- 【マジすか学園】センターとネズミの秘密の部屋
812 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/11/20(日) 13:48:53.76 ID:xIT/FTLH - >>806-808
結局、一晩中雨は止まなくて、私はカフェで夜を明かした。24時間営業だったことに初めて感謝した。 3杯のカップとサンドイッチの食べかすを残して店を出た。 昨日の大雨が嘘みたいに空はウザイくらいに晴れ渡り、少し肌寒い朝だった。 マジ女の校庭に出来た水溜まりをけんけんぱで飛び越えて、階段を上がった先に、センターはいつも通りにそこに居た。 「あ、おはよう」 爽やかに振り返る彼女の姿にどこかが痛くなった。スカートから伸びる足はよく見ると長いし、ニーハイ姿のこの女がヤンキーとは、益々信じ難いことだ。 「ネズミ、お前…」 彼女が私に近付く足音に合わせて、私の鼓動も早くなる。 「昨日家に帰ってないのか?」 着替えていない私のパーカーを指差して言う。 「え、ああ。雨で帰れなくて」 「どこに居たんだ?」 「駅前のカフェ」 「なんだよ。言ってくれれば迎えに行ったのに」 「え?」 「私の家、駅から近いんだ」 初めて彼女の口から聞いた彼女のこと。当たり前の様に語るセンターが恥ずかしくて、まともに目を合わせてなんかいられなかった。 「あっそ。一人でカフェで過ごす夜も悪くないぞ。お陰で車輪の…」 「ん?」 「あ、いや、なんでもない」 「車輪の下」を読み切れた、そう言おうとした自分に驚いて口を濁した。長いこと借りていた愛読書は、新しいカバーをつけて私のリュックの中に眠る。 それを渡したらセンターは、どんな顔をするだろう。たまに見せる無邪気な笑顔で笑うのか。その笑顔を見たいようで見たくない。 私はどこか調子が悪い様だ。頭はボーッとして動かないし、今日の潜入先への計画も曖昧なまま。 「センターってさ」 私はポケットの中で自分の手を握った。 「変だよな」 「変?私が?」 「うん。変だ」 「どこが?」 「全部」 センターはきょとんとして私を見ていた。たまに見せる無防備なその目が恥ずかしくて目を逸らす。
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- 【マジすか学園】センターとネズミの秘密の部屋
813 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/11/20(日) 13:50:24.40 ID:xIT/FTLH -
「ネズミ、車輪の下読んだか?」 「まだ」 「早く読んでくれよ。私も読みたいんだ」 「貸したんだから返すまで待ってろよ」 「何だよそれ!早く読め!」 「私が言うなら待つんだろ?」 「くっ…仕方ない」 悔しそうな顔に思わず吹き出した。センターはまたきょとんとして、直ぐ様一緒になって笑った。 「ネズミも変だな」 「私が?ふざけんなよ、お前と一緒にすんな」 「マブダチだからな、私たち」 綺麗な顔でセンターは言う。 「その…マブダチってのやめてくれないか」 「何故だ?」 「だっておかしいだろ。お前の言うマブダチは」 「おかしくなんかない。おかしいのはお前の方だ!」 「何でだよ!大体なあ、お前は何でもかんでも言い過ぎなんだ!好きとかどうとか、普通はそんなに言ったりしない!」 「好きなものを好きと言って何が悪いんだ!!」 「だから…そういうのウザ」 別に傷付けるつもりは無かった。ただの弾みで言っただけ。私の中の焦りを隠したかっただけ。 それなのにセンターは涙を流していた。 「なんで泣いてんだよ…」 「泣いてない」 「どう見ても泣いてるだろ」 「私は、」 センターは頬に伝う涙を拭わない。 「言ってくれれば迎えに行ったし家にも泊めた」 「…なんで?」 「お前は私のマブダチで、私はお前が好きだからだ」 私を見詰める度に投げ掛けるその"好き"の意味を、センターは本当には分かっていないだろう。 こんな筈じゃなかった。ただ私に従う駒でありさえすれば良かったんだ。 それなのに、センターの前では私が私でなくなる。認めたくないこの想いでいっぱいになる。 屋上から空を眺める横顔をずっと見ていたいと思ってしまう。私だけのものにしたいと思ってしまう。
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- 【マジすか学園】センターとネズミの秘密の部屋
814 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/11/20(日) 13:53:20.70 ID:xIT/FTLH -
「やめてくれよ、そういうの」 やっとの事で振り絞った拒絶の言葉は驚くほど小さく、力が無かった。 「必要以上に人と関わるのは嫌いなんだ。お前だって例外じゃない」 「じゃあなんでここに来るんだ」 顔を上げると、センターは力強く私を見詰めていた。けれどその目には嘲笑や批判の意は一切感じられなくて、むしろ同意を求めているようにさえ見えた。 「嫌なら来なきゃいいだろ」 「んだよ、じゃあいい。もう絶対来ない」 私の心を掻き乱す言葉は聞きたくなかった。正論を突き付けられたのが悔しくて、私はセンターを睨んで振り返る。 すると、背中から強く抱き留められた。 「行かないでくれ」 やっぱりセンターは泣いていて、耳元で呟く彼女の細い声に反応して心臓が痛む。 これは彼女なりの友情の表現で、私は彼女の"マブダチ"。 分かっているのに、いつもみたいに止めろと冷たく言いたいのに、腕を振りほどいて逃げたいのに、予想外な展開に私の口は息をするので精一杯だった。 「お前が好きなんだよ」 私は目を閉じた。嘘偽りで覆い隠した心を一度だけ素直にしてみる。センターに聞きたかった言葉を口にした。 「もし私が居なくなったらどうする?」 「え…?」 「私が誰かに連れて行かれるか、勝手に居なくなったらどうする?」 「探す。お前と犯人を見つけて犯人を殺す」 「殺しちゃあ…だめだろ」 「お前に手を出す奴は許さない」 「じゃあ死んでたら?」 「私も死ぬ」 予想していた通りの言葉が返ってくる。 分かっていてわざと聞く自分に嫌気がさして、冷淡な私がセンターに申し訳なくさえ感じてしまった。 こんがらがった理性と想いの中で、マブダチの腕に抱き締められながら小さく笑う。 「そうか」 「そんな悲しいこと言わないでくれよ」 「分かった、分かったから」 私はセンターの手に触れた。指と指を絡めただけで酷く熱くて、彼女に顔を見られてないことだけが唯一の救いだった。 やっぱり私たちは、マブダチじゃないんだと思った。 続く
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