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【デュオで】アイドルマスターで百合 その44【トリオで】

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【デュオで】アイドルマスターで百合 その44【トリオで】
88 :face[sage]:2012/09/13(木) 17:52:21.65 ID:xrq47VRc
「な、なによ?」
見返す能面の様な無表情に、私は思わずたじろいだ。

フイッ……。
そのまま、踵を返して、事務所から出ていってしまう美希。
取り残された私は、彼女を追うことも出来ず、ただ呆然と座り込むのであった。



「チョット、美樹。
室内では、サングラス取りなさい」
いつも通りのお小言。
常ならば、口を尖らせながらも、返事はするのに、今日は違った。
クルクル変わる、愛らしい表情を凍らせて、文句も言わず去っていく。
そんなあの娘は、初めてだ。
小鳥さんは、所用で出ているので、事務所には、私一人。
なんというか、かなりの衝撃を緩和出来ない。

「なによ!なんなのよ、モウ!!」

カタカタカタカタ……。
仕事が溜まっているのをいい事に、ノーパソに不満を叩きつける。
慣れた事務仕事だ。
指が勝手に処理していくなか、頭の隅に、ベッタリ張り付いた嫌な記憶を、私はさらい
続けた。

そもそも私は、美希なんて嫌いだ。
やりたくも無いアイドル稼業を、安いプライドを消費しながら続けている私にとって、
あの娘は、ムカつくだけの存在だった。
やりたいことだけやって、それでも、だれよりも強い輝きを示す。
努力もせず、根性も見せず、イヤな事からは、サッサと逃げて、辛い事は、アッサリと
放棄する。
遊び半分の態度で、器用にこの世界を、泳ぎ回っていた。

本気でやっていく気が無いのなら、最初から来なければいい。
やっても出来ない私の前から、消えて欲しい。

あの、輝く様な髪も、愛らしい表情も、弾ける様な肢体も、全部大嫌いだ。
どれ程、あの娘が嫌いかを、反芻し返しながら、私は仕事に逃避した……。
【デュオで】アイドルマスターで百合 その44【トリオで】
90 :face[sage]:2012/09/13(木) 17:55:51.86 ID:xrq47VRc
あの日から、一週間。
美希はずっと、事務所に顔を出さなかった。
私には理想的な、穏やかな日々。
しかし今日は、Pと打ち合わせがあるはず。
私は、外回りの仕事を小鳥さんに任せてしまったので、手が空いていた。

もうじき、やって来る。
そろそろ、お昼時だ。
まだ帰って来てないが、Pは、お腹を空かせているだろう。
めんどくさいが簡単に、おにぎりでも作っておいて上げよう。

ピ、ピ、ピ……。
ちょうど、ご飯が炊けた。
蒸らしている間、シャケを焼きあげる。
皮と骨を外し、大きめの塊に分け、ゴロンと入れよう。
皮は更に炙り、カリカリにして、食感の良いアクセントに。
海苔もちょっと炙り直すと、香ばしさが増す。
一番大事なのは、お塩。
良い岩塩を使う。
丁寧に挽いて細かくすると、熱で融解してご飯に馴染み、とても美味しくなるのだ。
このお塩だけの、塩むすびが一番好きとか言ってた。
ほんと、めんどくさい娘。
おっと、いけない。
蒸らしたら、シャリ切りして、余分な水分、飛ばさなきゃ。
そしたら、ご飯が熱いうちに、握ってと……。



カチャ。
簡単に軽食をでっち上げた頃、美希が事務所にあらわれた。

「………………」
私に向けるのは、また、あの無表情。
それすら直ぐに、逸らされてしまう。
大きなサングラスで、顔を隠したまま、無言で室内を見渡す美希。
いつも、騒がしい娘が、目顔でPを探していた。

『こら、美希!
ちゃんと挨拶しなさい。
あと、サングラス!
何度も同じ事、言わせない!!』

本来かけるべき叱責。
卑屈にも呑み込んで、こちらから話しかける。

「Pならまだ、帰って来てないわ。
おにぎり作ってあるから、食べちゃっていいわよ」

なんで私、こんな、媚びた様な真似、しているんだろう。
そして……。

フルフル。
口もきこうとせず、表情も変えないまま拒絶する美希に、なんで私、こんなにショックを
受けているんだろう。

【デュオで】アイドルマスターで百合 その44【トリオで】
91 :face[sage]:2012/09/13(木) 17:59:32.81 ID:xrq47VRc
「そう、じゃあお腹空いたら、食べなさい」
サッサと応接セットのソファーに座り、顔を背ける様にテレビに見入る美希。
私は、未練がましくも、テーブルにおむすびを置き、机に戻る。

『惨めね……』
普段、威張り散らしているくせに……。
当然の様に嫌われたら、あっと言う間に、掌を返して……。


カタカタカタカタ……。
仕事が溜まっているのをいい事に、ノーパソに不満を叩きつける。
慣れた事務仕事だ。
指が勝手に処理していく。
たとえ、視界がボヤけてきても……。

「ひふほ、ほうひはの!?(律子、どうしたの!?)」
気がつけば目の前に、彼女がいた。
何時の間にか、サングラスは外している。
彼女の目が見えた。
その綺麗な瞳に、心からの心配をうかべ、私に、向けてくれている。
何時もの、優しい美希。

もう、駄目だ。
耐えられ無かった。

ぎゅっ……。
ただただ私は、恋焦がれた彼女に、縋りつき、泣き崩れてしまうのであった。


『ひょっとして、律子も、歯が痛かったの。
大丈夫、美希、いい歯医者さん、見つけたの。
痛く無い様に、麻酔、多目にかけてくれるんだよ……』

主に「は」行のみを駆使して、この様な事を、美希は発した。


なんの事はない。
先週から歯医者に通ってた美希は、麻酔で痺れ、表情が動かなかったのだ。
サングラスも、出来るだけ顔を隠す為。
むろん、まともに喋れず、そんな顔が恥ずかしく、サッサと帰ってたとの事。

そんな事だろうと思った。
なんと美希は、まだ、乳歯が残っていたとの事。
まったく、お子ちゃまなんだから……。
頭の中身は、あきらめていたけど、あれ程無駄に育っている身体にまで、ガキくさい所を
残してるなんて……。
ほんと、しょうがない娘。
大体、私は、ちゃんと自己管理できるもの。
虫歯なんて、できる訳ないじゃない。

「ええと、特に悪い所は、ありませんが……」
思考に逃げる私に向かって、困ったように、歯医者さんは告げた……。

【デュオで】アイドルマスターで百合 その44【トリオで】
92 :face[sage]:2012/09/13(木) 18:04:25.64 ID:xrq47VRc
「律子、さん。
痛く無かった?」
ロビーに残っていた美希が、駆け寄ってきた。
横で手を繋いでてあげると主張するのを、
「子供じゃないのよ」と、放り出した。
だから、歯に問題が、まったくない事は、ばれていないはず。
だが……。

「いくら、歯医者さんが怖いからって、虫歯をほっておいたらダメなの。
トップアイドルを目指すなら、体調管理は初歩の初歩だよ。
そんな事も出来ない人は、『律子、さん』じゃ無くて、『律子』なの……」
美希は調子に乗って、此処ぞとばかり、責め立ててくる。

イラッ……。
「そう。なら、栄養バランスも、考えなきゃね。
あのおにぎりは、Pに片付けて貰いましょう」
「えっ?大丈夫だよ。
せっかく、麻酔が抜けたのに。
美希は、おにぎりならいくらでも……」
「イヤイヤ、炭水化物の撮り過ぎは、トップアイドルを目指す者には、禁忌よ」
「ム〜〜〜……」
反撃を受け、むくれる美希。

ちょっと、イジメ過ぎたかな。
「……今日の事、忘れてくれるなら、食べてもいいわよ」
「うん。律子が泣いてた事は、ダレにも言わな……」

ゴチン!
「痛いの……」
「忘れたわね」

一発かまして、脅しをかける。
そもそも、理由は虫歯じゃないんだから、美希の認識は間違っているのだ。
虚偽の情報を、流布させるわけにはいかない。
大体、誰のせいで……。

「律子、さん、ヒドイの」
抗議するように、涙目で頭を押さえてる美希に、声をかけた。

「ほら、早く帰らないとおにぎり、Pに全部食べられちゃうわよ」
「それは困るの。
律子、急ぐの」

ギュッ!
タッタッタッ……。
私の手を取り、走り出す美希。

「チョット、そんなに引っ張らないで……」
引きずられ、振り回される私。
繋いだ手が、やけに暖かく感じた。

「♪りっつこっの、おっにぎり。
りつこの、おにぎり……」
嬉しそうに歌いながら、手を引き、走る美希。
私は、空いている手で、口元を隠した。
多分、ゆるゆるに、にやけた表情をしてたから……。



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