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36 :@無断転載は禁止[]:2016/12/30(金) 00:44:35.26 ID:0OWmChTn - 第四話 『カベドン』 (小原鞠莉)
次は私ね……ん? 梨子、どうしたの? ノープロブレム? 本当に? そう……じゃあ、そういうことにしておきましょうか。 最初のチカっちの話にもあったように、私のパパは、リゾートホテルチェーンを経営しているの。 ここから見える位置にある淡島ホテルもそのうちの一つ。 そんな風に世界中にホテルがあるものだから……不可解な出来事や、怪談なんかを聞くのも珍しくはないのよね。 そういえば、この前も淡島ホテルで何か事件が起きたらしいわね。ねえ、ダイヤ? ……ふふっ、イッツジョーク☆ その件に関してはもう気にしてないわ。 ああ、だけど。『この由緒正しいホテルで事件なんて起きるわけない』、だったかしら。 その言葉はちょっといただけないわね。 この淡島ホテルでも事件が起きたことはあるのよ。内容が内容だから、大っぴらにはされてないけれど。
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37 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 00:46:11.08 ID:0OWmChTn - ……何でもその事件の始まりは、フロントに二人の宿泊客が駆け込んできたことらしいの。
二人の宿泊客といっても、別に同室に泊まっているわけじゃなかったみたいで。 互いに一人で宿泊していたお客さんだった。接点といえば、提供していたルームが隣同士だったくらい。 だからホテルマンも最初は、喧嘩か何かが原因で二人ともフロントまで飛び出してきたと思ったらしいの。 けれども、どうやらそういう訳ではなさそうだった。 顔面蒼白の男が二人、肩を寄せ合ってやってくる姿を見て、誰も喧嘩してるなんて思わないでしょ? それで状況を把握するために、ホテルマンは二人の男に、何が起きたかを聞いたの。
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38 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 00:48:09.16 ID:0OWmChTn - 彼らの説明はこんな感じだったらしいわ。
酩酊した状態で自室に戻り、ベッドに倒れ込むと、隣の部屋からドン! と音がする。 何かがぶつかったんだろう、そう思っていると、続けて二回、三回と壁が先程の調子で叩かれた。 こいつ、わざとやっていやがるな。そう思うが早いか、次の瞬間には手が動いてしまっていたらしく。 酒が入っていたこともあって、強く壁を殴り返してしまって。そこからは壁ドンバトルのスタートよ。 それで最後には、二人とも部屋を飛び出し廊下でご対面。 やれ何をする、いやお前が先にやったんだろう。しらばっくれるな、何をお前こそ。 二人の喧嘩はますますヒートアップ。互いにファイティングポーズをとった所で。
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39 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 00:49:45.40 ID:0OWmChTn - 『ドン! ドンドン!』
彼らの泊まる部屋の方から、壁を殴る音がしたの。 初めの方に言った通り、彼らはめいめい一人で宿泊している。 部屋に人なんて、いるはずがない。 『ドンドン!』 『ドン!』 『ドンッ!』 『ドンドン!』 なのに、部屋の方からは、相変わらず壁を殴る音がする。 それも、二人分。 ……こうなったら、もう喧嘩どころじゃあないわよね。 たまらず、二人ともフロントに駆けだしていたそうよ。
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40 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 00:51:07.90 ID:0OWmChTn - 二人の宿泊客は、そのままロビーで一緒に語らいながら、朝が来るまで震えてたんですって。
これで私の話はおしまい……オゥ? 今もまだその現象は続いているのかどうかが知りたい? ああ、それなら大丈夫よ。だってもう無いんですもの、その壁。クラッシュされちゃった。 何でも話を聞いたパパが、その壁を取り払って部屋をスイートルームにリフォームさせたようなの。 でも、それ以来同じような事件は起きていないらしいから……結果オーライじゃないかしら? さて、今度こそ話はおしまい。ロウソク、消しに行ってくるわ。 それじゃあ、あとは任せたわよ。
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42 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 00:52:37.64 ID:0OWmChTn - 第五話 『本の紡ぐ夢』 (国木田花丸)
次はマルの番ずらよね? ああ、良かった。 実はマル、怖いのがあまり得意じゃなくて……早めに順番が回ってきてほっとしました。 だから今回話す話も、怖いというよりは不思議な話になると思うずら。 マルは図書委員で本が好きなのもあって、よく図書室にいます。 アクアの活動が始まってからは、その頻度も少し減っちゃったけど…… それでも、週の半分くらいは図書室にいる気がするずら。えへへ。 図書室は本が集まる場所。言い換えれば、人の知恵や想いが集積した場所。 それが原因なのか、時々、説明のつかない現象が起きたりしやすい場所でもあるんだ。 今回話すのは、浦の星女学院の図書室にある、一冊の『魔本』のお話。 わっと……落ち着くずら、善子ちゃん! 多分、善子ちゃんの言ってる『魔本』とは関係ないずらよ。
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44 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 00:59:07.48 ID:0OWmChTn - その本を見つけたのは、書架整理をしている時。
……そういえば、あの本を持ってきたのは善子ちゃんだったずらね。 覚えてない? ほら、常盤色のハードカバーの本だよ。 『ずら丸。この本、分類コードが付いてないけど大丈夫なの?』って善子ちゃんが言ってた本。 うん、そうそう。やっと思い出したずらか。 あの後、分類コードを付けるためにその本の中身を確認してたんだけど。 実はあの本ね……すっごく面白い小説だったんだぁ。弱気な竜と強気な小人が冒険するファンタジーでね。 マル、普段は教養小説とかばかり読んでるから、あまりそういう種類の小説は読んだことがなくって。 でも、そんなマルでもついつい夢中になっちゃうくらい面白かったんだ。
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45 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:00:43.91 ID:0OWmChTn - それで、その日の内に本は読み切ってしまったんだけど……丁度下校時刻になっちゃって。
分類コードを貼る時間はすっかり無くなっちゃったずら。 だから、その日はカウンターの引き出しの中にその本を閉まって帰ることにしました。 別に急いでいるわけでもないし、分類コードを貼るのは明日でもいいかな、って。 そうして次の日。少しだけ朝早く学校に行ってその仕事をしに図書室に行ったずら。 本を机の中から出して、汚れてないか確認して。一応念のためページをパラパラめくって確認して…… その時、なんか変だなって思ったんです。もう一度確認して……間違いない。 本の内容が、変わってるんです。
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46 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:02:48.46 ID:0OWmChTn - 本の装丁や質感は変わってなくて、それなのに中身だけがすり替わっている。
昨日までは確かにファンタジーだったのに……それが、散文調の短編集に変わっていたずら。 おまけに、その短編集も昨日のお話に負けず劣らず面白くて。 まるでその本を書いた人が、すっかり中身だけを書き換えてしまったかのようなそんな感じ。 でも、そんな事が出来る人なんてそうそういないと思うんです。 だからマル、検証することにしました。 もう一日、本を机の中に入れておいて、内容が変わるかどうか。 もしそれで内容が変わってなかったら、マルの記憶違いなのかもしれない。 胡蝶の夢ではないけれど、うっかり白昼夢でも見ていたのかもしれない、って。 そんなことを思いながら一日を過ごして。次の日、また引き出しを開けてみると。 ……今度は、本自体が無くなってて。結局その日はそれっきり見つからなかったずら。
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47 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:04:17.16 ID:0OWmChTn - あ、でも。完全に消えちゃったわけではないんです。その日に見つからなかっただけで。
返本作業とか探し物とかをしていると、常盤色の本が他の本に紛れているのをたまに見かけるずら。 それで毎回気になって読んでみるんだけど……やっぱり、その度に内容は違ってる。 ある時は時代小説、ある時はホラー、私小説や伝奇物だったりも。 そして……そのどれもが素敵で、きらきら光ってるお話なんだ。 だからマル、思うんです。あの本って、生きている魔本なんじゃないかって。 自分でお話を書いて、他の人に読んでもらって、また新しい作品を書く。 そういう力を持った本なんだと、マルは思うずら。
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48 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:05:20.42 ID:0OWmChTn - すぐにいなくなっちゃうのは……これもマルの推測ずらけど。
自分の作品が読まれて気恥ずかしくなっちゃうから、なのかも。 もしまた出会えたら……今度は感想を挟んでおこうかな。 いつも面白い話をありがとうございます、楽しんで読んでいます、って。 そうすれば、魔本さんもきっと喜んでくれる気がするずら。 みんなも図書室で分類コードがない常盤色の本があったら、是非一回読んでみてね。 きっと面白くって、気に入る事受け合いずら! マルの話はこれでおしまい。ロウソク、消してくるずらよ。
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49 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:06:56.69 ID:0OWmChTn - 第六話 『地下アイドル』 (矢澤にこ)
にっこにっこにー! あなたのハートににこにこ……ちょ、ちょっと! 何よ! せっかくミューズ以外の子たちもいるんだから、アピールさせてくれたっていいじゃない! え? 早く話せ? あとでいくらでも時間はあげるから? そ、そう? まったく、しょうがないわねー。それじゃあ、話すわよ。 あれは確か、この前のオフの日だったかしら。 特に予定もなくて、花陽と一緒にアイドルショップめぐりでもしようかと思ってたのよ。 まあ、でも結局花陽は家の用事だったかで捕まらなくてね。 他に呼ぶあてもいないけど、休日を無下にするのも勿体無いじゃない? それで散歩がてら、一人で秋葉原をぶらぶら歩くことに決めたの。 そうしてれば、何か面白いことがにこの方に飛んでくるかもしれないじゃない。
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51 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:08:13.27 ID:0OWmChTn - 大通りを突っ切って、アイドルショップやメイドカフェへ。
そのまま神田明神に寄り道しつつ、裏道の雑貨店に顔を出したり。 そんな感じで秋葉原をぐるっと一周する形で回ってみたけれど、どうにも外れだった。 特にめぼしいイベントや出来事は何にもないみたいで、せいぜい希とお喋りしたのが収穫になるくらいで。 ああ、こりゃ駄目ね。ちょっとがっかりして、とぼとぼ帰ろうと思った矢先。 ぴくり。にこの耳が何かを捉えたの。 音? いや、違う。これは声。 ちゃんと意識しないと聞こえないくらいの声が、どこからか聞こえてくる。
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52 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:09:32.43 ID:0OWmChTn - ……何かあってほしい、そうすがる気持ちがあったのかもしれないわね。
自然と足はそちらの方向に向かっていたの。少し歩いては声を聴いて、の繰り返し。 そうして最後に着いたのが……階段を下った先にある、地下にある扉。 扉の近くには黒地に白文字で「ライブハウス なんちゃら」みたいな看板がかけてあってね。 声は、どうもその扉の隙間から聞こえてくるみたいだった。 ここでにこはピーンと来たわけ。 ははぁん、もしやここは知る人ぞ知る地下アイドルのハコなんじゃないか、って。 何せ、秋葉原を庭みたいにして育ったこの私ですら知らないスポットよ? もう期待と興奮でバックバクよ。 こんな発見があるなんてラッキー! 今度花陽にも教えてあげようっと。 そう思いながら、空いてた扉を通って中に入ったの。
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53 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:11:03.59 ID:0OWmChTn - 中の通路はむわっとしていて、少しだけかび臭かった。
でもそんなこと気にならなかった。何なら、雰囲気があっていいわねとさえ思っていたわ。 そして声が聞こえる方、ステージに続いてそうな扉を開けると…… 目に入ってきたのは、ステージ上で歌っている女の人と、観客席に突っ立ってる三人くらいの人たち。 女の人は、いかにもアイドルって感じで。もうほんと、ふりっふりの衣装で歌って踊って飛び跳ねてる。 何でしょうね……必死だけど、必死さよりも先に楽しさが伝わってくる。そんな感じかしら。 声量もあるし、アピールも上場。最近見た中じゃ五本の指に入るくらいの子だった。贔屓とかなしでね。
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54 :@無断転載は禁止[]:2016/12/30(金) 01:13:36.16 ID:0OWmChTn - それとは対照的だったのは観客席の人たち。
コールするでもなくノってるわけでもなく腕組みしてるだけで…… って所で気付いちゃったのよ。あの人たち、観客じゃなくてもしかしてスタッフ? それじゃあにこは、リハーサルの現場に忍び込んじゃったことになってて…… マズいなんてもんじゃないわ。もしばれたら……ぞぞぞ。 もうあんな目には遭いたくないって、急いで観客席から離れようとしたわけ。 あんな目って? ……まあ、今ここじゃあ言いたくないけど、昔おっそろしいことがあったのよ。 でね。こっそり観客席から抜け出そうとした時に、なんだけど。 何かね、アイドルの子と目があっちゃった気がするの。 ヤバい、バレた! それでもう、後は一目散。後ろなんて気にせず走って外まで逃げたわ。
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55 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:15:13.22 ID:0OWmChTn - 何よ。自分でもなんか情けないってのは分かってるわよ。
まあ、そうは言っても新しいハコを見つけたのは事実。何なら私の知らない、原石みたいな子もセット。 十分元は取れてると思ったのよ、私としては。 それでこの前、花陽を連れてそのライブハウスに行ってみたんだけどね。 ……看板は貼られていた形跡すらなかった。扉はあったけど、そこには大きな「テナント募集」の張り紙。 しかもその張り紙もホコリまみれで、いつから空き物件なのか分からない状態。 じゃあ、私が聞いたのは? 私が見た、あの子は? 一体何だったんでしょうね。 もしかしたら、あそこに未練があるユーレイの子だったりして……ひいぃ! そうだったら、もうあんなとこには怖くて行けないにこー! ……ちょっと穂乃果、後で覚えときなさいよ。 こほん。これでにこの話は終わり! ロウソクだけ消してくるわね。
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56 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:17:36.66 ID:0OWmChTn - 第七話 『海に還るもの』 (桜内梨子)
ええっと、次は私が話す番ですよね。 私、海が好きなんです。ここ、内浦の海が。 転校してきたばかりの頃から、綺麗な海だなぁって思ってて。 学校が始まってからも、休日になるたびスケッチブックを持って絵を描いてみたり。 アクアの曲を作っていて調子が出ない時に、気分転換に散歩してみたり。 そうやって海で過ごす時間が増えていくうちに……今ではすっかり、お気に入りの場所になってるんです。
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57 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:19:39.27 ID:0OWmChTn - その日も私は、海岸に座り込んでスケッチをしていました。
たまには趣向を変えて、違う角度から海を見てみたい。 そう思って、いつもの所から少し離れた場所で、シートと画材を広げて絵を描いていたの。 実際、少し場所を変えるだけでも景色って随分と変わってくるものなんですよね。 普段は見えない建物や海岸線が見えてきたり、淡島だってまったく違う島みたいで。 こうして場所を変えてスケッチしてみるのも悪くない。そう思いました。 それで……お昼を少し回った頃だったかな。 少し休憩しようと思ってお昼ご飯を食べていたんですけど。 その時、小さい子たちが何人か集まって遊んでるのが目に入ってきたんです。
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58 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:20:49.45 ID:0OWmChTn - 子供は風の子って言うけれど、本当にぴったりの言葉ですよね。
その子たちも追いかけっこをしていたんですけれど、すごく元気で。 転んでもまたすぐに起き上がって、他の子を追いかけてわいわい遊んでいる。 ああいう様子っていいな。人を描くのは得意じゃないけれど、良い構図になりそう。 そう思って絵筆をとって、子供たちがいた方向に目を向けると。 いつの間にかその子たちが目の前に集まって来てて、じーっとこっちを見てきているんです。 どうしたの、と聞くと。一人の子がこちらに手を差し伸べて。 『お姉ちゃんも、一緒に遊ぼうよ』 そう言ってくるんです。
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59 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:26:19.85 ID:0OWmChTn - ええっ、私も? おろおろ、戸惑っていると他の子たちも口々に。
『遊ぼう』『一緒に遊ぼうよ』『楽しいよ』 輪唱のようにがやがやと、私に呼びかけてきたんです。 慣れてないっていうのもあるかもですけど……子供の押しの強さってすごいんですね。 まあ、それならちょっとだけ。ほんの少し付き合うくらいならいいかな。 彼らの訴えを聞いているうちに私もその気になっちゃって。 それで、さっきの子が差し出した手を掴みかけた瞬間。 ワオン! 後ろから大きな声……ううん、鳴き声ね。 肩がビクンとなって。思わず後ろを振り返りました。その声は、まさか。
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60 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:27:21.15 ID:0OWmChTn - ……ええ、そうよ。しいたけちゃんが、すぐ後ろまで来てたの。
もう、本当に怖かったのよ? だけど、それだけじゃないんです。 本当に怖かったのは、しいたけちゃんから逃げようと、また前に向き直った時。 さっきまで遊ぼうとせがんでいたあの子たちが、いない。 目を離していたのは、一瞬なのに。まるで風みたいに、綺麗に姿が消えちゃってて。 え、なんで? 思わず口からそんな言葉が出ていました。 ……その後はしいたけちゃんが突進してきて、それどころじゃなかったけどね。
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61 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:29:47.42 ID:0OWmChTn - 後から聞いた話だけど……私の移動したあの辺りって、昔水難事故が多かったらしいんです。
気を付けてれば大丈夫だし、地元の子たちは平気みたいなんだけど。 内浦の外から来た海水浴客――特に水に慣れてない子供たちが深みにはまって、とか。 そういう事故が何回もあったみたい。 だからあの子たちも……そういう子たちなのかなって。 もしあそこで手を掴んでたら私はどうなってたか。それは分かりません。 平気だったかもしれないし……もしかしたら、海に還るその子たちに連れられて、なんてことも。 そういう意味では、しいたけちゃんのファインプレーだったかもしれないわね。不本意だけど! ……今度、絵を一枚書いて、コンビニで買った卒塔婆と一緒にあそこへ持っていくつもりです。 遊べなくてごめんなさい。でも変わりに君たちの絵を描いたから、プレゼントするね、って。 これで私の話は終わりです。ご清聴ありがとうございました。 じゃあ、ロウソク消してくるわね。
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62 :名無しで叶える物語(もんじゃ)@無断転載は禁止[sage]:2016/12/30(金) 01:31:51.93 ID:0OWmChTn - PCが突然動かなくなりましたので、携帯から投下しております。
今後も見辛い、投下がもたつくなどあると思います、すみません。
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