済んでなかったみたいね。

(それくらい済ませて起きなさいよ!

なんて、なおのこと腹を立てながら。
件の居残り作業には湿度とかは関係無さそうだと勝手に判断して、私はシャワーホースに繋がるバルブを捻った。

一瞬冷水がほとばしったあと、すぐに暖かいお湯が続く。
良かった、水は通っているみたい。

本来ならフロントにいるスタッフに電話で確認して別の部屋を用意させるか。せめてシャワーを使っても問題ないかの確認くらいはするべきだったかもしれないけど。
パーティーで疲れていた上に待たされるのも嫌だったし。

それに。
せっかく盛り上がった気分に水を差された私は、そんな手間すら我慢できないくらい、もうほんとに頭に来ていたの!

いくらデザインが良くっても、完成してなければ何もかも台無し!採点に能(あた)わじ!赤点!零点!即落第!

持ち込んだアロマを焚いて、つま先まで伸ばせる湯船でうっとり夢気分……。
そんな楽しげな計画が音を立てて目の前で崩れていくのを感じながら。
プリプリ湯立つ頭に、少しぬるめに調整したシャワーをしばらく浴びせかけてみたけど。いっこうに冷える気配はなくって。
私はいよいよこのホテルでの”ゴイケンバン”の仕事をボイコットする決意を固め始めた。

そんなときだった。
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105 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:04:39.48 ID:84x9OhzYa



「ねえ、どこ?


 
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106 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:06:48.79 ID:84x9OhzYa
顔や髪、胸で弾けるシャワーのボタボタいう水音に混じって、そんな声が聞こえてきたのは。

呼ばれたなら、返事をしなくっちゃ。

怒れる頭でもそれくらいの余裕は感じながら、なんの疑問も持たずに応答のために口を開く。

「はぁ〜────

 

まず思ったのは、”何の用だろう”だった。



たまの休暇で揃ったパパやママに、リビングから呼びつけられるような気安さで。
部屋に呼んでいた親愛なる友人に、じゃれつかれるような心地よさで。
でもどこか。今すぐ片付けなければならない案件の指示を求めて駆け込んできた、世話役の持つようなひっ迫感で。

そのいずれの響きも、先の声は有してた。
だから私は、とりあえず返事をしようとしたのよ。

だけど。
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107 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:07:33.05 ID:84x9OhzYa
「ぁ────

爆発するように張り詰めた緊張の糸が、応答を未だ終えずに震える声帯を締め上げるように。私の声をかすれさせた。

ここは両親の揃ったホームじゃないし。心を分けた友の住まう内浦の土地でもなければ。世話役が抱える火急の案件の残った夜でもない。

私は、いったいなにに返事をしようとしたのかしら。

良くない予感に急かされるように、ぬるま湯につむっていた目をそっと開く。

その瞬間、天井から何かが千切れるような音と共に。バスルームに闇が訪れた。

竣工間もないホテルの照明が、切れたのよ。

脱衣所の照明は、磨り硝子の扉を通して変わらずにバスルームに光を投げかけていた。
でも。その光も、不自然に弱かったわ。

なにが私を呼び。なにに私は返事をしようとしたのか。

答えは、磨り硝子の向こうに”立っていた”。
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108 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:08:09.72 ID:84x9OhzYa
まず見えたのは、磨り硝子で滲んだ黒だった。

髪。黒くて長い。ボサボサの。

続いて、薄茶けた白と、肌色と。その影の上の方に二つ並んだ小さな黒。

見てる。
磨り硝子の向こうから。
ぼろ布を纏った、髪の長い女が。

そして。

「ねえ、まり、どこ?

呼んでいた。私を。
私の名前を。
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109 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:10:40.43 ID:84x9OhzYa
『知らない誰かに呼ばれたら。決して応えてはいけないよ

しわくちゃの声が頭に蘇る。
大好きだったグランマ。
日本の、こんなどこかの山の奥に住んでいた。
数えるくらいしか会ったことのない。でもどれも優しい思い出の中に縁取られた。もう会うことの叶わない、ママのそのまたママの声。

あれは、警句だった。そしてそれは、まったく正しいものだった。
奪われたんだ。あの不完全な返事から。私の情報が。

「まり、どこ?ここ?

金属でできた小鳥がこわごわとさえずるような不安定な高音を震わせて。半透明の扉の向こうで、それが私を求めてまた一歩前に進んだ。

がしゃん、と扉が小さく軋む。
ほとんど全身が硝子へと密着し、鼻と思しき位置に歪んだ肌色が浮かんだ。

「まり、いる?いる、いる

がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん

しゃべるたびに、磨り硝子が揺れる。
私との間にある障壁に気付かないみたいに。それはひたすら呼び、そして歩き続けていた。

「まり、ここ、ここ、ここ、ここ

がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん、がしゃん

影は少しずつ横にずれている。
引き戸の開閉箇所に向けて。

ごくり。と、小さく喉が鳴った。
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110 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:12:16.58 ID:84x9OhzYa
と、影が扉への衝突を止める。

「ここ、あける

磨り硝子の向こうで、影が横に垂らしていた棒のようなものを。ゆっくりとぎこちない動きで扉の引き手のあたりに移動させていた。
扉の概念を知らなかったそれが、今はもうその構造を理解し。手を使い、開こうとしているみたいに。

今、私は返事をしなかった。
でも、一度繋がってしまったら返事じゃなくても。例えば呼吸ひとつ、物音ひとつからでも、奪われるんだって。
根拠はなかったけど、そう感じて。
次の瞬間には肩を抱いていた両手で素早く口を押さえていた。

がりゃ…がが…がらら…がが…

いったいどうすればあんなに立て付けの良かった引き戸が鳴ることがあるのか。まるで検討のつかない音を響かせながら、少しずつ扉がスライドしていく。

物音を立てないように動きを固めていた体は、今や別の要因で僅かも動かせなくなっていた。

恐怖、困惑、憔悴。そして何よりも夢を見ているような非現実感が、私の体を彫像のように強ばらせていたから。
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111 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:14:16.89 ID:84x9OhzYa
が…が…が…

開いた扉の向こうには、やはり薄茶けた白のぼろ布を纏い。土で汚れたくすんだ肌色と、野放図に荒れた黒の長髪を持つ女が立っていた。

密着していた磨り硝子が失われ、影のできていた部分が脱衣所からの逆光で潰れたせいかしら。
女の顔は扉が開くことで、逆に不鮮明になっている。

だけど、抑揚の一定しない妖しい声は。よりクリアに私の耳に届くようになっていた。

「まり、いる?

手で押さえられた口が、何事が応えようとしてしまう。

その声はこれほど薄気味悪い感情を与えながらも。私に抗いがたい返答の衝動を強くもたらすものだったわ。

無防備な状態でこれを聞いてしまえば。条件反射みたいに、返事をしないことはまったく不可能なように思えるほど。
そう、例えば。それこそさっきの私みたいに。
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112 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:15:30.87 ID:84x9OhzYa
「まり、どこ?

そして、それがゆったりとした動きで腕を前に突き出した。

その指先では。まるで土の下からついさっき這い出てきたかのように爪が割れ、あるいは剥がれ。例外なくどす黒い汚れがこびり付いていた。

「まり、まり

その手が、歩を進め、やがて私の体へと触れる。

固定されたシャワーヘッドからとめどなく温水を浴びているはずなのに。私はまるで冷水に身を浸しているような感覚の齟齬に襲われて、どうしようもなく鳥肌が立ったものよ。

「まり?まり?

呼吸すら止め、暴れる心臓以外の動きを失った私は。未だ逆光の向こうで潰れるそれの黒い瞳に、まるで映っていないかのように扱われていた。

氷みたいに冷たい手が、シャワーに濡れそぼつ私の体の表面をゆるゆるといったりきたりする。

「まり、ちかい、どこ?ここ?

おぞましさに吐き気すらわいてきたけど。目をぎゅっと結んで、ひたすら耐えがたい接触をやり過ごしたわ。
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113 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:17:41.40 ID:84x9OhzYa
「まり、どこ

(うるさいっ!早くいなくなれ!

「まり、いる

(見えてないなら、さっさと諦めてよ!

「まり、まり

(私の名前を呼ばないで!

「まり、まり、まり、まり、まり

(そんなに私を欲しがって、あなたはどうしたいの!?

 

「まりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまりまり



目と鼻の先で尋常ではない悪寒が膨張していくのを感じて。
私は思わず目を開けてしまう。

そこでは、下から私の顔を覗き込む白目のない墨のような瞳が、キスするような距離で待っていて。

私は、ついにそれと目が合ってしまった。

ぐいっ

それが歯のほとんど抜け落ちた口を薄く開き、嬉しそうな声を上げながら、私を抱きしめるようにかかえ込もうとして────
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114 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:18:10.03 ID:84x9OhzYa
 


「まり、みーつけた


 
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115 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:20:02.90 ID:84x9OhzYa
瞬間。私の体は足元から滑るように垂直に倒れ込んでいた。

意図したものかは……わからない。ひょっとしたら、あまりの恐怖に腰が抜けてしまったのかも知れないわ。

実際、シャワーで塗れた足場に尻餅をついた私は、すぐさま動き出すことができなかったから。

目の前でシャワーの水滴を集めて粒を浮かべる死斑の生じた足。
その先の爪が、手と同じように割れ、剥がれ。泥にまみれて所々化膿している様子が見えた。

私は力の入らない体を引きずって、脱衣所を目指してみっともなくも赤ちゃんみたいに膝を突いて女の横へと回り込んだ。

「あれ?まり?どこ?どこ?

まるで大事なものを落として見あたらなくなってしまった子どものような声音で、それが私を求めてバスルーム内をキョロキョロと見回す気配を感じた。

あれが、脱衣所にはある。
どんな効果があるのかはわからないけど。このままあのおぞましい存在に好きにされるよりは、何かをしてあらがいたかった。
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116 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:21:14.66 ID:84x9OhzYa
バスルームに反響するはずのシャワーの音が。この出来事への無関係を装うように、ずっと遠い場所から聞こえているような気がした。

「まり、うごいてる?ここ、でる?

背後から塗れたバスルームの床をひたひたと踏みしめて。それが少しずつ私に迫っている。
私の出した音でしかこの存在を知ることのできない、盲目のゴーストが。

もう猶予がないと悟って、バスルームのふちから手を伸ばす。

────ガッタァアアンン

指先の引っかかってしまった足の高い脱衣籠が、すごい音を立ててひっくり返った。

「まり、いたぁあ

ニタリ、なんて。本来聞こるはずのない、口が笑みの形になる粘ついた音が、首のすぐ後ろから聞こえた気がした。

気付いたときには、私はうつ伏せのままバスルームの床を滑っていた。

足首には冷たい輪の感触。

掴まれて、引きずり込まれていたの。

引きずられながら。
私は親指を力いっぱい握り込んだわ。
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117 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:22:19.94 ID:84x9OhzYa
『オフホワイトの壁と、木で統一されたブラウンの調度品のバランスがとっても目に優しいの!

興奮気味の私の声で、今や評価なしとなったはずのこの部屋の内装についてを語る様子が、楽しげに聞こえてきた。

「まり?ふたつ?

困惑のような色を声に覗かせて、足を掴むそれの動きが止まる。

『そこに計算尽くで配置された間接照明のもたらす柔らかい色合いが加わって……うぅ〜ん!吸う空気まで甘く感じちゃう!

「まり!まり!

愛玩動物がはしゃいでいるのを見て喜ぶような、超越的で残酷な響きが私の名を呼び。

『ベッドだって当然、とうっ!……あっはは!すっごい沈み込むー!キングサイズでふっかふか!それがふたつも!?



「まり────ひとつになろ


 
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118 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:23:17.11 ID:84x9OhzYa
突如、私を襲い続けていた途方もない寒気が失われた。

シャワーが大理石を叩き続ける雨だれに似た水の音とその暖かさが、まるでそれに代わるように存在感を取り戻す。

荒れた息が次から次にこぼれていた。
声を出さないようきつく噛みしめた口は、歯がくっついてしまったみたいに開きそうになくて。
鼻だけでその荒い呼吸を捌かなくちゃいけなくって、とっても苦しかったわ。

その私の指先には。

”ゴイケンバン”としての仕事に用いる、ボイスレコーダーが握られていた。
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119 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:23:50.88 ID:84x9OhzYa
『うぅ〜ん!吸う空気まで甘く感じちゃう!────キングサイズでふっかふか!

でも、どうやらそれも湿気の多いバスルームに持ち込んだせいで壊れてしまったみたいだった。

だって、脱衣所までの道みちに吹き込んだ私の声を順番に再生するはずのそれは。

『あっはは────ベッド────当ぜん────おふほわイト────目に────目に────めに、めニメにめに、めに────あっはは────っはは────っはは────っはは

ファイルをまたいで、めちゃくちゃにデータを再生するようになってしまったんだから。

『────っはは────っはは、はは、ははあはははははははははははははははははははははははははは

そして、ループする私の笑い声は。いつしかあの金属のさえずりへと代わって。

それは最後にこう呟いて、電源が落ちたの。
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120 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:24:42.93 ID:84x9OhzYa



『こ……れで、ずっと……いっしょ。だよ────まり



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121 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:30:35.69 ID:84x9OhzYa
鞠莉「で、これがそのボイスレコーダーなんだけど────

一同「「きゃーーーー!!!

鞠莉「イッツジョーク♪(ぴーす)

ダイヤ「いったい!どこからが!ですの!この大うそつき!!(ぽかぽか)

鞠莉「ちょっ、ダイヤたたかないでよ、いたいって♡

ダイヤ「さっさと白状なさい!

鞠莉「もーう、オバケより怖いんだから、ダイヤってば……話は全部ほ・ん・と。このボイスレコーダーは新しく買ったやつで、そこだけジョークです♪

果南「じゃあさ……話に出てきたボイスレコーダーはどうしたの?

鞠莉「果南までそんなに怖い顔しちゃって〜。んもう、美人が台無しだぞ?

果南「鞠莉!!

鞠莉「Oops!ふふ、さすがにちょっとしつこかったかしら?

鞠莉「オタキアゲよ、オタキアゲ。その筋でユイショあるお寺に、預かって貰ったわ

曜「えっ、それって────

鞠莉「あら……?残念だけど”ここ”じゃあないわ。すぐに手放したかったから、最寄りで見つけた専門のお寺さまに持ち込んで、即エスケープよっ

梨子「エスケープって……

鞠莉「うん。それはもう、ダットのゴトクね

ルビィ「失礼だけど、なんとなく目に浮かびます……
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122 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:31:19.57 ID:84x9OhzYa
鞠莉「……と、まあ……。ほんとはそうするつもりだったんだけど。ニコニコ顔の優しそ〜なお坊さまが、経緯を聞きたいって仰って

ダイヤ「まあ、供養するんですもの。当然のお話ですわ

鞠莉「あんっ、エスケープのくだりはずっと冗談よ?ここからは真面目な部分ですからね

果南「わかったわかった。話が進まないよー、もう

一同「「……はあ……

鞠莉「ごめんごめん。それで、ね。
 こっちもそのつもりだったし、ある程度整理して詳しく話してたの。そしたらそのホトケの顔が、私の身分を語ってるところでみるみるとんでもない剣幕に変わっていってね。ついには一喝閃いて────

 

『御山を削った首魁の娘かぁっ!!

 

鞠莉「……って……
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123 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:34:04.00 ID:84x9OhzYa
鞠莉「ひどい話よね。あんなに怖い目にあって、藁にもすがる思いで頼ってきたいたいけなレディーに向かって、大声で怒鳴るなんて

一同「「…………

鞠莉「結局、声を荒げられたのはその一度きりだったけど。終始ピリピリした雰囲気の中経緯を説明させられたあと。いくつかぶっきらぼうなやりとりを交わして、私への聴取はおしまい

鞠莉「最後にはこっちの包み金を突っぱねて。代わりに二度とこの土地に手を加えるなって、目も合わせずに追い出されたわ

ダイヤ「それではその後、随分とそちらでの運営はやり辛くなったのではなくて……?

鞠莉「その辺は心配ゴムヨウ。ウチの渉外部(ネゴシエーター)は腕利き揃いだから。きっとほとぼりの冷めた今頃は、多方面の懐柔も完了してるでしょうね

鞠莉「今回の教訓は、計画地点に対しては地質学的見地からだけではなく、民族学的な調査も欠かさないようにせよ……ってところね。
 ミスは起こるものよ。でもその代わり、同じミスを二度と繰り返すつもりはないわ
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124 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:35:15.97 ID:84x9OhzYa
一同「「…………

鞠莉「……(ニコッ)以上!────Aqoursきっての薄幸美少女(灰被り)こと小原鞠莉ちゃんの、春先のお話をお送りしましたっ

曜「薄幸美少女……

ルビィ「って書いてシンデレラ……

梨子「自分で言っちゃうのね……

善子「……私、実は結構同情してたけど……

花丸「うん、なんか自業自得に思えてきたずら

鞠莉「Oh……相変わらずマルのゼッポウは鋭いわね……

千歌「ま、まあまあ……鞠莉ちゃんもみんなを必要以上に怖がらせないよう、わざとお尻の方でふざけただけで……

鞠莉「ちかっち……わかってくれるのはあなただけよ……

花丸「わかってるけど、やりすぎずら。へたくそずら

鞠莉「オォーゥチッッ!!!!

千歌「花丸ちゃ〜ん(汗)

 

・小原鞠莉
『ホテルの話』 おしまい


 
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125 :@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[]:2016/12/30(金) 21:42:05.42 ID:84x9OhzYa



あの日、私がその部屋に泊まったのは偶然ではなかった。



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127 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:44:18.28 ID:84x9OhzYa
バスタブにビニールが張られていた理由を、後日当該ホテル清掃班のチーフから聞き出すと。こんな答えが返ってきた。

バスタブに限らず。あの部屋は誰も出入りしていないはずなのに、気が付くと泥や土の汚れが生じてしまい。
それは何度清掃しても。どんなに注意深く人の出入りを管理しても。決して収まることはなかったそうだ。

もちろん、そんな部屋に私を泊まらせるつもりなどなかった。

施錠の行き届いた場所に原因不明の土塊が生じるなんて。どう考えても瑕疵ありとして、私以前に客を取る部屋としてそこは機能し得ない。
耐久や密閉などをよく洗い、再び一から調査しなおして原因を明らかにした上で改修を施し、ようやく客室としての価値を取り戻すことができるのだから。

しかし、どこでどう歪んだのか。
私は、あの部屋に泊まることになった。

私の就前泊は、慣例としてグループ全体に知られている。
もちろん今回とて、計画案は支配人まで専決で決裁が回っていたはずだ。

それを、改ざんした人間がいる。

当日までの間。まるで計画通りに事が動いていると、業務に携わる全ての人間へ疑問を抱かせることなく動かして。
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128 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 21:46:35.22 ID:84x9OhzYa
油断ならない、恐ろしい手腕だ。

その手腕で。顔の見えない何者かは、あの部屋で私とそれを邂逅せしめた。

何者かは、それの正体を知っていたのだ。
おそらく直接対峙した私すら知り得ない、あれに取り憑かれてしまった者がどうなるのかという、その末路すら。

当然。あの夜、怒りにまかせ部屋を変えずシャワーを浴びた、私のその気性すら知悉の上なのだろう。

思い起こすだに背筋が凍る。

部屋に現れたあのおぞましいゴーストに、ではない。
手足のように悪意なき無数の人間を操り、人知れず私を陥れようとした、この獅子身中の虫に対してだ。

パパが珍しくお酒に酔うとき。決まって口癖のようにこぼしていた言葉が今、私の胸に重くのしかかる。

『人の上に立つ人間は、”更に”を求め上ばかり意識を向けてしまう。だが、それではいけない。
 人の上に立っている、それゆえに。私たちは上にではなく足下へこそ、気を払うべきなのだ

経営者への道は、なんだかんだでとっても険しいものになりそうね。

────ただ、退屈だけはしなさそうだと。

私の内に棲まう黒くて冷たい何かが、顔の見えない誰かを想い。
静かに、そう笑っている気がした。

 

・小原鞠莉
『ホテルの話(異聞)』 おしまい


 
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132 :@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[]:2016/12/30(金) 22:46:59.56 ID:84x9OhzYa



果南「もうずいぶんと昔からウチを利用してくれている常連さんに。ある日こんなことを頼まれたんだ


 
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133 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:49:27.18 ID:84x9OhzYa



『果南ちゃん……僕を、ナイトダイビングに連れて行ってくれないか

 

中学三年の、夏を目前に控えたころだった。

どうも、父さんたちには内緒で……装備もポイントへのボートも自分で用意するから、ガイドだけ頼めないか、って言う……そんな話。

……妙な話だと、思ったよ。

それに、夜に誰もいない……誰もこない場所で。男の人とふたりきりになるっていうのも、常識的に考えたらあり得ないよね。

でも、常連さんはよくご家族でもウチを利用していたし、お子さんも大切にしてたから。
そういう……女としての不安は、ひとまずまったくなかったんだよね。

で……ううんと……常連さんじゃ少し言い辛いから、これからはおじさんって言うね。

最初は私もおじさんの話は断ったんだ。

うん……普段私もみんなに何も考えてないみたいに内浦の海を勧めてるけどさ。
ダイビングって、適当にやれば命に関わるレジャーなんだよ。

今だってまだぜんぜんなっちゃいないけど、当時の私なんて父さんたちの手伝いをするのが精いっぱいで。
誰かひとりの人間の命を、責任もって最初から最後まで預かるなんて、考えてもみなかった。
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134 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:50:01.63 ID:84x9OhzYa
でも……そう言っておじさんの話を断ってからしばらく経って……。

それからだったかな。
ウチへときどき仲間や家族でダイビングをしに来ていたおじさんの様子が、どんどんおかしくなっていったのは。

ダイビング中に単独行動を取ろうとしたり。酸素残量も尽きかけてるのに、海にいつまでも残ろうとしたり。

そのうち父さんも怒って。ガイドの言うことが聞けないなら、もうウチでは面倒見ないって、直接おじさんに怒鳴っちゃうくらいでさ。

おじさんの顔……ずいぶん疲れてたな。

目が落ちくぼんで、顔はどこか青ざめてて。白髪も増えたみたい。

そしてときどき。私の方をじっと見て、悲しそうな顔をしながら。ふう……って、ため息をつく。

今考えれば、この頃のおじさんは、本当に異常だった……かな。

いくら潜りたいポイントとタイミングがあったって。どんなにダイビング好きの人だろうと、普通ああは落ち込まない。
ましてやダイバーの基本中の基本であるはずの安全第一の大原則を蔑ろにしてしまうほど入れ込むなんて、それこそ常軌を逸してる。

でも、当時の私は。
ただおじさんが海を覗くとき。濁るみたい渦を巻いて明るい色を失っていくその目の様子が頭に焼き付いて……忘れられなかったんだ。

そんなこともあって。おじさんがこうなっちゃった原因……その責任の一端が自分にもあるんじゃないかって思えてきちゃってさ。

ついに我慢できなくなって、お客さんの台帳からこっそりおじさんの番号を調べて。
この前のこと、考えてみるから詳しく話を聞かせて欲しいって……電話しちゃってた。
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135 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:51:17.88 ID:84x9OhzYa
その夜は風もなくて、雲も少ない月と星がよく見える静かな夜だった。

約束がなかったら絶好の天体観測日和だったなって思ったから、間違いないよ。

おじさんが注文したポイントは、陸(おか)からも、他のどの定番ポイントからも遠くて。
確かに内浦の海のことを専門に扱う人じゃないと、一人ではたどり着けないような場所だった。

でも、それはつまり。
何の変哲もない海のど真ん中。
浅瀬も岩礁も見当たらない、夜の闇にぽっかりと沈む、ダイビングに全く適さないような────

おじさんがどこかから用意した、小さなエンジンを積んだ人間2人と装備品を載せれば足の踏み場もないようなボートの上で準備を終えた私は。そっと海を覗き込む。

(こんな場所で……おじさんは、なにを見たいの……?

夜の海中を遠く貫くはずの強力なライトの光をあざ笑うように減衰し、その全て飲み込んでなお暗さを深める闇の塊を前に。

私は、初めて潜ったナイトダイビングが遥かに霞むくらいの恐怖を感じていた。
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136 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:51:56.41 ID:84x9OhzYa
「本当にありがとう。果南ちゃん

「僕もこのポイントを目指して、ひとりでボートを操縦した夜が、両手じゃ足らないくらいあったよ

「でも、何度やっても潮の流れが掴めなくて……ここにたどり着けたことは、一度としてなかった

「だから。こればっかりは内浦の海を良く知っている人じゃないと、できないことだったんだ

ボートに括り付られたGPSと海を交互に眺めながら、おじさんはそんなことをつぶやいた。

おじさんが用意したボート……こんな舟、私は今まで淡島でも内浦でも、見かけたことがない。
おじさんが、文字通り”用意”したんだろうね。

ダイビングの装備一式だけじゃない。

ボート。エンジン。計器類に、その電源……。

おじさんはこの夜のために、いったいどれだけのお金と。そして時間をつぎ込んだのか……。
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137 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:52:44.10 ID:84x9OhzYa
おじさんの準備も終わり、私たちは海に入った。

得体の知れない生が見えない闇で蠢いているかも知れないぶん。
きっと宇宙空間よりもずっと不気味な広がりが、私を包む。

ポイント周辺にはブイも浮いてなくて、繋留索も降ろせる深さじゃ無い。

本来なら絶対ボートには人を残すべきだったけど。
おじさんをひとりで海に潜らせるよりは、帰ってからボートが見当たらないことの方が、いくらか許容できる不安な気がして。
私はおじさんに付いて、立ち昇る気泡がなければどちらが上かもわからない暗闇を掻き分け続けた。

水への感覚も慣れて、落ち着いて周囲の状況が確認できるようになっても。
やっぱりそこは魚も泳がない、海底すら見えないような、暗いだけの海だった。

『海に入ったら、僕に好きにしていい時間をくれないかな

本当に危ないと私が判断するまでが、おじさんに与えられたこの夜の海での時間。

何が目的かもわからない。
おじさんがおかしくなってしまうほどに求めた、ナイトダイビング……。
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138 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:54:00.49 ID:84x9OhzYa
おそらく、傾斜方向に30メートルほど潜ったころ。

それは唐突に現れた。

”それ”?

うん……。

”それ”っていうのは……。

女の、ひと……なのかな……。

前触れもなく。気配もなく。気泡もまとわずに。

黒の長髪と白いワンピースを、水の流れに揺らめかせ。

濁った瞳に。ぽかりと開いた口と。酷く黄色掛かった肌。

そして、女のひとは。

 

上下逆さまの姿勢だった。



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139 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:55:14.76 ID:84x9OhzYa
悲鳴をあげたつもりだった。

でも、水中ではレギュレーターから気泡が撒き散らされるだけで。
その悲鳴は私をより恐怖させる以外には、誰にも届くことはなかった。

この水中で届くべき相手────おじさんは、女のひとが現れてから身じろぎひとつせずにその場にいた。

女のひとの正面で。
まるで、見とれてでもいるかのように。

いや……。

身じろぎひとつしないっていうのは、間違いだったかも知れない。

おじさんの肩は、確かに小刻みに震えてたから。

私が悲鳴を上げ終える。

でも、それから。
何もできなかった。

そこから逃げることも。動くことすら。

まるで金縛りにあったみたいに。
でも、不思議なことに本来動けなくなれば沈んでいくしかない身体の位置だけは、そのままだった。
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140 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:57:01.10 ID:84x9OhzYa
こんな、夜の海の外れ。
なんの水中装備も付けていないのに、女のひとは現れてからずっとそのままの姿勢で。
水の流れに、髪とワンピースをゆらゆらと遊ばせていた。

虚ろな瞳。
開かれた口。
黄ばんだ肌。
よく見ると薄汚れた白いワンピース。
どこからも漏れない気泡。

やっぱり、おかしかった。

女のひとは、ヒトじゃなくて。
生きていなくて。

これじゃ、まるで────

やがて、ようやくおじさんが動いた。

待ち焦がれたように。慈しむように。
ゆっくりと、女のひとに両手を伸ばし近づいていく。

それはきっと、ハグ────抱きしめようとするみたいに。
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141 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:58:01.78 ID:84x9OhzYa
ご…ぽ…

急に、気泡が漏れた。
女のひとの口からだったよ。

それを合図に、女のひとが初めて動きを見せた。

小刻みに。
痙攣するように。
手足をばたつかせ。
首を少しだけの角度で。
でもめちゃくちゃに、素早く上下左右に振り乱して。

それはまるで、何かが女のひとに入り込み、動かし方を確認しているみたいな。
生理的に受け入れがたい、胸の悪くなる動きだった。

ごぽ…ごぱっ…

一際大きな気泡が、女のひとの口から足の方へと立ち昇って消えていく。

おじさんは、女のひとの顔を間もなく胸に迎えられるくらいに近付いていた。

ごぼん…ぼ…ごば…

おじさんのレギュレーターから気泡が漏れる。

ごぼん…ぼ…ごば…

何か、同じ言葉を囁いているみたいだった。

ごぼん…ぼ…ごば…

これから抱きしめる、女のひとに向けて。

ごぼん…ぼ…ごば…

それは多分。

ごぼん…ぼ…ごば…

 

”ゆるして、くれ……”、と……。


 
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142 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 22:58:53.84 ID:84x9OhzYa
おじさんの腕に包まれる瞬間。
おじさんの脇から僅かに覗いた女のひとの口が、うっすらと笑ったように見えた。



『絶対……許さない……



声が聞こえた。
それは、潮に錆び付いた弦楽器のような、安定感のない耳障りな高音で。

『お前を……絶対に、許さない……

耳を塞ぎ、声の限りを叫んでかき消したくなるような。心の底から気味の悪い旋律だった。

でも、塞いだところで。叫んだところで。きっと無駄だってわかってた。

何故なら、水中で人の言葉なんて、聞こえるはずがないんだから。

『お前を絶対、許さない……

憎悪で塗りたくられたような、絶望的な言葉の響き。

私は、水中で聞こえるはずのないその声が。
女のひとの薄い笑みに歪んだ口から漏れたものだと気が付いたとき。

おじさんは”これ”に許しを乞いたくてここまできたんだって、ようやく理解したんだ。

そして、どうやらその許しが、得られなかったんだということも……。
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143 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:00:12.64 ID:84x9OhzYa
ボートに上がってからも。おじさんは装備も降ろさずに、ずっと似通った言葉をうわごとのように呟き続けていた。

ごめんな……。
すまなかった……。
ゆるしてくれ……。
ぜんぶ僕が、わるかったから……。

水中で、気が付くと女のひとは消えてなくなっていた。

”居なくなっていた”じゃないのは、私がそう感じたからで。
決して言い間違いじゃない。

とにかく、こちらも比喩じゃなくてその場から力なく沈んでいってしまうおじさんを引っ張って。
私はくたくたになりながらもなんとかボートまで戻ってこれた。

おじさんが全然泳いでくれなくて、このままじゃ危なかったから。
ウエイトを外して水中で捨ててきちゃったのは仕方のないことだけど……。
海のことを思うと、少しだけ胸が痛む。

一度は消えた女のひとが、今度は水面に現れてずっと追いかけてくるような、不気味な想像に取り付かれながらも。
何とか私はボートを走らせた。

目の前に見えてきた、夜の闇に小さくいくつか浮かぶ淡島からの光に気が付いたとき。

私は古い例えに聞いたことのある、夜の海っていう死者の世界から。
生ある者の居場所に戻ってこれたような。
そんな気がして。

こっそり、涙ぐんだのを忘れない。
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144 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:01:34.62 ID:84x9OhzYa
果南「……って言う話なんだけど

曜「果南ちゃん……これは、ヘビーすぎるんじゃ……

ルビィ「夜の海……ただでさえ怖いのに、もうぜったい泳げないよぅ……

果南「もーう、大袈裟だなぁみんな

梨子「え?おじさんどうなったの……?まさか……それが果南ちゃんが見た最後の姿だった……とか……

果南「ないない!ないよそんなこと!
 それからは憑き物が落ちたみたいに前までのおじさんに戻って、今でもときどきウチのショップを利用してくれてるよっ

善子「そう……(ぼそっ)良かった……

ダイヤ「と言いますか……よくそんな体験しておいて、また海に潜れますわね……

果南「うーん……ダイビング、好きだからなぁ……別にそのポイントで泳ぐわけじゃないんだし

鞠莉「果南はやっぱりダイビングストゥーピッドね。略してダイスピ!

果南「いや、それ意味わかんないよ……鞠莉……

千歌「……ダイスピ、と大好き、を掛けてるってこと……?

鞠莉「オー……チカ!ナイスセンス!ユアービッグコメディアン!!

千歌「えへへ〜

梨子「逆にこの辺は気にしなさ過ぎ……

 

・松浦果南
『ナイトダイビングの話』 おしまい


 
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145 :@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[]:2016/12/30(金) 23:30:13.59 ID:84x9OhzYa
 


果南ちゃんのお話で……みんな、全然気にしてないみたいだけど……。



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146 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:31:22.67 ID:84x9OhzYa
”憑き物が落ちたみたいに前までのおじさんに戻って”……って……。
それって、どういうこと……?

だって、おじさんは……女のひとに会いたくておかしくなっちゃって……。
やっと会えたその女のひとに、許してもらえなかったんじゃないの……?

帰りのボートで。壊れちゃったみたいにずっと謝り続けてたのは、どうして……?

どうしたらそんなことがあったあとに、何事もなく日常に戻って……またダイビングを興じれるようになるの?

”海に入ったら、僕に好きにしていい時間をくれないかな”

おじさんが言ったっていうこの言葉が、気になって仕方なかった。

果南ちゃんが思わず止めるようなことを、おじさんはしようとしてたってことじゃないの……?

そして、それは結局。

しなかったのか。
できなかったのか。
する必要がなかったのか。
あるいは気付かれずにしていたのか。
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147 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:33:08.55 ID:84x9OhzYa
……。

おじさんは、海からボートまで果南ちゃんに引き上げられた。

でも、それに関して暴れたり拒んだり。果南ちゃんに反発するようなことはなかった。

女のひとの言葉に消沈していたからともとれるけど……。
そうじゃなくて。もうその場にいる必要がなくなったって風には、考えられない?

必要がなくなったのは、したかったことが済んだから。

おじさんがしたこと。

おじさんだけがしたこと。

果南ちゃんは、見てるだけだった。

でも、おじさんは……?

おじさんは……。

女のひとに、許しを乞うた。

……でも。

”許しを乞うた”ことにこだわっては、だめな気がする。

だって、おじさんは”許されなかった”んだから。

許してもらえる可能性が僅かでもあったのか。
それとも最初から許されることは絶対になかったのか。

とにかく。

女のひとは許さなかった。

でも、おじさんは日常に戻れた。

この図式を見ても、因果関係が全然見えてこない。
つまりそれは、このふたつは等号で結べない事柄ってことなんじゃない……?

”許しを乞う→許されない→日常に戻る”

では、ない。

どこかで、何かが抜け落ちてる。

でも、わかりかけてる。
喉もとまで出掛かっている。

それはきっと、果南ちゃんの話で。その抜け落ちた部分も、きちんと語られているから。
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148 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:34:19.06 ID:84x9OhzYa
他に……他に、海でおじさんがしたこと。

ひとつだけある。

女のひとを、ハグ────抱きしめようとした。

でも、それは果南ちゃんの主観。

おじさんの背中に隠れてしまって。
おじさんが何をしたのかは、結局おじさんにしかわからない。

……。

思考が進まない。

おじさんのことだけを考えていては、たどり着けないのかも知れない。

考える余地があるのかわからない。
でも、”女のひと”のことも、考えてみなくちゃ……。

そんな気がする……。

 

女のひと。

女のひとは、いつの間にか消えていたってことだけど。

女のひとが現れたのは、確かに意識の外からで、急にだったかもしれない。
だから、消えたのも気が付いたらっていう理屈は……通らなくはない。

でも、女のひとを見つけたときと、消えたときとでは。

────そうだ。

違い。違いがある。

ふたつの、決定的な違いが……。
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149 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:35:39.47 ID:84x9OhzYa
ひとつは、見つけたときは2人は移動していたのに。
消えたときはその場に留まっていたこと。

突然現れたように見えても、そこは強力な水中ライトの光も減衰してしまう、暗い夜の海の中……。

女のひとは急に現れたんじゃなくて、”ずっとそこにいた”のかもしれない。

だって、おじさんはそのポイントにたどり着きたくて、果南ちゃんにガイドをお願いしたんだから。

果南ちゃんは女のひとを見て、悲鳴を上げた。
突然海の中に、居るはずのない不気味な存在が現れたんだから。しょうがないことだと思うし、それが普通だよね。

でも、おじさんは肩を震わすぐらいで。他に何か大きな反応をすることはなかった。

何故なら……。
おじさんは、女のひとに必ず会えるって、知っていたから。

つまり、おじさんにとって。
そこにいけば女のひとが居るってことは、当たり前のことだったんじゃ……ないかな……。

じゃあ、なんで、消えてしまったの?

なんで、”どこかに行ってしまった”り、”居なくなってしまった”じゃ、だめだったの?

わざわざ果南ちゃんが”居なくなった”じゃなくて、”消えてなくなった”って言葉を使ったのは……果南ちゃんがそう感じたからだけじゃなくて。

本当に、そうだったから……。

もうひとつの決定的な違い。

それは、おじさんが行動したことで、女のひとが消えたこと。

逆に……だけど。
女のひとを見つけたときに、おじさんは何かしたの?

ううん。
果南ちゃんが特別語る必要がないくらい。
ただ2人は……おじさんは、泳いでいただけ。

でも、おじさんが”それ”をしたから、女のひとは消えた……。
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150 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:39:17.24 ID:84x9OhzYa
これが、ふたつの決定的な違い。

ひとつは。
見つけたときは移動してたのに、消えたときは止まっていたこと。

もうひとつは。
見つけたときは何もしなかったのに、消えたときは何かをしたこと。

おじさんが何をしたかは、さっき考えた。

”許しを乞う”ことじゃない。

それは”許されない”に繋がるだけで、そこからはどこにもたどり着けないから。

大切なのは、きっともうひとつの方。

女のひとを、抱きしめるような動きをしたこと。

おじさんがそうしようとして。
そのあとは、最後に女のひとが笑ったように見えただけで。
果南ちゃんには死角になって、どうなったかは見えていない。

抱きしめるような動き。

……どこを、抱きしめようとしたの……?
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151 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:39:58.72 ID:84x9OhzYa
 


────女のひとの顔を間もなく胸に────


 
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152 :名無しで叶える物語(庭)@無断転載は禁止 (アウアウウー Sa4f-XCM5)[sage]:2016/12/30(金) 23:40:32.54 ID:84x9OhzYa
逆さまになった女のひと。
顔のすぐ上には、首がある。

抱きしめるように、胸に顔を迎え入れようとして。



おじさんは、女の人の首を絞めた。



謝りながら。
許さないと罵られながら。
女のひとが消えるまで。

女のひとを……もう一度、■すまで───
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