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578 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/07/30(土) 06:44:23.63 ID:T3IvI8qt - パソコン規制されてるから携帯からトオユー
トオルにとってるんちゃんは家族的、ひらちゃんはるんちゃんの友達って前提
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579 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/07/30(土) 06:46:40.27 ID:T3IvI8qt - ただひとつだけあればいい。
それだけで十分に幸せで、きっとそれはずっと変わらない。トオルはそう思っていた。 恨めしいほどに小さな自分の身体では、ひとつだけ詰め込むので精一杯で、それ以上は手に余る。 ずっとそう思ってきたからこそ、トオルはひたすらに……それは愚直と言ってもいいほどにるんを優先順位の一番上においてきた。 トオルはるんだけいればそれでいいと思っていたし、実際に中学までの彼女の世界はるんと自らの二人ぼっちだったのだ。 るんだけが自分の全てを分かってくれる。 良いところも悪いところも全て見せた。 それでも彼女は変わらずに全てを受け入れてくれる。 未発達な身体とは裏腹に、年齢より幾分か大人びたように見られるトオルであったが、その内側には年相応の幼い部分も強く残っていて、そんな部分まで包み込んでくれるるんの存在は、彼女にとって全てと言い切ってもいいほどに貴いものだった。 それが変わったのはいつだっただろうか。 それもきっとるんの影響なのだろうけれど、高校入学という転機はトオルにとってとても大きなものとなった。 世界が開けた。大袈裟なように思えるそんな言葉が、トオルにとっては誇張でもなんでもない。 高校入学からのわずかな期間。たったそれだけで大切なものが両手でも足りなくなって、トオルの胸の中は随分と騒がしくなったのだ。 初めにあったのは反発だった。 自分がただ一人だけだと心血を注いでいるというのに、どこかの誰だかわからないヤツがそれを奪おうとしている。 合格発表の日、トオルの中でざわめいたのはそんな思いだった。 なにもかもが気にくわなく思えた。 目の前の相手は自分とは正反対だ。 手も足も驚くほど長くて、すらっとしてるくせに妙に肉付きがいい。 トオルには、無駄な肉は全て削ぎ落としたような細くてこぢんまりした自分の手足と彼女のものがとても同じものだとは思えなかった。 憎たらしいことに全然成長期を迎えない胸の膨らみも、彼女のものとは比べようもなくて悲しいほどだ。 ころころと山の天気のように変わる表情も、感情の起伏が薄いトオルには羨ましかった。 自分にないものを全て持っていて、なのにトオルにとってたった一人の大切な相手だったるんまで手にしようとしている。 実際には誤解だったのだけれど、一度ついたイメージはなかなかおちないのだ。 トオルにとってユー子は天敵のようにも思えた。
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580 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/07/30(土) 06:49:49.73 ID:T3IvI8qt -
だからトオルは躊躇いなく手までだしたし、同じ時間を過ごすようになってもつっけんどんな態度をとりつづけた。 ナギに対しては随分と柔らかい付き合いができるようになっても、ユー子にはちょっかいをかけること以外のコミュニケーションは難しかった。 それがトオルを困らせている。 自業自得以外のなにものでもないから、どうしようもないのだ。 だってユー子は優しい。普通あんな態度をとったら文句の一つでも言いたくなるだろうに、ユー子の暖かさも柔らかさもまるで変わらない。 それにずぶずぶと浸かって、小さなトオルは頭のてっぺんまで沈みきってしまう。 息ができなくて。言葉も伝えられなくて。できることはごぼごぼと情けなくもがくことだけ。 もっと自然に接したい。 ありがとうって返したい。 なんにも難しいことなんてない。なのにトオルにはそれができなくて、そう考えるたびに頭の中はもやもやでいっぱいになってしまうのだった。 それがまたトオルを悩ませるのだ。 気がついたらユー子のことばかり考えている。 るんのことは変わらず大切で、なにものにも代えられないと思っている。 だのに他のことを考える時間……とりわけユー子のことを考える時間は日に日に増えていった。 トオルは今までずっとるんへの気持ちこそが恋だと思っていたのだ。 これがきっと自分の初恋で、まさしく恋愛感情というものなのだと信じていた。 それならばユー子への気持ちはなんなのだろう。 自分がなにが大事なのかわからなくて、トオルは堂々巡りから抜け出せない。 ぐいと炭酸水を飲み干しても、スッとしたのは一瞬だけで、気泡は深い溜め息となって空気に溶けていった。 ぎゅうと力を込めた腕の中でアルミ缶がペキペキと音をたて、変形する。 それがなんだか八つ当たりみたいに思えて、悲しくなった。
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581 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/07/30(土) 06:52:03.88 ID:T3IvI8qt -
「ごめんね……」 なんとなく謝って、腕をヒュンとふると、放たれたそれはガシャンと音を立ててゴミ箱に収まった。 「ひあっ!!」 声にならない声が、自動販売機の向こうで情けなく響いた。 トオルの瞳が一瞬大きく見開かれて、身体が機械のように固まる。 それは聞こえてきた声がよく知ったものだったから。今まさに考えていた相手のものだったから。 恐る恐る覗き込んだ自販機の裏にあったのは、目をばってんにしてあたふたするユー子の姿だった。 「あのな……これは違うんや。別に盗み見してたわけやなくてな……?」 半泣きの瞳を不安の色に染めて、ユー子は途切れがちに言葉を漏らした。 普段はスラリとしたユー子の長身が、萎縮して小さく見える。 それでもトオルはそれを見上げなきゃいけなくて、それがなんだか寂しかった。 「トオル……?」 躊躇いがちなユー子の言葉がどこか遠くのことのように聞こえる。 近づけば近づくほどなにもかも分からなくなってしまって、自分の気持ちすら持て余してしまう。 整理できない感情がやけに熱い涙となって、ぽろぽろとこぼれ落ちていった。 トオルはわけがわからず、必死に表情を崩すまいとするが溢れ出したそれは止まらない。 サマーセーターの袖で無理矢理に拭っても、いたずらに皺が刻まれただけだった。 「…………っ!?」 トオルがハッと息をのみこんだ。 涙に滲む視界が急に白に染まった。 暖かくて。柔らかくて。それがとても心地よい。 「ウチはここにおるよ……。だから泣かんといて……」 頭の上からユー子の声がして、そこで初めてトオルは彼女に抱きしめられていることに気付いた。 何度となく抱きついているのに、抱きしめられる気恥ずかしさには慣れない。 なんとか抜け出そうと腕を暴れさせたが、思いのほか強い力に妨げられた。
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582 :名無しさん@秘密の花園[sage]:2011/07/30(土) 06:55:14.74 ID:T3IvI8qt -
ああ……そうだ。私は小さいんだ。 ちっぽけな自分を自覚して、トオルはくたりと脱力する。 ユー子はトオルより一回り以上大きくて、力でかなうはずもない。 なのにユー子はいつだって優しくて……。 「ユー子のばか……。お人好し……ありがと」 ……大好き。 最後だけは言葉にはだせなくて。ださなくて。トオルはぎゅうとユー子の胸に顔を埋めた。 パンケーキみたいな柔らかくて甘い匂いが心地良い。 ユー子の匂い。こぼれる涙はいつの間にか止まっていて、頭を撫でる指のしなやかさがただただ幸せだった。 「急にどないしたんトオル?そないなこと言われたら照れるわぁ」 照れくさそうに。けれどどこか落ち着いてユー子の言葉が響く。 それがトオルはなんだか嫌で、ムッと唇を尖らせた。 余裕があるのが気に入らない。 自分ばっか焦ってるみたいで嫌になる。 ユー子の腰にまわした腕にぎちぎちと力がこもる。 「へっ?あれ……いたたただぁ!!なんかしめてへん!?」 ユー子の叫びに絆されることもなくトオルは力を緩めない。 私は子供じゃないんだ。そんな風に接しないで。 おんなじ目線で私を…… 「もう……なんでトオルはそないないじわるなことばかりするん?」 気付いたら力は緩んでいて、いつも通りの涙目がトオルを遠慮がちに睨んでいた。 そんなユー子が可愛らしくて。大切で。 るんへのものとは確かに違う気持ちがここにはある。 あなたのことが大好きです。そういう確かな自覚。 「ユー子だから」 多くを言葉にしない代わりに、たくさんのものを一つだけに込めた。 伝わるわけのないただの自己満足みたいなそれが今のトオルの精一杯。 納得いかないってユー子は顔に書きながら、けれどいつもの苦笑いを見せる。 もう少し大人になれたら。あなたと同じ目線に立てたなら。 そしたらきっとも少しだけ素直になるから。だからどうか優しいユー子のままで……。 胸の中で祈って、そしてやっぱりトオルは腕を振る。 ばちんとユー子の胸が叩かれてたゆんと揺れる。 ニヤリと笑うトオルはいつものトオルで、叫ぶユー子もなんだか安心したように見えた。 Fin.
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