トップページ > レズ・百合萌え > 2011年06月04日 > 3la+HdXe

書き込み順位&時間帯一覧

1 位/344 ID中時間01234567891011121314151617181920212223Total
書き込み数011000000000000000000000011



使用した名前一覧書き込んだスレッド一覧
0/10
1/10
2/10
3/10
4/10
5/10
6/10
7/10
8/10
9/10

その他1個すべて表示する
Sound Horizonで百合 第二の地平線

書き込みレス一覧

Sound Horizonで百合 第二の地平線
187 :0/10[sage]:2011/06/04(土) 01:23:48.90 ID:3la+HdXe
調整してきました。
たぶん大丈夫だと思いますが途中で止まってしまったらそういうことだと思ってください。すみません。

176の続き。以下10レス分お借りします。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
188 :1/10[sage]:2011/06/04(土) 01:25:56.05 ID:3la+HdXe
「血が繋がっていたら僕のおにゃのこハーレムに加えられないだろ(シャキーンッ」
「訊いた私が馬鹿だったわ」
怒る気も失せた雪白姫が項垂れる。青い王子は鼻息も荒く夢を語り始めた。
「僕の夢だったんだ、ハーレムというか女学校というか。とにかく女の子がいっぱい!
僕には家庭教師がついていたから学校というものを知らない。だからそういうのに憧れてて。
女の子しかいない校内。お姉様と慕ってくれる下級生との共同生活。憧れの先輩への淡い恋心。
誰もいない教室。夕陽が射し込む窓辺。二人の影が徐々に近付いて――」

『いけませんわお姉様。こんなこと神様がお赦しになられません』
涙を浮かべたか弱き乙女。追い詰めたもう一人の乙女がふっと微笑む。
『神様が赦さない?ならば私が赦そう』
『そういう問題では……あっ!』
『大丈夫だよ雪白。さぁ、私に身も心も預けてごらん……』
『あぁん!お姉さまぁ!』
ついにか弱き乙女が机に押し倒され、その長い黒髪がサラサラと床に零れ落ちた。
細く長い指先が胸元のリボンをほどき、純白のレースに包まr(以下長くなるので略)

「ぽわんぽわ〜ん。なんて麗しき乙女達の愛と青春の日々ッ!」
青い王子は時にしなを作り、格好つけたりして二人を演じ分けると逞しい妄想(だだ漏れ)を終えた。
些か女子校に夢を見すぎな気もするが、それも仕方のない話だ。
そもそもこの場にいる四人の姫君は皆それぞれ訳ありで文字通り箱入り娘だったり、
世間から隔離されて生きてきたわけで、誰一人として女子校どころか世間一般の生活すら知らない。
「しかし女教師と女学生も捨てがたい!居残りでマンツーマンの特別授業――」

『うーん……』
『ここはこうしてこうすれば……ね、わかりやすいでしょ?』
ペンを握る手に先生の手が添えられて、少女の頬は窓枠から消えてゆく夕陽よりも赤く染まった。
この気持ちだけは先生の教えてくれる公式だけではどうしても解けないの。だから。ねぇ教えてほしい。
『私、先生のことが……!』
『だめよ雪白、貴女は私の教え子なのよ』
『じゃあ先生……私に恋のABCを教えてくだs(以下長くなるので略)』

「ぽわんぽわ〜ん。禁断の愛は何よりも嗚呼美しい!」
「ねーねー独り芝居してて悲しくない?恋のABCって何?死語?古くない?これだから年寄りは嫌よね。
というか勝手に私を気持ち悪い妄想に登場させないでくださるぅ?」
雪白姫はにべもない辛辣な言葉で青い王子のくだらない妄想を一蹴した。
しかし青い王子も慣れたもので咳払い一つで聞き流す。
「コホンッ。勿論そちらの薔薇の姫君も僕のハーレムに入れてあげるよ」
「遠慮しておきますわ。私には心に決めた方がおりますので」
「冷たいこと言わずに」
「おやめください、おねにーさま!!」
赤い王子は野ばら姫を背中に庇い、「おねにーさま」こと青い王子を睨んだ。
「僕の野ばら姫までそのような気持ち悪いハーレムに加えようだなんて……」
「夢はおっきく第七の地平線制覇!美しすぎる屍人姫の皆さんは当然のこと、下は腹ペコの妹から
上は薹が立って久しいクソババアにおとぎ話によく出てくるおば、お姉さんまで女の子は全て僕のもの!」
「うわぁこれはひどい」
赤い王子は野ばら姫を抱えて青い王子から距離をとる。
自らが気持ち悪がられていることを知ってか知らずか、青い王子はうっとりと妄想に浸り続けた。
「七度巡って全ての女性をモノにしたら、地平線を軽々と飛び越え……おっとみんな落ちついて。
大丈夫。順番に可愛がってあげるよ。けんかをやめて、みんなをとめて♪私のために争わないでーっ♪」
青い王子のお天気そうな脳内で、彼女に都合のいい女の子達が喧嘩を始めたらしい。
気持ち良さそうに歌い始めた青い王子の脛を雪白姫が蹴り飛ばす!
「貴女みたいなッ!どーしようもないッ!王子を巡ってッ!争う女の子なんてッ!一人もいないわよッ!」
「あっ!いっ!うっ!えっ!おっ!」
雪白姫は打てば響く太鼓のように悲鳴を上げてのた打ち回る青い王子を満ち満ちた表情で眺めた。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
189 :2/10[sage]:2011/06/04(土) 01:28:19.03 ID:3la+HdXe
嬲ってばかりでも可哀想なので雪白姫は小声で付け足した。
「貴女を相手にするような娘はどの地平線を探したって私以外見つからないんだから……」
つっけんどんな雪白姫も実に可愛らしいが、このようにデレる瞬間も最高に可愛い。
普段は罵られ、痛めつけられもするからこそ、より一層この瞬間が輝いて見える!
「雪白姫大好き!もう絶対に浮気しない!はぐはぐ。ちゅっちゅぺろぺろ」
「私も王子大好きー。はぐはぐ。でもちゅっちゅぺろぺろは人前で 絶 対 に す る な !」
ぷりぷりしだした雪白姫の耳元で青い王子が魔法の一言を囁く。
「誰もいなければしてもいいんだね?」
「う……やだぁもぅ私に言わせるつもり!?」
雪白姫から普段の意地っ張りな面影はたちどころに消え失せ、完全にデレた状態になった。

むぎゅむぎゅと見てるこちらが暑くなるほど盛りついた青い二人の邪魔にならないように
遠巻きに眺めていた(もとい冷やかしていた)野ばら姫と赤い王子は同時に肩を落とす。
「よくも私の前でいちゃついてくれますわね……」
「僕と野ばら姫はあのように人前ではいちゃつかない」
「ですよねー」
ツッコミ担当のアルテローゼ辺りがいたら嫌な顔をして「んなこたぁない。あんたらのが相当だよ」と
指摘してくれたかもしれないが、生憎この場にはいなかった。
「僕はおねにーさまと仲良くしたいのに」
「私はあのお嬢さんと仲良くしたいのに」
ふと漏らしてしまった本音に野ばら姫と赤い王子は申し合わせたわけでもなく顔を見合わせた。
「二人きりで?」
「二人きりで!」
利害が完全に一致した赤い二人ががっちりと握手を交わし、策略を巡らす。
「丁度良い手駒もあることでございますし、ただちにッ!目障りな青の王子様にはご退場願いましょう♪」
「ではご退場した後のおねにーさまは僕が引き受けよう」
「私は青のお姫様をいただきますわね♥」
破滅を演じる歴史の舞台。とは言わないが赤い二人は銘々「面白い劇が観れそうだ」とルージュの笑みを浮かべた。

「で、どうやって彼女らを召喚するかだけど――」
「簡単ですわ。私に考えがあります」
野ばら姫が「それ」を行動に移そうとした瞬間。
「というわけで!」
どういうわけで「というわけ」なのか当人にしか永遠にわからないことだが
青い王子が風に靡く布よりもいとも軽やかに主張を翻した。
「僕と君は姉妹ということで頼む」
「は?あ、そっか……漸く僕を妹だと認めてくださるのですね!」
「君が僕の妹ならば薔薇の姫君は僕の義理の妹。義理の妹というのもなかなかどうして滾るじゃないか!」
「だめだこりゃ」
ただ実の姉妹で禁断の愛だとか言い出さなかったことだけは感謝したい。
赤い王子は無意識のうちに姉の出来る喜びと変な人が身内になる不都合を天秤にかけた。
姉が出来るのは単純に嬉しい。一人っ子だったから姉や妹というものに憧れを抱いているのは確かだ。
しかし付き合う人間は選ぶべきと両親に教わったこともまた事実。
小さな少女があれだけ慕うのだから悪い人間ではないのだろうが、あまり近づきたくない人種でもある。
傾かざる天秤がどちらかに沈み込んだとき、青い王子が野ばら姫に気さくに話しかけた。
「麗しの薔薇の姫君、あなたも僕のことを「お義姉様」と呼んでくださって良いのですよ」
「迷惑です」
「冷たいこと言わずに」
野ばら姫の折れそうなほどの細い手首が青い王子によって掴まれる。
四人の間に不穏な空気が流れたが、野ばら姫が腕を振り払うことによって事無きを得た。
「私に触れましたね」
「え、ええ?」
「鴨が葱をしょって、もとい変質者がわざわざ犯罪行為に手を染めてきましたわ」
「犯罪とは大げさな。少し触れただけじゃないか」
あらあらうふふと野ばら姫は笑みを浮かべて大きく息を吸い込んだ。召喚の呪文を唱える。
「きゃー!誰ぞ、この青の王子を捕らえよ!もう二度と私には触れられぬものと思え!」
棒読みの悲鳴であったが、野ばら姫のピンチにアルテローゼとアプリコーゼが光の速さで現れ出でる。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
190 :3/10[sage]:2011/06/04(土) 01:30:27.53 ID:3la+HdXe
野ばら姫のいう丁度良い手駒の二人は自慢の杖を構え、互い違いに呪文を唱えだした。
すると青い王子の足元に一本の茨のつるが生えてきて、きゅっと締まった足首に絡みつく。
「ハハッ!素敵なアンクレットをだんけしぇーんっ☆この程度で僕にかなうと思い上がっているのなら
いつでも掛かっておいでなさい!あーははははh……ん?きゃあっ!」
にょろにょろにょろ。瞬く間に足元の茨の数が増えて足だけでなく腕も絡め取られ、体を掬い上げられる。
「よくも私の野ばら姫を卑猥な目で見てくれたねぇ。お代は高くつくよ……?」
「あらアルテローゼ。いつの間に野ばら姫が貴女のものになったのかしら?」
「う、うるさいっ!呪ったときからだ!」
「いいえ野ばら姫は僕のものです!僕が起こしたのですから!」
「何言ってるんだろうねぇ、この馬鹿王子は」
「あらあら。なら私も野ばら姫を救ったということで、私の野ばら姫と呼んでもよろしいかしら?」
「なにぃ!?」
「うふふ。ではここは平等に皆の野ばら姫ということで」
「仕方ないね。了承しよう」
「本当は僕の野ばら姫なのに」
「あのー私抜きで勝手なこと決めないで頂けますぅー?」
野ばら姫を巡って盛り上がっている最中、青い王子は茨のつるから振り落とされそうになっていた。
アルテローゼの注意力が削がれ、杖の先が揺らいだ為だ。
「わわわっ落ちるーっ!」
そのまぬけな悲鳴によって意識をこちら側に引き戻されたアルテローゼは杖を荒々しく振るった。
茨のつるが勢いよく青い王子に絡みつく。
「とにかく純情な姫君を脳内であれ穢そうとは言語道断!」
「穢してない!僕は純粋に……やっ痛い痛い!!!!」
「ならばもう僕の野ばら姫に近づかないと約束してください!」
「いやそれは約束出来ない(キリッ」
「この機に及んでまだそのような口を叩くとは。ひと思いに呪い殺す!」
「いいえ《十三人目の賢女》よ。ひと思いでは勿体無いわ。反省するまでじわじわと後悔させてあげないとね」
あんず色のフードを被ったアプリコーゼが真っ赤なフードのアルテローゼを押し留めた。
「あんただけは敵に回したくないと思うよ」
「うふふそうかしら?」
アプリコーゼがあんずの枝で作られた特注の杖を軽やかに振い、生きた茨を操った。
「いっ痛い。チクチクトゲトゲするっ!離して、下ろして!イヤァーッ!!」
青い王子の悲鳴が玉座の間に響き渡る。雪白姫の焔のように赤い唇がにやりと弧を描いた。
うねる茨のつるに両手両足を絡め取られた男装娘なんてコアな触手好きか、
はたまた一部の男装娘萌えしか喜ばない光景だわあ。
雪白姫はそのどちらでもないし、特殊な性癖も持ち合わせていなかったがときめきに胸を躍らせていた。
好きな人の悲鳴や好きな人の顔が苦痛に歪むのって素敵でゾクゾクしちゃう!
青い王子をしょっちゅう変態だとか罵る雪白姫も十分特殊な人種であった。
一際甲高い断末魔をバックに野ばら姫がにっこりと雪白姫に話しかけた。
「王子達は何やら積もる話があるようですし、よろしければあちらでお茶を致しませんか?」
「どうしよっかなぁ。今は王子の悲鳴聞くのに忙しいしぃ。あ、泣き出した」
「とても美味しいお菓子があるのですよ」
「ホント?行く!」
お菓子の話を持ち出すと雪白姫は二つ返事で了承した。茨にぐるぐる巻きにされた青い王子に手を振る。
「じゃあ私は薔薇のお姫様とお茶してくるね!アウフ ヴィーダーゼーエン☆」

――そして青い王子と引き離された雪白姫を待っていたのは……。
案内されたのは部屋中に真っ赤の薔薇が飾られた応接間だった。
「私が生まれる以前から薔薇は我が国のシンボルだったのですが、百年眠っている間に
さらに強固なイメージがついたそうでお客様をこちらにご案内するととても喜ばれるのですよ」
「ふーん。だから?」
雪白姫は自慢話にそれ以上の価値を見いだせず、猫のように気まぐれな態度でそっぽを向いた。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
191 :4/10[sage]:2011/06/04(土) 01:32:56.18 ID:3la+HdXe
雪白姫としてはお菓子に釣られてやってきたわけだから世間話など正直どうでもいいのだ。
しかし野ばら姫はそうは思わないようで再び話を振る。
「え、ええと。それにしても驚きましたね。お二人が姉妹だったとはびっくりです」
「うちの王子は違うって言っていますケド?」
途中で急に姉妹ということにしてくれと騒ぎ出したが、それは下心があるからだ。
彼女がどこまで計算してあんなことを言っているのかはわからないが、
赤い王子と姉妹であれば薔薇の国との強力なコネクションになる。
それは歴史の浅い彼女の国にとってプラスになるはずだ。といってもそこまで難しいことは考えず、
単に可愛い野ばら姫が義理の妹になってくれればハッピー程度にしか思っていない可能性もあるが。
「ですが私の王子の勘はいつもぴたりと当たるのです。私に運命を感じて私を起こしてくださいました」
「のろけるなら余所でしてくださるぅ?」
「ごめんなさい……」
「べっつに〜。あっ!」
雪白姫の顔が真っ白から真っ青へ移り変わる。――そういえばお姫様のご機嫌を損ねちゃいけないんだったわ。
今日は王子の大事なご公務デビューなんだから成功させてあげないと!
どどど、どうしよう!私のせいで失敗しちゃったら大変だわ!
「薔薇のお姫様、ごめんなさいっ!ええっと『ほんじつはおまねきいただきこうえいにぞんじます』だっけ?」
「お願い!畏まらないで、私はそういうの好きじゃないの」
「……」
「私は野ばら姫と申します。どうか気軽に話しかけてくださいね」
「……じゃあ野ばらちゃんって呼んでいい?」
「はい!本当に妹が出来たようで嬉しいですわ!私ずっと妹がほしかったんです。
妹が出来たらお互いに髪を触りっこして、お揃いのドレスを着て……それからそれから」
野ばら姫のはしゃぎっぷりと言ったらまるで子供のようで、雪白姫は面倒な親戚付き合いはごめんだけど、
野ばらちゃんがお姉さんになるならあの二人の王子が姉妹でもまあいいかなと考え直した。
「本当は王子とそういうことが出来たら良かったのですけど、王子はドレスを着るのが嫌だそうで」
何でも赤い王子にお揃いのドレスをプレゼントしたところ一度着ただけで
『女装してるみたいで変な気持ちになる』と拒否されてしまったらしい。
女装してるみたいって男装してる癖して変な物言いね。と、雪白姫は適当に相槌しながら考える。

「あ、お茶にお誘いしたのにお喋りが過ぎましたね。今用意しますからお待ちになって」
「私も手伝う!」
「ではテーブルに食器を並べてくださいね。キッシュトルテを切り分けますから」
「ほんと!?私大好き!」
野ばら姫がキッシュトルテを切り分けている間に紅茶は良い頃合いとなり、
それぞれのティーカップに注ぎ入れると二人は楽しいお茶会を始めた。
「青のお姫様はお砂糖いくつ入れますか?」
「いーっぱい入れて頂戴。私甘いのだーいすき!」
野ばら姫の細い指が白い角砂糖を摘み上げ、一つ二つと雪白姫のティーカップに運んでいく。
……って青のお姫様?
「あっ私は雪白姫って言います!」
自己紹介がまだだった!雪白姫は心の中でしまった!と舌を出した。
失礼な子だって思われちゃったかな……。
「素敵なお名前ですね。……はいどうぞ、雪白姫様」
「私のことも普通に呼んでほしいな。だめ?」
「でしたら雪白ちゃん」
「うんっ!」
二人の距離が少し縮まった気がする。
雪白姫はティーカップを覗き込み、澄んだ紅茶の水面を見つめた。
長い黒髪の美少女が映っている――勿論私のことよ。
「キレイ」
「綺麗な色でしょう?ローズヒップティーと言います。野薔薇の実を使ったハーブティーです」
「野ばらちゃんの実?」
「あらうふふ。私には実はなりません」
だよね。と雪白姫は何度も頷いた。……もしそうだったとしたら照れちゃって飲めないよ。
「ビタミンCが豊富でお肌にとても良いのですよ」
「そーなんだ。お肌の曲がり角な王子にも教えてあげよっと」
ろーずひっぷてぃーっと。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
192 :5/10[sage]:2011/06/04(土) 01:35:55.49 ID:3la+HdXe
雪白姫が脳内に紅茶の名を刻みこんでいると野ばら姫が申し訳なさそうに訊ねてきた。
「雪白ちゃんの王子様はおいくつですの?随分と年齢が離れているように見受けられますが……
いっいいえ、決して小児性愛者などと差別するつもりはありません」
「んーロリコンでいいと思うよ?」
雪白姫はこれといって自らの王子を庇う義理を感じなかったのでアッサリと答えた。
他人にとやかく言われようと自分がいいと思ったらそれでいいのだ。雪白姫はそういう性格だった。
それに私が王子を罵るのはいいけど、他人に罵られる筋合いはないもの。王子を罵っていいのは私だけ。

「そういう野ばらちゃんの王子様はどうなの?どうして男装してるの?」
「実はかくかくしかじか(>148)で男装して暮さねばならなかったようです」
「ふーん。野ばらちゃんの王子様は別に特殊な性癖ではないのね」
赤い王子はつい最近まで自分を男の子だと思い込んで生きてきたため、
野ばら姫からお揃いのドレスをプレゼントされた際に『女装してるみたいで変な気持ち』などと言ったのだ。
「トクシュナセイヘキってなぁに?」
野ばら姫の純粋な疑問を雪白姫はサラッと聞き流した。
説明するのも疲れるし、説明したところでこの純情そうなお姫様が理解出来るか怪しいし、
何より説明するのは気持ち悪いし、きっと野ばら姫の耳も腐るので説明しないのが正しい判断である。
「野ばらちゃんと野ばらちゃんの王子様は年齢近いの?」
見ればわかる話だが、雪白姫は気を利かせて話を逸らした。
敢えて王子の前では言わなかったが、赤い王子と並んでいるとキッパリハッキリ年齢の差がよくわかった。
だってほうれい線が、頬のハリとたるみが違いすぎるんだもの……。
いやその言い方は酷すぎるか。赤い王子が見るからに若いから王子の老け具合が際立tごにょごにょ。
「ええ。齢十五の朝に私は百年の眠りにつき、王子は《夢に見た女性》を探す旅を始めたそうですから」
「だったらそれぞれ百と十五歳と十五歳のときに二人は出会ったと」
「……」
「あっごめんね、野ばらちゃん。私そういうつもりじゃなかったのよ」
「いいえ、そうですね。百と十五歳、です……」
野ばら姫が先に振った話題とはいえ、女性に年齢を聞くのはまずかったかなぁと雪白姫は視線を落とした。
静かに流れてゆく沈黙の時間。雪白姫はこんなことを考えていた。
嫌われたらどうしよう。嫌われたらイヤだわ。……野ばらちゃんには嫌われたくない。
こんな気持ち、今まで王子にしか感じたことなかったけれど、なんでかしら。
他人にどう思われたって構わないのに、王子や野ばらちゃんには嫌われたくないよ。

「えっと……そーいえばいい匂いするねー」
雪白姫はティーカップを顔に近づけ、話を振った。強引だったが野ばら姫はにこやかに話に乗ってきた。
「はい。ローズヒップティーの香りには癒し効果がありますのよ」
「うん紅茶もそうだけど、野ばらちゃんからも同じ匂いがする!」
くんくんと小さな鼻を鳴らして綺麗な金髪に顔を近づける。
今朝の王子との会話を思い出して雪白姫は純粋に羨ましいなと感じた。
野ばら姫も同じように雪白姫の長い黒髪に顔を近づける。
「雪白ちゃんからは甘い林檎の香りがします」
「あっわかる?ここに来る前に王子と林檎をはんぶんこにしたの」
「うふふ。仲がおよろしいのですね」
野ばら姫がふいに手を伸ばし、細い指先で雪白姫の黒髪を撫でた。
「ひゃっ!」
雪白姫がびっくりして飛び上がると野ばら姫は慌てて指を引っ込めた。
「髪に花びらがついてましたよ」
「あっありがと!」
なんて嘘ですけどと野ばら姫が心の奥で呟いたことなど、雪白姫は知る由もなかった。
――ただそのさらさらな黒髪に触れるきっかけがほしかっただけ。
「雪白ちゃんの髪に触れてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「本当ですか。嬉しい!」
野ばら姫がキラキラと目を輝かせる。妹が出来たら髪を触りっこしたいという夢が今叶おうとしている。
うきうきと弾むような野ばら姫の笑顔が眩しくて雪白姫も目を細めて笑った。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
193 :6/10[sage]:2011/06/04(土) 01:38:32.72 ID:3la+HdXe
「野ばらちゃんに触ってほしいな」
「あらうふふ。では失礼して……まあサラサラなストレートですね。黒くて素敵」
「私は野ばらちゃんの金髪が羨ましいな。ふわふわでキラキラしてる」
「ありがとうございます」
女の子って無いものねだり。他人のものがとても綺麗に見えて、欲しくなってしまう。
雪白姫が自分にはない野ばら姫のふわふわな金の髪を羨むように、
野ばら姫も自分にはない雪白姫のサラサラな黒い髪を羨んでいる。
さわさわさわさわ。
雪白姫はくすぐったさに目を閉じる。野ばら姫の息遣いが近くに感じられ、小さな心臓がぴょんと跳ねた。
「真雪の白い肌に黒檀の黒髪、血潮のように赤い唇。雪白ちゃんはお人形さんみたいね」
「ほんと?うれしい……。でも野ばらちゃんもお人形さんみたいだよ」
「そうですか。うふふ」
二人はそれから暫くの間、お互いの髪を触り合いっこした。
色こそ違えど二人は同様に長い髪なのでみつあみをし合ったり、今度お揃いの髪型にしようと相談したり。
でも楽しい時間は風のように過ぎ去って……。

――そして小一時間後。

「このトルテおいしい」
「ありがとうございます。シュヴァルツヴェルダーキッシュトルテと言います」
「さくらんぼのケーキ。私生クリーム大好き!」
「まあ奇遇ですね。私も生クリームが大好きです」
女の子はなんたって甘いものが好き。ふわふわしたものも好き。
だからふわふわであまーい生クリームはとっても好き。
甘いのが好きなのはお菓子だけじゃない。好きな人と過ごす甘い空気も好き。
とにかく女の子は甘いものが大好きなのだ。
「このケーキも紅茶も野ばらちゃんが作ったの?」
雪白姫は感心するとともに内心野ばら姫を脅威に感じた。
私の次くらいに可愛くて女の子らしくおしとやかで長い金髪のお姫様でお料理上手だったら……。
どうしよう!私の王子が好きになっちゃうかもしれないわ!
でも雪白姫はおしとやかなお姫様になるつもりなど微塵もなかった。
無理に自分を変えるくらいなら、悲しいけど王子とばいばいする。
「いいえ。茶葉はアルテローゼが、キッシュトルテはアプリコーゼさんが作ってくださいました」
「そうなんだ」
先ほど玉座の間に音もなく突然現れたフードの女性達を思い起こす。
あの二人は野ばらちゃんと仲がいいのかしら?雪白姫は何故だかもやもやした。
野ばら姫が今にも「アルテローゼ」と「アプリコーゼ」の話を始めそうなので、雪白姫は慌てて遮ると話題を振り直した。
「野ばらちゃんはお料理しないの?」
「えっ。ええ、そうですね……あの、あまり」
野ばら姫がうろたえて視線を泳がせた。
その態度にピンと来るものを感じて雪白姫は恐る恐る訊ねてみる。
「もしかして野ばらちゃんお料理できない?」
「……ええ」
この間、厨房を破壊してしまった話は絶対に死守しなければと野ばら姫は堅く心に誓った。
「じゃあ今度一緒にお料理しよ!」
「まあ雪白ちゃんはお料理出来るのですか?」
「うんっ!王子とよくお菓子作るの。案外たのしーよ」
「あら雪白ちゃんの王子様はああ見えて意外と女の子なのですね」
野ばら姫から青い王子がどう見えていたのかは察するより他ないが、
どっちにせよ聞かなくてもわかることなので雪白姫はにこやかにスルーした。
さしずめもっとガサツで大雑把で男らしいかと思った……その辺りだろう。
雪白姫にしてみれば野ばら姫の赤い王子の方がよっぽど男らしい……というか紳士的な立ち振舞いで
勘違いも甚だしいちょっと迷惑な人種だと思ったが口にはしなかった。

……野ばら姫は野ばら姫でこんなことを考えていた。
雪白ちゃんの王子様も意外ですけど、実は言うと雪白ちゃんも意外。
まだちっちゃいのにお料理上手だなんて、雪白ちゃんスペック高いですわ。
サラツヤストレートの艶やかな黒髪にくりくりとしたおめめ。真雪の肌に映える血潮の唇。
純白のフリフリエプロンドレスの雪白姫を想像してみる。
……ライバルでなくて良かったわ。もしもそうだったら負けてしまうかもしれないもの。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
194 :7/10[sage]:2011/06/04(土) 01:40:55.66 ID:3la+HdXe
「今度一緒にお菓子作ろうよ、野ばらちゃん!ねっ!」
「ですけどご迷惑になるかも」
野ばら姫はぎこちない笑みを浮かべた。
口が裂けても言えないが厨房をダメにしたのは野ばら姫と赤い王子なのである。
何故かアルテローゼとアプリコーゼは下っ端の小僧クンが破壊工作をしたと勘違いしていたが。
「大丈夫よ。お菓子作りって意外と簡単だから。私が手取り足取り教えてあげる」
べ、別に性的な意味じゃないからねっ!――って当然よ。あーもう王子に毒されてるなあ。
雪白姫が心の中で一人ツッコミをしていると、不安げな野ばら姫の表情にやや希望が見えてきた。
「わ、私にも出来るでしょうか?」
「うん。野ばらちゃんの王子様もきっと野ばらちゃんの手作りお菓子喜ぶよ!」
「本当ですか。でしたら今度教えてくださいね」
「うん!ぜったい、ぜったいに約束よ!」
「はい!」
また会う約束を取り付けて雪白姫は満面の笑みを浮かべた。
――やった!これでまた野ばらちゃんに会える。
どうしてだか今回限りの関係にするのは惜しい気がしたのだ。

「王子にも何か作って差し上げたいですけど、アプリコーゼさん達にも何か贈れるでしょうか」
「え、うん。野ばらちゃんは何をあげたいの?」
野ばら姫の口からまたあの二人の名前が飛び出した。
ぞわぞわと雪白姫の小さな胸がさざめき立つ。
――私の知らないところに私の知らない野ばらちゃんがいる。
「アルテローゼもアプリコーゼさんもご自分で何でも作れますから……何がいいでしょう?」
「……何を贈っても喜ぶと思うよ。野ばらちゃんがあげたものならなんでも」
あのフードの二人組のことはほんのちょっぴりしか見てないけど、
二人が野ばら姫を大切に思っているであろうことは雪白姫にも十二分にわかった。
野ばら姫のピンチに音もなく現れるなんて(の割に赤い王子のピンチには現れなかった辺りお察しである)
そして野ばら姫も二人をこんなに大切に思っている。
何をプレゼントしたら喜んでくれるかなって悩んだりして、まるで恋する乙女みたい。
……なんだか気分悪いわ。私の前で私以外の人の話はしてほしくない!
これも王子に対してしか感じたことなかったのに、どうしてかしら。
雪白姫はこの感情の名前を知っていた。感情の名前は「嫉妬」
嗚呼すぐに心を独占欲に支配されて、誰にでもすぐに嫉妬しちゃう私はいつか誰かに復讐されてしまうわ。

雪白姫があからさまに不機嫌になったのを感じ取ったのだろう。
野ばら姫は話を切り上げて、魅力的な提案をする。
「よろしければお庭に出ませんか?今は薔薇が綺麗な季節ですの。雪白ちゃんにも見ていただきたいわ」
「ほんと?私に見てほしいの?」
「はい。雪白ちゃんがよければ私とお散歩しましょう」
上がったり下がったりの忙しい気まぐれな雪白姫は気になる子に誘われてすぐさま機嫌を直した。
「うんっ!よろしい!今すぐ行こっ!」
超ご機嫌な美少女はいてもたってもいられず、椅子を蹴り飛ばす勢いで立ち上がると野ばら姫の腕を掴む。
「ですけど私まだ食べ終わってn」
「私はケーキも紅茶も食べ終わったから早く行こうよ!」

……野ばら姫に導かれて真っ赤に染まった薔薇が咲き誇る庭園を歩く。
「ね、綺麗な薔薇でしょう?我が国の自慢です」
「薔薇がいっぱーい!王子がこのお庭を見たら喜ぶだろうなあ」
「あら雪白ちゃんの王子様は薔薇がお好きなのですか?」
「お花が好きなの。お庭でお花を育ててるのよ」
あまりにお花を大事にしているので、ときどき嫉妬してしまうくらいだ。
春に向けて育てていたお花が綺麗に咲いたことに王子はとても喜んでいた。
今は夏に向けて花壇を整えているところで、暇があったらすぐにお庭に行ってしまって
雪白姫はなかなか構ってもらえず不満な日々を送っている。
なら一緒に花壇を作ればいいじゃないですって?この雪白姫様が土いじりするわけないじゃなぁい!
ガーデニングなんて下々のお遊びなぞ高貴な雪白姫様には似合わないわぁ!
てなわけで最近の雪白姫は花壇を作る王子の背中ばかり見つめているわけだった。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
195 :8/10[sage]:2011/06/04(土) 01:43:56.95 ID:3la+HdXe
「意外なご趣味ですね。では花束を用意させておみやげに」
「んー王子は種をもらった方が喜ぶと思うな。育てて愛でるのが好きみたいだから」
「あら……では雪白ちゃんのことも育てて愛でて可愛がって楽しんでいらっしゃるのかしら」
「えっ」
今なんかすごいこと言わなかった?
雪白ちゃんのことも、育てて、愛でて、可愛がって、楽しんでる?
「あっごめんなさい。気づいててそういう関係なのかと」
「野ばらちゃんってさり気なくとんでもないこと言うのね」
「そうですか?ありがとう」
「褒めてない」
でも野ばらちゃんの言う通りなのかも……雪白姫は考える。
王子はまだ幼くて無垢な乙女の私を自分好みの大人の女性に育てるつもりなんだわ。
私は他人に命令されて性格を変えるような意志の弱い女ではない。
ヤられる前にヤらなきゃヤ・バ・イ!逆に王子を私好みにしてやるんだから!
まずは私のお願いをすぐに聞いてくれなきゃだめでしょ。私に歯向かうのもだめでしょ。
私のこと一番に想ってくれなきゃだめ。ってアレレ?もう調教済み?

そんなことを考えていると野ばら姫がそっと薔薇に手を伸ばした。
馨しき薔薇と乙女。絵になる光景。思わず見とれちゃう。
「野ばらちゃん……」
「やはり花束を作りましょう。雪白ちゃんの王子もきっと喜びます」
「……うん」
「雪白ちゃんが摘んでくれたと知ったらきっともっと喜びますわ」
「そうだね!今日はちょっぴりキツイこと言い過ぎちゃったから仲直りしないとって思ってたの」
いつもは王子がこれっぽっちも悪くなくとも、王子から謝ってくれるまで口利いてあげないけど
今日は野ばらちゃんと知り合えて気分もいいから、私から謝ってやってもいいわ。
なんてとんでもないことを雪白姫が考えていたのは、野ばら姫には内緒である。
「お二人の仲直りにご協力出来るなんて光栄です」
「うん!」
この際、仲直りなんてもうどうでも良かった。
二人でお花を摘んで、お喋りして、それだけで幸せな気持ちになれる。
美しい薔薇の庭園に二人きり。雪白姫はそれが嬉しかった。

馨しき薔薇に手を伸ばす乙女達。
どんなに名高い芸術家も彼女達の美しさを額縁の中には留めておけないだろう。
またどんなに素晴らしい絵画も彫刻も彼女達の美しさにはかなうまい。
花がもっとも美しく咲き誇るのが一瞬のように、
乙女が美しく咲き誇るのも、止まることなく流れ続ける時間のほんの一瞬。
一瞬だからこそ花も乙女も美しく咲き誇るのだから。

野ばら姫は指先で薔薇の茎を摘まみ、鋏を入れる。雪白姫も見よう見まねで真似をした。
「野ばらちゃんも野ばらちゃんの王子様に花束をプレゼントしたらどう?」
「私の王子は薔薇には興味ないみたい」
こんなに綺麗なのにと野ばら姫は寂しそうに続けた。
「でも仕方ありませんね。私もあそこで百年眠り続けていたためか、あの塔があまり好きではありません。
王子はつい先日いばらに抱かれたばかりですから思うこともあるのでしょう」
「ウソ。野ばらちゃんの王子はどの薔薇よりも綺麗な「野ばら」ちゃんに首ったけよ」
「うふふ雪白ちゃんはお上手ね」
野ばら姫はまた一輪の薔薇を折り、燃えるように赤い花びらに口づけた。
「もしも私が野に咲き乱れる薔薇のたった一輪だとしたら、王子は沢山の中から私を見つけてくれるかしら。
私は季節が巡って枯れ果ててしまうくらいなら、王子に手折られて美しいままにその胸の中で散りたい。
そして私は最期の力を振り絞り隠した棘で王子の胸を刺して、その血を受けて最期の瞬間まで輝く」
「……」
雪白姫は言葉を無くし、ただ野ばら姫をぼんやりと見つめていた。
きっと野ばらちゃんは赤い王子のことがとても好きなんだろうな。
その手で手折られて死にたいなんて好きでなければ言えない。私には言えるだろうか?
Sound Horizonで百合 第二の地平線
196 :9/10[sage]:2011/06/04(土) 01:46:36.19 ID:3la+HdXe
もしも私が林檎だったら……と雪白姫は考える。
もしも林檎だったら、私の意志とは関係なく「いっただきまーす☆」されて死んじゃうかも。
それでも愛しい人の血となり肉となるのなら……うーん?
私は少し躊躇しちゃうけれど、王子なら喜んで私にその身を捧げるだろう。
だってドMだもん。雪白姫に食べられるなら本望だ!とか言ってノリノリに違いないわ。
そうして王子は私の血となり肉となり、私と共に生き続けるの。
これでもう二人を別つものは何もなくて、二人はずっと一緒。寂しくなんてないわ。

……閑話休題。
やっぱり野ばらちゃんは素敵だな。しとやかな気品の中に燃えるような情熱を秘めている。
凛と咲き誇る薔薇と同じで美しいだけとは違う。したたかな強い意志の棘を隠し持っている。
「でもね、雪白ちゃん」
「な、に?」
野ばら姫が急に真剣な声色になるから、雪白姫は反射的に身を強張らせた。
「私は貴女に手折られても構わない。いいえ気まぐれな貴女のいたずらな手で私を手折ってほしいとも思うの」
そう懇願する野ばら姫は息を呑むほど美しく、この世のものとは到底思えなかった。
雪白姫は目を伏せ、発言の意図を思いあぐねる。
――私に手折られても構わないってどういうこと?
野ばらちゃんはもしも自分が薔薇だったら赤い王子に手折られて死にたいと言っていた。
それはきっと愛しているから。愛している人に手折られるなら本願だということだ。
その上で雪白姫にいたずらに手折られても構わないとは?
……もしかして野ばらちゃんは本命は赤い王子だけれど、
私といたずらに戯れても構わないのよって言いたいのかな?
それって、私になら何されてもいいって、どうされてもいいってこと?
野ばらちゃんにもっと触れてもいいの?野ばらちゃんにもっと近づいてもいいの?
私はもっと野ばらちゃんの近くにいたい。もっともっと野ばらちゃんを深く知りたい。

……ドキドキ。小さな胸の小さな心臓が早鐘を打ち始める。
静かな庭園にこの胸の鼓動が鳴り響いてしまうのではないかと心配になる。
それでも雪白姫は表面上は極めて平常心を装って、薔薇に手を伸ばした。
「あ、痛い……」
指先にチクリと鋭い棘が触れる。焼けるような痛みを感じて薔薇から手を引いた。
白い指先からぷっくりと赤い玉が浮かび上がり、自らの重みによって流れてゆく。
ぽとりと落ちた血は赤い薔薇の花びらよりも赤かった。
指先に残る僅かな痛みに雪白姫は顔をしかめる。

――綺麗な薔薇には棘がある。不用意に触れてはならない。
嗚呼きっと私に罰が下ったんだ。
野ばらちゃんはもう赤い王子の薔薇なのに、触れようと手を伸ばしてしまったから。
でもだって触れてみたかった。こんなにも気高く可憐な薔薇は初めてだったんだもの。
王子はいつも私のことをワガママだって言うわ。誘惑に打ち勝てずにすぐに欲しがってしまう。
毒林檎に手を伸ばしたあの時と同じ。欲しいものは手に入れないと気が済まない。
そして私はすぐに嫉妬してしまうの。私だけのものにならないとイヤ。
だから王子にはいつも私一人を見ていてほしいし、野ばらちゃんにも今だけは私だけを見ていてほしかった。
私は野ばらちゃんの想い人にはなれないけれど、友達にはなれる。
ねぇ野ばらちゃんの友達は私だけで十分でしょ?他の人なんていらないわ。
あのフードの二人組なんて忘れて、私だけと友達になってよ!
ほらこんなワガママな私だから薔薇の棘が意地悪をするんだわ……。
Sound Horizonで百合 第二の地平線
197 :10/10[sage]:2011/06/04(土) 01:50:58.41 ID:3la+HdXe
「まあ大変!棘が指に刺さってしまったのね。ごめんなさい、私が薔薇を摘もうなんて言ったばかりに」
「ううん野ばらちゃんのせいじゃないわ。これくらい平気よ」
心配そうに覗き込んでくる野ばら姫から指先を隠そうと背中に手を回そうとした。
しかし野ばら姫は雪白姫の手首をぎゅっと握りしめてそれを阻止する。
「いけませんわ。痕が残ったら大変です。救急箱を持ってこさせましょう」
「これくらい舐めとけば治るわ」
「なら」
野ばら姫は地面に膝をつき、雪白姫の白い指先に唇を寄せた。
薔薇色の唇が指先に触れる。ぽってりとした赤い舌が傷口をぺろりと舐めた。
「ひゃ!」
ドキンと心臓が飛び跳ねた。バクバクと口から飛び出してしまうんじゃないかと思うほどだ。
雪白姫は慌てて手を引っこめようとしたが、指先に柔く歯を立てられ、動きを止める。
跪いた野ばら姫に上目遣いに見つめられ、雪白姫の時が止まった。
その表情はどこか色っぽく、挑発的な感じがした。
ううん。彼女は特に何を思って私を見上げているのではない……雪白姫は必死に言い聞かせる。
野ばらちゃんは優しいから、ただただ私を心配してくれているだけよ。
けれど私は……期待してしまう。雪白姫は気分が高揚し、体中が熱くなってゆく自分を感じた。
まるで野ばら姫に口づけられた部分から血が沸騰してしまったみたい。
熱い血潮が体中を駆け巡って熱に浮かされた私はクラクラしてる。
きっと私の顔真っ赤になってる。野ばらちゃんはきっとそんな私を見て不思議に思ってる。
どうしよう!私今とてもドキドキしているわ……。

雪白姫は息を止めて、時よ止まれと祈りながら野ばら姫を見つめた。
――今は私だけの野ばらちゃんでいてほしい。というワガママな願いが通じたのか、
今の野ばら姫の瞳の中には雪白姫だけが映っていた。満開に咲き誇る薔薇の中、二人だけの世界。
野ばら姫のふっくらとした唇が白い指先から離れていく。
雪白姫は野ばら姫の唾液で濡れた指先で、そっと彼女の唇をなぞった。
その魅惑の唇がやんわりと弧を描いたところで雪白姫の指先は薔薇色の頬を撫で、滑り落ちた。
くいっと顎を持ち上げる。
「ねぇ野ばらちゃん」
「何でしょう、雪白ちゃん?」
「……キス、しても、いい?」
熱く絡み合った視線を揺らして野ばら姫はゆっくりと瞳を閉じた。
答えはなかったけど、いいんだよね?
雪白姫は高まる衝動を抑えきれなかった。
そうして美しすぎる二人の姫君の影がそっと近づいて――。




つづく。
染まる薔薇の庭園ですが百合です。

レベル低いと最大文字数の0,6倍、0,8倍などしか書き込めないようです。
あと長文を連投しまくるとレベルが下がるそうです。皆さんもお気をつけください。
何度も書き込んでしまいすみません。スレ汚し失礼致しました。


※このページは、『2ちゃんねる』の書き込みを基に自動生成したものです。オリジナルはリンク先の2ちゃんねるの書き込みです。
※このサイトでオリジナルの書き込みについては対応できません。
※何か問題のある場合はメールをしてください。対応します。