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名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止
穂乃果「最大トーナメント?」其之弐ッ [無断転載禁止]©2ch.net

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穂乃果「最大トーナメント?」其之弐ッ [無断転載禁止]©2ch.net
229 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:00:25.95 ID:a/OqvDH4
絵里「くッ・・・・・・」

希の言葉に――絵里が、身を起こす。

絵里「結局ッ・・・・・・貴方だって、同じじゃない・・・・・・ッ」

絵里が――うめくように、言葉を絞り出す。

絵里「“私を取り戻す”・・・・・・!? 笑わせないでッ! 結局こうして、闘うしかないッ・・・・・・!」

絵里「闘って、殴り合いをして、攻撃が決まった時ッ・・・・・・快感を感じたことが無いなんて言わせない」

絵里「海未だって・・・・・・ッ 闘うことが、好きなんでしょう!?」

海未「――――」

しばしの沈黙ののち――

海未「そうです。私だって――剣道でも、弓道でも。ライブでも――闘うことは楽しいです」

海未「でもそれは、夢や目標があってこそ――志を共にする誰かと、互いの力を競い合わせるからこそ――楽しいのではないですか?」

ぎりり――と、絵里が一層、奥歯を強く噛み締める。
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230 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:02:10.58 ID:a/OqvDH4
海未「――絵里。今の、貴方の強さは――」

海未「なんだか、悲しい――です」

絵里「ふざけないでッッ!!」

絵里が吼え――海未に向かって、駆ける。

そのまま足から跳び、蟹挟み――!

海未「――!」

しかし、海未は冷静に、蟹挟みで転がされそうになると同時に、自ら体を回転させ、地面を転がりながら逃れる。

絵里「夢だとか目標だとかッ・・・・・・志だとかッ!!」

身を起こしながら――絵里が、声を上げる。

絵里「そんなものに意味なんか無いッ・・・・・・そんなものを信じていてもッ・・・・・・叶わないものだってあるのよ!!」

海未「ですが――絵里。私たちは――μ'sは、同じ夢を追いかけていた」

海未「あの、私たちと夢を追っていた日々は――偽りだったのですか?」

絵里「・・・・・・・・・・・・ッッ!!」
穂乃果「最大トーナメント?」其之弐ッ [無断転載禁止]©2ch.net
231 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:04:44.27 ID:a/OqvDH4
希「あかんッ・・・・・・どんどん、技が雑になってる・・・・・・ッ」

希「エリチ、落ち着くんや! 海未ちゃんの言葉に惑わされちゃあかん!」

希「エリチは完璧なんや! エリチはッ・・・・・・!!」

ことり「――迷ってる。絵里ちゃんも」

闘技場内に向かって叫ぶ希の横で――ぽつりと、ことりが呟く。

ことり「絵里ちゃんは、夢や目標を否定してるけど――でも絵里ちゃんだって、わかってる」

ことり「夢を信じて、頑張ってきたからこそ――μ'sは、大きな夢を叶えられたってこと」

ことり「夢には、ちゃんと意味があるんだってこと」

ことり「それを認めたくない気持ちとの間で――揺れ動いてる」

希「エリチ――・・・・・・」

ことり「ね、希ちゃん。希ちゃんや絵里ちゃんみたいに、自分のための、闘いだけのための強さは、確かにすごく強いよ」

ことり「でも――夢や目標のため。そして、誰かのために強くなることは――間違ったことなのかな?」

希「・・・・・・・・・・・・」

ことり「少なくとも――ことりは、大切な人のために、強くなりたいって思ったの」

ことり「そして、きっとそれは――海未ちゃんも――」
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232 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:07:12.10 ID:a/OqvDH4
絵里「貴方にッ・・・・・・何がわかる!?」

絵里が、声を荒げる。

哀しみを――憤怒で、押し隠したかのような表情で。

絵里「“完璧”でもない貴方がッ・・・・・・私の、何がわかるって言うの!?」

海未「――“完璧”・・・・・・」

海未「絵里。貴方は、ずっと“完璧”という言葉にこだわっていますが――」

海未「“完璧”であることが――本当に、大事なことなのですか?」

絵里「なんですって・・・・・・ッ!?」
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233 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:08:31.97 ID:a/OqvDH4
海未「まるで、今の貴方は――私が、初めて会った頃の貴方を見ているようです」

海未「生徒会長として。様々なプレッシャーと闘いながら、ひたすら自分を殺して、“完璧”になろうとしていた貴方」

海未「“完璧”な生徒会長を務め上げようと、必死になって――今にも、壊れてしまいそうだった貴方」

絵里「何を・・・・・・ッ!」

絵里の心は――かき乱されていた。

海未の言葉のひとつひとつが――なぜか、心の古傷をえぐるかのように、突き刺さる。

絵里(私は“完璧”なハズッ・・・・・・バレエの夢が破れた頃の私でもッ・・・・・・生徒会長だった頃とも違うッ・・・・・・!)

絵里(なのにッ・・・・・・!!)
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234 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:10:11.43 ID:a/OqvDH4
海未「そんな貴方に、差し伸べられた手――」

海未「貴方だって、覚えているはずです」



――絵里先輩、μ'sに入ってください!

―― 一緒にμ'sで歌ってほしいです! スクールアイドルとして!



絵里(あの時・・・・・・私に、差し伸べられた手)

絵里(・・・・・・あれは、)



――私は貴方に、一番大切なものを教えてもらったの。変わることを恐れないで、突き進む勇気。

――私は、あの時・・・・・・貴方の手に、救われた。



海未「貴方だって――もう、わかっているはずです」

海未「自分の、想いが――」



絵里(・・・・・・・・・・・・)

――そうだ。

私を、救ってくれたのは。

私に、勇気を教えてくれたのは。



絵里「――穂乃果」
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235 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:11:52.75 ID:a/OqvDH4
闘いの最中だというのに――

海未は、口元に、静かな微笑をこぼす。

海未「完璧な人間なんていません。みんな、欠点があるから人間なんです」

海未「私だって欠点だらけです。穂乃果も、ことりも――花陽も凛も真姫も、にこも希も、みんなそうです」

海未「でも、そんな欠点だらけの私たちだからこそ――」

海未「お互いを、支え合える。お互いを、助け合える」

海未「お互いを――好きでいられるんです」

絵里「――――」

海未「私は――私たちは――完璧でなくても、優しく、頼りになる貴方が――μ'sの絢瀬絵里が、好きです」

海未「貴方は――どうですか?」

海未「μ'sが――好きですか?」

海未「穂乃果のことが――好きですか?」



――わかってる。

私は、本当は弱かった。

いつも迷って、困って、泣き出しそうだった。

その弱さを、認めるのが嫌だったから――それを必死で、隠していただけ。

でも。

それを、受け入れてくれたのは。

私を、救ってくれたのは。

私が、心から笑える場所をくれて――大切な仲間たちと巡り会える、きっかけをくれたのは。



絵里「――そんなこと」

顔を伏せた絵里が――ぽつりと、呟く。

そして――す、と、顔を上げた――絵里の、口元には。



絵里「言うまでもないわ」



静かな、微笑が浮かんでいた。
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236 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:13:25.94 ID:a/OqvDH4
凛「絵里ちゃん・・・・・・!?」

花陽「絵里ちゃんの・・・・・・表情が、変わった・・・・・・!」



にこ「まったく・・・・・・世話焼かせるんだから・・・・・・!」

真姫「エリー・・・・・・!」



理事長「絢瀬さんの・・・・・・表情が・・・・・・!?」

穂乃果「絵里ちゃんっ・・・・・・!」

穂乃果が、鼻をすすり――涙を、ぬぐう。

穂乃果「そうだよっ・・・・・・あれはっ・・・・・・!」

穂乃果「穂乃果たちが大好きな、絵里ちゃんっ・・・・・・μ'sの、絢瀬絵里だよっ!!」



亜里沙「お姉ちゃん・・・・・・海未さん・・・・・・!」

ぽろぽろと――亜里沙の両目から、涙がこぼれる。

亜里沙(海未さん・・・・・・ありがとうっ・・・・・・!)



海未「・・・・・・さあ」

海未が、右手の手刀を構え――それに呼応するように、絵里も腰を落とし、構えを見せる。

お互いの表情には――笑み。

海未「――決着をつけましょう!!」

絵里「――望むところッ!!」
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237 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:14:56.46 ID:a/OqvDH4
『双方ともに待ったなしッッ!! 園田海未の剣かッ 絢瀬絵里のサブミッションかッ』

『いよいよ、真の決着の時を迎えようとしていますッッ!!』

ワアアアアッ



希(ああ・・・・・・エリチ・・・・・・)

希(獣だった頃の・・・・・・“ハンター”だった頃のエリチは、もう・・・・・・)

がくり――と、希が、その場に崩れ、両膝をつく。

希「ウチは――間違ってたん?」

希「誰かの為じゃない――自分のための強さ。本能のままに闘う強さ――」

希「それこそが、真の強さ――“完璧”だと信じてた。そんな、ウチは――間違ってたん?」

ぽつぽつと、独りごちるように呟く希に――ことりが、答える。

ことり「――そんなことないよ。自分のために強くなることだって、間違ってない。それも十分な強さだと思う」

ことり「でも――誰かのためじゃなく、自分だけのための強さって――」

ことり「なんだかちょっと、寂しいね」

希「・・・・・・・・・・・・」

ことり「ね、見て。希ちゃん」

そう言って――ことりは、闘技場の中を、そっと指差す。
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238 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 00:15:47.18 ID:a/OqvDH4
ダッ

絵里が、海未の下半身目掛け、タックルを仕掛ける。

海未は、今度は体を引かず――絵里が向かってくる勢いに合わせるように、右の手刀を突き出す。

寸前で体をひねり、かわした絵里が、突き出された海未の右手首をつかむ――

と同時に、海未が上半身を内側に半回転させ、右手首をつかんだ絵里を引き込み、今度は左手の手刀を突く――!

咄嗟に絵里が手を放し、距離をとる。

ギリギリの攻防にも関わらず――2人の表情には、どこか充実したかのような、笑み。



ことり「今の絵里ちゃんと、海未ちゃん――」

ことり「――さっきよりもずっと、楽しそう」
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239 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:17:27.49 ID:a/OqvDH4
海未(先程までの、獣のような殺気はなりを潜めましたが――それでも、体のキレはなんら衰えていないッ)

海未(むしろ、心の澱が晴れたせいか・・・・・・開放的にさえなっているような・・・・・・ッ)

こんな状況にも関わらず――海未は、自分のよく知る絢瀬絵里と、互いの力をぶつけ合えることが――嬉しかった。

海未(嬉しいですッ 戻ってきた貴方とッ・・・・・・穂乃果への想いを取り戻した貴方と、こうしてぶつかり合えるのがッッ)

海未(この熱さを、受け止めてほしいッ・・・・・・答えは貴方の心が、きっと教えてくれるッッ)



そして――絵里も、また。

絵里(責任取ってよね、海未ッ・・・・・・私の胸の奥からあふれてくる熱さッ・・・・・・止められないッッ)

絵里(逃げちゃダメ・・・・・・怯えちゃダメ・・・・・・目をそらした方が負けッ)

絵里(私はもうッ・・・・・・自分の弱さから、目をそらさないッ!)

絵里(こんな、溶けそうな情熱はッ・・・・・・貴方のせいよ・・・・・・今は身体中が、貴方を呼んでるッ・・・・・・海未ッッ!)



ガガッ バッ

海未に組み付き、投げ技を仕掛けようとする絵里。

体をさばき、時には右足で跳びながら、かろうじて逃れる海未。

そして隙を突いて手刀を繰り出し――それを紙一重で回避する、絵里。

『投げッ 手刀ッ タックルッ カットッ』

『実況が追いつかないッ 技対技ッッ 一瞬の間も無い攻防ですッッ!!』

ワアアアッ
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240 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:18:45.43 ID:a/OqvDH4
理事長「海未ちゃん、体さばきを利用した動きで、脚に負担をかけないようにしているとはいえ・・・・・・」

理事長「左脚を負傷した体で、あれだけの攻防を繰り広げられるなんてッ・・・・・・!」

理事長「精神が、肉体を凌駕した状態――これも、穂乃果ちゃんへの想いがなせる業なのかしら」

穂乃果「私への・・・・・・」

理事長「それは――絢瀬さんも同じ。貴方への想いを取り戻した彼女と、海未ちゃん――」

理事長「同じ想いで、力をぶつけ合っている2人が――なんだか、うらやましくなってくるわ」

穂乃果「同じ・・・・・・想い・・・・・・」

のびのびと――互いの力をぶつけ合う2人。

そんな2人の姿を見つめる、穂乃果の心に――

なんだか、熱いものが――少しずつ、わき上がってきて。

穂乃果は、そっと、胸元で手を握った。
穂乃果「最大トーナメント?」其之弐ッ [無断転載禁止]©2ch.net
241 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:20:25.84 ID:a/OqvDH4
膝をついたまま――呆然と、闘技場内の2人の攻防を見つめる、希。

ことり「――誰かのための強さ。それは弱くも、かっこ悪くもない」

ことり「今の、海未ちゃんと絵里ちゃんは――かっこいいよ」

希「でも、ウチは・・・・・・ひとりでも・・・・・・強くなろう、って・・・・・・」

ことり「――希ちゃんだって、もう気づいてるはずだよ」

と――ことりが、希に視線を向け――微笑む。

ことり「だって――μ'sを作ってくれたのは、希ちゃんじゃない」

ことり「希ちゃんも、誰かを支えたかった――そして、支えてほしかったんじゃないかな」

ことり「ひとりは――寂しいもの。当たり前のことだよ――」

不意に――希が、天を仰ぎ。

ぽろぽろと――涙を、こぼす。

希「はは・・・・・・ウチ・・・・・・なに、やってたんやろ・・・・・・」

希「エリチを・・・・・・縛り付けるようなこと・・・・・・してまで・・・・・・」
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242 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:21:33.77 ID:a/OqvDH4
ことり「希ちゃん、泣かないで――今は、それよりも――」

ことりが、闘技場内に視線を戻す。

ことり「今は、見届けよう。2人の、闘いの行方を――」

希も――絵里と海未の姿を、見つめ直す。

希「エリチ・・・・・・ッッ!」



海未との、絶え間のない攻防のさなか。

絵里の脳裏には――いつしか、懐かしい顔が浮かんでいた。

絵里(・・・・・・お婆様)

かつて――自分に微笑みかけてくれた、優しい顔。



――大丈夫。オーディションなんて、気にしなくていいわ。



そう言って、頭をなでてくれた――温かい手。

絵里(私は、お婆様が大好きで――お婆様の期待に応えなければいけない、いつもそう思ってた)

絵里(お婆様の望む、“完璧”な私にならなければいけないと――ずっと思っていた)

絵里(でも――本当は、違っていたのかも)

絵里(お婆様は。“完璧”じゃない、ありのままの私を――いつも見てくれていた)

絵里(ありのままの私に――優しい言葉をかけてくれた)

絵里(私は――何もわかっていなかった。お婆様が、ありのままの私を見てくれていたことにも、気付かずに――)
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243 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:23:42.99 ID:a/OqvDH4
そして――

脳裏に浮かんだ――もうひとつの顔。

絵里(――穂乃果)

無邪気に笑う――穂乃果の顔。

絵里(貴方もまた――ありのままの私を、受け入れてくれた)

絵里(なんで、忘れていたんだろう――私は、貴方のために――!)

絵里が、海未に仕掛ける。

タックル――と見せかけて。

パンッ

海未「ッッ!!」

軌道を読みにくい、下からのパンチが海未の顔面を襲う。

しかし、これは単なる牽制。さしたるダメージは無い。

だが、海未がひるみ、一瞬でも隙が作り出せればそれで良かった。

海未の動きが、一瞬だけ止まる。

その瞬間、素早く身を沈ませた絵里が、両手を地面に突く。

そのまま反動を利用し、前方にハンドスプリングをするように、倒立の体勢で、両脚が急速度で海未に迫る――!



凛「蟹挟み!?」

花陽「いやッッ・・・・・・!!」
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244 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:26:17.45 ID:a/OqvDH4
通常の蟹挟みであれば、相手の両太腿または膝を自分の両脚で挟み込み、相手を後方に倒す。

しかし、絵里は――

ガッ

下半身よりも、はるか高く。海未の首を、両脚で挟み込む。

そのまま、バック宙をするように回転し――

ドカッ

海未の頭部を両脚で挟んだまま、地面に倒す――!

『こッ これはッッ!? 両脚を使った投げ技が炸裂ッッ!!』

『園田海未、地面に倒されたァッッ!!』

ワアアアッ



凛「脚を使った投げ技ッ!?」

花陽「プロレス技の、フランケンシュタイナー・・・・・・もしくは、ウラカン・ラナに似てるけど・・・・・・ッ」

花陽「でも、やっぱり違う・・・・・・! これも、コマンドサンボの技ッ・・・・・・!?」



ことり「海未ちゃんッ!!」

希「ウチを倒した技に似てるッ・・・・・・でもあの時は、首を固定したまま、頭部を地面に叩きつけた」

希「この技はッ・・・・・・まさか、“絞め技”ッッ・・・・・・!?」
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245 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:26:56.32 ID:a/OqvDH4
絵里「チェック・メイトよ――海未」

海未の体を地面に転がし、両脚で首を挟んで、押さえつけている絵里が――

首を挟んだ両脚に、力を込める――!

ギュウウッ

海未「――ッッ!!」

両脚で首を絞められ、身動きが取れない海未が――歯を、食いしばる。

絵里「このまま頚動脈を圧迫すれば、貴方は落ちて、試合終了――」

絵里「でも、ここまで闘ってきた海未に、そこまではしたくないの。――ギブアップして、海未」

海未「・・・・・・・・・・・・ッッ」

海未の顔が――充血して、赤く染まっていく。



理事長「両脚を使った絞め技――柔道の三角絞めにも似ている」

理事長「この体勢から、反撃することは不可能――!」

穂乃果「海未ちゃんッ・・・・・・!」
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246 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:28:44.13 ID:a/OqvDH4
海未にギブアップを促した絵里だが――海未は、タップしない。

絵里(そう――貴方も、穂乃果のため――決して、負けたくはないのね)

絵里(でも――ごめんなさい、海未。私だって――もう、立ち止まりたくない――!)

ギュウウッ

絵里が、海未の首を挟んだ両脚に、一層力を込めた――その時。

海未が――絵里の脚をつかんでいた両手を、す、と放す。

そして、左右の手それぞれで、手刀をつくり――

ドスッ

海未の首を絞めている、絵里の両脚の膝関節――その、骨と骨の継ぎ目に、左右それぞれの手刀を突き刺す――!

絵里「ッッ!!」

絵里の顔が苦痛に歪み、一瞬、両脚の力が緩む。

その隙を見逃さず、海未が負傷していない右足で、思い切り地面を蹴る。

その反動のまま、下半身を絵里に向かって回転させ――

ガッ

絵里「ぐッッ!!」

右膝を、絵里の額に直撃させる。

完全に力が緩んだ隙に――絵里の両脚から、海未が逃れる。

『破ったァァ〜〜〜ッッ!!』

ワアアアッ
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247 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:30:09.12 ID:a/OqvDH4
海未「」ハァハァ

海未は息を切らせながらも、立ち上がり、手刀を構え――すでに、臨戦態勢。

絵里「くッ・・・・・・! 手刀でッ・・・・・・!」

海未「――言ったはずです。“これ”が、今の私の、刀であると」

絵里「――成程。刀を持たずとも、今の海未は、武器を手にしているのと同じ――という訳ね」

絵里もまた、身を起こす。

絵里(――それでも)

ザッ

絵里が、海未に向かう。

絵里(私だって――穂乃果のために――!)

次の瞬間。

絵里が、タックルをかけようとした――それより、一瞬速く。

絵里の正面に踏み込んだ海未が――右手の、手刀を突き出す。

ドキュッ

絵里「ッッ!!?」

手刀が、絵里の喉に直撃し――

絵里「がはッッ!!」

絵里の口から――血混じりの唾液が吐き出される。

思わず、絵里が口元を右手で押さえる。

海未「絵里――」

絵里「流石はッ・・・・・・海未、ね・・・・・・」

絵里が、口元をぬぐい――右手が、血に濡れる。

しかし、その口元には――笑み。
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248 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:31:32.44 ID:a/OqvDH4
絵里(海未――)

ダメージを負いながらも――

絵里の心は、どこか晴れやかだった。

絵里(こんな私に――溶けそうなほどの情熱を、思い出させてくれた)

絵里(海未――私は、貴方と闘えて――)

ダッ

両足に渾身の力を込めて、絵里が駆ける。

海未にタックルをかけると同時に、海未の左腕の道着を、右手でつかんだ――

次の瞬間。

グワッ

腕を使わず、肩だけで背負い投げをするように――海未が、体を大きく回転させる。

タックルをかけた反動で――そのまま前方に体勢を崩され、絵里の体が、大きく浮き上がった。



――ね、海未。

私、海未と闘えて、本当に良かった。

海未は――どう?



そして、空中に浮かんだ、絵里の体の真下から――

ドキュッ

絵里「ッッ!!!」

海未の、右手の手刀が――

絵里のみぞおちに、突き立てられた。
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249 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:32:46.08 ID:a/OqvDH4
ドサッ

海未の渾身の一撃を喰らった絵里の体が――海未の、背後に転がる。

今の海未に出来る、最上級の一撃。しかし――

絵里「・・・・・・・・・・・・ッッ」

海未の背後で――絵里が、ゆっくりと身を起こす。

海未(まさかッ・・・・・・絵里、貴方はまだッ・・・・・・!?)

海未が振り返る――

と、そこには、海未の顔面に向かって、右手を伸ばす絵里――

海未(打撃!? 目潰し!?)

咄嗟に、海未が身構える――

――その時。

絵里「――――」

絵里は――す、と。

海未の頬を――右手で、そっと撫でた。

絵里「海未――」

頬を撫でた、絵里の顔には――

優しげな、微笑。



絵里「ありがとう」



そう呟き、微笑んだ絵里が――

膝から、崩れ落ち。

撫でられた海未の頬には、絵里の指についた血で――

ルージュを引いたかのような――赤い跡が残った。
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250 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:34:21.71 ID:a/OqvDH4
ヒデコ「勝負ありィィッッ!!」



『勝負ありィィ――――ッッ!! 園田海未 VS 絢瀬絵里ッッ』

『μ's勢同士の準決勝での対決、ここに決着ッッ!!』

『園田海未の剣がッッ 完全無欠と思われた、絢瀬絵里の戦場格闘技を打ち破ったのですッッ!!』

ワアアアアッ

『技と技がぶつかり合う激しい攻防の中、前半は絵里に圧倒され窮地に追い込まれた園田海未ッッ』

『しかし剣術の進化系とも言うべき“無刀柔術”を解禁ッッ』

『最後に絵里をねじ伏せたその精神力は、正に高坂穂乃果に対する愛情のなせる業と言えるでしょうッッ』

パチパチパチッ



海未(穂乃果への愛情――)

海未(それを抱いて闘ったのは、私だけではありません。絵里もまた――)

海未は――足元に崩れ落ち、動かない絵里の姿を見つめる。
穂乃果「最大トーナメント?」其之弐ッ [無断転載禁止]©2ch.net
251 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:35:51.60 ID:a/OqvDH4
亜里沙「海未さんッ・・・・・・お姉ちゃんはッ・・・・・・!」

亜里沙が、海未と絵里のもとへ駆け寄る。

海未「気を失っています。亜里沙、医務室へ運ぶのを手伝って――」

――その時。

希「――待って」

歩み寄ってきた希が――海未の言葉を遮る。

希「エリチは、ウチが運ぶ――運ばせて」

海未「希――」

右手を吊っている希は――左手で、絵里の体を起こし、脇に肩を入れる。

希「良かれと思って――ウチの方が、かえってエリチを追い詰めてたのかも。それに――」

希「エリチは――ウチの、大切な――友達やから」

その言葉に――口元に微笑を浮かべる、海未。

海未「任せましたよ――希」

絵里の体を肩で支え――ゆっくりと退場する、希。

『今ッッ 盟友である東條希の肩を借りながらッッ』

『素晴らしいファイトを見せてくれた絢瀬絵里が、退場していきますッッ』

パチパチパチッ

絵里「・・・・・・の・・・・・・ぞ、み・・・・・・」

絵里の口元が、僅かに動き――かすれた声で、呟く。

希「ナイスファイトやったよ――エリチ」

答えた希の目元は――涙で、光っていた。
穂乃果「最大トーナメント?」其之弐ッ [無断転載禁止]©2ch.net
252 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:36:49.68 ID:a/OqvDH4
凛「2人とも、すごい・・・・・・すごい試合だったにゃ・・・・・・」

花陽「うん・・・・・・でも、本当に良かったのは・・・・・・」

花陽が、目元ににじんだ涙を、そっとぬぐう。

花陽「絵里ちゃんが・・・・・・私たちのよく知ってる絵里ちゃんに、戻ってくれたこと・・・・・・」

凛「・・・・・・凛もやっぱり、こっちの絵里ちゃんの方が好きにゃー!」



にこ「全く・・・・・・一時はどうなることかと思ったわよ」

ふっ、と、にこがため息をつく。

にこ「もし絵里が、あの陰気なテンションのまんま戻らなかったら、たまったもんじゃないわ」

真姫「ふふっ・・・・・・海未に、感謝しなきゃね」

真姫が、思わず笑みをこぼす。

真姫(ありがとう、海未・・・・・・お疲れ様、エリー)
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253 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:38:17.28 ID:a/OqvDH4
穂乃果「」パチパチパチッ

穂乃果は――その場から立ち上がり。

希の肩を借りて退場する絵里、そして海未に向けて、拍手を送っていた。

これも――このトーナメントが始まって、仲間たちが傷つけ合うことに心を痛めていた穂乃果が――

初めて、送った拍手。

理事長「穂乃果ちゃんも・・・・・・何か、思うところがあったのかしら?」

穂乃果「まだ、よくわからないところもありますけど・・・・・・でもっ・・・・・・!」

穂乃果「海未ちゃんと絵里ちゃん、2人が一生懸命頑張ってたことは、わかります・・・・・・!」

穂乃果「なんだかちょっと、心が熱くなりました・・・・・・だから・・・・・・!」

理事長「穂乃果ちゃん・・・・・・」

穂乃果の様子に、ふっ、と微笑んだ理事長だったが――

ほどなく、真剣な面持ちに戻り――手元の、トーナメント表を見つめる。

理事長(そして・・・・・・いよいよ、次の試合は・・・・・・)
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254 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:40:24.74 ID:a/OqvDH4
ツバサ「――μ'sは、本当に私たちの予想を、次々に覆してくれるわね」

愉快そうに、口の端を上げるツバサ。

英玲奈「――言っただろう。園田海未――奴は強い、と」

英玲奈も、口元に静かな笑みを浮かべている。

あんじゅ「まさか、柔術――とはね。でも、あの人間離れした状態の絢瀬絵里に勝利するなんて――」

ツバサ(“怪物”ではなく、あくまで“人”として――)

ツバサ(“獣”と化した絢瀬絵里を、人に戻して、決着をつけた――という訳ね。園田海未――)

英玲奈「それより――ツバサ」

ツバサ「わかっているわ」

ふ――と、ツバサが笑みをこぼす。

ツバサ「次は――ある意味、このトーナメントに参加した人間の中で――最も、“異質な存在”」

ツバサ「最も弱く――しかし、もしかしたら、最も強いかもしれない存在」

ツバサ「それは――」



海未(――おや?)

闘技場内で、希に肩を借り、退場する絵里の姿を見つめながら――

ふと、海未は気づく。

先程まで、絵里側のコーナーにいたように思う――ことりの姿が、消えていることに。

海未(どこに行ったのですか――ことり)

奇妙な胸騒ぎを感じた、海未の表情に――僅かに、翳(かげ)がさす。

海未(貴方は――)
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255 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:41:00.25 ID:a/OqvDH4
ことり(海未ちゃん――おめでとう)

ことり(もう少しだけ――待っててね)

薄暗い、闘技場内の通路を――独り歩く、ことり。

ことり(あともう少しで――同じ場所に、立てる)

ことり(だから、次の試合――)

ぐ、と、握った拳に、力を込める。



ことり(どんな手を使ってでも――勝ってみせる)
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256 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/17(火) 01:41:46.68 ID:a/OqvDH4
続くッッ


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