- 【マジすか学園】センターとネズミの秘密の部屋★2
210 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/12/25(日) 23:09:37.02 ID:F4+I6kLC - 「たったひとりの恋人」
きらびやかなイルミネーションの中で、一人きりの私が居た。 クリスマス。 いつからこの日は恋人同士が過ごす日になったのか。知らないし知りたくもない。興味がない、どうでもいい。 だけど私は待っている。マジ女を卒業してから5年。青春の真っ只中を共に過ごしたマブダチを。 次々と、待ち人が来て手をつなぎながら夜の街にカップルが消えていく。 幸せそうな彼らの目には私がどう映るのだろうか。 暗めな紺色のドレスに間に合わせのコートを羽織って、冷えた手の薬指に指輪を光らせた私。 幸せそうに恋人を待つ女に見えるのだろうか。もう一度視線を上げると、ガラスに写る私はお世辞にもそんな風には見えなかった。 「待て!どこに行くんだ!」 「ごめんなさい!私…行かなきゃいけないの!」 父の怒鳴り声が未だに耳に残る。婚約記念のパーティーを抜け出すには、彼女の一言で十分だった。 「会いたい」 知らないメールアドレス。けれど、誰かはすぐに分かった。たった四文字が私の記憶を呼び起こしてしまう。 将来の伴侶となる人は、舞台袖に私と共に居た。 「大丈夫かい?」 「え、ええ…」 「新しい門出だ。不安かも知れないけれど僕が側に居るから」 舞台上では父がいつにもまして饒舌になって騒いでいた。 どうしたらいい? 心の中で押さえつけて鍵を掛けた箱が開いてしまう。思い出してしまう。 ガラスとガラスが触れ合う可憐な音が頭に響いて、どんどん大きくなる。 薬指を強く握った。この場所は、こんな物を付ける場所じゃなかったのに。 「さあ、行こう」 彼が手を差しのべた。その笑顔は、私が欲しい物じゃない。その瞬間、ガラスが割れた、割れてしまった。 「ごめんなさい。私…あなたじゃダメなの」
|
- 【マジすか学園】センターとネズミの秘密の部屋★2
211 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/12/25(日) 23:12:20.50 ID:F4+I6kLC - 私は舞台へ飛び出した。
「婚約は出来ません!!」 「な、何を言ってるんだ!!」 「お父様ごめんなさい。ダメなんです!」 「待て!どこに行くんだ!」 「ごめんなさい!私…行かなきゃいけないの!」 騒然とする群衆を掻き分けてホテルを飛び出した。エントランス前に止まっていたタクシーに乗り込み、彼女に電話を掛けた。 「もしもし」 「もしもし、あの…わ、わたし」 「…………ネズミ?」 愛しい人の声。今の私をそう呼んでくれるのは彼女だけだった。 「そう、ネズミ。ネズミさんだよ」 「そうか、ネズミか…久しぶりだな」 「センター、どこにいるの?」 「さあ、どこかな」 「なにそれ」 「私はいつでもお前の側に居るよ」 「相変わらずだな」 そんなクサイ台詞も大好きだった。その懐かしい声に涙を堪えるのが苦しかった。溢れないように見上げた窓の向こうの空からは、白い雪が降っていた。 「ネズミ。駅で待ってて」 「…うん。分かった」 「すぐ行くから」 私は返事をして震える指で電話を切った。 ------------------------------ ドレス一枚だった私は駅前のデパートに駆け込んで、その店で一番高いコートを買った。 慌てて走ってきたお陰で、セットした髪が少し乱れていた。髪を直し、とれかけた口紅を塗り直した。 彼には、申し訳ない事をしたと思っている。あの世界には珍しく純粋で優しい人だった。初夜まで私には触れないという約束までしてくれた。 だけど彼女と別れてからずっと、決定的な何かを見失ったまま生きてきた私に、その優しさは苦痛なだけだった。 彼は悪くない。悪いのは私だ。 彼女はいきなり姿を消した。悲しくて悲しくて、泣いても泣いても涙は枯れなかった。彼女の言葉の全てが今も鮮明に思い出され、触れられた全てが痛む。 傷はいつか癒えるけれど、私に残されたのは一生消えない堕天の印だった。
|
- 【マジすか学園】センターとネズミの秘密の部屋★2
212 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/12/25(日) 23:14:34.30 ID:F4+I6kLC - 「女と恋愛だなんて…言語道断だ!!」
不思議な事に私は怖くも悔しくも悲しくも無かった。 それの何が悪いのか、何がいけないのか、そればかりが不思議に思われた。 「世間の常識で勝手に決めつけないで下さい」 「自分のしてることが分かってるのか!?」 「ええ、分かってます。頭でも、体でも」 決め台詞をネズミさんスマイルで言ってやると、父は怒りと驚きで顔を真っ赤にしていた。 その衝動にまかせ父は私を殴った。 「ふざけるな!!許さん!」 「別に許されなくても結構です」 「そうか、じゃあ出ていけ!今すぐ!」 「分かりました」 その夜荷物をまとめながら彼女に電話を掛けた。 「もしもし」 「もしもし、私だ」 「どうした?」 「勘当されたよ。親父に」 「何故だ?」 「お前と付き合ってるのがバレて、別れないなら出てけって」 「出ていくのか?」 「もちろん。こんな家とおさらば出来て清々するよ」 「ネズミ。それはダメだ」 「なんで?二人で暮らせるんだよ?嬉しくないの?」 「それだけはやめろ」 「なんで!?じゃあ別れたいの!?」 「違うよネズミ、聞いてくれ」 「酷い、酷いよセンター。喜んでくれると思ったのに!もういい!センターなんか大嫌いだ!!」 私は携帯を壁に投げつけた。 信じていた彼女に裏切られ、家も失った。暫くして着信音が鳴ったが、電源を切って鞄にしまった。 真夜中、月明かりが眩しく光る空の下、私は鞄と通帳片手に家を出た。 続く
|