トップページ > レズ・百合萌え > 2011年06月18日 > yamZdT5E

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Sound Horizonで百合 第二の地平線

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Sound Horizonで百合 第二の地平線
199 :1/9[sage]:2011/06/18(土) 20:45:03.47 ID:yamZdT5E
明日は何の日か知ってる?王国で一番偉い人の誕生日!前夜祭というわけでもありませんが9レス分お借りします。
>>188の続き。せっかく女同士なんだからとドロドロさせたら歯止めが利かなくなりました。不快でしたらすみません。
野ばら姫vs青王子でばちばち。雪白姫あたふた。赤王子は空気。


「ねぇ野ばらちゃん」
「何でしょう、雪白ちゃん?」
「……キス、しても、いい?」
熱く絡み合った視線を揺らして野ばら姫はゆっくりと瞳を閉じた。
二人の影がそっと近づき、赤い唇が触れ合う直前――。

「あっ雪白姫!ここにいたのか!」
空気の読めない……いや敢えて読もうとしない青い王子の気の抜けた声が薔薇の庭園に響く。
あともうちょっとだったのにぃ!――雪白姫は思わずずっこけた。
予定不調和な王子の登場によりとんだ番狂わせを食らい、野ばら姫もため息をつくしかなかった。
そんな彼女達の元へ青い王子がしっかりとした足取りで向かってくる。
野ばら姫はまるで二人だけの秘密の花園が土足で踏み荒らされているような複雑な気分になった。
「あらどうしてこちらだとおわかりになったの?」
「雪白姫のことならどこにいたってわかるのさ。僕は彼女の王子様だからね」
青い王子は感情を隠すつもりなどさらさらないらしく、その声色からは敵愾心がありありと感じ取れた。
野ばら姫としてもそういう対応をされると応じざるを得ない。
舞台の場面をくるりと入れ替えるように、女優が仮面をすばやく付け替えるように
ゆったりとした甘い空気が、ぴりぴりとした不穏な空気にガラリと摩り替わる。
「それにしたって君は僕に来てほしくなかったって顔をしているね」
「あら当然だわ。二人で楽しくやってたのに、ねぇ雪白ちゃん」
「え、あ……うん」
雪白姫は柄にもなく歯切れが悪かった。まるで浮気現場を押さえられた間抜けな妻みたい。いやそのまんまか。
だからこそ雪白姫を責めるでもなく、相手の野ばら姫を責める青い王子が恐ろしく思えた。
私のことなんて怒る価値もないって、もうどうでもいいって思われてしまったのではないかしら。

雪白姫の不安を余所に本妻と間男ならぬ間女の今にも刃傷沙汰の起きそうなドロドロなやり取りは続く。
「私の王子はどうしましたか?」
「ああ彼女には少し荷が重すぎたようだね」
「はい?」
「さしずめ君はあの子に僕を引き留めておくように言ってたんだろう?残念だったねぇ」
「……何のことでしょう。私はただお二人の邪魔をしては悪いと思って席を外しただけですよ」
野ばら姫はゆったりと立ち上がり、膝についた土埃を払った。
口元にうっすらと笑みを浮かべて青い王子を見据える。
青い王子はその視線を受け止めて、さらに数十倍は険しい顔で応えた。
「私の王子のことは、まあいいですわ」
「そうだね。どうでもいいよね」
当の赤い王子が聞いたらきっと泣き出すであろう扱いで、二人はその存在を記憶の彼方へと投げやった。
そして仕切り直しとばかりに小首を傾げるとニコニコと会話を再開させた。
笑顔で話し合うような内容でもなかったがとりあえず体面だけでも保つつもりらしい。
「薔薇の姫君よ、君はとんだカマトトお姫様だねぇ」
「どういった意味でしょう?」
「そうやって何も知らないふりをして雪白姫を誘惑したんだろう?」
「嫌だわ。今のをご覧になっていらしたのでしょう?雪白ちゃんから私に――」
「まるで薔薇のようだ」
野ばら姫は言葉を遮られて不愉快そうに細い眉をぴくりと跳ね上げた。どうぞと先を促す。
「馨しい香りで誘って手を伸ばした瞬間、花弁の下に隠した鋭い棘で獲物を捕らえる」
「あらうふふっ。さっぱりわかりません」
「君の王子様もそうやって薔薇の塔まで誘ったのかい?」
野ばら姫の顔からすぅっと微笑が消える。
彼女の微笑を受け取ったかのように、青い王子は得意げに口角をにやりと持ち上げた。
「さぞ面白いほど簡単に引っかかっただろうね。あの子は気の毒なほど純粋だから。
あの子は君を捜し出して救ったと思い込んでいるようだが本当は逆だ。君があの子を罠にかけた」
「仰ってる意味がわかりません。あなたと話していると気分が悪いわ」
「こっちこそ君と話してると虫唾が走るよ」
氷と焔の相容れない宿命のように『乙女の愛した薔薇の庭園』は二人によって戦場へと変貌する。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
200 :2/9[sage]:2011/06/18(土) 20:48:23.15 ID:yamZdT5E
ばちばち火花を散らし合う二人の間で雪白姫はまさしく本妻と間女の狭間に立たされたあばずれ女そのものだった。
いやいや未遂なんだけどっ!なんて必死に弁解してみるが後の祭りである。
とにかく今にも野ばら姫に掴みかかりそうな青い王子を止めなくてはとその腕に縋りつく。
「や、やめてよ。悪いのは私なの。野ばらちゃんに意地悪しないで」
「雪白姫は彼女をかばうの?」
はたとこちらを見る青い王子の表情がまるで捨てられた仔犬のようで、雪白姫は一瞬返答に迷う。
それでも雪白姫は当初の目的を果たそうとしどろもどろに野ばら姫をかばうことにした。
「……野ばらちゃんは何も悪くないわ。私がしたいと思ったからそうしたの。未遂、だけど」
「ですってよ。うふふっ」
野ばら姫は勝ち誇った顔で笑い出した。その微笑みはまるで花がほころんだようだったが、
青い王子にはどうしてもそれが純粋なものに見えなかった。ギリギリと歯軋りをして吐き捨てる。
「小悪魔」
「野ばらちゃんは悪魔じゃないわ」
雪白姫が即座に否定するので、青い王子も意固地になって言い返す。
「いいや魔性の女だ」
身に覚えのないうちにそう振舞っているのか、はたまた知っていてそうしているのかはわからないが
野ばら姫にかかれば相手は罠に嵌められたにも拘らず、自らの意思で選んだと錯覚するのだ。
「あらやっかんでらっしゃるの?鏡をごらんになったら?嫉妬はみっともないですよ」
「聞き捨てならないな、薔薇の姫君よ。君こそ人のものに手を出すのはお行儀が悪いよ。
それとも他人のものさえも自分のものだと思い込んでいるのかな?その傲慢さはいつか身を滅ぼすだろう」
「まあ失礼しちゃうわ!気高き王女を侮辱した報いは受けていただきます」
「やれるものならどうぞ。売られた喧嘩はいつだって買うまでさ!」
赤と青。どうしても相容れない二人が眉間に皺を寄せてぐぐぐいっと睨み合う。

雪白姫は自分の行為を棚に上げて今にもおでこゴッツンしそうな勢いの二人を投げやりに眺めて考える。
どうして喧嘩するのかな。好きだから意地悪しちゃうのかしら。
……何より最初は私の取り合いがメインだったはずなのに、
いつの間にか二人のどーしようもない女としてのプライドと意地の張り合いになっている。
私を蚊帳の外に放っておいて喧嘩だなんていい御身分だわ!
雪白姫は注目を集めるべく天性の女優魂で棘に刺された指先を天高く掲げてふらりとよろめいた。
「あぁ〜ん、指がぁ指が痛むのぉおおおおお!!!!」
「まあ!」
「なんだって!?」
予想通り野ばら姫と青い王子は即座に停戦協定を結び、駆け寄ってきた。
「雪白姫怪我したの?どこで?どうして?痛くない?どう痛いの?嗚呼誰がこんなことを!」
「大げさよ……」
青い王子がこの世の終わりと言わんばかりに嘆き喚くので雪白姫はため息交じりに応じる。
心配してくれるのは正直言って嬉しいけれど、これは些かやりすぎだ。
それに本当はもう痛まない。野ばら姫に舐めてもらったから治ってしまった。
あれれ?いつも王子が「舐めてくれたら治る(キリッ」っていう気持ちわかるような気がしてきた。
やだな。変態な王子に毒されてしまったのかしら。
「薔薇の棘で指を怪我してしまったのよね、雪白ちゃん」
「うんそうなの。でもへいきよ。だからそんなに心配しないで王子」
「……君が怪我をさせたのか」
青い王子がまた喧嘩腰に野ばら姫に話しかけた。
雪白姫は一触即発の空気にまたかと首を竦めたが意外にも喧嘩にはならなかった。
「ごめんなさい……。私がお庭に誘ったばかりに……救急箱を持ってきますね」
「よろしく頼むよ。痕が残ったら大変だからね」
「はい……待っててね、雪白ちゃん」
ちらりと青い王子に冷たい視線を向けられた野ばら姫はしおらしい様子で薔薇の庭園を去って行った。
雪白姫はそんな彼女の消え入りそうな背中を見えなくなるまで眺めていた。
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201 :3/9[sage]:2011/06/18(土) 20:51:48.87 ID:yamZdT5E
「だいじょうぶかい。ほら怪我したところをかしてごらん」
ふと青い王子に話しかけられて雪白姫は我に返る。
本当は痛くなんてないのに、彼女はこんなにも心配してくれる。
とても嬉しくて、同時に申し訳ない気もした。けれど心配されるのはとても心地がいいからつい甘えてしまう。
「へいきよ。王子は心配性なんだから……」
「いつだって心配だよ」
青い王子は跪いて雪白姫の白い手を取った。傷口の具合を確かめ、視線を上げる。
上目遣いに見つめられて雪白姫は先程の野ばら姫との続きを錯覚した。
違う。そうじゃない。ここにいるのは私だけの王子で、決して誰かの野ばら姫ではない。
「君はこの世界で一番美しいのだから、誰かに取られてしまうのではないかといつも心配だよ」
「……私ってそんなに信用ないの?」
雪白姫はそう言い切ってから酷く後悔した。野ばらちゃんにキスしようとした口で何を言いたいのかしら……。
王子を裏切ろうとしたのは自分なのに。信用がないのも当然だわ。
「ごめん、なさい」
「いいや僕……私こそすまない。彼女の言う通りだよ。嫉妬は見苦しいよね」
青い王子の顔がふっと泣き出す寸前のようにくしゃくしゃに歪んで、すぐに切なげな笑みに変わった。
その表情の変化が小さな胸を締め付けて、その笑みが全てを赦してくれたかのようで雪白姫も控えめに笑む。
「ううん嬉しい。好きだから嫉妬するんだものね。私もやきもち焼きだからわかるわ」
継母に似たのか、亡母に似たのか、雪白姫はやきもちを焼くのが得意だった。
何でもかんでも嫉妬すると有名なので、青い二人の城に仕える人々は雪白姫の嫉妬の対象にされないようにと
最近は明らかに青い王子を避けて通るほどだ。
といっても怖いもの知らずだか天然だか知らないがあの三人だけは避ける素振りも見せていないが。
でも彼女達にまで避けられるようになったらさすがの青い王子も泣いてしまうかもしれない。
「嫉妬する王子可愛い」
「や、全然可愛くないよ……」
頬をぽっと林檎の赤に染めて青い王子ははにかみを浮かべる。
「ウフフッそれが可愛いのよ」
「こら。大人をからかうんじゃありません」
「だってホントのことだもーん。でももう野ばらちゃんに意地悪言わないでね」
「努力しよう」
青い王子は野ばら姫の名前を出された途端に苦虫を噛み潰した顔をして頷いた。

「ね、ところで傷口はまだ痛む?」
「へいきよ。だって」
――野ばらちゃんが舐めてくれたもの。
「舐めたら治る?」
「えっ」
雪白姫が答える前に青い王子は白い指先をぱくんと咥えた。ひんやりとした舌の柔らかさが気持ちいい。
小さな胸の小さな心臓がドキドキと小刻みに鼓動を響かせる。
胸のリボンが今にも弾け飛んで中から心臓が飛び出しちゃうんじゃないかと思うほど。
雪白姫は自身を毒殺した熟れた林檎よりも、薔薇の姫君を百年抱いた野ばらよりもずっと赤くなる。
手を引っこめようとするが、指先をやんわりと甘噛みされて激しい電流が体中を駆け巡った。
跪いた青い王子の瞳が揺らいでその奥に雪白姫を映し出す。
挑発的で艶やかなその笑みに囚われて健気に刻み続ける雪白姫の小さな胸の小さな心臓はさらに悲鳴を上げた。
だんだん呼吸さえも侭ならなくなって、頭がクラクラふらふら酸欠状態。
喘ぐようにして肺に空気を送り込む。酸素がいつもよりずっと早く流れる血潮と共に体の隅々まで行き渡ると
雪白姫はようやっと新しい言葉を紡げるようになった。
それでも時々嘔吐いてしまい、言葉は途切れ途切れの欠片となった。懸命に口から送り出す。
「……野ばら、ちゃんと、間接キス……だね」
「!?」
よく熟れた甘い果実の薄皮に歯を軋らせるかの如く、柔らかい指先に噛みつかれて雪白姫は叫ぶ。
「いったーいっ!」
「ご、ごめ」
驚いた拍子に思い切り歯を立ててしまったらしい。
慌ただしく離れていく雪白姫の指先と青い王子の唇の間にテラテラと透明な糸が引いて、ぷつんと切れた。
雪白姫はぼんやりと残された淡い痛みの余韻に浸りながら指先を眺める。
細い指をぐるりと囲うくっきりはっきりとした歯型。とてもカッコ悪い。
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202 :4/9[sage]:2011/06/18(土) 20:53:59.39 ID:yamZdT5E
「もー何してくれるのよぉ」
「だだだ、だってあのお姫様と間接キスって……」
青い王子は耳まで真っ赤にして指先で唇をそっとなぞる。
さっき照れたときよりもずっと赤くなるので雪白姫はとてもじゃないが面白くない。
「謝るのが先でしょ?」
「そだね。すみません」
「何よそのついでに謝っとくかみたいな言い方。心がこもってなぁーい!」
雪白姫はほっぺたをぷくーっと膨らませて地団太を踏んだ。
青い王子が右往左往して大仰に頭を下げる。
「もーしわけありませんでしたッ!さぞ痛かったこととお察し申し上げます」
本当はもう痛くはなかったが、雪白姫はうんともすんとも答えなかった。
白魚のような可憐な指先に歯形を付けた罪は重いのよ。少し口を利いてやらないくらいの罰は必要である。
それに野ばら姫と間接キスくらいでそんな真っ赤になっちゃって純情というか、うぶで可愛いというか。
どーして相手が自分じゃないんだろうってもやもやして、むかむかして……だから口利いてやらないの!

平身低頭のままの青い王子は雪白姫の返事がないのをカンカンに怒っているからだと受け取ったらしく、
顔をまだ誰の物語も書かれていないまっさらな紙のようにして地面に正座した。でもって頭を下げる。
「本当に申し訳ありませんでしたぁ!!」
そこまで大げさに謝らなくとも……と雪白姫は苦笑いを浮かべた。
私ってそんなに怖がられるほど普段から怒っているのかしら。
別に毎朝毎晩怒鳴り散らしてるつもりはない。ちょこっと機嫌が悪いとちょこっと八つ当たりしちゃうくらい。
……うぅ。これからはもうちょっと、ちょっとだけよ!ちょっとだけ優しくしてあげようと心に誓う。
「雪白姫の麗しい指先を傷つけてしまうとは一生の不覚。大変反省しておりますッ!」
「とりあえず土下座はやめようか」
「いいえわたくしめはこれで十分ですハイ」
「やめてよ。こんなところ誰かに見られたら恥ずかしいわ」
これではまるで雪白姫が土下座を強要しているようだ。
素早く周囲に視線を配り、誰もいないことを確認する。野ばら姫はまだ戻ってきてはいないようだ。
「いいえ女王陛下とは露知らず数々の非礼を……」
「お願い!頭をあげて、私はそういうの好きじゃないの……というか女王陛下って何よ」
いやまさに今までその通りの振舞いをしてきたことは軽く自覚はしている。
でもこの態度はなんだかおかしい。雪白姫はもう一度言った。
「お願いだから頭をあげて。立ち上がってよ」
すると青い王子は芝居じみた調子で雪白姫の足元に縋りついた。
「お許しください雪白姫さまぁ〜!」
思わず条件反射で蹴り飛ばしたくなったが、どうにか耐えるとそれを細い足から引っぺがした。
「だからやめてって言ってるでしょーが!王子ふざけてるでしょー!」
「あれ、ばれちゃった?」
「ばれちゃった?じゃないわよ、もぅー!うふふふっ!」
機嫌が悪かったはずなのに雪白姫は何故だか楽しくなって笑い転げた。
青い王子も同じように笑い転げる。二人で笑っているともっと楽しくなってもっともっと笑い転げる。

「あははっ!怒った顔も可愛いけど、君は笑っている方がずっと素敵だよ」
ああそうか。雪白姫は漸く「おかしな態度」について理解する。
王子はぷりぷり怒っている私に笑ってほしくておどけてみせたのだわ。
いつもそうしてさり気ない心遣いの優しい貴女。感謝の気持ちで胸がいっぱい。
でもそれを口に出すときっと違うって意地を張っちゃうから、私もおどけた態度で応じる。
「きゃはっ!やだぁもぅトーゼンでしょ!――ねぇ鏡よ鏡、私の王子鏡様。
怒った顔も笑った顔もこの世界で一番可愛いのは誰かしら?ウフフッ!」
「其れは貴女――《雪白姫》!」
「でしたが……」
雪白姫は青い王子に抱きついた。青い王子は身を屈めてしっかりと抱きとめてくれる。
広い背中に腕を回して、首筋に鼻をうずめるとサラサラの髪からは少しばかり汗のにおいがした。
「でしたが?」
青い王子が先を促す。雪白姫はそっと耳元で囁いた。
「今の私の世界で一番素敵なのは貴女――《私の王子様》!」
「ふふっ当然さ。私の可愛いお姫様」
そうして二人はぎゅうっと抱きしめ合って笑い転げた。
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203 :5/9[sage]:2011/06/18(土) 20:59:42.02 ID:yamZdT5E
――パタパタと慣れない足取りで野ばら姫は走る。
文字通り深窓のお姫様だった野ばら姫に庭を走り回るような経験はこれっぽっちもない。
そのため何度もドレスの裾を踏みつけて転びそうにもなったが、なんとか転ぶことなく戻ることが出来た。
途中でちょっとしたハプニングにも見舞われたが今や昔の話である。忘れるに限る。
それに野ばら姫は自身の大切な王子のことを信じていた。だからきっと大丈夫。
ともかく呼吸を整えなくてはと足を止めると、弾けるような笑い声が耳に届いた。
薔薇の生垣の向こうを覗き込むとむぎゅーっと互いを抱きしめ合った雪白姫と青い王子が笑い転げている。
「あらぁこれはこれはお二人とも抱き合っちゃって。お熱いようで結構ですこと」
「あっ野ばらちゃん!」
雪白姫は野ばら姫の嫌味をスルーする。もしかすると純粋無垢すぎて理解出来なかったのかもしれない。
(野ばら姫は少し思い違いをしているが雪白姫は彼女が思っているほど無垢ではない)
無邪気な笑顔で野ばら姫を見返った雪白姫とは正反対に背中を向けてた青い王子はがっくりと肩を落とした。
随分な歓迎ではあるがそれは当然の対応でもある。
せっかく二人きりで楽しくやっていたのに邪魔が入れば誰だってがっくりするものだ。
野ばら姫もついさっき経験したばかりだから、青い王子の落胆具合は我が身のことのようにわかる。
図らずも先程とは立場が完全に逆転した。これは幸いだと野ばら姫はほくそ笑む。
やられっぱなしで大人しく引き下がるようなどこぞの夢の王国のお姫様とは違うのだ。
やられたらしてやり返す!気高き王女に喧嘩を売るなんて傲慢なのはお前の方よ!が野ばら姫のモットーである。
清楚で上品な見た目からは考え付かないが意外と気が強い姫君なのだ。

「まあ雪白ちゃんの王子様ったら私には来てほしくなかったというお顔をなさってますわね」
「いやそんなことは……」
どうしたことだろう。先程とは打って変わって青い王子はしおらしく俯いてしまった。
野ばら姫はあまりにも拍子抜けな態度をちょっぴり残念に思った。
久しぶりにスリリングなやり取りが楽しめるかと思いましたのに……。
最近のアルテローゼはめっきり丸くなってしまって、口喧嘩をする機会もなかなか無くなってしまった。
そんなアルテローゼも可愛いし、勿論喧嘩などしない方がいいに決まっているが、
いつも仲良しこよしというのは飽きもしないが少々面白みに欠ける。
野ばら姫はこう見えてスリルな非日常に飢えているのであった。
それは誰もが持っているちょっとした好奇心。しかしその好奇心が仇となり、
野ばら姫は行くことを禁じられた薔薇の塔に興味本位で上った挙句、百年もぐっすり眠っていたわけだが……。
――あら気高き王女に自業自得だなんて言いませんよね?
塔に興味を抱いて上ってしまったのは呪いによって定められた運命なのですから逆らいようがありません。
ほら。ですから私は自業自得な姫君ではありませんわ。

……それはさておき。
「喧嘩再開かと思いましたが、どうやら雪白ちゃんの王子様は調子が変わってしまったようですね」
「喧嘩はだめよ」
雪白姫が喧嘩という単語に反応して野ばら姫達の間に立ちはだかる。
もっとも雪白姫が主張したいのは『喧嘩ダメ。ゼッタイ』ではなく、
『私を仲間外れにして二人だけで盛り上がるなんて何様のつもりぃ?』なのだが
それに関しては野ばら姫も青い王子も気づく由もなかった。
というか青い王子にそこまで思考回路を割く余裕はなかった。
そういえばすっかり忘れていたが雪白姫の言う通り今は喧嘩どころではない。
野ばら姫は傷口が痛いと泣く雪白姫のために外したくもない席を外したのだから、
他の何を投げ打ってでもその手当てが先決である。そう、大切な王子を差し置いてでも。
「さぁ手当てをしますから指を見せてくださいな、雪白ちゃん」
「え。あ……えと」
何故か雪白姫がうろたえ始める。野ばら姫は怪訝に思い、膝をついて彼女の手を取ろうと腕を伸ばす。
しかし野ばら姫の手はピシャリと激しい勢いで振り払われた。
どうしてそうされるのかがわからず、泣きたい気持ちになる。
「ごめんなさい……何かお気に障りましたか?」
「ううん。あの、あのっ」
雪白姫は何か言いたげに口をぱくぱくさせて、でも何も言わずに怪我した指先を背中に隠した。
これには野ばら姫も、いいや神様でもない限りお手上げだった。
『くっきりついた歯形が恥ずかしくて指を見せたくなかった』とは誰も思いつかないだろう。
「もう大丈夫なの。痛くなくなったの」
「そうですか。ならいいのですけど……」
釈然としないが納得するしかない。
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204 :6/9[sage]:2011/06/18(土) 21:03:36.00 ID:yamZdT5E
それにしても困りましたわ……と野ばら姫は失望からため息をついた。
姉は甲斐甲斐しく世話を焼き、妹を手当てしてさしあげようと考えていましたのに。
だからこそ青い王子の冷たい視線に応じて素直に引き下がり、救急箱を取りに帰ったのだ。
そう。野ばら姫は例えばこんな感じの手当てを想像していた。

『さぁ指を見せてくださいな』
『うんっ!』
純粋で素直で可愛い雪白姫が手を差し出す。野ばら姫はついでに反対側の手も取り、自らの腕に触れさせる。
『消毒液が滲みたら私の腕をぎゅっとしてくださいね』
『うん……あっ。あうぅ……』
雪白姫は大きな目元を潤ませて今にも泣き出しそうに野ばら姫の柔らかい腕に爪を立てる。
それでも野ばら姫は努めて笑みを浮かべ、雪白姫を安心させようと治療を続ける。
全身に滲み渡るような傷口の痛みとほんの一瞬爪を立てられるくらいの痛み。
全く違う痛みだけれど、それを与えることで雪白姫の気持ちが少しでも落ちつくのなら甘んじて受け入れよう。
――違う。痛みではない。矛盾しているようだけど、雪白姫から与えられる痛みは痛いが痛くはないのだ。
『最後に包帯を巻いて……はいこれでおしまい』
『ありがとう野ばらちゃん!』
雪白姫は長い黒髪を揺らして嬉しそうに包帯の巻かれた指先を天に翳した。
野ばら姫も嬉しくなって誇らしい気持ちで言う。
『どういたしまして』
『野ばらちゃんの腕に爪立てちゃってごめんね。痛くない?』
まぁ……私のことまで心配してくださるなんて雪白ちゃんはなんて優しい方なのでしょう。
だからこそ私は彼女のことが気になってしまうのだわ。愛でて可愛がってもっと傍に置いておきたい。
『痛いなら今度は私が舐めてあげるね』
『あっいけませんわ、雪白ちゃん。私には王子という心に決めた方が……あぁん!』
血潮のような唇から真っ赤な舌がチロリと覗いて劣情を掻き立てる。
身を乗り出した雪白姫がそっと野ばら姫の柔い二の腕を舐めて(長くなるので以下略)

ぽわんぽわ〜ん。
「うふふ、ふふっ」
そうして野ばら姫は前回の青い王子を笑えないような妄想劇を繰り広げ終えた。
まあどれもこれも予定不調和な王子の乱入と雪白姫の拒絶で泡と消えたわけだが。
「せっかく持ってきてくれたのにごめんね」
「いいえ早く良くなってよかったですわ」
野ばら姫の視界の隅でちらちら青い影が蠢く。
どうにか視界に入れないように無駄な努力をし続けたがそれは土台無理な相談だった。
蠢く影――青い王子はもじもじといじらしく野ばら姫を見つめていた。
熱い視線を向けられた野ばら姫は困惑と同時に薄気味の悪さを覚える。
失礼な言い方ですけどよくわからない人だわ。つい今し方まで私を露骨にライバル視してたのに……。
――でも仕方ありませんわね。私は美しいのですから見惚れるのも当然。
……えっ?自分で美しいだなんて傲慢?私を傲慢なんて言う方が傲慢なのよっ!
「あの、私の顔に何か付いてますか?」
「……え。ああいや」
野ばら姫の問いかけに青い王子は要領の得ない答えしか返さなかった。
ただ視線が野ばら姫の大きな瞳からすっと落ちて、ぷっくらとした唇へと移動するだけ。
――こ、これも仕方ありませんわね。だって私の唇は王子がいただきますしちゃうほど魅力的なのですから。
ですけど王子以外の方にこの唇を譲るつもりなどありませんわ。
……雪白ちゃんにでしたら、少し考えますけど。
「何か御用ですか?黙って見てるだけなんて失礼ですよ」
「……」
それでも何も答えない。普段から一緒にいる雪白姫から見てもそれは異様な姿なのか、一瞥すると鼻で笑う。
「なぁにその顔。まるで恋する乙女みたいねぇ?」
恋する、乙女?と野ばら姫は暫くの間、目をぱちくりさせてふと思い出す。
ああ、そういえばこの人も女の人でしたっけ。こんななりだと忘れてしまいそうになりますけど。
いや寧ろずっと忘れていたかったような気がしないでもないが。
青い王子が頬を赤らめてよろめいた。まるで淑やかなご令嬢といった風情で甘いため息をつく。
「はぁん、これが恋……なんてことだ……」
「ごめん。恋じゃなくて変だった」
青い王子の耳には雪白姫の訂正は届いていない様子で、ため息をつき続けていた。
ため息をつくたびに花が一輪咲いていくのなら、足の踏み場もないほどだろう。
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205 :7/9[sage]:2011/06/18(土) 21:07:54.98 ID:yamZdT5E
ぽやんと夢見がちな瞳をした青い王子はブチッと勢いよく薔薇を手折った。
乙女にあるまじき腕力だったが、気分はひたすら乙女ちっくに花占いを始める。
「こい、コイ、恋……彼女は私を好き、嫌い、好き、嫌い、好き……」
「へん、ヘン、変!!野ばらちゃんは貴女を嫌い!嫌い!嫌い!嫌い!!」
雪白姫が負けじと声を張り上げる。
恋する乙女だなんて言い始めたのは雪白姫だったが、今はもう正直後悔していた。
ちょっと茶化しただけのつもりだったのに本気にするんだから……もぅ!
今朝の不安が頭をよぎる。もしも王子が薔薇のお姫様のこと好きになっちゃったら……そんなの絶対に嫌!
「変だとか恋だとか言われても困りますわ」
もし仮に青い王子が野ばら姫を好きになったとしても、相手にその気がなければ成立しない。
その点、野ばら姫は全くその気などなかった。恋する乙女を出来得る限り視界から除外して雪白姫に訊ねる。
「いったいどうなされたのでしょう」
「いつものビョーキだから気にしないで」
「病気ですか。それは伝染る類のものですか?」
雪白姫は答えなかったが、蜘蛛の子を散らすようにそそくさと野ばら姫と競いながら離れて行った。
これにはさすがに青い王子も現実に引き戻されたようでムッとして応じる。
「僕をバイキン扱いしないでもらえるかなっ!」
「間接キスくらいで舞い上がっちゃう方がどうかしてるのよ!」
「だって初めてなんだもの」
「ハァ?私とのキスはカウントされてないの?今日だって林檎はんぶんこで間接キスだったじゃない!」
「直接キスする相手との間接キスは特にときめかない」
威勢のよかった雪白姫は一瞬口ごもった。けれどすぐさま調子を取り戻して応じる。
「そ、そうよね。私達は今更間接キスで騒ぐような子供じゃないものね」
「背伸びしなくていいんだよ。雪白姫は本当はドキドキしちゃったんだよね?」
「うるさいっ!違うもん。ドキドキだわ……なんて思ってないもん!子供じゃないもん!」
ちっちゃな雪白姫が駄々をこねる子供のように手足をばたばたさせて、長身の青い王子の胸板を叩く。
まな板、もとい胸板呼ばわりはさすがに失礼だが、とにかく雪白姫は青い王子をぽこすか殴った。

「間接キス……?」
野ばら姫は青い王子の唇と雪白姫の指先を交互に見やり、そして自らの薔薇色の唇に触れた。
もしかして雪白姫の指の傷を舐めたから?その後、彼女も同じようにしたのだろうか。
だとしたら確かに間接キスに違いない。
だからといってそのように恋だとか変だとか言われてはこちらも「変」に意識してしまう。
野ばら姫が奇妙な動悸に襲われていると、ぽかぽかされていた青い王子がふいにこちらを向いた。
思わず心臓が止まってしまいそうになって、胸をぎゅっと押さえる。
「よく考えてみれば間接キスということは君も雪白姫の指を舐めたということか」
「……はい。いけませんか?」
「いけないに決まってる!」
本当に変わり身の早いことで、青い王子はまたまた喧嘩腰な態度に様変わりした。
間接キスの淡いときめきよりも何よりも雪白姫が大切ということらしい。
雪白姫の独占欲も相当のものだったが、青い王子の独占欲も負けてはいなかった。
いつまでも乙女ちっくを引っ張られては対応しにくいので助かったと言えば助かったが、
そちらから誘った癖して、こちらが釣られて「変」な気持ちになったら
ハイやっぱりどうでもいいですなんて切り捨てられるのは……野ばら姫としては少々釈然としない。
別にこれといって何か期待をしていたわけではありませんけど。
「ですが雪白ちゃんが舐めたら治ると仰ったのですよ」
「えっ。僕が舐めたら治るといっても舐めてくれない雪白姫が?」
「そうですよ。ね、雪白ちゃん」
「あ、うん」
突然話を振られた雪白姫は声を裏返しながらも頷いた。青い王子が目を輝かせる。
「雪白姫……漸く理解してくれたんだね!じゃあ次からは舐めてくれるんだね!」
「絶 対 舐 め な い」
「彼女には舐めさすのに?……ハッ僕が舐めろということか!」
「違うわ!だって王子の言う「舐めれば治る」って絶対舐めても治らないもん」
「なおるよ!」
「その頭の悪さや特殊な性癖が舐めて治ればいいのにねぇ?」
「ぐぬぬ……」
どう足掻いてもこの件に関しては雪白姫に口では勝てないと判断したらしく、
青い王子は主人に従う犬のように大人しく引き下がった。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
206 :8/9[sage]:2011/06/18(土) 21:10:52.13 ID:yamZdT5E
引き下がったはいいが気持ちに収拾がつかないらしく、
青い王子はその矛先を野ばら姫に向けることでどうにか気を落ちつけようとした。
「よくも雪白姫の指を舐めてくれちゃったな!」
「いけませんの?唾液中には細菌が沢山いますけど、消化酵素なども含まれますから
いくつかの細菌に対しては消毒効果があると思います。先達の知恵ですね」
「ぐぬぬ……」
意外にもまともな答えが返ってきて青い王子はまたしても対応に窮した。
何も言えなくなった青い王子を尻目に野ばら姫は心の内でひっそりと付け足す。
(――それに傷口を舐めるのは相手の気の引く手っ取り早い手段だとアプリコーゼさんに教えて頂きましたわ。
なので試してみましたけど、余計な人間の気も間接的に引いてしまったようですね……)
野ばら姫は一通り思案し終えてため息混じりにひとりごちた。
「はぁ。楽して気を引こうとしてもなかなかうまくいかないものですわね」
「そんな杜撰な計画、うまくいく方がおかしいんだよ。あはははっ!」
すると青い王子がなんとも絶妙なタイミングで合いの手を入れ、高らかに笑いだす。
なので野ばら姫も同様に艶やかなルージュの笑みを浮かべて頷き……
「ですわねぇ……って、はいぃ?」
えっえっ。ど、どどど、どうしてこの人は「そんな杜撰な計画」などと言えるの?
あの計画は誰にも知られていないはずなのに……。
雪白姫に助けを求めようとじぃっと見つめてみるが、彼女は僅かに上気した頬で視線を逸らした。
彼女の代わりに青い王子が肩を竦めて答える。
「全部口から出てるよお姫様」
「え?」
「傷口を舐めるのは相手の気を引く手っ取り早い手段だとアプリコーゼさんに――」
声を裏返し口調まで真似されて台詞を繰り返される。ザァッと全身から血の気が引いていくようだった。
野ばら姫は真っ白になった頭を懸命に回転させて答える。
「あらん、いやですわ……。私ったらおかしなことを口走っていたようですわね。
きっとどなたかに操られてたか、黄昏に目覚めたもうひとりの私がお喋りしてたのでしょう」
「ごまかせてないよ」
「うっ……」
野ばら姫は悲しいかな、何も言い返せなかった。
それをいいことに青い王子は鬼の首でも取ったかのように勇ましく続ける。
「薔薇の姫君よ、やはり君は雪白姫の気を引こうとしていたわけだ!
彼女が怪我をしなければ、わざと怪我をして構ってもらう心づもりだったんだろう?」
ピシャリと人差し指を向けられた野ばら姫はその手を払いのける。
「聞き捨てなりませんわ。私はそのようなことは決して……」
「百年眠っていたのもあの子や両親やフードの二人組や誰かの気を引くため。とんだ構ってちゃんだな!」
「な、なんですって。それはさすがにありえませんわ!」
「だったら雪白姫の気を引こうとしてたくだりはありえるんだ?」
「……えっと」
野ばら姫は言い淀んだ。雪白姫の気を引こうとしたことは否定出来ない。
でも特殊な性癖のどこかの誰かさんと違って、気を引いてどうこうと考えていたわけではない。
ただ純粋に……純粋に、仲良くなりたかった、だけ。だと思いたい。必死になって自らに言い聞かせる。

「百年眠っている間にどれだけの人間の気を引いたのだろうね」
「……それは」
野ばら姫は眠りながら見続けていた夢を思い起こす。
それはいつか運命の相手がやってきて、目覚めの口づけをくれる夢。
はやく来てほしいと切望するあまり、私の願いは、私の意識は、眠っている私の体を抜け出して
人々に素晴らしい噂を唄って聞かせたのではないか?そんな不安が頭をよぎる。
何故なら野ばら姫は確かに覚えていた。
微睡みの森へ迷い込んだ王子の傍でそっと薔薇の塔で眠り続ける姫君――自分の伝説を唄ったことを。
そして私は笑いながら王子を誘った。迷いの霧も棘の生垣も操って導いた。
きっと青い王子の言っていることは事実なのだわ。私はそうして王子の気を引いた……。
「で、ですけど無意識のことですから」
「無意識の方が褒められたものではないのだが」
意識してそうしたのならかなりの腹黒ちゃんだし、無意識ならば天然ものの小悪魔ちゃんである。
どちらがより悪いかなんて一概には言い切れないが
無意識で誘い受けな小悪魔ちゃんほど恋愛においてやっかいなものはいない。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
207 :9/9[sage]:2011/06/18(土) 21:14:42.30 ID:yamZdT5E
「そういうあなたこそどうなんです?」
やられっぱなしで引き下がるような姫でないことは先ほど説明したとおり。
やられたらやり返す!野ばら姫の特性が発動した。
「本当は雪白ちゃんを一途に想っているのに、怒られたくて浮気性な自分を演じているのではありませんか?」
「は、はぁ?おかしな言いがかりはやめてもらえないかな」
よもや話を振られるとは思ってもいなかったらしく青い王子の声が不自然に裏返った。
動揺を押し隠そうと胸元の合わせ目をキュッと強く握りしめる。
「あーこの子可愛いなぁなんて言うだけで雪白ちゃんはすぐに嫉妬してくれるのですものね。
好きな人に嫉妬してもらえるというのはさぞ気持ちがいいことでしょうね」
「嫉妬以上にお仕置きが怖いけど」
「あらそのお仕置きを楽しみにしていらっしゃるんでしょう?」
「……まあ否定はしない」
にへらっとだらしなく緩みきった顔で青い王子が応じた。その表情が全てを物語っている。
「人のこと笑えませんね」
「はっ」
青い王子は飛び上がると慌てて表情をキリリッと正した。いくら改めて爽やかそうな笑顔を浮かべたところで
さっきのデレデレ顔が野ばら姫の脳裏から消去されることはないし、忘れてやるつもりもなかった。
「まさか。別に構ってほしくてわざと変態をやっているわけではない」
「生まれ持っての性質という方がうんざりなのですけど」
へらへらと笑いながら和やか?に会話していたと思いきや二人は再び視線を切り結んだ。

相容れない二人のやり取りの裏で雪白姫はずっと歯型のついた指先を見つめ続けていた。
間接キス……かぁ。そういえば野ばら姫とは「未遂」だったのよね。
この指先を舐めれば、間接キス、になるのかな……。
どきどき。どきどき。直接キスする相手との間接キスはときめかないと雪白姫の王子は言うけれど、
雪白姫はそんなことは決してなかった。そういうのにときめいちゃうお年頃なのだ。
この指先を舐めれば、間接キス、になるのかな……。
どきどき。どきどき。野ばら姫と王子と私……おかしな三角関係。ん、そういえば。
「雪白ちゃん、指を見つめてどうしたの?」
「まだ痛むのかい」
「あっううん。痛くないのよ」
ふっと野ばら姫と青い王子は可愛らしい小動物を見るときのように目を和ませた。。
「もしかして間接キスしたいとお考えになりましたか?」
「ふふっ可愛いね。そんなに私とキスがしたいのならおねだりすればいいのに」
「いいえ。雪白ちゃんは私とキスがしたいのだと思いますわ」
「なんだと」
「あらあら受けて立ちますわよ」
またしても青と赤、氷と焔のように相容れない宿命の二人の間にばちばちと火花が散る。
雪白姫は呆れかえると同時についさっき思い出した疑問を投げかけてみた。
「そういえば野ばらちゃんの王子様はどこに行ったの?」
「……」
「……」
二人はまた顔を見合わせた。ちらちらと視線で何やら押し付け合い、
やがて雪白姫に向けてぎこちなく笑みを浮かべた。
「さあ。私は存じません。如何したのでしょうね?」
「僕も知らないな。ああ本当に全く何も知らないな」
「……あやしい」
野ばら姫と王子と私と時々もう一人の王子……→物語は続く→




前回は雪白姫と野ばら姫、今回は野ばら姫と青王子、雪白姫と青王子の組み合わせを書いたので
次は雪白姫と赤王子辺りを書いてみたい。が、赤王子は行方不明です。
間接キスの話書いてる最中にBGMに流してた変ゼミで間接キスの話をやり始めたのには思わず運命感じた。
明日は王国で一番偉い人の誕生日!皆さんも良い一日を!

後記。この間Pixivは挫折したと書きましたが挑戦してみたら意外と簡単でした。
試しに短いのを二つあげてみました。長いのはシリーズ設定周辺が難しくて勉強中です。


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