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64 :@無断転載は禁止[]:2016/05/14(土) 00:48:07.76 ID:X6FYrJkY - 『2回戦、最終試合(ファイナル)ッッ!!』
オオオオッ にこ「――よしっ」パシッ 試合前の、控え室。 準備を整えたにこが、右手の拳を、左の掌に軽く当てる。 真姫「――いよいよね」 にこ「ええ。正念場ね」 真姫「にこちゃん――大丈夫なの?」 にこ「・・・・・・今のにこに出来る、やれるだけのことはやったわ」 普段のにこらしからぬ、真剣な面持ちで呟く。 にこ「1回戦が終わってからここまで、試合の合間を縫って――」 にこ「ここの施設内にあった道場で、ママからいくつか技を教えてもらった」 にこ「付け焼刃であることは否定しないけれど――」 にこ「ママの想いがこもった技だもの。なんとか喰らわせてやるわよ、綺羅ツバサに」 そう言って、落ち着いた笑みを浮かべるにこの表情に―― 真姫は、とくん、と鼓動が高鳴るのを感じた。
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65 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:49:35.74 ID:X6FYrJkY - 真姫(やっぱり――にこちゃん、変わった)
試合前の、にこの落ち着いた様子に、真姫は内心、少し驚く。 真姫(1回戦の前とは大違いだわ。スイッチは入ってるみたいね) 真姫(――“人格変換(キャラチェンジ)”) 真姫(にこちゃんの思い描く、“闘えるアイドル”に、すっかりなってるって訳か――) にこ「――なによ、ジロジロ見て。にこの顔に何かついてる?」 真姫「べ、別にジロジロなんて見てないわよ・・・・・・!」 にこ「まあいいわ。それよりあんたたち! セコンドは任せたわよ!」 にこが振り返る。そこに立っているのは―― 花陽「そ・・・・・・」 凛「それなんだけど・・・・・・」
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66 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:50:54.44 ID:X6FYrJkY - 花陽「真姫ちゃんはともかくとして・・・・・・」
凛「なんで、凛たちも?」 そこにいるのは、花陽と凛の2人。 凛「凛、試合終わったばっかりなのに・・・・・・」 花陽「セコンドなら、真姫ちゃんがいれば大丈夫な気が・・・・・・」 にこ「――そんなことないわ」 にこが――真姫と花陽と凛、1年生の3人に向き直る。 にこ「あんたたち、3人の力が必要なのよ」 にこの、真剣な口調と表情に――3人も、ただならぬものを感じ、耳を傾ける。 花陽「3人の――力?」 にこ「私だって馬鹿じゃないわ。十分、よくわかってる」 にこ「今の私じゃ――逆立ちしたって、綺羅ツバサには勝てないってことに」
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67 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:52:07.61 ID:X6FYrJkY - 花陽「え・・・・・・!」
真姫「ちょっと、にこちゃん! それは・・・・・・!」 にこ「あんたたちだって、わかってるはずよ。1回戦――あの、穂乃果のお父さんを一撃で倒した、綺羅ツバサの実力」 にこ「素人に毛が生えた程度の私が、まともに闘える相手じゃないって――」 にこの言葉に――3人は、言い返すことができず、視線をそらす。 にこ「でも――そんな私が、少しでもツバサに勝つ可能性を、高められるとしたら――」 と――にこが、3人の顔を、眺め渡す。 にこ「あんたたちの力が、必要なの」 凛「え――?」 花陽「私・・・・・・たちが・・・・・・?」
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68 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:54:00.14 ID:X6FYrJkY - にこ「まず、真姫ちゃん。あんたは希との試合で、変な技を使ったわよね」
真姫「え――“打震”のこと?」 にこ「花陽から聞いたわ。あの技は――ツバサの使う拳法の、“侵透勁”とかいうものに似てるって」 真姫「確かに、理論上はそうかもしれないけど――」 にこ「ツバサの技の秘密をよく知るという意味で、真姫ちゃんのアドバイスは不可欠なのよ」 真姫「・・・・・・・・・・・・」 にこ「次、花陽」 花陽「は、はい!?」 にこ「花陽は――言うまでもないわね。あんたの武道や格闘技の知識は、群を抜いてる」 花陽「え――」 にこ「私は、そっちの方面の知識はからっきしだから。あんたの、その知識が頼りなの」 花陽「にこちゃん・・・・・・」 にこ「最後に――凛」 凛「凛も!?」 にこ「あんたも、ツバサと同じ、中国拳法を使うわよね。確か――截拳道ってやつ」 凛「で、でも、凛の截拳道とツバサちゃんの八極拳は、全然違うし――」 にこ「――それでも! 私たちμ'sの中で、あんただけが拳法を使うことができる」 にこ「それなら、ツバサの技のことだって、あんたにしか気づかないことがきっとあるはず」 凛「凛が・・・・・・」
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69 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:55:37.03 ID:X6FYrJkY - にこは――もう一度、3人の顔を見渡す。
にこ「――勘違いしないで。さっき私は、ツバサには勝てないって言ったけど――闘う前から、諦めてる訳じゃない」 にこ「それは――“私ひとりだけだったら”勝てないって意味」 にこ「でも、貴方たち3人の力があれば――奇跡を、起こせるかもしれない」 花陽「に・・・・・・」 凛「にこちゃん・・・・・・」 にこ「1回戦と2回戦――μ'sのみんなは、必死で闘ってた。穂乃果のため――譲れない何かのために」 にこ「半端な覚悟で、この場所に立っちゃった私だけど――私だけが、頑張ったみんなの顔に、泥を塗る訳にはいかない」 にこ「最後に、私が――全力で闘わないと。全身全霊で闘ってたみんなの横には、立てないと思うの」 真姫「にこちゃん・・・・・・」 にこ「穂乃果のため、というのも勿論だけど。何より私は、乗り越えたいの」 にこ「今までの、私自身と――そして、私が憧れ続けた、相手を」 ぐ、と、にこが拳を握り締める。 にこ「相手は、私が憧れてた人だけれど――でも今は、勝ちたい。綺羅ツバサに――勝ちたい」 にこ「そのためには――貴方たちの力が、必要なの」 そして、にこは――3人に向けて。 深々と、頭を下げた。 にこ「お願い――力を貸して――!」
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70 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:57:18.80 ID:X6FYrJkY - にこの姿に――思わず3人は、目を見張った。
真姫(あの、にこちゃんが・・・・・・頭を、下げるなんて・・・・・・!) 真姫(本気――なのね。本気で――綺羅ツバサに勝ちたいって、そう思ってるのね――) そして――3人は、顔を見合わせて―― 真姫「頭を上げてよ、にこちゃん」 にこが、顔を上げると――3人の口元には、微笑。 花陽「うん・・・・・・ちょっとでも、にこちゃんの役に立てるなら。喜んで協力するよ」 凛「凛も、役に立てるかわかんないけど、頑張って応援するにゃー!」 真姫「まったく・・・・・・いつもの、にこちゃんらしくないわよ」 真姫「にこちゃんは、部長らしく。一言、こう言えばいいのよ」 真姫「『打倒A-RISEのために、3人の力を貸しなさい!』・・・・・・ってね」 にこ「・・・・・・みんな・・・・・・」 にこは――ふふ、と、少し笑って―― にこ「ありがと、みんな」 右手を差し出す。真姫と花陽と凛が、にこの右手の上に、自分の手を重ねる―― にこ「それじゃ、私たち4人の力で! A-RISEから、勝利をもぎ取ってやるわよ!!」 3人「「「おー!!!」」」
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71 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 00:59:33.87 ID:X6FYrJkY - と――その時。
にこママ「よく言ったわね――にこ」 にこ「――ママ!」 現れたのは、にこママの姿。既にマスクは外し、服も黒いスーツに着替えている。 にこママ「貴方は、ひとりで闘ってる訳じゃない」 にこママ「ファンと――そして、仲間と一緒に闘ってるってことだけは、忘れないで頂戴」 にこ「ファンと――仲間」 ぐ――と、にこは拳を握り締める。 にこ「わかったわ――ママ」 にこママ「私も、レスラーだった頃はたくさん経験したわ。こちらに不利なマッチメイク、相手が圧倒的有利な試合――」 にこママ「でも、そんな絶体絶命の状況から、諦めずに逆転する姿に――ファンは、熱狂するのよ」 にこママ「そして、真のプロレスラー、真のアイドルというものは――そんな逆境にこそ、強い」 にこ「ママ――」 にこママ「大丈夫。今の貴方には、こんなに優秀なチームメイト兼ファンがついてくれている」 そう言って、1年生3人の顔を見渡し――3人は少し照れて、顔を赤らめる。 にこママ「会場の中のお客さん――全員、貴方のファンにしてやりなさい」 その、にこママの言葉に――口元に微笑を浮かべたにこが、力強く頷く。
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72 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:00:40.47 ID:X6FYrJkY - にこ「それじゃ――行ってくるね、ママ」
にこママ「待って。にこ」 控え室を出ようとするにこを、にこママが呼び止める。 にこママ「貴方に――これを譲るわ」 そう言って、にこママが差し出したものを見て――にこが、目を見開く。 にこ「ママ・・・・・・これって・・・・・・!」 にこママ「貴方に――着て欲しいの。私の分まで、闘ってほしい」 にこ「ママ・・・・・・」 にこは、差し出された“それ”を――厳粛に、両手で受け取る。 にこ「ありがとう――ママ――」 そして――にこは、きびすを返す。 にこ「さあ――行くわよ、あんたたち」 にこ「相手は――A-RISE。相手は――」
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74 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:02:51.34 ID:X6FYrJkY - 『激闘に次ぐ激闘の2回戦もいよいよ最終試合(ファイナル)!! トリを務めますは・・・・・・ッッ』
『青竜の方角!! ナンバーワンスクールアイドルッッ 綺羅ツバサ!!!』 ワッ 闘技場に立つ、凛としたその少女の姿に、会場から大きな歓声が沸く。 右手を軽く腰に当て――口元には、微笑。 その余裕のたたずまいからは、ある種の優雅ささえ感じられる。 『1回戦では、強敵・高坂父を一撃のもとに粉砕ッッ その恐るべき実力を、白日のもとに晒してみせたのですッッ』 『一撃必殺の誉れ高い八極拳使い!! その実力は未だ底が知れませんッッ』 オオオオッ 『対するはッッ 白虎の方角!!』 『矢澤にこ選手の入場ですッッ!!』 アナウンスと同時に――“白虎”と書かれた入口から、真姫、花陽、凛の3人を従えて、にこが姿を現す。 その姿は―― 『こッ・・・・・・これはッッ!!』 腕組みをして――堂々とした態度で入場するにこは、厚手の黒いガウンを羽織っている。 その背中には、躍動する金の豹の刺繍―― 『なッ・・・・・・なんと矢澤にこ、“キューティーパンサー”のガウンを羽織っての登場だァッッ!!』 ウオオオッ ツバサ「――あら」クスッ
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75 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:04:11.61 ID:X6FYrJkY - 腕組みをしたまま――にこはツバサの眼前まで歩み寄り、立ちはだかる。
ツバサを見つめる瞳には――臆するものは、何もない。 『矢澤にこが1回戦で激闘を繰り広げた母、キューティーパンサー!!』 『その偉大な母の意志を受け継いだ矢澤にこが今、綺羅ツバサの前に立ちますッ!!』 ワアアアッ ツバサ「――変わったわね、矢澤にこさん」 対峙するにこに、ツバサが言葉をかける。 ツバサ「以前、UTXで会った時とは大違い」 ツバサ「――アイドルの顔になったわね」 にこは――ツバサの目を、真っ直ぐに見つめ返す。 にこ「――ツバサさん。貴方は、私の憧れだった」 ツバサ「過去形、ね」 にこ「ただの憧れだけじゃ、終わらせない」 にこ「ツバサさん――いや、綺羅ツバサ」 にこ「私は、この試合で――貴方を、超えるッ!」 そう言い放ち――にこはきびすを返すと、自らのコーナーへと戻っていく。 背中の、金色の豹が揺れる。 ツバサは――口元に、満足そうな笑みを浮かべる。
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76 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:06:08.15 ID:X6FYrJkY - 自らのコーナーに戻ったツバサを、あんじゅ、英玲奈の2人が出迎える。
ツバサ「英玲奈、怪我は大丈夫なの?」 英玲奈「いつまでも寝込んでいるような、やわな体じゃない」 英玲奈「もっとも――喉は、しばらく酷使できそうにないがな」 あんじゅ「ツバサ――」 あんじゅが、険しい表情を浮かべる。 あんじゅ「私と英玲奈は、μ'sに敗れた――悔しいけれど、それは事実」 あんじゅ「最早、貴方しか生き残っていない現実が歯痒いけれど――頼んだわよ」 ふ――と、ツバサが口元に笑みをこぼす。 ツバサ「――当然ね」 そして、2人に背を向け――向こう側の、にこのコーナーに視線を向ける。 英玲奈「――何を心配することがある」 英玲奈が、傍らのあんじゅに、ぽつりと語りかける。 英玲奈「この世に、“最強”と呼べる存在があるとすれば――」 英玲奈「それは、綺羅ツバサに他ならない」 あんじゅ「――――」 英玲奈「もし、ツバサが敗れるようなことがあれば――」 英玲奈「それは、A-RISEの――否、UTXの敗北」 英玲奈「綺羅ツバサが、綺羅ツバサである以上――そんなことは、ありえない」
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77 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:08:43.95 ID:X6FYrJkY - 真姫「にこちゃん・・・・・・」
コーナーに戻ったにこを、心配そうな面持ちで出迎える、真姫、花陽、凛の3人。 にこ「なんて顔してるのよ、あんたたち」 しょうがないわね、と言いたげに、にこがふっと笑う。 にこ「わかってるわ。相手は、綺羅ツバサ――最強のアイドル」 にこ「でも――だからって、怯えてるだけじゃ終われない」 マントのように、背中に羽織ったガウンに――にこが、手をかける。 にこ「私は、部長。いってみれば――あんたたちの、代表」 そして、手をかけたガウンを―― バサァ 翻すように、外す。 にこ「あんたたちの代表として――超えてみせる。最強のアイドルを」 花陽「に・・・・・・」 凛「にこちゃん・・・・・・」 脱いだガウンを、真姫に手渡し―― 3人に背を向け、向こう側のコーナーの、ツバサに視線を向ける。 にこ「負けちゃった、あんたたちの意思――」 にこ「私が、預かるわ」
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78 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:10:29.97 ID:X6FYrJkY - そう言い放った、にこの背中は――
3人には、なぜかいつもより、ずっと大きく見えた。 凛「に――にこちゃんッッ」 花陽「頑張って!!」 真姫「にこちゃん――」 大きく見える背中を、真姫は見つめながら―― 真姫「――預けたわよ。私たちの、想い――」 にこは、振り返らずに―― 右腕を真横に、真っ直ぐ伸ばし、親指を立てた。 『名実ともに日本の頂点に君臨する最強のアイドルかッ 自らの信じる“アイドル道”を探求する若き新星かッ』 『ベスト4最後の椅子を賭けッッ 最強のアイドル対決が始まろうとしていますッッ』 ワアアアッ
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79 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:12:12.89 ID:X6FYrJkY - 穂乃果「にこちゃん・・・・・・」
闘技場内に立つ、にことツバサの姿を見つめる穂乃果。 穂乃果「大丈夫なの・・・・・・!? だって、ツバサさんはッ・・・・・・あの、お父さんを一撃で倒した人・・・・・・ッ」 穂乃果「お願い・・・・・・どうか、無事でッ・・・・・・!」 そう呟き――両手を、顔の前で組む。 理事長(単純な実力で言えば、明らかに綺羅ツバサの方が圧倒的に上回るわね) 理事長(でも――プロレスの強さと底力には、時に常識を打ち破る、説明し難い力がある) 理事長(その、プロレスの遺伝子を受け継いだ、矢澤にこの“アイドル道”――) 理事長(どこまで綺羅ツバサに、通用するかしら) フミコ「開始(はじ)めいッ!!」ドンッ
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80 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:15:42.69 ID:X6FYrJkY - 開始の合図と同時に、ゆっくりと歩を進める2人。
間合いに入る寸前で――す、と、ツバサが構えを見せる。 腰を落とし――左足を前に出した、半身の構え。 『出ましたッ 1回戦、高坂父を一撃で屠り去った八極拳の構え!!』 『迎撃の準備は万全ッ 矢澤にこ、ここからどう攻めるのかッッ』 オオオオッ 絵里(八極拳――数ある中国拳法の中でも、屈指の破壊力を持つとされる拳法) 闘技場の、“朱雀”と書かれた出口の下の通路の壁に寄りかかり、闘技場の様子を見守る絵里。 絵里(1回戦の試合を見る限りでも、綺羅ツバサの実力は頭ひとつ抜けているように感じるけれど――果たして) と――その時、 希「――エリチ」 絵里の背後から現れたのは――希。 絵里「希――もう動いて大丈夫なの?」 希「なんとかね。もっとも、首は安静にしないといけないし、腕は全治1ヵ月やって」 そう言って、三角巾で吊った右腕を持ち上げる。 希「後悔はしてへんよ。本気のエリチと闘えただけで、ウチは満足や」 絵里「――――」 希「それに――」 希は、闘技場内に目を向ける。
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81 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:17:39.47 ID:X6FYrJkY - 希「ベッドで寝てるよりも――この試合は、しっかり自分の目で見たかったんよ」
希「にこっちと――おそらく、A-RISEの中で最強の実力者であろう、綺羅ツバサの試合」 絵里「希。貴方は――どう見る?」 希「ま、単純なスペックだけで言ったら、綺羅ツバサやね。でも――」 希「にこっちなら――何かをしてくれる。そんな気がするんよ」 絵里「・・・・・・・・・・・・」 希「1回戦――格闘技の素人だったはずのにこっちが、眠っていた力に目覚めて――」 希「伝説のプロレスラーである、にこっちのお母さんを破ったように」 控え室で――モニターを見つめる、海未。 海未(とはいえ――綺羅ツバサの、格闘技者としての技量は本物。ハッタリの通用する相手ではありません) 海未(この強敵に――にこ、貴方はどう挑むのですか?)
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82 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:22:45.87 ID:X6FYrJkY - にこ(構えた――八極拳の構えってやつね)
にこ(うかつに、間合には入れない――そうだったわね、花陽) にこは、試合前の、3人との会話を思い出す―― 真姫「いい、にこちゃん。絶対に――綺羅ツバサの攻撃を喰らっちゃ駄目」 にこ「絶対に、って―― 一発も?」 真姫「一発でも、よ。喰らった瞬間――おそらく、勝負は決まってしまう」 真姫「それほど、綺羅ツバサの拳法は恐ろしいものなのよ」 凛「凛も――だんだん、思い出してきた。昔、先生に聞いたことある――八極拳のこと」 凛が、真姫の言葉を継ぐ。 凛「無駄を一切排し、純粋な破壊力のみに特化させ、磨き上げた、恐ろしい拳法――だったっけ」 花陽「そう、八極拳の技だけでも十分な脅威なのに――」 花陽「それに加えて、ツバサさんは“発勁”の中の“侵透勁”まで使いこなす」 にこ「なんなの? その、“発勁”と“侵透勁”っていうのは」
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83 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:29:06.99 ID:X6FYrJkY - 花陽「“発勁”は、全身の力と体重を一点に集中して発する、中国拳法特有の技術」
花陽「ただでさえ威力の高い八極拳の技に、ツバサさんは全体重を乗せて発することができると思えばいいです」 花陽「そして、“発勁”はその使い方によって様々な種類があり、中でも最も恐ろしい技術が――“侵透勁”」 にこ「“侵透勁”――」 真姫「人間の体の、およそ60%は水分で構成されているわ」 真姫「“侵透勁”とは、簡単に言えば、体内の水に波紋を起こし、内部からダメージを与える技よ」 にこ「真姫ちゃんが、希との試合で使った技ね」 真姫「そう。私の“打震”も、理論的には同じ」 真姫「でも私の場合は、相手の体に手を当て、その上からもう一方の手で叩く――というやり方でないと使えない」 真姫「だけど、綺羅ツバサは――それを、背中の体当たりで、かつ私とは比べ物にならない威力で使った」 真姫「おそらく、突き、肘、体当たり、あらゆる打撃で“侵透勁”が使えるとみていいわ」 にこ「・・・・・・・・・・・・」 真姫「つまり――綺羅ツバサは、自らの打撃に全体重を乗せ――」 真姫「かつその衝撃を、相手の体の隅々まで浸透させることができる――ということよ」 真姫「こんなものを一発でも受けたら、どんな人間でも耐えられるはずがないわ」
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84 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:30:53.46 ID:X6FYrJkY - 真姫「・・・・・・わかったでしょ? 絶対に攻撃を受けちゃいけないって、言った意味」
にこ「なるほど・・・・・・流石に、一筋縄じゃいかないわね」 花陽「うかつにツバサさんの間合に入れば、たちどころに打撃を入れられて負けちゃいます」 花陽「そうなると、考えられる有効な作戦はひとつ――!」 にこ(そう。間合に入れないなら――!) にこ「・・・・・・ね、ツバサさん」 ツバサ「――?」 にこが、何気ない調子で、構えるツバサに話しかけた―― 次の瞬間、 バッ にこが、足元の砂を蹴る。 ツバサ「ッ!?」 ツバサが一瞬、目を閉じた隙を逃さず。 ダッ 勢いをつけ、両足で地面から跳び―― 『ドロップキック〜〜〜〜ッッ!!』 ドカッ にこの両足が、ツバサの肩に直撃し――ツバサの体が、飛ぶ。 ザッ 咄嗟に、空中で体を回転させたツバサが、膝をつきながらもなんとか着地する。
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85 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:33:22.97 ID:X6FYrJkY - にこ(よしッ ママ直伝の、ドロップキック――上手く決まったッ)
『不意打ちで砂を浴びせてからのドロップキックッッ』 『姑息ではありますがこれぞ喧嘩ッ これぞ地下闘技場究極ルールッッ』 ワアアッ ――再び、試合前の会話。 花陽「考えられる有効な作戦はひとつ――!」 花陽「それは、ツバサさんの攻撃の間合に入らないように闘うこと!」 にこ「間合に入らないように・・・・・・?」 凛「そっか! 凛が、ことりちゃんと闘った時と同じ!」 凛「相手に密着しないように、距離をとって闘えばいいんだ!」 花陽「そう! 八極拳は、威力の高い肘撃や背撃に特化している分、他の中国拳法に比べて、リーチが短い」 花陽「だから、その八極拳のリーチ外から攻撃を仕掛ければいいの!」 にこ「相手の攻撃が届かない所から攻撃する――単純だけど、合理的な作戦ね」 花陽「凛ちゃんの時と同じ――キックを中心とした攻撃」 花陽「活路があるとしたら、それしかないと思います」
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86 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:34:16.93 ID:X6FYrJkY - にこ(花陽。あんたが立てた作戦――まず出だしは成功ッ!)
膝をついたツバサが、再び構えようとする――が、砂が目に入り、それを拭おうと、手を目にやる。 にこ(――まだッ!) ダッ ツバサに向けてダッシュし、 にこ「ッらあッッ!!」 ガッ 腰を低く沈め――ツバサの足めがけ、ローキック。 ツバサ「ッ!!」 ツバサが、顔を歪める。 海未(凛が、ことりと闘った時と同じ作戦――ですね。確かに、それしかないでしょう) 海未(ですが、綺羅ツバサが、それだけで攻略できる相手でしょうか・・・・・・?) と――その時。 す――と現れ、モニターを見る海未の隣に立った少女。 それは―― 海未「――ことり」
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87 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:36:12.34 ID:X6FYrJkY - ことり「海未ちゃん―― 一緒に見ても、いいかな」
海未「それは勿論、構いませんが――」 海未は、思わずことりの顔、体を見つめる。 前の試合、何度も凛から攻撃を受け、さらには自らの限界を超えた力を引き出し―― その体には、かなりのダメージが残っているはずだった。 しかし、目の前のことりは、そんな様子などおくびにも出さず、静かに微笑んでいる―― 海未(強く――なったんですね。ことり――) ことり「・・・・・・海未ちゃん? ことりの顔に、何かついてる?」ニコッ 海未「あ・・・・・・いえ! そ、それより・・・・・・」 慌てて、視線をモニターに戻す。 海未「この試合の勝者が――次の、貴方の相手ですね」 ことり「うん――」 ことりも、モニターに視線を向けたまま、静かに答える。 ことり「にこちゃんも、ツバサさんも、すごく強い人だから――大変そうだなあ」 海未(なぜ、そんな他人事のように、落ち着いているのですか――ことり――)
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88 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:37:10.70 ID:X6FYrJkY - 『間髪いれず、矢澤にこのローキックが炸裂ッッ』
ワアアッ にこ(まだよ! ここで決めないとッ・・・・・・!) ガッガッ 立て続けに、にこはツバサに低い位置からのローキックを加え続ける。 花陽「いいよ、その調子!」 真姫「にこちゃん!」 凛「そのまま押し切るにゃー!」 希「相手との間合に気をつけつつ、距離をとって、リーチの長いキックを中心に闘う――」 希「確かに、今のにこっちが出来る中では、最も合理的な作戦や」 絵里「しかし――」 絵里「あのA-RISEの綺羅ツバサが、それだけで押し切れるのか――」
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89 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:38:38.00 ID:X6FYrJkY - 『なッ なんと、矢澤にこが綺羅ツバサを押していますッッ』
『反撃できない綺羅ツバサッッ まさかの矢澤にこが勝利目前だァッ!!』 ワアアアッ にこ(これでッ・・・・・・!!) そして、再びにこが両足で地面を蹴り、ツバサに向けドロップキックを繰り出した―― 次の瞬間。 ドンッ 両腕を下に向け、盾のように、まっすぐ伸ばした構えの綺羅ツバサ―― そこに、ドロップキックを喰らわせたにこが――逆に、弾き飛ばされた。 にこ「・・・・・・ッッ!?」 ツバサ「全く――」 ツバサの、口元には―― 余裕の、笑み。 ツバサ「騒がしいことね」 花陽「・・・・・・“発勁”!!」 凛「かよちん!?」 花陽「発勁で弾いたんだ・・・・・・防御面でも、発勁を使いこなしてる!!」
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90 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 01:39:36.75 ID:X6FYrJkY - 『なッ 何が起こったッ!?』
『ドロップキックを繰り出した矢澤にこが、逆に弾き飛ばされましたッッ』 オオオオッ あんじゅ「――当然ね」 英玲奈「あれくらいでやられる程度なら――A-RISEのセンターは、務まらない」 ツバサ「――残念ね、矢澤にこさん」 先程までの、にこの攻撃など意に介した様子もなく――ツバサが言う。 にこは、すぐさま身を起こす。 ツバサ「一体、どう挑んでくるのかと思ったら――全く、想定通り」 ツバサ「私の間合に入れば、勝ち目がないとみての、遠間からの蹴りを中心とした攻撃――」 ツバサ「正直、拍子抜けね」 にこ「なッ・・・・・・!」 思わず、にこが言葉を詰まらせる。 ツバサ「――勉強させてあげるわ」 す――と、ツバサの眼が、鋭さを増す。
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91 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:44:41.38 ID:X6FYrJkY - ツバサ「アイドルに――小細工はいらない」
ツバサ「究極的には――たったひとつの動作。その、立ち居振る舞い――」 ツバサ「それだけで、大勢を魅了することが出来る――それこそが、真のアイドル」 にこ「・・・・・・・・・・・・ッ!」 ツバサ「そしてそれは――八極拳も同様」 再び――ツバサが、八極拳の構えを見せる。 ツバサ「八極拳士は、“一撃”で相手を倒す」 ツバサ「“八極”とは、四方八方の極遠に広がるという意――つまり、“大爆発”を意味する」 ツバサ「牽制なんか、必要ない。目指すは、常に――」 と―― ツバサが、一瞬で、にことの距離を詰める。 慌てたにこの、防御が遅れる―― ツバサ「相手の正面――中心!」 次の瞬間。
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92 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:45:35.29 ID:X6FYrJkY - ドンッ
ツバサが、左足を強く踏み込む。 それと同時に――ツバサの左肘が、にこのボディに炸裂する。 衝撃に、白目を向いたにこが―― その場に、うつ伏せに倒れ込んだ。 一瞬、会場が静まったのち。 ワアッ 大きな歓声が、会場に響き渡る。 『いッ・・・・・・一撃!! 一撃で、形勢を逆転させました綺羅ツバサ!!』 『恐るべし八極拳!! 矢澤にこ、ぴくりとも動かないッッ!!』 凛「にッ・・・・・・」 花陽「にこちゃん・・・・・・」 真姫「にこちゃああああん!!」
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93 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:46:29.02 ID:X6FYrJkY - 希「にこっち・・・・・・」
希が、唇を噛む。 絵里「正に文字通り、“一撃”――」 希「ほんまに、恐ろしい威力や・・・・・・八極拳」 希「そして――今の一撃で、今までにこっちに傾いていた会場の熱気を――完全に、自分に向けさせた」 希「これが、最強のアイドル――綺羅ツバサ」 絵里(それにしても――さも当然のように扱われているけれど) 絵里(彼女の、あの技術、技量――どう考えても、達人レベル。並大抵の鍛錬で、あそこまでの実力がつくはずがない) 絵里(綺羅ツバサ――彼女は、一体、今まで――どんな人生を歩んできたというの――?)
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94 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:48:57.79 ID:X6FYrJkY - 花陽「に・・・・・・にこちゃん・・・・・・ッ」
地面に倒れ、動かないにこを見つめながら――花陽が、呟く。 凛「う・・・・・・嘘にゃー・・・・・・」 真姫「これで終わりだっていうの・・・・・・? にこちゃんッ・・・・・・!」 凛と真姫の目には――涙が、浮かんでいる。 その時――花陽の脳裏に、よぎる。 試合前――にこと、交わした会話―― にこ「・・・・・・わかった。花陽の作戦通りにやるわ」 花陽「き、きっとにこちゃんなら大丈夫です!」 凛「そうだよ! ツバサちゃんにだって勝てるはずにゃ!」 にこ「・・・・・・ありがと、あんたたち」 ふっ、と、にこが笑う。 にこ「でも――それでも。きっと、危なくなる時があると思う」 にこ「その時は――」 真姫「・・・・・・その時は?」 にこ「――にっこにっこにー!」 突然の、いつもの決めポーズに―― 一瞬、3人が呆気にとられる。 にこ「・・・・・・ちょっと、なに驚いてるのよ! 応援よ、応援!」 凛「応援?」 にこ「ママとの試合の時も――心が折れそうになった」 にこ「でも、あんた達の声が聞こえたから――立ち直れたのよ」 花陽「に・・・・・・」 真姫「にこちゃん・・・・・・」 にこ「なーんて、恥ずかしい話しちゃったけど!」 にこ「とにかく! ピンチの時こそ、にこにーコール! 頼んだわよ!」
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95 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:51:55.37 ID:X6FYrJkY - 花陽「に・・・・・・にこちゃん・・・・・・」
花陽は――ぐい、と涙をぬぐうと。 花陽「・・・・・・に・こ・にー!! に・こ・にー!!」 闘技場内に、倒れるにこに向かって――必死で、声を上げる。 凛・真姫「「・・・・・・に・こ・にー!! に・こ・にー!!」」 花陽の様子に、凛と真姫も、涙をぬぐい――声を張り上げる。 『これはッ・・・・・・!? にこ側のコーナーから、にこにーコールがッ・・・・・・!?』 ザワザワ 観客「・・・・・・にこちゃーん、頑張れー」 観客「・・・・・・にこちゃーん!」 観客「に・こ・にー、に・こ・にー」 観客「に・こ・にー! に・こ・にー!」 花陽、凛、真姫の声につられるように――段々と、コールが大きくなっていき。 フミコ「しょ、勝負あ・・・・・・!」 ――“勝負あり”の声を、かき消す。 観客「に・こ・にー!! に・こ・にー!!」 観客「に・こ・にー!! に・こ・にー!!」 立ち去りかけたツバサが――思わず、立ち止まる。 自分に集中したファンの歓声が、再び相手に傾く―― そんなことは、初めての経験だった。 ――その時。
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96 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:53:25.95 ID:X6FYrJkY - ガッ
先程まで、微動だにしていなかったにこが―― 右の、拳を――地面に突き立てた。 ツバサ「――ッ!?」 その気配に、思わず、ツバサが振り返る。 目に入ったのは――体を、震わせながら――ゆっくりと身を起こす、にこの姿。 凛「に、にこちゃん・・・・・・」 真姫「にこちゃん・・・・・・!」 花陽「・・・・・・にこちゃんッ!!」
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98 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:55:37.84 ID:X6FYrJkY - 希「にこっちが――動いた――!」
希「八極拳の打撃を、まともに喰らってッ・・・・・・!?」 絵里「にこ・・・・・・!」 海未「あれを喰らって、まだ動けるとはッ・・・・・・!」 海未(しかし、それでも――綺羅ツバサに勝つことは――) と―― ことり「・・・・・・海未ちゃん」 ことりが、モニターを見つめたまま、傍らの海未に語りかける。 ことり「どっちが勝つか――賭けようか」 そう言って――口元に、微笑を浮かべる。 海未は、一瞬、面食らったのち―― 海未「――まさか」 再び視線を、モニターに戻した。 にこ側の、“白虎”と書かれた入口から、姿を現したのは―― ――にこママ。 にこママ「そう。追い詰められれば、追い詰められるほど――」 にこママ「真のプロレスラーは――真のアイドルは、強い」
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99 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:56:45.76 ID:X6FYrJkY - 『なんとッ 会場を包むにこにーコールに後押しされてッッ』
『矢澤にこが復活ッッ 試合続行ですッ!!』 ワアアアッ 会場を包む歓声―― 繰り返される、にこにーコール。 にこ「げッ・・・・・・がはッ・・・・・・!!」 吐瀉物を、口からこぼしながら―― それでも、にこの眼には――闘志が、宿っている。 にこ(そうよッ・・・・・・まだ、私はッ・・・・・・倒れられないッ・・・・・・!) にこ(この歓声がッ・・・・・・私を、何度でもッ・・・・・・蘇らせるッ・・・・・・!) そして、にこは――立ち上がった。 ツバサ「――わかったわ。矢澤にこ――」 ツバサが、再び――構える。 ツバサ「あと何発、耐えられるかしら」 ツバサ「私の打を――実際、三度以上、受けきった人間は――」 ツバサ「――いないわ」
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100 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 02:57:33.67 ID:X6FYrJkY - 続くッッ
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113 :@無断転載は禁止[]:2016/05/14(土) 23:39:08.30 ID:X6FYrJkY - にっこにっこにー!
――それは、魔法の言葉。 みんなが楽しくなれる、にっこりの魔法、笑顔のまほう。 宇宙ナンバーワンアイドル、ニコニーの口ぐせ。 でもね、これはほんとは、ニコニーじゃなくて―― まだ、にこがうーんとちっちゃかったころ、パパが作ってくれた歌なの。 矢澤にこ。 それは、いつもにこにこ、笑顔でいられますように、って―― パパとママがつけてくれた、にこの大切な名前。 そんな名前を呼ぶたびに、パパはいつの間にか、にっこにっこにー、って言うようになってた。 まだ小さかったにこを、大きな肩に乗っけてくれて、両手を握って肩車。 オレンジ色の夕陽の中、保育園を出た坂道を下りながら―― ふたりとも、とびっきりの笑顔になって、歌うの。 にこにーにこにーにっこにっこにー! 明るい笑顔のにっこにっこにー♪ おひさま笑顔のにっこにっこにー!
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115 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:41:12.96 ID:X6FYrJkY - 今思うと、パパは、いつもにこが笑顔でいられるように、あんな歌を考えついたのかな?
そんな心配、無用だったのに。 だって―― パパが、にこの前からいなくなっちゃってからも。 今でもにこは、パパの願い通り。 いつも笑顔の、にこでいるよ。 にこは絶対、パパからもらったこの笑顔で―― 世界中に、この笑顔を振りまいて。 絶対に絶対に、世界で一番幸せなアイドルになるって、そう決めたの。 だからにこは、今日も言うの。 魔法の言葉。にっこりの魔法。笑顔のまほう。 みんなをしあわせに。なみだに、さよならして。 にっこにっこにー! って――
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118 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:44:21.36 ID:X6FYrJkY - …………
…… 『立った!! 立ち上がりましたッ 矢澤にこ!!』 『まだ試合は終わりません!! 意地とプライドで最強のアイドルに挑みますッッ!!』 ウオオオオッ にこ「げふッ、がはッ!! ・・・・・・ぜひゅー、ひゅー・・・・・・」 必死に、肺に空気を吸い込む。 目線は――まっすぐ、綺羅ツバサに。闘志の消えない眼差しで。 凛「に――」 花陽「にこちゃん・・・・・・」 真姫「にこちゃんッ!!」 1年生の3人は、ひたすら、にこの名前を呼ぶ。 と―― ふっ、と、にこの口元に、笑みが浮かぶ。 ツバサ「――!」 ツバサ(成程。まだ、心は折れていない――という訳ね) にこ(そうよッ・・・・・・痛くってもッ・・・・・・苦しくってもッ・・・・・・) にこ(にこはッ・・・・・・アイドルは、笑顔でいるのッ・・・・・・!) にこ(見てて、ママ・・・・・・パパ!)
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119 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:45:46.28 ID:X6FYrJkY - 希「しかし――なんとか、立ち上がったとはいえ――」
希と絵里は、闘技場の中の様子を見つめている。 ふらふらになりながら、かろうじて立っているにこ。 既に構えを見せ、臨戦態勢のツバサ。 希「依然として、にこっちが絶体絶命な状況であることに変わりはあらへん」 絵里「さっきまでの、一時しのぎの戦法がいつまでも通じる相手じゃない」 絵里「なんとかして、綺羅ツバサの八極拳を封じなければ――」 真姫「にこちゃんッ・・・・・・ねえ、凛! 八極拳に、何か弱点は無いの!?」 凛「うーん、うーん・・・・・・今、必死で思い出そうとしてるんだけど・・・・・・確か昔、先生が言ってたような・・・・・・」 花陽「お願い、凛ちゃん・・・・・・ッ」 花陽「凛ちゃんの先生から、直接中国拳法の手ほどきを受けてる、凛ちゃんが頼りなのッ!」 凛は必死に、記憶の糸を辿ろうと、頭を抱えてうなる。
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120 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:46:56.31 ID:X6FYrJkY - 真姫「凛だって、ことりとの試合の時、糸で捕らえられた後に一度は逆転したじゃない! その時みたいにッ・・・・・・!」
凛(糸で――捕らえられた時?) 凛は、思い出す。 ことりとの試合。 あの時は――どうやって、脱出した? 闘技場内を見る。 ツバサが――攻撃を加えようと、ゆらり、と動く。 前に出した、左足を上げて―― その瞬間。 閃光のように――凛は、ひらめく。 凛「――にこちゃん!!」 凛「“左足”にゃ!!」 短い言葉だったが―― 一瞬で、にこは、凛の意図を汲む。 ツバサが、上げた左足を、踏み込もうとする―― それよりも、一瞬速く。 ガッ 踏み込もうとした、ツバサの左足に。 にこの右足の蹴りがめり込み―― ツバサの、踏み込みを止めた。
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121 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:48:44.92 ID:X6FYrJkY - ことり「とッ・・・・・・!」
海未「止めた!!」 モニターを見つめる2人も、思わず声を上げる。 凛(そうッ・・・・・・“震脚”!!) 凛(“震脚”を止めることが出来ればッ・・・・・・八極拳の威力は、半減する!!) ことりとの試合――糸から脱する時に使ったのも、“震脚”。 凛の脳裏に――かつて、“先生”と交わした会話が蘇る―― 凛「――“震脚”?」 先生「そう。中国武術の基本とも言える技術で――足で地面を強く踏みつける動作のことだ」 先生「“震脚”を行うことで、重心を前方に移動させ、技に体重を乗せて、“発勁”へとつなげる――というのが、理想の型だな」 凛「うーん、凛には難しい話はわかんないにゃー」 先生「ははは。まずは、体重を乗せて強く地面を踏みしめるイメージで練習をすればいい」 先生「これが、八極拳や少林拳の達人ともなれば、“震脚”で岩張りの床やコンクリにヒビを入れ、足型を残すことさえできるのだからな」 凛「えー、ほんとに!? すごいにゃー!」 先生「特に、八極拳はこの“震脚”を重視している。一撃の重さ、破壊力を旨とする拳法なのだから、当然だな」 先生「逆に言えば、相手の“震脚”の動作さえ封じてしまえば、技の威力は大きく下がってしまう訳だが――」
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122 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:50:41.97 ID:X6FYrJkY - そして、今――
凛の決死の助言の通り、にこがツバサの震脚を止めている!! 『とッ 止めッッ』 オオオッ ツバサの動きが、一瞬止まった隙を見逃さず。 タンッ にこはそのまま、ダンスを踊るように、ターンし―― 回転の勢いをつけ――体重を乗せた肘のエルボーを――ツバサの喉目掛け、叩き込む!! ドキュッ ツバサ「ッッ!!?」 喉に肘の直撃を受けたツバサの表情が――苦痛に歪む。 にこが、素早くツバサのバックに回り込み―― 両腕でツバサの胴を抱え、クラッチする。 そのまま、全身に渾身の力を込め―― グワッ ツバサの体が、浮き上がる。 にこが、勢いをつけて後方に反り返る。 その勢いのまま――ツバサの視界が、180度回転し―― ドキャッ 後頭部が――地面に、叩きつけられた。
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123 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:51:54.43 ID:X6FYrJkY - ツバサの体を後方に反り投げ、ブリッジの体勢のまま、数秒、静止する。
一瞬、場内が静まったのち―― ワアアアッ 一際大きな歓声が、闘技場を包む。 『ジャッ・・・・・・ジャーマン・スープレックス!!』 『なんと矢澤にこッッ 綺羅ツバサに対し、まさかの大技を決めましたッッ!!』 にこが、技を解いて立ち上がり――ツバサの体が、地面に転がる。 ツバサ「がッ・・・・・・はッ!!」 喉と、そして後頭部へ渾身の一撃を喰らったツバサの口から、血が吐き出される。 『先程とは違うッッ ダメージの深さが全然違いますッッ!!』 『最強のアイドル綺羅ツバサがッ 地に倒れているッッ!!』 ワアアアッ 凛「やったにゃー!!」 花陽「す・・・・・・すごい・・・・・・!!」 真姫「にこちゃあああん!!」 英玲奈「馬鹿なッ・・・・・・!!」 あんじゅ「ツバサ!!」 絵里「なんてこと・・・・・・!」 希「真正面から、プロレス技で真っ向勝負・・・・・・! あの、綺羅ツバサを相手にして・・・・・・!」 希が――思わず、口元に微笑を浮かべる。 希「すごいよ――にこっち」
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124 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:54:58.66 ID:X6FYrJkY - 強烈なエルボーとスープレックスをまともに喰らい――
地面に仰向けに倒れたツバサは、まだ動けない。 にこの方も、ダメージは残っている。 それでも、立っているにこが――横たわる、ツバサを見下ろす。 にこ(やっぱり、貴方は――最高のアイドル。アイドルとしての姿勢、矜持は――勉強になった) にこ(それでも――) と――にこが、そばにある柵の上に登る。 にこ「勝つのは、私――!」 そして、そこから跳び―― 鍵型に曲げた肘を構え、横たわるツバサ目がけて落ちる――! 『エルボー・ドロップゥ―――ッッ!!』 ワアアッ にこの肘が、ツバサの喉に直撃しようとした―― その瞬間。
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125 :名無しで叶える物語(やわらか銀行)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/14(土) 23:58:25.63 ID:X6FYrJkY - カッ
ツバサが、眼を大きく見開く。 一瞬の内に、体を回転させ、その場から退く。 ドガッ ツバサの体が消え、にこの体が、地面に落ちる。 にこ(消えた!? どこに――ッ) 一瞬、ツバサを見失ったにこが、咄嗟に体を起こすと―― 目の前に。 構えた、綺羅ツバサ―― ツバサ「破ッッ!!」 ドンッ 左足を踏み込むと同時に。 左の掌底を――にこのボディに叩き込む。 にこの体が、吹き飛ばされ―― バキャッ にこ側のコーナーの、柵にぶち当たり―― 柵が割れ、凹んだ。
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