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名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止
希「最低で最高のヴィーナスの誕生」【SS】 [無断転載禁止]©2ch.net

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希「最低で最高のヴィーナスの誕生」【SS】 [無断転載禁止]©2ch.net
1 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:21:40.01 ID:QT3hMfik
「私、にこのことが好きだったの」



いつもの公園。私を呼び出した彼女は唐突にそんなことを言いだした。
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2 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:22:54.38 ID:QT3hMfik
******

Side A

******

二〇一二年 五月



絵里『もしもし、あのね……』



彼女から電話がかかってくるのは珍しいことではなかった。

そのありふれたスマホの着信音に、机を揺らすバイブレーションに私はいつも胸を躍らせた。

いつまで経っても冷静に画面をタッチできない自分に幻滅しつつスマホを耳に当て、冷静の振りをして「もしもしー?」なんてわざと呑気に語尾を伸ばしてみたりする。
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3 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:23:27.95 ID:QT3hMfik
絵里『あのね……あのね……』



そんな私とは対照的に、彼女の語尾は尻すぼみだった。いつものハキハキズバズバな口調の名残は微塵もない。



私「ど、どうしたん?」

絵里『はは……はぁ。なに緊張してるんだろう、私。希ならいいと思ったから、電話したのに』




ただ事ではない……ような気がした。呑気な振りはまずかったかな、と反省した。

でも、“希なら”。その言葉に信頼が感じられて嬉しかった。だからその信頼に応えたいと思った。



私「なんや、らしくないなぁ。なんでもとりあえず言ってみ」

絵里『あのね……大事な話があるの。直接、話したいこと。だから、その、明日の放課後、公園に来てくれないかしら』

私「はあ」
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4 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:23:57.50 ID:QT3hMfik
なんで電話で言わないの? 直接話したい? 学校じゃダメなの?

いろいろ疑問はあったけど、私は了承して電話を切った。

別れの言葉は、「じゃあねー」と語尾を伸ばした。




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5 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:24:24.33 ID:QT3hMfik




いつもの公園の、いつものベンチには、誰も座っていなかった。

早く来すぎたかな……。

腰掛けて、青空を流れるおっきい雲を眺めながら、“大事な話”について考えてみた。

学校で直接言えないような、こんなところに呼び出されるような、話。

淡い期待はあった。半ば確信していた。

きっと……もしかして……彼女はこれから私に……。

なぜだろう。なんのためだろう。制服でよかったはずなのにいったん家に帰って着替えた私服。

今朝何べんも鏡の前でとかして整えたはずなのにまたヘアスプレーで固めた髪。

走ってもいないのに大きく速く跳ねる心臓。

別段変わったことではない。ただ、彼女の前では一番いい自分でいたかっただけだ。

本当に本当や。ウチ、浮かれてなんかないもん。
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6 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:25:17.83 ID:QT3hMfik
絵里「おまたせ。ごめんね、生徒会の仕事が長引いちゃって」



そう言って少し、ほんの少しだけ遅れてきた彼女はいつものように私の隣に腰掛け、うつむく。

――数分の沈黙ののち、先にしびれを切らしたのは私だった。



私「……で、どうして電話じゃダメだったん?」

絵里「それは、ほら、大事な話だから盗聴とかされてたらいけないし」

私「んなわけあるかーい!」

絵里「はは……そうよね」



……もしかしてバレてるんか。録音した彼女との通話を聞き直すのは密かな楽しみだったけど、ほどほどにしておいたほうがいいかもしれない。
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7 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:25:41.79 ID:QT3hMfik
私「……で、その、話……というのは」

絵里「…………」



それからまた数分の沈黙ののち、今度は彼女から――顔を真っ赤に染めてこう言ったのだ。



絵里「私、にこのことが好きだったの」




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8 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:27:42.69 ID:QT3hMfik




“矢澤にこ”。

去年、突然転校してしまった同級生の名前だった。



絵里「結構前から、気になってたんだけど、転校しちゃって……そのときは諦めたの。でも、この前ばったり街中で会っちゃって、『あ、まだ会えるんだ』って思ったら、私やっぱり……」

私「…………」

絵里「のぞみ?」

私「あっはっは。なんだ、そうだったんならはやく言ってよもー!」

絵里「だ、だって恥ずかしいじゃない、誰が好きとか嫌いとか」

私「小学生じゃあるまいし」

絵里「うぅ……」

私「つまり、恋愛相談ってやつやね」

絵里「そう、そうなの! こんなこと希くらいにしか話せなくて」
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9 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:28:16.54 ID:QT3hMfik
私「そらそうだ。学校じゃ氷の生徒会長だもんね」

絵里「だから。とにかく、えっと」

私「まあまあ、そういうことなら任せてよ」

絵里「えっ……」

私「ウチを誰と心得る。“縁結びの神”こと東条希ちゃんとはウチのことなのだー!」

絵里「ふふ。私、まだ何も言ってないのに」

私「大丈夫。わかってるって」



私は立ち上がり、満面の笑みで友達にブイサインを突き出す。



私「ウチが二人をうまくくっつけてあげる!」




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10 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:29:19.32 ID:QT3hMfik


五月



にこ「は……? だれ?」

私「東条希。音ノ木坂の三年」



学校の帰り、他校の前で音ノ木坂の制服を着て立っているのは恥ずかしかったけど、そのかいあって無事矢澤さんと接触することができた。
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12 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:29:42.14 ID:QT3hMfik
にこ「音ノ木……あー、もしかして」

私「そーそー。去年同じクラスだったんやけど、覚えてない? 覚えて、ないよねえ。クラスの人気者の矢澤さんとは、あんまり接点なかったし」

にこ「ええ――あ、いや、今思い出した。いたわね。あの地味めの」

私「地味めて……まあいいや。それや」

にこ「あんたって、関西弁だったのね。確かにそれすらわからないほど接点なかったわ」

私「ああ、それは……その……」



“ウチ”が関西弁(?)を始めたのは矢澤さんがいなくなる前だったか後だったか……定かではないので言及しないことにした。
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13 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:30:41.55 ID:QT3hMfik
私「それを言うなら、矢澤さんだって、なんか感じ変わったよね。前は――『やだーニコ困っちゃうニコ〜、テヘ、ピョコ、きゅるりん☆』――って感じだったのに」

にこ「そうね。そうだったかも」

私「どうしたの? イライラ? せいり?」

にこ「違うわ! ……ちょっと、疲れてるのよ」

私「ははぁ、そうだよね。なにせあの“UTX高校”だもんね」

にこ「まあね。でも普段は、あなたのイメージ通りニコよ」

私「ふだん? 今は普段ではなくて?」

にこ「ええ。私にとっての普段とは――ステージのことだから」

私「へえ?」

にこ「出待ちしてくれた熱心なファンに免じて相手してやったけど、次はないわよ。私は忙しいの」



掲げた左手でキツネ? みたいなのをつくりながら去っていく後ろ姿は、やっぱりあの頃のみんなのアイドルの後ろ姿とは何か違う気がした。




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14 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:31:14.76 ID:QT3hMfik


五月



絵里「ど、どうだった?」

私「うん、会えたよ」

絵里「どうだった? どうだった?」

私「うん……絵里ちは、矢澤さんのどこがいいの」

私の質問に照れながら、ほっぺを両手で包んだ絵里ちは答える。

絵里「えぇ……か、かわいいところかな」

私「あ……あれが」

絵里「そうよ、かわいくない?」

私「どんなふうに」

絵里「ちっこくて、かわいいじゃない」

私「えぇ……」

そんな理由だけで好きなん……喉まで出かかったが、なんとか飲み込んだ。
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15 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:31:46.90 ID:QT3hMfik
私「ゆうても、そんなにちっこくないよ、矢澤さん」

絵里「いいのよ。あと、あの小生意気そうなところとか」

わかんねえ……絵里ちの好みがわかんねえ……。

私「なんだ、絵里ちはあれの本性知ってて好きなん……」

絵里「あの純粋なところ! 素であんな言動しちゃうところ! 不思議ちゃんていうか、天然小悪魔というか、生まれながらのアイドルね! あれは」

私「おぉうふ……」

絵里「希もそう思わない!」

私「うん、まあ」
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16 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:32:09.76 ID:QT3hMfik
絵里「希もそう思っていたのね! あ、でもダメよ、にこが好きなのは私なんだから、この気持ちは私のものなんだから、希は他を当たってね」

私「うぐぅ……」

そっか、そんなに矢澤さんのことが好きなんだね……私の入る余地なんてないや。

絵里「その代わり、希に好きな人ができたら教えなさい! 私が力になるわ」

私「……ありがとう」



それにしても、そうか。

絵里ちはちっこい子が好きなんだ……。




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17 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:32:45.76 ID:QT3hMfik


五月



海未「しかし、なかなかいいグループ名が決まりませんね」

花陽「なにかみんなの想いとか……意味のある名前にしたいよね」

ウチ「そうやね……ウチ、実はいいの思いついてるんだけど……人数が足りないなあ」

海未「はあ。何か数字に意味のある単語なのですか」

花陽「七人じゃダメなの?」

ウチ「うん。ダメだねえ」



お昼休み。一緒にスクールアイドルをやっている後輩の園田海未ちゃんと小泉花陽ちゃんとお弁当を食べながらグループ名を考えていた。

そう。実はまだグループ名すらない新米アイドルなのだ。
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18 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:33:25.14 ID:QT3hMfik
ウチ「ごちそうさまでした」

まだお弁当は残っているけど、手を合わせる。

花陽「希ちゃんは偉いね。半分残っているのに、折り返し地点で一度それまで食べた御飯たちに感謝をするんだ……確かに対戦形式のライブでは後半の組が圧倒的に有利……前半の組は印象が薄れてしまうリスクが……」

海未「いえ普通に食事を終える挨拶だと思いますが」

花陽「えぇそうなのぉ!? 私今、一口目から最後までを一括りにして『ごちそうさま』する自分を反省していたのに」

海未「いえそこは普通に『まだ半分残っていますよ?』と希の体調等を気遣うところだと思いますが」

花陽「どうして希ちゃん、もうお腹いっぱいなの!? この残されたタケノコ、ブロッコリー、スパゲティ、から揚げ、そして白米たちはどうなってしまうの!?」

ウチ「花陽ちゃんにあげるよ」

花陽「わーいありがとう」

海未「私のおからもおすそ分けです」

花陽「幸せすぎるぅ」

海未「しかし希、私はあなたにダイエットを指示した覚えはありませんが」

ウチ「え? ええ。されてませんが」
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19 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:34:04.05 ID:QT3hMfik
海未「ではなぜ?」

ウチ「その『メンバーのダイエットは自分の指示以外ではありえない』みたいな思考何なの?」

海未「え、違うんですか?」

ウチ「違いますよ?」

海未「バカな……!? 私の管理に従わないものがいる……!?」

ウチ「怖いわー。天然ストイックと天然ボケの合いびき怖いわー」

花陽「んー、おから美味し。もぐもぐ。でも割と、穂乃果ちゃんだって管理下に置けてないですよね」

海未「どういう意味ですか? 穂乃果は絶賛肉体改造中のはずですが」

花陽「おっと、詰め込んだ、から揚げで、お口が開きません」

海未「開かない口でずいぶん流暢に発音するんですね。腹話術ですかそうですか」

花陽「せやで。実は喋ってるんは希ちゃんなんや」

海未「なんと、花陽は人形のほうでしたか」

ウチ「え?」

海未「で、希。穂乃果がなんですって? まさか隠れてこっそりなにか食べているのですか? 私が用意したメニューを私が用意したスケジュールで私の目の届く範囲でしか口にしてはいけないはずなのですが」
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20 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:34:43.21 ID:QT3hMfik
ウチ「ちょっと、花陽ちゃん? ウチ知らないんやけど……花陽ちゃん?」

花陽「もぐもぐむしゃむしゃぱくぱくぱなぱな」

海未「ふふ、なるほど……“そういうこと”ですか。ふふふ、もしやその余ったおかず、穂乃果に与えようとしていたのでは……? ふふふふふ」

ウチ「違います怖い怖い怖い怖い怖い」

海未「いえ、ふふ……それも穂乃果に聞けばわかること……」

ウチ「とんだとばっちりごめんね穂乃果ちゃん! 許せ!」

海未「……とまあ、冗談はさておき」

ウチ「冗談に聞こえなかったんですが」

海未「今問題なのは希のほうです。私の計算によれば希は今の体形がベスト。それを過度な食事制限で減量させてしまうのは得策ではありません。何事もバランスが大事です」

ウチ「いや、でも……」
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21 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:35:13.68 ID:QT3hMfik
海未「それ以上痩せてどうするんですか。お胸が縮んだらどうするんです」

ウチ「むしろ縮んだほうが……ちっこいほうが」

海未「その手の需要は私が引き受けています……って何言わせるんですか!」

ウチ「自分で言ったよ今自分で言ったよ!?」

海未「とにかく、食べてください。私の計算された体調管理のレールから外れることは許しません」

ウチ「そう……わかった。食べるよ」

花陽「ごちそうさまでした!」

ウチ「ないがな!」



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23 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:35:57.83 ID:QT3hMfik
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Side B

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二〇一二年 六月



中庭に植えられている木の陰。

ハイパージャンボ寝そべりセルフ腕枕に頭をのせ、足を組みながら空を見上げる。……また二時限目から授業をふけてしまった。

高校に入ってからこんなことばかりだ。

周りのみんなはなんだかよくわからないものに熱中したり、当たり前のように黒板の文字をノートに写したりしてるけど……誰もがそんなことをできるわけじゃない。

なんとなく、意味を感じられない。純粋に、楽しくない。

中学の頃はこんなこと考えたこともなかったのに、どうしちゃったんだろう。
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24 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:36:51.92 ID:QT3hMfik
「はぁ……ああ、やめやめ。難しいこと考えたってしょうがないや」

立ち上がり、スクールバッグについた草を払って、校門を出る。

家に帰ったら親にバレるし、ゲームセンターは昨日も行ったし……。

でもやっぱり、他に行く場所もなくて、ゲームセンターに向かった。




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25 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:37:41.67 ID:QT3hMfik




お小遣いは毎月の始まりに五〇〇〇円。仮に毎日ゲームセンターに通ったとすると五〇〇〇を三〇で割って、一日辺り約六〇〇円使うことができる。……こう見えて算数は数学と違って得意だ。

だというのに、六月六日にして既に財布が空になっている。なぜだろう。

「さて……これ、最後の百円だけど……なにしようかな」

街中の大きいゲームセンター。中の設備を物色する。安くて、長く遊べそうなゲーム、ないかな。

もしくはお金のかからない面白いことが……そう簡単にはないか。

そんなことを考えていると、あるゲームコーナーの一角に、小さな人だかりができているのが見えた。時折歓声なんかも聞こえてくる。

どうせあの太鼓を棒でリズムよく殴るゲームだろう。お金を払って集客のパフォーマンスを引き受けるなんて物好きもいるものだ。

意地でも立ち止まってやるもんか。……と、通り過ぎようとしたときだった。

二つに束ねた黒い髪が揺れ、回るスカートが風を切る。キラキラしているのは汗……なのだろうか。

それともあの人は本当に、キラキラ輝いているのだろうか。

気が付いたら、ダンスゲームの上でポーズを決める少女に釘づけになっていた。

人だかりが散り、少女がゲーム機から降りた後も、しばらく呆然としていた。
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26 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:38:12.18 ID:QT3hMfik
「……すごい」

少女「ありがと! 次、やるんでしょ、どうぞ」

キラキラ笑顔のかわいい少女。さっきの少女に、話しかけられていた。

「あ、いや……」

『一回三〇〇円』の文字を見つけて、親指と人差し指で挟んでいた一〇〇円をポケットにしまう。

「見てただけだよ」

少女「ふうん。そうなの。たまにここで踊ってるから、また見に来てもいいよっ」

こんな時間にゲームセンターにいるのだから、午前授業を終えた小学生か何かだろうか。

“矢澤にこ”と名乗ったその少女と、凛はまた会う約束をしたにゃ。



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27 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:38:45.72 ID:QT3hMfik
今回はここまでです。
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29 :名無しで叶える物語(笑)@無断転載は禁止[sage]:2016/05/09(月) 20:47:18.70 ID:QT3hMfik
「私」なのはわざとだけど「東条」は変換ミスですすみません><


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