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海未「家族とは」【SS】【地の文】【家族だよ】【全員集合】 [無断転載禁止]©2ch.net

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海未「家族とは」【SS】【地の文】【家族だよ】【全員集合】 [無断転載禁止]©2ch.net
1 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:34:26.92 ID:fLh39Sh3
今日は散々な一日だった。

久しぶりの休暇だから、家でゆっくりテレビでも見ていようと考えていたのが夢のようですらある。

泣きたい気分だった。

俯きながら、使ったことのない夜道を歩く。

暗い夜の風は冷たくて、容赦なくチクリと私を刺した。
海未「家族とは」【SS】【地の文】【家族だよ】【全員集合】 [無断転載禁止]©2ch.net
2 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:34:52.06 ID:fLh39Sh3
辛くて、早く帰りたいのに、どうもその気になれない。

この時間なら娘はとっくに寝ていると分かっていても、足は家の方を向いてくれなかった。

娘にどんな顔をしようか、それが一番引っかかっていて、重たい。

認めたくない。

力を入れて小石を蹴ると、赤ん坊のような声がして、驚いて顔を上げる。
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3 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:35:44.67 ID:fLh39Sh3
ナオーンと泣く黒猫がいて、声の正体を理解した。

黒猫は不幸を運ぶという言葉を思い出して、眺める。

そのまま歩こうとしたら、途端、地面がよく見えないから、大袈裟に膝から転んでしまった。

黒猫は飛び上がって逃げていく。

慣れない道を使うんじゃなかった。
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4 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:36:29.58 ID:fLh39Sh3
習っていた武道の受け身の一つも取れず、全体重で叩きつけられた膝は、骨折しているかもしれないほど痛い。

散々な一日のおまけだろうか。

もう嫌だ。

ゆっくりテレビすら見られない、我が家に戻ることを決意し、怪我をした足を家に向ける。

夜風がもっと温かければいいのに、と思った。
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5 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:37:32.61 ID:fLh39Sh3
──
──


ただいま帰りました。

静かな声でそう呟いて、起こさないようにソファででも寝ようと思っていた。

鍵を開けるカチッとする感触がなくて、ドアを開くと、玄関には妻が立っていた。
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8 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:38:40.86 ID:fLh39Sh3
海未「…にこ、どうして、こんな夜遅い時間に」


私が言い切る前ににこは、私を抱きしめた。


にこ「…おかえり、海未。頑張ったね」


洗剤とエプロンの油のかおりがして、心地良くて温かい。


にこ「お腹空いてるでしょ?今、温め直すから」
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9 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:39:22.13 ID:fLh39Sh3
だが、エプロンを着ているのだから、終電の時間を見計らって、作ってくれていたのかもしれない。


海未「どうして、ここまで」

にこ「当たり前じゃない。夫婦なんだから。今朝あんたが辛そうだったの」

海未「ありがとう、ございます…」


その温かさが夜風の寒さを嘘のように飛ばしてくれて、嬉しくて、堪えていた涙が溢れてきた。
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10 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:40:06.18 ID:fLh39Sh3
──


遅い食事を済ませ、風呂から出て、リビングのソファに座ると、にこが駆け寄ってくる。


にこ「ああー、酷い。海未が転んで傷作るなんて珍しいわね」

海未「大変な一日だったもので、疲れていたんです」


朝からの流れを説明する。
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11 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:41:01.83 ID:fLh39Sh3
休暇だから日々の会社の疲れを癒やすべく家で寛ごうとしていたこと。

私の休みを知っていたらしい娘の絵里が、ここに交際相手を連れてくると言ったこと。

タイミングよく大嫌いなはずの会社から手伝いを頼まれ、逃げるように会社に出たこと。

苛ついていたらしい上司に大声で八つ当たりされたこと。

深夜まで普段より長く無理に残業させられたこと。
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12 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:41:52.18 ID:fLh39Sh3
そして帰り道慣れない夜道で転んだこと。

散々な一日。

半ば愚痴のようになってしまった説明を、にこは退屈な仕草も見せずしっかり聞いてくれた。
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13 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:43:54.63 ID:fLh39Sh3
にこ「まるで穂乃果みたいね、転んで怪我するなんて」

海未「小さい頃は、毎日のように絆創膏を貼っていた気がします」

にこ「最近じゃ、そう見なくなったけど。成長してる」


それだとまるで私が退化しているみたいじゃないですか、と言おうとして、やめた。

成長。
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14 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:44:35.49 ID:fLh39Sh3
にこ「よし、出来たわよ、手当。傷が深いからしばらく残って痛いと思うけど、我慢してね」

海未「ありがとうございます、何から何まで」

にこ「当たり前じゃない。夫婦なんだから」


自分の頬が赤くなるのを感じて、目を伏せたくなった。

にこは、手をパンパンと払うと、ソファの隣に座った。
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15 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:46:39.50 ID:fLh39Sh3
心休まる、しばらくの沈黙の後、にこが口を開く。


にこ「あのね、海未が嫌がる話で悪いけど、絵里の相手、悪い人じゃなかった。
   しっかりしてそうだし、優しそうだし、支えてくれそうな人」

海未「結局連れてきたんですか…」

にこ「せめてお母さんだけでもって。相手を見せたいって」

海未「…南ことり、でしたよね」
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16 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:47:19.04 ID:fLh39Sh3
まだ、南ことりという人を見たことはない。

認められない自分がいる。

拒絶する自分がいる。

絵里が付き合うこと、いつか離れてしまうことを、拒絶する自分がいる。

南ことりを憎んでいるかもしれない。
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18 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:48:14.11 ID:fLh39Sh3
嫌な感情だ。

良くない親だと、自分でも思うのに、どうしても、首は縦に振れない。

大学生なんて、まだ早い。

付き合うなと言ったところで、絵里は聞かなかったが。
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20 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:49:40.22 ID:fLh39Sh3
溜息をつきそうになると、私の妻は察して、


にこ「…もう、すぐそんな顔するんだから。
   でも、気持ち、分かるわ。一番は、寂しいもんね」


そして私は、柔らかい笑顔の妻を見遣った。


海未「あなたは、しっかりしていて、優しそうで、支えてくれますね」

にこ「ことりさんのこと?」
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22 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:50:34.50 ID:fLh39Sh3
海未「その説明とにこがぴったり重なりましたよ」

にこ「あら、絵里は私に似た人を選んだのね。見る目があるわ」

海未「ふふふっ」


絵里と私もまた重なった気がした。
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24 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:51:46.52 ID:fLh39Sh3
再び、沈黙が訪れる。

この真夜中、特に疲れた今日、首が揺れ始める。

ああ、ベッドに行くのが億劫だと思った。

欠伸とともに視界がぼやけるのを感じる。
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26 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:52:46.05 ID:fLh39Sh3
静かに、こう言った。


にこ「最近、特に忙しいんでしょ?無理しすぎよ。体壊したら元も子もないから、無理しないでね」


夜風は、温かくなくて良い。

家があるのだから、温かい素敵な家があるのだから、そんなものはいらない。

ここがいいのだ。

にこの右手の指が私の左手の指に絡めた。

にこの左手は、私の頭を、にこの右肩に寄せた。
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27 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:54:03.14 ID:fLh39Sh3
にこ「疲れた時は、私に甘えてよ。たまには立ち止まって。
   止まったら、景色が見えて、他のものが見えてくるかもしれない。
   残された時間は少なくても、焦らず、ゆっくり。
   だから、もっと甘えて。大好きどうしの夫婦なんだから」


私は、にこの言葉のままに、脱力して、何も考えず、にこの手と肩に全てを任せた。

私とにこが出会った時もまた、親は私のように悩んだのだろうか。

絡められた指を見つめて。

考えながら、そのまま、静かな夜、私は深い眠りに溶け込んだ。
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29 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:54:41.91 ID:fLh39Sh3
書き溜め無し
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30 :@無断転載は禁止[]:2016/05/09(月) 22:56:38.66 ID:fLh39Sh3
>>21
さんきゅ


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